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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第11章 -休日のユレイアルド神聖教国-
166/430

†第11章† -02話-[聖女との昼食]

「光属性の武器はどうだった?」

「動かせる範囲で手空きの者に探させてなんとか数点は見つかりました。

 アルシェ達も探したのですよね?」

「一応こちらも探してみましたけれど、

 やはり属性武器自体が少ないのにその中でも特定の・・・だとね」


 聖女クレアのアナザー・ワンであるトーニャがクレアの後ろから前に出てきて、

 教国が見つけてきた光属性の武器を自分のインベントリから両手にひとつずつ取り出す。


 棍棒  :ホーリーメイス

 希少度 :レア

 要求ステ:STR/35 VIT/28 MEN/25 DEX/29


 槍   :光の槍

 希少度 :レア

 要求ステ:STR/45 VIT/40 DEX/39


「やっぱり光の国だけあってドロップ率が良かったのか?」

「まさか。水の国出身のアルシェも水無月(みなづき)さんもその辺はわかるでしょう?」

「単純に光属性の武器を冒険者が高値で売りたくて集まったのでしょう?」

「正解です」


 拍手するクレアの横で、

 元に位置に戻りながら俺たちに見せていた武器をインベントリに戻すトーニャ。


「フォレストトーレギルドマスターのパーシバルさんにも集めるように伝えて、

 あっちは4点集まったらしい。

 土の国にもパーシバルさん、アインスさんの両ギルドマスター経由で依頼をしている」

「土の国は勇者様も私たちもまだ足がないですから、

 どうしても情報の行き来が互いに遅れてしまいます。

 あちらは既にフォレストトーレへ移動を開始していて、

 道中のダンジョンや商店で探してくれてはいるようです」

「どこで合流予定なのですか?」

「足を伸ばしているアイアンノジュール近くまで来たら、

 アインスさん経由で情報の共有を挟む予定だよ。

 あとは当日現地でって事になる」


 交流する時間をどうしても取れないことから、

 土の国勢力に関しては魔法剣を伝える事が出来ない。

 だからせめて人材はアスペラルダとユレイアルドで用意して、

 武器集めを協力してもらうという選択をしたのだ。


「俺たちの方は俺がメインになるけど、

 数は多いに越したことはないから急ピッチで育てている」

「・・・サーニャを使うおつもりですか?」

「クレアも使う」

「申し訳ありません水無月(みなづき)様。

 それはクレア様を後方ではなく前線に出すという事でしょうか?

 また、その話は教皇様の了承を得ているのでしょうか?」

「クレアを前衛には出すつもりはない。

 以前と同じく救護班で対応してもらう予定ではあるが、

 魔法剣の類いは自衛の為にも覚えた方が良いと考え直した」

「考え直した?」


 龍の巣で氷垢(ひょうく)のステルシャトーと戦うまでは戦士だけ用意する予定だった。

 だが、効果のある攻撃力のラインを知ったことで、

 フォレストトーレに居るであろう隷霊(れいれい)のマグニを相手にするなら、

 クレアも最悪を想定して抵抗出来る手札を持たせておきたいと思った。


「魔神族は全部メリオを任せるつもりだったけど、

 ちょっと任せっきりにするには荷が勝ちすぎていたと認識を改めた」

「今回、私たちもかなり無理をして運良く生き残れただけでしたし、

 勇者様方が整うまではお力添えをした方がいいと判断したのです」

「魔神族の能力も氷垢(ひょうく)のステルシャトーを基準に考えれば、

 かなり幅の広い戦略を取れる可能性が非常に高い。

 魔法剣の使い手を増やしたところで突破されることは想定しておいた方が良い」


 これからセンスの良い奴を選んで瘴気対策班として育てる予定だが、

 ならもっと早めに選抜しとけと思う奴もいるだろうけど、

 俺たち自身の底上げをしておかなかったら今頃ここには居られなかった。


 優先順位的には確かに瘴気対策班は高い位置にあった。

 それでも全てを俺たちが処理できるわけでもないし、

 人材が集まっているわけでもないし、

 光属性の武器が集まっているわけでもない。

 こちらも色々と考えて優先順位を決めて対処を進めてきたのだが、

 破滅の軍勢の方が一枚上手な状態が続いているのだ。


「トーニャ、サーニャ。貴女方の意見を聞かせて頂戴」

「率直に申しまして、

 アルカンシェ姫殿下(ひめでんか)とその護衛達しか本当の危機感を抱けず、

 結局教国にとっては実体のない敵です」

「アスペラルダには申し訳ありませんが、

 救出がないのであればクレア様を戦場に出す必要性を感じませんし、

 私たち2人のアナザー・ワンがそのような状況を許しません」


 まぁそう言われれば俺たちも強弁を振るうわけにもいかない。

 実際問題、彼女たちは魔神族の姿を見てもいなければ威圧も受けたことがないのだ。

 俺たちがどれだけ言葉を重ねようとも情報としか受け取れないだろう。


「とりあえず魔神族に匹敵しうる攻撃がどの程度のものか分かれば話は変わるか?」

「そうなります」

「ご用意が出来るのですか?」

「こっちで寝ている羽の生えている方の息吹(ブレス)が魔神族に値すると思う」


 クルルクス姉妹の話から魔神族をイメージする材料として、

 俺たちの足下で寝ているフリューネ達を指で指し示すと、

 クレアがお行儀の悪い事にテーブルの下を覗き込んでトーニャに注意される。


「ずっと気にはなっていたのです、いつ紹介されるのかなぁって・・・・。

 その・・・間違いでないのであれば龍・・・ですよね?」

「龍ですね」

「間違いなく龍です」


 おい、今まで黙ってたマリエルがなんでいの一番に答えてんだ。

 アルシェも追随してないでひと睨みくらいしてくれよ。

 君の親友だろ?

 代わりに睨みを利かせたら慌てて清楚を装い食事を再会して黙々と肉を刻み始めた。


「先日行った先がアスペラルダにある龍の巣だったんだよ。

 報告したら長いから報告書を読んでくれ。

 今は魔神族から保護をする代わりに色々手伝ってもらう盟友関係になってる」

「へぇ~」


 クレアは純粋にすごいですねぇと言った顔で俺を関心しているのに、

 クルルクス姉妹の顔は明らかに常識知らずとかあり得ないでしょうと読める苦々しい顔をしておられる。

 俺も自覚してるからそんな顔はやめてくれ。


「どうするのですか?」

「耐久出来そうな奴を横に並べてなぎ払えばいいだろ。

 死んだらクレアが生き返らせるし、

 肉体破損したら俺の魔法で戻せるし、

 耐えられたら良かったね♪で済むだろ?

 流石に魔神族と相対する覚悟のある高レベルの奴だけになるだろうけどさ」

「「雑・・・」」

「確かに雑ですが、

 他だと私たちの一閃ですからね・・・。

 もし、人死にでも出たら心情的に・・・」


 流石に高レベルの兵士である方々が一撃で死ぬことはないと思うけれど、

 基本的に魔法攻撃になる為、

 魔法防御力の高い防具を装備していないと高いHPもかなり削ってしまうことはわかる。

 ただ、ゲームのように威力が数値として見えないのが異世界現実な訳で、

 魔神族相手であれば運が良ければ殺してしまえと思って撃てても、

 人間にそれを放ってしまって本当に死なないかという不安は常に抱えている。


 あと、雑って聞こえてるからなクルルクス姉妹。


「受けるなら教国でもアナザー・ワンと枢機卿レベルじゃないと本当に死ぬと思うぞ」

「防御を取るなという話ではないので、

 威力調査という事で受けてみるのも手だとは思います。

 何の覚悟もなくあの威力を受けるのは・・・正直怖いですから」


 俺への当たりがひどいクルルクス姉妹も、

 アルシェの顔色がその一言で悪くなったのを見て認識を変えたようだ。

 部屋の外に待機していたクレアの側仕えの1人に教皇と、

 そのアナザー・ワンであるクレチア、さらに同じ部屋で執務をしているであろう枢機卿達への確認に走らされる。


「今確認に行かせましたが、

 回答は早くても明日になるかと思われます」

「アルシェ、水無月さん。明日でもいいですか?」

「問題ありません。

 明日でも明後日でも時間は取れますので」

「ありがとうございます」

「そうだ、クレア。

 神託って結局ソレイユ様からの忠告って感じなんだろ?

 分御霊(わけみたま)がどこにいらっしゃるか知っているか?」


 今の世界を支える四神と呼ばれている4属性の大精霊は、

 シヴァ様然りティターン様然り分御霊(わけみたま)が管理領域内何人かいらっしゃる。

 四神に数えられはしなくても闇属性のアルカトラズ様もダンジョンの管理をしたりと分御霊(わけみたま)が点在しているのだろう。


 もし光属性の大精霊であるソレイユ様に会うことが出来れば、

 アスペラルダの龍の巣同様に今後は必要性を改めて確信した龍が生み出す魔石を入手する為の手がかりになるはずなのだ。


「残念ながら私は知りません。

 聖女となってお祈りは毎日欠かさず行っておりますが、

 神託は前回と前々回の二度のみです。

 それも声を聞くのではなく本当にメッセージだけを受け取るものなので・・・」

「文献にもなかったか?」

「ありませんでした。

 お力になれず申し訳ありません」


 ソレイユ様に一番近しい存在で足掛かりとなるであろう聖女が居場所を知らないならちょっと厳しいかな・・・。

 本当に申し訳なさそうな顔で謝るクレアから横に視線を外すと、

 そこには心配そうな顔でクレアを見上げるハミングの姿を捉えた。


「ハミング、こっちに来てくれるか」

『え?あ・・・』

「何をされるのですか?

 私の契約精霊ですので名のある精霊使いの命令でも無茶は許しませんよ」


 俺の命令にハミングは、

 まさか自分が呼ばれるとは思っておらず呼ぶ声にビクッとなると、

 対応確認の為にクレアに指示を求めて不安そうに改めて見上げ、

 クレアも急にジト目になってハミングを守ろうとしてやがる。

 さっきまでの申し訳ない年相応の顔はどこいった・・・。


「大精霊は眷属の位置を把握していて、

 召喚(サモン)で手元に呼び寄せる事が出来るんだ。

 だからハミングにゲートを設置してからハミング自身でソレイユ様に祈れば呼んでくれるんじゃないかと思ったんだ」

「ポシェントの時と同じですね。

 確かにその方法であればあちらに行くことが出来ますね」

「どうだ?

 上手く事が運べば分御霊(わけみたま)だけどソレイユ様に会えるぞ?」


 クレアが片頬に少し空気を含んでプクッと膨れて責めるような瞳で俺を睨んでくる。

 何に怒っていらっしゃるのか?


「クレア様だけでは判断出来ない事をこの場で言われないでください」

「ソレイユ様を餌に釣るのはお止めください」

「・・・会えるのであれば会いたいとは思います。

 でも、私の一存で決められるほどソレイユ様は安い存在では無いのです。

 教皇と相談してお答えいたします」

「そりゃすみませんね。

 無茶な事を言うのは承知だけど、出来れば早めに答えを出して欲しい。

 伝手が出来ればこちらの手札も色々と増やすことが出来る」

「今日のうちに伝えはしますが、

 確約は出来ませんのでそこはご了承ください」


 光精霊を崇める神聖教国だから配慮して話を持ち込んだが、

 少し判断に時間が掛かるかも知れない。

 精霊だけにしろ龍までであれ、

 協力してくれれば近日のフォレストトーレだけではなく、

 その後の厳しい戦闘にも幅を持たせることが出来るんだけどなぁ。


「最悪、俺が光精と契約して送り込めばいいだけだしな」

「(お兄さんっ!)」

『(新しい契約よりはマシですが、

 クーデルカが加階(かかい)した関係で資質いっぱい、です!

 光精との契約はまだまだ先になる、です!)』


 本当に小さく溢した言葉だったのに、

 アクア越しのアルシェが横目の視線で注意をしてきて、

 アニマも念話で無理な事と理由を追加で述べてくる。


 これも回答待ちとなった。

 はい、次!



 * * * * *

「光魔法の開発はどうなった?

 正直俺とメリオ以外の浄化は付け焼き刃だからあまり期待はしていない。

 時間を掛ければ全部の浄化は可能だが何ヶ月も掛けてられん」


 フォレストトーレの人口は約30万人。

 元の世界で言えばまぁ都市としては少ない方になるのかな?

 県では無く市レベルの人工だと思う。

 それが王の住む国の中心となるのだから、

 元の世界に比べるとこの世界は街から街への距離もあることから、

 発展途上なのか星自体が小さいのか・・・。


 それでも30万人の人口が住む都市の広さが馬鹿に出来ず、

 人間が2人っきりで浄化するには現実的ではない。


「勇者様とエクス様の魔法を参考にしてエクス様とハミング、

 それにアルシェに相談をしながらなんとか魔法は組み上がりました。

 けれど、私たちだけでは効果範囲が狭すぎて水無月(みなづき)さんの期待するほどではないんです」

「・・・アニマ。仮契約の空きはあるか?」

『今はない、です!

 それでも仮契約ならもう少し成長すればなんとかギリギリ足りると思う、です!』

「お兄さん、仮契約するんですか?」

「新しい精霊と本契約する余裕はないからな。

 ハミングと仮契約をしてサブマスターにしてもらうしか方法がない」


 まぁ、問題がないわけではないがな。

 そして一番頭を悩ますところでもある。


「ハミングとは顔を合わせるのも今日で二回目だ。

 契約だけならすぐに出来ても必要なのはその先にあるシンクロだから、

 ちょっとそこを埋める方法を考えないと・・・」

「それは必要な事なのですか?」

「クレアとその契約精霊であるハミングには悪いが、

 正直言って多重シンクロによる制御力の底上げをしないと役に立たない。

 瘴気に関する情報が少ないから、

 はっきりとどのくらい足りないのか説明は出来ないけど、

 大地を浸食して広がっていくのはわかるか?」

「そこは理解しています」

「横に広がる分なら浄化もまだ簡単だ。

 でも下に浸食していた場合は俺たちじゃあ浄化出来るイメージが湧かないんだ」


 破滅とやらの呼び名が抽象的過ぎて最終目的などが見えないけれど、

 人口の観点から本当に星が小さいのであれば、

 瘴気が地面の中を浸食し最終的に星の核が汚染された場合、

 この星はどうなるのか見当も付かない。


 極力発生と同時に浄化するのが基本であるが、

 魔界の方にはいくつか瘴気スポットがあるとも聞いている。

 そのうえでかなりの年月大地を侵し続けているから今更感も否めない。

 結局浄化を進める事は人間が住む領土を守る事に繋がり、

 安全を確保するなら下方向も浄化をしておいた方がいいのは確実だ。


「俺たちの一閃やメリオの砲撃は表面上の汚れを洗っているだけで、

 浸透した汚れには届かないんだ。

 横方向ではなく縦方向に協力な浄化がおそらく必要だと予想してる」

「他にも手が無いこともないですけどね」

「アルシェ、他に打てる手があるならそちらも教えてください」

「他の上位精霊に手を貸してもらう方法。

 いまのところはエクス様に・・・という話になりますけど、

 それでは本末転倒ですから・・・」

「・・・・」


 手が無いことは無い。

 俺の手札で言えばブルー・ドラゴン(フリューネ)が瘴気に蝕まれた時に使用した、

[星光天裂破(せいこうてんれつは)]があるけれどあれは範囲が狭すぎる。


 メリオ達が使うにしても、

 覚えて後日に・・・と出来ないのが瘴気の面倒なところだ。

 戦闘中にどんどんと浄化を進めなければ、

 その分時間ばかり使ってしまい大事な戦力を削ることとなってしまう。

 それは前衛として戦う事になる俺が嫌だ。

 責任を持ちたくないんだから、

 せめて勇者の手伝いという大義名分を心の支えにしたいのだ。


 そういうメリオが使う分に関しては、

 クレアは説明をしなくとも理解が出来た様子で黙り込んだ。

 他の精霊という手は結局先ほどの精霊王に会うしかないしな。

 選択肢は結局のところ選べる状況では無いが、

 あまりトロトロ待つことも出来ない現実が迫っている事をクレアはわかっていて顔色に出ている。


 俺の後ろとテーブル向こうに待機しているクルルクス姉妹から殺気が漏れてきているけれど、

 これは教国の協力が不可欠なのだ。

 一番良いのは精霊王の元へ無理矢理押し入る方法だな。


「・・・検討します」

「よろしく頼む」


 はい、次!



 * * * * *

「死んだ人の対処についての報告をしてくれ」


 ちょうど食事も終え、

 クーが改めて影からさきほど渡された資料をそれぞれの前に配り、

 精霊達もひとつの資料を全員で覗き込むように床に集まっている。


「基本的には各家庭で葬式を終えた後は土葬をするのが主流です。

 水無月(みなづき)さんの言われる幽霊という存在については記述はありませんでした」

「だが、スピリット系のモンスターはいるだろう?」

「それはアンデット系ダンジョンに発生するという事で知ってはいます。

 でも死んだ人の魂はどこへ行くのか等は情報が足りないですし、

 何より目に見えない事には対処も考えることが出来ません」


 教国にある文献に何かヒントがあればと期待していたけれど、

 そもそも土葬した後はお参りを定期的にすればいいとなっている世界だから、

 その後の魂については全く知識はないらしい。


 しかし、フォレストトーレで見た成仏できていない霊魂は圧倒的な数であった。

 あれらが瘴気でモンスター化するまでは予想出来ているのだが、

 問題は成仏のタイミングだ。

 通常なら死んだ後にそのまま天界に行くのだろうけど、

 強制的に瘴気に成仏を阻まれた魂は果たして自力で成仏出来るのか?


「ニル、3人に効力を下げた[Omegaの秘薬]を塗ってやれ」

『ん、わかりましたわー!』


 とはいえ、霊が見えないとどうしようもないという意見も理解できる。

 存在していると認識出来なければやりがいも感じないし、

 世界の常識を疑うのは難しい。

 そこでクーの暗視の魔法と同じように、

 霊視の魔法を造り上げたニルが俺の指示で飛び上がり一番近いトーニャに近づいていくと手でその動きを制止してくる。


「お待ちください。その[Omegaの秘薬]とは何でしょうか?

 得体の知れない物をクレア様にはもちろん妹にも使われたくはありません」

「今見えている視界に別次元の視界を追加する魔法です。

 害は・・・見えない振りをすれば大丈夫です」

「・・・それは本当に大丈夫なのですか?」


 だがやらない事には先に進めないのだ。

 トーニャが試して問題がないと判断すれば、

 妹のサーニャと聖女クレアにも使わせる事を約束しニルが魔法を瞼に塗りつける。


 瞳を開いたトーニャはいつもの無表情から一気に険しい顔へと変化し、

 武器をインベントリから取り出すとテーブルを飛び越えて、

 大剣(アンドゥリル)をクレアとサーニャの背後に向けて振るう。


 トーニャの突然の行動に妹であるサーニャも驚きに目を見開き、

 何が見えているのかと自分の背後とクレアの背後をキョロキョロと確認をし始める。


「・・・水無月(みなづき)様、これはどういう事でしょうか?」

「どういうとは?」

「瞳を開くとまず、

 クレア様とサーニャの背後にそれぞれ3名と1名の半透明の人間が見え、

 見覚えも無く誰も気づいていない様子から未知の敵と判断し攻撃。

 しかし、攻撃が当たる軌道であったのにも関わらず空振りし、

 未知の存在も逃げること無くその場に残っております」

「それは守護霊。

 目に見えない悪意から憑いている人間を守ってくれる幽霊だ。

 基本的に先祖が守ってくれているケースが多い」


 それは味方であり、例え魔法攻撃をしたとしても干渉は出来ない。

 モンスター化していればその限りでは無いとも伝えておく。


「アルカンシェ様にもマリエルさんにも守護霊は見えます。

 では、水無月(みなづき)様に誰も憑いていないのは何故ですか?」

「・・・クレア、俺のことは2人に全部伝えているのか?」

「いいえ。誰にも伝えておりません」

「なら、答えられないな」


 答えは至極簡単で、

 異世界召喚の範囲に守護霊までは入っていなかった為だろう。

 置いて行かれたと思われる守護霊さまはその後どうなったのか、

 そのことを意識したときは気になった物だが、もうどうでもいい。


「その状態で街の方を見てみると良い」

「トーニャさんが見ている間に明日の流れでも決めておきましょうか。

 クレア、100人組み手の選出は出来ていますか?」


 トーニャが部屋に備わっている窓から街並みを眺め始めると、

 アルシェが事前に打ち合わせていた、

 今度行くときに行いたいと言っていた100人組み手の話を始める。

 アスペラルダではやっていない訓練なのだが、

 何故か教国が希望したのは俺だった。

 俺だけが犠牲者なのだ。


「下から上まで希望者を揃えておりますけど、

 アナザー・ワンや枢機卿を含んで本当に良かったんですか?」

「護衛隊の隊長であるお兄さんが一番強くなければなりませんが、

 私たちは強者と戦う機会をコンスタントに持つことが難しい立場です。

 出来る限りこの機会に触れる必要性を相談して経験を積む為ですから逆に助かります」

「経験というのであればマリエルさんはどうなのですか?」

「お兄さんが強くなれば訓練する相手としては申し分ありません。

 全ての使える機会は出来うる限りお兄さんに注がせていただきます」


 武器を振るだけでも経験値として確実に数値化するこの世界では、

 アルシェの言うとおり1人を強くして強者を人工的に作る方が、

 少数PTとして有効だ。

 そして、魔神族が出た場合に相手をするのは俺なので、

 結局強くなる事は効率を考えてもありありの有りなのよね。


 クレアが本当にいいんですか?って憐憫の顔で見つめてくる。

 いいんだよ。

 アルシェ達を守る為にも勇者任せにしない為にも必要なことだってわかってるからね。

 近くに座っていたら頭を撫でてあげられたが、

 残念な事に今はテーブルの向こう側なのでしてあげられない。


「正直に言うと、

 人間としてのポテンシャルで言えばアナザー・ワンや枢機卿には敵わない。

 ただし、俺は精霊使いだから一般的な魔法以外に、

 制御力で色々と出来るからな・・・。

 それで差を埋める方法を考える為には結局強者と戦う中でしかヒントは見つからないもんさ」


 肉体改造はもちろん続けている。

 だが、俺は元々線が細く回避や素早い動きに向いている体型なので、

 筋肉の付け方にも心配りをしてしなやかな仕上がりにしている。

 武器や肉体依存の強攻撃は出来ないからこそ、

 魔法剣戟を編み出したりしているが、

 どうしても発動に時間が掛かってしまうし体の人間サイズの魔神族相手には使い勝手が悪い。


 つまり、まだまだ手札も技術も足りないのだ。


水無月(みなづき)さんがそれでいいなら私からこれ以上差し出口を申しません。

 おそらく龍の件も明日ご一緒のタイミングで行う事となりますが、

 どちらを先に行いますか?」

「フリューネ様のブレスを受ける者と、

 お兄さんの100人組み手をどちらもエントリーする者が居なければ順番はどちらでもいいと思いますけれど?」

「教国は人材育成に積極的なことからも、

 若くて強い方が好きですから・・・数名はどちらも参加希望する者が居るかと・・・」


 1人頭に浮かぶ人物がこちらに手を振ってきているのを振り払う。

 貴女は主の隣に居なきゃいけない立場でしょうがっ!


「ブレスの方は俺たちも正確な威力を知らない。

 だから、俺達が一度受けてみて経験から調整をしたブレスを受けてもらおうと思ってる」

「では、龍の方は後にしましょうか?」

「受けるだけだし、

 防御はノイがいるから俺が力を使うわけじゃ無いし問題ない。

 フリューネ、徐々に威力を上げられるか?」


 ある程度の覚悟を持って受け止めるつもりではあるけれど、

 予想よりも威力が大きかった場合を考えて、

 出来れば威力が上昇する方向でお願いしたいところだが・・・。

 眠たげなフリューネに向けた言葉に反応を示し、

 青い羽付き龍がその顔で椅子に座る俺を見上げる。


『威力を上げるよりは下げる方が楽だね。

 宗八(そうはち)なら知ってるだろうけど、

 息吹(ブレス)は魔法では無く純粋な魔力砲撃だからね。

 もちろん息も総量が決まってるから、

 あとから上げると放射時間が短くなっちゃう』

「だよな。シンクロで制御力を底上げしたノイの聖壁の欠片(モノリス)でなんとか接触を耐えるか・・・」

『ボクとマスターが土精霊纏(エレメンタライズ)しておけば、

 死ぬことはないと思うですよ』


 俺とアクアも息吹(ブレス)を使うから、

 後押しで息の吹き込み量を上げると一気に肺の空気がなくなるのは理解できる。


「俺が死んだら助けてくれな」

「縁起でも無いことを言われないでください・・・。

 死なないのが一番ですし、知り合いが死んでいる姿は私も辛いですぅ」


 キリッとした顔で決めたはずなのに、

 クレアは悲しげで辛そうな顔を俺に向け懇願してくる。

 その後ろからはクレア様に心労を掛けないでっ!と言わんばかりのサーニャが鬼の形相で俺を睨んでいる。


 普段無表情無口があの顔すると思うと、

 なんとも言えぬ本気度がわかる。

 内心高レベル者の威圧に苦笑いを浮かべていると、

 窓に寄っていたトーニャが確認を終えて近づいてくる気配を感じた。


水無月(みなづき)様・・・」

「どうだった?」

「幻かとも目を疑いましたが、

 掛けられた魔法はそちらの風精霊の魔法だけですし、もう疑ってはおりません。

 あれが全てその・・・幽霊なのであれば少し刺激が強いのでは無いかと・・・」

「無属性は回復。光属性は蘇生。

 流石に生き返る事はないけれど浄化も光属性だ。

 今のところ他国とはいえ可能性と立場が一番適切なのが聖女なんだ

 。

 アスペラルダ王とも相談したが、

 ここでお前らがクレアの負担を拒否したところで、

 フォレストトーレ王族の生き残りから正式な依頼をすぐ入れるぞ」


 戻ったトーニャは俺の横に立ち、

 椅子に座り視点の低くなっている俺に向けて話しかけるのは感覚は拒否感を示す声音だ。

 俺の台詞に正面のクレアとサーニャは、

 事態を正確に飲み込めず不安げな瞳でそれぞれが俺とトーニャへ視線を送っているのが気配でわかる。


 俺の威圧を受けても目力(めぢから)が弱まらないのは流石だが、

 アルシェに助けを求めても、

 これはフォレストトーレで死んでいった多くの魂を本当の意味で救う為に必要な事だ。

 アルシェは無言でしっかりと受け止めた後に首をゆっくりと振るい俺に同意を示す。


「・・・っ!」

「私たちに出来るのであれば既に魔法を造り上げています。

 しかし、適性も魔法もない精霊も居ない状態では無理です」

「ニル、クレアとサーニャに魔法を施せ」

『かしこまりーですわー!』

『っ!クレアに酷いことは・・・』

「ハミングにも塗りたくれ」

『はいはーい、ですわー!』


 別に絶対必要なわけでは無いとは思う。

 俺の世界でだって勝手に成仏する奴はいるだろうし、

 瘴気さえなくなれば勝手にどこかへ移動するかもしれない。


 だが、瘴気を完全に浄化するにはかなりの時間を要するのは確実で有り、

 その間に浄化されて解放された魂に、

 おそらく瘴気はまた魔の手を伸ばして取り込んでしまうだろう。

 繰り返される汚染と浄化に魂がどの程度耐えられるかも定かではないし、

 出来る限り早めの成仏をしてもらう事は人の尊厳を守ることにも繋がる。


 俺は前線で、アルシェは後衛から少し外れてクランメンバーの指揮にあたる。

 光属性の精霊も居らず成仏などの研究や魔法式の組み上げなんぞ、

 俺たちには準備時間が一斉無い。

 生き残る為の手札作りや準備で精一杯だ!


 そんな顔をさせる為に魔法を掛けた訳じゃ無く、

 安全かどうかを確認するためにお前はニルから受けたんだから、

 安全でしたよと一言いつもの無表情で言っときゃいいんだよ。


『ふぅー、いい仕事をしましたわー!』

『慣れない魔法を全身に・・・うぅぅクレアぁ・・・』

「ハミング・・・」

「3人ともトーニャの見た光景を見て来い。

 サーニャはともかくクレアとハミングは見ておかないと、

 俺たちが何故無理強いしてでもクレア達に話を通すのかが根本的に理解出来ん」


 魔法を施されたクレア達3人はトーニャに導かれて、

 教国内に居る幽霊が良く見える心霊スポットで目を白黒しながらキョロキョロとしている。

 一応アスペラルダに居る時にアルシェにも見せたけれど、

 モンスターでもない人でもない精霊でもない幽霊という存在は初遭遇なようで、

 いつもは甘えん坊、戦闘は冷静に行うあのアルシェですら、

 顔色を悪くして空を飛んだり通路でボーッとしている幽霊を視界の端で捉えていた。


「視線を合わせるなよ。

 いくら守護霊が守ってくれるとはいえ限度はあるからな。

 特に赤い奴と黒い奴は視界に入りそうになったら絶対にそちらに顔を向けないように」

水無月(みなづき)様、そういう事は始めに伝えてください」

「そいつらは悪霊だから憑かれると碌な目に遭わない。

 除霊するためには霊体に効果のある魔法で浄化するしかなくなるかなぁ・・・と」


 本音を言えばクレアには可哀想と思いつつも、

 やる気に繋がるならば正直憑かれてもいいと思っていた。

 悪霊に憑かれたからとしてすぐに死ぬわけじゃないし・・・。


 聖女とはいえ9歳児のクレアが俺の言葉で今度こそ真っ青になり、

 じんわり瞳に涙を浮かべている様子を見ると、

 やり過ぎたかと良心の呵責に苛まれそうになるが、

 フォレストトーレの戦いを一回で終わらせる為に結局クレアの多大な協力が必要なのだ。


 眉間にシワが寄り甘い顔にならないように気をつけながら、

 アルシェと共に聖女のその従者を追い詰め協力体制を整えていくのであった。

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