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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第10章 -青竜の住む島、竜の巣編Ⅰ-
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†第10章† -19話-[VS氷垢のステルシャトー-中心部の決着-]

 時は遡り・・・。


「アクア。纏う魔力濃度を上げろ!

 アルシェと一緒に対応出来なかった奴だけ潰してくれ」

「わかりました」

『あいさ~!』

「ノイはわかってんなっ!」

『いざという時の守りはまかせるです!』


 アルシェが俺達の背後で蒼槍(そうそう)[グラキエルスィール]を構えて切っ先の刃に魔力を集中させ、

 アクアも俺達の左爪に竜玉(りゅうぎょく)を吸わせて魔力を高める。

 俺自身も内蔵魔力の回復した蒼剣(そうけん)

 [グラキエルブランド]をいつものように構えると、

 (やっこ)さんも攻撃の開始を告げる為にメイスを高く掲げきった。


 ステルシャトーを視線が絡むと、

 互いに攻撃の狼煙を上げる。


「《来よ!》《水竜一閃(すいりゅういっせん)っ!!!》」


「貫くのだわっ!」


 事前にこっそりと試しておいて良かった。

 ぶっつけ本番でもしも試していたら、

 おそらくこの重さに戸惑って振り抜ききる事が出来なかっただろう。


「ぜえええええええいっ!」


 固有魔法[宝物庫(ほうもつこ)]のショートカット詠唱《来よ》。

 人差し指と親指で抓める程度の小さな龍の魔石は、

 俺の呼び掛けに応えて目の前にその姿を現す。

 宝物庫(ほうもつこ)に収める前に魔力に満たされた魔石は、

 爛々と蒼天(そうてん)色の魔力を漏らしながら俺の剣に易々と砕かれると、

 その小さな欠片いっぱいに満たされていた高濃度魔力が溢れ出し魔法剣の魔力に呼応して剣身に纏わり付いてくる。


 重い・・・。

 その重さを覚悟して振り抜いているのに一瞬の振り遅れを感じる。

 それでも氷垢(ひょうく)のステルシャトーの放った召喚魔法の攻撃力を目の当たりにした為、

 絶対に直接攻撃を受けるわけには行かない。

 防御も厳しい、回避も厳しい、なら。


「撃つしかないっ!だあああああああああああああ!!」


 剣の重さに握りが震える。

 この一撃を外すわけにはいかないので、

 全力で幾重にも向かってくる海豚の群れに当たるようにと振り抜ききる事に成功する。


『《氷竜閃(ひょうりゅうせん)!》』

「《氷竜一閃(ひょうりゅういっせん)!》」


 俺の殺り漏らしを仕留める為に広範囲攻撃を選択した二人が、

 先に放たれた水竜一閃(すいりゅういっせん)を活かす事の出来る氷竜を一拍遅れで同時に放つ。


 その威力は絶大であった。


「ぐっ!?今までの比じゃないこの重さ・・・っ!さっきの・・!」


 群れの7割が水竜に飲まれて姿を光の飛沫へと次々に変えて消滅させただけに留まらず、

 延長線上に突っ立っていたステルシャトーにもギリギリ当てる事が出来た。


「賢しい人間っ!この程度ならまだまっだっ!

 魔神族には届かないのだわっ!!うああああああああ!!」

「これでもダメか!?」


 高濃度魔力の扱いに慣れていない俺達に出来る最大限の攻撃。

 いままでの多少濃度を上げた程度の魔法や通常攻撃では魔神族にダメージを期待できない一方で、

 魔力濃度が高ければ通じるのではと希望が見えただけに、

 今まさに目の前で一度は豪奢なメイスで受け止めて壁際まで押し込まれたステルシャトーが、

 防御にと縦に構えていたメイスを前に押し出して一閃の一部を破壊した姿は流石にショックがデカイ。


『《アイシクルアンカー!》シュート!』

「ふぅん!はぁはぁはぁ、残念だったのだわね。

 男の方はともかく、はぁ、女の子の方は全然足りないのだわ!」


 戦闘が始まってから余裕を見せては居ても隙を見せなかったステルシャトーが、

 一閃を受け止めている間は確かに隙が生まれていた。

 その最も際立った瞬間にアルシェは魔法を撃ち込んだにも関わらずメイスの殴り一発でアンカーは破壊されてしまった。


「アクア!」

『んもぉ~仕方ないね~!』

「お兄さん!?アクアちゃん!?」


 再び前に飛び出した俺の動きを見てから相対する為に壁から前に進んでくるステルシャトー。

 空気中に霧散した高濃度魔力に身を躍り出しメイスと蒼剣(そうけん)はぶつかり合いを再開した。


 打ち合いの威力に衰えは見られない。

 パリィと鍔迫り合い、隙を突いての互いの攻撃が身を掠める。


「貴方・・・この感覚・・・」

「今更気が付いても・・」『おそ~い!』


 こちらから魔神族の様子に変化は見られなかったが、

 先までの剣戟とは異なり回避にしろ打ち合いにしろ俺達側には変化が起こっていた。


「この散らばった魔力が原因・・・だわね」

「さてな!ぜあああああ!」


 アクアには不評で不味いとの評価を受ける高濃度魔力。

 しかしアクアポッツォで体験した自然魔力の物ではなく、

 俺の魔力から練られた高濃度魔力でも評価はそこまで変わらないらしい。


 ノイの時は[《硬化(スチール)]を重ね掛けすることで魔力が体内に過剰に蓄積し、

 それが高濃度となることで攻撃力を上げる結果に繋がっていた。

 今回のアクアの場合は体外に高濃度魔力が霧散して漂う事で、

 運動能力が全体的に底上げされた結果と言えるだろう。


 ただし今の状況によるバフ効果は予想外の産物で有り、

 予想通りであれば時間制限もあるはず。

 時間が進めば空間内の濃度が下がればブースト効果は下がっていくし、

 やがては高濃度バフもなくなってしまう。

 続けるには何度も先の一撃を繰り返さなければならない。


「《来よ!》」

『アルゥ~!!』


 その役目は接敵して戦う俺達では出来ない。

 故にシンクロで現状を理解して後方で構えを取っているアルシェに向けて、

 アクアの尻尾が呼び出された魔石を尻尾で飛ばしてアルシェにパスを渡す。


「《水竜一槍(すいりゅういっそう)!!》」


 構えた蒼槍(そうそう)の穂先が放られた魔石に接触すると、

 パキンと思いの外簡単に砕け散った魔石の中から驚くほどに重い魔力が溢れ出し、

 一閃を発動する為の魔力の流れに合流してきてズンと槍自体も重く感じる。


 しかし、宗八(そうはち)が発動させた時と一点違う点があり・・・。


「(お兄さんの高濃度魔力と結合が甘くて・・・っ!槍が持たないっ!)」


 背後から迫る水竜のランスに合わせてアルシェの槍が砕け散る音が聞こえてくる。

 やっぱり持たなかったか・・・。

 こっちの蒼剣(そうけん)も中身はともかく側は俺と無関係の魔石という事もあって、

 ヒビが入る一歩手前と言った感覚だった。


 今はどうにかなっていても、

 数を重ねる毎に武器の方が持たなくなるから、

 アルシェの氷属性武器精製(アイシクルウェポン)で誤魔化しつつ出来る限りの早期決着を目指さなければならない。


「仲間ごとその魔法を私に当てるつもり?

 それで効果が無ければお笑いものだわね!」

「俺の一閃を受けた様子から効果がないとは思えんがねっ!」

「くっ!?」


 アルシェが今回放った水竜一槍(すいりゅういっそう)は通常Ver.ではなく魔石を使った強化版だ。

 単純に大きさも3倍近い大きさに膨れあがったランスは、

 一閃と違い一点突破を目的とした貫く事に特化した造形をしている為、

 その威力は先の一閃を受けたステルシャトーであれば簡単に理解に及ぶだろう。


 左右にも上にも、もちろん下にも逃げられないように、

 ギリギリまで高濃度エリアの予定外バフの効果を存分に利用させて頂き、

 全ての行動を邪魔する事に専念する俺を抜けないステルシャトーは、

 悔しそうに俺をぶっ飛ばす努力を重ねる。


 あと少し・・・。


『(キタっ!)』


 周囲に漂う高濃度魔力の流れを知覚していたアクアの念話に従い身体の力を抜くと、

 そのタイミングで背後から迫っていた水竜一槍(すいりゅういっそう)の穂先が切り裂く魔力の流れに身体が乗り、

 自分たちでもコントロール出来ない勢いでランスの矛先から吹き飛ばされる。


 流れに乗れたのはアクアと一体化しているからで、

 精霊でもなく高濃度魔力から何の影響も受けていないステルシャトーからしてみれば、

 急に目の前から獲物が消え、

 直後に迫っていた高濃度ランスが回避不能な位置にあれば堪ったものではないだろう。


「っ!?《シルヴェリーガードッ!!》」


 とはいえ流石は魔神族の一柱。

 たった一歩とはいえ下がる動作を加えた上にすげぇ早口で防御の詠唱も口にした。

 詠唱は正しく発揮され水竜一槍(すいりゅういっそう)とステルシャトーの間に銀色をした氷が生成されてランスの一撃とぶつかると矛と盾は拮抗してしまう。


「届きませんかっ!?」

「いいやぁ、届き掛けてはいる。

 余裕があれば攻撃にも回してくるだろうにメイスで防御の姿勢から変わらないし、

 ゆっくり後ろにも下がり始めてる」

「でも、このままでは避けられてしまいますよ?」

「だから攻めるさ。《来よ!》」


 アルシェの側まで下がった俺達は、

 ステルシャトーが背後の壁まで下がりきる前に行動を起こし、

 再び魔石を呼び出して剣は上段に構えを取った。


「『《氷竜一刀(ひょうりゅういっとう)!!》』」


 一閃が広範囲の切断を目的とした技であれば、

 一刀は地走りの砲撃で直線を一掃する技となる。

 先と同じように一刀の流れに高濃度魔力が混ざり合い、

 地面を砕く蒼い魔力砲が蒼い槍とステルシャトーを飲み込んでいく。


「きゃああああああああああ!!!」


 拮抗していた力が俺の砲撃で崩れ、

 アルシェの放った水竜一槍(すいりゅういっそう)も盾を突き砕く音とステルシャトーの悲鳴が崩れた壁と共に遠ざかりながら聞こえてくる。


「《氷属性武器精製(アイシクルウェポン)》シフト:ランサー。

 《武器加階(ウェポンエヴォルト)タイプ:グラキエススィール》」

「流石にシュティーナの時と違ってダメージには繋がったと思うけど、

 これで倒せたとも思えないな」

『高濃度魔力の砲撃に巻き込まれましたし、

 血の一滴でも流しておいてもらわないと絶望的です』

『ふぅ~、ちょっと休憩~』


 下手に動けば何をされるかもわからないし、

 召喚魔法を使われるにしても距離があれば対処の仕様もある為、

 アルシェは武器の再生成を行い、

 俺達は一息をいれつつ巣の外へと吹き飛んでいった魔神族の様子を見守る。


 手にした蒼剣(そうけん)[グラキエスブランド]の感覚に意識を通すと、

 少しの違和感があることからやはりあまり猶予はないらしい。

 譲って頂いたものなので折ってしまいたくはないんだけど、

 命の方が大事だし仕方ないっちゃ仕方ないけどな・・・。


「《ヒーリングコーラル!》」

「っ!《エアースラッシュ!》」


 二人の攻撃で壁が大きく崩れた先で冷気で覆われ視界を奪われていたが、

 その向こう側から件の珊瑚礁の詠唱が聞こえたのを契機に、

 アルシェが冷気を吹き飛ばす為に10個の風の刃を飛ばして着弾地点で爆風が巻き起こる。


 パキン・・・ポリポリポリ・・・

 冷気の霧が晴れた先では汚れた服のステルシャトーが、

 珊瑚礁から折ったと思われる珊瑚を片手に不機嫌な形相で囓っていた。


「アクア」

『《竜玉(りゅうぎょく)!》』

「《来よ》」

『《カノン!》』


 カノンの先端が魔石を飲み込み砕けると、

 高濃度魔力はすぐさまカノンに纏わりズゥン!と3周りほど大きく重くなる。


「『んああああああああああああ!!』」


 アクアとの咆哮でなんとか射出する事は出来たのだが、

 一閃に比べて負担が大きく感じた原因は、

 [竜玉(りゅうぎょく)]がアクアの魔力で出来たオプションだからだろう。

 俺とアクアの魔力はシンクロで重なる毎に近しくはなっても、

 別物である事に変わりは無い。

 アクアの魔力と俺の魔力が濃度も違うのに混ざろうとすれば、

 そりゃ無理矢理くっついただけのものなのだからこちらにもそれなりのフィードバックがあって然りだ。


 大きく砕けた氷や岩が転がるステルシャトーまでの道のりを、

 竜玉(りゅうぎょく)カノンが更に細かく砕きながら進むが、

 当のステルシャトーはメイスの持ち手を下にズラしてそのまま振るうと束が伸びて本当に召喚士が持っていそうな杖に変化する。

 その杖を魔法杖のように構えると、息を大きく吸い込み轟き叫んだ!


「《ブリガンティア・バスター!!》」


 咄嗟だった。

 新しい攻撃で多少の効果が出たからと言って、

 このまま倒せるとまで浮かれるほど自惚れてもいない。

 そんな緊張感の残る中、

 魔神族が手にしていたメイスを伸ばして魔法杖に変化させた時点でアルシェの腕を掴んでいた。


「きゃっ!」

「全力だアクアっ!!」

『あい~~~~~~~!!!』


 ステルシャトーの詠唱は先ほどまでとは違い、

 俺達と同じく魔法名を唱えるだけで発動した。

 白い魔力光を放つ奔流が魔法杖から放射されると、

 アクアの[強化竜玉(りゅうぎょく)カノン]をぶち抜いただけでなく、

 俺達を飲み込まんと目前にまで一気に距離を詰めてきた為、

 アルシェを咄嗟に抱き上げると仲間がいない方角へと進路を取って全力を持って横向きに逃げた。


 回避できた後も全力で逃げの一手を選択したのは他でもない。

 魔神族のポテンシャルを信じたからだ。


「はああああああああっ!!死ねぇええええええええっ!!」


 俺達に回避された魔力砲射は、

 巣をそのまま貫通した後にステルシャトーの物騒極まりない叫びと共に、

 俺達を追った魔法杖の動きに合わせて巣の下部を綺麗に半分撃ち貫いてしまった。


「龍の事忘れてたっ!」

『いまはそれどころじゃないですよ!

 あんなの誰も受け止める事なんて出来ないですっ!』

「龍は無事を祈るとして、

 あれを連発されてはいくらなんでも持ちません」


 アクアの全速力とステルシャトーの放射が追う速度が同じであった事。

 そして、思ったよりも放射時間が短く済んだが為になんとか生き延びる事が出来た。


 そんな折にすっかり考えから抜けていた龍の事を思い出した。


 ズシィィィィィィィィンンンン・・・・。

 と背後から下部を失った巣が斜めに崩れ、

 一番低く傾いた巣へと変貌を遂げたが俺達の視線は魔神族に釘付けであった。


『アクアの竜玉(りゅうぎょく)・・・また壊されちゃった・・・』

「落ち込むのは後にしろ。

 召喚魔法よりも短詠唱で発動するあの威力が連発すればヤバいことになる・・・」


 出来る事なら仕掛けがあって欲しい。

 召喚魔法はそれぞれが強力で広範囲に適しているのに対し、

 先の砲撃魔法はそれを一点に絞ったような印象を受けた。

 なら、俺達みたいな少数に対して何故ずっと召喚魔法で対抗していたのか?


 先ほどみたいな魔法がバンバンと撃てるのであれば、

 余計な隙などを生む事無く俺達を倒しきっていてもおかしくは無い。

 ステルシャトーの持つ魔法杖は魔法を撃ちきった後に、

 メイス部分に作られている穴という穴から冷気を一気に放射すると、

 再び束が短くなっていきやがては冷気が失せる頃メイスの姿を取り戻していた。


「連射には向かない様子ですね」

「警戒するに越した事はない。

 どれがハッタリかもわからないんだ・・・。

 いつでも撃てる物なのか?時間が必要なのか?魔法杖にしないと撃てないのか?メイスのままでも撃てるのか?」

『本当にこの辺で退いてくれないです・・・?』


 距離を開いて地面に降り立った俺達は、

 アルシェを地面に下ろして再びステルシャトーと睥睨を交わす。


「初見で今のを避けきれるとは思わなかったのだわ!」

「お褒め頂き光栄だ!

 今までとは違う攻撃に見えたがどういう心境の変化だっ!?」


 話しかけられついでにお馬鹿であれと願い、

 念のため直接聞いてみる事にした。


「奥の手というやつなのだわっ!流石に詳細は教えられないのだわ!」

「ちっ・・・」

『お馬鹿じゃなかった・・・』

『馬鹿はアクアだけで十分です』

『なんでぇ~!?』


 だが、先ほどノイが言ったようにそろそろ退いて頂きたいのも事実。

 俺の剣の耐久力を消費するあの魔法剣をこれ以上使いたくはないし、

 流石にいろいろと限界も見え始めた。


「このままだとお互い疲弊するだけのようだし、

 ここは退いてもらえないかっ!?」

「せっかくこの世界で初めて楽しめる人間に出会えたのだから、

 今を存分に楽しみたいのだわ!」

「こちらサイドには勇者も居る!

 お前達魔神族を打ち倒していく者だ!

 魔神族たちの目的が協力できる事であれば手を貸す事も出来る!

 この世界に来た目的はなんだっ!」


「それは・・っ!?」

「だ~めよぉ。それを言っちゃあ面白くないでしょう?」


 ステルシャトーとの対話は悪くはない方向に進んでいたと思う。

 何より目の濁りが薄れていたからだ。

 しかし、最後の質問を俺が問い、

 ステルシャトーが応えようとした矢先・・・あいつの声に遮られた・・・。


「シュティーナ・・・」

「あれが・・・白い魔女・・・」

『なにぃ~!?ぞわぞわするぅ~!?』

『得体の知れない感覚です・・・』


 ステルシャトーの口を塞ぐ手が何もない空間から現れ、

 その後身体も現実世界に出現し始め、

 長い手足に長身、そして扇情的な胸元に真っ白い魔女の姿が完全に現れると各々の口から感想が漏れた。


 ステルシャトーの様子を見るにシュティーナが居る事に気付いていなかったらしい。

 つまり、意図して増援が来たという話でもないのだが、

 ではシュティーナは何の為に姿を現したのかが問題となる。


「お久しぶりね、イクダニム」

「先の戦場ではお世話になりました。

 一体何をする為に現れたんだ?」


 口を塞がれ藻掻くステルシャトーを完全に抑え込んでいるシュティーナは、

 俺を一瞥すると当時とは違う姿にも関わらず名乗った偽名で挨拶をして来た。


 この挨拶に何故その名で問いかけてくるのかと聞いてはならない。

 それはどうあがいても肯定を意味してしまうからだ。

 さらに言えば、彼女は潜口魚(せんこうぎょ)よりも空間の支配力があり、

 亜空間からこちらを覗いていたとしても俺達の索敵でもなかなか引っかからない。


 だから、何故現れたのかを聞いたのだ。


「シュティーナ!?こんなところに何故貴女が来ているの!?

 ここは関係のない場所のはずなのだわ!?」

「ん~~~?ちょっと解放されてるかしらねぇ~。

 イクダニム、貴方この娘に何をしたの~?」


 おい、先に俺の質問に答えろや。


「戦闘をしただけだ」

「応えるのだわっ!?」

「五月蠅いわ、ステルシャトー。

 私はいまイクダニムと話をしているのよ」

「!!!??」


 シュティーナは騒ぎ立てるステルシャトーの首筋をトンと指で叩くと、

 同じ魔神族であるにも関わらず、

 ステルシャトーは声が出せなくなってしまった。


「貴方が彼女にダメージを与えた攻撃手段。

 それをもっともっと極めないと私たちと事を構えるには足りないわ。

 それに今回ステルシャトーは勝手な行動をしていたから一人だったけれど、

 本来は彼女を守る魔神族も居るのよ。

 二人の魔神族を相手に出来ないなら逃げ回った方がいいわ」

「何故その情報を俺達に伝える?」

「可能性が見えたから・・・かしらねぇ。

 私たちは戦いを望んでいるけれど歯応えの無い世界ばかりだったから、

 貴方に期待をしている。

 その勝手な期待の対価ってところでご納得いただける?」


 シュティーナから感じられる魔神族特有の圧迫感は依然と変わらない。

 しかし、彼女の言う通りマティアス然りステルシャトー然り、

 闘争を求める言葉を口にしていたのも事実だ。


 完全に信じ切るには相手が悪すぎるし、

 俺一人しか聞いていない情報を盲目に信じる事も出来ない。


「あ、そういえば私が現れた目的だけど、

 ステルシャトーの回収よ。

 こちらはこちらでやる事もあるし人手が必要だったってわけ」


 ならさっさと消えて頂きたい。

 でも、闘争を求めている割には落ち着き払っているシュティーナを前に、

 他にも情報を探れないかと口を続けて開く。


「お前達の目的はなんだ!?」

「貴方たちが私たちの存在に初めて気が付いた時、

 どんな言葉で表現していたのかしら?」


 俺達側が?

 キュクロプス戦で初めて魔神族の一端に触れたはずだ。

 その時にどんな表現をしていたか?


「お兄さん、予言です。

 クレアの予言に出てきた表現は破滅」

「正解よお嬢さん、[破滅]。私たちを統べるものの正体。

 貴方たちがこの世界を守りたいのであれば討ち取らなければならない存在。

 私たち魔神族はその手足でしかないわ」


 ゲーム風に言えば四天王が魔神族で、

 その上にラスボスの[破滅]がいるってことだ。

 ってか破滅って存在がいるのかよっ!なんだよそれっ!


「ここまで情報を与えれば自分たちの世界を守る為にもっと力を付けてくれるかしら?」

「その役目は勇者が背負うもので、

 俺達は偶々出会ったから戦ったに過ぎない」

「あ、そう。まぁどうせ戦わざるを得ないでしょうし気長に・・・、

 気長には待てないかもね。

 せめて私たち魔神族を相手に戦える戦力を早めに揃えて全力で抗って頂戴と伝えておいて。

 私としてはイクダニムに期待してるわよ♪」

「・・・・」


 敵に期待され無くともこちらもこちらで精一杯全力で力を付けてきているつもりだ。

 それでも足りないのだから、

 これ以上となるとどうしても時間が圧倒的に足りない。


 俺の眉間に皺が寄り、

 自然と鋭くなった眼光で睨み付けるとシュティーナは肩を透かし、

 暴れるステルシャトーの喉元を再びトンと指で叩くと彼女の声が戻ってくる。


「あ、あああ~!やっと、喋れるのだわ!

 シュティーナ貴女ね・・・」

「あまりのんびりして居られないんだから、

 何か捨て台詞があれば言っておきなさいよ」

「◎$♪△¥※?&♯っ!!」


 傍目から見れば年上のお姉さんに(もてあそ)ばれる少女なのに、

 二人から感じ取れる不快感のお陰で気を緩めることもなく静観する事が出来る。

 その状況との矛盾で吐き気もしてきたところで、

 言葉にならない苛立ちをバタバタと身体を動かし唸り声をあげて表現したステルシャトーがこちらを指差し息を大きく吸った。


「チビと一体化した蒼いのっ!なかなか面白かったのだわ!

 それでも後衛の私を相手に4対1で押し負けていては、

 破滅に手を届かすことも土台無理なのだわ!

 次に会うときにはそっちの女も戦えるようになっておきなさいっ!」

「じゃあ、近いうちにマグニと相まみえるでしょうけど、

 頑張って乗り越えてみなさい。アデュ~♪」


 ステルシャトーは好き勝手な事を言って満足そうな顔で後ろを向き、

 シュティーナはフォレストトーレ浄化作戦についてエールを残してこちらも後ろを振り向くと、

 先ほどまでは手にしていなかった銀の大鎌が突如その細い手に握られていた。


 その大鎌を片手でくるりと一回転させると、

 二人の魔神族の姿は龍の巣から忽然と消え、

 圧迫していた空気も一変してただただ吹雪が起こす冷たい空気へと様変わりする。


召喚(サモン):クーデルカっ!」

『クーデルカ参上致しました』

「周囲の空間の探査を開始!しばらく様子を見る」

『かしこまりました』


 呼び出すはクーデルカ。

 亜空間に隠れるだけなら小さな違和感を掴めると思い、

 クーデルカに周囲の空間異常を探させる。

 あの軽いアデュ~を真に受けて警戒を怠るという選択肢を取れるほど魔神族との力量差は縮まっていないのだ。


 それから同時進行で[コール]をゼノウPTとセーバーPTに連絡を入れ、

 最後のステルシャトーの砲撃での被害状況の確認。

 ついでに魔石の回収も依頼して俺達は15分の間、

 最後に魔神族が消えていった戦場に残ったまま警戒態勢を保っていた。

いつもお読みいただきありがとうございます

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