†第10章† -16話-[アホ組VS鎧魚《エノハ》-空の決着-]
地面に降り立つと近くまで来ていた自分たちの支援班と思われる、
ゼノウPT弓使いトワインさんと魔法使いフランザさん。
それにセーバーPTの弓使いでもあるモエアさんが駆け寄ってくる。
「お疲れ様です、マリエル」
「フランザさん達もお疲れ様です。
メリーさんが私たちの支援だと言っていましたけど、本当ですか?」
「まぁ、ウソではないけれどね・・・。
実際どこまで力になれるかはわからないわよ」
「ブイ!」
『モエアさんは歳を考えてくださいましー』
「失礼な事を言うのはこの口かな?」
『ぶぶぶ!ひゃめぶのでぶー!』
三十路を越えた女性への扱いを間違えたニルが、
口の端を摘ままれて弄られているのを横目に残る二人に声を掛けるマリエル。
「敵の情報は?」
「全く」
「私たちの相手は鎧魚。
鱗が鎧のようになった巨大なお魚ですけど、
実際はガードと見せかけてスピードタイプですね。
今のところダメージに繋がる攻撃は出来ていません」
「マリエル達の攻撃でもダメなら、
ちょっと勝てるビジョンが見えてこないわね」
腕を組み顎に手を置いて上空に浮かぶ睨むトワインとは裏腹に、
フランザは砲撃を受けた着後で煙に巻かれて姿は見えずとも、
ずぐに動き出さない鎧魚を別視点で見つめていた。
「マリエル、先ほどの砲撃は?」
『ぶぇっ!あれはソウハチとノイ姉さまですわー!』
「あ、逃げた!」
マリエルへの質問ではあったが、
モエアの魔の手から抜けたニルが我先にと勝手に答える。
そのまま追いかけっこを始める二人から視線を外したフランザとトワインは、
マリエルと話の続きを進める。
「ちょっと巻き込まれそうになっちゃいましたけど、
メリーさんとクーちゃんに助けられました。
あれでかなりダメージを受けてくれていればいいんですけど・・・」
「動き回る姿は遠くから見ていたけど、
どちらにしろダメージに繋がる可能性はマリエルにしかないわ。
私たちに出来るのは精々注意や集中を削ぐ程度よ」
「私やモエアさんの矢で動きを阻害して、
二打目にフランザの魔法を当ててターゲットを分散しようと考えているわ」
「・・・難しい・・・かなぁ?」
フランザに続いてトワインの説明を聞いたマリエルだが、
正直なところあのスピードで移動を続ける鎧魚に当たるかとか、
動きが止まったところでその時間は戦闘を始めてから必殺技の時にしか見かけていない。
しかし、マリエルの実直な言葉を予想出来ていた三人は諦めずに語りかけた。
「難しいのがわかったうえで支援に来ているのよ。
所詮は机上の空論だし、役に立てそうになかったらすぐに退くわ。
邪魔になるだけだし」
「それなら手伝ってはもらいたいですね。
ここからは妖精の力も解放して試したいと思っていたところなので」
「なら決まりね。
効果があるか無いか分からない程度の支援になるから、
少しマリエル達も様子を見て頂戴ね」
「了解です。じゃあ・・・」
一人よりは心強いし、
戦略の幅だって手札の使いようによっては広がる事を知っているマリエルは、
別段力になれない可能性を示されても気にはせず、
三人に揺蕩う唄の申請を送る。
「モエアさん!そろそろ行動に移りますよっ!許可しましたかっ!?」
「大丈夫だよ。仕事はちゃんとするからねぇ~」
『無駄な疲れ方をしましたわー・・・』
「アハハ・・・お疲れ~」
どっちが年上かわからないトワインがモエアを引っ張ったことで解放されたニルは、
フワフワと逃げてきてマリエルの頭の上にベチャッと寝そべり愚痴を言い、
マリエルはその様子に苦笑いを浮かべた。
戦闘以外で疲れるとは・・・、
隊長がここに居たら年上でも注意するんだろうなぁ・・・。
「マリエル、煙が晴れそう。行って頂戴」
「はい。フランザさん達もよろしくお願いしますね」
「こちらこそ突然の共闘だけどよろしくね」
「強弓は任せなさいっ!」
『飛びますわよー!』
先ほどとは違い、
遠目では無くより近距離からマリエル達の戦闘を見て、
改めて支援の調整をする必要がある三人は、
空へと昇る二人を視界に捕らえながらそれぞれが武器を取り出し始めた。
* * * * *
「まだ戦えると思う?」
『確かにソウハチ達の高濃度魔力砲は威力が高いですけれど、
扱いに慣れていない分ダメージも分散してしまいますわー!』
白煙の膜は直撃からしばらく残り続けていたものの、
現在はかなり薄くなっておりフランザの言う通りすぐにでも晴れて完全に鎧魚の姿が見えるのも時間の問題だった。
敵がどんな状態なのか、
どれほどのダメージを受けている様子なのか。
そういう情報がなくては次の足が出しづらいので、
もしもを考えると急いで同じ空域に到着して構える必要を感じて二人はスピードを上げて空を昇っていく。
見え隠れする姿は、
鋼の鱗が一部剥がれたりしておりダメージは確かに通っているように見える。
それでも墜落をしていない時点でまだ戦うことは出来るのだから、
楽観視せずに対応に気を引き締めなければと考えながら、
同じ高さまで昇りきった。
〔敵の動き出しまで、3・・・〕
「え?」
『構えまで取れていませんわよー!?』
〔2・・・〕
〔二人は構えを取って次の動きに備えて。
モエアさんの次段でトワインが撃ち込むから一瞬様子は見られるから〕
〔1・・・〕
耳の揺蕩う唄から突如聞こえ始めた敵情報に戸惑う暇もないくらいに、
一気に雪崩れ込んでくる話に戸惑いを見せたマリエルとニルであったが、
モエアのカウントダウンの後に続いて聞こえ始めたフランザの言葉に、
段取りを理解し意識を切り替えて構えを落ち着いて取った瞬間。
煙の向こうで動き始めた鎧魚が、
白煙から顔を覗かせた途端に下方から勢いよく飛来した矢が土手っ腹に一発ドスッ!と止められ、
続けて飛来した氷の矢が下方のヒレ部分にHITして直ぐさま凍り付かせ動きを阻害した。
〔行って!〕
『加速しますわー!《ソニック!》』
「骨ボキボキにしてやるっ!《極地嵐脚!》」
完璧なタイミングで鎧魚の出足を潰した攻撃に続き、
ニルは加速魔法で支援しマリエルも前に飛び出して、
初速の勢いが殺されて前屈みとなった鎧魚の顎先へ重たい一撃をお見舞いする。
跳ね上がる顔面は硬い身体も合わせて上向きに仰け反り、
それはマリエル達が思っていた以上にしっかりと威力を乗せる事が出来た証拠だ。
「ニルちゃん・・・」
『思った以上にダメージが残ったみたいですわねー』
動きが鈍い。
先のモエアの一撃は紛う事なき強力な弓技のひとつ、強弓だった。
それでも今の今まで戦って来た鎧魚であればあの一撃も避けていたと思うし、
自分たちの攻撃もここまで威力が乗る事はなかった。
〔あまり高く持って行かないでねっ!
こっちの支援が届かなくなるからっ!〕
「あ、了解です」
『今は大体300mを少し超えたくらいですわー。
戦闘初めのように高くまで昇れないですから気をつけませんとー!』
なんだかんだで戦闘空域は徐々に下がってきており、
実のところ高濃度魔力砲がHITした後も少し落下していた。
高度は支援魔法があっても弓を届かせるにはちと厳しい高さなので、
ニルの言う通りこれ以上昇ることは出来なさそうだ。
ドスッ!ドスドスッ!
トワインのメッセージに気を引き締めたところで、
さらに下方から3本の強弓が的確に鎧魚の下部を貫いていく。
「モエアさんすごいですね」
〔弓使いの資質が上がるとスキルが身につくんだけどね。
私はそのうちでも遠距離に有効な[鷹の目]と[強弓]も持ってるわ〕
〔スキルはLev.50を超える頃に取得出来るわよ。
取得してからギルドで説明が入るタイプね〕
「へぇ~」
モエアさんがもたらす[スキル]という戦術に、
トワインさんが連なる情報を教えてくれた。
現時点で自分たちのLev.は姫様の48が最大値。
あと2つで50になるけれど、
確か隊長や姫様曰く精霊使いはジョブ的に新しく、
自分たちがフロントライナーなので不明点は多いとの事。
『精霊使いはどんなスキルが手に入るのか気になりますわ-!』
〔モエアさんは純粋な弓使いだけど、
トワインは精霊使いにもなったから・・・・〕
〔私もフランザも未知数ね。
出来ればモエアさんの持つ両スキルは欲しいところ〕
〔純粋か複合かで違ったはずよ~。
優先度とかあったと思うけど覚えてないわね~〕
もしかしたらこの島で姫様と隊長がスキルを手にするかも知れないし、
記憶の片隅にでも留めておいた方がいい話な気がする。
優先度ねぇ~・・・例えば元は剣士や魔法使いだから、
資質的に精霊使いよりそのジョブが上ならそちらが手に入る的な感じ?
『マリエル考えてばかりも居られませんわよー!』
「はいはい、わかってる。ちゃんと攻撃出来てるでしょっ!せぇい!」
攻撃の手が増え弱り隙も多くなった鎧魚相手では、
如何に経験不足のマリエル&ニルのペアといえども雑談混じりに攻撃を続けることが出来ていた。
初撃から戦闘は依然として継続しており、
動きは鈍くなったもののぶつかり合いの威力は未だに驚異的である鎧魚の突撃をしっかりと処理して何度も何度もぶつかり合う合間に支援の攻撃が入っていた。
〔ダメね・・・。強弓でも徐々に順応され始めたわ〕
〔フランザは魔法だからいいけれど、
モエアさんと私は鱗に当たるように調整されるようになってきちゃったわね〕
「こっちも微調整をしてきてはいますけど、
やっぱり遠距離と近距離で対処の早さが違いますね。
どうしますか?」
〔中途半端な支援は返って邪魔になるからね~。
しばらくはフランザのみにして私たちは少し様子見しましょうか〕
〔〔わかりました〕〕
『ガンガン攻めて行きますわよー!!』
「ん?」
支援が入り始めてしばらくは優勢に攻撃を続けていたのだが、
徐々にではあったがすでに目に見えるレベルで防御を取れ始めていた。
それに・・・
「ニルちゃんの口調がノッて来たって事は・・・」
ドゴォオオオオオオォォォォァァァァンンンッ!!
嫌な予感は的中するもので、
巣の側面の岩壁に大きな亀裂が走り、
その大きく開いた隙間から強烈な勢いで大量の水が吹き出した。
これ絶対隊長だよっ!
〔なにっ!?水の・・・翼?〕
「そんな素敵なものじゃないですよっ!
あんな超威力の一閃なんて隊長には出来ないはずですから、
何かでブーストしてるんだと思いますけど・・・」
『長く持つものじゃあないですわねー!』
〔ってことは決着を着けようとしているって事ね〕
こっちも甘えてばかりもいられない。
ニルちゃんのテンションが変な上がり方をしているということは、
隊長の戦意が上昇しているってこと。はい、Q.E.D。
つまり勢いだけで見れば今が一番攻撃力が高いってことになる。
「支援を受け始めてばかりで申し訳ありませんが、
こちらも役割を全うする為に決着を着けたいと思います」
『ぶっ殺しますわー!』
〔あの・・・ニルちゃんが物騒なんだけれど・・・〕
「いつもの事なので大丈夫です。
支援出来ればして頂いて問題ありませんが、
全力攻撃だと周辺への影響が出るので少し離れた方が良いです」
〔じゃあ、支援は難しいわね~〕
〔そうですね。モエアさんの言う通り今の位置がギリギリですから、
最後に残りの魔力を込めて撃ち抜いてみるわね〕
「はい!よろしくお願いします!」
支援組との最後の会話を終えたマリエルとニルは、
全身に力を漲らせて今まさに強弓を避けて突進をしてきた鎧魚に正面から激突して、
それにより発生した爆風が魔力を伴い視覚化されて空を彩った。
* * * * *
体力だけで無く威力の落ちた突進を繰り返す鎧魚を器用に足だけで捌き、
捌いた先から横殴りの強烈な蹴りでダメージを重ねていくマリエルとニルは、
この後の展開を考えながら戦闘を繰り返していた。
〔最後はどう決着するの?〕
「私たちの持つ技で一番威力が出るのは上から蹴り落とす[スイシーダ]。
つまりどうしたって高高度戦闘になってしまいますので、
ここから徐々に上昇して隙を突いて上を取る必要があります」
〔それってどこまで昇がるの?〕
『400mあれば一番威力が乗りますわー!』
〔残り100mってところね・・・、
そこなら精霊の力を借りて強弓を撃てば届くわよ~〕
〔モエアさんの強弓凄いですね・・・〕
トワインさんの言う通り確かに凄いけど問題点がいくつもある。
まず、届くからといってきちんと当たるのかってこと。
今までのダメージは一瞬の足留め程度しかなかったこと。
一瞬に続く魔法弓と魔法による追撃無くしては、
こちらの攻撃チャンスはないに等しい。
「実力不足が恨めしい・・・」
『ニル達だけでやるならもうひと段階加階しないといけませんわー!』
という事は、
隊長から聞いた単純な計算で言えば約60~90日先でないと鎧魚を単騎撃破出来ない。
戦闘を開始してからずっとだ。
ダメージは与えられるのに倒せるというイメージが湧かない。
胸に燻る不安は一合目からあったのだ。
「ニルちゃん。
全力で打ち込めたとして・・ふっ!
倒しきれると思う?んあっ!」
『三割と言ったところですわねー!
圧倒的に実力不足で決定打に欠けますわー!』
「トドメでは無く行動不能であれば?」
『ソウハチの砲撃で弱っている今なら・・・、
ですけれど自己ブースト魔法でも使われれば一発で逆転しますわー』「雷纏や武器加階みたいな手があればもう使ってるんじゃ無い?」
『それもソウハチの砲撃で身体が耐えられないとかかもしれませんわー。
どちらにしろ、ニル達の役目は倒す事ではなく・・・』
「足留め・・・か。
隊長達が上手く事を進めてくれればいいけど・・・」
危ない危ない、
ニルちゃんの戦意がシンクロで自分にも影響を与えていたらしい。
いつの間にやらこっちが引っ張られて目的が変わってしまっていた。しかも逆にニルちゃんが冷静な受け答えになってるし・・・。
「シンクロの怖いところですねぇ」
『何を言ってるんですのー?
どっちにしろやれる事に変わりは無いのですわー!』
「確かにね」
〔作戦会議は終わったかしら?
こっちも成功するかわからないけれど、一応準備が整ったわ〕
やるべき事を二人での会話にて改めたところでコールからフランザの声が聞こえてきて、
意識を完全に現実に引き戻される。
声に従いちらりと地表を見やると、
モエアがトワインと異様に引っ付いている様子が目に入ってきた。
「どういう状況で?」
〔私の魔法弓は足留めには必要だけど届かない。
モエアさんの強弓は届くけど足留めとしては弱い。
フランザもその距離は届かない。
だから私の魔法弓の制御を精霊達に任せて撃つのはモエアさんに任せることにしたわ〕
『確かに同属性の精霊であれば力を重ねられると、
アクア姉さまとスィーネが実証したと聞きましたわー!』
〔ただし、連射は出来ない一射限りよ~〕
そりゃそうか。
無精達も加階をしていない三人。
ってことは、単純に一回加階した精霊と同程度の力しかないから・・・。
『専用核を持ち、且つ、
訓練をしっかりと熟していないと一回しか持たないのも頷けますわねー』
〔そういうことね。
私たちはマリエル達みたく長い時間を掛ける事が出来ていないから、
本当に最後のチャンスを作る事しか出来ない〕
フランザの言葉に自然と喉が鳴る。
トドメがさせないのならこれを逃せば戦闘が無駄に継続する事となる。
そうなれば今使わせて貰っている龍達の魔力も底を着くのが早くなる。
出来ればその魔力の多くは隊長と姫様の方で使った方が良いはず。
「そういえばさっきの中央からの攻撃ってさ、おりゃっ!
どういうものかわかる?」
『一閃であるのは間違いありませんわー!
でも、濃度が違いましたからアクア姉さまと上手く何をしたのか、
それとも別物で創り出したか・・・。
わかるのは、一閃は武器の魔力を使う技という事ですわー!』
あの魔力量なら枯渇するくらい使い切れば出来るかな?
いや、さっきからちょくちょくあの凄い一閃を撃ってるしそれは無いか。
とにかく、何故か今は龍の魔力に頼ってない。
「なら、浮いた分一気に使っちゃってもいいかな?」
『良いと思いますわー!』
〔こっちはいつでも行けるわよ~〕
「じゃあ、始めますよ!皆さん!」
* * * * *
「《風竜一閃!》」
念のため次戦を想定して試しておこうと思い、
魔力の高まった現状最大で放つ一閃は、
例え弱っていようとも当然ながらするりと避けられてしまう。
『《フォノンメーザー!》』
続けて間髪入れず射速の早いフォノンメーザーをニルが放ち、
こちらは曲げたりも出来るので避けづらいようにギザギザと操作する。
それでも回避は試みる鎧魚が一度は避けて見せるも、
次に二度の素早いカーブで側面にHITしダメージには繋がったが、
制御力をそれ以上割く事が出来ずHITを続ける事が出来なかった。
「もしかして一閃って弱い?」
『対象が悪いのですわ-!
風の一閃はどちらかと言えば多くを相手にするときに有効ですのー!
鎧魚相手なら雷竜一閃を使えないとですわねー』
「鋭意努力中でまだ使えないね~」
『やっぱり今回は初めから手段を選べなかったということですわねー!
行きますわよ-!マリエルッ!』
「あいさ~!」
『《ソニックブーストッ!》』
互いが牽制する形で少しの膠着を見せていた戦況。
それをニルの制御で一気に最高速度まで持って行き接近を試みる。
一瞬遅れて鎧魚の方も動き始めるが、
あちらは急加速の技を例の突進しか持ち合わせていないのか、
こちらの速度とは数段落ちる・・・。
「クソ加速乙!」
『《極地嵐脚!》』
視界を塞ぐ事を目的とした一発目で強烈に顔面を蹴り飛ばし上向かせ、
直ぐさま下向きにエアキックターンで魔力力場を蹴り上げて鎧魚の下方へと位置取り、
くるりと一回転して今度は上向きのエアキックターン。
戦場高度を上げる為にもう一発攻撃を加えんとして、
二度目の攻撃を与える。
「《コブラ!》」
『《極地嵐脚!!》』
コブラのように一度身を縮めてから一気に伸びて対象へと仕掛け、
またしても強烈な一撃の下に鎧魚は高度をさらに上げざるを得なかった。
「もういっちょ!」
〔ダメっ!避けられるっ!〕
『修正間に合いませんわー!!』
強襲が成功したマリエル達は追撃を行う為に上昇する鎧魚を追い、
続けざまに蹴りを放つ動きをするが、
三回目の攻撃を行おうとする正にその瞬間、
コールからモエアの忠告が叫ぶように聞こえてきた。
しかし、慌てて修正をしようとしたニルの努力も空しく、
二人の視界に映る鎧魚の頭部周辺に水のリングがいつの間にか出現しており、
当たる少し前に鎧魚が身じろぎする程度の動きを見せた直後に急加速を持ってマリエルの極地嵐脚を綺麗に避けきる。
「何っ!?今の動きっ!?」
〔二人ともすぐに追って!その加速を活かさせてはダメ!〕
『マリエルが煽るからですわー!操作貰いますわよー!』
ニルは知っていた。
釣りの趣味を持つ宗八から魚の鰭についての知識を教わっており、
瞬時に頭の中でその光景を思い起こした。
『(加速を活かすなと言う事は・・・、
尾びれだった様な気がしますわ-!)』
《風竜一閃!》』
「ごめ・・・ぐえっ!」
マリエルの股関節が嫌な音を立ててゴキリと鳴るような無茶な体勢で撃ち放たれる風竜一閃。
風竜一閃の効果は大きな一閃の後追いで小さな鎌鼬が敵を襲う。
それで狙うは尾びれ。
敵もこちらの意図がわかっていなくとも連撃を続けて打たれるのは拙いとわかっての苦肉の回避だ。
方向も特に考えられずめちゃくちゃな動きで避けた所為で、
今回の戦いが始まって以来の背後を取る事に成功したニルの狙いは、
寸分の狂いもなく尾びれを撃ち抜く。
「やたっ!」
〔加速も緩やかになったわ!〕
魚の推進力を産み出す尾びれを風竜一閃が撃ち抜いた事で、
破壊までは出来ずとも加速を活かして速度に乗る流れを完全に断ち切ることが出来た。
ニルの功績ではあるものの、
上手く事が運んだのを捻りの入った苦しい体勢ながら喜ぶマリエルと
、
遠目ながらに加速の止まった様子を見ていたフランザの言葉がコールを通して聞こえた。
〔《併せ強弓!》〕
〔《フリージングアロー!!》〕
背後からの攻撃のHITは予想もしない副産物も産み出し、
後追いの小さな鎌鼬が鱗を数枚剥がし、
高高度の空に鋼鉄の鱗が桜の花びらのようにキラキラと舞う。
加速を止められ十分に矢を撃ち抜くには丁度よい塩梅となった鎧魚。
その姿を地上からいつでも射る準備をして見上げていたモエアとトワインが、
ここが好機と判断して最後の支援攻撃を行う。
弓だけでは足留めに成らないのでトワインの魔法弓をメインに、
無精三人の力でそれをブースト。
届かない飛距離と高度が高すぎて当たらない命中力をモエアが[強弓]と[鷹の目]の両スキルを使用してアシスト。
フランザはシンクロなどの技術も持ち合わせていない為、
支援に協力は出来なかったものの射られた矢をしっかりと見届ける。
「ぐうううおおおぉぉぉぉりゃああああっ!!!」
『ナイス根性ですわマリエル!
重力がキツいけどもう一度頑張って下さいな-!!
《ソニックブーストッ!》』
支援の矢が射られたのをコールで聞いていたマリエル達は、
すぐに崩れた体制を整え高度400mを目指して再加速を行う。
〔HIT!逃げるわよっ!〕
〔後は任せるわ!頑張って!〕
〔すたこらさっさ~♪〕
地上の支援組も予定通りに力を合わせた支援を行うと同時に、
戦闘の余波に巻き込まれない為にも一目散にその場を離れる。
最後の支援に力を使い尽くした無精達が移動魔法を使う余裕がないので、
彼女たちは自力のみで逃げる必要がある為、
もう戦闘に使わない弓や杖をインベントリに放り込んで全速力で逃げ始めた。
シアン色の魔力跡が螺旋を描きながら上空へと伸びる短い飛行機雲が空を彩り、
その先端まで達した瞬間に特大の魔力紋がひとつの輪として広がっていく。
波紋の発信源の中心には当然マリエルとニルの姿が有り、
最高速度で行ったエアキックターン身体のあちらこちらが大きく軋み、
特に足はミシミシという嫌に耳に残る音が体の中を通って響く中、
マリエルは歯を食いしばって、
でも視線は鎧魚に向けて次の動きのイメージを繰り返す。
『マリエルの脚が耐えられる限界まで引き上げますわよー!』
「OK!精霊石も外してるし、ドンと来い!」
波紋を蹴り上げ急降下を始めるマリエル達のシンクロは最高潮に達し、
暴風のように二人の体から吹き出し、
魚体の半分を凍り付けとされて動きを封じられた鎧魚に向かい、
宛ら隕石の様に光の筋となって迫る。
『《極地嵐脚・・・》』
「《スイシーダ!!!!》」
「『おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』」
体に高速回転を加えて勢いを付けながら鎧魚に向けて迫り、
揃った咆哮を轟かせながら急接近して全力全開の一撃を真上から加えた。
ドッ・・・・・・!!!!!
短いのにひどく重い身に響く低音が、
空だけでなく地上にいるフランザ達三人にも聞こえた。
それは一瞬の間だったのだろうが、
次の音が聞こえてくるまでの間がとても長く感じられ、
次の瞬間には地上にも届かんとする暴風が鎧魚の体を貫通して吹き荒れた。
それはゴォォォォォ!とも聞こえるし、
バリバリッ!!とも響く複雑な音で有り、
視覚的にもそれは嵐という自然現象が暴風という形に凝縮されたのだと否が応にも理解させられるものであった。
〔くっ!?雷?マリエル達の今までの攻撃って・・・〕
〔風はあったけど雷まではなかったわね~〕
〔戦闘中に変化を加えたってことでしょう?
シンクロってそんな物だと宗八に聞いた事があるわ〕
嵐の影響は地上に居たフランザ達にも及び、
一旦足を止めて身を屈めて様子を見た方が良いと一瞬で判断し、
晴天の空に突如発生した嵐を視界に据えながら状況の整理に努める。
「ふっ、きっ、飛べええええええぇぇぇぇ~~~~っ!!!!」
ォォォォォォオオオオオオオオオンッ!!!!
初めの重い音の続きが遅れて聞こえ、
鎧魚は地上に向かって無防備に吹き飛ばされた。
元が巨体という事も手伝って勢いは落ちる事無く、
地表に叩きつけられた鎧魚は氷原に小さなクレーターを作り出し、
その後の動きは見せない。
「はぁはぁはぁ・・・脚痛い・・・」
『やり過ぎましたわー・・・少し休みながら様子をみましょー』
〔落ちてきた衝撃の余波も落ち着いたしこっちでも見ておくわ〕
〔アレを受けて動かれても困るけどね〕
〔とりあえずお疲れ様~〕
ジンジンと痛む脚に意識を持っていかれながらも、
自分たちの役割は終わったのだと認識する。
トワイン達の言う通りにアレで動かれるともうどうしようもない。
こちらはこちらで戦闘の継続が難しいレベルで疲労困憊なのだ。
「死んでいるかはともかく、あとは頼みますよ・・・・隊長、姫様」
『自前の魔力は枯渇寸前ですわー・・・』
こうして、青龍の巣で行われたマリエルとニルの戦闘は終わりを告げた。
フラフラとゆっくり地上へと降りていく二人の視線は自然と中心で行われている戦闘の行く末を見守っていた。
いつもお読みいただきありがとうございます




