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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第10章 -青竜の住む島、竜の巣編Ⅰ-
153/430

†第10章† -11話-[動き出した戦場]

いつもお読みいただきありがとうございます

 小手調べの意味も込めて蒼剣(そうけん)と徒手空拳でオベリスク破壊に挑んだけど、

 後方支援のアルシェとアクアがいるなら、

 ノイと共に戦うベストな戦法を取る事にする。


 剣を自身の宝物庫に投げ込むと、

 俺はみんなに声を掛けてから俺たちを弾き飛ばす。


「じゃあ、お先に♪」

『チャオです♪ 《硬化(スチール)》』


 まずは優先度的に後顧の憂いを断つ為にも邪魔なブルー・ドラゴン。

 あいつが広間の中心に堂々と寝転がっていちゃ気になってしょうがないし、

 魔法の使用にも注意を払ったりと色々面倒だ。


 俺の接近に合わせてまず動き出したのは、

 やはり防衛を担当するソードフィッシュの群れだが、

 こいつはうちのアクアがなんとかすると張り切っていたが・・どうだろ?


『《お魚さん、シュート!》』


 後方からの愛らしいアホ声で、

 俺の制動でも振り切られずに付いて来ていた水の魚が、

 水の槍へと姿を変えて俺たちの体から射出され、

 ソードフィッシュを一匹また一匹と刺し貫いていく。

 しかも、使い捨てではなく槍となった魚は再び元の姿となり次の目標を見つけると槍となって屠っていく。


 というか、よくこの高速移動中にこんな細かな制御が出来るもんだ。

 自分の妹と娘ながら化け物かよ・・・。


『珊瑚からの供給が追いついていない今のうちに壊してしまうか、

 ブルー・ドラゴンを除けますです? 《硬化(スチール)》』

「珊瑚なら魔法でも殴りでもいけるけど、

 ブルー・ドラゴンは殴りじゃないとただのダメージにしかならんからな」

『じゃあ先にあっちですね。 《硬化(スチール)》』

「エノハ!」


 アクアの魔法で護衛されながらノイの硬化(スチール)を重ね合わせる。

 重ねすぎると体全体が固くなって動きが鈍くなっちゃうんだけどな。


 ノイと優先順位を離しつつ接近を続ける中で、

 ステルシャトーが魔法ではない別の響きのあるワードを口にすると、

 その言葉に反応した鎧魚がゆらりとこちらに狙いを定めるように回頭してくる。

 あの魚の名前が[エノハ]っていうのか・・・、

 とりあえず高速移動中にあの移動力のあるエノハに突撃されちゃたまったものじゃない。

 慌てて足を止めてライディングの姿勢に移行し、

 迎え撃つ心積もりで地面を滑り始めた直後に鎧魚(エノハ)の突撃が始まる。


聖壁の欠片(モノリス)!』


 ガガガッ!!!

 頭から受け止める形で四枚の小盾で作った谷間でうまく受け止める事に成功したが、

 それでも凄まじい勢いに押されて数m後ろに戻されてしまった。


「流石の速度と威力だな」

『でも、これで捕まえましたです!』

「じゃあ、貰っていきますよ!隊長!」

「全力で行ってこい!」


 俺に続いて駆け始めていたマリエルとニル。

 2人が横を通り過ぎ様に声を掛けてきたので、

 先の経験から生半可な攻撃は聞かないことを伝えると同時に鎧魚(エノハ)の下に潜り込んでいく。


『打ち上げますわー!』

「《嵐脚(ストームインパクト)!》」


 地面に両手を着き体全体で引き絞ってから両足で真上へと蹴り上げる嵐脚(ストームインパクト)により、

 鎧魚(エノハ)はその巨体を軋ませつつも、

 頑強な表皮が曲がる曲がる事を許さずそのままの姿で上空へと昇がっていく。


『追撃しますわー!まだまだ上まで運びませんとー!』

「《コブラ》!」


 本来の用途は敵の追撃を避けて背後もしくは下からの攻撃をするまでが一連の流れとなる[コブラ]。

 上昇に重きを置いた嵐脚(ストームインパクト)の派生魔法を発動させた2人は、

 翠雷(すいらい)の波紋が起こる足場を蹴り上げて鎧魚(エノハ)の後を追って行き、

 再度の嵐脚(ストームインパクト)をぶち当ててさらに高くまで消えていった。


「残る護衛は1匹」

『姿は見えないです。すでに潜ってしまいましたですね』


 あれの動作は本当に分からないが、

 潜伏と出現の瞬間のわずかな空間の揺らぎに反応してすぐに回避行動を取らなければひと飲みにされてしまう。

 オベリスクの効果で龍が弱っていたとは言え、

 片腕をもぎ取っていく攻撃力には侮る事が出来ない。


「《海月、海月、海月。得難き強者はまだ強い。されど我は殺したい。

 存在認めぬ彼の者の全てを奪い、我が足下へ連れて参れ!》」


「《フリーゲギフト!》」


 身構える俺の前で再び次の魔法の詠唱を始めるステルシャトー。

 魔法名からは後半のギフト・・・プレゼントとかの意味だった気がする。

 そして詠唱の海月(くらげ)と来て、全てを奪い連れて参れならば!


「触手に触れたら毒で動けなくなるぞっ!気をつけろ!」


 鮫の時と同じように光の波紋が彼女の前に広がり、

 そこからゆっくりと姿を現したのは予想通りの海月(くらげ)であったが、

 波紋から上部のゼリー体が出てきたものの触手は波紋に伸びたままだった。


『お兄さん!全域に波紋発生!』

「なにっ!?」


 大広間を丁度時計に見立てたかのように、

 壁際に12の波紋が広がっているのをアルシェからの声で初めて気がついた。

 くそっ!近づく前に大型魔法の発動が早すぎて対処に追われ続けちまうじゃねえか!

 急いでアルシェ達の集まる後方へと(きびす)を反した俺にノイからの質問が飛ぶ。


『その海月(くらげ)の触手とやらの弱点はないのですっ!?』

「弱点!?そんなもん1本1本が細いってくらいだろ!

 でも、だからこそ気づいたときには触れて毒に犯されているんだ!」

『細いなら強度は高く無さそうです・・・』

「なら、物は試しで蓋をしてみましょう・・・アクアちゃん!」

『あいさー!』


「『《アイシクルキューブっ!》』」


 流石の2人でも全域の波紋を対象には出来ず、

 近場の5つの波紋の上に普段は防御や足場として使っているキューブが精製される。


「これでっ!」


 ひとまずの危機は脱せたと気の緩んだ矢先に、

 メリーとクーが飛び上がりながら大声で注意を発する。


「アルシェ様っ!」『お父さまっ!』

「『足下ですっ!《影縫(かげぬい)!》』」


 名前を呼ばれた瞬間には俺達もアルシェ達もその場を飛び退き、

 ポシェントも遅れずに着いてきた瞬間に、

 影縫(かげぬい)で飛びかかりを遅延させられた潜口魚が出現する。


「ちっ!あの黒いのの察しが良いみたいだわ。

 せっかく誘導まで掛けたのに・・・まぁ囮の役割で終わる海月(くらげ)ではないのだわ」

『《魔力吸収(ガイストアプション)!》』

『《守護者の腕(マイストガーディアム)!》』


 不敵な笑みを浮かべながら口を動かしているステルシャトーを他所に、

 クーは次の戦闘の為にと潜口魚の少ない隙を逃さず、

 その中空に浮かぶ広い腹へと閻手(えんじゅ)掌底(しょうてい)を食らわせて魔法陣をセットした。


「ご主人様!外へお願いしますっ!」


 メリーの掛け声に俺は魔力縮地(まりょくしゅくち)を行い、

 勢いそのままに遠くへ遠くへ吹き飛んでくれるように全力の掌底(しょうてい)を叩き込む。


「『《守護者の波動(ガーディアムブラスト)!》』」


 魔法によって精製された巨大な腕を引き絞り高速でぶつかる。

 腹への掌底(しょうてい)は衝突音らしい音はなかった。


 しかし、波動が主役のこの攻撃は打ち込まれた潜口魚の向こうから、

 衝撃が槍のように抜けていき、

 一枚目の壁を突き抜けると中心に向かうヒビが広範囲に広がり、

 その壁へ掌底(しょうてい)の当たった潜口魚自身が吹き飛ばされて壁を破壊して通路の向こうへと消えていった。


『まだ遠ざけた方が良いか?』

「マーカーはクーが残したけれど、

 出来る限りはこっちに集中したいから離れておいて欲しい」

『了解した。検討を祈る』

「お互いにな」


 メリーとクーは敵の動きの掌握と妨害を行う為にすでに瓦礫向こうへと消え、

 ポシェントが最後の確認だけをして後を追っていく。

 その背中を見送ることはせず、

 俺達はアルシェ達と共に眼前に広がる触手と珊瑚と少女へと足を向けた。



 * * * * *

 守護者の腕(マイストガーディアム)は大型相手には使えるけれど

 、

 人サイズの魔神族を相手にするならば逆に取り回しづらい為、

 直ぐさま解除(パージ)して魔力へと回帰させた。


「さて、残るはお前だけだ」

「これで退いてはもらえませんか?」

「手足が無くなったら退くって通りがあるのかしら?

 どちらかといえば数の少なくなった貴方たちが退いた方がいいのだわ」


 周囲の状況をアピールするような手振りをしながら答える魔神族。

 まぁ実際は4人いるけどあいつからは二人と一匹に見えるだろうし、

 元から9人居たのに5人が減ったのは事実だ。

 ただし、残ったのは長くタッグを組んでいる俺とアルシェだからか不思議と負ける気はしない。


「周囲のでイキっているのなら、掃除をしてから交渉しようか・・・」

『《ジュエルサークル!》』


 イメージは気円斬と水切り。

 上げた掌に皿のような水晶が精製され、

 それをサイドスローで壁際に投げる。


 真っ直ぐにブーメランのように飛ばす事自体は簡単だ。

 でも俺たちが選んだ飛び方は水切りのように地面を飛び跳ねながら対象を切り刻んでいく魔法。

 変則的な動きで防御も回避もし辛いこの魔法が広間の外周を飛び跳ね進み、

 波紋から出現していた海月(くらげ)の触手を次から次へと切り裂いていき、

 最後の触手を斬った時点で魔法は姿を消した。


 遠目から見てもかなりの長さを持っていた触手だが、

 こうして対処してしまえば安全に掃除が出来る。


「ふんっ!」

「お兄さんっ!」

「防御に集中!情報収集を優先する!」


 触手が全て切り裂かれると海月(くらげ)は映像のように姿を点滅させながら消えていく。

 これにより何かリアクションがあることを期待したのだが、

 ステルシャトーはこちらの期待には応えてくれないどころか、

 豪奢なメイスを地面に叩きつけると、

 無詠唱で地面から氷柱を発生させる。

 というか、こいつの攻撃は全てにおいて規模がデカ過ぎるぞっ!


 それらが俺たち目掛けて地面から生え走る光景を見たアルシェが殺気立つが、

 とりあえずまだ対話らしい対話は出来ていない為、

 こちらからの大型魔法や攻撃は控えておきたかった。


「《アイシクルキューブ!》」

『《アイシクルウォール!》』


 アルシェとアクアが防御魔法を詠唱するのに、

 守護役のノイが聖壁の欠片(モノリス)(けしか)けなかったのは、

 氷柱の特性上攻撃がHITする面がそれぞれ小さい事から二人に任せたからだった。


 俺たちの目の前に出現する壁は二枚。

 それらが重なり合うように精製されて一つの分厚い氷の障害物となる。氷壁と氷柱群の衝突は激しく、

 白い冷気が視界を遮るほどに発生してステルシャトーの姿を見失い掛ける。

 しかし、状況はそれだけでは許されなかった。


「ダメです!抜かれますっ!」


 透明度の高い氷を精製して防御に使っていたことが幸いし、

 向こうを凍り越しにみるとウォールを貫きキューブの半ばまで氷柱が貫通して止まっているように見えた。

 だが、魔法を行使しているアルシェが止まっていない事をすぐに申告する。


 ガシャアァァァアアアンッ!

 と盛大に氷の防御壁を貫き砕き再始動を始めた走る氷柱群を回避する為、

 俺達とアルシェ達はそれぞれ左右に走り始める。


「とんだ甘ちゃんなのだわ!

 分かれたところどちらも狙えば問題はないのだわ!」


 ステルシャトーは俺達が逃げ惑う姿がよほど面白いのか、

 テンション高めに声高く俺達を馬鹿にしている。

 そのうえメイスを横降りにすると、

 氷柱群が二手に分かれて俺達を追い始めた。


「氷のハリネズミみたいな魔法だな」

『そもそもあの武器を振るだけで発動していた事から、

 魔法剣に近い武器ってことです?』

「それは俺も感じたが、

 単純に殺意が高すぎるだろっ!」


 氷柱群は尾を引きながらも大きさ2mくらいを維持して、

 後方の氷柱群は通り過ぎるとすぐに地面に引っ込んでいる。

 見た目ずっと生え替わりながら地面を走る氷柱群の動きは本当に生き物のようだ。

 走りながらもアルシェに視線を向けると、

 あちらはすでに[アイシクルライド]に切り替えて氷柱群の速さに追いつかれない程度に様子見に入っている。


 流石にアルシェの足だと鍛えてはいても長続きはしないからな。

 対応にしても冷静だ。

 だが、このまま追い込まれると敵さんの魚群(ナブラ)の防衛範囲に入って回避を妨害されるか・・・。


「(アクア、この魔法の核はどこだ?)」

『(先頭の膨らんでいる辺りだよぉ~!)』


 膨らんでいるところは・・・ハリネズミの中心部分だな!

 こいつは突破力があるから防御よりも魔法の核を壊すことで対処する。

 と脳内のメモ帳に書き留めると、

 バク宙を大きく行い氷柱群の真上を取る。

 しかし、ハリネズミはその場で動きを止めると氷柱をそのまま俺に向かって伸ばしてくる。

 誘導性凄すぎないかっ!?殺意高いんだってば!!


『《《硬化(スチール)》』

「《ジオ・インパクト!》」


 真下から刺し貫こうと伸びてくる氷柱群と、

 俺達の拳を中心に眼には見えない重力が発生し身体ごと振り落とされ衝突する。


 氷柱の先端部分は俺達の拳に触れることなく重力場に侵入した矢先から砕け潰れていくが、

 核に近づくに連れて氷柱は太くなるので、

 こちらの攻撃もすぐに砕くに到る事が出来なくなってしまう。


「強者と戦うと課題が見えてくるなぁ、ノイ」

『面倒ですけど仕方有りませんです! 《守護者の腕(マイストガーディアム)!》』


 ノイに語りかけながらこれ以上は無理と判断し、

 腕の勢いで再び中空へと逃げると、

 氷柱群は砕けた部分を交代させて無事な氷柱で再度の攻撃を伸ばしてくる。

 それに対抗するはノイの[守護者の腕(マイストガーディアム)]。

 ステルシャトー自身と戦うなら取り回し辛いと考えて解除(パージ)して消していたが、

 こうも通常の攻撃力不足が露呈すると、

 必然的に巨腕を精製するこの魔法に頼らざるを得ない。


「《メテオインパクト!》」


 広くなった重力場と巨大な拳から繰り出される一撃は隕石になる!

 魔力縮地(まりょくしゅくち)をエアキックターンのように使用して、

 勢いづけた重力を帯びた巨腕は、

 一瞬で隕石が落ちる時のように赤く熱され寒暖差による陽炎を見せる

 。


 先ほどと同じように拳に触れる前に砕けるところまでは同じであった二度目の衝突は、

 地面に俺達が着地した時点で勝負は決して居た。

 熱による融解と重力による分解、

 そして拳の超威力からの破壊を持って、

 俺達を付け狙う氷柱群は完全の消滅した。


「ひとつの魔法にここまでしないと対処出来ないとか、

 こんなの自信無くすぞ、おい!」

『そんなことよりアルシェ達を助けに行かないとですよ!』


 手の内を隠したまま撤退させる目標が次々と崩されていく。

 大型の敵くらいにしか使わないだろうと高を括っていた先の魔法が、

 まさか無詠唱魔法を無効化する為に使わざるを得ないとは流石に考えていなかった。

 思ったほど差が縮まっていない事に苛立つ俺に、

 ノイからの叱責が飛んでくる。


 しかしそれは逆だ。

 俺達の攻撃が面に対してあちらは点の攻撃が得意なのだから・・・。


「《水華蒼突(すいかそうづ)きっ!!》」


 蒼槍で圧縮された高濃度魔力を砲撃ではなく、

 突きに使用してさながらランスのような型を取りながら最後は氷柱群を貫通して壁すら壊す一撃で屠るアルシェ。


『・・・ボクはまだアルシェを理解してないみたいですね』


 こらこら引くんじゃ無い。

 護られるだけの姫様じゃ無いどころか、

 俺達でも手こずる事にもしっかりと対処する事が出来る優秀な妹なんだよ。


 とはいえ、俺の攻撃といいアルシェの攻撃といい、

 魔法剣のような氷柱群の対処だけでも普通の魔法や攻撃では無理だった。

 しかし、メテオインパクトや水華蒼天突(すいかそうてんづ)きのように、

 魔力が高い攻撃・・・高濃度魔力に近い攻撃であるほど効果があるように感じた。


「はぁ・・・命賭けの実験って嫌だなぁ」


 アルシェの視線が一瞬俺達を見たあとすぐに魔神族へと向かう。

 俺の耳には次の詠唱が聞こえているし・・・さて、

 どう戦っていくのが効果的かな・・・。



 * * * * *

「応、ゼノウか。お疲れ」

「セーバーこそ、お疲れ様」


 宗八(そうはち)たちのPTがそれぞれの戦いへと突入した頃。

 島に乗り込んだ地点から綺麗に中心部に近づいた地点まで戻ってきたゼノウPTとセーバーPTは二度目の合流を果たしていた。


「音を立てる物が何も無いから良く響いてきますね」

「この先私たちはどうすればいいのでしょうか?」

「そもそも、魔神族は結局居たのかよ?」

「クランリーダーからは報告がありませんけれど、

 この戦闘音なら居たのではありませんか?」


 魔法使いフランザは耳に意識を置き情報の収集に集中し、

 魔法使いアネスは指示通りの行動が終わった今後の動きを気にし、

 剣士ライナーは宗八(そうはち)達がずっと意識している魔神族の存在を疑い、

 剣士ノルキアがその言葉に返答をした。


「情報の整理をしよう。

 ここまでの流れで俺達の認識は揃えておいた方が良い」

「流石はリーダーから信頼される冷静さだな。

 どうせ中心に向かわない事には状況もわからないんだし、

 とりあえずゼノウの言う通りにしてみるか」


 他PTとの共同戦線などあまり経験できる機会もなかったセーバーは、

 ゼノウの提案に乗る事にした。

 何よりやろうと言い出した彼に迷いが見受けられないことが、

 おそらくこういう状況を想定した行動を宗八(そうはち)か姫さんから聞いていた可能性もあったからだ。


「一度目の合流までは特に報告はありませんよね?」

「いや、俺達は一回姫様に意見を聞いた件があるぞ」

「それならこっちもクランリーダーに助けてもらった話があります」


 弓使いモエアが元気良くあっけらかんとした表情で、

 途中までの報告は互いに無いだろうと言い始めたのだが、

 それを止めたのは意外なことに剣士ライナーであった。

 その流れに乗るように何でも屋ディテウスが自陣営PTにも似たエピソードがある旨を伝える。


「どっちも現状に対してどうこうなる話じゃ無かったな」

「そういえば、そちらのアイス・ドラゴンはどうだった?」

幼龍(ようりゅう)が2~3死んでいたが他は概ね動けない程度に留まっていた。

 途中で宗八(そうはち)達の方からの伝令役も来て、あとはトントン拍子だった」

「いくつかのグループに干渉したが状況はこちらと変わらないか。

 容体を確認するに留めていたので訝しがられたが、

 伝令役のお陰でどことも戦闘にはならなかったのは幸いだった」


 それぞれが宗八(そうはち)の指示通りに各数グループのアイス・ドラゴンと接触し、

 この時点で島にいる全グループのアイス・ドラゴンの調査は終了していた。

 効果エリアに感づいたオベリスクは、

 幸い全て地表で見つかった為破壊を進め、

 島の掃除は完了しているのでこれ以上の被害は抑えられたと思われる。


『介入は難しいと思いますわー、セーバー。

 まず私たちにあのように空を飛び回る魔法はありませんし、

 彼らの連携に入る余地はありませんわー』

「確かに・・・俺達だけで戦うならまだいいが、

 今の戦闘はあいつらがやってるからな。

 逆に足を引っ張りかねないか・・・」

「それに魔法戦になっていた場合・・・」

「そうですね・・・。それこそ邪魔にしかなりません」


 風精リュースライアことリュースィが、

 空を飛んで巨大な魚と戦うマリエルとニルの姿を遠目に眺めながら、

 契約者であるセーバーへ向けて忠告する。

 その意見に同意するセーバーだが、

 追加で意見を挙げる魔法使いフランザにこちらも同意する魔法使いアネス。


 魔法使いである自分達自身がよく知るその歴然とした差。

 そんな魔法が飛び交う戦場に前衛陣が突入したところで、

 それこそ当たらないように気を散らかし全力を出す邪魔にしかならないだろうと二人は考えていた。


「でも、このままする事もなくって言うのも、ね・・・」

「どうしよっかね~。

 私はトワインみたいな魔法弓も使えないただの弓使いだし、

 それこそ手を貸すのって難しいかも」

「い、いいえ!モエアさんは単純に強弓が撃てて射速も速いじゃないですかっ!

 私こそ魔法弓が使えても実用にギリギリ足るようになったレベルですから・・・」

「うふふ、あんがと♪」


 冷静な弓使いのトワインとは違い、

 元気がある張った声の弓使いモエア。

 謙遜し合う二人の視線は中心で行われている3つの戦闘のうち空へと向けられていた。


「あれ、攻撃は通っているように見えるけど、

 トワインはどう見る?」

「マリエルの修行風景は城で見ていましたけど、

 まだ完全に物にしたわけではなさそうでした。

 不安定な瞬間が見えるのでサポート出来ないかと考えています」

「あ~やっぱりそうなんだ・・・。

 じゃあ、セーバー!私とトワインはマリエルちゃんのサポートに入るから!」

「は?」


 前衛後衛でそれぞれが意見交換を気が合う者同士で行う中、

 唐突に次の行動を決めてしまう弓使いモエアに、

 PTリーダーであるセーバーはため息を吐く。


「トワイン、説明をしてくれ」

「えっと・・・、空のマリエルの相手は動きが速くて、

 マリエルも対応出来ているけどまだぎこちないように見えるから、

 魔法よりも射速の速い私たちがサポートしようって・・・話かな?」

「トワインは説明上手だね!」

「お前が下手すぎるだけだ、モエア。

 戦士剣士はあっちの役に立たないのはわかりきっているからいいけど、

 魔法使いの意見を聞きたい」


 ゼノウの指示で直前までモエアと話していた内容を掻い摘まみ、

 流れと結果を伝えるトワイン。

 その説明を横で聞いていたモエアが元気に褒める様子に頭を抱えるセーバー。

 だが、話としては納得が出来る為、

 同じく遠距離で攻撃が可能な魔法使い二人に意見を仰ぐ。


「私は無理ですね、届きません」

「私は・・・出来ても勇者の剣(くさかべ)でしょうか・・・。

 それでもペルクの助けがあってさえ・・・威力が足りません」

「トワイン、目的としてはダメージを与える事なのか?」

「いえ、ダメージは多少は通るかとは思いますが、

 どちらかと言えばターゲットの分散や意識を散らすことです」

「だったらフランザもそっちの組でいいか?ゼノウ」

「同意見です。フランザは二人と一緒にマリエルのサポートを頼む」

「わかったわ」


 残るはゼノウPTが、

 リーダーのゼノウ、剣士のライナー。

 セーバーPTが、

 リーダーのセーバー&リュースィペア、剣士のノルキア、何でも屋ディテウス、魔法使いアネス。


「あれ?俺達役立たずじゃね?」

「・・・・まぁ仕方ない。

 一応俺達は多少なりに宗八(そうはち)PTに指導を受けているから、

 戦場次第では囮くらいにはなる・・・か?」

「いや、そんな脇役みたいな微妙な立ち位置、俺は嫌だぜ」


 前衛組はどうしても斬った張ったが役割になるのに、

 宗八(そうはち)達の戦闘に巻き込まれるとどうしても魔法が出来ないと一歩も二歩も遅れてしまう。

 知ってはいたけど認めたくない微妙な顔付きのセーバーが、

 隣にいる同胞に向けて言い放つ。

 しかし当のゼノウは若干の申し訳なさの篭もる顔を逸らしながら、

 仲間のライナーへと語尾を緩めた形で問いかけるが、

 ライナーはライナーで主役を諦めていなかった。


 ゼノウの言う通り彼らはそれぞれが宗八(そうはち)達からアドバイスを受け、

 ゼノウはメリーとクーに、ライナーはマリエルとニルに、

 トワインは宗八(そうはち)に、フランザはアルシェとアクアに師事をして。

 故に得意な魔法や戦法が似通ってきており、

 ゼノウと無精ウーノは闇魔法が、

 ライナーと無精ドゥーエは風雷魔法が、

 フランザと無精ペルクは水氷魔法が得意になってきていた。


 唯一万遍無い魔法剣を使う宗八(そうはち)に、

 魔法弓を教えて貰うトワインと無精セルレインだけは、

 得ても不得手もなく全体的に平均的であった。


「どうしますか、セーバー・・・っ!」


 と、剣士ノルキアがセーバーへ残るメンバーの采配を確認しようと声を掛けたとき、

 島の中心にある龍の巣の壁の一部が爆発し、

 中からデカく平らな魚と槍で魚を外へと押し出したポシェント、

 そして遅れずに魚の動きを阻害するメリーとクーの姿も同時に確認できた。


「はぁ・・・・介入して手助けしたいってのはあるが、

 敵の情報も共有出来ねぇと邪魔になるだけだぞ、ありゃあ」


 ガシガシと無造作に頭を掻きながらセーバーがため息交じりに言う。

 実際、何故メリー達が何かを敵では無く地面に向けて投げているのかもわからない。


「・・・・セーバー。

 どうせ俺達が考えていても行動しなければならないならば、

 この時間は無駄だと思う。

 幸いあのメリー達の状況からオベリスクは無くなったようだし、

 俺達はひとまずこれで確認すればいいのではないか?」


 静かにメリー達の戦闘を観察していたゼノウは、

 状況のおおよそを冷静に判断し、

 この場の全員の片耳に付いた揺蕩う唄(ウィルフラタ)を指差しながらセーバーへと語りかける。


「まぁ一旦邪魔にはなるだろうけど、

 それで確認すれば介入はしやすくなるか・・・。

 問題は宗八(そうはち)達の方は誰も一緒に戦う事が出来ないうえに、

 条件的にあの平らな魚の相手をするには人数が多すぎるって点だな」


 マリエル達へのサポートが3人で、

 宗八(そうはち)達へのサポートは無理。

 残るメンバーは6人だけど流石に全員であれの相手は無駄が過ぎる。


「見たところ回避誘導と一撃の大きさが必要なようです。

 一撃の大きさであればうちの大将がこの中では一番高い」

「回避誘導ならゼノウだな。

 魔法有りなら俺もセーバーには負けるだろうけど自信があるぜ」


 ノルキアがまとめとして必要な要素を念頭に置いてうえでセーバーを推し、

 ライナーもメリーに近い動きが出来る者としてPTリーダーであるゼノウを推し、

 ついでに自分も戦力だと立候補する。


「俺は無理ですね」

「僕も中途半端ですから付いてはいけませんね」

「機動力の無い私も足手まといになっちゃいますね」


 残るセーバーPTの剣士ノルキア・何でも屋ディテウス・魔法使いアネスは、

 ステータスや技術不足の点を自分自身で理解している為辞退を申告した。


「では、俺達はアインスさんに報告をして、

 アイス・ドラゴンの様子と周囲の警戒をして待ちます」

「はぁ・・・戦いに参加したかった・・・」

「ディテウス、切り替えなさいよ。

 これが終わったら私たちに城に詰めて差を縮める努力をしましょうね」

「アネスさんは暢気ですね・・・。

 実質置いてけぼりじゃ無いですか、

 アネスさんは年下に抜かれている事を気にしないんですか?」


 ノルキアの宣言を聞いて一番若いディテウスが愚痴を溢した。

 それをおっとりお姉さんのアネスが注意するが、

 ディテウスはアネスにも積もる不満を手に噛み付いてきた。


「精霊との出会いがなかったのが私の人生だもの。

 それを他人の所為にするもいじけるも時間の無駄よ。

 チャンスはもらえているのだから、これから頑張れば良いだけじゃ無い」

「アネスの言う通りですよ、ディテウス。

 文句なら城に戻る判断をしなかったセーバーへお願いします」

「言えるわけ無いって知ってるくせに・・・。

 すみません、言い過ぎました・・・アネスさん・・・」

「ふふふ、いいのよ。これが終わったら貪欲に色々と吸収して、

 次のフォレストトーレはちゃんと参加しましょうね」


 一回り近い歳の差だけでは無く、

 おっとり女性特有の包容力のあるナデナデを甘んじて受けるディテウスの様子に、

 その場の全員が微笑むなか、

 セーバーとゼノウは視線を絡ませ行動を開始する腹を決める。


「じゃあ、それぞれ死なない程度に!」

「うちのメンバーは全員参加だから特になっ!」


 セーバーの掛け声に全員が耳と顔を一点に集中させ、

 続けて隣に立つゼノウがPTメンバーに珍しく大きめの声を発した。


「当然っ!」

「私たちも接近しないとはいえ気をつけるわ」

「どこまで妨害できるか分からないけど訓練の成果を見せるわ」


 ゼノウの言葉に潜口魚を担当するライナーが、

 鎧魚(エノハ)を担当するトワインとフランザが答える。

 とはいえ、主力としての参加ではないので意識を散らしたり、

 行動に制限を掛けたりする程度の参加になるが正味な話、

 敵の情報を受け取れていない状況ではどんなイレギュラーが起こるかわからない。


「モエア」

「わかってるわよ。

 もし魔法関係しか攻撃が通らなかったら下がるわ」


 セーバーの念押しに手をひらひらさせて反応を帰すモエア。

 相手をする予定の鎧魚(エノハ)は速いし遠いしで、

 どのくらい身体を硬い表皮で覆われているのかもわからない為、

 もしも魔法ありきでなければ効果が無ければ前に出ているだけ危険にさらされるだけになる。

 それを互いに理解をしている為、

 言葉は少なくとも何を言いたいのかわかり合えるのだ。


「じゃあ、行くぞぉ-!」

「「「「「『応っ!』」」」」」

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