†第10章† -02話-[シヴァ様の使者、水精ポシェント]
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王妃様の呼び声の魔力的な響きが終わる頃には、
椅子に掛けたまま手を翳していた王妃様の御前で、
跪く男型水精が右手を胸に添え、左手は貝殻のような槍を握ったまま床に付けていた。
周囲への箝口令は敷き終えており、
これは主にゼノウPTとセーバーPTを狙い撃ちにしたものだ。
王妃様が精霊を呼び出せるだけでもなんで!?ってなるのに、
実は四神であるシヴァ様の分御霊で、
アルシェのママだよって言っても混乱するだけだし受け取る必要のない情報だろう。
王妃様の脇に立つ護衛女兵士と側仕えが驚かないのは、
こういった報告を受けるのも決して珍しい事ではないのかもしれない。
「ポシェント、ご苦労です。
早速ですが宗八、こちらへ来て彼に説明と施工を。
ポシェントも私の息子のような者の言葉と施工です、受け入れるように」
「かしこまりました、シヴァ様」
なんだろう・・・言葉が互いに固いのではないかな?
シヴァ様って精霊の中でもまだ大精霊に就任して100年もないと聞いたし、
長く生きている水精には舐められていたりするのかもしれない。
ナデージュ様への挨拶を終えた男型水精ポシェントは、
ゆるりと立ち上がると近づいてきた俺の方へと向き直った。
こう・・・海の民みたいに見える。
ドラクエに居そうな感じで半魚人というか・・・、
でも半魚人感はボジャ様の方があるなぁ。
なんて思っていたらポシェントも前進をしていたため考えが極まる前に接触するに至った。
「初めまして、水無月宗八と申します」
「始めてお目に掛かる、ポシェントと言う。位階はポセイドンを賜っている」
「ポセイドン・・・。あ、ポシェントと呼んでもかまいませんか?」
「はい、大丈夫です。私も・・あー、やっぱりダメだな慣れない。
俺も宗八と呼ばせて欲しい」
「呼び名はご勝手にどうぞ。
敬語も苦手なら外して頂いてかまいません」
「いえ、シヴァ様の手前そこまでは許されませんのでこのままで。
それで俺に何をさせたくて喚び出されたのですか?」
固く感じた態度は単に固っ苦しい空気が苦手な為みたいだな。
変な感じだったから杞憂民しちゃったじゃねぇか。
ポシェントの纏う空気が呼び名を決めてからまた一段と軽くなったのを見ていると、
ポシェントから催促された。
「俺の長距離移動魔法は扉を魔法で描き、
各地に設置している同じ扉同士を繋げる魔法なんだ」
「ふんふん、それで?」
「普段は空間に描いている扉は、
本来の文字魔法という特性上物や人にも描くことが出来る」
「・・・ふんふん、わかった俺の体に扉を描きたいというわけですね。
背中が良いですか?腹が良いですか?」
「どちらでも良いですよ。
魔法を発動させたらその場の空間に固定されますので」
ゲートは元々人に設置する予定などなく創った魔法だ。
それが功を奏したらしく、
召喚を覚えてから物は試しとテストしてみたところ、
発動させなければ何度でも召喚に付いて回り、
発動させればその場で剥がれて設置となることが判明した。
協力に参加させた精霊達に意見を聞いたけど、
発動時にダメージは一切無くて、
気がついたら落とし物をしたような感覚だと言っていた。
「では、背中が書きやすいでしょう。
服はどうすればいいでしょうか?」
「服の上からで大丈夫です。
お手数ですが少しくすぐったいと思いますが我慢してください」
とは注意したものの脇や横腹を触るわけでもないし、
ゲートの神社の鳥居をそのまま描くだけなので、
埃を払うような動作でさっさと描き終わってしまう。
「設置は終了です。
あとはあちらに戻られましたら出来れば陸地に居てくだされば助かります」
「わかりました、すぐに陸へと移動致します」
「ポシェントは戦闘が得意なのですか?」
「ポセイドンは直接戦闘が得意な水精が成れる位階です。
ですが、今回の事は直接介入は禁止だとシヴァ様からは指示されております」
オベリスク関係は確かに精霊の基本参入はNGだろう。
妖精であるマリエルも出来れば参加は控えさせるべきなのだけれど、
一応精霊よりは致命的なものではないし、
長期間のオベリスク影響下でなければ子を成すのに支障はないと、
魔法ギルドからの回答も頂いている。
せめて集団的な無効化でなくてもいいから、
お守りやアクセサリーでマリエル一人くらい安心させてもらえれば、
俺も何も考えずにマリエルをオベリスクのある戦場へと投入できるのにな・・・。
それにしても立派な巻き貝の槍をお持ちなのに戦闘禁止か・・・。
これが守護職であるスィーネやボジャ様であれば調査に行かせることも出来ないから、
ポセイドンの位階は特定の場所では無く、
エリアや遊撃的な行動範囲なのかもしれない。
いずれにせよ、この槍は素材が素材だけに武器として使えるならば十中八九アーティファクトだ。
「その槍もずいぶん強そうな装飾なのに勿体ないですね。
人間の図鑑では見たことありませんし、どこかに流れていたのですか?」
「あぁ、この槍ですか・・・。
強いと言えば強いですがあまり効果がある物とは思えませんよ?
名は細波のランス。
特殊効果は戦意を静めるというものですし・・・、
譲ってくださった先代も同じような意見でした」
そりゃ今回の作戦にぴったりな効果をお持ちで。
にゃるほど・・・ナデージュ様はそれを見越したうえで彼を選定したのか。
初めの任務で接近に失敗しても切り抜けられる可能性もあるし、
俺たちが行動を始めたあとでも十分に効果を発揮出来る。
ただ、ポシェント本人が説明不足でその辺を理解していないようですけどね・・・。
それに槍を使える水精ってことは、
もしかしたらその先も考えての接触かもしれない。
ここは仲良くしておくのが吉だな。
「一応見届け人として、
今回はアルカンシェ姫の護衛に加わっておいてください。
俺と姫と護衛の一人である妖精族の少女は、
魔力散布に労力を割かれる可能性が高いので」
「わかりました、合流後はご一緒に行動させて頂きます。
シヴァ様、打ち合わせ完了いたしました」
必要な分の話は済んだので、
ポシェントは再び振り返ってナデージュ様へ報告をする。
集めて準備まで行い引き合わせも済んだ時点で仕事の終わっていたナデージュ様は、
側仕えの入れたお茶と皿に広がるクッキーを口に運びながら優雅な一時を過ごされていた。
「・・・ンク、わかりました。
ではポシェントは戻り次第宗八の指示通りに動いてください。
あちらでの支援は任せましたよ」
「お任せください」
ポシェントはその返事を最後に姿を忽然と消した。
これにて彼は龍の巣の近くへと戻され、
今は俺の指示の元近くの陸地へと移動を開始している事だろう。
周囲へと目配せを行うと、
そのメンバーはともかく各リーダーは視線に気がつき、
俺の前までアルシェ・ゼノウ・セーバーが進んでくる。
「こちらは準備を整えられた。
ナデージュ様がご用意された案内役があちらで待ってくれている」
「私、マリエルとメリー。3名の準備整っています」
「自分、ライナーとトワインとフランザ。4名の準備、完了している」
「俺、ノルキアとディテウス、アネスとモエア。計5名大丈夫だ」
「よし、あちらへ着いたらアスペラルダ王都よりも寒いらしいから、
防寒対策だけはしっかりとしておいてくれ」
3PTへひとまずの指示だけを行い、
部屋の隅に集まっていたアクア達にも同じ内容の声を掛ける。
結果、モコモコな完全防寒をしなかったのはメリー以外の俺たちとアクアだけで、
精霊たちも外に出て行動する者は防寒装備を整えた。
マリエルも多少の防寒はしたものの、
完全な物までは必要ないと判断していた。
「お前・・・姫様も寒くはないのですか?」
「シヴァ神の加護を持っていますからね。
寒さや暑さには強いんです」
「セーバーも真なる加護を持っているなら、
そういう特性は認識しておいた方がいいですよ?」
「テンペスト神の加護の特性ねぇ・・・」
「お兄さんは実感の出来る特性はないのですか?」
風系の加護でねぇ・・・。
耳が良くなった?風が読めるようになった?
いや、そういうのではなく・・・これか・・?
自分の手のひらを見つめて一つの仮説を思いついた。
「もしかしたらだけど、環境に適応しやすくなった・・・かな?」
「環境に適応しやすくってどういうことですか、隊長」
「シヴァ神の加護特性からも考えたから確かとは言えないけど、
どの環境でも空気ってのは周囲に漂っているだろう?
その環境によっては風も冷たくて寒かったり温くて不快だったりするから・・・」
「肌に届く前の空気を自分に合う物へと調整するという事ですか?」
「あくまで可能性だよ。
環境の不利を感じづらくなく程度だとは思うけど、
体温調整だけではなく瘴気なんかも口に含まれるまでの動きが緩慢になるんじゃないかなって」
苦し紛れに考えついたにしては割とありかと思う。
瘴気うんぬんは実際戦闘中にそんなこと考えもしていなかったし、
実感は全くと言ってないんだけど、
シヴァ神の加護の特性から落差を大きく付けないとなるとこのくらいしか今は思いつかない。
俺は他の亜神の加護もあるから、
どれの特性がどこまで関わっているのかもちょっと把握できないし。
「まぁそれも含めて自分で調べてみるさ。
さぁ行きましょうか、クランリーダー?」
「そうだな。じゃあ、移動を開始するぞ!」
「「「「「「「「「「「「応!」」」」」」」」」」」」
セーバーの何やら含んだ問いかけに、
出発の狼煙を掛けると全員が気迫の篭もった返事で返してきてくれた。
* * * * *
「ここが龍の巣か?」
『ようこそいらっしゃいました宗八。
そうです、ここが龍の巣・・・の外周と言えばいいのでしょうか』
ゲートを通った先に待っていた光景は、
北極で見るかのような陽に照らされた氷の世界。
風が強めに常に吹き荒び、
小さな氷の粒がその風に踊らされて視界を時折塞いでくる。
体の中に入ってくる空気もマイナス何十度かとわからないくらいに冷え切っている。
俺にくっついていたノイは空気に触れただけで俺の服の中に潜り込む始末だ。
「こりゃ、あの防寒着だけじゃ厳しいかもしれんな・・・」
『中央に近づけばもっと低くなるとも聞いておりますよ』
「中央にオベリスクが無いことを願わずにはおれんね」
俺がゲートから中途半端に生やした体を完全に巣側に移動させると、
続けてアルシェ&アクア、マリエル&ニル、メリー&クーがゲートを渡って来た。
「空気の澄み方が違いますし、照り返しがすごいですね」
『ここすごいねぇ~!』
「私もちょっと寒いです。
メリーさんは防寒していても厳しいんじゃないですか?」
『ニル・・・考えるのを止めましたわ。
風の層を造って冷気を遮断致しますわー!』
「お気遣いありがとうございます、マリエル様。
ナデージュ王妃様がご用意してくださいました防寒着がございますので、
なんとか耐えられそうでございます。
動き始めればなおさら体温も上がりますし・・・」
『クー・・・メリーさんの服から出ることが出来ません。
お父さま申し訳ございません。クーは・・クーは・・・』
なんか懺悔みたいな声が聞こえる・・・。
お父様って言ってたしクーかな?
猫なら犬と違ってコタツで丸くなると歌でも言われているんだし、
寒さに弱くても仕方ないと思うけどね。
「クー、寒いならシンクロしてメリーのサポートに回るか、
ニルにお願いして風の層を造ってもらえ。
今回のメリーの仕事は周辺警戒が主なんだからな」
『わかりました・・・、ニル』
『あいあいさーですわー!』
ここはオベリスクの影響下では無い為ゲートで移動も出来たし、
ニルの造る風の護りも効いている。
これ以上奥に行くとどうなるかわからないので、
しばらく俺たちはゼノウPTとセーバーPTの報告待ちとなってしまう。
クーがニルに魔法を掛けてもらっている間にも、
背後のゲートからは皆口々に寒さに対する感想を溢しつつも移動をしてきている。
到着した先の予想のさらに上を行っていた寒さにも負けずに、
ゲートを超えてきたPTは一旦合流をしてから準備運動を始めた。
少しでも体をこの環境に慣れさせる為ではあるし、
他の地域では効果的かもしれないけれど、
ここまで寒いとどこまで効果があるか期待は薄い。
「ノイも掛けてもらっておかないとまともに行動できないだろ。
俺はメリーみたいに防寒していないからな」
『そそそそそうですね。ニニニニニル、おねがががががいしますででででです』
『何を言っているかわかりませんけどわかりましたわー!』
寒さで歯の噛み合わないノイのお願いを聞いて、
ニルが同じく風の護りをノイに掛けてようやっと人心地についたらしい。
太陽に向かって顔を上げると眼を瞑り気持ちの良さそうな顔をしている。
『寒さが身に染みたときほど太陽のありがたさを感じるものです』
『ノイ大人振ってる~!アクアも浴びる~!』
『クーも寒さを感じなくなればこちらのものです。
お姉さま達と日向ぼっこします』
「宗八のところの精霊は相変わらずだな。
リュースィもニルチッイの真似出来るのか?」
『勿論ですわ~。
風の断層を造って寒気に直接触れるのを防ぐだけですもの~』
う~ん流石はニルよりも上の位階にいるリュースィだ。
簡単に風の護りを自身にも施してしまった。
ゼノウ達の方も体の動きに支障が無い程度まで体を温め終わったらしく、
こちらに歩いて近づいてくるのが視界に映る。
「宗八、いつでも行ける」
「俺たちはどう動けば良いんだ?」
「一旦全員でポシェントの見たという龍の姿を確認しよう。
大まかな位置だけでも把握しておいてから動き始めた方が、
お互いに無駄に危険な接触を回避できる。セーバーもいいな」
「了解だ」
「わかりました」
振り返りつつセーバー達の方へと声を掛ければ、
セーバーとノルキアの返事が返ってきた。
他のメンバーも続々と俺たちの方へと進んできているようなので、
さっそくアクアのウォーターレンズを広げて、全員で遠くに横たわるアイス・ドラゴンの姿を捕らえる。
「彼らがアイス・ドラゴン・・・遠目にもずいぶんと大きいのがわかりますね」
「ボジャ様くらいでしょうか?」
「少なくともランク5のモンスター程度の大きさですね」
これらはうちのメンバーの意見だ。
「数もかなり居る」
「あれに近づけって話じゃ無くて良かったぜ」
「そうね、ライナーがうるさくて無駄な戦闘になりそうですものね」
「1匹なら逃げられるでしょうけれど、2匹目からは厳しいですね」
これはゼノウPT。
うるさいライナーが今日も弄られているが、
あれを目の当たりにしてもふざける余裕があるところを見れば頼もしく思える。
「鱗とか1枚剥いでもバレないんじゃないか?」
「危ないことは止めてください。他のチームにも迷惑が掛かるでしょう?」
「今回は槍を持っておいた方がいいかな?」
「確か魔法でオベリスクを見つければいいんだったわね」
「今回の私は周辺警戒が主な任務ですし、危なそうであれば矢でお知らせするわ」
これがセーバーPT。
龍を見ながらもあれとは戦闘しないことが前提で、
オベリスク破壊をメインに据えている様子だ。
依頼内容としては間違っていないのではあるが、
龍とオベリスクが近い可能性だってあるんだから注意はしておいてくれよ?
『地図はすでに用意しています。
これを各PTメンバーにお渡し致します』
「用意がいいですね、ポシェント」
『自分が用意したわけではありません。
こちらはシヴァ様が用意されていたものをお預かりして、
後ほど渡すようにと指示を受けていたに過ぎません』
「お母様が?珍しい・・・といえばそれまでですが、
本来は人の入り込むことのない土地ですし、
このくらいの支援はするかもしれませんね」
王妃様、なんかアルシェからすると、
戦闘関連で王妃様がこのような支援をしたことに違和感を覚えておられるようですよ。
「頂けるというなら有り難く使うまでだ。
ポシェントが用意したわけではないと言っているんだし、
戻ったらナデージュ様に感謝を伝えればいい。
ポシェント、この地図の注意点はありますか?」
『そうですね・・・。現在地はこの辺りなのですが、
実際ここの足場は地面ではありません』
「地面では無い・・・と言われても・・・。
地面にしか見えませんよ?どういうことですか?」
ポシェントの説明を聞いたマリエルは、
皆が考えた疑問を代表して言うように意見の述べる。
足踏みをしても帰ってくるのは固い感触で、
自分たちを支えるには十分な白い荒野が広がっている為、
ポシェントの言う地面ではないという意味が理解できていない。
『我々がいるこの場はこの気候で凍り付いた海面なのです。
疑われるのであれば地面を割ってみれば、
その下に海があることを理解できるかと思われます』
「海・・・本当なのですか?お兄さん」
「この気候で考えれば不思議ではないかな・・・。
視界がもう少し良ければ遠くで氷が流れていく様子も見られるかもしれない」
『宗八はそこまで理解できるのですね。
流石はシヴァ様が認めた精霊使いです』
「いや、精霊使いはこの際関係ないだろ・・・」
「関係ないけどその話はいまの状況で必要ないから・・・。
つまり足下は固いけれど絶対の信頼を置けるものではないって事だ。
死にたく無ければ地面を割るような衝撃を加えるなよ」
ゴクリンコと誰かの喉が鳴る。
初めての環境で足場が確実ではないと知った今、
どの程度まで信頼してもいいのかわからず得体の知れない不安が皆の心に広がっていく。
「もしも海に落ちたら影の中にすぐに避難して体を拭いて新しい服に着替えろ。
冒険者の体なら無精の鎧も合わさってそう簡単には死なない」
とはいえ、それが元からある世界の人間からすれば、
だからといって大丈夫とは簡単に切り替えは出来ないらしい。
逆に俺はそれが無い世界の人間なので、
氷点下の海に落ちても猶予がある時点でぬるゲーだと思える。
う~ん、俺たちの世界貧弱過ぎ。
「じゃあ次はちゃんと地面のあるエリアを教えて欲しい」
『地面は海面よりも盛り上がっているのですぐに分かりますが、
場所的には丁度龍がいる辺りからでしょうか・・・』
これは聞かなきゃ良かったかもしれん。
という事は状況次第ではずっと氷の上で行動させることになるんだもんな。
すまん、みんな。
心の中で謝るだけ謝ってから作戦行動を開始する為に指示だしを始める。
「ゼノウPTはここから右回りに、こう・・・移動してくれ。
逆向きにセーバーPTがこう・・・移動する。
そうすればこの辺りで交差するだろうから、
念のためこの場まで1週して見落としが無いか互いにフォローし合ってくれ。
この見直しは信用していないからでは無く、
見落としがあった場合皆が割を食う可能性があるからだ、そこは理解してくれ」
「了解」
「了解した」
龍がいるところまでは結構な距離があるけれど、
オベリスクがあった場合を考えると簡単に近づき過ぎても良くないし、
魔法を撃ち込んで減衰を確認することも、
敵対行為と認識されたくないのでそれも出来ない。
「その間に俺たちはポシェントも連れて、
龍に近づけるところまで近づいた上で魔力の散布を開始する。
ライドが使えるならとりあえず1週するのにそこまで時間は掛からないだろう?」
「マリエルも魔力散布に参加させますか?
護衛に残しておいても良いのでは?」
「武器を外して敵意が無いことも示したいところなんだけど、
それは俺とアルシェが行うとして・・・そうだな、
マリエルは俺たちよりももっと後方で散布しつつ俺たちの護衛をしてくれ」
「それほど離れて間に入るのに間に合いますか?」
「メリーがまず間に合うからその後に続くことが出来れば大丈夫だろ。
どちらにしろ俺たちが武器を手放すと言っても丸腰になるわけでもない」
「クーデルカ様とシンクロしていれば短距離転移も出来ると思います。
マリエル様の介入するまでの間くらいならば私達にお任せください」
メリーの勢いにくっついているクーも鼻息が荒い気がする。
俺にはノイが、アルシェにはアクアが護衛のように付いているし、
そこまでの危機感は持っていない。
いざとなれば対抗するための手札は俺もアルシェも持っているわけだしな。
「それに戦うのが目的じゃないんだから、
メリーとマリエルが龍を押さえている間にポシェントが静めてくれる」
『まぁ使い方は先代に聞いていますけど、
俺にはどうもこの槍にそんな力があるとは思えませんよ?』
「試す時間がないのは惜しいですけど、
シヴァ様がポシェントを選んだ理由もその槍が関係していると考えれば、
眉唾なわけでもなさそうです。
そこは信用する方向でやるしかないです」
『そういう事なら信じてみますけど、
武力では無く槍で選ばれたとはあまり思いたくはありませんね・・・。
まるでポセイドンの位階として期待されていないようではありませんか』
あれれ?落ち込んじゃったよ。
ポセイドンは戦闘が得意な位階で、
広範囲の遊撃を主とした行動が許可されているみたいだし、
その槍の効果だけで選ぶほど王妃様も甘くは無いと思うけど・・・。
「ポシェント、それだけでお母様が選んだとは私もお兄さんも思っていません。
その他にも選ばれるに足る要素がポシェントには備わっていたはずです」
『アルカンシェ様・・・、わかりました。
ひとまずは足手まといにならないように最善を尽くしたいと思います』
水精界隈でアルシェがどのような立ち位置なのかはわからないけれど、
シヴァ様の娘という地位はそれなりの扱いをされるっぽい?
とりあえず持ち直したポシェントがやる気に満ちた声でアルシェに跪いて見せたので、
これにて全員に開始の声を掛ける事が出来るようになった。
「では、全員作戦を開始してください!
何かあればすぐに揺蕩う唄で相談も忘れずに!」
「「「「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」」」」




