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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第10章 -青竜の住む島、竜の巣編Ⅰ-

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†第10章† -01話-[メンバー招集]

いつもお読みいただきありがとうございます

『んんっ・・・』


 おやおや、一緒に連れてきた子が目覚めたようだ。

 一人は城内を散歩中、一人は仕事中、一人はベッドで寝ていて、一人は俺に纏っている。


『うぅ・・寒いです。ここどこです?』

「(アニマ、ノイの相手をしてくれ。集中乱せん)」

『(はいはい、任せてください)』


 魔力制御を手放せない俺の代わりに、

 震えながら俺の膝上で目覚めた女の子に説明する為、

 俺から分離してその娘の前に降り立つ。


『確か・・・アニマです?』

『おはようございます、ノイティミル。

 もう面倒なので早々にノイと呼びますよ。他称精霊姉妹5女、アニマ、です』

『他称・・・?それでここはどこです?』

『ここはアスペラルダ城の訓練施設、です。

 現在は朝の早い時間ですから他の兵士達は居ませんけれどね』


 自身を包んでいた毛布で体を覆ったままキョロキョロと顔だけ出して周囲を見回す。

 目の前にマスターの体から出てきた昨日見たことのある少女がしてくる状況の説明を耳に流す。

 確かに自分たちしかこの広い場所には居らず、

 目の前には5本の剣が地面に刺さっていて、

 それぞれが濃度の高い魔力を漏らしている様子。


 マスターの向こうにはマリエルと呼ばれていたアルシェくらいの年頃の少女が同じように座り込んでいた。


『その剣たちや手甲は宗八(そうはち)が魔法剣として使用している装備品、です。

 ノイと行動を共にしていた時に比べれば多いかと思いますよ』

『そうですね。ボクと最後に会ったポルタフォールだといつもの氷剣だけでした。

 今は炎と氷と雷と、闇に光ですか、なかなか綺麗な光景です。

 隣の水色も合わさると六色ですか・・・』


 おそらくマリエルの魔力は水属性に偏っているのだろう。

 空へと昇っていく六色の魔力の綺麗な流れは、

 まるで河を真上から俯瞰(ふかん)するかのような不思議な感覚に陥らせる。

 それにしてもこんな事をいつから続けているのか知らないけれど、

 シヴァ神の領域というのに色んな魔力が高レベルで存在しているから、

 各属性の隠れ里なのではと思うくらいに濃度が高い。


『この濃度も朝だけの現象なの、です。

 すぐに風に流されて自然魔力へといずれ還元されるでしょう。

 世界の各所でオベリスクによる魔力の減少によって、

 生活の場を奪われる魔法生物や魔物がいますから・・・』

『マスターだけではどうにもならないでしょうに・・・』

『個人運用が難しい魔法剣はオベリスクの対抗としては優秀、です。

 全く正反対の性質を持っているのですからね。

 別に宗八(そうはち)自身はそこまで大げさな意味合いでこれをやっている訳ではなく、

 目的である魔力制御訓練のついで、ということみたい、です』


 魔力を消滅させるオベリスクと魔力を増幅して増やす魔法剣。

 相反する性質の魔法剣は精霊使いになれば人間だけで運用するよりもずいぶんと楽になる。

 もちろん出来なくはないけれど、

 戦士でないと剣を装備する要求ステータスを満たせないし、

 魔法を込めるに必要な魔法の扱いは魔法使いにしか出来ない。

 結局、精霊使いでないと使えないうえに、

 宗八(そうはち)のように出来るまでは努力とセンスも必要となる。


『これはいつまでやるんです?』


 ボクの言葉に眉毛を動かして反応をしたマリエルはこの訓練が嫌いなのか・・・、

 それとも苦手なだけなのか?


『さて?いつもはクーがご飯の準備が出来たら念話で呼びかけますから・・・ん?』

『ん、久しぶりの感覚です。連絡がちょうど来たみたいです』

「んん・・・っ!」


 アニマとノイの二人の中に響くくすぐったいような感覚。

 以前も感じたことのある他契約精霊が念話で話しかけたときにモゾモゾする感覚。

 念話後に宗八(そうはち)は魔法剣に篭もる魔力をすべて解放し、

 各剣から感じられた魔力の圧力は消え失せ、

 蒼い剣と翠雷(すいらい)色の剣は姿を変えた。

 特に蒼い剣は二段階小さくなって、最後には変な形の剣?になった。


 その後、すぐに静かな城の朝に相応しくないバンッ!

 という音が少し遠くから響いてきた。


「ふぅ・・・。おはよう、ノイ。

 今から朝ご飯食べたらまたアイアンノジュールに行くぞ」

『おはようです、マスター。

 セリア先生を迎えに行くのですよね?』

「あぁ。たぶん3週間くらいで合流できる予定だから、

 それまでに時間が取れるからいろいろ考えよう。

 先に上位精霊からの指導をノイが受けている間、

 他の姉妹は受けられていなかったから今各地に分かれて受けさせているんだ」

『移動にはアクアが必要なのでは?

 確か空を飛べるのはアクアだけなのですよね?』

「別の方法があるし、ノイが居れば他の奴らはいらん」

『ふ、ふ~ん・・・。まぁいらないならいいです・・』

『昨夜はあまり見られませんでしたけど、

 これがノイのツンデレというやつですか・・・。

 宗八(そうはち)、ワタクシは戻りますよ?』

「あいよ、ありがとな」


 アニマが宗八(そうはち)の護りへと戻っていくのを見届けると、

 宗八(そうはち)も地面に差したままであった5本の剣をインベントリへと回収していく。

 あとついでにマリエルの頭も小突いて終わりを告げると、

 いつもの事なのか文句も言わずに終わったぁ~!と安堵した声を上げている。

 そして、遠くからアホっぽい声が聞こえ始め、

 それはどんどんと近づいてくるようだ。

 なんだろう、細長い・・・何?


『ますた~!ご飯だよぉ~!』

「わかってるから、アクアはそのまま城の中から移動すりゃいいだろうが」

『一緒がいいの~!ノイもおはよ~!』

『おはようです、アク・・アでいいんです?朝から元気ですね』

『お散歩で目も覚めちゃうしね~。ノイもご飯一緒に食べようね~!』


 どうやらあのうるさい音は、

 うるさいアクアが窓からうるさく飛び出した時に発されたようだ。

 メイドさんが開け放たれた窓を閉めてくれるまでがテンプレートなのだとマスターに後々教えられた。


「ノイもアニマル形態は残したんだろ?」

『ですね。でも、人型でも違和感はないです』

「じゃあそのままで行くか。おいで」

『ん・・・』


 両手を差し出してきた宗八(そうはち)に向けて言われるがまま両腕を上げると、

 脇から手を差し込まれて抱え込まれる。

 宗八(そうはち)が抱え上げる際に揺れた反動が、

 ノイの尻尾のようなサイドテールを揺らしながら持ち上げられる。


「ちょちょちょ、隊長!もうちょっと待ってくださいよぉ~!」

「あー、そうだった。マリエルはまだ慣れてないんだったな。

 5分くらいで落ち着けるか?」

「はい~、そのくらいでだいじょうぶれす~・・・」


 持ち上げられながらの会話だったから顔とかは見れなかったけれど、

 マリエルのふにゃふにゃボイスからして座ったまま背中向けに倒れたらしい。


「城の中に入れば暖かいから少し我慢な」

『毛布もあるから大丈夫です』

『ますたー、アクアも~!』

「お前ニュートラルになったらデカいから今のままくっついてろ」

『あ~い』


 するりとノイを抱える腕に巻き付くアクアが今日の朝ご飯の予想を言っている。

 料理名までは知らないのか海藻がどうとかパンに何が挟まっているとか色々と食べて味は知っているらしい。


 これからはマスターと、

 姉妹と呼ばれている契約精霊のアクア達と一緒に生活することになる。

 アルシェ達とも話してみたいし、離れていた分をなんとか埋めていこう。



 * * * * *

 1週間後、朝から緊急の呼び出しを王様ではなく王妃様から頂くこととなった。

 王妃様関係と言えば思いつくのは龍の巣の事で何かわかった・・・、

 じゃなくて緊急ということは拙い状況になっているかな?


水無月(みなづき)、到着しました」

「アルカンシェも同行しています」

「すぐ入ってください」


 王妃様の側近も最低限しか置いてないみたいだ。

 廊下の外には王妃様の護衛兵士が3名。

 部屋の中に入っても側近中の側仕え二人と女性護衛兵士が2名だけ。


 足早に王妃様の前まで進むと、

 視線で跪く必要は無いと否定の色味を確認して即座に回答を口にする。


「早朝の時間に呼び立てて申し訳ないわね」

「いえ、龍の巣で何かありましたか?」

「話が早くて助かるわ。

 観察に行かせていた水精には到着したら1日見守るように伝えていてね、

 周辺も一緒に探ってくれたみたいなのだけれど。

 どうも龍達の動きがおかしいみたい」

「どうも?」

「おかしい?」


 ナデージュ王妃の開示した情報に関して、

 俺とアルシェはそれぞれが別の部分で引っかかりを覚えそのまま口に出す。

 王妃様は可笑しそうに微笑んでから、それぞれの疑問点を解決してくれた。


「どうもと言ったのは、

 龍は他種族と離れて生活しているから近くまで接近することは危険なのです。

 如何に同じ魔法生物でもそれは同じ、遠くから伺うしか出来ていません。

 おかしいというのは話の続きになります」


 本来ならば緩慢ながら時々は動く程度に寝続けている龍たちが、

 水精が観察する1日の間、微動だにしなかったらしい。

 それこそアイス・ドラゴンは尻尾どころか顔も動かす事がなく、

 皆が丸くなって死んでいるのではないかと懸念するほどだと。


「お母様、ブルー・ドラゴンはどうだったのでしょう?」

「ブルー・ドラゴンは島の中心にいますからそこまでは・・・。

 ただ、アイス・ドラゴンの現状から見て、

 さして変わりない、もしくは状況の整理に努めているのか・・・」

「同じ魔法生物という言葉を使うと言うことは、

 オベリスクが龍達を押さえ込んでいるとお考えなのですか?」

「可能性の一つとしては考えています。

 けれど実際は貴女たちに見てもらえればより正確な状況の判断と、

 解決に向かえる行動力があると期待しての話です」


 すぐに動く事は可能だ。

 それだけの準備期間が用意されていたことと実験も成功している。

 次点としての問題点は誰を連れて行くかだが、

 精霊以外の七精の門(エレメンツゲート)メンバーは確実に連れて行こうとは思っている。

 出来る限り色んな経験を積める機会がある限り無理にでも付き合わせたいからな。


 ただ、勇者や聖女に関しては、

 世界の話では無く俺個人の目的の為の遠征だから今回は話も通せない。

 あちらの邪魔は極力しないでおきたいし。


 状況次第ではあるけれどメンバーこれだけでいけるかな?


「まぁ向かうにしても数ヶ月先になるほど遠いのですけれど・・・」

「いいえ、条件付きではありますがすぐに向かえます」

「・・・条件とは何かしら?」


 俺の返答は予想外だったらしく、

 俺が異世界に来てから始めて王妃様の困惑顔を見ることが出来た。

 それも一瞬でキリッとして顔へと再び戻されてしまった。


「ナデージュ様が眷属を召喚(サモン)出来れば、すぐに向かうことが出来ます」

「お兄さん、お母様も分御霊(わけみたま)なのですから、

 召喚(サモン)は可能なのではないですか?」

「ナデージュ様は人の身に限りなく近寄られる事を選んだ分御霊(わけみたま)だ。

 その行為は四神の分御霊(わけみたま)とはいえどこまで能力が残るか判断が出来ない」

「他は出来てもお母様には出来ない可能性・・・、

 考えてみれば出来なくなっていてもおかしくは無いですね・・・。

 どうなのでしょうか、お母様?」


 アルシェが当然出来ると考えているのも四神への絶対的な信頼があってこそだろうが、

 俺は四神への信奉も厚くなければ、

 大精霊というある意味自己犠牲の彼らに対しては危うさすら覚えている。

 故にどちらかと言えば出来ない方に意見としては偏っていた。


 俺の説明に思案顔も一瞬で終了させたアルシェは、

 王妃様へと言葉のマイクを返す。


「もちろん召喚(サモン)は可能です。

 そして、宗八(そうはち)の言う通り制限も掛かってしまっていますが、

 そちらに関しては本体と巧く調整をするので心配はいりませんよ」

「そこが大丈夫なのであれば、

 こちらは準備を整えてすぐに出発しようかと思いますけど・・・」


 俺は紡ぎ始めた言葉を一度止めると、意識を腹部へと向ける。

 気掛かりは朝食をまだ食べていないのに出てしまって大丈夫かという事だ。

 この緊急事態に飯の心配か貴様と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、

 現在は朝練の後に呼び出された為、

 最後に食事をしたのは昨夜の夕食だし、

 これからの龍の巣が解決にどのくらい時間が掛かるかも労力が掛かるかもわからないのだ。


 腹が減っては戦は出来ぬという諺もあるくらい、

 空腹は本来の力を失わせるうえに判断力を鈍らせ、

 集中力も欠いて致命的なミスを誘発するものだ。


 俺が朝食を摂ってない以上一緒に食べるアルシェやマリエルも食べていないし、

 こんな朝早くからゼノウやセーバー達も準備が出来ているとは思えない。


「龍のタイムリミットはわかりますか?」

「龍の生命力は並外れて高いですが正直判断はつきかねていますね。

 もし本当にオベリスクが原因ならばいつからなのかがはっきりしませんから・・・」


 それもそうだよなぁ・・・。

 いいや、それなら龍の生命力に賭けよう!

 考えるだけ時間を無駄にするんだ、さっさと決めて動き出してしまおう!


「では、まず朝食とクラン仲間への相談をします」

「お兄さん、すぐに行かなくてもいいのですか?」

「龍の様態も状況も正確でない状態で行くなら万全を期したい。

 俺はまだ朝食を食べていないからな」

「わかりました、すぐに用意させます。

 メリーとマリエルには私から連絡を通しておきます」

「頼む。俺はゼノウとセーバーに話を通してすぐ準備をさせる。

 ナデージュ様昼前には出発出来るように整えて頂けますか?」

「えぇ大丈夫ですよ、任せてください。

 龍をよろしくお願いしますね、二人とも」


「「はい!」」



 * * * * *

「くぅぅ・・・こっちは寒いなぁ」

「先に忠告はしたでしょうに・・・。

 念のためこちらで防寒着を用意していますから、

 セーバー達は大きさを伝えて受け取ってください」


 風の国よりも水の国は寒さも極まっていることは事前に伝えていたから、

 セーバー達も自前の防寒着は着て来てはいても、

 やはり風の国で冬に使われる程度の物ではアスペラルダの冬には対抗出来なかったらしい。


「こちらをどうぞ」

「ありがとうございます」


 俺の指示通りに素直に従って防寒着をメイドさんから受け取っているのが、

 戦闘でも会議でもセーバーを補佐する20代後半と見える彼。

 名をノルキア=ハンバネス。

 PTリーダーであるセーバーが大剣を使うのに対し、

 彼は片手剣と盾を装備した剣士のセオリー通りの得物を操る。


「女性陣のお二人はこちらをどうぞ」

「ありがとうございます」

「うわぁ!中ふわっふわですね!」


 次に受け取っている女性二人は魔法使いと弓使い。

 どのPTも五人の制限がある以上は、

 剣士・魔法使い・弓使いは必ずと言っていいほど居るし、

 他2枠の内ひと枠は同じく前衛をもう1枚選択するのがセオリーだ。

 残る1枠がPTの足りない部分を補ったりさらに強化したりと選択が出来る自由枠となる。


 時にはゼノウのような広い視野を持つサブリーダーとした軽装備者を据えたり、

 時にはメリオのようにもう1枚魔法使いを据えて殲滅力を上げたり、

 PTによっては自由枠として残して、

 ダンジョンに潜るときに野良を誘って都度埋めるタイプもいる。


 魔法使いはアネス=ミレボリア。

 天然パーマなのかウネウネしがちな髪を気にする20代女性。

 弓使いはモエア=ラメンツィラ。

 明るい性格で弓の取り回しに邪魔にならないようポニーテールにしている同じく20代女性。


「では、こちらをお持ちください」

「あ・・・感謝します」


 そして最後の自由1枠に嵌まっているのがこの男。

 城に来たことを緊張しているのか、

 ガチガチになってメイドから防寒着を受け取っている。

 以前から視界には入っていたし先日の作戦にも参加はしていたはずなのだが、

 俺は彼がどの仕事に就いていたのかすら把握していない。


 外周班のセーバー・ノルキア、

 並びにゼノウ・ライナーにトーニャさんまでは認識していたし、

 最後の馬での逃走も2名ずつに分かれて乗っていたからコイツがいたとは思えない。

 戦場だからこそ流石に見逃さない。

 たぶん後方に回されていたんだろうけど・・・。


「セーバー、あんなの居ましたか?」

「あんなのとは酷いじゃ無いかクランリーダー。

 とはいえ、言葉を交わす暇も戦闘を見る機会もなかったからな」

「クランリーダー、発言よろしいでしょうか?」

「許可を求めなくても問題ありませんよ、ノルキア。

 貴方方に尊敬されるような行いもしていなければ、

 クランリーダーだからと威張り散らして耳を貸さないといった無駄もしませんから」

「ふふ、ありがとうございます。

 彼はディテウス=マレマールと言いまして、

 歳は20を超えてはいるのですが、自分の天職を見つけられていないのです」


 ディテウス。20歳。

 ステータスはほぼ平均的な伸びをしており、

 若干戦士よりのビルドになっているとのこと。

 故に武器や防具はあまり選ぶ必要がなく、

 満遍なく前衛にも後衛にも参加が出来る中間役として割と重宝しているらしい。


「まぁ当然欠点もある」

「攻撃力ですか?」

「どっち付かずじゃ仕方ないけどな・・・。

 オベリスクに挑戦もさせたが・・・ダメだった。

 それに関しては俺とコイツが居れば事足りるし、

 別に気にすることじゃあないんだけどな、このままフラフラさせ続けるのも危ないだろ?」


 近距離ならば片手剣やナイフで戦えるし、

 中距離から槍や棒での戦闘も可能。

 遠距離としてなら弓矢だったり魔法を用いることも出来る。

 それでもこの先の戦闘に巻き込むならば中途半端より使い処を決めやすい極型が良い。


 うちのメリーも素早さは1番早いが決定打が無い為、

 あまり積極的な戦闘はさせたいとは思わない。

 それはセーバーもディテウスに同じ気持ちを抱いているのはまず間違いない。


「ふぅ~ん。

 ならいっそ精霊使いにしますか?」

「無属性の精霊ならもう使っていますが?」

「いいえ、俺が言っているのは属性持ちのという意味です。

 セーバーは真なる加護を持っている身なので、

 対象に亜神の加護を祝福することが出来ます。

 その代わり、真なる加護を受けられる機会は永遠に失われますが」

「その情報はどこから仕入れたんだ?」

「先日土の国でティターン様から直接伺いましたよ」

「ティターン様は四神ですけれど・・・会うことが出来る神なのですか?」


 驚きで眼を見開いて問いかけてくるノルキアに、

 肩を軽くあげながら残念なお知らせも続けて伝える。


「会えるけど、会えないってところですかね。

 俺たちがお会いしたのは分御霊(わけみたま)と呼ばれる、

 四神が作り出した分身ですし、精霊の里には許可無く入れませんから」

「そう・・・ですか・・・」

「ノルキアは精霊の・・・四神に会いたいのですか?」

「あぁ・・・まぁ。会えるものなら会ってみたいという程度の好奇心ですから、

 クランリーダーは気に成されないでください」


 別に瞳を覗いても嘘は言っていない。

 興味本位で会いたいのかぁ・・・、

 ノルキアは誠実に見えてミーハーと心のメモに刻んでおこう。


「で、話を戻すがその亜神の祝福をすると真なる加護は得られないにしても、

 宗八(そうはち)はそれを選んだんだろう?」

「当時はそんな話も知りませんでしたよ。

 ついでに選んだわけでは無く起きたら亜神の加護がいつの間にやら付いていたんです」


 寝ている隙にアルシェが祝福を掛けたのは周知の事実だ。

 今の話からその想像が出来ない者はここにはいない。

 ノルキアの視線が俺を見た後、

 何かに気がついたように視線を固めて隣のセーバーと同じタイミングで急に跪いた。

 二人の視線が向いた方向からはアルシェがマリエルとメリー、

 それから王妃様とその側近達を引き連れて俺たちの集まる部屋へとやって来た。


「お待たせしました、こちらの準備は出来ていますか?」

「防寒着は渡し終えた、手伝ったメイド達はすぐに解放できる。

 ゼノウ達も朝食を食べて準備運動を済まさせてある」

「お母様はいかがでしょうか?」

「皆が大丈夫ならばすぐに行えますよ」


 アルシェが俺に視線を戻す。

 二人の視線が絡まった瞬間にはコクンと頷きあって、

 今回の同行者たちへ動きの説明に入る。


「えー、今回我々が行く先は事前に告知していた通り、

 アスペラルダ領内にある龍の巣と呼ばれる場所です。

 いつも損な役回りで申し訳ないのだけれど、

 ゼノウPTとセーバーPTにはオベリスクの捜索と破壊を行ってもらう」

「オベリスクの捜索には周辺への魔法の放射が有効です。

 各PTの魔法を担当される方々は立ち位置をしっかりと見極めて、

 魔力の無駄減りを無くすよう心がけてください」

「「「「はい!」」」」


 アルシェの説明にゼノウPTからフランザと魔法弓を扱い始めたトワインが。

 セーバーPTからはアネスとディテウスが一斉に返事を返した。


「遠距離武器で対応するにはオベリスクは堅すぎます。

 前衛がオベリスクに集中できるように周囲への警戒と、

 近寄る魔物を追い払うなり撃ち貫くのが弓兵の役割です」

「「はい!」」


 こちらでも返事をするのはゼノウPTからはトワイン。

 セーバーPTからはモエアの2名だ。


「魔物もオベリスクは嫌がる為出会っても多くは無いと思われる。

 だが、空腹や消耗具合から凶暴化はしているはずなので、

 見つけたらすぐに連携を取るように心がけてください!」

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

「もしアイス・ドラゴンの付近で異常を見つけた場合、

 相談を挟むようにお願いします」

「俺たちはオベリスクの影響が消えたら、

 魔法武器から魔力散布をしながらアイス・ドラゴンと接触。

 そのままブルー・ドラゴンの元を目指すことにする」


 先に説明していたのはオベリスクの掃除まで。

 俺たちが危険度の高い龍に近づくと聞いて、

 ゼノウPTとセーバーの顔に皺が寄る。

 その代表として話し始めたのはゼノウであった。


「それは・・・大丈夫なのか?」

「正直なところはわからない。

 出来ればアイス・ドラゴンの中でも理性的に判断が出来る個体を見つけて、

 間に挟まってくれればとは思っているけれど、

 陣形は俺を突出させる形で奥に進む予定だ」


 水氷系魔力の散布が出来るのは七精の門(エレメンツゲート)の中でも、

 俺・アルシェ・マリエルの三人だけで、

 他のメンバーに任せる事が出来ない以上は他を引き連れても意味はないだろう。

 魔物も本能で龍には近づかないしオベリスクの影響もあるから、

 龍に近づけば近づくほど他の邪魔は入りづらい。


 一番危険なのが助けた対象に敵性判定されて襲われるというのがね・・・。


「龍の攻撃は肉弾戦と体内に蓄えている魔力を使用した魔力砲。

 ノイも加わった俺にならどちらでも対処出来る」

「対処つってもな・・・。

 龍の強さなんて想像も出来ねぇんだけど・・・」

「それは私たちも同じですよ。

 正気で襲いかかってくるなら説得しますし、

 失っているようであれば力尽くで取り戻して頂きます。

 対処出来る可能性がお兄さんしかありませんから、

 何を言ってもこれは決定事項と認識してください」


 俺の説明にみんなの視線が集まる先は、

 新たに紹介された砂トカゲの土精ノイティミル。

 防御や打撃に特化したと聞かされても龍と対峙できるとは到底思えない。

 その想いを代表する形で漏らしたライナーの台詞であったが、

 それをアルシェが無理矢理飲み込ませた。

 実際、戦いに行くのが目的ではないので、

 一縷の可能性としても全員正気で寝こけていただけという可能性だってあるわけだしな。


「目的の段階だが、

 1.オベリスクの捜索と解放

 2.アイス・ドラゴンとの接触と情報収集

 3.他障害の捜索とブルー・ドラゴンへの接触となる。

 早い段階で対応可能であれば2で終わりになるだろうが、

 最悪が3のブルー・ドラゴンとの接触だ」


 1と2はほぼ同時進行となる。

 ブルー・ドラゴンは巣の中心にいるらしいから、

 3までいくと逃げも隠れもできなくなってしまう。

 凶悪な強さと予想されるブルー・ドラゴン1体か、

 数が多くて正気を失って襲い来るアイス・ドラゴン数十匹となると、

 対処としてはどちらが楽か・・・なんて考えるだけ時間の無駄だ。


 行ってみればわかる事。

 どうせやることは変わらない。


「アイス・ドラゴンが魔力切れで気を失っていればまだスムーズに進められるけど、

 正気を失っていた場合は全員が慎重な立ち回りで捜索と掃除をする必要がある。

 各自気を引き締めて事に当たって欲しい!」

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」


 俺だけが危ないわけじゃ無いことも忘れず伝えて、

 俺たちの次なる作戦はこうして急遽始まった。


「アルシェ、宗八(そうはち)。本当に将軍達も連れて行きませんか?」

「慎重に行動するには兵士の方々では下地が違いますし、

 装備も場にそぐわないですからと説明したではないですか、お母様」

「お話は戦力の面から大変ありがたくは思っています。

 ただ、アルシェが説明した通りに龍達への刺激は少なくする必要があるので・・・・」

「そうですか?出発前だからもう私が飲み込むしか無いのでしょうね」

「すみません、ナデージュ様。お気持ちは感謝しておりますので、

 あとは信じて待っていてください」

「わかりました、では役目を果たしましょう!《召喚(サモン)!》」

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