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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第09章 -奇跡の生還!蒼き王国アスペラルダ編Ⅲ-

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†第9章† -12話-[契約精霊たちの修行]

 宗八(そうはち)が地脈を通って5時間の暇な時間を堪能している間、

 アクアはスィーネの元へ送られ、

 精霊としての質を上げる為に修行をつけてもらっていた。


『小さくてもいいから着水を順々にしていくのよ』

『ふっ!ん・・・、ふっ!ん・・・』


 アクアの周りには魔力だけで構成された玉が3つ浮かんでおり、

 それをスィーネの指示通りに着水させては魔力に戻し、

 次の魔力の玉に着水し解除をする動作を繰り返し続けていた。


『にしても、お兄ちゃんとポルタフォールに来た頃はあんな小さかったのに、

 今はアクアも1年近くでずいぶん大きくなったわねぇ・・・。

 人と同じように成長する精霊かぁ』


 自分が産まれてからこの姿になるまでに、

 どれほどの月日が掛かったかもう覚えていない。

 それでもアクアの大きさになるまで加階(かかい)を重ねるには、

 それはそれは長い年月が掛かった気がする。


浮遊精霊(ふゆうせいれい)から加階(かかい)して、里に入ってから・・・。

 あ、そうだ!その時はシヴァ様の先代であられたアンダイン様に憧れて修行を始めたんだっけ』


 アルシェの母にして現水精王シヴァは3代目水精王。

 二代目アンダインは守護者(しゅごしゃ)上がりの水精王として、

 守護者(しゅごしゃ)の育成に力を入れていた。

 いずれ来る精霊の敵を見据えての育成だったと聞いているけれど、

 実際その時が来た今となっては先見の目では水精一だと個人的に思っている。


 目の前のアクアは順調に精霊としての力を開花していっている。

 本人のやる気は勿論のこと、精神面においても仲間の存在、

 そして契約者であるお兄ちゃんの背中を追う姉妹の長としての意地。

 いろんな要素が重なり合って今のアクアの成長率がある。


 はっきり言って異常。

 精霊界にとってはこの娘たちの存在は異端。

 だからと人間のような迫害があるわけでもないけどね。

 お兄ちゃんから聞いた話だと、

 水精王シヴァ様と闇精王アルカトラズ様(は存在すら知らなかったけど)、

 それに土精王ティターン様は推進派みたい。

 推進と言っても核精霊の先を見てみたいって話だけれど。


 それにお兄ちゃんも不思議。

 妙に精霊好きする匂いがするし、他にも獣人や動物に好かれる体質みたいだし。

 アクアとアルシェの話だとシヴァ様は息子同然に扱っているらしい。

 それも出会ったばかりの頃から好意的だったと。


 勇者じゃないけど異世界に来た異世界人。

 何か秘密があるんだろうーけどね、ここから動けない私が考えてもわかりっこない。


『スィーネ~、いつまでするの~?』

『まだ30分でしょうに・・・アクアの欠点は集中力が続かないことね。

 戦闘中ならいざ知らず、訓練とか修行は苦手ね』

『だってぇ~』

『横でお父さんや妹がいないとダメなんてお姉ちゃんとしてどうなのよ』

『ぐぬぬ・・・』


 お兄ちゃんみたいな悔しそうな言葉を吐きながら再び集中するアクア。

 流石は親子・・・。


 私は守護者(しゅごしゃ)の育成課程でここまで成長した水精だから、

 教えられることも護りに重きを置いてしまう。

 お兄ちゃんはアクアを魔法戦特化型と表現していたけれど、

 正しくその通りに成長をしていくアクア。


 フォレストトーレでは大変な戦闘を体験し、

 その経験値が次の加階(かかい)に必要なラインを越えた結果、

 今回の加階(かかい)が行われた。

 この調子なら私の大きさに成長するのも10年程度で追いつかれるかもしれないわねぇ。


 まぁ、この調子で経験を積むことが出来れば・・・だけどね。



 * * * * *

『クロエ様・・・ですか?』

『えぇ。クロワは知ってるわよね?』

『はい。BOSS前の休憩小屋で受付をされている方ですよね』

『そうそう。私はクロワと同時期に成長を続けている精霊よ。

 爺様が名前を付けてくれたけど・・・センス無いわよねぇ』

『おい、クロエ。クーデルカの前で恥をかかせるでない。

 この娘は他の眷属と違って儂を大事にしてくれる良い娘なのじゃぞ』


 アクアがスィーネと修行している一方。

 クーデルカもランク1ダンジョン[死霊王の呼び声]の最奥にある、

 闇精王アルカトラズの根城へと送り込まれており、

 現在は受付嬢クロワの姉妹精霊と名乗るクロエ。

 そして闇精王アルカトラズの2名を前にお茶をご馳走しながら互いに挨拶を交わしていた。


『それにしても闇精でメイドって似合いすぎでしょ。

 攻撃には向かないもんね』

『サポートでお父さまたちの支援が出来れば本望です!』


 クーの格好と立ち姿に笑顔を見せるクロエ。

 褒められたと判断したクーはすぐさま自分の意気を伝える。

 でも、今日はお茶をしに来たのではなく、

 5時間という貴重な時間を使って修行をつけてもらいに来たのだ。


『あ、あの、アルカトラズ様。本日は修行をお願いしたいのですが・・・』

『ふぅむ、クーデルカの願いならばすぐに叶えたいところである。

 しかしまだ日中でこれからダンジョンも解放されて冒険者も多くなるからのぉ』


 時刻はまだ8時を少し過ぎた程度で、

 確かにもう1時間もすればダンジョンが解放されて新米冒険者が雪崩れ込んでくる。

 そう考えれば、

 アルカトラズ様はダンジョンコアという大玉を使って、

 倒された端からモンスターを再配置したり、

 開けられた宝箱の補充などのお仕事がある。


 修行をつけてもらえるにしても1時間で終わるのではあまり身につかない。


『そう落ち込むでないクーデルカ。

 今日はクロエに見てもらうと良い』

『え!?私?』

『お主でなくともクロワと交代しても良いぞ』

『それはそれで何かクロワに負けたような気になるし・・・。

 いいわよ、私が修行をつけてあげる』

『ありがとうございます、クロエ様!よろしくおねがいします!』

『ぐぅぅ・・・この娘本当に闇精なの?

 こんなに前向きでやる気に溢れる闇精なんてカティナ様くらいしか知らないわよ』


 クーのキラキラと輝く瞳、低身長からの上目遣い。

 その前のめりの闇精らしからぬ向上心。

 それらは全て敬愛する父と姉妹の助けになる為、

 そしてその背中に少しでも近づく為。


 やる気に溢れるその小さな闇精の姿にたじろぐ上位精霊クロエ。


『カティナのアネゴには良くお世話になっています!』

『かぁー!カティナ様とも知り合いっ!?

 こんな浮遊精霊(ふゆうせいれい)から少し加階(かかい)した程度でよく会えたわね』

『魔法ギルドに調査依頼をする際にお父さまが引き会わせて下さいました。

 以降アネゴとは懇意にさせていただいてます』

『・・・爺様、この娘規格外じゃないですか?』

『純精霊ではないからのぉ・・・規格外ではあるかな』


 アルカトラズ様はダンジョンコアを覗き込みながら、

 モンスターの配置や宝箱の確認をしつつクロエの引き気味の声に適当に返す。


『クロエ様はアネゴと同じ上位精霊なのではないのですか?』

『え? あぁ、私やクロワは確かに上位精霊ではあるんだけどね、

 位階には下位、中位、上位の中にも段階があるの。

 カティナ様は上位中の上位、私たちは精々上位中の下位なのよ』

『やっぱりアネゴはすごいんですね!』

『うぅ・・・眩しいよぉ。この娘苦手だよぉ』

『ぐだぐだ言うておらんでさっさと教えてやらんかっ!

 クーデルカを待たせるでない!』

『爺様クーデルカにデレデレ過ぎぃぃ~~~っ!!』


 がしゃどくろだから良かったものの、

 肉体があれば間違いなく唾を撒き散らす勢いでクロエを叱り飛ばすアルカトラズ様。

 このダンジョンの奥底にある外の情報が入ってこない暗闇から出る闇精とは、

 基本的に好奇心の塊だ。

 1度外に出てしまえば興味のでた分野に一直線。

 古巣に顔を出すことなどほとんどなく、

 数十年に1度戻ってくる程度の闇精の中で、

 出て行ってから短い間隔で戻り、

 さらにお茶やお菓子も振る舞うクーデルカの存在は目に入れても痛くないほどであった。



 * * * * *

「私の[アイシクルウェポン]はこの世に無い武器を造ることは出来ません。

 お兄さんの意向でニルちゃんの魔法を創るに際して、

 私に出来るアドバイスはさせて頂きますね」

『アルシェ、ありがとうですわー!』


 クーデルカがクロエから修行を受け始めた頃。

 アスペラルダ城へと戻されたニルチッイも、

 無事にアルシェとマリエルと合流を果たして魔法の調整へと入っていた。


「軽くは隊長から話は聞いていますけど、

 今回ニルちゃんが創る必要のある魔法はアクセサリーの精製なんですよね?」

『ですわー!』

「姫様、その魔法って制約が結構あるんじゃなかったですっけ?」

「あるにはあるけれど、

 アクセサリーは武器に比べると種類も少ないし、

 そこまでじゃないかしら・・・」


 1.この世に存在するアイテムであること

 2.手に入れたことのあるアイテムであること

 3.要求ステータスを満たしていること


『ニルは靴を造れるようにって言われましたわー!

 あと、武器加階(ウェポンエヴォルト)と同じように加階(かかい)させろとも言われましたわー!』

「ふぅ・・・お兄さんは結構簡単に無茶を言いますからねぇ。

 武器加階(ウェポンエヴォルト)もお兄さんとアクアちゃんが長い時間を掛けて完成させた最新魔法なのに・・・」

「その基本の部分も姫様が構想されていたんですよね?」

「そうよぉ・・・人間に属性纏(マテリアライズ)させようと考えてねぇ。

 でもダメだったの。

 それをお兄さんが他のアプローチに使えないかって考えて武器に使用することになったの」


 旅をして各地を調査して。

 それだけでは問題に直面した際に対応出来ない。

 その為に各々が工夫して魔法に強いものが魔法を開発して、

 時には異世界人である宗八(そうはち)のアドバイスやアイデアを掘り起こし、

 なんとかかんとかやってきた1年。

 その間に色んな魔法に触れてきた。


「一応弓は武器として造るしかないけど、

 矢は武器に入らないから・・・こう・・・制御だけで造ることも出来ます」

「おぉ!流石姫様!」

『アルシェすごいですわー!』


 アルシェが手本として掌を合わせて開いていくと、

 両の掌の中心から氷で出来た弓矢が精製されていき、ついに完成する。

 その光景にマリエルとニルは拍手で返す。

 妖精族であり仲間になってからずっと魔法の訓練を続けてきたマリエルと精霊のニルだが、

 それでもここまでの制御力をお互いに持ち得ていないが為に、

 その瞳はキラキラと輝きアルシェを見つめている。


「あれ?私たちに武器加階(ウェポンエヴォルト)って必要なんですか?」

「マリエルはアクセサリーの靴ってどのくらい見たことある?」

「え~と・・・カンフーシューズと安全靴とレザーブーツですね」

「その三つは膝まで護ってはくれないでしょ?」


 マリエルが頭に浮かべる靴はどれも(ひざ)下までしか護ってくれない。

 安全靴とカンフーシューズに至っては足首程度までしか丈がない。

 これでは膝蹴りが使えない。


「・・・足りないですね」

「お兄さんの構想は聞いてるわね」

「ニルちゃんとの風精霊纏(エレメンタライズ)[鎌鼬(かまいたち)]の脚技ですね!」

「普通の脚技でもマリエルの蹴りは十分な威力を発揮するけど、

 もっともっと強い打撃にする為に必要な処置よ」


 つまりはアクセサリーカテゴリの靴は魔法で精製し、

 足りない丈は武器加階(ウェポンエヴォルト)ならぬ靴加階(シューズエヴォルト)で補おうという話だ。

 しかし問題点はまだまだある。


『でもアルシェ、ニルはまだそこまで出来ませんわー!』

「そこまで?

 魔法の扱いだったら精霊であるニルちゃんに出来ないことはないんじゃないの?」

「精霊にも出来ないことはたくさんあります。

 アクアちゃんとボジャ様が同じことが出来ると思う?」

「あ~・・・そうでしたね。

 じゃあ何が出来ないんですか?」

『ソウハチは属性付きの武器を使用して加階(エヴォルト)させていますわー!

 でも、ニル達がする必要がある行程はアルシェと同じなんですわー!』


 宗八(そうはち)の場合は元から存在する武器に武器加階(ウェポンエヴォルト)を施すのだが、

 アルシェは元から魔法で精製した槍を使っており、

 それを今度は武器加階(ウェポンエヴォルト)させて蒼槍(そうそう)へと昇華させた。

 それは元の魔法を長く使い慣れていた事と、

 アルシェの魔法適正と制御力の高さによるところが大きい。


「つまり、ニルちゃんには慣れと制御力が必要な分足りていないと?」

「マリエルも水氷属性の妖精でしょ?

 ニルちゃんの手助けが出来ないから全部任せるしかないのも原因だからね?」

「それは私にはどうしようも・・・」

「それはわかっているわ。

 でも、いずれシンクロ出来るようになったら互いの能力を統合される関係で、

 マリエルも制御力を鍛えていかないといけないんだからね」

「・・・はい」


 剣士は剣の、魔法使いは魔法の、拳士は拳を。

 それぞれの職業に合わせて普通はひとつを極める為に努力を重ねる。

 しかし、精霊使いはその性質上剣だけ魔法だけではなく、

 総合的な努力が必要となり時間はいくらあっても足りない。


 それでもアルシェは魔法特化のアクアと契約をしているから、

 魔法をメインに槍を少々鍛えているし、

 メリーは支援特化のクーと契約し、

 身体能力の向上とその他諸々。

 マリエルは近接特化のニルと契約した関係とは別に、

 元からの拳士をメインに魔法を少々。


 そして護衛隊長宗八(そうはち)は、

 それら精霊全員と契約しているから・・・。


「いまさらながら隊長って大変なんですね・・・」

「そりゃ大変は大変よ。

 いつもは飄々とした態度だし表情もあまり変わらないけど、

 前に比べると私たちに相談もしてくれるし愚痴だってすぐ吐くわ。

 ニルちゃん達も基本的にモチベーションは高いからなんとかなってきたって感じではあるけどね」

『ソウハチ一人では何も出来ませんからねー!

 良く精霊だけで話し合いをしているんですわー!』


 精霊会議の存在に関してはアルシェもマリエルも知っている。

 寝る前だったり移動の休憩中だったり、

 いつもは宗八(そうはち)の周りにいるはずの精霊達がいないなぁとふと気づいたとき、

 そういう時にこそこそっと集まって軽く盛り上がっているのを見かけていた。


 自身が使う魔法の特性や連携についてや、

 他にもくだらない何もかもをいつも集まっては話していた。

 そのおかげかアルシェがアクアとシンクロする度にクーやニルの新しい魔法の構想や効果などの情報が更新されていくのだ。


「そんなわけで大変だけど、

 私たちや精霊達、そして協力者も増えていっている。

 お兄さんは人を口車に乗せて使うのに慣れていますし、

 無理な事は時間の無駄だと出来る人に任せる人です」

「私も良いように使われている立場ですか・・・。

 これも姫様の為と自分に言い聞かせてがんばりますけど・・・」

『そろそろ魔法陣の創造に入りますわよー!』

「そうでしたね。魔法式はもうコピーして調整も済んでいますから、

 魔法陣を5時間のうちに組めるだけ組んでしまいましょう」

「あの・・・私必要ですか?」

「発動はニルちゃんだけど使うのはマリエルなんだから居ないと。

 シンクロで創られる精霊魔法はその場で創られた欠陥品なのは知っているでしょ?

 ちゃんと魔法式から魔法陣を組んで正式な魔法とするには、

 トライ&エラーを繰り返さないといけないのよ?」


 こんな話をしている間にも5時間という貴重な時間を消費していた。

 ニルの一声で本来の目的を思い出したアルシェがマリエルに発破を掛ける。

 確かに魔法を創るのはニルを主体にアルシェがサポートする形で行われるが、

 使用者はマリエルなので、

 マリエルが使って違和感や副作用がないかというような細かな確認や調整を何度も重ねていかなければこの魔法は完成しない。


「というわけです。お分かり?」

「ふぇ~、わかりました。

 ニルちゃんと姫様にお付き合いしますぅ~」

「付き合うのは私で必要なのはニルちゃんとマリエルですからね・・・。

 とにかく始めましょうか、ニルちゃん」

『ですわねー!さくっと創っていきますわー!』


 精霊使いとしての自覚が未だ足りないマリエルの情けない鳴き声を聞きながら、

 アルシェは内心でため息を吐く。

 じっとして地味な作業の続く魔法の創造はマリエルの体質に合わないのは理解出来る。

 けれど、だからといっても自覚を持ってくれないと兄の脚を引っ張ることになってしまいかねない。


「シャンとしなさいっ!マリエル!」

「ひゃ、ひゃいっ!!」


 何か転機となる機会でもあればマリエルもちゃんと集中できるのかな?

 そんな事を心の中で思いながら、

 マリエルとニルを視界に捉えつつアルシェは魔法陣の組み上げを始めるのであった。



 * * * * *

『やっと着きましたね・・・』

『う~~~~~んっ!肩凝ったぁ~~~~~っ!』

「くぅふぁああああああああ・・・・あぁぁぁ。

 やっぱり5時間動かないのは辛いな・・・」


 ナタイエ村から地脈移動を開始して5時間。

 俺と上位土精であるパラディウム氏とネルレントさんは、

 各々が欠伸だったり肩を回すストレッチだったり伸びをしたりと、

 楽だが辛い長時間移動で凝り固まってしまった身体をほぐしていく。


 今回の移動でたどり着いた町は、

 土の国へ入る為には本来必ず通らなければならない関所の手前にある町のひとつだ。

 ここまで土の国に近いと、

 森ばかりだったフォレストトーレ領内にも大きな岩がゴロゴロと転がり始めている。


 今回の出口となった露出した鉱脈も、

 その岩が密集した地帯の一角に存在していた。


「そして出口ももちろん草木で隠れていて一般人にはわからない・・か」

『見つかれば掘り起こされて私たちの貴重な移動手段が絶たれてしまうので、

 ここを寄る土精はみんな状態を確認して見つかりそうだったら隠すんですよ』


 確かに水精の水脈移動は水源から水源へ移動するものだけど、

 水源を隠す事は難しいし、

 水源が見つかったからといって掘り起こすようなことはしない。

 しかし、鉱脈は掘れば掘るだけ商品へと変化させることの出来る貴金属が出る可能性がある。

 ネルレントさんの説明も納得のいく話だ。


「ここなら人目にも着きづらいけど、

 ここに近づく俺たちが見つかって探されても面倒ですから、

 少し離れた場所にゲートを設置しますね」

『あ、そうですか。心遣いありがとうございます』

「いえ、共生は互いが気をつけるラインをしっかり護れば問題は起こらないものです」

『???』


 共生って言葉はなかったのか。

 説明も面倒なので肩を上げる動作で誤魔化し、

 さっそく気配を消して鉱脈から離れる。


 大体100mほどだろうか。

 ここまで離れた森なら、

 例え俺たちを見て探しにきたアホが居たとしてもすぐに諦めが付くだろう。

 何せ視界に映るのはフォレストトーレでは当たり前の森なのだし、

 大きな岩もなく見つかるのも小さな小石程度だから、

 あちらのデカい岩のある鉱脈エリアまで探しに行こうとは思うまい。


『あら、着いたんですか?』

「アニマ。お前仕事がないからって寝てたろ」

『仕事がないのに起きている必要もないでしょう?』

「無精の魔法には回復もあるし、

 他にも出来る可能性のある魔法の見当とかあるだろうが」

『リジェネとサークルヒールは構想だけですが出来ています。

 私も王ではあっても契約は始めてなので、

 魔法の創造も初体験なの、です!』


 言葉ははっきりしているのに目元を擦りながら分離して登場したアニマ。

 俺の嫌みにも欠伸をひとつ挟んで自分の考えをしっかりと告げてくる辺りが、

 他の姉妹と比べると場数とか度胸とかが違うなぁと思う。


『他にも姉妹の魔法の特性も覚えないといけませんし、

 ワタクシァ結構頑張っているの、です!』

「まぁ王様が理解しないと眷属も使いこなすことは出来ないか・・・」

『・・・・』


 仕方ないかと溢した台詞にアニマからの返事がない。

 視線も感じるしアニマを見てみるとチラチラと上目遣いをし、

 言いたいことがあるのに言いづらいとモジモジしている様子だ。


 わかるぞ~、アニマ。

 時々視線は感じていたからそうなんじゃないかと思っていたからな!


「今なら誰も見てないから抱きしめてやろうか?」

『いっ!?い、いい、です!

 別に抱きしめられてみたいとか思っていませんからっ!』

「そうかそうか残念だなぁ~、アニマも抱きしめたいなぁ」


 ピクピクと動く眉毛。

 閉じられた(まぶた)が唸るのに合わせて、

 目端に皺が出来るほど力強く絞められ、

 否定はされておられるが悩まれているようにも見えるアニマ様。


「えい」

『ファっ!?なななな、何をしているのですか!宗八(そうはち)!』

「姉妹の扱いに差を作らないと言っただろ?

 他の3人にはスキンシップしているのにアニマはあまり俺に寄って来ないからさ、

 俺からスキンシップするしかないだろぉ?」

『王としての威厳もあるの、です!

 姉妹は見ていなくとも宗八(そうはち)に纏う無精の眷属は居るのですよ!』

「まぁまぁ、俺が好きで抱きしめているんだし良いではないか。

 アニマはマスターの我が儘で抱きしめられているって事でいいじゃないか」


 未だ受肉していないアニマは重さも感じないし小さい。

 暴れ回っても掌に納まる身体ではどんなにジタバタしても俺から逃げることは叶わず、

 徐々に俺の誘惑に抗う力を失っていき、

 ついには(うつむ)いて黙り込んでしまった。


 片手で俺の身体に押しつけられる形で抱かれるアニマはとりあえずこのまま放置して、

 俺は俺でパラディウム氏達を待たせている手前、

 トロトロしている暇もあまりない。


 空いた手の指先に魔力を集めて黒く輝き始めたのを視認してから、

 手早くゲートをさささっと描き上げる。

 念の為に設置にミスっていましたでは話にならない為、

 魔力を込めた武器を近づけて反応をするか確かめる必要がある。


 その為にインベントリへと空いた片手を突っ込み、

 新たに手に入れた片手剣を握りしめて亜空間から引き抜いていく。


 片手剣 :ガルヴォルン

 希少度 :プチレア

 要求ステ:STR/30 VIT/28 DEX/20


 アルシェの誕生パーティが終わり、

 自室へと帰ってきた俺の目の前に木で出来た箱が2つ、

 テーブルの上に包装がされた状態で置かれていた。

 送り主は手紙も付けられていたので王様と王妃様ということは分かっていたが、

 中身に関しては武器だろうなぁという予想は出来ていた。

 何しろ以前にイグニスソードを頂いた際の木箱なんだもん。


 うちひとつから出てきたのがこのガルヴォルン。

 刀身は珍しく片刃の剣で、

 黒曜石かと見紛うほどの真っ黒い剣でもあった。

 つまりはゲートを開く度にメリーからアサシンダガーをいつも借りていたけど、

 この武器のおかげで完全に個人運用が出来るようになったのだ。


 11月生まれなのだが立場上誕生パーティを開いてもらう訳にもいかず、

 俺自身もそのような機会は不要だと判断していた。

 その事で王様や王妃様だけでなく、

 この世界で出会って懇意にして下さっていた方からも軽いプレゼントが届いていた。


 王様方がプレゼントくださったガルヴォルンは、

 別に闇属性の武器というわけではないが、

 俺たちが検証した結果に準じた黒い剣身をしている。

 その為、いただいてすぐに試してみたところ、

 黒鍵(こっけん)としてもきちんと機能を果たすことが確認された。


「《召喚(サモン):クーデルカ》」

『うわぁ!』

『っ!?』ビクッ!


 闇魔法およびに時空魔法を俺個人ではまだ利用が出来ない。

 いや、より正確に言えば制御力だけで名前の無い魔法を使うことは出来るのだ。

 しかし、魔法は発動後にどこを狙うとか発射の遅延など、

 調整をすることの出来る時間が一拍ほどあるのだが、

 魔法と違って俺の制御力で使うものは、

 すぐに発動してしまい剣に吸い込ませることが出来ない。


 その為、ゲートの設置はクーが時空に不得手な為俺にしか出来ないのに、

 ゲートの開閉はクーがいないと出来ないという謎の使い勝手になってしまっている。


 設置は出来た。

 なので、着いてすぐに念話で呼びかけていたクーを、

 覚えたばかりの召喚(サモン)で呼び寄せると、

 地面に座り込んだアニマル形態のクーデルカが初めての召喚(サモン)に驚きながら出現した。

 とは別に胸元へ抱き寄せているアニマは、

 身体をビクつかせた後に、

 音もなくスッと俺の手と身体に挟まれる自身を無精の鎧へと溶け込ませた。


『お待たせ致しました、お父さま!

 今、アニマの気配が居た気がするのですが・・・あれ?』

「さっきまではお前達の代わりに出てきて話し相手になってたけどね、

 クーが来たから役目に戻ったよ」

『そうですか・・・。

 それにしても召喚(サモン)すごいですね!

 本当に距離も関係なく一瞬でお父さまの元まで転移しましたよ!』


 身体を駆け上がりながら問いかけるクーに軽く答えたが、

 俺の言い分には嘘が混じっていても父が隠すなら言う必要が無いし、

 おそらくアニマのためになるのだろうと考えるクー。

 そのまま思考は召喚(サモン)の方へとシフトしたらしい。


「まぁタイムリミットはあるし、

 サブマスターには出来なかったりと制限は色々あるみたいだけどな」

『それでもMP消費なく使えるのは素晴らしいと思います。

 あ、そうでした。まずはゲートのテストでしたね』

「そうそう、念話で伝えていたとおりな。

 でも、大きい町も近いし時間も時間だから、

 このあとアクア達も呼び出して一緒に昼ご飯を食べよう」

『あ、でしたら一旦戻ってその旨を伝えてきてもいいですか?

 お父さまがゲートテストの為に呼んでいるとしか伝えていないので・・・』

「あぁ、行っておいで」


 その後のゲートの確認もすんなりと完了してクーはそのまま召喚(サモン)の解除で死霊王の呼び声へと帰って行った。


『・・・クーは帰りましたか?』


 クーの帰還を確認したからか再びアニマが姿を表す。


「帰ったけど、昼飯を食べる為に他の姉妹も一緒に呼び出すから2人っきりはお仕舞いだよ」

『べ、別にそんな事は気にしていません!

 もう宗八(そうはち)の契約精霊であり、

 この胸の核がある限りは最終的には抗えないと理解はしましたが、

 姉妹の中でも王としての尊厳は護りたいだけ、です!』

「はいはい、わかったわかった。

 その護りがいつまで持つか静かに見守っているよ」

『ふんっ!』


 そう言ってふて腐れたようにまた俺に纏うアニマ。

 1人だけ王様の生まれ変わりって事で姉妹仲とかも一時は気にしていたけれど、

 脳天気でも責任感のあるアクアを筆頭に、

 しっかり者のクーに脳天気なニルが、

 それぞれの接し方でアニマとの距離を徐々に詰める努力をしている。


 この前、精霊会議を行うときもアクアがわざわざ俺の前まで来て、

『アニマ貸してぇ~!』って言って来たし、

 そのまま戸惑うアニマの手を引いてどっかに行ったからまず間違いないだろう。


「仲良く出来ているようで俺としては安心してるよ・・・」

水無月(みなづき)さーん!どこまで行かれましたかぁ!』


 森の奥から俺を探すパラディウム氏の声が聞こえてきた。

 そういえばゲートを設置してくると伝えて離れたっきり結構な時間が経っていた。

 この後は昼ご飯に移動時間もあるし、

 明日の件もあるから早めに合流して今日の動きを確認しておこうかな。


「はーい!今行きますので待ってて下さい!」


 さて、セリア先生にもノイにも一旦連絡を入れておくかね・・・。

いつもお読みいただきありがとうございます

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