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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第09章 -奇跡の生還!蒼き王国アスペラルダ編Ⅲ-

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†第9章† -10話-[土精の手引きと誕生パーティ]

いつもお読みいただきありがとうございます

『ところで以前お見かけした無精とは別に数名の幼い精霊が居られますが、

 全員契約精霊なのですか?』

「そうですよ。ノイもこのくらいの幼い精霊ですが、

 話はどのくらいまで確認出来ているんですか?」

『我々はあの後土精の自治領に王から呼び出されまして、

 実際にノイティミルと顔も合わす機会も頂きました』

「ということは1週間でアイアンノジュールと往復したんですね」


 水精が使う長距離移動法である水脈移動と似た方法だろうか?

 以前アクアが使った時は初めての試みでもかなりの速度だったが、

 上位精霊が使えばもっと遠くへより早い移動が出来るのかもしれない。


『いえ、王の力と申しますか・・・、

 眷属を手元に召喚と元居た場所へ送還が出来るのですよ』

『今回私たちを呼び出したのはアイアンノジュールに居られるティターン様で、

 伺った話の説明とノイティミルへの事情聴取だったんです』

「なるほど」

『では、1週間のうちのほとんどは土精王からの召喚待ちだったのですね』


 精霊の保護者は眷属の動向を感知できるだけでなく、

 手元に呼び寄せる神業も持っておられるらしい。

 じゃあ誘拐された時点で召喚して助ければ良いじゃないと思ったんだけど、

 そこは利用に関しても条件があるとの事。


「魔法生物の頂点に居られるひとりでも世の中上手くは行かないのね・・・」

『ますたー?』


 俺の世界の作品にも召喚を気軽に行う話は存在する。

 故に召喚をするという行いに対し、

 久し振りに子供心がくすぐられた俺は、

 掌を地面に向けて腕は水平に真っ直ぐ伸ばす。


 その動きと内心に響く何かに反応を示したアクアは、

 露天に並ぶ品物から座り込んだまま視線を上げて俺を見上げる。


「《召喚(サモン)!アクアーリィ!》」

『うあぁぁぁぁあああああ~・あ?・・あれ~?』


 周囲は呆然。

 俺もお~出来た!って感じだったけど、

 アクアは俺の詠唱の瞬間にどこかの空間へと吸い込まれ、

 かと思えば俺の掌が向いている地面にポンッ!と立った状態で姿を表した。

 それは正に一瞬と言っても過言ではない速度だった。


『アニマ、お父さまが使われた今のは王の使う召喚と一緒ですか?』

『そう・・・ですね。

 感じた魔力の流れ方も覚えがあるものでした・・・。

 おそらく同じものと言って良いかと思います』

『アクア姉さまはどちらに行かれていたのですの-?』


 そうだ。

 確かに一瞬ではあるがアクアは座り込んだままの状態で姿を忽然と消し、

 次の瞬間には立った状態で俺の前に再び現れた。

 本人の様子を伺うに状況を理解できていない様だし、

 先ほどから腕を組んで右に左にと頭を揺らして悩んでいる。


『王の召喚は魔力や現世の理に縛られたものとは違い、

 繋がるパスを通して引き寄せることで召喚を行うの、です!

 なので・・・いまアクアは、

 宗八(そうはち)との間に持っている、

 パスという名の何人たりとも侵すことの出来ない世界を渡り、

 ここに再び現れたの、です!』

「さっきは座っていたのに召喚された時に立っていたのは?」

『パスは強固なれど狭いので、

 一度精霊の身体を分解してから再構築しているの、です!

 なので、どんな格好で召喚されても再構築されれば立ち姿で現れます。

 ちなみに分解と再構築が挟まるので、

 何かしらの繋がりがあろうとも精霊以外には無理ですからね』


 別に精霊以外で試そうとか思っても居ないし、

 試せるほどの繋がりがある多種族もいないんだよ。

 そんな雑談を挟む間に再びアクアは瞬間移動したかのような超スピードで、

 もともと居た露天商品の前にしゃがんだ状態で現れた。


『これが土精王が召喚を使って浮遊精霊を救えない理由です。

 召喚は送還も含めて成り立っていますから、

 我々のように話を聞くだけならともかく、

 誘拐されたあとの精霊を召喚しても時間が経てば元の場所へと戻って行ってしまうんですよ』


 召喚と送還。

 親と子というよりは保護者と庇護者を繋ぐパスによって行われる召喚技術。

 俺にも出来たこととアニマの話を鑑みるに、

 契約する前のアクア達はそれぞれの四神から召喚されることが出来たのだろうが、

 今は俺がその役を契約により奪ってしまったから召喚権利も譲渡されたってことか・・・。


『これって魔法とは違うの~?』

『魔力は使いますが厳密には魔法ではありませんね。

 さきほども言いましたが別の理を持つパスから引っ張って召喚が成立しています。

 距離は関係ないのは当然として、

 おそらくですがオベリスクの影響下でも召喚は可能でしょう』

『では影倉庫(シャドーインベントリ)の範囲外や、

 遠く離れて連絡も取れないような状況になっても、

 お父さまとは一時的に合流は出来るということですね』

『四六時中一緒にいる今だと使い道はあまりありませんわねー!』


 正にニルの言うとおりだ。

 離れても町数個分で連絡自体も念話を使えばオベリスクは関係ないし、

 この召喚(サモン)は顔を合わせることによって、

 互いに怪我がないことを確認する程度にしか今のところは使いどころがない。

 新しい技術が手に入ったと喜びたかったけど、

 正直精霊使いと王では使う用途も違うのだし俺たちには必要がないという事実に落胆しか覚えなかった。



 * * * * *

「話を戻しますけど、

 召喚の内容からして俺たちは召喚出来ないんですよね?」

『はい、そうなります。

 土精王が召喚できるのはあくまで管理下の土精だけ。

 水無月(みなづき)さん達には申し訳ないのですが、

 直接向かって頂くこととなります』

『で、でもですね!

 ティターン様と顔を合わせられる人間は貴重ですし、

 報償も極力求めるものを用意すると言われておりますよ!』


 じゃあ報酬はアイアンノジュールまで送ってください!

 と頼もうとしていた身としては、

 もう報酬にしても選択肢はひとつだけになってしまう。


「ノイと会ったのなら俺の欲しい報酬についても聞いているのでは?」

『ノイティミルは、マスターなら加護を欲しがると思うです!絶対です!と。

 ただ、私共としても直接確認が必要だったので・・・』

「行きが自力なら報酬は確かに加護が一番ですけど、

 パラディウムさん達がくださるんですか?」

『あ~、それもなんですが・・・。

 ティターン様が直接お会いしたいとの事なので、

 勝手に加護を渡すことも出来ず・・・』


 ぐぬぬ。

 直接礼をしたいという意思は確かに伝わるんだけどさ、

 別に俺だけじゃなくて色んな人が協力した結果助けられたわけだし、

 加護さえ貰えるのであれば俺は満足なのだが・・・。


 とはいえ、こちらは頂く身。

 会いたいと言われればその流れに身を任せる事も必要だろう。

 それにノイの成長についても手を貸して頂いたらしいしね。

 俺からもお礼はしたいところではある。


「話はわかりました。

 召喚での移動が出来ないのであれば、

 このまま予定通りに旅を続けてアイアンノジュールまで向かうこととします」

『いえいえ、それには及びません。

 水無月(みなづき)さんは我々が連れてくるようにと仰せつかっていますので、

 ここから1週間ばかり行った村から地脈移動でアイアンノジュール手前までお連れします』


 ほう、やはりあったな土精専用の移動方法。

 水脈移動の特徴から考えれば、

 地脈移動は鉱脈が地上に露出している場所から繋がる同じような場所への移動といったところかな?


『村の名前は何と言うのですか?』

『ナタイエ村です』

『お父さま。

 ナタイエ村であれば念の為と言ってゲートを離れた場所に設置しています』


 うちの素晴らしくも賢い小さな猫耳メイドさんが、

 すぐにでも行くことが可能だと報告してくれる。

 俺としてもすぐに行きたいには行きたい。

 どうしてかと言うと・・・・。


『これからアルの誕生パーティーがあるよ~?』


 というわけで、

 旅の間に誕生日が過ぎてしまっていたアルシェの誕生パーティーを、

 遅ればせながら今夜開催される運びとなっていた。

 姫様なら日中から始めて、

 アスペラルダ領内の方々から偉い人達が集まるんじゃないのか?

 と思われるかも知れないが、

 いつ帰るかも知れない姫の為に何ヶ月も掛けて王城に来なければならない事と、

 同じく滞在時間というか拘束時間も発生してしまう。


 そんな王族の訳はあっても勝手な事情に地方の方々を巻き込むのは、

 治政としても良くないので、

 王様は遠方の方々には今年はひとまず来なくても良いと伝えたところ、

 俺たちが帰ってきた頃合いに遠方の貴族達から特急便でプレゼントが続々と届いていた。


 そして近場の貴族や町長も実はすでに登城済みで、

 数日前から滞在されている人も結構な人数に及んでいた為、

 人数的にも日中からではなく今夜行おうという事が決定していたのだ。


「その村にすぐに移動することは可能なのですが、

 今日はこの後どうしても外せない予定がありますから、

 改めて明日に伺ってもよろしいですか?」

『それはもちろん、水無月(みなづき)さんの予定に合わさせて頂きます。

 すぐ移動出来るという事は精霊関係の移動方法があるのでしょう?

 我々はどうしましょうか?』

「御二人は何時頃から露天を開いていますか?」

『私たちは場所取りの事もあるので、

 露天エリアの開放が始まる6時にはこちらに来ています』


 露天エリアの朝は早い。

 このカマクラモドキをそのまま放置して帰れば、

 この場所は確保したも同然ではないのだろうか?

 とはいえ、その時間はまだ俺も朝練をしている時間帯だし、

 また9時くらいがちょうど良いかな。


「では、朝の9時頃に合流してナタイエ村へ一緒に向かいましょう。

 そこからアイアンノジュールまではどのくらいですか?」

『今回はパラディウム様が送りますから、

 プルゥブトーアへの移動が5時間程度。

 その後次のトレアーズ村へ徒歩での移動がまた1週間程度あって、

 そこから8時間ほどでアイアンノジュールまで行けますよ』


 アクアの水脈移動がアクアポッツォから王都まで14時間と考えれば、

 国を超えての距離を途中徒歩で1週間取られるにしても、

 13時間というのは破格の移動速度だ。

 流石は上位精霊というわけだな。


「じゃあ、明日はトレアーズ村まで移動してそこで御二人には1泊して頂き、

 翌日にアイアンノジュールまで移動というのはどうですか?」

『かまいません。

 村にも狭いですが宿泊施設は用意されていますし、

 長時間拘束はお互いに辛いですからね』

『ソウハチ、今日はもう帰りますのー?』

「いまから移動を再開してもあまり距離を稼げないからな。

 今日は帰ってそのまま時間までゆっくり過ごそう。

 汚れたままだと出席出来ないしな」

『確かにそういった意味では今日は早めの撤収はした方がいいでしょう。

 皆、おめかししなければならないでしょうし』


 というわけでノイにはパーティが始まる前の空き時間にでも連絡して、

 明後日迎えに伺える旨を伝えておこう。

 どうせ返答としては、

「そうですか、思ったよりも早かったですね。・・・早く来て下さいです」

 とか、もう待つのも限界だと訴えてくるだろうな。

 最近連絡をすると出会った頃のいじっぱりはどこかへと消え、

 まだです?いつです?まだです?いつです?と会話の途中で言うくらいだし。


 それとおめかしとアニマが言っていたが、

 風呂に入ったあとに時間がかかりそうなのは俺だけで、

 精霊達の衣装は自前の魔力でどうとでもなるのでどちらかと言えば、

 どんなドレスを着るのか選ぶ方が時間が掛かるだろう。


「明日からはその予定で動きましょう。

 今日はこれで失礼しようかと思いますが良いですか?」

『はい、ではまた明日。

 朝9時から移動開始ということで』

「では、また」

『ありがとうございましたー』

『ばいば~い』

『失礼致します』

『さよーならーですわー!』

『失礼します』


 こうしてこの日はアルシェの誕生パーティが行われる為、

 別行動から早めに撤収し、

 俺たちは護衛隊としてもパーティ中は小綺麗な格好をしてアルシェの近くに居なければならない。


 こんな時でしかアスペラルダ領内にいる各方面の人物たちに、

 俺たちの存在をアピールする機会がないらしいからな。

 通ってきた各町の町長達ならともかく、

 アスペラルダ領にはいくらでも町や村が存在するし、

 関所や砦といった重要拠点にはそれなりに偉い貴族が駐在している。

 将軍たちと同じ位を与えられて兵士ではなく貴族を取った人達だ

 な。


 色々とコソコソ動いている所為で味方にすら噂程度の認知度しかない。

 アルシェの誕生日は祝いがメインではあるんだけど、

 護衛隊を正式にお披露目する良い機会としても王様方は見られているらしい。


 さて、堅っ苦しいピッチリとした格好をしに帰りますかね・・・。



 * * * * *

『ご立派ですお父さま!』

「ありがとう、クー。

 お前はその格好でいいのか?」

『はい!クーはあくまでお父さまのメイドなので!』


 護衛とはアルシェの近衛ではあるのだが、

 いつもの装備は一旦解除して会場の守りは兵士の方々にお任せしている。

 まぁ、その方々も交代でパーティには参加するんだけどね。


 俺も守りに参加するって伝えたのに、

 本日の守護を担当する方々には即行で却下された。

 何でですかと聞いたら、

 アルシェが本当に気を許してパーティを楽しむ為にはお前が必要だと言われた。

 マリエルは残しますけど?と聞いたら、

「おま・・・いやもう黙って姫様の隣にいてくれ」と呆れ気味に言われた。

 なんででしょうね。


『馬子にも衣装というやつでしょうか?』

「なんでその言葉を知ってるんだよ」

『アクア達ほどまでは行かずとも宗八(そうはち)の記憶を覗くくらいは出来ますからね』


 さいでっか。

 この場にはアクア以外の精霊がいろんな衣装を見て決めたデザインから、

 魔力を用いてすでに正装へと着替えを済ませていた。

 アクアはマリエルと一緒にアルシェの元へ行っており、

 そちらでメリーを主導で幾人かのメイドと共に着替えをさせられている。


『ソウハチ-!どうですのー?ニルの格好変ではありませんのー?』

「変じゃないよ。

 会場に入ったら浮遊はいいけどあまり飛び回るなよ。

 精霊を見慣れていない人の方が多いから変に騒がれても困る」

『わかっていますわー!』


 部屋内をビュンビュンと飛び回るニルに注意しつつも、

 精霊達の格好をみていくが、

 やはりアニマは態度が王様然としていて落ち着いている所為か、

 格好さえ整えばどこぞの令嬢かと思えるほど似合っている。


『なんですか?』

「良くお似合いですよ、アニマ様」

『当たり前、です!こんな時だけ敬っても遅いの、です!』

「じゃあ今後も敬わなくても良いな」

『ちょちょ、ちょっと宗八(そうはち)!?

 何もそこまでは言っていないのですよ?いつでも敬ってくれていいの、です!』

「ツーン」

宗八(そうはち)ーーー!!』


 なんのかんのとアニマも俺たちに馴染んできたと思う。

 俺は契約で絆が産まれてしまった為、

 それ相応の対応となるけど、

 アクア達精霊姉妹に対しても態度が徐々に軟化してきている。

 そりゃ数日に一度顔を合わせて妹扱いされる程度なら、

 王としての意思の力で跳ね返せるのだろうが、

 毎日四六時中妹扱いされては流石のアニマ様といえど否定を続けるのにも疲労が見えてくる。


 今はまだアクアやクーと名前で呼んでいるけど、

 いずれはニルの様に姉さまと付け始めるか、

 呼び方は変わらないけど逆に敬い始めるかもしれない。


 俺も小学と中学の頃はアニメや漫画の影響で姉の事を名前で呼んでいたけど、

 最終的には姉ちゃんで納まったし、

 俺からは何も言わなくても落ち着くところに落ち着くでしょう。


 コンコンッ!

水無月(みなづき)様、ご用意はよろしいですか?」


 ちょうど全員の着替えも完了し、

 アニマが俺の服を小さな手で掴み騒いでいるタイミングでノックが。

 案内役のメイドさんが来たようだ。


「はい、大丈夫です。入って下さい」

「失礼します」


 入ってきたのはまだ20歳を過ぎた程度と思われる女性。

 ドアを開けてまずお辞儀をしたメイドさんは、

 視線を各々に移していき最後に移ったクーの姿をみてニッコリを笑った。


『お疲れ様です、ミアーネさん』

「お疲れ様です、クーデルカ。

 パーティの流れについては姫様の元へ案内してからの説明となるそうです」

「わかりました、案内よろしくお願いします」


 このミアーネさんはクーの同僚で先輩にあたるらしい。

 入ったばかりのメイドさんは足音も立ってしまうのが特徴だけど、

 このメイドさんは足音がないので割と長く使えているのだろう。


 ギー・・・・。

 そんな関心をしながら彼女の後ろに付いて廊下を歩いていると、

 前方を歩く彼女の足下から音がなった。


「・・・申し訳ありません、少々緊張しているもので」

「俺は構いませんけどね、

 俺自身が偉いわけじゃないんですから今から緊張していては持たないのでは?」

「私に与えられた本日の従事で一番の大役が水無月(みなづき)様の案内なので、

 以降はパーティの配膳などの従事に戻りますので」

『お父さまは知らないかもしれませんが、

 アルシェ様の護衛というのは大変な名誉ある役割ですし、

 あまり接点を持つことが出来ない為、

 必要以上に緊張してしまっているんです』


 彼女が踏んだのは侵入者を知らせる為にわざと音がなるようになっている箇所で、

 基本廊下は音が鳴らないように注意すれば静かなものだが、

 その箇所に関してはどんなに注意をしても音がなってしまう。

 今回ミアーネさんは緊張の為、

 その箇所を踏んでしまったのだ。


 王様の懸念はこういった部分に由来するんだろう。

 クーが言う通りにミアーネさんだけでなく他の大勢が俺という存在に対して、

 警戒というか扱いに困っているのだと思われる。


「パーティでも余計なことはしない方がいいかな・・・」

『いえ、王様の意向から考えれば積極的な対話をされた方がいいでしょう』

『ソウハチー、お喋りするなら笑顔でお願いしますわー』

『そうですね、宗八(そうはち)はあまり表情が変わらないので人柄が分かりづらいですし』

「ホンマにー↑?」

『お父さま、顔も動かしてください・・・』


 これでは駄目らしい。

 テンションだけで乗り切るのは難しいようだ。

 まぁ任せろ、外面(そとづら)は良いと親には良く褒められたものだ。

 面白いとも思わないイベント周りに合わせて笑顔を浮かべるなど造作もないことさ!

 身内しかいない環境なら気を許してあまり表情も動かないだけだし。


 コンコンッ!

水無月(みなづき)様方を連れて参りました!」

「どうぞ、入って下さい」


 案内された部屋はアルシェの個人部屋ではなく、衣装部屋なのだろう。

 ミアーネさんの掛け声の返答として中からはアルシェの返事が返ってきた。


「では、私はここまでとなりますので失礼致します。

 クーデルカ、後はメリーさんとよろしくおねがいします」

『はい、ミアーネさんも以後の従事よろしくおねがいします』


 ミアーネさんとクーがそれぞれお辞儀をして去って行くまで見守ると俺はドアノブに手を伸ばした。



 * * * * *

「お疲れ様です、お兄さん。

 まぁ!クーちゃんは専属メイドなので仕方ありませんが、

 ニルちゃんとアニマちゃんはお似合いですね!」

「それを姫のアルシェが先に言っちゃいかんでしょうが。

 アルシェもお疲れ様、良く似合ってるじゃないか」

「ありがとうございます、お兄さんもお似合いですよ」


 部屋に入った瞬間にアルシェは精霊達の衣装を褒めてきたので、

 注意と共にアルシェ自身の衣装も褒めた。

 褒め合いもほどほどにして視線を隣にいるマリエルにも向ける。


「アニマ、これこそ馬子にも衣装じゃないか?」

『・・・まぁ言いたいことはわかりますけどね』

「隊長、アニマちゃん?なんですか、その馬子にも衣装って・・・。

 絶対に良い言葉じゃないですよね?」

「いやいや、褒めてるんだよ。

 普段は動きやすい格好をしているけどやっぱ偉い立場のお孫さんなんだなってさ。

 ドレスを着れば良く見えるじゃないか」

「ふぅ~ん?まぁいいですけどね。

 それよりアクアちゃんを見て下さいよ!姫様とお揃いですよ!」

『ますたー、みてみてー!』


 マリエルの言葉を受けて、

 さっきまで姿の見えなかったアクアがポテポテと可愛らしい足音を立てながら俺の足に抱きついてくる。

 こらこらそんなことをしたら皺になっちゃうだろ。

 俺はしゃがみ込みながらアクアの脇に手を入れて、

 改めてシャンと立たせてその姿を確認する。


「よぉーく見せてみ。

 ほぉ、確かにアルシェとお揃いで良く似合ってて可愛らしいじゃないか」

『えへへ~』


 抱きついた事で出来てしまった皺を伸ばしながらアクアの格好を眺めてみると、

 もともとの格好がドレス風の衣装だったことから似合いとは思っていたが、

 大きくなって顔の造形も以前に比べるとはっきりしてきたおかげも相まって、

 アルシェと並ぶと姉妹かと見紛うほどに本当に良く似合っていた。


「この後の流れはどうなるんだ?」

「はい。本日はこの後会場に入りましたら中央奥に3席用意されております。

 その真ん中にアルシェ様が座られ、左右は王様と王妃様が座られます。

 ご主人様とマリエル様はその左右に並んで頂くこととなります」

「アルシェではなく王様たちの横でいいのか?」

「ご主人様方が少し離れる代わりに、

 アクアーリィ様とクーデルカ様が足下に立って謁見者が何かしたとしても防いで頂きます」

『あ~い』『かしこまりました』


 クーはともかくアクアは事前に話を聞いていたからか、

 文句も言わずにいつもの返事を返しているが、

 では名前の挙がらなかった2名の精霊はどうするのか?


「ニルチッイ様はじっとしていられないので、

 遊撃と称して会場内を好きにしていてください」

『自由ですわー!』

「顔見知りの人の近くには居ろよ。

 捕まえられたら事情説明出来る奴がいないとパーティが台無しに成りかねないからな」

『わかりましたわー!』

「アニマ様は・・・如何致しますか?」

『まぁ、戦闘をするわけでもなく受肉もしていませんからね。

 宗八(そうはち)の隣にでも浮いていましょうか』

「かしこまりました。

 パーティは前半と後半に分かれておりまして、

 前半が先の多方面からの謁見。

 後半は会食をしながらの・・・となっております」


 前半が取り入る為の貢ぎ物タイムで、

 後半が繋ぎを作る為のアピールタイムというわけね。

 俺はその間アルシェの近くにへばり付いて、

 適度に食事と飲み物と精神的疲労の回復に努めるのが本日のお仕事なわけだ。


「後半は俺も飯を食べてもいいのか?」

「もちろん問題ございません。

 後半は私もアルシェ様の側に付きますし、

 アクアーリィ様やクーデルカも側に付きますので目は十分かと」

『クーはお父さまの、侍従長がアルシェ様の側仕えとなります』

「現時点で怪しそうな人とかは確認できているのか?」

「今回のパーティは、

 基本は近隣の町長や貴族が来ている程度で、

 人の入りも抑えられていますから全く身分の分からない者が入る余地はないです」


 最後の質問に答えたのはアルシェだ。

 本来の催し通りなら一人や二人そんな人物が出来てくるのか・・・。

 どんな目的で来たんだろ。


「侵入の多くは小規模の商人が多いですけどね。

 目当てが私ではなく横の繋がりを作りに来ていたんですよ」

「あぁ、商売の手を広げたくて各町のお偉方が集まる誕生パーティを利用したのか。

 なんとも商魂逞しいことだな。

 じゃあ今回の護衛って何から護るものなんだ?」

「いざという時でございます」

「・・・結局いつも通りって事か」

『流石はお父さま!飲み込みが早いです!』


 念の為とはいえ必要な形式美なのだろうし、

 お仕事としてしっかりと熟させて頂きますがね。

 おそらく近隣のということは、

 ポルタフォールの新町長となったイセト氏に、

 アクアポッツォの町長であるベイカー氏にご子息のライラス君。

 主に楽しみに出来るのはこの人達くらいかな?


 ライラス君はアクアの成長やニル、アニマの姿にどう反応するかな・・・。

 一応な、彼は娘達の友達だし・・・な。

 遊ぶだけならかまわんよ。


「そろそろ会場へ向かいましょうか。みんな準備はいい?

 マリエルもお兄さんもアクアちゃん、クーちゃん、ニルちゃん、アニマちゃん。

 少し

 窮屈な時間かも知れないけれど、付き合って頂戴ね」


 いざ、誕生パーティへ!

 俺も俺でアルシェにおんぶに抱っこではいけないので、

 後半の挨拶回りではそれなりに動かないとな!

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