†第9章† -09話-[家族団欒、それぞれの修行]
いつもお読みいただきありがとうございます
「帰って早々色々と動き回っているようだが、
それほどに忙しいのかい?」
アルシェに呼ばれた夕食会は、
当然アスペラルダ国王と王妃がクーに案内された部屋には居られたのだが、
突っ込みたいのはそこではなく、
いつもの長~いテーブルが置いてある部屋ではなかったので、
あれ?とは思っていたのだけれど、
まさか普通の丸テーブルに鍋料理が置かれて、
それを国王一家が囲んでいるとは夢にも思いはしていなかった。
困惑する俺を余所に、
3人がどうぞどうぞと座らせるのでとりあえず王様とアルシェの間に座り、
勧められるがままお椀を受け取って、
掬われるがまま鍋料理を注がれ、
促されるままに食べ始めた矢先に王様からの質問が飛びだしてきた。
ちなみに鍋料理は先の話に出てきたケチョム鍋らしい。
「まぁ、色々と忙しくはありますね。
足りないこと、足りない人、やっておかなければならないこと・・・、
上げればキリがありませんが、
1つは今日終わらせてきました」
「喜んでくださいましたか?」
「う~ん、喜んでいたかはわかんないな。
途中で当の2人は気を失ったし、
奥様方からは不安な色も見て取れたけど、
説明はしているから今後様子をみていくつもりだよ」
「そうですか」
嬉しそうな顔のアルシェ。
彼女は俺がアスペラルダに戻ってまず何をするかの見当が付いていたらしい。
俺ってそんなにわかりやすいのかな?
そんな俺たちの会話を、
質問をした当人が置いてけぼり状態だったため、
改めて確認のお言葉が耳に届く。
「では質問を変えよう。
2人だけでわかりあっている様だけれど、
今日は何をしていたのかね?」
「あ、すみません。
今日は移動用魔法のゲート設置の代わりに、
買い出しの手伝いを頼まれていたフォレストトーレの牧場に朝から行っていまして、
その後は土の国に向けて移動をし、
夕方に目的の1つを済ませました。
内容はキュクロプス戦でドロップアウトの原因となった両手の治療です」
「あぁ、覚えているよ。
レイドに参加して棍棒を受けてしまった者達だね」
「でも宗八?
あの手の治療は聖女様や神聖教国のシスター、
そのごく一部にしか出来ない類いのもののはず・・・」
「はい、なんとか。
デメリットはありますが治療をする術を身につけました」
「それはすごい事だ。
デメリットとはどのような形で起こるんだい?」
「治療に必要な栄養を根こそぎ強制徴収するので、
しばらく栄養失調でベッドから動けなくなってしまいます」
「確かにそれはデメリットですね・・・。
それでも教国まで行かなくとも治療を受けられるというのは、
我が国としては良いことです」
確かに教国まで行かなくても良いし、
順番待ちで数ヶ月経つってこともないんだけど、
如何せん闇魔法だし俺しか使えないしで、
あまり国にとって本当に良いのかと疑問を持たざるを得ない。
「あ、そうです。宗八」
「はい、なんでしょうか」
「精霊が増えたのですよね。
私にも紹介してくださらないかしら?」
「軽い話は私がお母様にしたんですけど、
正式な紹介はしていなかったので・・・。
それにアニマ様の事もありますし・・・」
鍋越しに交わされる王族との話とはなんという違和感だろうか。
次に王妃様から精霊の紹介をお願いされた。
これにはアルシェが手回ししていたらしい。
「アニマは確かにしばらく王妃様と一緒に行動させるのもありだな。
いま俺の部屋で食事をしているので、
ちょっと待ってください。
アニマ、みんなを呼ぶ間紹介しててくれ」
『ワタクシに場繋ぎを任せるとは・・・とんだ契約者、です・・・。
アスペラルダの現王、そして現水精王の分御霊、
初めまして。
ワタクシはこんな態ではありますが、無精が王アニマと申します』
「「・・・・」」
「お父さま、お母さま。
アニマ様が挨拶されているのですから、
驚くのはあとにしてください」
「「はっ!!」」
始めて見るアスペラルダ王族によるコントを目の当たりにしながら食べるトマト鍋は美味い。
遠退いていた意識はアルシェの注意で引き戻され、
居姿を改めた王様と王妃様は、俺たちのすぐ後ろ。
つまりはアニマの目の前に移動してきて、
頭を垂らした謁見の間でアルシェや俺たちがやっていたポーズを取り始めた。
「お初にお目に掛かります無精王アニマ様。
現在はシヴァ様の加護の元、
アスペラルダの治政をさせて頂いておりますギュスタヴ=アスペラルダと申します。
アニマ様の功績は妻からかねがね伺っておりました。御拝謁出来て光栄です」
「私はナデージュ=シヴァ=アスペラルダと申します。
語り種に登場される精霊王にお目通り叶い恐悦至極にございます」
王様と王妃様のフルネーム始めて知ったな・・・。
ズズズ・・・。
『都合上宗八の契約精霊として復活はしましたが、
ワタクシァまた1からの成長が必要となっていますから、
今しばらくは四神に任せることとなるでしょう。
それにしても水精王シヴァは面白いことをされているのですね。
分御霊に名まで与えて人と添い遂げるとは・・・』
「精格を長い刻を掛けて人に落とし込んで、
ようやっと手にした一つの幸せの形です。
なにとぞ認めてくださいますよう願います」
『別に今は貴女方四神の時代ですし何を言うつもりもありません。
今代で復活はしましたけれど、
成長したから役目を再び戻すというのも時代の流れから適切か不明ですし、
もしかしたらワタクシ達が考えているものとは別の世界へと変わるかも知れない、です』
「ありがとうございます。
アニマ様の躍進を心からお待ちしております」
すごく厳格な空気を撒き散らしながら行われた王様達とアニマの会話は、
出会い頭の対話だった事もありひとまずの終話を見た。
そそくさとアニマから離れて再び着席するも、
まだ緊張を残す表情の王妃につられて王様も若干の居心地の悪さを覚えているようだ。
『宗八、ワタクシは役目に戻っておきます』
「はいはい、お疲れ様」
その2人の心情を汲み取りその場から姿を消す選択をするアニマ。
流石に気が利くアニマの対応にアルシェも俺も感謝をしつつ受け入れた。
「お父様もお母様も、お二人のあのような態度は始めて見ました」
「そりゃ、な。
母さんの前の前の水精王のそのまた前に存在していたと聞き及んでいる方だぞ。
人の身である私や三代目水精王の分御霊である母さんは、
アニマ様の足下にも及ばない矮小な存在なのだよ」
「だそうですよ、お兄さん?」
「今はアクア達精霊姉妹の末っ子ですから、
あまり特別な感情を持って対応したくはないんですけどね」
「宗八はアクアやアニマ様と契約をしているのだし、
この世界の住人である私たちとの感覚の差は仕方ないわ。
私たちは私たちの、宗八は貴方と精霊の絆を基準に対応すればいいわ」
「ありがとうございます」
『ますたー!来たよぉ~』
アニマとアスペラルダ王族の挨拶が終わった頃合いに、
ちょうど影から精霊3人娘が移動してきた。
その様子をみた王様が脇に置いておいた鈴を鳴らすと、
メイドさんの一人がドア向こうから現れ、
指示のもと精霊の高さにあった椅子を俺たちの間に挟んでいく。
「貴女方は今し方用意した小さい椅子に座りなさい。
アクアは・・・そういえば加階が進んで大きくなっていましたね・・・」
「王様と王妃様の前であれですけど、
膝上でも良ければ・・・」
『ホントっ!』
『ダメですっ!大きくなったお姉さまが特別扱いでは不満が出ます!』
『まぁ、クー姉さまの意見にニルも賛成ですわー。
アクア姉さまは加階されてからソウハチに甘えすぎですわー』
椅子に身体の規格が合わないなら仕方ないとため息交じりに提案した内容を聞き、
嬉しそうな声を上げて卓上の料理を見ていたアクアは笑顔で振り返ったのだが、
異議ありっ!とばかりに珍しくクーからお小言というか、
ぶっちゃけ不満が飛び出し待ったを掛ける。
そのクーの言い分にニルも同意を示して却下を告げる。
「でも、アクアちゃんの身長だと立ちながらでないと食べられませんよ?」
「おやおや、宗八は契約精霊みんなに好かれているんだね」
「いやまぁ、一応親役ですしそれなりの良好な関係は築けているかとは思います」
「じゃあ、アクアは私の膝の上にいらっしゃい。
他の娘も宗八を独り占めしなければ不満もないでしょうし、
私も小さい頃のアルシェを思い出して若返った気になりますしね」
アクアの席についてどうしようかと考え始めた矢先に、
パンッ!と手を叩いて然も名案だとばかりに王妃様が代案を出してきた。
実年齢はともかく見た目だけで言えば流石は精霊王の分御霊なだけあり、
めっちゃくちゃ若々しいんですけどね。
王様もエネルギッシュで歳よりも若く見えるし、
今度旅から帰ったらアルシェの弟とか知らぬうちに産んでいそうである意味怖い。
『ん~、アルのお母さん~?』
「水精の王でもあらせられるから・・・元母親?」
「宗八が今は親なのですから、そうですね・・。
人種で言うなら・・お祖母ちゃん、でしょうか?」
「では私はお祖父ちゃんかな、ふふふ」
ふふふじゃないが・・・。
嬉しそうなご両人の中ではすでに俺は養子になっているんだろうな・・・。
『オババ~!オジジ~!』
「はぁ~い♪おばばですよ~」
「はぁ~い♪おじじですよ~」
「いいんですか、お兄さん?
私は・・・別に、いいんですけど?」
「面倒だしいいんじゃないか?
2人が嬉しそうだからこのままアクアに任せてしまおう」
王妃の提案にひとまず乗っかった俺たちは、
嬉しそうにアクアを膝上に乗せる王様と王妃様に、
独り占めを回避した事で満足した顔のクーとニル、
そして若干頬を染めてニマニマしているアルシェという謎の空間へと変容してしまったが、俺は色々と諦めてトマト鍋を突き続けるのであった。
* * * * *
「《水竜一閃》」
翌日早朝。
兵士の方々が起き出して朝食を食べ始める頃合いに、
俺は一人で修練場の案山子に向けて破壊してしまわない程度の一閃を無造作に撃ち放つ。
剣先から魔力の刃として飛んでいく水竜一閃は、
青色を基調とした光る魔力で構成され、
案山子に当たるとそのボディを大きく軋ませながらに薄ら傷をつける。
次に同じような動きで詠唱をせずに剣を振るうと、
威力が抑えられた一閃が案山子へと飛んでいき、
今度はそのボディを小さく軋ませるも傷は一切付かなかった。
「《氷鮫の刃》」
次に剣先を下へと向け、
地面を軽く擦らせてから剣を切り上げる動きを行うと、
剣の動きに合わせて氷で出来た大きめの刃が地面から生えてきて案山子へと向かう。
これは流石に魔力ではなく質量を持った攻撃の為、
兵士の大事な案山子を破壊してしまうので直撃前に魔力へと還元してしまうと、
地面を走っていた氷の刃は青い魔力となって空気に混ざっていく。
今度も同じく無詠唱で地面から斬り上げを行うも、
刃の大きさが半分程度となり、
地面を走る速度もたかが知れる程度に抑えられてしまう。
「魔力は魔法剣が増幅したものを使うとはいえ、
今のままだと魔力の供給に俺の攻撃が比例しないんだよなぁ」
俺の魔法技術はこの戦法を取り始めた頃に比べれば段違いに高まった。
それは自身の努力であったり、
精霊使いとしての成長が主な理由となるのだが、
同じく制御力のレベルも上がってきている今、
消費MPに関しても徐々に抑えられる一方で威力は保持・・・いや、
上がっていっている。
「《蒼天を穿て!氷刃剣戟!蒼天氷覇斬!》」
上へと振り上げた剣を詠唱と共に思いっきり振り下ろす。
目標は案山子に当たらないギリギリを自分に出来る限界に調整した。
結果的には大型モンスターを討伐することが出来る巨大な氷剣の剣身が地面から生え、
案山子の肩を掠って地味に削り取った。
こちらも他の魔法剣と同じように無詠唱で同じようにイメージだけで振り下ろすと、
人と大差のない大きさのモンスターであれば真っ二つに出来る程度の氷剣がその隣に並んだ。
魔法を発動させるに中って、
そのイメージとは一番と言って良いほど大事なものだ。
どこから放たれ、
どこへ向かってどのように動き、
どのような効果を生み出すのか。
しかし、実際に視界に捕らえた目標に向けてのイメージはそう簡単ではない。
完璧なイメージなどはまず不可能で、
映像は不鮮明な部分が多分に含まれてしまう。
それを支援するのが発声によるイメージの底上げ。
普通の魔法使いであれば詠唱=待機魔法陣で発動となるので、
イメージすることも発動位置くらいなものだが、
俺の魔法剣は魔法陣を介さない。
オリジナルの技術の為、
魔法陣はおろかそれを形成する魔法式すら創らず、
完全オリジナルの魔法剣は俺たちの制御力のみで発動していた。
つまり、俺たちの魔法の根幹において、
イメージ力というのはそれほどまでに重要なものなのだ。
無詠唱において発声の有無に差を付けないことが、
俺の魔法剣をさらに磨き上げることに繋がるということはずっと気がついてはいた。
それでも鍛えるのには努力を旅途中で続けていたものの、
現状が俺の最大値になる。
「う~ん・・・やっぱり使い続けるだけが道じゃない・・・か」
経験を積めばその練度はあがる。
何に対してもそれは絶対の理である。
しかし、身体を動かすことだけで使用するわけではない魔法剣は、
この方法だけではダメなのだ。
その別解答を俺は知っている。
瞑想だ。
俺の駄目なところは集中力にムラがあること。
俺という精神を形成する20年近い人生のほとんどで、
俺は何かに集中することがなかった。
器用貧乏というスキルは人生において楽を出来る反面成長には繋がりづらい。
その才能に胡座をかき、
生きるという意味を見出せなかった俺は、
早く死なせてくれと神に祈りを捧げて死んでいない生活を繰り返してきた為、
何かに熱中するということも集中するということもやったことがない。
そんな面倒な事をしなくてもなんとかなってきたからだ。
なら、自殺すればいいじゃないかって?
そんな事をすれば俺の転生が遅くなってしまうじゃないか。
俺は次の人生にまで迷惑を掛けたくはない。
だから何かアクシデントでもいいから自殺以外の死を神に祈っていたのではないか。
蒼剣を地面に突き刺した俺は、
次に雷光剣を装備して同じように武器加階を施し翠剣へと変化させる。
これも蒼剣の横に突き刺し、
こうやって装備させるのは本当に久し振りとなる、
ブラックスケルトン戦で一部の剣身が欠けてしまったイグニスソードをインベントリから装備した。
「《ヴァーンレイド》セット:イグニスソード」
詠唱で発声した火の玉はイグニスソードへと吸い込まれていき、
やがて脈動と共に剣身内で魔力の増幅が始まると、
欠けた部分から反復が行われる度に炎が吹き上がる。
こっちは流石に武器加階させると完全に壊れてしまうかもしれない。
なのでこの状態のまま制御だけで上限に達してしまった魔力は俺が排出させるしかない。
この三属性の剣を目の前の地面に刺して、
その場にドスンと座り込み胡座を組むと、
俺はそのまま瞑想へと入った。
精霊にはそれぞれ支配領域というものがある。
アクアは水、クーは影、ニルは風というように、
制御力による支配力が強い方が魔法の発動においても優位に戦況を勧める事が出来る。
今回は属性関係なく俺自身の魔法制御力の支配域内に剣を刺しているので、
瞑想で集中しながら魔法剣の制御を同時に三剣とも行う修行となる。
その日の朝。
誰もが修練場から三色の輝く何かが空へと上がっていき、
そのまま姿を煙のように消えていく様子を目撃することとなった。
* * * * *
私、アクア。
水無月宗八をマスターとして契約した、
精霊姉妹のなかで長女として生活している水精のひとりなの。
「おはようございます」
『おはよ~』
マスターの朝は早い。
少しでも強くなろうと努力をしているから、
みんなが起き出すよりも前に起きて、
今は修練場で訓練をしているはずなの。
さっきからマスターの魔力が高くなったのを感じている。
兵士の人たちがいない朝の静かな時間。
城内を歩くのもアクアとメイドさんくらいしかいないから、
すれ違うのもメリーやクーと同じ格好をした女の人ばっかりだ。
「朝も早いのに何をされているのですか?」
『ますた~が俺が訓練している間に身体を動かしておけって~』
「身体でございますか?それは何故でしょうか?」
『アクアはね、加階・・・進化が進んでもう空が飛べないの~。
だから歩く訓練をするために散歩しなさいって意味なの~』
アクアはもう浮遊できない。
マスターはそれを予想していたみたいで、
加階が終わったあとから暇を見つけては運動をさせられている。
疲れるには疲れるんだけど、それは別に嫌じゃない。
マスターの言うことは大体アクアや姉妹の為だし、
準備運動はマスターを独り占め出来る。
姉妹が増えるのは嬉しいけど、
マスターがアクアに構ってくれる時間が減るのは悲しい。
「精霊という存在を詳しくは存じませんが、魔法だけではダメなのですね。
クーちゃんもそのような事を?」
『クーもニルもまだ寝てる~。
クーは浮遊がまだ出来るから必要がないんだって~』
「アクア様はお辛うございますね」
『長女は大変なものだって、ますた~も言ってた~。
でも、そんな姿をみて下の子は続いてくれるって言ってた~』
「そうですね。
上の立場の方が行き先を示してくれるだけで下の者は安心できますから、
家族であればそれも顕著でしょう。
申し訳ありません、足をお留めしてしまって」
『いえいえ~、じゃあね~』
別れたメイドさんはお辞儀をするとアクアが来た方向へとまた歩き始めた。
クーの事をクーちゃんと言ってたから一緒に働いたことがあるのかもしれない。
アクアも留めてしまった足を再び活動を再開する。
なぜならマスターも頑張っているのにアクアがサボっているのは良くない事だから。
それもしてもクーはすごい。
マスター達の話にアクアたち精霊はほとんど参加しない。
それは話の内容がよくわからない事と、
確認したいことがあればマスターやアルが呼んでくれるからだ。
でもクーはマスターのお手伝いをちゃんとしている。
人間の話合いにも時々参加しては情報の提供や自分の意見を言っている姿を見たことがある。
『得手不得手だっけ~?
クーは冷静で支援に特化しているからってますたーは言ってたな~』
お前は魔法戦特化とかニルは近接戦特化とも言っていた。
実際よくわかってない。
アクアは賢くない。
だから自分には出来ない話にも参加できるクーに、
自分のやりたいことを早々に見つけて実際にやっているクーにすごいと思うのだ。
そのクーがアクアのことを追いかけてくる。
初めて会ったときからずっとアクアをすごいすごいと言ってくれる。
すごいクーがすごいすごいと言うアクアは、
クーの期待を裏切らない為にも努力をしないといけない。
マスターの記憶の中にこんな言葉を見つけた。
見栄。
アクアは見栄っ張りだと思う。
マスターは言った。
努力は嫌なことを頑張って行うことだと。
この散歩はアクアだけが早起きしてやらされているし、
2人はベッドでまだ寝ていてアニマもマスターに纏ったまま寝ている。
そんな散歩だけど別に嫌じゃない。
マスターとする秘密特訓だから。
お姉ちゃんとしての立場を守れるから。
散歩自体が嫌いじゃないから。
『ますたーも散歩好きだしね~♪』
聞いた話と覗いた記憶から朝3時から出発して7時半に帰った時もあったらしい。
アクア達はマスターと人のように血の繋がりはない。
それでも契約するときの魔力だったり、
いま胸に納まる核による繋がりでマスターの情報はアクア達にしっかりと受け継がれているみたい。
この散歩好きもきっとマスターから伝わったんだと思うと、
足も弾んでなんだか楽しくなってくる。
「おはようございます」
『おはよ~』
この日何人目になるかもわからないメイドさんと挨拶して、
時々雑談もしつつ散歩は続く。
マスターから連絡があるまで歩き続ける。
時々廊下に置いてある椅子で休むけどね。
* * * * *
朝は訓練、日中は土の国を目指して精霊達と共に飛び、
夕方にはアスペラルダへとゲートで戻り、
アクアはスィーネの元へ届けて、
クーはアルカトラズ様とクロワさんの元へ連れて行って訓練をつけてもらう。
城に戻るとポルトーやトワインといった魔法剣関連のアドバイスや訓練を監修、
アルシェは姫としてのお勉強と訓練を城で行い、
マリエルは拳闘兵士に混ざって一般兵や副隊長の相手を毎日させられていると聞いている。
ゼノウとライナーは色んな隊に混ざりつつ、
鍛錬と百人組手みたいな経験積みを延々と繰り返しているらしいし、
フランザも魔法兵の正式な鍛錬だけでなく、
アルシェと時間が合えばアドバイスを貰いながらも一緒に訓練をしているとの事。
メリーの訓練とかの話は聞かないけど、
城にいる間のレベル上げも結構謎な部分があったから、
たぶんどっかでコソコソ努力をしているんだろうさ。
そんな平和な日々が1週間ほど経った頃。
土の国方面にある町を一つ越えて2つめの町に近づいていた矢先、
アインスさんから連絡が入り、
マリーブパリアのギルドから連絡があって、
確認が取れたとだけ伝えて欲しいと言われているってさ。
内容と町の名前からあの土精2人組の件だろうと当たりを付けて、
その場にゲートだけをささっと作成してからフーリエタマナへと移動した。
「アニマが言ってた通り、
土精は精神的にのんびりしているかもな」
『あれから1週間以上ですからね。
防御や創作が得意でも動きがどこか鈍いのが土精なの、です!
その分仕事はきっちりとするものも多いですが・・・』
『ノイはどうだったかなぁ~?』
『ノイさんとクーはあまり面識もないですしずいぶん前なので覚えていないですが、
そのような印象は受けなかったと思います』
『ところでー、ノイさんはニル達姉妹の5番目になりますのー?』
そう、迎え入れるのは全然全く問題ではないのだが、
いつまで経っても解決の目を見つけられないのがその精霊姉妹問題だ。
浮遊精霊としての経年で言えばおそらく一番長く、
しかし加階の順番で言えばアクアに次ぐ2番目であり、
出会いも2番目であれば契約も仮契約とはいえ2番目、
だが正式な契約は未だしていないという立場的に微妙なところなのだ。
実年齢はアクアより上で、
契約はクーより上で、
精神年齢はアニマに次いで2位だろうという印象で、
この姉妹の間にノイを割り込ませると序列が変わって、
クーの大事な「次女」という立場を守れなくなる。
とっても難しい問題だ・・・。
『それならアクアとツートップにすればいいのではない、です?』
「どゆこと?」
ギルドの前に先に露天エリアに向かうべく歩く間の雑談で発生した問題に、
最年長者だが末っ子扱いされているアニマ様からご助言をいただいた。
『つまりアクアとノイティミルを長女として扱って、
クー達以下妹はそのままの扱いでいいのでは?と。
クーもノイさんと言っていることから自分より上だと思っているのでしょう?』
『それは・・・お話は聞いていましたし、
お父さまにも協力してくださいましたから下とは思っていませんが・・・』
『アクア姉さまとクー姉さまが認めている方ならニルに異存はありませんわー!』
「アクアはノイをどう思ってるんだ?」
クーも複雑ながらこの話に同意。
ニルも異存はないらしい。
そこで精霊姉妹の長女でも在らせられるアクアちゃんに聞いてみよう。
俺の横で腕を精一杯上に伸ばして俺と手を繋ぎながら歩くアクアさん、
いかがでございましょうか?
『ん~、ノイかぁ~。
頼りになるしでっかいのもノイいないと無理だったし~、
う~ん、上も下もないかなぁ~』
「じゃあ解決じゃん。
アクアとノイは異母姉妹の双子で同列って事でいいな」
『あい』『わかりました』『ですわー』『妥当なところ、です』
異母の双子とかもう意味分からんな。
昔に聞いたことがあるの24時間以内に妊娠した女性が別の男性と情事をすると、
父親が違う双子が産まれる症例があるらしい。
精霊に母という立場の存在はいないので、
俺は誰とも知らない女と24時間以内に寝たことになるのだろうか・・・。
『宗八、居ましたよ』
「おー、やっぱ目立つなぁアレ」
『どれどれ~?』
「商品の前に土で出来た小さい山があるだろ、アレが目的地だ」
『怪しくて人が避けているように見えますが・・・』
「どっちかと言えばあのラインナップなら子供が食いつくから大丈夫だろ」
前回もメイフェルが立ち止まらなかったら素通りは確実だったろうしな。
確か商品はお守りに人形に不出来な楽器だったから、
せめてあの山から出てきて声出しをしないと売れんじゃろ。
「こんにちわー、居ますか?」
『はいはーい、いらっしゃいませ-!
んん!?あ、パラディウム様!水無月さん達が来られましたよ!』
『おぉ!来られたか!っ痛!
おい、ネルレント!さっさと出ないかっ!』
『ちょちょちょ、押さないでくださいよ~。
狭いんですから慌てずに行きましょうよ~』
『馬鹿者!前回にお会いしてからどれだけ待たせたと思っているのだっ!
お前は早く出なさい!』
『ひぇ~』
なんとも賑やかなことだ。
男性体の土精であるパラディウムさんの方が立場は上でのんびりではないらしいが、
女性体の土精の方は生来ののんびりさんのようだ。
目の前で起こっているわたわたと狭い山の中での茶番に、
俺はもちろんアニマも前回の教訓から静かに見守る。
他の精霊達もその様子を騒がず、露天商品を見物しながら待っている。
『ノイと違うね~』
「そうだな」
『ノイさんはどんな方ですの-?』
『クー達姉妹の中で言えば・・・アニマに近いでしょうか』
『アクアはクーに近いと思うよ~』
『どっちにしろ、しっかり者という事、です』
そんなこんなでこちらは静かなものなのにドタドタと慌ただしく穴倉から出てきた土精2人組。
『お待たせして申し訳ありません、水無月さん』
『それにしても連絡をしたのは今朝なのにずいぶんと早かったですねぇ』
「まぁこちらはこちらで動いていましたから、
別に待ったという認識はないので気にしないでください。
早かったのはまぁ・・・独自の移動手段を持っているので」
さて、土精からの恩返しとやらはどんな内容なのか。
それによっては今後の動きも変わる可能性だってあるんだ。
視線を自称他称共にしっかり者のクーとニルに向けるとコクンと小さく頷いてくれる。
2ヶ月もあるが2ヶ月しかないのだ。
もしもノイを時間を掛けずに迎えられる方法があるならば、
どうにか交渉も踏まえて手にしたい。
瞑想は時間がある今が一番効率がいいし、
実践訓練にしても時間を掛けたい。
がんばっていきまっしょい。




