†第9章† -05話-[勇者と聖女との別れ、約束のマリーブパリア]
いつもお読みいただきありがとうございます
「水無月宗八と言ったか・・、ひとまずは先の模擬戦ご苦労であったな」
「勿体なきお言葉ありがとうございます」
「フフフ、良いところまではいったのだがまだまだだったのぉ。
だが・・どうやらクレチアに気に入られたらしい。
模擬戦の後にでも煽られたか?」
「っ・・!流石はクレチアさんの守護対象です。
もっと本気を出してほしかったそうです」
「フフフ、ファハハハ!
あやつはいい歳のくせして目聡いからのぉ、
水無月の中に何か自分の知らない力を察して見たかったのだろうて」
「評価頂き、あ、ありがとうございます」
爆笑召されておられる教皇様と対話をしているのは先の謁見の間。
クレチアさんとの模擬戦も終えて、
再びこの部屋まで戻ってきたのだが、
クレチアさんも戻ってきているんですからねっ!
お言葉に気をつけないと何されるかわかりませんよ、教皇様っ!
教皇の隣でニコニコ顔で怒気を隠さないクレチアさんを視界の端に捉えながらも、
教皇様へお辞儀と感謝の言葉を伝える。
「さて、アルカンシェ姫殿下」
「はい」
クレアもメリオも教国側の位置に立っているのだけれど、
教皇がアルシェを呼んだ声に引っ張られるように緊張感を高める。
お前らが気にすることじゃないんだから、
他人事の顔で立ってればいいだろうに・・・。
「アスペラルダが集めた情報のすべてを信じるにはまだ決定打に掛ける。
だが、クレシーダとプルメリオの意見も無視は出来ぬ価値があり、
姫殿下の護衛隊長もこちらの合格基準を見事にクリアした」
アルシェは返事をしない。
最後まで聞くという姿勢で続く教皇の言葉を待つ。
俺も俺でやれるだけはやったと思うから、
駄目だったとしても王様に頭を下げる覚悟は出来ている。
「まず・・・フォレストトーレへの遠征は約束しよう」
「ありがとうございます」
「次にアスペラルダから回される情報についてだが・・・、
これについては教国の制度から都度会議を行って決める事となる。
しかし、私の一存では決められない事が逆に貴国に対して有利に働くかもしれぬ」
「短い時間での検討に感謝致します。
今後もご協力頂けますように良い関係が続きますように願っております」
「教国も同じ道を辿りたくは無い。
フォレストトーレの現状を各々が己の瞳で確認した結果が影響するだろうて」
「今はその回答で満足と致します。
ゲートに関しては設置させていただいてもよろしいでしょうか?」
結果的に半信半疑を越える事は出来なかったけれど、
前向きに検討するって感じなのかな?
なんでアルシェも教皇もはっきりと言葉にしないんだろうな。
一般人にもわかるようにお話ししてね!
メリオもクレアも俺と同じで喜んで良いのかわからないって顔してんぞ!
どうやら教国の廃都行き確定がアルシェの中での本日最大の報酬のようで、
俺の隣で安堵と共に誇らしい顔をしている。
まぁアルシェが満足なら俺はそれでいいんだけどね。
続けてアルシェはゲートに関して確認を取る。
「そちらはすぐに回答しなければならなかったのでな・・、
模擬戦後にすぐ投票を行い過半数が設置に賛成の記入をした。
ただし、大聖堂内は安全性の面から候補から外れ、
町の中の空き家を提供しようと思うがどうかのぉ?」
「寛大なご配慮感謝致します。
ありがたく提案受けさせて頂きます」
上記会話の内容をアルシェに後々確認をしたところ、
アスペラルダと教国が同盟を結ぶわけでは無いが、
俺たちの行動を支援する為に教国で調査を進める際に自由に出来る拠点を提供してくれたらしい。
言葉にはしない教皇たちではあるけど、
暗に国内の調査は黙認する事の意思表示なんだとか・・・。
俺にはわかりませんな。
* * * * *
「本日は謁見の時間を割いて頂きありがとうございました。
これで私たちは退散致します」
「いやこちらこそ、クレシーダを護って頂き感謝する。
ギルドから回される資料にはしかと目を通す故、
回答にはしばし時間を頂きたい旨をアスペラルダ王へ伝えて頂けますかな?」
「しっかり伝えさせて頂きますわ」
最後にアルシェが返事を返した時点で空気がガラリと変わり、
謁見の時間の終わりを告げる。
振り返るアルシェの顔は姫の時のものではなく、
普段の妹の顔になって教皇の御前なのに普通に話しかけてきた。
「さあ、帰りましょうか。お兄さん」
「いいのか?」
「えぇ。教皇様が許可をくださいましたのでもう話して大丈夫ですよ」
「サーニャ、N-3ー63地区にある空き家へ案内して差し上げなさい」
「かしこまりました」
特有の緊張感が解けてからは、
俺とアルシェ、教皇様はサーニャさんに話しかける。
アスペラルダであれば謁見が終われば間から退室する事で終わりとなるが、
教国の謁見はまた違うらしく、
その場で終了のタイミングがあったらしい。
「では、私はお見送りに・・」
「駄目でございますよ、クレシーダ様。
もうお時間もお時間ですし、
聖女がホイホイと見送りに行かれるものではございません」
「そうですね・・・、
私もクレシーダ様とはここで別れたほうがいいかと思います」
「アルシェ・・・」
帰りの空気を出す俺たちの動きを察したクレアが、
見送りに行くと立候補をして上がった手を、
クレチアさんが説得しながら下ろしていく。
その意見に同意を示すアルシェは、
個人的は会話ではなく場所に合わせた対応として愛称では呼ばずに優しく言葉を掛ける。
「・・・クー」
『はい、お父さま』
「アルシェ、影に入れ。
サーニャさん一緒に入って頂けますか?」
「・・・なるほど、協力致しましょう」
「お兄さん、ありがとうございます」
「??」
いまいちこちらの意図を察しきれなかったクレアは頭にクエスチョンを浮かべるが、
アルシェとサーニャさんはすぐに理解を示してくれた。
俺の指示にクーが影を操作して3人の足下に俺たちの影を伸ばしてゆっくりと飲み込んでいく。
「何をしているのかね?」
「飾らない言葉で別れを惜しんでいるんです。
少し聖女様をお借りします」
「トーニャが落ち着いていなければ問題になっておりましたよ?
以後先に伝えてください、水無月様」
「申し訳ありません。
アルシェ様の後は俺が交代しますので」
クレアがアルシェとサーニャの2名と一緒に影に沈む姿を見て、
教皇様から質問を、
クレチアさんからは注意を頂いてしまった。
こういう場は久し振りなのでつい気を利かせたつもりだったけど、
事前に確認や報告は必要だよね・・・。
「メリオも疑問とかが出たり、
調べた方が良さそうな情報を掴んだら連絡してくれ」
〔わかっています。
時間もあまりないですし何か分かればその都度連絡します〕
「何でもかんでも聞くんじゃ無いぞ。
俺たちだって自分たちの事をしなきゃならんからな」
〔詰まればってことですね。
エクスもカリバーについて思い出した事とかあれば探す手がかりになるし、
そういう時に連絡します〕
俺たちの役割については説明もして理解をしているメリオとの別れ。
クレアの様に別れを惜しむ様子はないけれど、
どこか頼りにしているのか連絡を取りたがっているように感じたので、
さっそく過度な連絡は拒否を示し、
必要な分だけの連絡をするようにと線引きをする。
そして、勇者としてメリオに同じ異世界人として発破を掛けた。
「まぁ、そうだな。無理しない程度に頑張れ勇者。
勇者だからといって異世界で色々背負う必要は無い。
仲間もいるんだからちゃんと相談とか愚痴とかはちゃんと吐き出すんだぞ」
〔はい、ありがとうございます。
なんだか水無月さんはこちらの世界の人とは思えない時がありますね〕
「何言ってんだか・・・」
焦るわ-。
変な察し方は止めて頂きたいわー。
やがて影から出てきたアルシェと交代する形で俺は影の中に沈んでいくと、
真っ暗な空間の中にクレアがちょこんと待っていた。
「アルシェとはちゃんと別れられそうか?」
「水無月さん・・・。
対等・・とはまだ恐れ多いですけど友達になれましたから、
やっぱりこのまま別れちゃうのは寂しいですね」
「・・・今回の別れ前に俺に何かしてほしいことはあるか?」
シュンとして俺の言葉に返事をするクレアは、
トコトコと俺の前までやってきた。
今日を合わせて合計3日一緒に行動しただけの関係で、
よくもまぁここまで仲良くなったものだ。
落ち込む姿に何かしてやろうとクレアに訊ねる。
「・・あたま」
「はいはい、撫でれば良いのね」
「////やっぱり、撫でてもらうのはいいですね。
あ、そうだ!
水無月さんに私の秘密をお伝えしておかないとっ!」
「秘密?アルシェと仲良くなったってのなら見てて分かってるぞ?」
「それも無関係ではないんですけど、
もしかしたら水無月さんに嫌われるかもしれない秘密です・・」
俺に撫でられてフワッとなったクレアからの突然の告白。
秘密なら無理に話す必要はないだろうけど、
クレアの口ぶりからアルシェにはすでに伝えているのかもしれない。
なんだろうな?
「実は私・・・なんです」
「・・・・・うせやろ」
耳打ちされた事実を聞いて、
俺の視線はクレアの顔と下半身を何度か往復する。
ま?だって聖女・・・、じゃあ選定基準ってなんだよ・・。
「教国の人達はみんなわかっててクレアを聖女のポストに就けたのか?」
「国民には流石に流布しておりませんけど、
先の謁見をしていた部屋にいる者達は知っています」
なんてこった。
だからアルシェが焼き餅を焼かなくなったのか・・・。
いや、というかその秘密を俺に教えるメリットってなくないか?
何故教えたし・・・。
「私の信頼の証とでも思ってください。
フォレストトーレでの出来事は大変でしたけど、
初めての実践の空気と共に役割など勉強させられる時間でした。
そういう経験をくださった2人への感謝と、
私の本能が秘密を預けるべきだと訴えたので」
「何を乙女みたいな事を言っとるか・・・。
まぁその秘密を聞いたからにはクレアの為にも胸に仕舞っておくさね」
「ありがとうございます!
あ、この耳飾りはどうしましょうか?
フォレストトーレで連絡用にと渡されたっきり借りっぱなしでしたけど・・・」
「え?あー・・・」
俺としては別に預けたままでもいいと思っている。
メリオはまたどこにいるのかわからなくなった時にいつでもアポが取れる用と、
何語喋っているのかわからない俺との会話をする為だ。
クレアに至ってはアルシェと友達になったらしいし、
あまり口にしたくはないが、
姫と聖女の関係が良好なら以後の政にも良い影響がでそうだ。
「本来は俺のクラン、七精の門のメンバー証みたいなもんなんだけど、
他国のトップと勇者だからなぁ・・・」
事前にアルシェに確認を取ってみたけど、
お兄さんが決めたならどちらでも?って顔をしていた。
「まぁ、いいだろ。
クレアも念のため持っていてくれ。
何か緊急事態があれば俺かアルシェに連絡をくれれば何か力になれるかも知れないしな」
「っ~~~~!ありがとうございます!」
「でも、俺たちとは表面上無関係って事で通してくれ」
「どういうことですか?」
上目遣いでコテンと首を傾げるクレア。
とりあえずかわいいので撫でるのを再開しながら答えてあげる。
「さっきも言った通り、
本来はクランメンバーに配布している人工アーティファクトなんだ。
俺のクラン七精の門は俺たちの仕事の手助けをしてもらう為の組織だから、
お前ら有名人が公然とうちに関わりがあると公言しちゃうと仕事の邪魔になるんだよ」
だから本来は仲間にも渡している揺蕩う唄を聖女と勇者の両名にしか渡していない。
純粋に協力体勢を取るのに連絡手段は持っておきたい、
けれどコソコソ調査をしたい俺たちにとってはある意味2人が持つことで諸刃の剣になる。
「なるほど。
じゃあ基本的には外しておいた方がいいのでしょうか?」
「いや、外している時にこちらからの連絡が取れないは取れないで面倒だから、
意識を向けないよう自然であってくれればいい。
どうせクレアはほとんど大聖堂から出ないだろうしね」
「あはは、そうですね。
じゃあお言葉に甘えてこちらはお借りしたままにしますね」
ご協力の了承を頂けたことで教国での本当にやる事はすべて終わった。
「じゃあ、これでお別れだ。
袖触れ合うも多生の縁だ。何か困れば遠慮無く頼れや」
「はい!」
「・・・私もいるのを忘れておりませんでしょうか?」
* * * * *
行き先をアスペラルダに設定してゲートをアンロックすると、
今までで一番のMP消費を精神的に感じ取る。
「うげ・・・明日もこっちに戻るのにこの量使うのか・・・」
「明日も教国へ来られるのですか?」
「いやいや、何しに来るんだよ・・。
行き先は逆方向の土の国を目指すんですよ」
「お兄さんの・・・契約候補?の精霊を迎えに行くんです」
「そうでしたか・・」
「その安堵の様子はどっちの意味で受け取ればいいんでしょうかね、
サーニャさん?」
「ご想像にお任せ致します」
俺たちの拠点として宛がわれた空き家へサーニャさんの案内で着いた俺たちは、
さっそく中を拝見させて貰い、
アルシェと相談して決めた物置部屋となっている地下室にゲートを設置したところであった。
そして案内してくれたサーニャさんは、
先の影の中でサーニャさんの存在をガン無視したクレアとのお別れ会に対して、
どうにも面白くなかったのか若干はぶてたかの様な対応で俺をおちょくってくる。
「それはともかく、
掃除などは如何されますか?」
「不要です。宛がってくださっただけでも助かりますので、
利用する際にこちらで掃除もやりますから」
「かしこまりました。
鍵はこちらとなっております、どうぞ」
「ありがとうございます」
「んじゃ、お世話になりました。おら、お前ら帰るぞ」
『はいは~い!』
『なかなか広いおうちでしたね、お姉さま』
『ちょっと埃が積もっていましたわねー!』
『宗八・・・ワタクシそろそろ眠い、です』
「アニマは纏ったまま寝れるだろうから先に寝てて良いぞ」
ドタドタと上の階から降りてきたアクア達をキャッチして、
アニマも俺に纏ったのを確認してから今度こそ本当にアスペラルダへ帰る。
「またお会いしましょう」
「はい、お疲れ様でした」
アルシェとサーニャの会話が教国での最後の会話となり、
アルシェとアクアを先にゲートであちらに向かわせ、
サーニャに会釈だけして俺自身とクー、ニルも抱えてゲートを通り、
ようやっと夜の帷が降りた頃に俺たちはアスペラルダへと帰ってくることが出来たのだった。
* * * * *
「じゃあ、行き先はマリーブパリアでいいんですね?」
「えぇ、お願いします」
翌日朝9時。
約束通りに俺はフォレストトーレ領内にあるハイラード牧場に朝からやってきて、
ゲートを設置した納屋の前には、
町へ買い出しに行く牧場で働く面々が集まっていた。
買い出しのリーダーを務めるのは関所でも商売をしていたクシャトラさん。
他にも引率に2名の大人と子供が全員興味本位と気分転換、
それに荷物持ちの為に全員付いていくこととなっている。
「《黒鍵》アサイン:マリーブパリア》」
『ゴクゴクゴク』
ゲートの扉を開く俺の隣では、
こちらに来るときと今の解錠で失った魔力を補給すべく、
黒いオーラを纏ったクーがマナポーションを飲用している。
『クー、おいしそうに飲むね~』
『慣れれば癖になる味かと』
『ニルは少し舐めただけでダメでしたわー・・』
シンクロ状態では魔力や制御力が統合されるため、
全体的に魔法の使用に関しては強化される他、
減った魔力の回復に精霊特有の自然回復やポーションによる回復を相方が行うことで俺も回復することが出来るのだ。
魔法に反応して黒い鳥居が大きくなっていき、
ゲートとして完成する様子に興奮する子供たち。
「おおおおお!すげぇ!」
「何コレ何コレ何コレ!」
子供うるさ・・・。
「静かにしなさいっ!
すみません水無月さん、見たことのない魔法を見て興奮したみたいで。
騒がしかったですよね?」
「いや、うちも五月蠅いのを連れて来ているんで気にしないでください」
『アクア姉さま、言われてますわー!』
『え?ニルのことじゃないの~?』
『(クーはノーコメントです)』
謝るクシャトラさんに視線を足下に誘導してうちの精霊も十分五月蠅いとアピールする。
しかし、五月蠅いのは誰だ選手権を始めた娘達の姿にクシャトラさん達も苦笑いをしている。
「先に行きますから後から付いて通ってきてください」
「わかりました。
みんな!ゆっくり水無月さん達について行って!」
「「「「「はーい!」」」」」
案内をする皆さんを引率する形で最初にゲートを通ると、
おっかなびっくりな様子で次々と子供達が通ってきて、
1グループの間に大人が1人挟まってマリーブパリアへと渡ってきた。
人間である大人3人と子供のほとんどは、
防寒着をしっかり着込んで歩き回る心積もりの姿になっているけど、
うち獣人の子供と俺たちは普通の服を着ているだけで寒さを感じていない。
『俺たちとか言ってますけど、
クー姉さまとニルはやっぱり寒いですわー!』
『緊張感もないと寒さもひとしおに感じますね・・・』
「俺とアクアは寒くないからお前らは遠慮無く厚着しろ」
『そうしますわー!』
俺自身は特に何も言わなかった先日までは、
何故か寒さを我慢していたらしいが、
ここに来て真冬に差し掛かった今日日の寒気に耐えられないと零した為厚着の許可を出す。
精霊の着ている服は自身の魔力で構成されているから、
実際はいつでも好きな服を着ることが出来るのだが、
基本の服として設定したいつもの格好が一番意識せずに着こなせるのだ。
「・・・っ!」ギュッ!
俺たちの後にゲートから出てきたメイフェルは、
出てすぐのところで話し込んでいた俺たちの元へと掛けてきて横からクーに抱きついてきた。
『・・・ひゅみまひぇんがメイフェユひゃん。
いみゃきゃらふきゅを着ぎゃえうをでふほひはにゃえて頂けみゃひゅか?』
「・・・?」
「メイフェル、クーが服を着替えるからちょっとこっちに来て待ってな」
クーに抱きつくメイフェルの首根っこを上から掴むと、
ダメージにすらならない微量の電流を流して腕の力を抜かせると、
そのまま自分の方へと引っ張ってクーと引き離す。
『お手間を取らせました、お父さま』
『あー、暖かいですわー!』
「こら、メイフェル先走っちゃ危ないでしょうっ!」
クーとニルが着替えを終える間に後を追ってゲートを抜けてきたクシャトラさんが、
いの一番に俺に寄りかからせているメイフェルに駆け寄ってお小言を言い始めた。
「メイフェルは買い物に付き合うんじゃないんですか?」
「あー、いえ・・・。
買い物の荷物持ちは年長組がエンハネさんについて行う予定で、
メイフェルは息抜き班ですね。
一応私のグループで回る予定で組んでいますけど・・・」
その眼が語る言葉は口に出さずとも読めますよ?
こうも勝手に動かれてはみんなの息抜きにならないから預かってほしいんでしょ?
視線をクシャトラさんから胸元のメイフェルへと動かし、
頭も撫でながら1点だけ疑問を聞いてみる。
「メイフェルは行きたいところとかないのか?」
「・・・・・・」
「買い物は基本的に行商から購入していますし、
子供が町に実際に来る機会なんて年に数度程度なので、
あまり何があるとかはわからないんだと思います」
口元に指を添えて元から眠たげな瞳を閉じて、
思考の海に意識を潜らせるメイフェルの回答は待てど暮らせどなかなか出てこない。
そこへクシャトラさんが助け船を出してくれ、
メイフェルにどうなんだと目力を込めて見つめてみるとコクコクと頷いている。
時刻は移動しただけなので9時を少し過ぎただけだし、
移動に時間も掛からない。
俺たちは朝ご飯も抜いてこっちに来ているから、
町でご飯を食べたあとは町外れで訓練でもして時間を潰そうかと思っていたんだけど・・・。
「メイフェルだけでいいなら彼女の面倒は俺で見ますけど、
他の子供達の手前それでいいんですか?」
まぁぶっちゃけ2~3時間で何が出来るわけでもないし、
メイフェルは基本的に大人しいから面倒では無い。
しかし、集団行動をしなければならない状況で特別扱いに似た事を認めては、
後の禍根に繋がって仲間はずれにされかねない。
それだけがひとまずの心配であった。
「うーん、そういう不満を持つ子が出てしまうのはわかっていますが、
メイフェルはこう見えてとても頑固ですし、
いつも子供同士で喧嘩になってもすまし顔で生活するので、
喧嘩相手が滅入って仲直りするのが常なんですよ」
それはそれでちゃんと悪い方を謝らせたほうがいいんじゃないかな?
まぁ生活の基準が牧場経営だから、
タイミングが合わなかったりで放任みたいな状況になってしまっているのかもしれないし、外様の俺が何か言えた義理ではないか・・。
「はぁ、じゃあメイフェルは俺が預かります。
全員移動してきた様ですし時間も無駄に出来ませんからね」
「ありがとうございます。よろしくおねがいします」
全員がマリーブパリアへ来たことを確認してからゲートを閉じる。
俺とクシャトラさんが離している間にこちらへと渡ってきた牧場勢は、
ここから大人1人づつ3グループに別れて、
うち1グループが買い出し班、
他2グループは日頃の気分転換にと町を散策する。
とはいえ、このままでは買い出し班の年長者組が可哀想なので・・・。
「クー、エンハネさんのところに付いて行け。護衛も兼ねてな」
『かしこまりました、お父さま』
俺の指示に従い猫の姿に変身したクーは、
エンハネ班の元へと駆け寄り一人の子供の身体を登っていく。
『エンハネさん。マリーブパリアで過ごす間の時間は、
クーが護衛と荷物の管理も務めますので、
子供達と楽しい時間を過ごされてください』
「え?いや・・・ありがたい話だが、荷物を持つって・・・」
そう言ってクーへと返答に困り、
戸惑いの言葉と共に視線を俺に向けてくるエンハネさんに俺は安心するようにと声を掛ける。
「荷物は普段俺たちが使っている魔法でいくらでも持ち帰れます。
それにはぐれそうになる子が居てもクーがちゃんと捕まえますから、
言葉通りにエンハネさんも羽を休めてください」
「はぁ・・・、納得は出来ていませんがわかりました。
お子さんをお預かりしますね。
それで帰りの時間はどうしましょうか?」
まぁ、買い物なんて買う物が決まっていれば意外と時間は掛からない。
歩き回るにしても子供の体力を考えれば数時間もいらないだろうけど・・・、
今回は大人がいるからなぁ・・・。
「とりあえず3時間したらここに集まりましょうか。
その前に帰りたいと言い出す子供が出ましたら、
うちの娘に伝えてください。
すぐに合流して牧場に帰しますから」
というわけで、
他2グループの気分転換組にアクアとニルを護衛と連絡役として付かせ、
俺はアニマと共にメイフェルの相手を仕る事となった。
「ちゃんと怪我させないようにするんだぞ」
『あい!』『はい!』『ですわー!』
「どうすればいいかわからなければ、
引率にしている大人に聞くんだぞ」
『あい!』『はい!』『ですわー!』
「よぉーし!行ってこい!」
『あ~い!』『はーい!』『ですのー!』
こうして、マリーブパリアでのお勤めが始まった。
これが終わればノイを本格的に迎えに行ける。
あと、アルシェの誕生日も祝ったりと2ヶ月のうちにイベントもちょこちょこあるし、
休日だってのになんで寝て過ごしたりゲームして過ごしたりネットサーフィンして過ごせないのだろうな・・・。




