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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第09章 -奇跡の生還!蒼き王国アスペラルダ編Ⅲ-

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†第9章† -01話-[ポルタフォールまで超速帰郷]

 視界を覆った光の膜が完成したと思った瞬間には、

 仕掛け扉のように止まらず目の前を通り過ぎて、

 すぐさま軽い土煙を巻き上げながら視界は外界へと解放された。


「間違いなく[マリーブパリア]の外だな・・・」


 周囲を見回して確認すると、

 入り口のすぐ脇に移動してきたらしい。

 ゲームなんかだと入り口にいきなり飛ばされる事が多いから、

 救出作戦のように位置を指定することもなく、

 町へ移動した場合はどうなるのかと思っていたんだけど・・・。


「これならビックリはさせる事もないですね」

〔いえ、調整してやっとここまでズラすことが出来るようになったんです。

 使えるようになった時は想像されている通りに入り口に現れるものでしたから、

 聖女様と教皇様に相談したところ、

 教国でレベル上げと一緒に魔法の扱いも訓練することになりまして・・・〕

「だから教国に篭もっていたのか・・・。

 聖剣を受け取ってから動かないから何してんだろうとは思っていたんだ・・・」


 当時の裏事情を雑談で回しながらも、

 俺は魔法を発動させて近場の森林の目立たない場所にゲートとなる鳥居を描いていく。


「じっくり見ると、

 私たちが勉強している魔法とはやっぱり違うのね・・・」

「既存の魔法しか使わない私たちと根本から違うわ。

 どちらかと言えばやはり精霊の使う制御とやらに近い・・・」

「お二方の言われるとおり俺は精霊使いですから、

 質が上がればその分精霊に近い力が使えるようになるそうですよ、っと出来上がり。

 メリオ、次は牧場へ行ってくれ」

〔わかっていたとはいえ、水無月(みなづき)さんって人使い荒いですよね・・〕


 俺が鳥居を描く様子をすぐ後ろから眺めていた勇者PTの魔法使いである、

 ミリエステさんとフェリシアさんがそれぞれの意見を交換しながらしゃべる中へと、

 俺の力の情報を混ぜていく。

 この二人は俺がアスペラルダの王都へ戻る前に、

 顔見知りの精霊にも会う事を知ると何故か着いてきたのだ。


 精霊使いという職業は異世界とはいえ確認されている数も少なければ、

 何が出来るのか所か、

 その職がある事すら知らない人の方が断然多い。


 ただ、人種の方は知らなくても、

 精霊の方では契約精霊という職に憧れが存在する為、

 精霊使いという存在に対してもそれなりに理解はあるようだ。


 出来上がった鳥居が消えるのを確認した後に黒鍵(こっけん)を近づけると、

 俺の魔力に反応して浮かび上がるところまでを調べきってから踵をかえしてメリオに声を掛ける。


 そんななか、そのメリオから愚痴とまでは言わないけど、

 失礼な物言いが入ってきた。

 荒くても俺だって体張る場面も多いんだから、

 そこはお互い持ちつ持たれつだろ?


『精霊使いもひどいもの、です!』

「アニマは身内だから。その分受肉したら甘えさせてるから」

『あくあはじゅにくまえから甘えてたよ~?』

『クーもですね』

『ニルは言うこと聞くようになったら優しくなりましたわ-!』

『貴方たちは宗八(そうはち)にもっと不満を言うべき、です!』

『ないよ~?』『ないですね』『その分色々としてくれますわー!』


 なんか足下で精霊によるディスカッションが展開されるのを耳に流しつつ、

 一人一人を拾い上げながらメリオの言葉に返事を返す。


「死体を持って帰った恩を返してもらうのは今回だけだ。

 次に何か無理をお願いする時はまた何か恩を着せるようなサポートをするさ」

〔嫌なサポートですね。素直に受け取りづらいですよ・・・〕



 * * * * *

 次に訪れたのは道のど真ん中。

 それも当然の事らしくて、

 魔法の条件が一度訪れたことのある場所という内容であることから、

メリオ達勇者PTは牧場へは寄らずにマリーブパリアへと向かったという。

 だから、牧場に一番近いところが道の真ん中という部分も理解は出来る。


 っていうかさ、訪れたって条件が道でもいいってマジ?

 ゲームでもランドマークというかさ・・、

 町とかダンジョンとかそういう・・こう、わかるだろ?

 でも、お前・・道端でもOKってゲームよりチートってありか?


 とは思いはするんだけど、別に口に出したりはしないよ?

 実際利用させてもらって楽をさせてもらっている分際だしね。


「とりあえず、牧場に設置する為に挨拶しに行くか」

「そうですね。勝手に設置する訳にもいきませんしね」

「俺たちもか?」

「このまま移動するならこのまま別れても良いんですけど、

 もう数時間しないうちに夕方になりますし、

 1泊だけでも利用した方がいいんじゃないですか?」

「あー・・・どうする?」


 別に長い時間滞在するつもりではないし、

 挨拶してゲートを設置さえさせてもらえればすぐに離れるつもりだ。

 でも、セーバーPTはここでお別れとなり、

 受けているクエストの攻略をしに山向こうのオベリスクへと向かうのだ。


 俺たちは挨拶に向かう為に前に出て伸びをしていると、

 背後からセーバーが問いかけてきた内容に答えを返す。

 その返答を受けて山の上に見える太陽の位置を確認すると、

 さらに背後にいる仲間達に確認を取り始めた。


「確か食材は新鮮な物を用意してくださるし、

 屋根のある場所で寝られます」

「ご飯を自分たちで作る部分だけが野宿と一緒なわけだし、

 クランリーダーの言うとおり1泊していくのは有りだとおもうけど?」


 結局、メリオが移動させてきたメンバー全員で牧場に向かうこととなり、

 大所帯でいきなり訪問すると住人だけでなく動物も驚かせてしまうと判断して、

 入り口でほとんどの人間を待たせることにした。

 とりあえず、俺たち護衛隊だけでお宅訪問をする為に牧場内へと足を踏み入れていく。


「なんだか久しぶりな感じがしますね~!」

「確かに数日しか居なかったのに懐かしさを感じるわね」

「ご主人様、どの辺に設置されますか?」

「牧場の人が邪魔にならないところに設置したいから、

 入り口付近に設置でも十分ありがたいけどな・・・。

 おい、アクア」

『おもい~?』

「重くはないけど歩きづらい。

 もう飛べないんだからアスペラルダに着いたらもっと歩く練習するんだぞ~」

『あ~い』


 クーとニルはアニマル形態となり、

 軽いので俺の頭と肩に乗っかり楽をしていても別に文句もないが、

 現在アクアはニュートラル形態で身長は70cm近い子供の姿を取っていて、

 今居る位置は俺の片足に乗っかって移動を楽している。


 俺の右足の甲という小さな足場に小さな両足を器用に乗っけて、

 ふくらはぎ付近に必死に抱きついていたアクアは、

 流石にしばらく歩くと重さを感じてくる。


 どうせアクアもアニマル形態を取れるようになっているだろうに、

 何故か変身しようとしないのは、

 タイミングを見て驚かせようとしている節がある。

 俺も子供の頃は親に同じように引っ付いていたけど、

 よくもまぁ怒らなかったもんだと思うくらいには・・・鬱陶しく思う。


 牧場の入り口から少し遠い位置にある建物の入り口に、

 あと少しで到着というところで俺たちがノックする予定だった扉が内から勢い良く開き、

 先頭を歩いていた俺のお腹へと何かが突撃してきた。


「ぐぇっ!なんだ・・・?」

「あらっ!」

「お久しぶりですねぇ~」

「・・・♪(スンスン、スンスン)」

「ちょっと~!メイフェル~!?どうしたのよぉ~!」


 お腹への衝撃だけでなく、

 さらに続けて家の奥から聞き覚えのある声が、

 知り合いの名前を呼びながらこちらへと向かってきているらしい。

 じゃあ、俺の腹に突撃してきた物体は・・・。


「・・・♪(スリスリ、スリスリ)」

「メイフェルか・・・、久しぶりだな。よっ、と!」


 名前を確認しながら頭を撫でると、

 擦りつけていた顔をこちらへと上げてくれたので、

 そのまま脇から手を入れて抱え上げる。

 前に牧場へ来たのは土の月の最後付近だったから・・11月くらいか。

 だいたい3ヶ月くらい経っての再開だけど・・・見た目変わんねぇな。


「あら、メイフェルがすごい勢いで出て行くから誰かと思ったら・・、

 水無月(みなづき)さんでしたっけ?」


 家の中からメイフェルを追って慌てて出てきたのは、

 関所で初めて出会い物販をしていたクシャトラさん。


「えぇ、近くに寄ったので顔を出させてもらいました。

 知り合いも1日お世話になる予定なので」

「あぁそうですか。まぁ、どうぞ中へ」

「いきなり訪れて大勢というのはご迷惑かと思って、

 知り合いを牧場の入り口に残しているんです。

 連れてきても大丈夫でしょうか?」

「かまいませんよ。

 他の家族は牧場に出てまだ帰りませんし。

 メイフェルはちょっと体調が悪かったので私とお留守番していたんです」


 アルシェの命令でメリーが他のメンバーを呼びに言っている間に、

 俺は抱き上げたメイフェルのおデコに自分のデコを合わせて体温を測る。


「ん~?高いには高いけど・・・どうなんだ?」

「メイフェルは獣人なので人間よりも元の体温が高いんです。

 いまは逆に低くなってしまっているんですよ」


 って事は、低体温症になっているのか・・・。

 なら水の月である今は、下手に外に出すわけにはいかないだろう。


「メイフェル。

 寒いんだろう?家の中に入ろうな」

「・・・っ!(コクコク)」

「部屋まで連れて行きましょうか」

「あ、お願いします。案内しますね」

「アルシェ達は入り口であいつらを待っててくれ」

「わかりました」

「メイフェルちゃんまたね~」


 その場にアルシェとマリエルと念の為ニルを残して、

 アクアとクーを引き連れて先に家に上がらせてもらう。


『お久しぶりです、メイフェルさん。

 お加減はいかがですか?』

「・・・」


 関所で初めて出会った時はクーに懐いていたことも有り、

 浮遊して抱きかかえているメイフェルに向けてクーが心配の声を掛ける。

 メイフェルも頭痛の波を堪えながらもクーに手を伸ばして握り合うと、

 互いにニッコリと笑い合う姿をみて、

 俺もクシャトラさんもほっこりとした優しい気持ちになる。


「こちらです。

 ベッドに寝かせてあげてください」

「今日は長居も出来ないし、

 顔を出しただけなんだけど、

 大人の人達が許可をくれればもっと顔は出しやすくなるから、

 今日はもう大人しく寝ておきな」

『お父さまは嘘は申しません。

 そう遠くないうちにまた遊びに伺いますから、

 いまはお休みになってください』

「・・・(・・コクン)」


 案内されたベッドにメイフェルを寝かせて掛け布団をかけてあげながら、

 俺たちの予定も長居する予定はないことをしっかりと伝える。

 それを聞いて一瞬悲しそうな顔をするメイフェルだが、

 言葉の続きとクーのメッセージを聞いて、

 頷いてからクーの手を離してくれる。


「じゃあ、私は水無月(みなづき)さん達の相手をしてくるから、

 メイフェルはちゃんと休んでいるのよ」

「・・・(コクン)」


 クシャトラさんの発した言葉を合図に立ち上がりベッドを離れる俺は、

 ドアノブを握りドアを開く間と閉める間に手を振り、

 クーとメイフェルも真似をしてか同じように手を振ってドアは完全に閉まった。


「・・・私たちよりも水無月(みなづき)さんの言う事を良く聞いている気がします。

 これは養子縁組も視野に入れるべきでしょうか?」

「いえ・・・すみません。

 そういう気もないのにメイフェルに優しくしてしまって・・・」

「ふふふ、冗談ですよ。

 確かに養子として引き取ってくれるなら、

 あれだけメイフェルが懐いている水無月(みなづき)さんにならとは思いますが、

 まだ若く冒険者でもある貴方にそこまでは期待していませんよ」


 結局は偽善というか、

 変な期待を持たせると逆に後々に大きな心の傷となってしまう可能性はある。

 この牧場に住む子供達は孤児であるから、

 孤児院のように養子縁組を組むことで子供の親になれるのだろう。


 まぁこちらの詳しい事情はともかく、

 冒険者として移動の途中で牧場に寄っている時点から、

 クシャトラさんも、

 住む場所も定まっていない人間に一緒に生活を繰り返した大事な子供を預ける気にはならないらしい。


 2つの意味で冷や汗を掻いてしまった。


「おかえりなさい、お兄さん。

 メリーが戻る途中で通りがかったエンハネさんに会ったそうで、

 こちらにお越し頂いてます」

「お久しぶりです。お邪魔させて頂いてます」

「いえいえ、我々としてはいつでも歓迎いたしますから。

 それにしても3ヶ月ぶりですね。

 以前はお見かけしなかったお仲間もいらっしゃるようですし・・・」

「全員ではないんですけど、このうちのひとPTが今晩お世話になる予定で来てます」

「あぁ~、そうですか。ご利用ありがとうございます」


 建物の居間までクシャトラさんと一緒に戻ってくると、

 アルシェがこのメガファームの管理者の一人でもあるエンハネさんと話し込んでいるところに遭遇した。

 互いに挨拶と握手もそこそこに、

 まずひとつめの目的であるセーバー達の宿泊地利用を伝えて、

 こちらも互いに黙礼で挨拶を交わす。


「近くに寄ったので挨拶を、というのも目的ではあるんですけど、

 ひとつ特殊なお願いがあってですね・・」

「特殊?水無月さん方にはお世話になりましたし、

 二つ返事で答えたいのはやまやまですが、やはり内容に依りますね」

「いえ、その件であればすでにお礼は受け取っていますので、

 そちらは頭から離してご回答をいただきたいのです」

「う~ん、牧場に被害が出るようなものでなければ・・・。

 先に具体的な内容を伺ってもよろしいですか?」


 というわけで内容の説明として、

 建物のドアを用いてとある魔法を設置させてほしいという旨を説明。

 開通に至っては俺こと水無月宗八(みなづきそうはち)でないと出来ないので、

 設置だけなら危険はなく、

 俺たちが牧場に寄る際に利用するだけのものだとも伝えた。


「試しに設置してマリーブパリアかハルカナムに行くことも出来ますよ」

「危険がないなら試しに行くのもありか・・・」

「エンハネさんエンハネさん。

 確か薬箱の中身が心許なくなっていましたし、

 次の薬の行商も冬を越えないと関所に来てくれないから・・・」

「そうだったなぁ・・、

 今年は体調を崩す者も多かったし、

 その分薬の減りも早かったんだったなぁ」


 その後も何度かエンハネさんとクシャトラさんの2人でやりとりを行い、

 クシャトラさんが外へとメモを持って駆けだしていき、

 10分程度が経つ頃にまた走って戻ってきた。


「エンハネさん。これを」

「思った以上に不足分はあったな・・・。

 水無月(みなづき)さん、許可を下ろす代わりと言ってはなんですが、

 我々の私物の買い物をさせていただいてもよろしいですか?」


 まぁ今居るメンバーが俺たちだけならどうぞどうぞと即答えるんだけど、

 残念ながら?この場には他にもセーバーPTと勇者達がいる。

 おそらくエンハネさん達も買い物を急いでくれるのだろうけれど、

 時間は決めたほうがいいかもしれない。


『お父さま。

 本日は他の方々もいらっしゃいますので、

 ゲートの設置と確認だけにしていただき、

 後日対応するというのはどうでしょうか?』

「・・・どうですかね?」

「それでよろしければ、こちらも準備が出来ますから逆に助かります。

 いつ来られるかだけ教えて頂ければ」

「すみません、助かります。

 早ければ明日の朝からでも伺いますけど・・」

「あ~、では明日の9時に来て頂けますか?」

「OKです。じゃあさっそく設置箇所だけ決めて確認をお願いします」


 鶴の一声ならぬクーの一声が助けとなり、

 ひとまずの一段落を迎えることが出来た。

 明日は朝から忙しくはなりそうだけど、

 ゲートを設置させてもらえるのであればこの程度は安いものだ。

 メイフェルとの約束も破らずに済むしな。


 その後はとんとん拍子に話は進み、

 どういう魔法なのかを説明するために適当な場所でゲートを開き、

 クシャトラさんとエンハネさんに確認をしてもらい、

 最終的にも許可をいただけた。

 次にご厚意からゲートの設置位置にと提供されたのは、

 端から見ても納屋とわかる簡易的な作りの小屋の入り口であった。


 盗んでも金にならないものばかり放り込むだけの納屋というだけあり、

 入り口に扉すら取り付けられてはいなかった。

 故にゲートが開けば、

 事情を知らぬ人に見られても大した違和感もなく、

 出入りすることが出来る仕様となった。


「ありがとうございました。

 明日改めて訪問しますので、他の管理者の方々にもよろしくお伝えください」

「はい、こちらこそ。明日はよろしくおねがいします。

 他の皆様も大した持て成しも出来ず申し訳ありませんでした」

〔あ、いえ。俺たちは元から長居する予定ではなかったので気にしないでください〕

「同じく。いずれ利用させてもらう時はよろしくおねがいします」


 用件も全部滞りなく終えることが出来て、

 満足のいく顔で建物の外まで出ると振り返る。

 目の前には見送りに出てきたエンハネさん、クシャトラさんの他に、

 ここでお別れとなるセーバー達も牧場側の立ち位置で俺たちと向き合っている。


「じゃあ、また。手を借りる必要が出たら声かけます」

「あぁ、こっちも仕事が終わるまでには合流するか決めておく。

 合流しなかったらこっちで別口で調べていると判断してくれ」

「わかりました」

「セーバーさんお疲れ様でした。

 それとご協力頂いたことも感謝します」

「いえ、姫様。

 本来は自国のことなので貴女方の手を煩わすこと自体が問題なのです。

 こちらが感謝はすれど、姫様に感謝されることではありません。

 今回は逆にお声を掛けて頂きありがとうございました」


 実際いち冒険者であるセーバーが自国の事をどこまで想っているのかはわからないが、

 自国の事は自国で対処すべきというのは納得がいく話だ。

 自分のケツくらいは自分達で拭きたいよな・・・。

 アルシェの会釈の返しに深くお辞儀をするセーバーとその後ろにいる仲間達。

 セーバーの頭が上がるのを確認して次々に顔を上げていくなか、

 セーバーが俺に視線を再び移してきた。


「戦場でないとお前はタメ口になれないところがリーダーとして失格だ」

「呼び捨て出来るようになっただけでも褒めてください。

 信頼はあるんですけど、やっぱりひと回り以上年上ですからね、

 気長に待っていてください」

「まぁ気長に待つさ。

 こっちも2ヶ月後の奴には参加する予定だからな」

「わかっていますよ。

 こっちは今回のように前には出ませんから、そちらは無理をしないように」

「応、じゃあな」


 精霊達も一緒のタイミングでしばしのお別れを言い合い、

 セーバーの契約精霊であるリュースィとの別れを惜しみながら別れを告げていた。


『じゃあね~!』

『さよ~なら~、ですわ~!』

『お元気で』

『またお会いしましょう-!』

『契約主と頑張るのですよ』


 ちなみにマリエルは、

 いつの間にやら以前気にしていた畑の様子を見に行って別行動中だったらしい。

 その所為で子供達に俺たちがまた来ていると知られてしまったけど、

 こちらのやりとりをマリエルに連絡を取って子供達にも伝えたら、

 またアクア達と遊びたいと回答が返ってきた。

 ここでも友達の輪が広がっていて親役をしている身としては嬉しいな。


 * * * * *

「悪いな、時間がかかってしまって」

〔いえ、時間といっても1時間程度でしたし、

 これまでの冒険でお世話になった方ならなおさら無碍には出来ないでしょう?〕

「それはそうですが、勇者様にとっては初めての顔合わせでしたし、

 こちらの都合に付き合わせている以上は・・」

〔そんなに狭量ではないので本当に気にされなくていいのですが・・・、

 そこまで言われるのであれば[貸し]としますか?〕

「あ、それはちょっと・・。

 本当に悪いとは思ってはいるけど死地には赴きたくないんで貸しは嫌だわ」

〔そこまで拒否反応が早いと、こっちは何も言えませんよ・・。

 まぁ、元から気にしてはいないのでそちらも気にしないでください〕

「了解だ。ここは大した事はなかったから、

 さっさとゲートを作って離れるから安心してくれ」


 次にメリオに連れてきてもらった町は、

 風の国に入国する際に通った関所ではなく、

 そこを飛び越えた先にある港町アクアポッツォだ。

 ここも町の入り口近くにゲートを素早く設置する。


「ネシンフラ島には寄らないのですか?」

「マリエルには悪いけど、今日は寄らない。

 2ヶ月あるうちに帰す時間は作るから、

 ひとまずはこのまま王都に戻って1週間くらいは暮らすことになると思う。

 すまんな」

「いえ、ご配慮ありがとうございます姫様。

 隊長も無理に島のみんなに顔を出すことに固執しなくてもいいんですよ?」

「馬鹿言うな。

 大事な娘をお預かりしている以上は、

 元気でやっているって姿を定期的に見せてあげた方が逆に俺の心労も軽くなるんだよ。

 別にマリエルの為じゃねぇ」

(『こう言ってるけど、マリィの事もだいじにおもってるからねぇ~』)


 別に大事に思っていたりなんて事はないけど、

 いまさらマリエルのポジションに穴が空くのはPTとして痛すぎるし、

 途中でホームシックを煩わせても困るからな。


 余計な事を耳打ちしているアクアの首根っこを掴んで引き戻す。

 進化してから時々発音がしっかり出来ているからか、

 長文でも内容が頭に残ってある意味厄介な存在に育ったアクア。

 完璧とまではほど遠いが、

 少しでも漢字を扱いだしたらお前の発言だと判断する素材が少なくなるだろうがっ!


「まぁまぁ照れなくてもいいじゃないですか、隊長♪」

「喧しい。なんなら城には行かずにこのまま島に帰っても良いぞ」

「ちょちょちょ、隊長っ!

 またお城に行く機会を逃すのは本当に勘弁なので、

 お願いします!連れて行ってください!」

「以前は問題があって連れて行けなかったけど、

 今回は問題もないし連れて行くわよ。大丈夫」

「姫様ぁ~・・・ありがとうございます・・・」


 やたらめったら仰々しい態度だな、おい。

 まぁ以前も城に行けることに憧れを抱いていた様子ではあったけど、

 妖精種の特性をどうにかする為にボジャ様に訓練を施して頂く必要があった為、

 あのときはぬか喜びさせてしまった負い目もある。

 今回はこれ以上の意地悪はやめておくか・・・。


「優先順位はアルシェが一番だけど、

 マリエルもちゃんと元気な姿をカインズさんとウルミナさんに見せてあげような」

「・・・はい!」



 * * * * *

「あぁ、こっちは入り口まで来てる。来れるか?」

「そういえば、勇者様がこちらを通ったときはどのような状況だったのですか?」

〔うっ!その・・・、

 俺達が通った時は確かに水が少ないなぁとも思いましたし、

 人もあまり外を出ていなかったので、

 過疎ってるのかなぁ・・・としか考えていませんでしたね〕

「精霊契約がないとそんな印象なんですねぇ」


 ポルタフォールに着くや、

 さっそくゲートだけさっさと設置してからのスィーネに連絡を入れる俺の脇で、

 アルシェが勇者が通ったときの印象をインタビューしている。

 まぁ、そんなもんだろうなという感覚でしか同意出来ない事を口にするメリオの回答に、

 マリエルがヘェ~と自分たちとの違いに感心した声を上げる。


 破滅の呪いに関しては、

 当初は異世界人を中心にある程度の範囲が無効化エリアになると考えていたが、

 実際は異世界人がキーではなく精霊使いがキーであった。

 そして、この町で起こっていた事件を下地に考えると、

 街道などではPTメンバーくらいしか無効化を受けることは出来ないが、

 町に入るとその範囲は広大に広がるけれど、

 実際どの程度まで広がっているのかまでは判明していない。


 勇者達がこの町を通ったときはまだ契約していなかったからというのはわかるんだけど、

 やっぱりある程度の危機的意識というか、

 問題に対する解決に繋がる考えを持っていないと、

 呪いがあろうがなかろうが関係ない気がするなぁ・・。


『お兄ちゃん、おまたせ』

「うぉっ!流石に穴から出てくるとは思わなかったな・・・」

『スィーネ~!!』


 俺たちがいるのはポルタフォールが誇る大穴の外側で、

 現在は引き潮?といっていいのかはわからないけど、

 水嵩が少し減っている。

 その水の中からいきなり姿を現して驚かせてきた水精が、

 俺の連絡先の相手であり、

 ポルタフォールの守護者(しゅごしゃ)をしているスィーネであった。


『アクア~!話には聞いていたけれど本当に加階してるじゃない~!

 流石は契約精霊ねぇ。

 他にも新顔がいるみたいだし、紹介してちょうだい』

『あい!ニル~、アニマ~!ちょっと来て~!』


 水面を歩いてこちらまで来ると、

 近寄ってきたアクアに対して少し屈んで愛おしそうに抱きしめる。

 半年ぶりくらいの再会だし、

 なんだかんだで出会いはアレだったけど知らぬうちにどんどんと仲良くなっていくな、この2人は。


 長女であるアクアの呼びかけに、

 自然と素直に従い集まるニルと俺から分離したアニマ。

 精霊とは別口で興奮が抑えられないと言うような表情で俺に近寄ってくる魔法使いが2人・・・。


「私たちが着いてきた意味を覚えていますか?」

「えぇ、うちのが顔合わせを済ませたらお2人もご挨拶をどうぞ」

「やった!」


 魔法使いにとって精霊という存在は魔法の申し子とも言うべきもので、

 信仰とまではいかないが、

 人生の中で出会っておきたいほどの存在ではあるようだ。

 しかも、俺が広めている似非進化ではなく、

 純粋培養の精霊に会えるとあっては興奮を抑えろというのも酷だろうか?


「スィーネ。こっちの魔法使い2人が挨拶がしたいんだってさ」

『挨拶ぅ~?別に守護の役には命令で就いてるけど、

 別に私自身が大層な訳じゃないんだけど?』

「俺は精霊と何かと縁があるけど、

 普通の人間が精霊と出会うのは稀なんだろ?挨拶だけで良いから」

『お兄ちゃんとアクアの知り合いなら無碍にも出来ないわね・・・。

 いいわ、こちらへいらっしゃい』

「「は、はい!失礼します!」」


 何故かめちゃくちゃ堂々とした・・・、

 それこそ上位者という風格を纏わせて、

 スィーネが立ち上がりながら俺の前にいる2人に声を掛ける。

 俺はこの世界の人間ではないから精霊という存在にそこまでの格上という意識はないけど、

 いろんな作品に登場する精霊と言えば、

 基本的には人間よりも高次元生命体という立場にあるよな。


 俺も(へりくだ)った方がいいのかな?


『ん~?お兄ちゃんは人間で言えばどの位置にいるのかわからないけれど、

 精霊の父なんだからあまりその辺は気にしなくても良いわよ』

「さいでっか」


 精霊の父ってなんですかね?

 初めて聞いたんだけど、

 もしかして知人界隈の精霊の中で俺ってばそんな感じの認識をされているのか??


 キャッキャとはしゃぐ魔法使い2人の挨拶が終わるのを待ってから、

 念話ではなくスィーネにわざわざ会いに来た理由を話し始める。


「今から2ヶ月の間にアクアを少しで良いから鍛えてもらえるか?」

『あら?旅はお休みするの?』

「フォレストトーレの王都でひと仕事終えたからな、

 あとは各国の遠征軍の動きに合わせて大体2ヶ月後にまた仕事をしなきゃならん」

『それまでにって事ね?

 2ヶ月まるまる預かることも出来るけど、どうするの?』

「休暇をもらう間にノイを迎えに行きたいから日中は俺が連れ歩く。

 だから夕方から夜に掛けて数時間ってところかな?」


 もとの予定として組み立てているのは朝飯を食べた後にゲートから最新の地点に移動し、

 水精霊纏(エレメンタライズ)[竜]とニルの[ソニック]で、

 地形を無視しながら最短の√でノイのいるであろうアイアンノジュールへと向かう。


 日が落ちる前にはその場でゲートを設置してアスペラルダへ帰り、

 アクアをスィーネに預けて少しでも鍛えてもらう。

 さらにアクアとスィーネと相談して夜はそのまま泊まらせて朝に回収する日を作ってもいいと思っている。


『アクアはそれで納得してるの~?』

『だいじょうぶだよ~!』

『何を鍛えたいかは考えているの?』

『とくには~!』

『・・・お兄ちゃん?』

「頭を見ればわかるだろうが、

 この馬鹿娘は竜の姿に近く進化しやがった。

 だから出来れば、アクアの先を考えた力を身につけてやってほしい。

 とりあえず・・ほれ、尻尾出せ」

『あい!』


 俺とスィーネの前にちょこんと立っているアクアの側でしゃがみ込み背中をぽんと叩くと、

 良い返事をしたアクアがお尻をフリフリと可愛く揺する。

 するとどうだろう・・・、

 魔法陣がアクアのお尻に合った大きさでゆっくりと展開していき、

 その中心から[アクアテール]が詠唱もなく発動して、

 その長さは身長の約2倍まで伸びて動きを止めた。


『アクア・・・そこまで成長していたのね。

 流石は常日頃から地獄のような訓練を課せられているだけはあるわねぇ・・』

「アホか。加階の時の選択で本物は邪魔だからって、

 この魔法をショートカットに設定したんだよ」

『そのショートカットの技術だって、

 制御力が相当に鍛えられていないと出来ない芸当なんだからね?』


 まぁ、精霊魔法と位置づけている[アクアテール]を、

 多少のルーティンが必要とはいえ無詠唱で発動できているというのは、

 確かに俺も初めて見せてもらった時は驚愕したものだ。

 おそらくだけど、

 初級に分類されるアイシクルエッジは無詠唱で使うことが出来るレベルまで成長しているのだろう。


『すごい~?アクアすごい~??』

『えぇ、すごいわよ。これで産まれて1年の精霊って言うんだから、

 お兄ちゃんが考えた新型精霊加階は大した物ね』

「スィーネさんや、

 わかってると思うけど努力あってのものだからね」

『そこを履き違えるほど馬鹿じゃないわよ。

 私がどれだけアクアと連絡しているかお兄ちゃん知らないでしょ?』

「こそこそ話しているのは知ってるけど・・・具体的な内容は知らないよ」

『もっと興味を持ってほしいわよねぇ~っ!』

『ねぇ~っ!』


 はいはい、申し訳ありませんね。

 俺もちゃんと褒めたもん・・・、

 よく頑張ったなって褒めたもん・・・。ツン。


「お兄さん、なんで拗ねてるんですか」

「だって、アクアとスィーネが俺より仲良しなんだもん」

「もんって・・・。隊長、歳を考えてくださいよ(笑)」

「私の胸をお貸しいたしましょうか?」


 メリーの胸・・・推定Cカップ。


「いえ、メリー。

 ここで胸を貸すのは妹である私の役目です。

 弱った時こそ攻め時だとお母様も言っていましたし、

 さぁお兄さん、どうぞ♪」


 アルシェの胸・・・推定Bカップ。

 最近はますます順調に成長をしているらしい。


「ちょ、私を見ないでくださいよ!嫌です!」

『アルシェよりも無くてもいいなら、私でもいいわよ』

『いいわよ~』


 視線を向けた先には嫌がるマリエルと、

 堂々と腰に手を当てながら無い胸を反らすスィーネとアクア。


 どいつもこいつも推定Aカップ。

 マリエルに至ってはアルシェと同じ食事を取り始めて1年近くになるし、

 ブラジャーも同時期に付け始めたのに、

 どうして起伏が見当たらないのかね・・・。


 そして何故か俺の前には両手を広げる女の子が4人。(うち1人は娘)

 別に胸に顔を埋めるほどのものではないんだけど、

 なんかこの状況を楽しんでいるのは周囲も同じらしくニヤニヤドキドキしながら見守りやがっている。


 とはいえ、この中で選ぶのであればやはり絵面的にもこの娘しかないだろう。


「あ・・・」

「「キャーーーーー!!」」

「フフフ、計画通り」

「まぁ、わかっていましたけどね」

『もう、お兄ちゃんのいけずぅ』

『ますたー・・・』


 誰を抱きしめたかはご想像にお任せいたします。

いつもお読みいただきありがとうございます

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