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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
閑話休題 -ギルドハルカナム支店会議室-

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閑話休題 -29話-[フォレストトーレ救出作戦報告会Ⅳ]

「今回のフォレストトーレに現れたのは3人の魔神族でした。

 まず、いまの状態まで導き姿も現さなかった死霊使い(ネクロマンサー)

 そいつは隷霊(れいれい)のマグニと呼ばれているようです。

 次に勇者と俺にトドメを刺してきた、

 素手の1撃で地面に陥没を作る滅消(めっしょう)のマティアス。

 最後に空間に隠れて王都の戦況を見ており、

 見た目は白い魔女に見える苛刻(かこく)のシュティーナ」

「私たちでも見えるほど土が吹き上がっていたのは・・・」

「マティアスの1撃だな。

 上の確認までは出来なかったけど見えていたのか・・・」


 なんと7㎞以上離れているアルシェたちのいる場所ですら視認出来るほどの超威力だったらしい。


「あ、地上の私たちは高い木々で見えていませんでしたけど、

 爆音は響いてきました!」

「私はマリエルたちよりも視界を確保する為に足場を氷で高くしましたから、

 私だけがおそらくその様子が見えたのだと思います」


 地面で襲い来るモンスターとの接近戦をしているマリエルは、

 フォレストトーレ特有の高い木々に併せて、

 敵の攻撃や周囲にもいるモンスターの動きを警戒していることもあり、王都の様子はかろうじて耳に異変を知らせる音で確認をしている程度。

 しかし、指示出しと敵の位置確認を第一に考えて、

 多少の危険を侵した足場作りをしたアルシェの視界内には、

 その異変は土の吹き上げという形で捉えられていたらしい。


「あのときは余裕がなかったから周囲も見れてなかったんだけど、

 外からみた感じだと被害はどんなもんだった?」

「耳からはお兄さんの苦しげなお声もしているしも返事も返って来なかったので、

 足場を少し高くしてアクアちゃんの魔法で双眼鏡も出してもらって見てみましたが・・・。

 外壁は一部が崩壊していた上に、

 吹き上げていたのは土だけではなく家の瓦礫やモンスターも人も関係ありませんでした」

「ご主人様」

「なんだ、メリー」


 無表情に顔を手元から上げて俺を呼ぶメリー。

 魔神族に一際恐怖心を抱いており、拒否反応もあるメリーの質問に、

 俺は自然と唾を飲み込んでしまう。


「1撃でその威力だったのですか?」

「・・あ、あぁ。その通りだ」

「そうですか」

「あぁ・・・。他にはないか?」

「いえ、大丈夫です」

「一応、もう1度言うけど・・・俺は戦うつもりはないからな」

「はい、わかっております」


 そのまま会話は終わりを告げ、

 視線を手元に移して手の動きも再開するメリー。

 周囲も俺とメリーの妙な緊張感のある空気感にどう反応をしていいのかわからず、

 ひたすら俺たちの挙動を見つめ続けることしか出来ない。


 妙に後ろ髪を引かれる思いがあるものの、

 無理矢理メリーから視線を外した先の視界に他メンバーが映る。

 全員名状し難い微妙な表情で俺を見つめてくる光景を俺は忘れないだろう。


 ホラーだよ。全員は止めろよ、怖いわ。

 パチンと両手をわざと叩いて静かな空気感に刺激を与え無理矢理動かす。


「えー、状況報告の続きをします。

 辛くも面白半分でシュティーナに生かされた形で撤退が出来た俺たちは、

 メリオをクレアに渡して一緒にハルカナムへ送り、

 ここでニルチッイとクーデルカが入れ替わり、

 闇精霊纏(エレメンタライズ)[天狗(てんぐ)]の姿になってから撤退に合わせてゲートを閉じていきました」


「順序は救護班、救出班、突入班、ゼノウPT、セーバーPT、

 マリエル、アルシェ、俺、シスターズの流れですね。

 最後に王都とハルカナムを繋ぐゲートを閉じて作戦は終了となりました。以上です」

「質問がなければこのまま敵情報の考察と対応に移りますが、

 皆様いかがでしょうか?」


 最後は駆け足でさっさと終わらせた支援班の報告が終わったと判断したアルシェが、

 テーブルについている全員の顔を見回しながら確認を取る。

 とはいえ、いざ聞かれたからと言って、

 質問が出来るほど情報の繋がりを認識できるのは俺たちのPTだけだし、

 俺たちであれば情報の共有をいつも行っている為、

 自身の中で回答に行き着くことが出来る。


 故に新しい質問は誰からも出されることもなく、

 次の議題へとスムーズに進む。


「では、魔神族の1人ナユタに続き、

 新たに確認された魔神族の情報と考察をお願いいたします」

「えー、引き続き担当します水無月(みなづき)です。

 ナユタに関してはギルドで確認すれば集まった情報などは提供できますので、

 この場ではナユタの話は致しませんことご了承ください」


 続く議題は魔神族についてなのだが、

 これも結局戦う機会があり、

 対話も余儀なくすることになった俺が担当することとなった。

 一応勇者も戦闘経験から都度一言頂く予定ではある。


「1人目。苛刻(かこく)のシュティーナ。

 見た目は白い魔女といった出で立ちですが、

 その女性らしい細い四肢に似合わず身長よりも巨大な銀の鎌を持っています。

 戦闘はアルシェや槍使いに近い高速の連撃ですが、

 パワーは見た目に似合わずメリオも吹き飛ばせるほどあります。

 それだけではなく、

 こう振った鎌を対象が避けたとしても、

 刃先の置換をして死角から2度目の攻撃をしてきます」


 剣を持っていると想定した動きで説明をしてみるが、

 やはり置換という現象に馴染みがない連中しかいないこの場で、

 その現象を見せずに理解しろというのは無理があったらしい。

 いまいちピンと来ていないと顔に書いてある面々だけでなく、

 報告書にもどういう物かを出来る限り詳細に記載してもらいたいので、

 同じとまでは言わないが似たものを見せる為にクーに念話をする。


「・・《シンクロ》」


 少しでも魔女の置換技術に近づけるようにと、

 別室で他精霊と一緒にいるクーとシンクロを発動。

 体から瘴気の鎧とは違う漆黒のオーラが漏れ出し、

 インベントリから雷光剣も取り出してちゃんとどういう風になるのかと説明をする。


「アルシェ、手伝ってもらえるか。特に動かなくても良いから」

「わかりました」


 アルシェが自身が座る椅子から立ち上がり、

 俺と向き合ったのを確認してから説明を再度始める。


「見づらければ前に来て頂いてもかまいません。

 魔女の攻撃がこう来て対象に避けられるとします。

 そうすると、この時点から剣先を見ていてください・・・、

 このように先端の刃が消えますが、

 実際はアルシェの背後です。ここに剣先が移動しています」

「あ、本当だ」

「これは強力ですね。

 目の前の攻撃からは目を離すことが出来ないのに、

 常にインファイトの死角から続けて攻撃が発生するとは・・」

「俺の剣と剣先から意識を外さないように動きを追ってください。

 アルシェは剣の動きに合わせて半身下がるだけで良いよ、

 背後のは当てないから」

「わかりました」


 続く再現の動きはわかりやすく認識出来るように、

 非常にゆっくりな動作で振るっていく。

 剣先は置換されたりされなかったりは勿論のこと、

 本体は袈裟斬りでも置換された剣先だけは向きを自由に操れる為、

 いろんなタイミングで発動することでバリエーションが無限に増えていく。


 振る動作が1つ1つ攻撃として利用できるので、

 その場で回転するという隙だらけの動きでも、

 置換で剣先を敵に向ければ時間稼ぎも致命の1撃も狙うことは可能になる。


「これが高速戦闘中に驚異的なパワーで襲いかかってくると想像すればわかるかと思います」

「厄介と言えれば簡単ですが・・・、

 正直うちのPTで一番強いメリオが打ち負ける時点で私も相手にならないでしょう」

「当然俺もだな」


 勇者PTの前衛担当マクラインが口元を掌で覆いながら唸るように考え込み、

 隣でも大男のセーバーが腕組みをしながら嘆息を吐く。


 実際この場のメンバーの中で魔女と戦闘して打ち合えるのは、

 精々シスターズがいいところだろう。

 それでも余裕のある瞳を2人がしていないことから、

 俺の考えは甘い見込みなのだろうな。


「で、これは魔女の反応も正直怪しいので信憑性は低いのですが、

 この置換能力は武器の力かもしれません」

「それはどういうことですか?」

「あの銀の鎌がアーティファクトで、

 魔女は魔女で別の力を持っている可能性があるってことだ。

 少なくとも肉体的なレベルだけを見ればあの膂力は120くらいは軽く突破していると思う」

「それはあり得ないかと・・・。

 一般常識としてレベルの上限は100とされていますし、

 それ以上になった人の話は聞きません」


 魔女が持っていた武器がもしも本当にアーティファクトで、

 空間能力を有したものであった場合、

 あの武器の名前はおそらく[アムネジア]だ。

 ただし、その情報は今は俺の想像だし俺の世界の物語の中に出る武器だから、

 アルシェにもひとまずは伏せ説明をする。


 レベルについての発言はトーニャさんだ。

 この世界のレベル上限は100で、

 あとは自身の肉体強化を図り鍛錬を重ねるしか強くなる方法はないらしい。


「アニマ?」

『レベル100を超える方法、です?

 確かに私の時代は200~300の人間もいたと思います。

 方法は・・・いくつか条件があったのですが・・・、

 覚えてない、です!』

「つっかえねぇ!」

『ちょ、宗八(そうはち)!ワタクシになんて口をっ!』


 なんかまだ喚いていたけど、

 疲れと共に大事な記憶も綺麗さっぱり清算してしまい、

 残ったのはなけなしの尊厳だけという元精霊王を護りの任に無理矢理戻して黙らせる。


 そこで俺の予想する回答を指を指しながらクレアに出す。


「失われた文献を探せ。以上」

「また・・・神聖教国ですか・・・?」

「聖剣の件もあるし、一度本格的に探してみてくれ。

 もしかしたら破滅の目の有効範囲に入っていたのかもしれないし」

「あ、そういえばそれがありましたね・・。

 わかりました、以前調べたのも数代前の聖女様の代だと聞いていましたし、

 もう一度戻ったら調べ直してみます」


 初めこそ再び矛先の向いた自国に対し苦悶の表情を浮かべはしたが、

 最終的には胸元で小さな握り拳を2つ作りやる気を漲らせるクレア。

 可愛いには可愛いんだけど、

 うちの娘は精霊だからかみんな綺麗な顔つきで、

 そのうえでさらに可愛い事を言ってくるわしてくるわだから、

 まだまだ俺のトキメキゲージは振り切れない。


 しかし、可愛いのは事実なので頭は撫でておく。


「じゃあ2人目。滅消(めっしょう)のマティアス。

 確認出来たのは素手による1撃だけでしたので、

 情報らしい情報はありませんが、

 性格はバトルマニアらしくて強い相手を求めているようです。

 あとは、本人の証言から魔法を使っていないと言っていましたが、

 これは別に希望を持てという意味の情報ではありません。

 むしろ使えない訳ではない可能性の方が高いので依然注意は必要です」


 おそらくメリーが牧場近くで見た魔神族の集団のうち、

 死霊使い(ネクロマンサー)を殺していたのがこのマティアスではないかと考えている。

 そして魔法を使っていなくて武器も装備していない状態でのあの威力と考えると、

 やっぱり種族的な肉体強度が一番候補の中では高いかな?

 まぁ、こいつも情報が少なすぎてまとめるには早すぎる。


「先の報告でも出ましたが、

 1撃で外壁も含む街中を破壊して地面にも大きなクレーターを作る威力を素手で出せる為、

 もしもこいつと戦闘をするのであれば、

 同じ手数を出す為にどういう奴が相手したらいいかわかるか?」


 俺の視線の先にはうちのPTに所属するカエル妖精マリエル。


「・・・私ですかね・・・でも、嫌ですからね!

 隊長を殺しかける奴を相手になんか出来るわけないじゃないですかっ!」

「まったくもってその通りだ、マリエル!

 ああいうのは勇者たち表舞台に任せて、

 俺たちはこそこそと支援するのがお似合いだ!」

「「いえーいっ!!」」


 俺とマリエルの心は今一つとなった。

 そんな強い奴と戦っていられるか!死にとうない!死にとうない!!


 席から立ち上がって俺の元まで来たマリエルは、

 俺とハイタッチをしてから駆け足で元の席に戻っていく。


「というわけで剣では手数の多さに対応が出来ないので、

 メリオたちも戦うなら仲間を増やすんだぞ」

〔わかりました・・・、っていうか本当に戦わないんですか?〕

「俺たちが戦うメリットがないからな。

 元から戦う予定もないし時間稼ぎも出来ない俺たちに期待をするな。

 あくまで俺たちは破滅を調べる為に旅をしているだけだからな」


 勇者の軌道修正もなんとか出来たと思うし、

 支援要請を受ければ戦場の後方までなら顔を出すけれど、

 魔神族相手は当初から決めていた通りメリオ達に任せてしまおう。


 不承不承といった表情で納得は出来ていないらしいが、

 俺の意思は固い。死なせるわけにはいかない連れが2人もいるしな。

 精霊共も無駄死にさせるつもりもない。


「ゴホン・・最後に、隷霊(れいれい)のマグニ。

 王都の陥落はこいつが主導したと思われ、

 死体を操ることが死霊使い(ネクロマンサー)としての力です。

 2つめがマグニの力」

「マグニの力とはなんですか?」

「初めの頃は死体を操る力と人形の力は同じ物だと考えていたが、

 内容としては少し違うように感じてきてな。

 メリーが確認した魔物を集団を操る姿と、

 冒険者や商人などを操る手順や規模に違和感があって、

 考え直してみるとマグニは2つの力があると思われる」


 どちらも死体を操る部分は同じだが・・・。


 1.死霊使い(ネクロマンサー)

 生前の意思を持たせることなく、

 大量の魔物を集団でも操る事の出来る能力。

 2.マグニ

 生前の意思を残したまま、

 限りある人数を操る事が出来る能力。

 今のところは人間しか警戒していないけど、

 もしかしたら動物にも使われている可能性がある。


 つまり死霊使い(ネクロマンサー)は狭い範囲だけど大量に操る事に長け、

 マグニの能力は広範囲だけど少数を操る2つの力を持つのだろう。

 隷霊(れいれい)のマグニは情報収集と防衛戦に特化した魔神族なのかもしれない。


「マグニとはなんですか?」

「俺の知る物語にマグニという名を聞いたことがあるんだ。

(もちろん元の世界だけど韓国だかのドラマだったかな・・)

 人の精神に同調して操る力を持つ悪魔だったと思う」

〔悪魔ってデビルの意味合いですか?〕

「デビルも悪魔もよくわからないんだけど、

 たぶんメリオが想像しているものじゃないかな?

 そっちの世界の悪魔対策ってどんなものがあるんだ?」

〔こっちのデビル対策は防ぐ事はまず出来なくて、

 取り憑かれてから[エクソシスト]や[神父様]が体から出て行かせる事で対処しています〕


 まぁ、TVで見たり映画で見る限りは確かに防ぎようがないのだろうし、

 対処も出て行くように説得?して聖水を降りかけたりとか、

 倒すまでの課程は見たことがない気がする。

 ただ、マグニ=悪魔とした時新しい問題が産まれてしまうんだよなぁ。


〔でも、デビルと戦うなら名前を知らないと・・・〕

「名前がマグニなのではないのですか?」

〔いえ、水無月(みなづき)さんの話が本当なら、

 マグニ=悪魔=デビルなのでマグニはあくまで種族名みたいなもの。

 討伐を視野にいれる為には名前が必須なのですよ、聖女様〕


 いま、メリオがクレアに説明したとおり、

 本当にマグニがこちらの世界で言う悪魔と同じ意味を持つのならば、

 依り代となる肉体から出す為にも名前は必須。

 基本的にエクソシストは悪魔との対話の中で自白させる事を主としているようだし、

 マグニ戦には神聖教国の上位者が対応するしかないのかな?


〔それに肉体を倒したとしても、

 おそらく別の肉体に移って復活をしてしまうかと思われます〕

「・・・では、メリーが死ぬのを確認したあとに」

「はい、姫様。どこかの肉体で復活したのでしょう」

「ひとまず、魔神族に関しては以上かな?

 他の魔神族もどうあれ2種類の能力を持っていると意識はしておいた方が良いんだけど、

 正直いまのところは考察なわけだから絶対の情報ではないことを頭に入れておいてほしい」


 どないやねん!

 と言いたい気持ちは俺にもあるが、

 いまは本当に名前と能力がわかっただけでも褒めてほしい。


「では、続けて今後のことを話しておきましょう。

 えーと、私たちは国に戻る・・でよろしいんですか?」

「そうだな。

 俺たちは一旦風の国から離れて自力をあげる。

 一応マリエルの実家にも数日滞在したいから、

 2ヶ月後までには国内を転々としたい。

 あと、俺は少し別行動をして土の国に入るよ」

「え?隊長別行動するんですか?」

「土の国ってことはノイちゃんですか?」

「もちろん。残念ながら土の加護はまだないけど、

 とりあえずそろそろノイと合流はしておきたいからな」


 実はちょくちょく連絡はしていて、

 すでに核として使っていたスライムの核は壊れてしまっているんだけど、

 精霊としてはそれまでに培った努力のおかげで加階を果たしている。

 だから核はなくなったけど、浮遊精霊(ふゆうせいれい)から普通に加階したから姿は変わらず砂トカゲのままだ。


 別れてから半年以上以上経つし、

 いい加減迎えに行かないと俺の心情的にもスッキリしないしな。

 各訪れる町の外れにゲートを設置するのも目的のひとつではあるが・・・。


「まぁ、夜になる度に戻って顔を出すよ。

 各町の調査はあとあとでも出来るし、

 最優先はノイとの合流だ」

「わかりました。

 細かい予定は後々決めましょう。

 次はゼノウさんたちですね」

「といっても、俺たちは[七精の門(エレメンツゲート)]所属なので、

 結局宗八(そうはち)の指示に従うだけですが・・・」

「何かやりたい事がないのであれば、

 アスペラルダに一緒に来てみっちり訓練をする時間を確保すれば良い。

 ダンジョンに潜ってレベルを上げたいならこちらに残って自分たちで旅をするのもいい」


 結局は2ヶ月先までに鍛える必要はあるわけなんだけど、

 どのベクトルで鍛えるのかは彼らに任せるつもりだ。

 もっと上位の武器を使いたいならレベルを上げてGEMを稼がないといけないし、

 プレイヤースキルを上げたいならじっくり腰を据えて訓練が出来るアスペラルダが良いと思う。


 ゼノウがリーダーとしてPTの面々へと順々に視線を送り、

 再び俺に視線を戻すと自分の意見を伝えてきた。


「俺は武器に不満はないし、

 どちらかと言えば技術を鍛えたい。

 それにスタミナの少なさは先の作戦で嫌と言うほど思い知ったからな」

「あ~そりゃ同意だな。

 交代もさせてもらったってのにありゃひどいもんだった。

 俺もアスペラルダだな」

「私もアスペラルダがいいんだけど、

 どっちかと言えば宗八(そうはち)に教えを乞いたいのだけれど?」


 ゼノウ、ライナーに続いてアスペラルダ行きを決めるトワインだが、

 魔法弓の訓練はまだ他の魔法の扱いに慣れていない無精のセルレインにとって荷が重い。

 精霊に関しての知識だけでなく魔法剣を扱う俺の監督が必要だとトワインは俺を見つめる。


「日中はセリア先生から魔法の指導を受けてもらって、

 夕方以降に俺が戻ったら魔法弓の訓練をしましょう」

「わかりました」


 別にトワインだけを教えるつもりはないし、

 俺も訓練の時間は確保したいから夕方にはアスペラルダに戻りたい。


 実はアクアやニル、クーもそれぞれ魔法の扱いを向上させる為に、

 アクアはスィーネやボジャ様に、

 クーはアルカトラズ様に、

 ニルはセリア先生に預けて鍛えてもらおうとも思ってはいた。

 しかし、俺がノイの元へ行くには少なくともアクアの竜で飛んでいくのが一番早いし、

 ニルの魔法があればもっと旅足を上げることが出来る。


 ままならないのが口惜しい・・。


「もちろん私もアスペラルダへ行かせていただきます。

 訓練も姫様にご迷惑をかけずとも出来そうですから」

「別に迷惑とは思っていませんが・・・、

 体術レベルの同じくらいの人と行った方がやりやすいかもしれませんね」


 というわけで、ゼノウPTは俺たちに附いてアスペラルダ行きを決め、

 続けてセーバーPTは元のクエストに戻り、

 牧場近くのオベリスク破壊へ向かう間に、

 クエスト後の行動を決めるらしい。

 合流するときは俺に連絡を入れて迎えにくることになる。


「クレアとメリオたちは神聖教国に戻って失伝の捜索でいいんだよな?」

「はい!」

〔大丈夫です!〕

「でだ、メリオに頼みがあってな・・・お前にしか出来ないことなんだっ!

 頼まれてくれるよなっ!」

〔っ!任せてください!頼られれば俺は出来る限りのことはさせていただきますっ!〕


「じゃあ、今から俺たちを国まで送っていってくれ!」


 満面の笑みを浮かべる俺は、

 苦笑いを浮かべるメリオの肩を両手でつかんで離さない。

 お前のチート移動魔法は有用なんだ!

 こいつが今まで行ったことのある町々へ一瞬で移動できるのであれば、

 その力に便乗して俺も各町にゲートを設置することが出来る。

 つまり、距離によっては多大な魔力を失うにしても一瞬で移動できるのと、

 数週間やひと月掛かる距離を短縮出来るのであれば利用しない手はないっ!


「頼むな!頼りにしてるぜっ!」



 * * * * *

「先にうちの連中を送ってもらうから、

 少しの間待っててくれ」

「わかりました。

 護衛にトーニャもサーニャもいるので危険はありませんよ」


 これからの流れとしてはメリオと七精の門(エレメンツゲート)が魔法で各町に移動をしつつ、

 俺がゲートを設置しながら王都アスペラルダを目指し、

 途中、セーバーPTが牧場で別れる予定も入っている。

 アスペラルダまで到着したら、

 またハルカナムまでメリオと俺とアルシェが戻ってきて、

 今度は勇者PTとクレアPTも加えたメンバーで神聖教国の首都を目指して、

 同じように勇者が通った町を経由してゲートを設置。

 最後に神聖教国の教皇に挨拶だけして俺の力で俺とアルシェはアスペラルダに帰る予定だ。


「昨日の今日で日常に戻されるとは・・、

 宗八(そうはち)に関わるとフットワークは軽すぎてまったく休めないな・・・」

「いや、メリオの勇者魔法が、

 行ったことのある町へ一瞬で行けるものでなかったら後1日くらいはのんびりしたさ」

「それでも1日ってのがな」


 若干呆れ気味で愚痴を零すセーバーに対しては、

 ヘルプで来てもらったのに扱いが雑という部分については、

 心から本当に申し訳ないと思っている。

 国元に帰って安心を得たい俺たちの・・、

 というか俺の心境も理解をして愚痴で済ませてくれている冒険者の先輩には頭が上がらない。


〔では、そろそろ出発しようかと思います。

 準備はいいですか?〕

「おら、大丈夫か?」

『だいじょうぶ~』

『問題ありません』

『いつでもいいですわー!』

『どうぞ』


 うちのPTに声を掛けたつもりなのに、

 真っ先に俺にくっついている精霊共が手を上げて声を上げる。


「いつでも」

「準備はできております」

「まぁ、隊長の魔法でいつでもこっちに来れるなら忘れ物しても大丈夫でしょ~?」

「俺はあまり気軽にこっちにゃ来たくねぇんだ、よ!」

「あいた~!すぐデコピンするのやめてよぉ~!」


 忘れ物をしても戻るにしても、

 2ヶ月後しか近づきたくはない。

 木を隠すなら森の中。

 敵の視線を気にしなきゃならんそんな状況下にある今の王都に誰が好き好んで近づくんだよ。


「ゼノウ達も準備はいいか?」

「あぁ、全員確認済みで問題ない」

「セーバー達もいいか?」

「同じく、ってか荷物のほとんどはこっちに置いてたからな。

 忘れ物もクソもねぇわな」


 というわけで、

 アスペラルダ方面に移動する全員の準備完了を持って、

 クレア達と護衛に勇者PTの4人をハルカナムへ残したまま、

 俺たちはメリオの魔法で昼過ぎにはグランハイリアが見守るハルカナムの街を出発したのだった。


〔では、出発します〕

「お願いします」

「頼む」


〔《ヘリオス・ルラ・トレイン!》〕

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