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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
閑話休題 -ギルドハルカナム支店会議室-

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閑話休題 -28話-[フォレストトーレ救出作戦報告会Ⅲ]

 全5班のうち4班の報告が終わった時点で昼を少し過ぎていたので、

 一旦昼食を挟むことになり、

 流石に全員息抜きをすべきと判断して、

 2時間くらい彷徨くついでに飯も食べてこいと伝える。


 勇者PTやセーバーPT、ゼノウPTが退室していくなか、

 書記を務める3人のうち2人はギルドマスターであることから、

 職員に昼を注文してそのまま各々でまとめた内容の照らし合わせと、

 再まとめの為にこの会議室に残るそうだ。


「応、メイドは外れていいぞぉ~。

 ここまでの内容でも十分にうまく纏められてるからなぁ~。

 あとはこっちでやっとくよ」


 手元から視線をあげないまま、

 現・廃都のギルマスであるパーシバルがメリーに声を掛ける。

 その言葉を受けたメリーはスッと音もなく椅子から立ち上がると、

 こちらを見もしないパーシバルと戸惑い気味のハルカナムギルマスのホーリィへ答えを返した。


「では、お言葉に甘えて外させていただきます。

 パーシバル様、ホーリィ様、また後ほど」

「あ、はい・・・本当に行っちゃうんですね・・」

「馬っ鹿!お前それでもギルマスかっ!

 これ見てみろ!本職がメイドに負けて恥ずかしくないのかっ!」

「痛いですよぉ!パーシバルさん力めちゃくちゃ強いんですから、

 叩くにしても緩くしてくださいよ!」

「軽くしてそれだよっ!文句言ってねぇで参考にしてまとめとけ!」

「ひぃーん・・・」


 大先輩から教育的指導をされながら、

 必死にメリーのまとめと自分のまとめを交互に睨めっこする若いギルマス。

 しれっとそんな騒動も関係なしと俺たちの側へと移動してきたメリーを引き連れて、

 俺たちも会議室を退室し、

 うちの精霊たちを閉じ込めている部屋へと移動する。


「おーい、飯に行くぞー」

『わーい、ますたー!』

「はいはい、よっと・・。あー重」

『おもいってなにさ~!』

「いや、マジでアクアデカくなったからな・・・。

 持ち上げられないわけじゃないけど、

 一気に成長するから重さも一気に増加してんだよ・・・」

『ぶぇ~』


 扉を開きながら声を掛けると、我先にとばかりにアクアが突撃してくる。

 進化して他の精霊娘に比べると一回り以上に大きいアクアが、

 以前のポテポテとした足音ではなく、

 しっかりとしたトテトテという音を立てながら俺に両手を広げて迫ってきたので、

 脇に手を入れて一息に持ち上げると、

 これまた以前とは違い、

 口からフッと意識しない息が漏れるくらいには大きくなった。


『クー、ニル、お~いで』

『はい、お姉さま』

『頭に失礼しますわ-!』


 俺に抱えられたアクアが足下にいるクーとニルに向かって、

 再び両手を広げて誘うと、

 ニュートラル形態でいた2人はアニマル形態の猫と兎に変身してそれぞれがアクアの手元と頭に収まる。

 これ、実質俺が3人を抱えてるんやで?


 まぁ、アニマル形態は人型のニュートラル形態に比べると、

 その姿の通りの軽さになるので、

 大して重くなったとは思わないけどさ。


「んじゃ、行くか」

「ここがマリーブパリアならカンパレストに行きたかったですね、姫様」

「それは確かに久しぶりに顔を出したいわね」

「あ、アルカンシェ様。

 今からお呼びに伺おうかと思っていたのですが、

 これからご昼食でしょうか?」

「えぇ、そうですけど・・・?どうかされましたか?」


 アクアたちを抱えて歩きながら昼飯をどうするかと話していると、

 ギルド内の細い通路から出たところでギルド職員の方からアルシェが呼び止められる。

 ただ、あまり聞きたくはなかったなぁ・・と後悔することになるのだが。


「ゲンマール町長が昼食にはぜひ我が家へと誘われておいでで・・・」


 おっふ・・・。

 即座に交差する視線は俺とアルシェを繋げ、

 無駄を省いた2人だけの会話を繰り広げる。

 結果はすぐに弾き出され、視線を2人揃って職員へと戻すと、

 若干のキョドりを見せる。

 すまんね、兄妹仲の良いところ見せちゃったかな?


「わかりました。これから向かってもいいのですか?」

「え、あ、はい。問題はないかと・・・。

 建前とまでは言いませんが、

 おそらく会談の席を設ける為の物かとは思います」

「そうでしょうね・・・。

 はぁ・・さっそく伺ってきます。

 お伝えいただきありがとうございました」

「いえ、では失礼します」


 救出作戦後のハルカナム滞在となっているので、

 出来れば痕跡を残すような事はしたくなかったんだけどなぁ。

 だから顔見知りには会わないようにして、

 明日にでもハルカナムを出ようと思っていたのに・・・。


「何の用事ですかねぇ~?」

「救護者の避難先として協力頂きましたから、

 その件で直接話を受けたかったのではないでしょうか?」

「まぁ、そうなんだろうけどね・・。

 息子さんがいなければ俺は文句ないよ、

 飯屋を探す手間が省けたと思えば時間の短縮にはなるし」

「メリーの言うとおりの内容かとは思いますけど、

 以前に注意はしたんですよね?」

「あぁ、報告の時に息子を同席させていたからな」


 ギルド職員から聞いて了承をした後は、

 別れてすぐに足を町長邸へと向けて歩き出し、

 メリーもマリエルも俺たちに合わせて足踏みを揃えて着いてくる。


「隊長が顔を合わせたくないなら、

 私たちだけで行ってくるのも手だと思いますけど?」

「まぁ、そうしたいのは山々なんだけど、

 前回からのテコ入れでアルシェだけじゃなくて俺も相応の責任があるからなぁ・・。

 胃が痛くなってきたけど会うよ」

『流石です、お父さま!』

「流石です、ご主人様」


 マリエルの申し出は大変にありがたいものではあるんだけど、

 ここは逆にいない方が問題なのかもと思う。

 心底嫌そうな俺の顔を見たクーとメリーからいつものアレを頂いたけれど、

 ここで流石ですを頂いても嬉しくないんだよなぁ・・痛てて・・。

 腹減りからでは確実にない痛みを訴えだしたお腹を擦ろうと思い始めた矢先、

 アクアが体を少し動かして俺のお腹を代わりに撫でてくれる。


『いたいのいたいの飛んでいけ~!』

「ありがとう、アクア」


 アクアの頭に頬を擦りつけながら感謝を伝える。

 健気な馬鹿娘よ・・・そこは、心臓だゾ。



 * * * * *

「アルカンシェ姫殿下(ひめでんか)ようこそいらっしゃいました。

 また、わざわざ足をお運びいただいた旨も申し訳ありませんでした。

 ありがとうございます」

「お食事にご招待くださりありがとうございました。

 本件でご助力もいただきましたし、

 あまり恐縮しないでくださるとこちらも助かります」

「ご配慮痛み入ります」


 事前に準備を整えていたのか、

 町長邸に着くやいなや待合室ではなくさっそくダイニングルームへと案内され、

 上記の挨拶が展開された。

 この部屋には息子はいないらしい。


(せがれ)は居らんよ。自分で呼んでおいて殺されたくはないのでな」

「・・・そうですか」

「まぁ、堅い挨拶はここまでにしたい。

 アルカンシェ姫よ、よろしいでしょうか?」

「はい、感謝いたします。

 みんな、席に着きましょう」


 最後に見た時に比べれば幾分もマシになっている町長の顔色と嫌みを流しつつ、

 アルシェの掛け声で席に着く。

 ギルド経由なのか俺たちのPT構成を確認済みのようで、

 人間だけでなく小さい子用の椅子も精霊分用意されていた。


『いいですか?』

『ん~、いいよ~』

『では・・・』

『『『最初はグー!じゃんけんぽん!』』』

『『あー!!!』』

『やりましたわー!!!』


 俺は明らかな席に座り、

 メリーがアルシェの椅子を引いてアルシェが座るのをサポートし、

 その隣の席にマリエルが腰を下ろす中。

 俺たちの背後では精霊じゃんけんが行われていた。


 一発で勝利を収めたニルが、

 兎からニュートラル形態となって俺の膝によじ登って腰を落とし、

 残る2人がしょんぼりとしながら俺の左右に用意されていた子供用の椅子に座る。


 おい、椅子がひとつ空いただろ。

 おい、メリーも空いた椅子を壁に寄せるんじゃない。


「はっはっはっ!相も変わらず仲の良いものだな。

 お腹は空いておるかの?」

『すいてる~!!』

「では、すぐに持ってこさせよう。頼むぞ」

「かしこまりました、旦那様」


 ゲンマール町長の問いにアクアが若干やけくそ気味にも聞こえる回答を返し、

 ダイニングルームの扉脇に控えていた執事に指示を与えて退室させる。

 堅い挨拶は終わりを告げてはいたけれど、ここは姫様と町長。

 食事の準備が整うまでは静かに雑談もせずに待つので、

 俺たちも必然的に黙って料理が来るのを待つ。


「失礼いたします」

「うむ、並べてくれ」


 いつから料理を始めていたのかは不明だが、

 もしかしたら昨日の時点でこの町長は、

 この場をセッティングする為に動いていたのか?

 でなければ、

 先の執事が退室してから料理が運ばれてくるまでの短すぎる間が説明できない。


 とはいえ口にするだけ詮無いことなので、

 別に確認などはしないけどな。


『おいしそうだよ~、ますたー!』

『じゅるり、ですわー!』

『・・・』


 朝食後からは今の今まで何も口にしていないのは俺たちも精霊たちも同じなので、

 綺麗に並べられていく料理の香りが自然と鼻に刺激を与える。

 声には出さないけれど、

 クーも口内に唾液が発生し始めているのか、

 俺の袖をぎゅっと握ってくる。


「さぁ、冷める前に食べましょう。

 姫様も皆様もどうぞ召し上がってくだされ」

「では、頂かせていただきます」

「姫様、私が取りますので」

「アクアちゃんは私が取ってあげますね」

『マリ~、ありがと~』

「クーとニルは俺が取ってやるからな、食べたいのがあれば言えよ」

『『はい!』ですわー!』


 ここで料理を取り分けながら念話で確認を取る。


(「ニル、毒素の匂いはしないか?」)

(『大丈夫ですわー、全部そんな香りはしませんわー』)


 そうか、毒はないか。

 まぁ今更食べ物の毒を気にしたところで、

 状態異常としての毒なら[キュア]で回復できるし、

 他の毒ならクーがどうにか出来るだろう。

 それでも[人形]の一件もあり、

 このゲンマール町長が有能なのは知っていても警戒を完全に解くことは出来なかった。


 クーも嗅覚と聴覚が鋭いのだが、

 新たに兎の姿を手にしたニルは、

 犬にも劣らぬ嗅覚と猫にも負けぬ聴覚を持っている。

 そのニルが言うのだから毒素のある食材を使った料理は出されていないらしい。


「さっそくですがアルカンシェ姫。

 おそらくは以前の滞在期間からも予想はしてはいるのですが、

 いつまでこちらにいらっしゃるのですかな?」

「・・ンクッ。

 数日中にはハルカナムだけでなく風の国からの撤退を考えています」

「それは王都が原因ですか?」

「そうです。ゲンマール町長や他町の重鎮方には、

 ギルド経由で後々お知らせがあるかとは思いますが・・・、

 王都は予想以上にひどい有様でしたので。

 私たちだけでこれ以上の調査は不可能だと判断した結果です」


 食事を食べ始めてから最初の質問をアルシェに問いかけるゲンマール町長に対し、

 アルシェは口に入っている物を飲み下してから返す。

 この時点で俺の考えはアルシェだけでなくメンバーには伝えていない。


 それでもアルシェは俺の考えを先回りして回答をする。

 回答をするアルシェの目力(めぢから)と声の張りから、

 話は本当なのだろうと中りをつけたゲンマール町長が、

 今度は俺に視線を向けてくる。

 まぁ、息子もいないようだし、

 俺の存在を隠す必要がない場なので答えるけどね。


「出来れば明日にでも国に戻ろうかと思っています」

「それは予想以上に迅速な動きだ。

 移動手段に心当たりでもあるのかね?」

「もうご存じかとは思いますが、

 ここには勇者様も来ておりますので移動に付き合ってもらう予定です」


 当然、まだメリオに話は通していないがな。


「王都だけでなく、アルシェ様とマリエルの為でもあります。

 他にも急務でやらなければならない事もありますから、

 それらを踏まえると明日にでもハルカナムを出たいのです」

「なるほどなぁ・・・。

 では、やはり今日時間を取らせていただいて正解だったか・・。

 まぁ予想は出来ているであろうが、

 こちらの後処理の手筈を聞いて何かアドバイスがあればと、な」


 アドバイスを言われてここで疑問を持たない人間はいないだろう。

 なぜなら目の前にいる御仁はフォレストトーレ1巨大な都市の町長を勤める男だ。

 その手腕の実力も確認済みである。


「自分の勝手な感想ですが、

 以前の手際は素晴らしかったですし、我々の介入する余地はないかと思いますが?」

「お褒めいただき大変光栄だがね、

 君たち・・いや姫様方は、

 ずっと暮らし続けている私たちでは発見出来なかった問題も見つけて頂いた手前、

 他にも見落としなどがないかと思いましてな」


 言いたいことは理解できる。

 それでも俺たちは万能なわけではなく、

 小さな芽や地道な情報収集から来た結果だ。

 その回答は俺ではなく、

 アルシェの口から返された。


「お力になりたいのはこちらも山々なのですが、

 前回は調べる時間も問題の前情報もあったので対応も出来ましたが、

 ほぼ芽を潰した今、

 0から見つけるのは流石に無理ですよ?」

「えぇ、それも十分に存じております。

 話を聞いて何か引っかかりなどを感じられた時に教えて頂ければと思いまして・・」


 ここで一息、大きく息を吐き出してから深呼吸を数度挟む町長。

 本題の話が始まってからというもの、

 さきほどまでは見られなかった焦りや不安の色がどんどんと強く感じられるようになる。


「これからのフォレストトーレは先が見えぬ危険な時代が来ます。

 私や街の重鎮は今までよりも力を合わせてこの街を守らなければなりません。

 いまも転がる問題の対処に追われているところで、

 別の問題が起こっては・・・おそらく対処が出来ません。

 何卒、お力添えを・・・お願いいたします」


 座ったままとはいえ頭を深く下げるゲンマール町長の姿と空気を見て、

 アルシェと顔を見合わせる。


 はっきり言って今の俺は燃え尽き症候群に近い精神状態で、

 一段落とも言える大仕事を終えてすぐの今の時期に集中が必要な仕事はしたくない。

 出来るとも思えないが、

 町長の気持ちはわからなくはない・・・。


 国の心臓部を狙い撃ちで落とされればその影響は国外にも及ぶだろう。

 その中でも国内はいろんな方面で大荒れになる。

 そして王族もクソから生まれたラフィート兄王子しか生き残りが確認出来ていない状況では国事態がどうなっていくのか予測が出来ない。


 となれば、国が頼れない以上は、

 集落としての団結で自分たちの守りを固めるのは鉄則だ。


「どこまでお力になれるかはわかりませんが、

 ここまで来てしまった以上はお聞きしましょう」

「ありがとうございます」


 口からいつ出てもおかしくはない、

 というよりも吐き出したい息を飲み込んで、

 アルシェが承諾の言葉を伝える。


 飯は旨いけど、空気は不味い!

 ガキ共だけが美味そうに飯を食いやがって!!

 別に対策とかにしてもちゃんと考え練られていて、

 さすがはゲンマール町長だと俺は感心をするだけで、

 多少(まつりごと)関係でアルシェからアドバイスが入る程度の内容だった。

 アンタならハルカナム守れるから心配すんな。



 * * * * *

「では、報告会後半を再開させて頂きます」

「あの・・・アルカンシェ様・・。

 なんだか昼食の前より疲れが見られますけれど・・・大丈夫でしょうか?」

「えぇ・・・大丈夫です。もう終わりましたから。

 お気になさらないでください・・・」


 後半戦開始の掛け声を上げるアルシェの異様さに、

 男勝りな口調で普段しゃべっているパーシバルですら、

 丁寧な口調で心配の言葉を掛けている。


 ちなみに彼女の名誉にかけて誓うが、

 立場ある人間に対しては、

 きちんと普段しゃべりは鳴りを潜め、

 相手が年下でもギルド職員らしく敬語を使われるお方でございます。


「さっそく、お兄さんお願いします」

「おう・・・」


 疲れ目で互いに声を掛け合い、

 アルシェはそのまま着席をして俺は立ったまま己が担当した支援班の報告を始める。


「えー、支援班の水無月(みなづき)です。

 基本的に班とは都合上言っておりますが、実質俺と精霊達の班になります。

 開始時は水精アクアーリィと水精霊纏(エレメンタライズ)した姿、

 (りゅう)でオベリスク範囲外の上空で待機。

 外周班が足下のオベリスクを破壊するまでは周辺警戒、

 下の掃除が終わるのを見計らって支援攻撃が出来る高度まで降りました。

 高度は・・・60m~50mといったところです」


 魔法特化に成長しているアクアの魔法攻撃は、

 その範囲も超広範囲となっており、

 特に質量が小さく鋭く撃ち抜くことが出来、

 初期から使い続けて練度の高い勇者の剣(くさかべ)


 この魔法限定で言えば射程距離が300mを超え、

 命中率などを捨ててしまえば400mまでは届かせることが出来る。


「この後の流れは、

 外周班が入り口周辺を掃除したあと左廻りに進むのを見送り、

 すぐ突入班が街に入っていきました。

 しかし、開きっぱなしの入り口から瘴気が外に漏れ出ていた為、

 メリオに確認を取ってすぐに閉めました」


 一応了解の確認をしてくれという意味を込めてメリオに顔を向けると、

 察してコクリと大きめに頷いてくれる。

 実質、各班の話を繋げ纏める役割も含まれる俺の報告は、

 メモを残す事も多いのか、

 いままで製作した報告書で各流れをチラチラと確認しつつ新たな支援班の動きをガリガリと筆記していく。


 様子を見て少し間を置いてから次の口を開く。


「扉を閉めてしばらくすると、

 外壁から漏れて周囲を浸食していた瘴気域が活性化を始めて、

 瘴気モンスターが産まれ始めました。

 この時はアスペラルダのギルドマスターであるアインスさんと揺蕩う唄(ウィルフラタ)で繋げており、

 瘴気モンスターについての情報を受け取っていました。

 瘴気とオベリスクの関係性は後ほど報告をいたします」


「モンスターはまず、鉱石と瘴気で[ロックレイトゴーレム]。

 樹木と瘴気で[バブリオトレント]。

 植物と瘴気で[アウラウネ=ユーストマ]と[アウラウネ=ストケシア]。

 キノコと瘴気で[トリプトフングス]。

 石像と瘴気で[ガーゴイル]が産まれました。これらは全部ランク3です。

 瘴気モンスターは一度に30~50体ほど発生し、

 生き物の気配に向かって行く様子でした。

 一部の奇行種は王都の外壁に取りつき、

 多くは俺やアルシェ達のいる後方を目指して動き始めました」


 瘴気モンスターの発生条件も特殊なもので、

 瘴気と瘴気に侵された媒体が揃うことでモンスター化する。

 ここでも精霊加階の様なプロセスが関係している為引っかかるけど、後回しにする。

 生み出されるモンスターの種類はすでに確認されているモンスターの瘴気版となり、

 見た目は黒くなり目も赤くなり如何にも凶暴化しましたという印象を与える。


 そしてもっとも特筆すべき点が2つある・・・。


「彼らの中には瘴気を広げることで行動範囲を広げようとする、

 スポット役がいました。

 この個体を最優先で倒すことで瘴気エリアの拡大をある程度遅延出来るようです」

「質問をしてもよろしいですか?」

「もちろんです。なんでしょうか?」


 挙手をした質問者は、勇者PTのミリアリアさん。

 レベルに相応しい魔法使い然とした姿で綺麗に耳横に腕を上げている。


「その個体に傾向などはありましたか?」

「種族的なという意味であればありませんでした。

 最初に見つけた個体はフングス種でしたし、

 その後も別種の個体がスポット役になっていました」

「そうですか。ありがとうございます」


 スポット役は歩き続ける限り瘴気を周囲に振りまく広範囲散布型だが、

 通常の瘴気モンスターも倒したその場に瘴気を残すため、

 戦闘するラインは極力下げないに越したことはない。


「次に彼らは黒紫(こくし)のオーラ。

 つまり、瘴気をさらに纏うことで我々と同じ浮遊精霊(ふゆうせいれい)の鎧に似た効果を発揮し、

 通常のモンスターや魔物とは違う、

 対人戦に近い形での戦闘が強いられます。


 仮にメリオが瘴気の衣を剥がすとしても、

 スポット役や残留瘴気の所為で再び纏う事が出来てしまう」

「対処の目処はいるのですか?」


 次の質問者はハルカナムギルマスのホーリィさん。

 まぁ、質問がなくともあとで話す予定ではあったので、

 順序が変わるけど先にそちらの話をしようか・・。


「一応考えてはありますが、いまはまだありません」

「どういうことですか?」

「まず、今回の戦闘で一番辛かったのは、

 急所の1撃で倒しきれない上での物量の多さです。

 瘴気の濃さがオベリスクによる密閉によって、

 次回の敵のランクは4~5まで上がるでしょう」


 それはこちらも数を揃えての戦闘になるけれど、

 そのランクにもなれば、

 体感的にも将軍と副将軍でないと倒しきれないのではないかと思われる。

 さらに戦闘エリアの拡大は必要なので、

 オベリスクの掃除まで仕事に含まれれば死傷者の数は予想も出来ない数に膨れあがるだろう。


「敵のランク上昇が瘴気の濃さに影響を受ける問題なら、

 瘴気を薄くする方法を確立しなければいけません」

 〔どうするのですか?〕

「ひとまずは、俺とニルで瘴気を吸い上げて一カ所に集める魔法を開発します」

『(そうはちー!瘴気は重いから集められませんわー!)』

「(それを集められるように訓練するんだろうが-!)」

『(嫌ぁーーー!ですわーーー!!)』


 瘴気という空気に実際触れたニルはその重さを知っている為か、

 訓練の熾烈さを想像して念話で悲鳴を上げる。

 予定としては水を吸い上げる事が出来るようになれば、

 あまり苦労せずに瘴気も吸い上げられるようになるのではと考えている。


「集まったそれをメリオに浄化してもらうか、

 俺が光属性の武器を持っていればこっちだけで対処出来るかもしれません。

 これが成功すれば根絶までは出来なくとも、

 濃度自体は下げられるかとは思いますけど、

 地面や建造物に染みついた瘴気までは無理なので、

 それに関しては敵大将の首を取ったあとの話ですね」

「それに成功すれば、

 少なくとも場所には依るけれど敵のランクを下げられるのですね。

 ならば、ランク5の相手は荷が重い兵士でも戦死し辛くなりますね」


 アルシェの言葉に肯定の意思を込めた頷きを返し、

 周囲の人々の顔も見渡し理解は出来たか瞳を見ていく。


 うん、大丈夫そうだ。


「時間もあまりないので、

 自分たちの技術のことでしか対処法を考えられず申し訳ありません。

 ひとまずはこの程度ですが、よろしいですか?」

「はい、ありがとうございました」

「あー、ついでにこの場で伝えておきますが、

 約2ヶ月後の作戦には参加はしますが、

 支援に回りますので前線で斬った張ったはメリオに任せますので」


 ここだけは譲れない。なぜなら死にたくないから。

 今度は疲れるような体の動かし方は絶対にしない。

 なぜなら魔女が来るかもしれないから。

 俺だけを狙い撃ちしてくるのであれば、

 それを念頭において余力は残す方法で生き残らせて頂こう。


 勝てなくてもいい。

 いや、もしかしたら勇者が武器としてではなく、

 エクスという精霊の存在ときちんと向き合うまでが俺の宿命だったのかもしれない。

 であれば、俺の異世界での役割は終わったとも言えるのか?

 勇者メリオは晴れて精霊使いとなり、

 破滅の呪いからも逃れることが出来た今、

 勇者の役割を二分して俺が担当して肩代わりしていた部分も勇者の肩に乗ったとみるべきか?


 ふと、無意識で己の左掌を開いて見つめてしまう。


「・・お兄さん?」

「ん、なんでもない」


 アルシェに自分の瞳を見られないように顔を合わせないように答える。

 この娘も瞳から内心を読み取る力があるから、

 力の抜けていくような感覚がある今は見られたくはない。


「報告を続けます。

 瘴気の少ない情報をアインスさんから受け取り、

 アルシェ経由でサーニャさんの武器[サンクトゥス]を借り受け、

 光属性の魔法剣で瘴気を祓い、

 実際に剣を交えて体力の多さと堅さや身体能力を調べつつ迎撃。

 それらの情報を後方の護衛班に伝えて、

 俺はメリーたち救出班の動きに合わせて外周班の回収をする為に移動を開始。

 これに併せてサンクトゥスの返還とパートナー精霊を、

 アクアからニル・・あ、失礼。

 アクアーリィからニルチッイに変更し、風精霊纏(エレメンタライズ)[鎌鼬(かまいたち)]に姿を変えました」


「ギリギリ生き残った外周班を逃がした後に、

 ランク4のモンスターを2体相手にするのは流石にキツいと考え、

 その場で一番戦闘力のあるトーニャさんに共闘をお願いしました。

 俺が[フライングサイズ]でトーニャさんが[ランパードトータス]を討伐後にトーニャさんを影を使って後方へと送還しました」

「はい、確かに外周班の仲間を逃がす為にその場に水無月(みなづき)様と残り、

 戦闘の助力をいたしました。

 その後も救助に使われた影へと送られ合流をいたしました」


 支援班報告の中盤を迎える外周班回収時の報告に対し、

 リーダーを務めたセーバーは頷いており、

 シスターズ姉のトーニャも先の情報が共通認識であることの合意を示す為に言葉を添えてくれる。


「トーニャさんを送還後、

 外周に張り付いている救出班を合流し一緒に外壁を飛び越えて王都内に侵入。

 周辺の瘴気モンスターの気を引きつつギルドから離れ、

 救出班がギルドへ入るのを確認後、

 突入班と合流して周辺に沸く瘴気モンスターの討伐を繰り返し、

 途中禍津核(まがつかく)の脈動を感じて空に浮かんでいた4つは破壊に成功したものの、

 地上の民家内に設置されていた7つは発動を許してしまいました」

 〔この時水無月(みなづき)さんから気をつけるようにと連絡を受けました〕


 勇者PTの面々も注意勧告後に勇者の口から直接伝えられていたのか、

 メリオの返しに妙に納得のある顔をしている。


「救出が完了するおよそ10分前に禍津核(まがつかく)製瘴気モンスターが7体発生。

 ランクは5。うち5体は地上型でしたが、

 2体が空を飛ぶ事の出来る[アトミックガーゴイル]と[ドラゴンフライ]で、

 こちらの対処を我々支援班が致しました。

 戦闘中に救出班は撤退。

 しかし、戦闘中では影を使っての撤退も難しい為、

 禍津核(まがつかく)モンスター討伐後に限界が来ていた勇者PTのメンバーを送り、

 続けてメリオと共に撤退をしようとした矢先に魔神族と遭遇。

 そのまま戦闘に突入しました」


 ハルカナムで始まった報告会は、

 最後の舞台へと登っていき、

 残すは魔神族、今後のフォレストトーレ、2ヶ月間の予定となった。

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