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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
閑話休題 -ギルドハルカナム支店会議室-

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閑話休題 -27話-[フォレストトーレ救出作戦報告会Ⅱ]

「皆様、昨日はお疲れ様でした。

 今から救出作戦の戦後報告会を始めさせていただきます」

「進行は水無月宗八(みなづきそうはち)と、アルカンシェ姫殿下で勤めさせていただきます」


 会釈をするとギルドの会議室に集められた、

 フォレストトーレ救出作戦に参加していた勇者メリオPT、

 聖女クレアPT、ゼノウPT、セーバーPTの面々。

 さらに戦闘中にフーリエタマナから移送されてきていた元ラフィート王子殿下も、

 移動用ベッドに寝転がされたまま部屋の中に居られる。


「ギルドと各国に情報を展開する為、

 廃都フォレストトーレギルドマスターのパーシバルさんと、

 ハルカナムのギルドマスターでホーリィさん、

 そしてうちの方からメリーの3人が戦闘報告書を作成致します」


 紹介された3人は壁際に設置されたテーブルに座ったまま会釈を返す。

 手元には紙とペンのみを装備して、

 書記として3人のまとめた情報を最後にさらに纏め上げて、

 廃都フォレストトーレへの警戒と注意を呼びかけるのが目的だ。


 そこで挙手をしたのは、治療院で働く職員の方だ。

 動きはこちらから見えていたので、

 大きな声の出せないラフィートの口元に耳を近づけていたことから、

 彼からの発言を代弁するのだろう。


「どうぞ」

「ラフィート王子殿下からのご質問なのですが、

 王都の事を廃都と呼ぶのはどういうワケなのでしょうか?」

「結論から言いますが、王都は人の住める地域ではなくなり、

 今や敵の手に完全に落ちています。

 今回の報告で詳細はお伝えしますが、

 一応元王子として復興を考えるのであれば軽はずみな行動は慎んでください。以上です」


「では、始めさせていただきます。

 まずは本作戦の目的であった救出者の報告を、聖女クレア」

「は、はい!」

「無理をしなくてもいいから、ゆっくり確実な情報を教えてくれ」


 ラフィートへの義理立てというわけではないが、

 王都の現状だけを伝えて話をさっさと切り上げる。

 目線でアルシェにコンタクトを送って、

 それを受け取りこくりと頷いたアルシェは場を切り替える為に、

 覇気のある声で開始を告げる。


 最初に報告を指名されたのは、

 一番年齢が幼く、

 しかし本作戦で重要なポジションで頑張ってくれていたクレアが選ばれる。


 アルシェの声に反応して、

 勢いよく席から立ち上がったクレアの声も顔も、

 空気の重さを感じて緊張がにじみ出ていたので落ち着くようにとフォローの声かけをする。


「えっと・・・要救護で対応させていただいた人数は784人。

 体調が悪くとも歩く事も出来て意識レベルもはっきりとしていた人数は441人。

 意識を失っており緊急で回復が必要だった人数が1579人。

 救護が間に合わず死亡した人数・・37人。

 本救出で助かった命は2804人となりました。

 教国の聖女として、皆様の行動には感謝してもし足りません。

 本当にありがとうございました!」


 慣れない報告は事務的な簡潔さを持って俺たちに伝えられ、

 勇者PTの敵を倒しつつの救出によって、

 最終的には延べ2800人を越える命を救うことが出来たらしい。


 最後に皆への感謝を口にしてお辞儀するクレアの両脇を固めていたシスターズの2人も、

 同じく皆に向かって感謝を伝えるお辞儀を行った。


「ありがとう、クレア。

 続けて作戦中の行動を簡潔に教えてください」

「わかりました」


 一旦伝えたかった感情を吐き出してその反応に周囲の空気も少し軽くなったからか、

 続くアルシェからの指示には、

 落ち着いた様子で答え始めた。


「えっと、私たちは作戦開始時には救出も始まっていませんでした。

 初めの数時間はアスペラルダのギルドマスターさんが依頼を発注していたようで、

 水無月さんが開いていたゲート?からハルカナムとフーリエタマナの両町から、

 冒険者の方やギルド支店の方が次々とこちらの救援に来られて、

 そちらの方々へと指示出しや救護に必要なものを準備してもらったりを進めました」


 確かにアインスさんに作戦当日のギルド経由で依頼を出して貰ったが、

 その詳しい内容はお任せしたのでクエスト内容を俺たちは知らない。

 クエストの報酬も設定されているはずなので、

 結構な出費があり、そこの支払いもおそらく一旦はアスペラルダが負担しているだろう。


 ただ、(まつりごと)の話なのでギルドが保険みたいな感じで多少の負担をしていたり、

 今回の報告書次第では、

 聖女も関わっていることもあり、教国が負担してくれるかもしれない。

 ギルド職員の方はボランティアかもしれんがね。

 もちろん俺たちはノー報酬だし、

 そういう場外戦闘は王様やアインスさんに丸投げしているわけだしね。


「作戦が始まってから4時間程度が経った頃に、

 まず救出された方が現れると教えて貰っていた影と繋がるゲートの中に、

 23名の緊急性の高い方々が現れました」

「補足します。先行で送ったのは、

 勇者メリオが戦闘をしながら街中に倒れる人々を助けていたので、

 途中で合流した際にこちらの影に落としました」


 クレアの説明の流れから、

 挟むべきと判断をしたメリオの功績を補足説明する。

 実際、助けられた人数が少なかった今回の作戦中での勇者の行動は、功績もその分大きくなる。

 3人の書記が記録を取っていくのを確認して、

 クレアが続きを報告していく。


「彼らの応急処置と再生魔法で身体の活性化を促した後に、

 意識が戻った方は避難先を選んでいただき、

 戻らなかった方は王都から放した方が良いと判断してハルカナムに運び入れました。

 その後は程なくしてから本格的な救出が始まりましたが、

 事前に指揮系統ははっきりとさせていたおかげでなんとか乗り切れました」


「2時間ほど続いた救護作業も終わり、

 アルシェの指示に従って救援に来られていた方々の解体と撤退を進め、

 勇者様がさらに無理をされて救出をされた方々が26名送られて来られました。

 症状は一番初めの方々と同じでしたから対処も素早く行え、

 残る救援者は全て返し救護班は私たちだけとなり、

 最後に勇者様を抱えたマクラインさんが影から現れ、

 処置をさせていただき、そのままハルカナムへと移動して私の仕事は終わりました」


 クレアの話を初めから聞かせて貰い、

 彼女達後方のさらに後ろに配置された救護班の動きを理解した。

 こちらはこちらで大変だったというのもわかり、

 やはりクレアたちが参加したからこそ助かった命が多かったのだと確信した。


 そのうちの最後の部分に俺は強い興味を引いた。

 意識を保つのもやっとで影の中に潜るのもクーに任せっきりなほど消耗していた俺は、

 あのときの勇者を回収しか出来ていなかった。


「撤退した直後は命辛々だったから詳しくは知らないんだが、

 あの時に勇者は・・・死んでいたのか?」

「はい。私が身体を受け取った時には確かに死亡状態でした。

 ですからすぐさま蘇生魔法を掛けて息を吹き返しました。

 10分以内で本当に良かったです」


 流石は聖女だ。

 蘇生魔法は希少で覚えることはおろか使用制限も厳しいことから、

 治療院に集中的に渡すようにほとんどの町では勧告されているのだ。

 属性も一般的に確認されている唯一の光魔法だしな。


 それにしてもあの魔女が手心を加えてくれなかったら勇者はおろか、

 俺も王都で死んでいただろうし、

 勇者の死体を壊すなどいくらでも最悪のシナリオに進む√はあったのに、

 生きて持ち帰れただけでも奇跡的・・・いや、

 あくまで人為的に生かされただけなので運が良かったとかではない気もする。


「お疲れ様、クレア。座って大丈夫よ」

「はい、失礼します」


 シスターズのトーニャとサーニャは従者ということで、

 いつものメリーポジションでクレアの背後に控える為、

 座るのはクレアだけとなる。

 クレアが座ったのを確認してから再び俺が口を開いた。


「メリオ、あの最後の攻撃の時。

 どこまで意識はあったんだ?」

〔・・水無月さんに引っ張られた瞬間までは意識はありましたけど、

 その後の衝撃からは意識はなかったです〕

「・・・死んだという認識はあるか?」


 あと一歩道をズレれば俺も同じように死んでいたであろうことから、

 死んだ後の感想や生き返る時の感覚など貰える情報を吐かせたい。

 ただ、異世界人でも死んでから生き返ることは可能なのだとわかったのは少しの安心感が出た。


〔そうですね・・・死んだという認識はありました。

 不思議なんですけど、

 死んだあとに気づけば身体のすぐ近くに立っていて・・、

 この辺・・ですかね・・・、

 残った身体の左胸の下辺りと俺の間をこのくらいの太さの紐?線が繋がってるんです〕

「紐・・・」


 死亡までのカウントダウンの10分を、

 その状態で保てるのがこの世界の概念なのか・・。

 左胸の下辺りというと心があると言われている部位だし、

 精神的な活動が影響しているのは間違いないだろう。


〔意識はあるんですけど、何も聞こえなくて・・・、

 身体からそこまで離れることが出来ないし、

 時間が経てば経つほど紐が細くなっていき息が苦しくなるんです〕


 俺の世界で言えば生命維持装置のようなイメージだろうか?


「生き返る時はどうだった?」

〔生き返ったときは、さっきの紐がどんどん短くなっていって、

 最後は身体に吸い込まれたと思ったら意識が覚醒して音が戻るんです〕

「生き返る瞬間に声とかは何か聞こえなかったか?」

〔声・・ですか?

 う~ん・・・なかっ・・たと、思いますけどね。

 なんでですか?〕

「メリオは勇者だ、つまり異世界人だからこっちの世界の人と違って、

 何か制限でも掛かっているかと思ってな」


 復活回数に制限はない・・か・・。


 俺が異世界人であると知っているのは、

 アスペラルダ王と王妃、アスペラルダ城で働く不特定多数に、

 キュクロプス戦を共にした冒険者たちとギルマスのアインスさん。

 PTのアルシェにメリーにマリエルも知っているが、

 ここまでのメンバーにしか明かしていない。


 今まで出会った町長やギルドマスターなど協力してくれた人や、

 ゼノウPTにセーバーPT。

 当然、勇者メリオにも聖女クレアにも俺の本当の正体は伝えていない。

 これは元からの意向もあってアルシェを隠れ蓑にする意図もあるけれど、

 勇者に関しては、

 自分以外の異世界人がいると分かれば特別感を持っているであろう勇者の、

 精神に対して良くない方向の影響を与える可能性を懸念しているからだ。


 勇者は純粋だ。

 だからこそ、何が彼の成長を止めてしまうか分からない。

 もしかしたら、ここで隠したことが後に響く可能性だってある。


〔そういう事も確かに違いはありそうですね・・。

 一応生き返る時には視覚的にもそういうのは出なかったので無いかと思います〕

「わかった、ありがとう」


 まぁ、あまり聞き過ぎても引き際の見極めが難しくなるし、

 この辺で蒐集は止めるか。


 勇者から目を離して、

 先ほどまで説明をしていたクレアに再び視線を向ける。

 こればかりは直接言っておかないと俺も心にわだかまりを抱いたままになってしまうからだ。


「元々の予定としては3万人ほどだと予想していましたが、

 想像以上に王都の瘴気とオベリスクの掛け合わせが凶悪であり、

 予定の10分の1も助けられず申し訳なかった」

「いえ、私たち救護をする後方でも戦闘の激しさは十分に伝わっていましたし、

 最後の勇者様と水無月さんの様子からも逆だったのかなって思いました」

「逆?」


 正直考えが甘かったと言わざるを得なかった惨状を知っているだけに、

 よく2800人も助けられたと思う。

 けれど、アルシェからも聞いていたし、

 直接今朝匂いに釣られて起き出してきたクレアにお小言も言われた。


 改めて公式と言えるかはわからないけど、

 ケジメのつもりで皆の前で謝罪をしたのだが、

 俺の謝罪からの返答が逆というクレアに聞き返した。


「3万人を助けられなかったんじゃなくて、

 2804人も助けられたんだって。

 本当はアルシェたちの目的は調査だけで救出はする予定ではなかったのに、

 次に到着する兵隊さんたちは2ヶ月後。

 それでは間に合わないから無理をしてでも救出をする事にしたのだと、

 昨日意識を失う前にメリーさんから伺いました」


 ジロリとアルシェと揃ってメリーに視線を向けると、

 メリーは聴取に集中しているという体で俺たちの視線から逃げている。

 まったく、余計な事を言わなくて良いんだよ。


「そんなアルシェ達に協力してくださったセーバーPTの皆様も、

 ゼノウPTの皆様にも、

 当然一番危険な突入をしてギルドの外で倒れる人々を救った勇者様PTの皆様にも、

 本当に心から感謝をしています。

 なので、私も今回は偶々居合わせた形での参加でしたが、

 もっともっと鍛錬をしてもっと多くの人々を救えるようになりたいと思います」

「俺たちは基本的に表には出たくない。

 もし次の機会があるとすればメリオに協力することになるだろうから、

 連絡を取るようにしてくれ」

「はい!」


 9歳児から頂く心からの感謝の対価が死にかけるというのは些か足踏みしてしまうが、

 それでも一般人の俺が参加した作戦で人が救えたのは嬉しく思う。

 ただし、今回のムーブは俺たちの姿勢としては特殊なものになる為、

 おそらく2ヶ月後の作戦に参加するであろう勇者サイドとして動くように伝えておいた。



 * * * * *

「お次は作戦の流れから外周班から伺おうかと思いますが、

 代表としてリーダーを勤めたセーバーさん、お願いします」

「了解しました」


 アルシェの進行に従い、図体のデカいセーバーがゆったりと立ち上がる。

 ちなみに精霊たちは別室で遊ばせているので、

 ここには人間しかいない。

 エクスカリバーも人型になってあちらでうちの娘らと対話をしてくれていることだろう。


「えー、我々外周班はオベリスクによる魔力の霧散と精霊へのダメージを解除し、

 戦闘可能エリアを拡大するべく、精霊を纏って居ない状態で、

 王都を入り口から左周りにオベリスクの破壊を進めました」


「魔法による移動などが出来ないので我々の移動には馬を利用。

 順序としては勇者PTが突入する為、

 後方班がいるエリアから入り口までの道のり7㎞をカバーするオベリスクの破壊。

 ここまでの数は12本。

 それぞれの効果が重なるエリアを避けつつ、

 突入後の戦闘エリアを広げるために入り口から見て左側を少し掃除した後に、

 王都の左周りでの作業に入りました」


 一息ではなく序盤の動きを丁寧に説明していくセーバーは、

 途中でブレスを挟んで、

 移動方法や状況の説明も挟みつつ最序盤のオベリスク破壊数も伝えていく。


「あとはまぁ・・・、

 救出の目的地でもあるギルドがオベリスクの範囲外になった段階で撤退の合図を貰い、

 撤退を開始したわけです・・・。

 それまでの間に我々と移動に使った馬は魔力が減少し続けていたので、適宜配布されたマナポーションを服用し続けていました」


 続く報告は変化のない中間部分を端折ってから、

 撤退時点での報告へと移った。


「しかし、人間の服用に合わせたマナポーションは馬の口には合わなかったらしく、

 あまり飲んでくれなかった1頭が魔力切れで気絶、重いため切り捨て。

 さらに1頭が死亡の恐怖から恐慌状態となり逃走。

 次いで、合図の少し前から出現していた禍津核(まがつかく)モンスター、

 ランク3のフォレストゴブリンとサンダーバットの群れに、

 ランク4のランパードトータスとフライングサイズの襲撃でもう2頭が死亡」


 俺も途中までは視界にギリギリ3頭目が生きて走る姿は見えていたのだが、

 支援も間に合わずに砲岩に潰されてしまっていた。


「この段階では我々は浮遊精霊を纏っていないので、避けるか受け流すしか無く、

 撤退を開始した時点では残る馬は2頭でした。

 敵の攻撃を避ける為に落馬したところで、

 支援役の水無月宗八(みなづきそうはち)がなんとか間に合い生き延びることが出来ました」

「あそこまででいくつ倒してましたか?」

「えーっと・・・いくつだっけ?」

「先ほど伝えたじゃないですか・・・」


 途中報告の中にオベリスクの本数が一度しか登場していなかった為、

 どれほど掃除をしたのかと確認をするが、

 なんとセーバーはすぐに言葉を濁して隣に座る仲間の男に別途確認を取り始めた。

 あいつ、会議するって言ってたのに頭に入れらんなかったな・・。


 コソコソと男同士が顔を寄せ合い内緒話をする姿を見せられ、

 その光景をメリーがガン見する様子を俺は顔を青くしながら目を背けることしか出来なかった。

 すまんの。


 そういえばアイツ・・・腐ってるんだった・・・。


「入り口左脇が8本、撤退合図までが81本ですので、

 最終的には101本のオベリスクを除去致しました。

 水無月宗八(みなづきそうはち)から助けられたあとは、

 追ってくる大型2匹の対処のために宗八とトーニャを置いて、

 我々は残った2匹の馬に分かれてその場を撤退。

 瘴気モンスターと禍津核(まがつかく)モンスターを道中でトレインしながら、

 アルカンシェ姫殿下が指揮する後方の護衛部隊に合流しました。

 以後は護衛隊報告の際に発言しようかと思いますが・・・」

「はい、結構です。ありがとうございました。

 座っていただいて大丈夫です」


 セーバーの外周班としての報告が終わり、

 アルシェが促して席に着かせる。

 俺も視線で副隊長に任命していたゼノウへと視線で確認をするけど、

 ゼノウは首を横に振っているため、これ以上の報告はなさそうだ。


 アルシェとも顔を見合わせて外周班は終了の旨で同意を確認し、

 次の部隊の報告へと移ることとした。



 * * * * *

「では、次に後方に配置された救護班の護衛を務めた護衛班の報告に移ります」


 これは当然後方での指揮を執っていたアルシェが担当する予定だが、

 戦場もPTもそれぞれ離れていたり、

 大まかな指示は受け取れていても細かな戦闘面においては基本的におまかせであった為、

 横からの追加情報は有りとして護衛班の報告は始まった。


「序盤はこちらも敵が来ないことにはすることもなかったので、

 戦闘を行う前の位置取りなどを調査することと致しました。

 外周班が動き、突入班が動き、救出班が動き、

 護衛班はクレアの魔法で支援班の戦闘風景を観察していました」

「クレアの魔法ってなんだ?」

「あ、それはですね、光魔法の[リフレクションカーテン]を使うと、

 遠くの肉眼では見ることの出来ない光景を鏡写しのように見ることが出来るんです。

 それを使って参考にしたいからとアルシェから頼まれまして・・」


 魔法の名前からして本来は魔法自体の反射とかに使うのかな?

 で、戦闘以外の使い方としては、

 光の屈折を利用したプロジェクターみたいな役割になるのか・・・。

 アクアの[ウォーターレンズ]も、

 ポルタフォールで使っていた頃は似たようなものだったけど、

 あれとクレアの魔法は課程が違う。


「話を止めてごめん。ありがとう、クレア」

「いえ。アルシェ、続きをお願いします」


 ニッコリと微笑み頷きを返し合うアルシェとクレア。

 やっぱり名前も相性で呼び合っているし、

 戦闘途中に何か話す機会があって仲良くなったのかな?


「外周班がオベリスクを破壊したエリアで、

 発生が確認された瘴気モンスターの処理を始めた宗八から途中連絡が入り、

 救護班に配置されているサーニャさんの武器[サンクトゥス]を一時的に貸し出し、

 その後の戦闘もクレアの魔法によって観察を続けました。

 対処方法やHPの概算も宗八からの連絡を受けつつ、

 護衛班のメンバーにも揺蕩う唄(ウィルフラタ)を使って周知を行いました」


「敵は基本的に瘴気モンスターを主体とした量で押してくるタイプ。

 外周班が戻られる少し前からこちらでも禍津核(まがつかく)モンスターの確認が始まり、

 その後は大型も時折混ざるようになり始め、

 この時点で我々は試されている・・・そう感じていました」

「はぁ~い!私もそれは感じていました!

 対処自体は慣れればなんとでもなる程度でしたけど、

 本当に潰すつもりならもっと強いのを中ててくると思うんです」


 アルシェが感じていた感覚は俺も感じており、

 同じく護衛班の前衛を務めていたマリエルからも同じ意見が飛び出した。

 まぁ、実際新しい敵が出現する度に厄介さは上がっていたけど、

 魔女は撤退の最後まで観察を続けていた様子の内容で話していたことから、

 勇者に協力するメンバーの強さを計っていたんだと思われる。


 それだけあちらさんには余裕があるって事だ。


「俺も同意見だ。

 潰すつもりなら魔神族が1人居ればいいことは最悪な事に証明されたからな、

 完全に遊ばれていたのは明白だ」

「可能性の話ではなく、確実なのか?」

「敵の魔女が助けた人たちの事を、

 あの程度生きようが死のうが遠くない未来に等しい死を与えられると言っていた。

 内容的には今回の俺たちの救出に介入する必要はなかったって意味に聞こえないか?」


 セーバーの質問に俺はセーバーだけでなく、

 その場にいる全員の顔を見渡しながら問いかける。

 魔女の言葉と戦闘力を考えれば、

 決して虚栄や虚実とは思えない力を持った言葉だと感じざるを得ない。

 俺の言葉とボロボロになった俺と勇者の姿を目撃していた者は皆、

 言葉の重さを如実に感じ取り、

 表情を重くしているなか・・・、

 何故か勇者メリオは立ち上がって皆を鼓舞し始める。


〔皆!大丈夫ですよ!

 確かに今回は不覚を取りましたが、次の戦闘ではしっかりと倒してみせます!

 あと2ヶ月近くと聞いていますから、

 その間にもレベルをもっと上げて皆さんを守ってみせますよ!〕

「・・・そうですね。もっと頑張りましょう」

「・・・だな。レベルだけじゃなくて色々とな」


 メリオの空気を読めないとすら言える、

 勇者特有の超絶前向きな発言に全員が一瞬絶句してしまったなか、

 仲間のマクラインとヒューゴがなんとか返答を口にして対応する。


 勇者の仲間とはいえ、

 いや、仲間だからこそもっと現実に向き合えるようにちゃんと彼の舵取りをして欲しいんだがな・・・。


「勇者様・・・」


 その時、アルシェが意を決したように立ち上がって、

 メリオに語りかけ始めようとした。

 しかし、それを召喚した立場であるアルシェに言わせるのは、

 いくらなんでも酷な話だし、

 どちらかと言えば共に魔神族と相対した経験のある俺が言うのがベストだろう。


「・・お兄さん?」

「俺が言う。メリオ、いや勇者メリオ。

 貴方がこの世界に来ておよそ1年が経っております。

 この1年で色んな事を経験されて来られたかとも思いますが、

 その一つとしてGEMの振り分けに依る強さの限界についてはお気づきでしょうか?」

〔GEM?どういうことですか?〕

「レベルを上げてステータスに振り分けて戦闘をすれば、

 確かに強くなったと感じる事が出来ますが、

 それはモンスターや魔物など、

 小賢しくない敵が相手だったからです」


 現にSTRに振り分ければ攻撃力が上がるし、

 AGIに振り分ければ武器の振りや自身の動きが機敏になるのは確かな話だ。


「ですが、今回の敵やおそらく今後戦う機会のある魔族は賢しい人種なのです。

 今のままのレベルやステータスに頼り切った戦闘方法では、

 とても2ヶ月後の戦闘に参加させるわけにはいきません」

 〔でも、俺が行かなきゃ!勇者なんですよっ!〕

「いくら勇者でも武器の扱いや精霊の扱いに慣れていない様では、

 周囲の仲間にも被害が出る可能性もありますし、

 ピンチになった貴方を助ける為に誰かが死ぬような状況になり兼ねない。

 はっきり言って、今のままの考え方では戦場にいても逆に邪魔になります」

〔・・・・〕


 我ながらズバッと言ったものだ。

 レベルの上昇が不要なわけではないのだが、

 それだけではもう無理なのだ。

 勇者は確かに強い。

 それは直接戦闘をしている姿を見た俺も確信できる情報だけれど、

 俺のイメージするレベル帯の戦闘力とはやはり違う。


 どちらかと言えば、

 トーニャさんの方が強いと感じた。

 だからこそ、今まで教国に滞在していたときにお前は何をしていたんだと言いたい!

 でも、言えないから諭すように説得するしかないのだ。


「メリオ、勇者である事に胡座(あぐら)をかかないでくれ。

 もっと貪欲に強さを求めないと、

 世界を救うどころか仲間も、昨日助けた人たちも守りきれなくなる。

 助けるだけじゃなく、その後の事も考えなきゃならないんだぞ」


〔・・・俺の考えは間違っているんですか?〕


 純粋故にその場の勢いで行動を起こしてしまうのだろうことは理解できる。

 俺はメリオほど純粋ではなく、

 先に退くラインを決めてからでないと動くことができないからな・・・、

 メリオの生き方は正しくあの状況の者からしてみれば希望と映るだろうし、

 あの場で一人として道端に倒れている人を助けなかった俺は正しく人でなしだ。


「メリオの考えは別に間違えじゃない。

 レベルを上げれば強くなるのは世界の常識だ。

 でも、世界はその程度で救われるほど優しくはないし、

 メリオの都合に合わせて奇跡が起こるわけでもない。

 何事も、課程があって、結果に繋がるんだ。

 もしも奇跡的に課程が飛んだとしても、

 結局その分のツケはお前が払うことになるんだよ」


 俺の言葉は正直面白くはない、

 けれど何か思い至る部分もあるのか、

 若い顔に似合わないシワを寄せて頭を整理しているようだ。


 それにしても、メリオに投げかけた言葉は完全にブーメランだった。

 器用貧乏の俺は正しく最初の一歩を何事も数段飛ばしで進み、

 その後の努力をしないが為に最終的には地道に進んできた連中に置いて行かれるのだ。

 胸が痛む。


 勇者と俺の会話を邪魔する無粋者はこの場には居らず、

 しばらくの沈黙を皆と共に待つ。

 すると整理がついたのか、

 メリオが閉じていた瞳を開いて俺を正面に見つめてくる。


〔俺はどうすればいいんですか?〕

「勇者の事を人に聞くな・・・と言いたいけど、

 まぁここまで発破を掛けた手前アドバイスくらいはしないとか・・・」


 どうしようかとは考えていたんだ。

 だって、勇者が魔神族と戦って勝つことを前提でこっちは動いていたのに、

 あそこまで差があるとは思ってなかったんだもん。

 俺が負けるのは想定済みだったとはいえ、

 流石に勇者が死亡するのは予想外だった。


「とりあえず、今知っている一番強い人に鍛えて貰え」

〔それは誰ですか?〕

「教国のサーニャさんとトーニャさんだ」

「あの、姉が最初でお願いします」


 面倒な姉妹だな・・・。


「・・・教国のトーニャさんとサーニャさんだ」

〔でも、レベルはほとんど一緒ですよ?〕

「でもじゃないしレベルの話じゃない。

 身体の動かし方や鍛え方からちゃんと学べ。

 ついでに仲間も一緒に鍛えて貰えば今回以上に善戦できるはずだ。

 それに失伝した中に勇者が強くなるヒントもあるかもしれないし、

 教国中を回って伝説とか噂話を集めてみろ。それとクレア!」

「え?あ、はい!」

「教国に戻ったら勇者に全面協力して貰えるように教皇を説得してくれ。

 無くしたのはお前らに責任があるんだからな」

「しょ、しょんな言い方しなくても・・・、わかりましたよぉ。

 別に私が話さなくても協力はいただけると思いますし」


 しょんぼりするクレアは返事をしながらシスターズに慰められ始めた。

 アナザーワンは戦闘から身の回りの世話まで、

 全てを1人でこなせるプロフェッショナルと聞く。

 何人居るのかまでは知らないけれど、

 シスターズ以外にもいるだろうし、

 戦闘訓練を付けてくれるだけでも違いがわかるだろう。

 俺も訓練をつけて貰いたいくらいだし。


〔じゃあ、ひとまずはまた教国のお世話になるんですね。

 物は試しと思って2ヶ月は教国で頑張ってみます〕

「あぁ、その間にエクスとの絆も強めてくれ」


 勇者がすんなり話を受け入れてくれたことには意外感を持ったが、

 まぁ悪いことではないのでいいか・・。

 アルシェに目配せして最後までの報告を頼む。


「えー、護衛班の報告の続きを行います。

 最終的には1800体前後の瘴気モンスターと、

 600体程度のランク3禍津核(まがつかく)モンスターと、

 44体のランク4禍津核(まがつかく)モンスターを討伐しました。

 勇者様と宗八が戻って来た段階で最終フェイズの撤退を開始し、

 30分程度で全ての撤退も完了となりました。以上です」


 報告にある敵の数に大まかさがあるのは仕方なく、

 ずっと続き緊張状態でいちいち敵の数など数えてはいられなかったのだ。

 それでも驚異的な数が瘴気から産み出されている事に恐怖すら覚える。

 あの周囲のオベリスクに依って瘴気は流れ出ることなく王都内に溜まり続け、

 その濃度はどんどん上がることから、

 2ヶ月後の戦闘では雑魚として沸くモンスターのランクが上昇することは可能性として報告し、これにて救護、外周、護衛班の報告が終わった。


 あとは勇者PTの突入班と俺の支援班の報告だけだ。

 とはいっても、

 勇者たちは突入してからは救出と戦闘を繰り返し、

 最後はギルドの周辺でまた戦っているだけだったので、

 アルシェの後に簡単に報告を済ませる運びとなった。


〔俺たちが倒したのは、

 同じくランク3瘴気モンスターが800体ほどで、

 最後に出てきた瘴気禍津核(まがつかく)モンスターは・・〕

「少なくともランク5だ」

〔えー、ランク5のモンスターを5体倒して撤退に入りました〕

「ありがとうございます、座ってください。

 では、最後に支援班の宗八からの報告をお願いします」

「はい」


 そうしてアルシェに呼ばれた俺は、

 救出作戦における自身の立ち回りを報告し始めるのであった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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