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【600,000PV突破!】特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第08章 -瘴気の海に沈んだ王都フォレストトーレ編-

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†第8章† -09話-[死闘!時空を操る魔神族!]

〔メリオ、撤退するぞ〕

「えっ、そんな!?まだ、行けます!」

〔お前はエクスの補助もあるだろうがな、仲間の状態も良く見極めてからモノを言えよ〕


 身体も良い感じに整っていると感じられるほどに高鳴り、

 動きもエクスの補助もどんどんキレを増していっている。

 それがわかるレベルで意識が洗練されている。


 でも、それは自分だけの話。


 水無月さんの言葉を聞いてから改めて周囲に散らばる自慢の仲間を見回してみると、

 確かに普段の彼らとは別格とばかりの防戦一方に近かった。

 5体中2体を倒すことは出来たのに、

 その2体を倒すのに残ったスタミナを使い果たしたのか、

 頼みのマクラインですら見るからにフラついてしまっている。


〔メリオも今はテンションで疲れが麻痺しているだけだろうが、

 お仲間の方はそれが切れちまって一気に疲れが出てる。

 これ以上はお前らの救助をしなきゃならんくなる。

 こっちも限界来てるからそれは勘弁してくれ〕

「くっ!」

『(メリオ、精霊使いの言葉に従うべきだ。

 我々もいま集中が切れては命も危うい。

 魔力も予想以上の早さで削れていっている)』


 エクスカリバーの姿を取り共に戦う光精エクスからも、

 念話を用いた退避賛成の声が届く。

 それでも、

 勇者としての使命感がまだやれると囁きかけてくる。


「でもっ!」

〔でもじゃない!

 その助けたいという想いは勇者足り得るに相応しいとは思うがな、

 こっちまで割を食える世界じゃねぇんだよっ!〕

「なんだっ!?どうした、メリオ!」

「撤退できるならさせていただきたいわねっ!」

「・・水無月さんが撤退を開始するって言ってる」

「ならとっととズラかろうぜっ!

 こっちゃもうそんなに持たねぇっ!!」


 エクスカリバーから魔力を放射すれば瘴気の海は割れ、

 晴れた地面にはまだまだ倒れる人々が見えるこの状況からの撤退。

 そして、ギルドマスターからもたらされたという他数点の避難ポイント。

 もう少し・・・もう少し頑張ればなんとか出来そうなのに・・・。

 数mも進めば幾人か助けられるのに・・・、

 新たに現れた大型モンスターの所為でそんな簡易な救助もままならない。


「・・・それでも・・・・、

 いえ・・・しかしっ!」


 耳に付けるイヤリングから重たい溜息が漏れ聞こえる。

 もしかしなくても、この人はあまり人助けという行為の優先度が低いのだろうか・・・。


〔・・・制限時間は数分、

 後方部隊の撤退準備が整うまでだ。

 それまでに零れる命を助けたければ、全力でそいつらを倒して勇者を演じてみろ。

 これ以上の譲歩はない〕


 偉そうに言いやがって・・・っ!


「・・・わかりましたっ!やってやりますよっ!」

『(はぁ・・・仕方ないですね。

 皆さんにはこの会話が聞こえていないんですから、

 早急に伝えるが良い)』



 * * * * *

「クレア、あとどのくらいで引けますか?」

〔担架などもギルドから借りてきているので、

 そういう物の返却も含めて・・・おおよそ7分くらいあれば〕


 お兄さんとニルちゃんの大技は遠く離れたこちらでも確認が出来るほど、

 綺麗な軌跡と大きな雷でした。

 あれから、揺蕩う唄(ウィルフラタ)を通じて聞こえる声が特に荒げていない様子から、

 戦場の問題は勇者さまだけのようですね。


「お兄さんたちの方で動きがありましたよ」

〔へ?〕

「こちらの撤退準備が整う7分の間、

 勇者さまの頑張り次第でもう少し救助者が増えるかもしれないわよ」

〔っ!本当ですかっ!?〕


 弾む喜色の伝わる声を耳で聞きながら思うは、

 このまま何事もなく魔神族が見逃してくれるようにと願う。

 ここまでの戦況を考えても、

 おそらく敵も勇者さまと協力者の戦力を確認する場として、

 この救出劇を利用したように感じています。


 お兄さんも懸念を示すように、

 この最後の救出で掛かる時間ですら勇者さまには与えたくはなかった。

 余裕を持って戦場からこちらも戻れるのであれば早めに離れたいであろうに、

 ここで強行をして戻しても勇者さまには不満が残り、

 後のシコリとなり得ることを嫌ったからだと思うけれど・・・。


 結果的ではありますが、

 お兄さんが先にラフィート王子を行動不能にしたのは正解でしたね。

 城に近づける隙が作れればなんて初めは言っていましたが、

 流石に敵の層が厚いことや救出される人たちの体調など現実的な計算が出来なかったことも挙げられますね。


 オベリスクの除去も予定以上の範囲は着手出来ませんでしたから、

 無理に吶喊(とっかん)出来なかったので仕方ないですが。


「ただしその分の負担が増えますし、

 こちらの撤退も被害を出さないためにシビアな行動をしなくてはならなくなりましたけれど・・」

〔私たちが頑張ればいいんですよねっ!

 それと・・・聞いて良いのか考えていた事があって・・・〕

「なんですか?」


 この時点で聞いてくることならひとつだとは思いますけどね。


〔王と弟王子はどうなりますか?〕

「・・・こちらの戦力の力不足で生死の確認すら出来ない状態です。

 今はもう、魔神族が出てこないうちに逃げる事しかお兄さんも、

 そして私も頭にありません」

〔・・・そう、ですか〕


 どちらに転んでも良いようにと、

 保険でここに連れて来られなくしたのはやはり正解でした。

 ひとまずは、王家の血が残っている。

 今後のフォレストトーレにはその事実こそが奪還と再興の支えとなるのだから。


「前衛陣も少しずつ指示を出しますので、

 m単位で撤退してください」

〔姫様~、細かい距離は苦手ですよぉ~〕

〔私がマリエル様を誘導致します〕

「はい、お願いします。トーニャさん」


 普段のマリエルならば出来ることも、

 ここまでの戦闘で消耗した状態では戦闘以外の事に集中を割くことなど出来ないのは仕方ありませんね。


〔こっちは休憩も挟ませてもらいましたし、指示の方も仲間で調整します〕

「無理をしないでくださいね、ゼノウさん」


 レベルは私たちとほぼ同じ。

 でも、肉体改造の訓練期間が短かったから、

 休憩も支援に来た冒険者と何度か交代して入っていましたけど、

 今はほとんどゲートを通って元の町に戻ってしまっていますから、

 無理はさせられません。


〔了解しました、けど。こっちも体力が危ないです〕

「最悪私も前に出ますから、尽きる前に言ってください」

〔いや、姫様前に出したら宗八にどやされるんで頑張りますよ(笑〕

「ふふふ、わかりました。少し魔法の支援を厚くします」


 戦闘の場数とレベルでここまで耐えてはくれましたけど、

 一番初めのオベリスク破壊から働きっぱなしなので、

 休ませてあげたいのは山々なのですが、

 お言葉に甘えてもう少し頑張っていただきましょう。


「ただいま戻りました、アルシェ様」

『お疲れ様です、お姉さま』

「メリー、お帰りなさい。無事で何よりです」

『あ、くー!おかえり~』


 救出班として王都へ潜入していたメリーとクーちゃんが気づかぬうちに、

 私の影から戻ってきていたようで、

 声を掛けられて初めて戻ったことに気づきました。

 メリー達がこちらへ撤退してきたと言うことは、

 もうギルドの中には誰も残っていないのでしょう。


「魔力の補充だけしておいて、前衛の支援をお願い」

「かしこまりました」

『すぐ取りかかります』


 これで皆さんの負担も少しは軽減できるでしょう。

 長時間の魔力行使と影倉庫(シャドーインベントリ)を開きっぱなしにしていることで、

 クーちゃんは精神的に疲れが出ているようですが、

 体力の方はほとんど使っていないはずなので、

 もう少し頑張って前衛を支えて貰いましょう。


「アクアちゃん、こちらももう少しですよ」

『あい~、がんばろ~』


 私と共に長時間の魔法行使で疲れているだろうに、

 小さな握り拳を挙げて笑顔を浮かべるアクアちゃんに元気を分けて貰い、

 最後の一踏ん張りに気合いを入れます。



 * * * * *

「最後の踏ん張りとしては後先考えなさ過ぎじゃ無いか?」

『メリオはともかく、仲間はもう駄目ですわねー』


 勇者が勇者足り得る条件は不明だが、

 少なくともメリオの勇者像は負傷した人々に対し無償の救いを与えたらしめる者らしい。

 こちらもメリオという人物を捉えきれているとは言えないし、

 物語に出てくる勇者の純真と言い表されるその心は、

 確かに尊いとは思う。

 しかし、ゲームなどではわからなかったその扱いづらさにはすでに辟易している。


 まず、勇者として自覚がないタイプなら、

 一緒に切磋琢磨してもう少しコントロールもしやすいだろうが、

 メリオは自覚を持っているタイプなので、

 誇りを持って勇者をしている。

 その為、その誇りを傷つけると今後の行動に大きな支障が発生する可能性が出る。


 例えば勇者は負けないという概念が強さの秘密であるならば、

 彼が負けないように場を回さなければならないだろう。

 そういった勇者には自身を勇者と認識するための誇りが存在する。


 勇者は確かに人間サイドのリーサルウェポンだが、

 強力なその分扱い方にも最新の注意が必要となる。

 だからこそ、割を食うのが勇者以外の者だとわかっていたとしても、

 なんでもかんでも駄目というのはNGでいくらかの譲歩をしなければならない。


 その時、待望の連絡がアルシェから入ってくる。


〔お兄さん、撤退の準備が完了しました。

 勇者様たちを回収して退いてください〕

「了解」

『ようやっと、終わりですわねー・・』


 ニルの呟きにも疲れがありありと現れている。

 がしかし、待ちに待った撤退命令ではあるが、

 これに喜び勇んで下手な行動は出来ない。

 しっかりと周辺の確認をしてから勇者達が救助活動を行っている場所へと降り立つ。


「皆さん、お疲れ様でした。

 後方部隊の撤退の準備が整いましたよ」

「やっとかよぉ・・でも、助かったぜぇ・・」

「メリオ、わかっていますね!」

〔わかってるよ!今の俺たちじゃここまでしか出来ないんだろっ!〕

「では、先の手筈通りにメリオが殿(しんがり)をお願いしますね」

「メリオはなんでこんなに元気なのかしらね・・・。

 で?私たちはどうすればいいの?」


 彼らの会話から、

 どうやら勇者PTの中でも戦闘を行いながら撤退についての協議がされたらしく、

 メリオ以外は撤退に賛成して体力も気力もまだまだある勇者が仲間の撤退を支援することに決まっていたらしい。


「皆さんで手を握ってください。

 端の1人は俺ともう一つの手をお願いします」


 俺は女魔法使いからの言葉を受け、

 手を差し出しながら自分の影を制御して彼らの足下へと伸ばしていく。

 手を繋いでいく彼ら4人を俺の影の範囲に納めた事を確認。


「では、送ります」

「水無月さんもメリオも早く戻るんですよっ!」


 確かミリアリアさんだったか?

 女魔法使いからの最後の言葉に俺達もメリオも頷きで答え、

 彼らはトプンッと影の波打ちの向こうへと消えていった。


 あとは俺とメリオが同じく影から帰れば終わりだ。


「・・これで終われそうだな」


 つい・・・呟いてしまったフラグ。

 返答を期待してのものではなかったにも関わらず・・・。


「あら?もう帰るのかしら?」


 知らぬ若い女の声で、

 すぐ近くから予想外の返答が返ってきた。


「っ!?」

『どこからですのー!?』


 瘴気に囲まれないように建物の上から、

 メリオ達の動向を見守りながら考え事をしていたとはいえ、

 周辺警戒は怠っていなかったはずだった。

 なのに、背後からの聞き覚えのない声・・・・。


 こっちにはもう余裕はない。

 死ぬにしても敵影くらいの情報は残さなければならない、

 アルシェたちに残せる物を・・と、

 覚悟を決めてバッと振り返るが、

 やはりニルの風の探知と俺の気配察知に引っかかりがなかったのは正解で、

 敵の姿は視認できない・・・。


『そうはち、これ・・・クー姉さまと同じ・・・』

(「クー!シンクロだっ!」)

(『は、はいっ!』)


 視認は出来ない。

 気配にも探知にも引っかからない。

 であれば、時空関係で別位相に存在を隠している可能性しか俺たちには思いつかなかった。

 俺たちもクーという希有な存在と、

 使う魔法の特性を知っていなければ何も出来ずに殺されていたかもしれない・・・。


〔お兄さんっ!?どうしましたかっ!?〕


 疲れから身体から漏れていた翠雷(すいらい)のオーラは、

 開始時に比べるとかなり薄くなっており、

 身体の表面が薄ら発光している程度となっていたが、

 離れたところにいるまだ元気なクーとシンクロをすることでほぼ闇光(あんこう)のオーラが身体から漏れ始める。


「あれか・・・」


 アルシェへの回答ではなく漏れる言葉。

 クーとシンクロすることで空間を認識できるようになった俺は、

 視界を隅から隅まで素早く確認すると、

 中空に浮かぶ半透明の突起物のような物を見つけた。

 三角形に見える・・・なんだアレ?


「なに?もしかして見つかってるの?

 勇者だけを気にしていればいいかと思ってチョッカイ掛けたら、

 とんだ藪蛇(やぶへび)じゃないの・・・」


 俺たちに認識できた三角形で半透明な突起物は、

 時空関連の経験がまだ少なく経験不足なので正確な姿を捉えることが出来ない。

 その突起物が正体不明の声を皮切りに、

 スパンッと素早く下に移動すると空間が傷口のように切り裂かれ、

 そこから太ももまである白いサイハイブーツで包まれた女性の足がこちらの位相へと姿を現す。


「どうも~、こんにちわ~」

〔誰だっ!?〕


 緊張感の感じられないゆるい言葉を口にしながら、

 白い魔女が自身の身長よりも大きな銀色の鎌を後ろ手に空間の傷口から出てきた。

 歳は若く、髪も銀髪で肩甲骨部分から一房にまとまっている。

 ボンテージに似た衣装は胸元も広がっており、

 そこからは煽情的(せんじょうてき)な大きな谷間もしっかりと刻まれていた。


 しかし、声音や見姿がいくら魅力的な女性だとしても、

 その存在感と殺気で全て台無しとなるほどに別の意味で生唾を飲み込んでしまう。


「どちらさまですかね?」

「人に名前を尋ねるなら自分から名乗るのが筋ではなくて?」

〔だ、誰がっ!〕

「・・・イクダニムと申します」

〔・・・答えるんですか?〕

「情報くらいは持ち帰らないといけないからな」


 俺の偽名で済むなら安い物だ。


「ふぅん、変わった名前ねぇ・・・まぁ、いいわ。

 私はシュティーナよ、よろしくね」

〔シュティーナ・・・〕

「よろしく出来るかは貴女次第ですけどね。

 ここには何をしに?」


 暴力的とも言える圧迫感を受けながら息が乱れていくのを感じる。

 この短時間で戦闘とは関係のないところで疲れを感じるほどの強者を前に、

 足に流れる血も冷え込んでいく感覚を覚える。

 それでも、調息(ちょうそく)を心がけてシュティーナと名乗る魔女の動向に備えて構える。


「ふふふ、それ本当に言ってるの?

 私のそれを受けて剣まで構えて・・・勇者を殺しに来たのだけれど、

 私は貴男に興味が出てきたわ。イクダニム?」

〔っ!?〕

「女性としてなら俺も貴女に興味がありますよ、シュティーナ」


 魔女の言葉に息を飲むメリオ。

 当然こんな圧迫感のある殺気など受けたこともないだろうから、

 ゾクリと寒気を感じたのか顔面蒼白になっている。


 魅力的な事を投げかけて来つつも銀色の大鎌をこちらに構える魔女。

 その姿を目にすると自然と覚悟も決まる。

 足下から感じていた寒気も、

 萎縮していた筋肉も、

 冷や汗を掻いていた頭も、

 全てがニュートラルに戻っていく。


「落ち着きも早いわね・・・本当に何者か気になるわ」

「只のしがない冒険者ですけどね・・・、

 ここで死んで彼らの仲間にはなりたくないので抗わせていただきますよ」

「あ、ちなみにさっきのお仲間のように逃げられるとは思わないでよ?

 この一帯は私の支配域になってるからね」

「知っています」


 魔女が現れるまでは繋がりを感じられた影へのアクセスが、

 突如出来なくなり逃げられないという事は早い段階から気づいていた。

 構える俺とメリオ。

 まさか・・・最後の最後に勇者との共闘を演じることになるとは思っていなかった・・・。


「いくわよ」

「どうぞ」

〔来い!〕


 下手な行動は取れない。

 多分だけどメリオは魔女しか目に入っておらず、

 周囲に他の手練れが潜んでいる可能性を考慮できていない。

 それにあの空間の切り傷・・・。

 いつの間にか閉じていることから、

 魔女が意図的に作り出したもので間違いは無いだろう。


 ドッ!と地面を蹴り飛ばして魔女に斬り込んでいく勇者。

 2対1だというのに余裕の笑みを浮かべる魔女を警戒して一拍遅れて勇者の後を追う。


「お手前拝見するわね」

〔勝手なことをっ!お前はここで俺たちが倒すっ!〕


 すごいなこいつ・・・。

 女性でも容赦せずどんな手札を持っているかもわからないのに正面から突っ込んでいく・・。

 勇猛果敢と猪突猛進は違うんだぞっ!!


 カァァァァァァアアアアアァァァァァンッ!!


「あら、やっぱり勇者よりも厄介かしらね」

〔何がっ!?

 なんで背後に奴の鎌が生えているんだっ!?〕

「お前は気にせず攻撃を緩めるなっ!

 エクス!魔力を出し惜しみせずに攻撃力に注げっ!」

〔了解っ!!〕

『承知っ!!』


 メリオの突進開始からぐるぐるとその場で振り回していた大鎌。

 彼の攻撃を鎌の柄で受け止めると同時に刃の部分が空間を超えて、

 メリオへと振り下ろされる。

 それの空間の揺らぎを感知して俺が刃を受け止めたのだ。


 攻防を同時に出来る置換攻撃。

 これを勇者であるメリオが攻略するには、

 まだ魔法経験とエクスとの絆が足りない。

 だったら、ここを切り抜ける為には俺がサポートするしかない。


〔うおおおおおおお!!!〕

「ふぅん・・・、威力もキレも悪くないけれど・・。

 思ったよりも早い召喚だったから警戒していたけれど、

 エクスカリバーを装備した勇者相手に私で事足りているようじゃ、

 この世界を守ることなんて出来ないわよっ!」

〔ぐぅぅぅ・・・わあああああああああああ!!!〕


 涼しい顔でメリオを攻撃をいなす一方で、

 素早い置換による攻撃が何度も繰り返されていた。

 どんな大鎌の動きでも置換は発動できるらしく、

 メリオだけでなく俺にも攻撃が何度も繰り出されそれを全て弾いていく。


 そんな激しい攻防の流れでも、

 俺は防ぐことは出来ても捌くまではいかない膂力を持ち、

 何故か説教染みた事を口にして強攻撃でメリオを吹き飛ばす魔女。

 そうなると背後に陣取る俺にも選択が迫られた。

 メリオを受け止めていては俺まで隙を作ってしまうと瞬時に回答を出し、

 吹き飛んでくるメリオを剣を持たない手で捌いてさらに後方へと投げ飛ばす。


〔ちょ!〕

「すまんが受け身をちゃんと取れよっ!」


 消えた前衛の代わりに魔女へと攻撃を加え始める俺の身体には、

 シンクロで繋がりの出来ているクーからの支援で、

 パワードスーツの役目を果たす闇精外装(ブラックコーティング)が施されていた。


「見た目装備か、ソレはっ!」

「まぁ、失礼な!

 空間攻撃が魔法でなくてなんだというのかしらっ?」

「魔力を発しない空間置換が魔法??」

「・・・何が言いたいのかしら?」

「その大鎌・・・アーティファクトなんじゃないかっ?」


 魔女の攻撃は正面から受け止めるには重い事は一合すればわかった。

 だから捌くことに集中していては置換攻撃に対処が出来ない為、

 身体を使ってピョンピョンくるくると兎の様に飛び回りながらすべての攻撃を回避。

 インファイトを演じながら後方へ消えていった勇者から引き離していく。

 出来れば置換攻撃の範囲くらいは調べておきたい・・・。


 戦闘だけで無く忙しい頭で思惑の算段を取りながら意識下に会話を繰り広げる俺。

 しかし、その会話中の言葉に思わぬ反応を示す魔女。


「ふぅん・・・。

 確かにこれはアーティファクトではあるのでしょうけれど・・・、

 私・・・ますます興味が出てきました、わっ!」

「くっ!」

『回避ですわー!』


 殺気が一気に膨れあがる。

 メリオを吹き飛ばした大振りからの一撃のモーションに入ったと認識までは出来たが、

 大振りと言ってもその強攻撃は速度が今までの戦闘とは別格で違っていた。

 まるでアセンスィア卿の攻撃の様な・・・。

 それが頭に過ぎった瞬間、

 あの日の焼き増しは絶対嫌だと、今ここで殻を破るときだと・・・、

 抗うべきだと意識が覚醒する。


「ニルッ!!クーッ!!アニマッ!!」

『マジですのっ!?』

(『お任せくださいっ!』)

(『また無茶を・・耐えなさいっ!』)


 ここでの回避はおそらく無理だと本能で判断した。

 何故かはわからないが、

 あの鎌から逃げ切れるとはどうしても思えなかったのだ。

 他の手札は2枚。

 1枚は防御を固めて受けきること、

 もう1枚はいつもの通り剣によるパリィで受け流すこと。


 そして俺が選んだのは当然、この1年続けてきた修練の成果。

 もしも、今の相方がニルではなく防御に秀でたノイだったら逆の選択を取ってただろうが、

 ニルのパフォーマンスを最大限に生かせるスピードと、

 属性一致の武器がある状況のいまなら対応可能と瞬時に決めた。


 判断では無い、決めたのだ。


 決めれば行動は早かった。

 本来は片手持ちのアウルカリバーンを両手持ちに変えながら3人に声を掛ける。

 ニルは、残る魔力を剣に注ぎ込み強度を上げ、

 持ち得る魔法技術を全て駆使しソニックを掛け、

 剣速と身体のキレを制御できる上限ギリギリまで引き上げる。


 クーは、遠く離れているが精霊使いとの繋がりから魔法を行使し、

 いままで動きと無茶な動きに耐えられるようにと闇精外装(ブラックコーティング)で支えていたソレを、

 さらに可動域に関わる部位以外をもう1層厚くして、

 一つ上の無茶に耐えられる強度に仕上げる。


 アニマは、当然無精の操作による浮遊精霊の加護のピンポイントバリアだ。

 先のドラゴンフライからの一撃から護ったように、

 いや、さらにシビアな操作が要求されるだろう。

 腕も背骨も腰も足も、全ての受けた力の流れを察知して無精を動かさねばならず、

 宗八の受け方次第では、

 例えアニマがうまく操作出来たとしても限界を超えて身体が破壊されることは容易に予想できた。


 各精霊の対応は口から返事を返す頃には、

 繋がるパスから事前に伝わっていた宗八の意思に従い瞬時に行われた。


「すぅ~・・・・」


 ゆっくり・・とまでは迫る大鎌が許してくれそうもないので、

 出来る限り万全に近い一瞬に発揮する集中の為に肺に息を入れて・・・止める。


 その一瞬の集中は自分でも驚くほどに最高の瞬間だったと思う。

 大鎌の軌道は綺麗な水平な大振りだと間違え様のない視認が出来、

 捌くためにはこちらも水平に綺麗な接触を果たさねばならない。


 だが、問題はなかった。

 あのときのアセンスィア卿の攻撃よりも速いのに見えていたのだ。

 両手で持つアウルカリバーンの剣先に大鎌が触れるのを感じてから、

 捌くために持ち上げようと徐々に力を含めていく。

 しかし、これがとてつもなく重い。

 捌きなど関係なしに弾くことは可能かもしれないが、

 その時は返しの刃で斬り裂かれるのがオチだ。


 持ち上げに負担を感じていた肘と膝と腰が、

 アニマの操作で一気に軽くなるのと同時に大鎌の軌道が上方へとほんの少しズレる。

 それでも元の膂力が違うのかその軌道事態は大きく変えることが出来ない。

 その判断を下した瞬間にはもう一歩踏み込み身体をどっぷりと沈めて大鎌の軌道を潜る姿勢に入る。


 シャアァァァァァァァアアアアアイイィィィィィィィィィンンッ!!


 耳に聞こえた音はいつものパリィに比べると長く感じ、

 それでも今までで一番短い接触時間であった。


「うおおおおおおおおおお!!」

『《エレクトリックスピードッ!!》』


 鎌の特性上刃での強攻撃が終われば俺のすぐ横に魔女の腹が来ることになる。

 それを踏まえた上でもっとも素早い斬り返しに、

 ニルの魔法で生体電気を操作して強制的に斬り付け直前まで腕を動かし、

 そこからは全筋力と意思を攻撃に振り切って横腹を斬り付ける!


「っ!」


 その最速とも呼べる俺たちの攻撃ですら魔女の鎌の方が速いのか、

 強攻撃後の硬直があるはずなのに、

 俺たちの攻撃を鎌の柄を挟むことで直撃を防がれてしまった。


「『《翠雷破点突(すいらいはてんづき)!!!》』」


 それでも、倒す事を諦めなかった俺たちは、

 この剣での攻撃は防がれても次の攻撃は防ぐことの出来ない剣技を選択し撃ち放つ。

 練り込みも一瞬しか許されなかったので完全とは言えないが、

 それでも武器破壊の効果が少しでも出てくれれば勝機はある。


 カアアァァァァァァァァアアンンッ!!!!!

 という短い金属のぶつかり合う音が響く次の瞬間には、

 俺たちの2撃目が魔女の鎌にHITする。


「なにっ!?コレッ!?!?受けきれないっ!?

 きゃあああああああああああああああ!!!!!」


 とか言って建物の中に吹っ飛んでいったけど、

 武器の破壊効果が微妙に出たから受けきれなかっただけで、

 ダメージには繋がってはいなさそうだ。

 なにより、最後のきゃあああがそこまで切羽詰まるような声音じゃなかったし。


 とはいえ距離を開く事に成功したわけだから、

 遊ばれているうちにさっさと勇者を回収して撤退してしまおう。


〔くっそ・・・、はぁはぁ・・・、このまま終わって堪るか・・・〕

「いや、撤退するぞメリオ。

 もう俺たちだけしか残っていないのにあんな化け物相手にしてられるか」


 魔女が吹っ飛んで破壊された家々を注視しながら、

 バックステップでさっさと崩れた瓦礫の中から這い出てきた勇者と合流する。

 さっきまで顔面蒼白で、

 己に気合いを入れながら戦っていただけでも十分褒められたものだと

 言うに、

 ぶっ飛ばされても戦意が落ちていないのは流石は勇者のモチベーションだと思うが、

 これ以上の破れかぶれ気味な猪突猛進は許可できない。


「後方だって俺たちを待ってるんだから、

 みんなの足を引っ張る前に撤退s・・っ!!メリオッ!!!」

〔うおわっ!?〕


 焦る内心を必死に押さえつけながら、

 落ち着いた声を意識してメリオに撤退を再度進言している最中に、

 魔女とは別の気配が遠くからすごい勢いで飛んでくるのを察知した。

 慌ててメリオの首根っこを掴んで風精霊纏(エレメンタライズ)の脚力全開でその場の地面を砕きながら飛び退く。


 瞬間、爆裂。

 俺たちが先ほどまで居て砕いた地面はさらに強力な打撃を加えられたのか、

 クレーターのように陥没するだけに留まらず、

 捲れ上がった岩盤が飛び退った俺たちも巻き込んで岩嵐のように吹き荒ぶ。


「ぐっ・・・ぶぇっ!おえっ!!!」


 元から防御の薄いニルを纏う状態で受けた衝撃波はすさまじく、

 錐揉みしながら吹き飛んだ所為で受け身も取れない。

 手で掴んでいたメリオもどこかへと吹き飛んでいってしまった。

 考えてもいなかったこんなアニメのような常識外れの攻撃は、

 手も足も出ない状態で俺たちに向かって飛んでくる大岩を避けようとしても、

 初撃の衝撃に耐えられていない状態の身体では何も出来ず、

 どんどんと弾丸もかくや流星群かと見紛う重撃が身体を襲う。


 その嵐が過ぎ去った頃には王都の一部が荒れ果てたクレーターに変わっており、

 俺たちのHPも意識が飛びそうになるのを必死に耐え、

 首の皮一枚繋がっているのがわかるほどに減っている。


 これが直接の戦闘では無く、

 ただ一度打ち込まれた衝撃の余波というのだから、

 直撃していたらと考えると心臓が震える。


 幸い浮遊精霊の鎧をうまくアニマが操作してくれたらしく、

 体中から血も流れているし青あざも出来ていたが骨折まではいっていない。

 フラつく身体をなんとか起こして状況を確認しようと顔を上げる。


「ん?かg・・・ぐうぅ・・あああっ!!!」


 と、急に影が差したかと思った瞬間に、

 真上からの瀑布のような殺気に押しつぶされ再び地面に縫い付けられてしまう。

 潰れる前にせめて敵の姿をと思う意識は微かに残っていた・・・。

 しかし、目に血が入り敵影をしっかりと視界に捉えることも出来ずに転がされてしまい、

 あぁここまでかと覚悟を決めようかとしたところで・・・。


「ちょっと、何しにきたのよマティアス。

 あんたが戦いたい強者はこんな場所には居ないんだから、

 さっさとその殺気を引っ込めてちょうだい。

 私のお気に入りが死にかけてるわ」


 顔を動かすことは出来ないし気配の察知なぞ出来る状態では無い。

 それでもさきほどまで近くで聞いていた声なのだ・・・。

 間違いなく、敵であるはずのシュティーナの声だ。


「期待は出来るかもしれないけれど、

 まだ刈り取るだけになってしまうわよ。

 強いのと戦いたいなら火の国の前線か魔界のレジスタンスでも相手にしなさいな」


 魔女の声を受けてか殺気の重圧は収まっていき、

 息も満足に出来なかった肺にようやくまともな空気が入り込んできた。

 まぁ、瘴気の海に沈んだ状態で吸った空気だから不味さは一等級だったが。

 鶴の一声ならぬ敵ながら魔女の一声で生き長らえた事は事実であり、

 予想通りぴんぴんと元気な姿のシュティーナがメリオの髪の毛を掴んだまま引きずって俺の元へとやって来てしゃがみ込む。


「まだ生きてるかしら?

 逃げられると思わないでとか言ったけれど今日のところは見逃してあげる」

「・・・な・・ぜ?」

「貴男の目的は死に損ない共の救出なのでしょう?

 あの程度生きようが死のうが遠くない未来に等しい死をプレゼント出来るし、

 イクダニムという玩具も見つかったから私は満足しているの。

 それにコレは腐っても勇者なのでしょう?

 もっと時間を掛ければあいつの相手を務めるくらいは出来そうじゃない?」


 そう言って口を三日月のようにして笑う魔女。


「結局は私たちが未来で楽しむ為に、今を生かしてあげるのよ」


 悔しいとは思わない。

 ここまで死に体でHPも1ドット程度しか残っていない状態で生き残れる。

 まだ、あいつらと生きられる。

 それだけが支えとなって俺の意識を繋ぎ止めてくれている。

 それでもこちらも意地がある。

 意識のあるアニマの力も借りて、

 震える足を腕で支えて辛うじて膝立ちまで身体を復帰させる。


「ぐっ・・・ゴホッゴホ・・・。

 ハァハァ・・・、次は・・・ハァハァ・・・期待に応えてやる」

「フフフ、えぇ。待っているわよイクダニム。

 私は苛刻(かこく)のシュティーナ、こいつは滅消(めっしょう)のマティアス、そして王城にいる奴は・・・」

死霊使い(ネクロマンサー)・・・だろ?」


 俺の回答に意外感を感じたという表情を作って、

 驚いたと仕草もする魔女。


「あらあら、やっぱり貴男が一番美味しそうな獲物だわ。

 隷霊(れいれい)のマグニ・・・それが名前よ」

「シュティーナ」

「わかってるわよ。

 情報を出し過ぎって言うんでしょ?

 でも、これくらいのハンデは与えてもいいんじゃなぁい?」

「・・・・」


 短く野太い声で魔女の行動を止める男は、

 顔も身体も覆うフードを被っていて情報らしい情報が手に入らないので助かる。

 それでも面白そうに戦場とは思えないほど陽気な声で受け答えする魔女の回答に、

 首を少し動かし考えるようなそぶりを見せる男。


 そして何を思ったのか、

 未だにしゃがみ込んだままの俺に1歩近づき、

 上から声を落としてくる。


「・・俺は魔法を使っていない」

「本当か嘘かはわからないんだけどね。

 確かにいままで魔法を使ったところを見たことはないのだけれど、

 実際はどうなのかしらねぇ・・・と、

 そろそろ限界かしらね。

 逃げやすいように私たちが去ってあ・げ・る♪

 また逢いましょう。じゃ~ね」


 その言葉を最後にあとは振り返りもせずに、

 空間を切り裂いてその向こうへと消えて行く2人を見送ることしか出来ない俺たちは、

 姿が視界と気配と空間探知から失せた事を確認する。


「行った・・・か・・・」

『お父さまっ!無事ですかっ!!』


 姿が失せただけでなく空間の支配が解放された事で、

 シンクロで繋がりこちらの状況を正確に把握していたクーがすぐさま影から飛び出してくる。

 その心配そうな顔をひと撫でしてから撤退を開始する。


「生きてはいるから安心しろ・・・、さぁ帰るぞ」

『宗八、ニルはあなたを護るために無茶をして気絶してしまっている、です』

「あぁ、わかってる。

 起きたらちゃんと褒めてやらないとな・・・」

『飲みます、お父さま』


 細かくはわからないが、

 おそらく男の初撃で発生した大岩の嵐のダメージは、

 正直生きているのが不思議なほどひとつひとつの衝撃は激しかった。

 そんな中でもHPが残ったのはニルが制御で必死に護ってくれたからに他ならない。


 撤退の助けに来たクーの制御に身を任せ、

 影に飲まれるなかに見た景色を俺は忘れないだろう・・・。

 俺も勇者も全く歯が立たずに完敗したこの王都の戦い・・・、

 いずれ再び相見える機会があれば・・・かならず・・・。

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