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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第08章 -瘴気の海に沈んだ王都フォレストトーレ編-
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†第8章† -08話-[禍津核製瘴気モンスターの脅威]

 時は少し遡り、

 加階を始めた禍津核(まがつかく)が再び活動を始めた頃。


「もう時間か・・・はぁ、結構疲れてんだけどな・・・はぁ」

『今のうちに魔力を回復致しましょう-!』

「ふぅ・・・それもそうだな。

 空を走るのも魔力がいるわスタミナがいるわで、

 ニルとの風精霊纏(エレメンタライズ)は使い慣れてない事もあってキッツいわー」

『ぶっつけ本番ですから、そこは仕方ないですわー!

 ニルだってすんごく疲れてますの-!』


 禍津核(まがつかく)モンスターを集中して相手取る為に、

 一旦全力で動き回って空の掃除をした。

 体力ゲージを結構削ってしまったので、

 高い建物の屋根に着地して、上がった息を整える為に息を止めて調息(ちょうそく)を意識する。


 その集中した意識に魔力の高まりを感じ、

 自身とニルの合わさった魔力の残量も確認して、

 マナポーションを取り出して服用する。


『相変わらず美味しくはないですわー!』

「良薬口に苦しって言ってな、

 身体を無理矢理動かすために飲む物だからそりゃしゃーないわ」


 シンクロ+風精霊纏(エレメンタライズ)で服用するマナポーションの苦みは、

 実際に飲む俺だけではなくお子ちゃまなニルにも伝染する為、

 ニルからクレームに似た愚痴が漏れるのも仕方が無いことだった。

 当然ながら、相棒がアクアでも同じようにぶぇー・・・と口にする。



『そうはち、そろそろ時間ですわー・・』

「だな。空に上がっておくか・・」


 加階寸前の魔力の高まり。

 それを如実に感じ取るニルの声かけに従い休憩を切り上げ、

 口を拭いながら一歩を踏み出す。


 加階するための卵は3つが岩の塊で、4つが風の塊だ。

 それが今、弾け飛ぶ。


「UGAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」


『っ!そうはちっ!』

「なんじゃっ・・そりゃあっ!!」


 今までの敵とは一線を画す素早さで地面に発生していた卵から飛び出す影が2つ。

 ひとつは大型のガーゴイル種。

 つまり岩で構成された化け物だが、

 先ほどまで何度も撃ち落としてきた小さい方と違って明確な敵意と、

 大きな身体に似つかわしくないあのスピードは肉眼でギリギリ追える速さ。

 そして、2つ目は速すぎて肉眼で姿を捉える事が出来ないまま、

 俺たちよりも高い高度へと飛び上がっていった。

 なんとか気配を認識出来ただけでも俺たちにしてみれば重畳というものだ。

 おそらくあの2体は・・・。


「ランク5か・・・」

『完全に格上の敵ですわー!』


 メリオ達に向かう5つの気配もきっとランク5なのだろうと想像しつつも、

 流石にこちらは余裕がない。

 何せ、キュクロプスレベルのフライングサイズを倒せるようになったと確認した直後にさらに上のレベルを2体だぞ?ちと余裕がない。


 敵の情報取得のために上空に抜けていった気配を追おうと、

 意識をガーゴイルから少し離したその瞬間。

 それを狙い澄ましたかのようにガーゴイルが急加速を掛け、

 視界の端から姿を消す。


『足!』

「はいはいっ!」


 アクアとは違って中空に静止出来ないニルは、

 空に停滞するだけでも風の力場を蹴って体力と魔力を消費する。

 一瞬肉眼で追えない速度で死角に入り込みこちらに迫るガーゴイルはニルが気配を追い、

 回避行動の為の指示だしに従って強めに力場を蹴り上げる。


 回避をしつつ視線でガーゴイルの姿を探すと、

 ギリギリ肉眼で追える速度をもって俺たちが居た手前で急制動を掛け、

 そのエネルギーを全て振るう斧槍のインパクトに繋げて全力の空振りをする。

 吹き飛ばされはしないが、

 目を開けていられない程の暴風に視覚を奪われる。


『そうはちっ!上ですわっ!』

「任せる!」

『《ストームインパクト!》』


 回避後の硬直を狙った俺たちへの強襲。

 それを風の流れで感知したニルに身体を委ね、

 俺は姿勢制御に集中する。

 それでも回避は間に合わず、

 直撃を食らわないように不安定な姿勢での迎撃は行われた。


 結果。


 ダッーーーーーンッ!

 足が折れそうな程の痛みと、

 身体がバラバラになるかと思える衝撃を受けながら地面に激突する俺たちは、

 路面の破壊を繰り返し尚も地面を滑っていく。


『宗八、ニル!今のは危なかった、です!』

『アニマ、ありがとですわー!』


 ようやっと止まった身体を持ち上げながら精霊共の会話を耳にする。

 どうやら、先の嵐脚(ストームインパクト)も地面に叩き付けられた衝撃も、

 アニマがピンポイントに浮遊精霊を操って鎧の耐久力を上昇させて護られたらしい。


「あー、痛ぇなクッソが。

 確かに俺の考えが浅かったのは認めるけど、

 2体で来るのは卑怯じゃ無いか?ばかやろーこのやろー」


 敵ながら見事なコンビネーションで不意を突かれて危うく死ぬところだった。

 アニマと契約をしていなければと考えるとゾッとする。

 故に強がりでも口にしていないと、

 震える足で立ち上がることも、

 死の恐怖に立ち向かうことも出来ない。


〔水無月さんっ!?〕


 丁度吹き飛ばされた先は勇者PTが戦闘をしていた場所らしく、

 すぐ横からメリオが驚き声を上げているのが聞こえた。


「すまんな、こっちは2体しか引きつけることが出来そうにない。

 あとの5体は任せるぞ」


 軋む身体に鞭を打ち、

 痛みが生じる肺に息を入れる。

 流石の無精の王でも全てのダメージを遮断することは出来なかったらしいな。


「にゃろー、ぶっ飛ばしてやるっ!」


 それでも、

 あと少しは持たせなきゃならんのでなっ!

 時間稼ぎの無茶を死なない程度に付き合って貰おうかっ!


『やってやりますわー!《エリアルジャンプ!》』

『初仕事がまさかこんなシビアとは・・・精霊使いが荒い、です!』

「残念ながらアニマの有用性が実感出来た以上は絶対離さないからな」

『ヒェ・・・』


 地面から離れ建物の屋根に着地しつつも、

 アニマとの雑談を挟む心の余裕が出来たのは2人に感謝だな。

 じゃあ、次は問題の解決をするためにせめてあの速さに近づかないといけない。


「ニル、3つから選べ」

『どれですのー?』

「ユニティマリアージュのNAMIDA、

 マジカライドの誇り高き勇者、

 style3の花雷(はならい)

『ひとつだけ違う、です』

「アニマは黙っててください」


 今の時点でも風を補助は受けていて常時ソニックが掛かっているような状態なのだが、

 もう1ランク上の速度にするためには、

 ニルの歌か演奏が必要になる。

 その為に今まで教えたりシンクロで伝えてきた曲や歌の中でも、

 俺的にテンションの上がる選曲を伝える。


『歌う元気は流石にないですから、花雷(はならい)で行きますわー!』

「じゃあ、早速始めるぞ。

 アルシェ、勝手に速度が上がるからな」

〔他の方も繋げて効果を受けてもいいですか?〕

「勝手にしろ」

〔わかりました。ご武運を〕


 ニルの歌や演奏はいまのところソニックの常時発動程度しか効果はないが、

 ニル個人であればニルの、

 俺と一緒だった場合は俺も含むテンションの上下で効果の増減が起こる為、

 まだ実用の域ではないと考えている。

 なので、勝手に効果を受けるのは個人の自己責任だとアルシェには伝えたのだ。


『いきますわー!!』


 ニルの演奏が開始されるとマントの下部がうっすら俺から浮かび上がり、

 雷のマークが器用にバイオリンやドラムなどのいくつかの楽器の音を同時並行で鳴らし始める。


 空を好き勝手に飛び回っている2体のモンスターの動きは、

 先ほどよりも1割増しでゆっくりに見える。

 とりあえず、現状の戦線を保つための手段としてはこれが精一杯なので、

 あとは自分の培ってきた戦闘技術とニルとアニマとの連携次第になるだろう。


「さぁ、第二ラウンドと行こうかっ!」


 準備を整え覚悟を決めた言葉をわざわざ声にしてから、

 俺たちは敵に向かって飛び出した。



 * * * * *

「クレア、撤退の準備は進んでいますか?」

〔は、はい・・・。

 言われたとおりに手空きになった方から各町に撤退をしてもらっていますけど・・・、

 あの、まだ・・その・・・、3000人に満たないのですが・・・、

 あとの29万6000人はどうなるのですか・・・?〕


 王都の戦況の変化から残り時間をおおよそ算出し、

 撤退準備を進め始めていたアルシェたち。

 完全に撤退が完了するのは兄たちと勇者PTがここに戻り、

 開いたゲートを閉じてハルカナムへ戻るまでが本作戦になる。


 そんな状況で聖女に向けて救助者だけではなく、

 自分たちの撤退もするために、

 協力してもらった冒険者たちを少しずつ元の派遣された町へと返還するよう指示を出していた。


 その結果。

 2700名程度しかギルドから送られて来ていないのに、

 撤退指示を出すアルシェに疑問を抱き、

 ついに質問を投げかけてきた。


「・・・・、もう人助けの段階は過ぎています。

 申し訳ないですが、今回の作戦で助けられるのはその3000人程度が限界です」

〔そんなっ!

 だってっ!・・・3万人ってっ!〕

「それは希望的な数字です。

 実際にギルドで生き残っていたのは3000人だったということです」

〔他にも数カ所生き残っている可能性があるのではないのですかっ!?〕

「残っては居るのかもしれません。

 ですが・・・王都の空に翠の軌跡が発生しているのが見えますか?」

〔王都・・・はい、見えます〕


 空を切り裂くように魔力で出来た翠色の線が、

 幾本か王都の空を彩っている様子をアルシェに言われたとおりに視界に納めるクレア。


「あれはお兄さんとニルちゃんが空中戦をしている証です。

 あの魔法は体力を多く使う魔法なのでここまで使って来なかったようですが、

 使わざるを得ない状況に追いやられているという事の表れで有り、

 ここまで5時間以上戦闘を繰り返してきた人間がここで体力の消費が多い魔法を使う意味がわかりますか?」

〔・・・・〕



 * * * * *

「クレア様・・・。

 普通の冒険者であればこのような終始敵と戦い続ける状況ですと、

 1時間程度が限度になります。

 実際、前衛の者達と交代で入った冒険者は30分経たずにギブアップしています。

 水無月様や勇者様がどのような鍛え方をしていたとしても、

 5時間戦闘は体力的にも精神的にも限界を迎えているかと・・・」


 傍らで私とアルシェの会話を伺っていたサーニャが、

 戦闘などの知識に疎い私に正確な状況を教えてくれる。

 確かに、いまの私も大量の汗や体力の低下が著しく見られますし、

 アルシェとマリエルさん、トーニャ以外の前衛を務めた冒険者も一旦休憩に入っていました。


「つまり、あの軌跡は体力の落ちた状態では対応できない敵と戦闘が始まっていると?」

〔そうです。

 さきほど、お兄さんからキレを誤魔化す為の連絡がありました。

 一旦は持ち直せるかもしれませんが、

 それも時間の問題でしょう〕


 アルシェの言葉は少し年上というには力強く、

 有無を言わさぬ迫力が篭もっていました。

 それは戦場を知っている者と知らない者の壁のようで、

 サーニャの顔から察するに、

 この救出作戦の顛末に気づいていなかったのは自分だけなのだと今はっきりと理解しました。


「なら・・・もっと早く・・〔もっと早くに伝えていても、

 助けられた人数は変わりませんよ〕それでも!

〔変わるのはクレア、貴女のモチベーションだけです〕・・どういう事ですか?」

〔私たちはクレアの為人(ひととなり)に詳しくはありません。

 お兄さんの報告でモチベーションが下がるようなら発破を掛けますし、

 高いままなら今は不要な情報として伝えない、それだけです。

 実際、モチベーションは下がらずサーニャさんも伝える様子がない。

 今の即席のチームならそれだけ分かれば十分です〕


 冷たく言い放つアルシェの言葉が心に刺さる。

 事態を理解していなかった自分に、

 教えてくれなかったサーニャに、

 切り捨てるような言い方をするアルシェに、

 憤りを感じる反面、情けなさで胸が締め付けられる。


 救護に必死だったと言えば確かにその通りではある。

 いつもはこんな大勢を一度に看るような形では無く、

 診療室に1人ずつ落ち着いた雰囲気で行ってきた。


 元々戦場に出る予定で教国を出たわけでもなかったから、

 戦場での動き方や優先順位なんてものも勉強出来ていなかった。

 それでも流れとはいえ、

 トーニャもサーニャも勇者さまも居る状態で戦場に参加する事に不安は特に感じなかったし、

 いまの今までなんとかやれていたと思っています。


 そんな状態の覚悟のないまま参加した私に、

 アルシェはこう言っているのだ。

 戦場に出る以上は一人前の扱いをする。

 使えなくてもどうにかする、と。


〔ただし、クレア。

 貴女がいたことで戦況を長引かせずに済んだことは事実です〕

「・・・え?」

〔当初は私たちと勇者様で出来うる限りの救助をする予定でしたが、

 救助した後の指示だしまでは私たち後衛の仕事でしたから、

 うまく回したとしても今助け出せている人数より少なかったでしょう〕

「・・・・」

〔突入班の戦況と救護班の手際。

 このどちらが欠けていても2700名もの人命を助けることは出来なかった。

 文句ならばあとでいくらでも聞きますから、

 今はそれを誇って最後までお付き合い願います〕


 ぐうの音も出ないとはこの事か・・・。

 予定と実情が+の部分もあればーの部分もあり、

 私たち教国PTの加入は予定外ながら、

 この作戦では大きく+に傾いているらしい。

 ーはやはり、

 3万を見ていた生き残りが遙かに少なく、

 すぐに助けに行ける状態では無いという事。

 そして、アルシェ達の行動はその先を予想しなければまた覚悟のないまま現実に直面してしまう。


 だから確認をしなくちゃいけない・・・。


「・・・これ以上の救出は無理なんですか?」

〔えぇ。心苦しくはありますが、

 これ以上の継続は我々が被害者の側になって仕舞いかねない。

 生きているかもわからない方々の為にリスクを負うには荷が勝ちすぎています〕

「・・・わかり・・たくはありませんが、

 ここは飲み込むことにします」

〔・・・ごめんね。クレア〕

「これが戦場なんですよね・・・アルシェ」



 * * * * *

『ブラスターロールー!』

「おらぁあああっ!!」


 ガーゴイルの攻撃は斧槍によるものなので、

 しかとその動きに集中すれば対処出来ないものではない。

 しかし、ガーゴイルの相手をしている間も、

 虎視眈々と背後を狙って速すぎるもう1体が襲ってくるため、

 いまだに1体も倒すことが出来ていなかった。


 ブラスターロール。

 自身の背後に位置取る敵のさらに背後へと回る技術だが、

 身体の負荷も馬鹿にならないのであまり使わせないでいただきたいというのに、

 そのもう1体は常に背後を狙った攻撃しかしてこなかった。


 だが、逆に考えるとその瞬間くらいしか俺たちが攻撃できるタイミングがなかったから、

 単純な話、俺たちの鍛錬不足というわけなのだ。


「見たな?」

『一瞬しか動きが止まらないから難しかったですけれど、

 全体像は見極めましたわー!』


 そして、十何度目かになる今の攻撃で姿を捉えられていなかった敵の正体を正確に把握できた。


「ドラゴンフライか・・」


 ゲームでも登場するであろうドラゴンフライは、

 顔がドラゴンっぽいだけで、

 身体は空飛ぶ虫のキメラみたいなモンスターだ。

 ゲームによっては結構小型で人間を掴んで巣へ持ち帰る程度は出来そうなイメージだけれど、

 いま戦っている個体はもう一回りデカい。


 勇者たちの戦況もみたいのは山々だが、

 こちらも気を抜けば先の様に地面に叩き付けられかねないギリギリの戦闘を繰り広げている。

 それでも、自分たちが撤退するためにも一旦こいつらの掃除は必要不可欠なので、

 地道に攻撃は繰り返していた。


 その度に体勢を崩す敵の姿をうっすら捉えて、

 輪郭などから候補を外していった結果、

 ドラゴンフライであろうと結論づけた。


「《翠雷破点突(すいらいはてんづき)!》」

『《ウインドブラスト!》』


 ひとまず、こういう場合は倒せそうな方を先に倒して戦況を有利にするのがセオリー。

 ドラゴンフライの方は視認出来ず、

 ニルの風探知でギリギリ対応出来ている状態だ。

 なので必然的に優先対象はガーゴイルとなる。


 掲げた剣の頭上に目に見えない大きな刃が形成されていくなか、

 ガーゴイルの動きを阻害するための魔法をニルが撃ち放つ。


 しかし、ランク差といえばいいのだろうか・・・。

 浮遊精霊から2度加階したばかりのニルの魔法はアクアには遠く及んでおらず、

 ガーゴイルが振り回す斧槍で全て蹴散らされてしまった。


「十分っ!」


 振るう剣の意のままに不可視の刃は風を割いていき、

 斧槍を所定の位置に戻そうとするその隙を突いてアタックを掛ける。


『《ウインドブラスト!》』


 魔力保持量が心許なくなっているいま、

 足止めの為に撃ちまくるという選択が出来ない以上、

 機を見るに敏を実行していかなければ、

 先に空の戦場から脱落するのは俺たちになってしまう。


 一呼吸おいて俺の攻撃の支援にと、

 最後にニルが再びの魔法を撃ち放った。

 着弾はほぼ同時。


「UGAAAAAAAAA!!!」


 初動の遅いガーゴイルは1回目のウインドブラストで動きを抑えられ、

 その後に続く俺たちの攻撃を避けるには身体が重く、

 防御するにも構えた武器が俺の魔法で一番初めに壊される為、

 全弾がガーゴイルの岩で出来た身体へと吸い込まれていった。


「・・・GU・・GAAAAA・・・」


 ダメージには繋がっている。

 ガーゴイルというだけあって身体は岩で出来ていることから、

 奴は土属性という判断をしているのだけれど、

 胸には瘴気の防御力を超えた証である大きな斬り傷、

 そしてHP的にも弱っているだろう。

 飛ぶ姿がフラフラとしていて、今にも墜落してしまいそうだ。


『堅いですわ-!』

「あと一歩!踏み込むぞ!」

『ドラゴンフライ接近!』


 追撃を行おうと空を駆ける俺たちの背後から、

 仲間を護るためなどでは当然ないだろうが、

 絶好のチャンスとばかりに超速で近づいてくる気配が1つ。

 3・2・1・・0!


『ブラスターロール!』

「《雷竜一閃(らいりゅういっせん)!》」


 ようやく100%HITさせることが出来るようになった攻撃を、

 通常攻撃では無く雷竜一閃(らいりゅういっせん)に変えて敵を斬り付ける。


 通常攻撃とは違う雷を帯びた魔力砲の一閃を前に、

 流石のドラゴンフライも飛行速度がガクンと落ちてしまったようだ。

 身体には翠雷(すいらい)の雷が身体を走り、

 状態異常の麻痺に陥ったのが見て分かる。


「今のうちに!」

『ガーゴイルを獲りますわー!!』


 風の力場を全力で蹴り上がり。

 ハァハァと上がる息を飲み込んで抑えつつ、

 ガーゴイルの頭上へと素早く移動する。


『エアキックターン!』

「うおおおおおおおおおっ!!!!!」


 翠雷(すいらい)色の輪が広がる力場を蹴ってその場で一気に勢いを付けて下降。

 マリエルばりに回転させる身体で次に繰り出す攻撃を最大威力まで高める。


 ニルの[鎌鼬]による[ストームインパクト]は俺の持つ打撃最強技ではあるが、

 足の裏での攻撃のみにしかまだ適応できていない。

 それでもアニマ達無精の護りがなければ、

 俺の足が砕けるほどの威力を持っている。


 踵落としや(すね)での蹴り上げでは発動しないこの技は、

 同じ高さの敵を蹴りつけるには使い勝手が良いが、

 上空から下に対してはまだまだ試行錯誤の余地がある。


(「アニマ!」)

(『存分にやる、です!』)


「『スイシーダ!!!!』」


 上空へ駆け上がり、一気に下方の敵に向けて襲いかかる技[スイシーダ]。

 大変格好悪いことは甚だ承知しているが、

 格好のことは何も言わないでいただきたい。


 屈んで腕も折りたたんだ上半身と、

 伸ばす左足折り曲げる右足の姿はキックボクサーを彷彿とさせるだろう。

 ガーゴイルの首の根元に曲げた右足が触れかける。

 その瞬間に一気に魔力を解放し、

 右足も一気に伸ばしきる。


 途中でガーゴイルの堅い身体に伸びを阻まれるような抵抗を感じたが、

 そんな事は関係なしにこいつを倒すことだけに集中した手加減なしの一撃を食らわせる。


 足裏を起点に打撃だけでは無い魔力のランスのようなものが思わず発動し、

 結果、

 ガーゴイルはその魔法のランスに貫かれて身体に縦穴を開けられていた。


 チラリと見やれば、

 核も一緒に破壊してしまったようで、

 4分の1程度の欠片が身体の中に残っているのが見えた。


『みなさん、こちらへ来てくださいな!』


 解放された浮遊精霊へとニルが急いで声を掛ける。

 回収は命令されてはいないことだが、

 宗八はこの事に何も口にしない。


『っ!ブラスターロール!』

雷竜一閃(らいりゅういっせん)!」


 2度目の雷を食らうドラゴンフライは、

 今にも地表へと落下しそうな程に失速してしまっていた。


「これで2回目だ」

『《レイボルト!》』

「これで3回目。雷はマーカーなだけじゃなくてな、

 身体に雷が溜まれば溜まるほど魔法剣の威力が上がるんだ・・・」


 殺気を俺たちへと叩き付けながらなんとか向きだけでもと俺たちに合わせるドラゴンフライ。

 そんな彼に向けて疲れからか言わなくていい情報を口にしつつも、

 再び剣を天高く構える。


『さよならですわ-!』

「《翠雷無双突(すいらいむそうづき)っ!!》」


 天から落ちる雷とドラゴンフライから登る雷。

 2つの雷が合流して凄まじい雷撃が周囲にも飛散する。

 多分、地表の家屋もいくつか壊しちゃったんだろうなぁと思いつつも、

 疲れからすぐに頭から追い出す。


(『お父さま、ギルド内の救出完了致しました』)


 さぁ、最後のフェイズに取りかかるか・・・。

いつもお読みいただきありがとうございます

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