†第8章† -05話-[フェイズ3:ギルド避難民救出開始]
「すまんね、待たせた」
メリオ達勇者PTの位置を確認すると、
それなりにギルド近くまでは移動していた。
しかし、予想以上に家の外で死んでいる人々が多く、
息のある人を確認して救出するのと、
死んでいた人間の撃退。
もちろん、常時瘴気モンスターは溢れ出している状況は外も中もあまり変わりなかった為、
そちらの処理も含めて進みが速かったとは言い難い。
「いえ、気配は消しておりましたので」
『よく隠れられましたわねー・・・』
『瘴気モンスターの気配察知能力は侮れませんでしたけどね』
メリーとクーが潜伏している周囲には瘴気モンスターが跋扈していたので、
サクッと蹴散らして合流を果たした。
当初は光属性の攻撃を加えてからアクアの魔法でトドメを刺す方法で戦ってはいたが、
戦闘を繰り返すうちにどの程度の攻撃を加えればHP勝負でもなんとかなると理解に及んだ為、
近接特化の[鎌鼬]であればそこまで苦戦することも無く攻撃を全て回避して倒しきる事は容易であった。
ちなみに、余談ではあるが・・・。
モンスターはランクが3つ毎に強さに壁が存在する。
1~3、4~6、7~9といった具合に耐久力も攻撃力も文字通り段違いになっており、
現在発生している瘴気は初期段階で、
魔界に発生している瘴気は濃度が段違いで産まれてくるモンスターも、
7~9ランクはザラだそうだ。
今回のフォレストトーレで発生している瘴気はランク3。
濃度の上がり方まではギルドでも掴んでいないため、
この作戦で救出するのが実質最後の救出チャンスとなっていた。
「一旦外壁の上まで上がるぞ」
「はい、ご主人様」
『《多重閻手》シフト:フルスタム!』
『《エリアルジャンプ!》』
空中に風の足場を一時的に作り蹴り上げて空を駆け上がる俺と、
ペラペラの閻手を重ね合わせたピックで足裏を弾き飛ばすメリー達。
街を護る高い外壁の上から改めて4人でギルドの位置を確認する。
すると、視界の端で戦闘を行う勇者達とは別に気になるものが目に映る。
「なんか、ギルドだけ外観が浮いてないか?」
「確かに色合いがどうにも周囲と・・・材質の問題でしょうか?」
周囲の建物の壁は白っぽいし、
屋根も木材を拵えた作りなのに、
ギルドの作りだけが石を削り出して作りましたってな印象を受ける。
それが、ただでさえ大きいギルドという建物をさらに際立たせていた。
『本来は周囲と同じ作りですが、魔法によって強化されているのでは?』
『でも、クー姉さま。
魔法はオベリスクの影響で発動出来なかったはずではないのですのー?』
『魔法を使用したあとは、
基本的には魔力に還元させて自然に戻しますが、
あれは存在を残したまま魔法を解いたのではないですか?』
「オベリスクの影響が深刻化する前に発動させて、
その後はただの石壁として作用させていたって事か・・・」
「確かギルドマスターのパーシバル様の種族は・・・」
「ドワーフ族だって話だから、その線はあり得るだろうな」
護りをすでに固めてくれているのは生存者への希望を持てるが、
見る限り中に繋がる扉や窓といったものは全て塞がっているみたいだ。
「息をする為の空気穴が工夫して隠してあるとは思うけど、
瘴気が地面に溜まっている様子から屋上近くにあるのかぁ?」
『侵入はクーの魔法で容易かと思いますが、
すぐに動きますか?』
「あまり時間を掛けたくないしな、さっさと取りかかっちまおう。
まずはパーシバルさんにコンタクトを取って、
問題があればすぐ連絡を」
「『かしこまりました』」
『ニル達は外のヘイトを稼ぎますわ-!』
目立たないように屈んで話していたが、
動くことを決めて指示出しをしながら立ち上がる。
メリー達はそのまま一番近い建物の屋根へと飛び移り移動を再開した。
「にしても、勇者達は流石の戦闘力だな」
『あの空に浮かぶ光魔法が瘴気を払っているからですわー』
「それはもちろんあるんだろうけど、
どっちかと言えばあれは瘴気の海に沈んでいる人の捜索と、
敵の動きを視認出来るようにする為だったはず。
その上で一撃だからな・・・」
『じゃあ、ニルたちはどうするんですのー?』
「救出した人たちは彼らの影に収まっているだろうから、
先にそっちの移送かな・・・。
念のためセカンドオピニオンもしておきたいし・・・」
『あいさーですわー!』
メリオ達のいる地点まではまだ距離がある。
しかし、いまはニルを纏っているので風の制御を持って踏み込んだ一歩がふわりとするので、
普段では届かない距離を目指して外壁から踏み切ると、
7mは余裕でジャンプに成功し無事に着地する。
そのまま勇者達の近くにある住宅の屋根から覗くと、
闇の中で光が振り注ぐ範囲で賢明に人命救助とその活動を手助けする勇者PTの姿があった。
しかし、近寄ったメリオに対してナイフで斬りかかる返礼をする住民の攻撃を素手で捌いて押さえつける。
その場へと飛び降りる前に、
ニルが呻き声をあげてきた。
『そうはちー・・・ここ気持ち悪いですわー・・・』
「さっきまでは平気だったじゃないか。
どんな症状とか感覚なのか説明できるか?」
『んんー・・・外壁までは確かに平気だったのですが、
中に入ってから何かが周囲をいっぱい飛んでいるような・・・、
風ではないのに目に見えない何かがいるんですのー・・・』
目に見えない・・。まさか・・・。
「ニル、目に映る波長を変えてくれ」
『えー?波長ってあれですのー?
テンションをサゲサゲからアゲアゲに上げていくやつですのー?』
「そそ、それそれ。
脱力してからしっかりとイメージして下げてからやってみてくれ」
『あうー、がんばってみますわー・・・』
もしかしたらもしかするかもしれない。
確かにここは状況から見て多くの人が死んでいるはずの場所だから、
可能性は十分にあるが、
まさかこの土壇場で反応出来るようになるのか・・・?
思えばヤバい場所というのは多くの霊魂が集まっていたり、
霊道が出来てしまっていたりと、
近づくだけでヤバいと肌が粟立つ場所ばかりだ。
今まで訓練して試していたのは普通の街中であったり、
道端だったりと大して霊魂の集まりの少ない場所での事だったから反応出来なかったが、
この場は濃度の高い心霊スポット化しているから未熟な精霊のニルでも琴線に触れる事が出来たのだろうか・・・。
『・・・・』
「・・・・・・来た!少しだけ戻してくれ!」
『テンションを戻せとか無茶を言いますわー・・・』
空を見上げる視界の先を集中して何も見逃すまいと睨め付けるなか、
一瞬世界が変わったんじゃ無いかと思えるくらいに色んなものが目に映った。
本当に一瞬だったのではっきりとは言えないが、
人の姿を取っていたものも居たし、
霊魂のイメージそのものも居た。
「そこだ」
視界が定まる。
見間違いではないその光景は、
絵画として阿鼻叫喚や地獄というタイトルで発表されれば納得せざるを得ないひどいものだった。
『わぉ・・ですわー・・・。
これが・・・幽霊ですのー?頭がすごく痛いですわー・・・』
「とりあえず今は感覚だけ覚えておけば良い。
ありがとう、楽なところまで波長を落としていけ」
『わかりましたわー・・・はぁ・・』
視界を覆い尽くすほどの霊と地面を這う瘴気。
肉体を皮膚と考えれば霊魂は神経と同じように接触に敏感だとどこかで聞いた気がする。
つまり、下を漂う瘴気が頭上を飛び交う者たちに悪影響を与えて、
戻れないところまで堕としてしまう可能性が頭に過ぎる。
ゲームのモンスター設定のなかでも何々が何々の影響を受けて怨霊化した存在とか良くある話だしな。
「《コール》アインス」
〔はい、どうされましたか?〕
「モンスターについてまた確認なんですけど、
なんていうんだろう・・・スピリット系とかそんな感じのモンスターって居ますか?」
〔スピリット系ですか?どんな特徴とかわかりますか?〕
「こっちで言えば受肉していない精霊と同じで、
魔法でしか攻撃が出来ないとかユラユラ浮遊しているとか・・・」
〔あぁ、そういうタイプですね・・・。
ランク5のファントムアラクトラやランク6のナイブスレイス、
もっと上位ですとヴァンパイア種やデュラハン種、
オーガ種もそれに中ると言われています〕
ファントムやレイスって単語から、
ゴーストやリッチも候補に入ってきそうだな。
上位に関しても基本は人型で人間よりも上位の生物としても有名だったり、
怨霊が長い年月恨み続けた結果なるとされる鬼・・・オーガもあるのか・・・。
「情報提供に感謝します。
これから救出作業に移行します」
〔わかりました、お気を付けて〕
通話を切って今はもう見えなくなった魂達へと目を向ける。
いまの俺たちに成仏させる手段はないし、
この世界の理も不明だ。
もしも、俺たちに彼らを鎮める力があったとしても、
視界を覆い尽くすほどの数を相手にどうにか出来るとも思えなかった。
「2ヶ月後の作戦は骨が折れそうだな・・・」
敵の戦力がさらに増える事を予感しつつ、
いま出来る事に専念するために頭を切り換え、
建物から飛び降りて勇者PTとの合流を果たすのであった。
* * * * *
「お兄さん、無事セーバーさん達と合流しました。
残ったお馬さんも消耗が激しいのでフーリエタマナへ戻しました」
〔了解。
瘴気モンスターの対処はどうにかなっているか?〕
「そちらも問題なく処理出来ていますのでご心配なく。
治療班の方もアインスさん経由でギルドから指示があったようで、
各町から救援の冒険者も到着しました」
〔そりゃ助かるな。
治療や搬送に関してはクレア達教国勢にまかせて、
アルシェは状況把握と護衛隊の指示だしに集中しろ〕
〔わかりました〕
お兄さんとの通話を終えて、
眼下に広がる状況を確認してみます。
前衛にはマリエル、セーバーと他2人にリュースィ、ゼノウとライナー、
教国シスターのトーニャさんの計8名。
後衛には自分とアクア、セーバーPTの2人、トワインとフランザ、
治療をメインで行うクレアとその直属の護衛サーニャさんの計8名。
すでにそれぞれが慣れ親しんだPTへと戻っており、
前衛と後衛が良い連携で襲い来る瘴気モンスターの討伐を次々と行っていた。
その中でもやはり戦闘力が突出しているのはトーニャさんですね。
右翼をセーバーさんのPT、
真ん中をもっとも薄いゼノウさんのPT、
そしてそのサポートも兼ねる左翼に私たちのPT+トーニャさんの即席PTで対応していますが、
マリエルの拳で氷の波撃を利用しても倒しきれないモンスターを、
片っ端から一撃で斬り伏せていく様は流石の一言に尽きます。
お兄さんの得物とは違いすぎる極大剣を使っている為、
比較などは難しいですが、
やはりレベル差とは別に根本的な身体の使い方が他の冒険者とは一線を画しているのがわかります。
『あるぅ、つぎがきたよ~』
「はい、見えています。
やっぱりずっと沸き続けるわけじゃなくて一定間隔なんですね」
『こっちとしてはたすかるけどね~。《勇者の剣!》』
氷纏のスナイプモードで誰よりも先に敵を撃ち抜いていくアクアちゃん。
その多くは中央の敵に集中しており、
体力を事前に減らしてからゼノウさん達との戦闘に入ってもらうためでもあります。
「総員、次が迫っています。準備はいいですか?」
〔セーバーPT問題なし〕
〔ゼノウPT問題なし〕
〔マリエル大丈夫でーす〕
〔同じくトーニャ、問題なし〕
時に何故光属性の武器を使うサーニャさんではなく、
火属性の武器を使うトーニャさんが前衛に配備されているかというと、
ダメージ自体は確かに高い威力を発揮できるのですが、
瘴気自体を祓うことが通常攻撃だと出来なかった事が理由のひとつとして挙げられます。
2つ目に先にも伝えたかもしれませんが、
体力勝負とはいえ倒せないわけではなく、
高い威力を持つ攻撃であれば割と簡単に屠る事が出来る為です。
今回は自分よりも少しだけ治療が得意なサーニャさんに後方を任せ、
前衛へと加わったという経緯もありますが・・・。
「アクアちゃん、そろそろブレードを操作しましょう」
『あいあいさ~!』
お兄さんとアクアちゃんがシンクロ状態で初めて編み出したこの氷鮫の刃は、
初めこそ氷の道を作らなければなりませんでしたが、
今やアクアちゃんの改造の手が加わり、
ライドと同じように地面を滑りながら走るようになりました。
その結果、
普通であれば視界を塞ぎ攻撃の手も遮ってしまうフォレストトーレ特有の樹木群は、
この魔法を止めること叶わず幹は真っ二つにされ、
枝は斬り飛ばされ、敵は大ダメージを与える縦横無尽の活躍をしています。
いまのところ1度の発生で100~150体ほどの瘴気モンスターは、
前衛に到達する前に約半数が倒され、
到達した半数も体力を減らされた状態という理想的な状況を作り出せています。
そして、問題は・・・。
「瘴気モンスターの後方から、
禍津核モンスター30体ほど!内3体が大型個体!
アインスさん、大型の1体はオーク種!全身を護る鎧を付けて大きな鎚も持っています!」
〔色はどんな色でしょうか?〕
「色は・・・」
『くろっぽいはだしてる~』
〔であれば、キャプテンオークかと思われます。
ランクは4!その中でも耐久力が最も高いとされる1体です!〕
禍津核モンスターは核さえ壊せば倒すことは容易いですが、
その核の位置や破損した部位の再生力が大変厄介な相手です。
キャプテンオークは足も遅く、
おそらくトーニャさんだけで倒しきる事は可能。
「2体目はフライングサイズ!
3体目はスレンダースケルトンに見えますが、もう少し大きくて色も青いです!」
〔色が青くスレンダースケルトンに近いモンスターですと・・・、
ありました!マッドスケルトン!ランクは5!〕
「では、あれは申し訳ありませんがトーニャさんにお任せします」
〔わかりました〕
「魔法で進路を操作してそれぞれの前に誘導しますので、
セーバーPTはフライングサイズを、
私たちがキャプテンオークを、
小型はゼノウPTで対応します!」
〔了解した〕
〔わかりましたー!〕
〔了解〕
お兄さんは1人でランク4のフライングサイズを倒したと聞いて、
私は思わず拳を握ってしまいました。
やっと・・・やっとあの日からお兄さんの胸に刺さっていた棘が取れたのだと・・・、
それがわかって私も嬉しくなりました。
やっとここまで来られたのだと・・・。
骨の治療方法も確立出来た事で、
きっとお兄さんは次にアスペラルダへ戻った際にはあの時ドロップアウトしてしまった冒険者の元を訪れることでしょう。
その機会を作る為にも、
いまは役割を精一杯こなしてお兄さんが自分の道を進めるように、
私もこの場を護りきってみせます!
〔敵視認!〕
「戦闘開始っ!」
* * * * *
「全員生きてた・・・」
〔何その意外そうな顔っ!?〕
「いや、メリオの事だから死んだ人間も収容して大惨事になっていそうだなと思ったもんで・・・」
「わかる」
「わかる」
「わかる」
「わかる」
『素晴らしい信頼関係ですわー!』
〔君たちは戦闘に集中しててくださいませんかねぇっ!?〕
戦場のど真ん中とはいえ冗談を言い合える余裕があるのは、
不謹慎というよりも心強さを感じる。
「にしても、やけに時間を掛けていると思ったら、
まさか20人以上も生きてる人を見つけてくるとは・・・。
精霊も影倉庫に慣れてないんですから、
優しくしてあげて欲しかったですね」
『まったく、です!』
居たのかアニマ。
皆様のお声はしかと届いております。
先ほどまで一言も喋っていなかったのに、
急に喋るちんちくりんな王も同行していたのかとお思いでしょう。
実際は俺に纏っていて守護隊長みたいな立場に収まってはいるけど、
戦闘の攻撃役としては参加しない以上、
会話にも参加していなかったのです。
『ワタクシの眷属はまだ他属性の扱いに慣れていないの、ですっ!
こんな無茶を今後も強要するのでしたら、
契約を剥奪する事も検討いたしますよっ!』
〔う・・すみません。
助けたいって気持ちが急いてしまって・・・〕
「今はそのくらいで済ませておいてくれ、アニマ。
無精達も無事だし、
もしも彼らに限界が来ていたとしても制御が出来なくなって空間が消滅するだけだろ」
『だからではないですかっ!
精霊の手助けを求めるならもっと理解をしてもらわないと、
結果的に勇者の思いが人を殺していたのですよっ!』
「「「「っ・・・!」」」」
俺たちの会話に介入せずに瘴気モンスターを蹴散らす勇者PTの面々が、
耳に届く事実に息を飲む音が俺とニルには聞こえた。
精霊の扱いに関しては即席ってのが主な原因ではある。
精霊という存在を良く知らない人間は、
精霊に対して絶対的な魔法強者というイメージを持っている。
これは今までアクア達を連れて出会った人々がおおよそその印象を持っていた事もあるし、
現に勇者達も20人程度なら収容可能だと無意識下に思っていたに違いない。
うちのクーですら初めは軽いキャンプ道具や衣服を収容するだけしか出来ず、
徐々にその容量を慣らして増やしていったに過ぎないのに、
4人の無精が協力して1つの影倉庫を使っているとはいえ、
属性不一致、不慣れ、瘴気状況下という状態でよくもまぁ魔法の制御を手放さなかったと、
俺たちとしては褒めたい所だ。
アニマが怒るのは、
善意で助けた人間にトドメを刺す可能性があったこと。
無精の眷属に対する扱いに関して。
無知故に勇者の精神が傷つく恐れがあったこと。
上記2点と無精の王として、
勇者が健常な状態で成長してもらわなければという心理からなる説教が先の言葉に詰まっていた。
「・・・メリオ、そんな顔をするな。皆さんもです。
ひとまず助けた20人は生きてクレアの元へ送る事は出来たのですから、
結果だけを喜んでおいてください。
ただし、これ以上道端の人々の救出は後回しにしてもらわないといけない」
〔まだいっぱい居るんですよっ!なんでですかっ!?〕
「確実な大勢を助けるためだ。
ギルド内の救出をする準備はすでに整っている。
後は突入班の勇者PTがヘイトを集めて、
瘴気モンスターが余計な事を起こさないように目立ってもらわないといけない」
もっと言えば、
外側は使い捨ての瘴気モンスターと禍津核モンスターの混成軍から成っている。
ならば、やはり実質作戦行動をしている内側は、
そろそろ本命が出てきてもおかしくはないとアラームが鳴り始めている。
出来ればもう撤収してしまいたいが、
本懐の救出を最低限しないとここまで無理をさせた意味がない。
「もっと多くを助けたければ、
ギルドマスターからの情報をもらってからにしてくれ」
「わかりました」
〔マクラインっ!〕
「水無月殿は取捨選択をしているに過ぎません。
道端に倒れている1人1人を確認して救出するよりも、
先に多くを助けられる方を優先するって話です。
何よりも・・・」
「元から予定していた救出作戦の目標はギルドだったでしょう?」
仲間の戦士マクラインと魔法使いミリエステに説かれては、
勇者といえどこの場で反論は出来なかった。
俺は少数を切り捨てる選択をして、
勇者は未だに全員を助ける為行動したかったのだろう。
勇者としては正しい選択なんだろうが・・・。
「今は救援が間に合わない事も考慮して少数での救出作戦をしている関係上、
あまり何でもかんでもに手を回す余裕がないんだ。
今はちょっかいを掛ける羽虫が居るって程度の認識に抑えて、
敵の大将達とは事を構えたくは無いのが本音だ」
〔・・・わかりました〕
納得ではないのね・・・。
顔にありありと不満ですと書かれていて、
メリオがまだ19歳という事を思い出す。
「とりあえず、ギルドの救出が済んだ後なら危なくない程度に俺が付き合うから、
今できることをやろうじゃないか。
皆さんもひとまずギルドの近くへ移動してください!
すでにメリーとクーが中に侵入して状況の把握に入っていますので」
「「わかりました!」」
「「了解!」」
地上に掃除は勇者に任せて、
俺たちは再び屋根の上へと移動する。
『やっぱり瘴気が混ざる風は重くて扱えませんわー』
「ただでさえ、霊の存在が感覚に引っかかるってのに厄介だよなぁ」
『空からガーゴイルが来てる、です!
ワタクシァ守護に戻りますから頑張るのですよ!』
敵の出現と激励の言葉を残してアニマは俺の身体へと溶けていく。
言われなくとも視認は出来ているガーゴイルは、
外でサポートしている間、[竜]で数十匹撃ち落としているから、
ランクが3ということも身体の構成上耐久力があることも承知している。
「勇者たちが移動を完了して救出も済むまでは、
空の担当は俺たちだな」
『がんばりますわー!』
いつもお読みいただきありがとうございます