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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第08章 -瘴気の海に沈んだ王都フォレストトーレ編-

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†第8章† -02話-[フェイズ1:王都突入!]

 ブルルルッ!

「今更だけどさ、なんで俺が一番偉いみたいな感じで話を進めちゃったんだろうな」

「お兄さん・・・本当に今更ですね。

 状況に明るく作戦に必要な精霊に一番詳しいのですから、

 要の役を担うのは必然ですよ」

『ますたー、かっこよかったよ~』

『流石はお父さまです!』


 今回魔法によって移動速度を上げることが出来ないため、

 動き続ける連中に分配する馬に頑張れよと声を掛けながら頭を撫でていく。

 その途中で唐突に冷静になった頭で考えたのがそれであった。

 あの場には勇者に姫に聖女もいたというのに、

 何故に俺が陣頭指揮を執っていたのか・・・。


「宗八」

「セーバー、準備はできましたか?」

「あぁ、外周班は全員準備完了だ。いつでも出られる」

「わかりました。

 メリオ!そっちは行けますかっ?」

〔こっちもOK!いつでもいいですよ!〕


 馬の状態も悪くは無い。

 一応普通の馬では無く魔物に変異した後で、

 人に飼い慣らされた魔物なんだけど・・・。


「問題はお前達がどのくらい持つかなんだよなぁ・・・」

「元の馬よりは魔力の保有量も多いですし、

 適宜マナポーションの摂取をするよう通達はしております」

「それでもだよ、メリー。

 馬は本来とても臆病な生き物だから・・・、

 魔力の減っていく環境というのは初めての体験だろうし、

 怖がって恐慌状態にでもなれば、

 みんなを振り落としてでも逃げちゃう可能性だってある」

「それは考えても仕方ない。

 俺たちも落ち着くように気を配るが、

 最悪、走ってでも仕事はこなす心積もりで居る」

「助かります。

 でも、安全が第一ですから無茶は駄目ですよ。

 セーバーは外周班のリーダーなんですから、

 冷静な判断をよろしくお願いします」

「わかっているさ。

 サブリーダーに俺より冷静なゼノウだっているしな」

「それもそうですね」

「おい、今のは冗談のつもりで言ったんだからそのままにするなよな・・」


 馬が1頭も欠けることが無ければ各員別々のオベリスクを目指した移動が出来るけど、

 馬がリタイアする度に効率は悪くなるし、

 彼らはオベリスクに一番近い担当になるので、

 浮遊精霊は常に影の中に避難させる必要がある。

 その為、物理的な遠距離攻撃をされると、

 しっかり避けたり捌いたりしなければ死ぬ可能性だって0ではないのだ。


「《全員、影の中に入れ!》」


 俺のかけ声に反応して、

 各自の浮遊精霊は影の中へと避難する。

 まずは、先行して王都へ向かう道すがらに配置されたオベリスクを破壊、

 道が開かれたらギルドが配置されている方向へと進行を変化させ、

 ギルドがオベリスク範囲外になったら救出班のメリー達が突入する。


「今回の救出作戦は1発勝負になる!

 これが失敗すれば、次は警戒度が跳ね上がって俺たちだけでは対処出来なくなる!

 そうなれば、次は2ヶ月近く先の話になってしまい、

 おそらく王都に住む民は全滅していることだろう!

 全員、身命を掛けろとは言わない!

 死ぬ気で生き残れ!死ぬ気で助けろ!死ぬ気で逃げ切れ!以上だ!」

「「「「「「「「「応っ!」」」」」」」」」


 俺の呼びかけに呼応して覚悟を決めた声音の声が次々と上がっていく。

 出来る事はしたと思う。勇者もいるし聖女もいる。

 ここまでキャストが揃ってやることは救出かよ・・とも思う自分がいるのも知っているが、

 残念ながら未知数な敵を相手に少人数で戦うなんて無茶をする訳が無いだろうが。

 俺は安全マージンを持って、分相応な行動をして、

 破滅の調査を進める本業に戻るだけだ・・・。


「作戦、開始ッ!」



 * * * * *

 耳に届くのは馬の駆ける音と、

 風を切るビュービューという音だけ。


「ゼノウとライナーは手前の4本を頼む!

 他は俺に続いて王都寄りの6本を折りに行くぞ!」

〔了解〕

〔応よ!〕

〔かしこまりました〕

〔あいよ!〕

〔うぃ〕


 王都へ続く道の左側の森の中に配置されたオベリスク。

 そのうち、最低限の破壊をしてからギルドの方向へと切り返して、

 反時計回りにオベリスク破壊ツアーへと出向く予定だ。

 一番近くに建っていた道の左右の2本は破壊を済ませ、

 いまは次に近いオベリスクへと向かっていた。


 リーダーに指名されたセーバーは、

 レベルの低いゼノウとライナーを危険から一番遠い位置のオベリスクに向かわせ、

 自分を含む高レベルの4人で王都に近いオベリスクへ向かう。

 これにはオベリスクを破壊した直後に発生するであろう瘴気に侵されたモンスター対策も含まれていた。


〔宗八、アクア、アニマ。上空に待機完了〕


 揺蕩う唄(ウィルフラタ)を通じて聞こえるクランリーダーの声。

 オベリスクは調査の結果球状の範囲を持っており、

 影響を及ぼす上空の範囲も計算は出来ていた。

 その為、各班の後方支援の為に範囲外の上空へ宗八が到着したとの報告に自然と口元が釣り上がる。


〔ゼノウ、2本破壊〕

〔こっちも2本破壊した!あ、ライナーだ!〕


 俺たちは即席のPTになる。

 その所為で誰が指示通りに破壊したのか、声を聞いただけでは理解できなかった。

 なので、全員には報告をあげる際には名前を入れるようにと宗八からの入れ知恵が混ざっていたのだ。


「2人は予定通りの右側へ移動。

 こちらも・・・6本の破壊を完了、すぐに合流する!

 各員、発生したモンスターに向かわず予定の動きに従事しろ!

 接敵する個体だけを倒せ!他は宗八達が撃ち抜いてくれる!」

〔〔〔〔了解!〕〕〕〕



 * * * * *

〔突入班、どうぞ〕

「突入班プルメリオ=ブラトコビッチ、行きます!」


 馬に手綱で進むように指示を出すと、

 綺麗な縦列を作って道の左端を走り出す。


 勇者PTの突入班は最も戦闘が多いと予想されるチームのため、

 安全策の浮遊精霊の鎧を脱がせる訳にはいかないという理由から、

 オベリスクによって王都へ続く道を覆う効果範囲に穴が空いたら移動をする予定であった。

 先の宗八からの連絡に、

 先行した外周班が仕事を進めている事とついに始まったと自身の肝が震えるのがわかる。

 緊張?興奮?いや、やっぱり使命感が一番かな?


 姫様と水無月さんの話を聞いて、

 自分がこの1年近く勇者らしいことがまったく出来ていなかったという事実はショックだった。

 自分ではそれなりに行商人を助けたりとしているつもりになっていたからだ。


 物語に出てくる勇者に憧れて召喚されたのに、

 物語の勇者と違って問題が自分から飛び込んでくるなんて展開にはならなかった。

 昨日までそんな幻想をまだ微かに信じていた自分は死んだのだ!

 ここからは物語のようなご都合展開はないと理解して行動しよう!

 他の冒険者とは違う魔法や技能はレベルが上がるごとに会得していったが、

 それが絶対に勝つ勇者の代名詞になるわけじゃ無い。

 俺も死ぬときは死ぬのだと理解したからには、

 全力で勇者として人を助け、無理なら全力で生き残ろう!


 影響を逃れたのは道の左側のみ。

 影響を気にせずに王都への道を進むことはやろうと思えば出来るらしいが、

 極力精霊へのダメージを最小限に抑えてフルパフォーマンスでの戦闘を宗八は期待した為、

 同時進行の予定だったものを変更してスタート2組目として配置された。


 斬ッ!

 眼前に迫る頑丈で巨大な門扉は閉まっており、

 このままでは中に入ることは叶わない。

 しかし、いま目の前では氷で出来た巨大な剣身が地面から生えてきて、

 門扉を押さえて居るであろうこれまた頑丈な(かんぬき)を一刀の下に両断した。

 その門扉の前を横切っていく集団のひとりと目が合う。

 セーバーという名の大男の冒険者はにやりと笑ってそのまま右の森の中へと消えていく。


「《フレアーヴォム!》」


 自分のすぐ後ろに控えて走る魔法使いミリエステの詠唱が聞こえ、

 咄嗟に頭を下げると、

 何かが投げ込まれるような影が自分を通り過ぎ、

 数秒後には大爆発と共に門扉が外向き・・・、

 つまり自分たちを迎え入れるかのような開き方をする


 閉めきられていた空間が開け放たれた事で、

 重く地面を這う瘴気の波がゆったりとした動きで外へと流れ出てくる。


「うまくいきましたね」

「よく向こうに投げ込めたな」

「魔法で射出しただけですよ?

 このくらいは勇者の仲間として出来て当たりまえでしょ?」

「はいはい、そうですね」


 仲の良い掛け合いが後方から聞こえる。

 戦場に向かうにはあまりに空気感に合わない会話だけれど、

 支援や他のPTに存在がやはり少なくない影響を及ぼし、

 リラックスして事に当たれているのだと自覚する。


「王都城下町に入ります」

〔皆様、お気をつけて〕


 アルシェの声を最後に勇者PTは町の中に足を踏み入れた。



 * * * * *

「王都外で魔物の発生を確認。

 予測通りにトレント種とアウラウネ種、

 さらに地面から上半身だけを出した様な姿をした岩の魔物も追加」

〔おそらく、ロックレイトゴーレムかと思われます。

 移動するときはその埋まった姿で進み、攻撃する際に下半身も出すはずです!〕


 始めにいた高度から今はずいぶんと下がってきており、

 通常魔法の射程距離内に魔物を捉えられるよう動きながら警戒していると、

 セーバー達外周組が通り過ぎた後の瘴気に侵された大地から、

 プールから上がる人のような動きで出てくる魔物が目に付く。


 他にも黒く変色した樹木も動き出し、

 地面からは一気に成長して人のような上半身と植物の下半身をしたアウラウネ種もざっと30体は出現し始めている。


 揺蕩う唄(ウィルフラタ)越しに聞こえた言葉に従って、

 例のゴーレムに一発当ててみると、

 その場で飛び上がるように地面から全身が飛び出して周囲をキョロキョロと見回している。


「アインスさん、正解のようですね。

 あと、身体が黒っぽいのと目が赤いのは特徴になるんですか?」

〔瘴気は基本的に人間が治める地域では見ることはありませんが、

 魔族の治める通称:魔界には瘴気の吹き出すスポットがあるそうです。

 あちらのギルド員の情報から得ている限りは、

 確かに瘴気によって生まれる魔物の特徴として黒い身体と赤い目は一致します〕


 状況の報告はすでに終えており、

 アインスさん経由でアスペラルダ王、そこから各国へ伝達もされている。

 いまは、敵勢力調査に以降。

 そして、現在進行形で瘴気モンスターの情報提供を希望して、

 アインスさんにも揺蕩う唄(ウィルフラタ)による支援をお願いしているのだ。


「各種弱点はありますか?」

〔彼らは魔力では無く瘴気によって生まれることから、

 瘴気を晴らせば攻撃が通るようになると伺っています。

 ただ、現状はブラトコビッチ様以外にその手は使えませんし、

 瘴気による鎧に似た大気を纏っているので、

 防御面でもかなり堅いです〕

『さっきのごーれむもささらなかったしね~』


 眼下では統率が取れていないのか、

 王都の壁をよじ登ろうとしたり適当な方向に走り出す者、

 その場から動かない者と多種多様おり、

 対処する側としては逆に面倒な事この上ない。


 ただし、共通の部分も存在していて、オベリスクのある方向へは向かおうとしなかった。


「でも、魔力を消すオベリスクがあると生まれず、

 今もオベリスクには向かおうとしない事から、

 魔力とは無縁とも思えませんよ?」

〔そちらはまだ研究中で魔法ギルドでも把握できていません。

 あ、そうです!瘴気の範囲を広げる為に行動する魔物が必ずいるはずなので、

 その個体だけは確実に潰してください!〕

『ますたー、あれじゃない~?』

「ん~、あれか?」


 アクアの意識が指さす方向へと目を向けると、

 他の魔物に混じって動きが鈍く、

 黒紫色の煙のようなものを身体のあちこちから吹き出しながら歩いているキノコの化け物を見つけた。


「アインスさん。

 キノコっぽい見た目で上部の傘を開いたり閉じたりしているのが・・・」

〔キノコの見た目の魔物であればフングス種でしょう。

 現在の形状を教えて貰えますか?〕

「形状も何も、普通にキノコを大きくしただけの姿で弾みながら進んでいますけど・・?」

〔フングス種の特徴として、

 自身の放出する胞子を利用して再生から改造まで行う事が出来るんです。

 攻撃力も防御力もありませんが、

 本来の身体を核として胞子で足や腕を生やすことも可能です。

 戦闘で言えば胞子によるデバフ要因ですが、

 手足の生えたフングス種は動きが機敏で攪乱も得意なんです〕

『じゃあ、いまのうちにたおしちゃわないとだね~』

「だな」


 フングスと聞いて最初に浮かんだ2つ共が某有名なRPG作品からだった。

 ひとつがモスフングス。

 この毒を使って死んで埋葬された死体からはやがてそのキノコが生えてくるという話と、

 ふたつ目がその名の通り、フングス。

 胞子の国出身だかの敵幹部だったか?


 どれだけ攻撃しても菌だか胞子だかが残っていれば時間を掛けて復活できる奴で、

 胞子の国では胞子を取り込みまくって巨人になるわ、

 その辺に生えている巨大キノコをネイチャーウェポンとして使うわと結構な型破りさで、

 子供ながら、はよ死ねやと思っていた。


「キノコということは炎弱点ということで間違いないですか?」

〔はい。動きが鈍いうちに火属性の魔法で引火させれば、

 持続ダメージでいずれ倒れます。

 ただ、ランクが高いフングス種は生命力が高いので、

 なかなか倒せませんし、

 今回の瘴気モンスターに至っては情報は当てになりません〕

「それでも、試してみるしかないでしょ」


 上空から狙いを定めて右手を伸ばす。

 この距離でスナイプするには俺の感覚では無く、

 鍛えてあるアクアに向きや方向は任せて、

 俺は魔法の制御に集中する。


「《ヴァーンレイド》」


 詠唱を口にすると身体に刻まれている魔法陣から魔法が発動し、

 掴むように軽く曲げる指の丁度真ん中に火の玉が発生した。

 本来はこのまま目標に向けて撃ち放ち、着弾地点で軽度の爆発を起こす魔法だが、

 不安要素も含まれる初めて相対する瘴気モンスターにおいては、

 アレンジを加えてもっと威力を上げておくに越したことは無い。


「・・・・すぅ~~~~~~~~」


 息を吸うのと同時にその感覚を手の中に収まる火の玉にも投射して、

 開く指と指の隙間から空気を送り込んで熱を上げる。

 上げすぎると前回のアセンスィア卿との戦いの時と同じく、

 その熱量で俺も扱えなくなってしまう為、

 限界を見極めるまでゆっくりと火の勢いを高めていく。


『あつ~い~!げんかい~!』


 火の玉の大きさは大して変わっていないのに、

 内炎は赤から黄色、外炎は青に変化していて熱量は相当なものとなり、

 構えている手の周辺だけに陽炎が発生している状態までくると、

 火が嫌いなアクアが根を上げたのでここで撃ち放つことにする。


「《ブレイズレイド!》」

『ふぉいや~!』


 魔法陣の改造ではなく、

 魔法陣の魔法を制御力で火力を上げたオリジナル魔法の火の玉は、

 その高威力を遺憾なく発揮し、

 フングス種に当たると通常時の小爆発よりも大きな爆発を伴って、

 周囲にいたトレント種もアウネウラ種も巻き込む。


 しかし・・・


「げぇ・・まだ身体が残ってる・・・」

『じゃくてんなのに、おかしいねぇ~?』

〔水無月さんは今アクアーリィちゃんと水精霊纏(エレメンタライズ)しているのですよね?

 おそらく属性の不一致によって威力は見た目よりも低いと思われますし、

 瘴気モンスターは瘴気を纏った状態だと浮遊精霊の鎧に似た効果を得るようです〕

「それってHP勝負になるってことですか?」

「そうなります」


 今までの話を整理するに、

 ①瘴気エリアはダンジョンと同じ要領でモンスターを生産し続け。

 ②瘴気を纏った状態の奴は浮遊精霊の鎧と似た効果を得て。

 ③身体を斬り飛ばしたり魔法で身体を貫通させたりは出来ない。

 ④禍津核モンスターと違い核もないから倒すのに苦労する。

 厄介以外の何者でも無いな・・・。


「瘴気を晴らすのって光魔法以外にあるんですか?

 光魔法だけだと勇者以外に対処が難しいんですけど・・・」

〔現在は光魔法だけが有効となっていますが、

 属性が光属性の武具であれば効果はあると思われます〕


 それもないんだよなぁー。

 ん?待てよ?


「ちょっと失礼。

 アルシェ、サーニャさんの武器の属性を聞いて貰えるか?」


 聖女クレアの付き人シスターズの妹、サーニャ=クルルクス。

 確か彼女の武器は両手剣のサンクトゥスで、

 見た目は光の剣って感じだった。

 アナザーワンという称号を持つとおり、

 彼女たちシスターズはメイド業務も護衛も1人で全てをこなすことが出来る一品者の戦士だ。

 とはいえ、アナザーワンの称号持ちは少数ではあるが何人もいるみたいだし、

 教国の保管するレア度の高い大剣をそれぞれに進呈されている関係上、

 その登竜門は狭いらしい。


〔確認しました。光属性だそうです〕

「借りたり出来ないか?」

〔・・・・、理由次第でクレアが許可を出すそうです〕

「瘴気モンスターが瘴気を纏った状態だと、

 浮遊精霊の鎧みたいな効果でHP勝負になってしまうみたいだ。

 先に瘴気を払ってから攻撃を加えないと倒しきれない為だ」


 光魔法は何かに使えるかと思って昨夜のうちに一番簡単な魔法をクレアに教えてもらい、

 アルシェが起動式を組み上げて魔法陣を作り上げてくれた。

 それを至急でカティナに依頼をして、

 朝一には魔導書として届けられていたものを読んで習得済みだ。


 だから、剣を借りることが出来れば一旦瘴気を払うことは出来ると思われた。

 ん?クレア?いつの間に呼び捨てになったんだ?


〔サーニャさん、武器が無くなっちゃうそうなんですけど・・・〕

「予備の装備とか持ってないのか?」

〔無いそうです。ひとまず、私が造れる範囲の大剣を渡しておきますので、

 影から回収をお願いします〕

「すまんな、助かる。

 お待たせしました、アインスさん。

 ひとまず光属性の武器は用意出来たので少し試してみますね」

〔よく用意出来したね、よろしくお願いします。

 この情報はしっかりと各国へ伝えさせていただきますので〕


 こっちよりも各国にそこまでの光属性の武具があるのか疑問なんだよなぁ。

 ただでさえ属性武器は少ないのに、

 その中でも闇属性と光属性はさらに少ない。


 俺もこの世界に来てからすでに9ヶ月近くが経っているが、

 手にしたことはないし、

 武具図鑑をギルドで確認しても上位ランクの武器にしかなかったはずだ。


「とりあえず、竜の状態だと武器を握れないから一旦下がったところに降りるぞ。

 解除したらアクアはまた上がって援護を頼む」

『あいあいさ~!』


 指示通りに地面に降り立つ前に解除して、

 俺は地面に降り立ちすぐさま影に手を入れて光り輝く剣身を持つ大剣を取り出し、

 アクアはそのままUターンをして空へと戻る。


「おっもいな・・・。やっぱり他の武器も使い慣れておかないといけないか?」

『(ますたー、くるよ~!)』

「はいはい。《ライトボール》セット:サンクトゥス!」


 初めて見たけど、

 このサンクトゥスという大剣さ・・・大きくね?

 店売り品の両手剣なら試しに握ったことはあるんだけど、

 元より大きい大剣のさらに1.5倍くらい大きいんだがこれ如何に・・・。


 剣を振りやすいようにと選んで降りた場所で、

 魔法を取り込んでさらに輝く大剣を構えて、アクアの視点イメージを受け取る。


「敵視認!《光竜一閃(こうりゅういっせん)!》」



 * * * * *

〔メリー、クー。準備できてるなら行ってくれ〕

「かしこまりました、いつでも行けます」

『ではアルシェ様、ニル、聖女様、サーニャさん、行ってきます』

「はい、行ってらっしゃい」

『クー姉さま、頑張ってくださいましー!』

「よろしくお願いします」

「お気をつけて」


 主人からの指示が届く。

 おそらく、現時点ではオベリスクの範囲に入っているのだろうし、

 自分たちが到着する頃には目標のオベリスクが破壊されることを計算しての指示出しとなる。

 そう判断して振り返ると、

 出発する旨をクーが報告する声に対して、

 この場に残る治療班の聖女とシスターズ妹、

 そして主のアルシェとニルが声を掛けてくれる。


「はい、行ってきます。

 お四方も護衛をよろしくおねがいします」

「この場は任せてください」

「気負い過ぎないようにね」

「報酬はいただきますから、その分は働きます」

「もう!またそんな事を言う!大丈夫です、任せてください!」


 最後にフランザとトワイン、

 他セーバーの後衛を勤める仲間に声を掛けて走り出すメリーとクー。

 この2人は開いた門扉から入るのではなく、

 ギルドに近い外壁を駆け上がって裏口侵入する予定だ。

 その為、馬を使用せずにいつも通りに走って移動することを選択した。


「いってらっしゃ~い!」


 アルシェ達よりも王都よりに立つ後方チーム唯一の前衛マリエルが、

 通り過ぎ様に大きな声で声援を送ってくる。


 大丈夫です。

 私たちにはお互いをカバーするチームワークと信頼があり、

 その他諸々の危険も作戦に含んで組み上げられていますから。

 危険はもちろんありますが、何故でしょうね。

 少しも怖くはないです。


 肩に捕まるクーが振り返り、

 何かをマリエルに返したのは気配で把握しつつ、

 目的である地点に向けて足を前に前に進め続ける。

 この先向かう7kmの大半はすでにオベリスク無効化が進んでおり、

 クーデルカに被害はないと理解しているとはいえ、

 主の愛娘の1人を任されている以上は無様な仕事は出来ない。

 そんな覚悟を持ってメリーはさらに加速する。



 * * * * *

「マリエル、身体に異常はありませんか?」

〔ご心配ありがとうございます、姫様。

 さっきまでは軽く身体が重く感じていましたけど、

 少し前から問題は解決しています!〕

「なら、いいですけど・・・。

 森が広すぎて支援も完全には出来ませんから、

 危ないと思ったら迷い無く下がってくださいね」

〔了解でーす!〕


 さきほどメリーも出発し、

 いまは聖女クレシーダ様の光魔法によって、

 マリエルの背中およびに王都の前景が見えている状態です。

 しかし、実際には私たちとマリエルの間には幹の太い木々が生い茂っていて、

 街道も切り開くのに苦労する木の集合する場を避けて作られて居るため、

 道はマリエルに繋がってはいても、

 迂回を何度もしているからこそ私の目には直接マリエルを捉えることが出来ません。


「すみません、アルカンシェ姫。

 もっと魔法の効果を広くしてお見せしたいのですが、

 オベリスクの影響からか鮮明さに欠けてしまって・・・。

 安定して状況を映せるのはこの辺りが限界で・・・」

「いえ、マリエルの姿と支援をするための視界と距離感さえわかれば問題ありません。

 逆に助かっているのですから、謝らないでください。クレシーダ様」


 クレアが現在使用している魔法は、

 光の屈折を利用して遠くの状況を手元に投写して映像とする魔法だ。

 アンテナやWiFiのような電波を利用した物ではないのだが、

 これも魔法ということでオベリスクの影響から受信状態が不安定な様子。


 謝るクレアにアルシェは振り返りほほえみながら感謝を述べる。

 実際、クレアの魔法があるからこそ今の支援体制が整っており、

 この光魔法がなかった場合は目の前の森を事前に伐採して、

 敵に姿を晒し続けることになっていたところだ。

 いまはクレアの魔法によってその手間と樹木による守りが得られたことを感謝する以外にアルシェには言葉がなかった。


「・・・あの、アルカンシェ姫。

 私のことはよろしければクレアとお呼びいただけませんか?

 こういう立場になったのは数年前からの若輩者ですし、

 そもそも年齢も姫様より下なので・・・いかがでしょうか?」

「わかりました、でも条件があります」

「条件・・ですか?」

「条件は私のこともアルシェと呼ぶことです。

 お互い立場があるのでこういう非公式の場くらいしか砕けたお話も出来ないのですから、

 私も姫と呼ばれるよりは気が楽になるんですよ」


 クレアの提案は出生や今の落ち着き様などを見て、

 アルシェを尊敬した結果の当然の帰結であった。

 しかし、アルシェもお互いの立場が国の上位者という事もあり、

 宗八と精霊たち以外に愛称で呼んでくれる者はいない環境に解決策を見いだしており、

 その回答をクレアへと提案する。


「私とお友達になりましょう、クレア」

「私は・・・その、

 出自も普通より下の孤児ですし・・・恐れ多いです・・」

「その程度の問題は問題ではありませんね。

 私は立場はありますけれど、

 虫も食べたことがありますし、料理だって自分で出来る庶民派ですから」

「虫っ!?むむむ、虫を食べられたのですか!?何故です!?」

「お兄さんが経験しておけって・・。

 旅は何が起こるかわからないし食料難のような状況に陥った場合、

 虫でも食えるようになっておいて損はないそうですよ」


 開いた口が塞がらない、そんな顔をするクレアとサーニャさん。

 私だって食べようと思って食べたわけではありませんでしたけど、

 結果的には美味しく頂けたので今となっては経験しておいて良かったと思っています。


「水無月さんは恐ろしい程に破天荒なんですね・・・。

 自国の姫様相手に護衛隊長とはいえ流石に度を超えているのではないですか?」

「あれ?クレアはお兄さんの事も調べたのですよね?」

「え、えぇ調べはしたのですが、ねぇサーニャ」

「はい、調べたのはキュクロプス戦で精霊と共に戦って勝利した辺りまでで、

 出自や実態については時間もなく不明なのです。

 なので、警戒を強めていたのですが聖女様は懐くし、

 精霊達は幼く無警戒だしと・・・昨日は色々と自分との差を思い知らされました」

「あはは・・、お兄さんの契約方法ですと子育ても一緒にしないと行けませんからね、

 女性としては確かに複雑かもしれないですね」


 本当にお兄さんには驚かされるというか、

 自信をなくすというか・・・。

 戦闘面、生活面、子育てにお役目と色々としているはずなのに、

 全部一定のクオリティを旅を始めてから保持出来ているのはすごい事です。


「ともかく、お兄さんに伝えたい事もあるのでしょうし、

 私と仲良くなっておいて損は無いと思いますけれど、いかがですか?」

「・・・わかりました。

 大変恐縮ですが、お友達になってください。アルシェ」

「はい、よろしくお願いしますね。クレア」


 その時、揺蕩う唄(ウィルフラタ)から話題のお兄さんが話している内容に変化が有り、

 私宛のメッセージが入りました。


「はい、わかりました」

「どうされたのですか?」

「お兄さんからサーニャさんの使われる武器の属性を聞かれました」

「サーニャ」

「はい、私が賜っているサンクトゥスは光属性の武器となります」


 先ほどまでアインスさんと話されていた内容は、

 この状況に介入しているクランメンバー全員に繋がっており、

 お兄さんが受けた情報は全て皆に筒抜けとなっています。


「確認しました。光属性だそうです」


 ここでサーニャさんを戦場に出すのはあまり得策ではないと思うのですが・・・。

 確かにアナザーワンとしての戦力は期待できますが、

 彼女はクレアと同じく治療にも精通した後衛の戦力としてこちらに配置したはずです。

 でも、お兄さんもそんな本末転倒をするつもりはなかったようです。


「すみません、サーニャさん。

 そのサンクトゥスをお借りすることは可能でしょうか?」

「いえ、これはアナザーワンの資格を取得した際に、

 各員に渡される証のような意味を持つ武器なのでおいそれとは・・・」

「アルシェ、ご理由はどのようなものでしょうか?

 内容次第では私の名において許可を出します」

「理由次第でクレアが許可を出すそうです」


 お兄さんの理由については納得のいくものでした。

 その事をクレアとサーニャさんに伝えると、

 状況を改善するためと理解を示してくださいました。

 それでも、問題がないわけではありませんでした。


「サーニャさん、武器が無くなっちゃうそうなんですけど・・・」


 サーニャさんはアナザーワンの立場に相当誇りを持って望んでいるらしく、

 予備の装備を持っていませんでいた。

 私たちであれば基本的に2種類は武器を用意していますし、

 私に至っては魔法で精製をすることも出来ますから、

 ひとつだけしか持っていない状況だと、

 もしもがあった時はどうするのでしょうか?


「無いそうです。ひとまず、私が造れる範囲の大剣を渡しておきますので、

 影から回収をお願いします」


 サーニャさんから受け取った大剣は私ではステータスが足りていたとしても、

 使いこなすことは出来ないと分かるくらいに大きくて、

 例えお兄さんでも扱いに困るのでは無いかという懸念を抱きつつ、

 影の海へと沈み込ませました。

いつもお読みいただきありがとうございます

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