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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第08章 -瘴気の海に沈んだ王都フォレストトーレ編-

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†第8章† -01話-[王都フォレストトーレ救出作戦開始!]

「ここが例のスポットか・・・。

 勇者魔法便利すぎワロタ」

「確かに便利ですね。

 この大人数と人数分の馬も併せて移動出来て、

 到着先も指定できる魔法なんて情報量が多すぎて起動式としてまとめきれませんよ」

〔お褒めいただき光栄です〕


 昨日の1日で勇者PTとセーバーPTを量産型精霊使いとして仕立て上げ、

 勇者には正式に聖剣エクスカリバーの使い手として覚醒して貰った。

 しかし、聖剣エクスカリバーの鞘に当たる闇精がいるらしいから、

 彼の覚醒はまだ残されている。


 昨夜作戦の概要と大まかな流れは各員に説明をして、

 現在この場には勇者PT5人+聖女PT3人+セーバーPT5人+ゼノウPT4人+俺たち4人の計21人の人間と、

 その契約精霊以下21人。

 そして今回の移動手段として用意した馬が16頭。

 これらを指定地点に一度に一瞬にして運べる勇者専用の光魔法はチートと言わざるを得ないだろう。


「まだこの辺は木も生い茂っていて王都が見づらいですね、隊長」

「これ以上はオベリスク影響下だから下手に近づけないからな、

 仕方ないさ。

 アクア、どこから範囲になるか調べてくれ」

『あい!《りゅうぎょく》ごー!』


 俺こと水無月宗八(みなづきそうはち)の指示に従って、

 契約精霊の1人である水精アクアーリィが自身のオプションである[竜玉]をゆっくり前進させて範囲の縁を調べる。


『みつけたよ~、こっから20mくらいまえだよ~』

「ありがとう。

 距離的に余裕もあるし、ここで一旦王都を確認しようか。

 アルシェ、足場を頼む」

「わかりました。

 メンバーはどうしますか?」

「各組み分けのリーダーでいいだろう。

 俺とアルシェ、セーバー、ゼノウ、メリオ、クレアで上がろう」

〔了解です〕


 先ほどからひとり会話に遠距離通信アーティファクトの揺蕩う唄(ウィルフラタ)を使って喋るのは、

 勇者プルメリオ=ブラトコビッチことメリオである。

 何故かというと異世界人同士の俺たちは互いの言葉が翻訳されることなく聞こえるため、

 コミュニケーションが一切取れず、

 会話一つするのに仲介を必要とした。


 なんとか出来ないかと苦肉の策で揺蕩う唄(ウィルフラタ)を使わせて見たところ、

 なんとか言葉が翻訳されて聞こえることがわかったので、

 俺たちは本作戦中は基本的に繋がったまま運用することに決まった。


 なんだろうな。

 電話が実は2000種類しか音声を用意していなくて、

 似た声音の音声を流しているだけって知ったときのような微妙な感覚だわ。


 ちなみに勇者メリオは同じ世界のかは不明だが、

 出身が[ボスニアヘルツェゴビナ]らしい。

 めちゃイケで昔良く聞いたことのある国名だけれど、

 その国の言葉が彼の母国語を聞く限りでは英語圏ではないらしいくらいしか情報はなかった。


「《アイシクルキューブ!》」

「わあ、すごい!どんどん高くなります!」

「とりあえず、王都周辺が見える高度まで上がってから、

 オベリスクの位置と王都の様子を窺ってみようか。アクア」

『あ~い、「シンクロ!」《蒼天(そうてん)・ウォーターレンズ!》』


 アスペラルダの姫、アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダの詠唱に従い、

 集まる6人を納める範囲の地面から氷が迫り上がっていき、

 徐々にその高度を更新していく。

 縁から下を覗き込みながら歓声をあげるのは、

 ユレイアルド神聖教国の聖女、クレシーダ=ソレイユ=ハルメトリ。

 愛称クレアと呼ばれる彼女には、

 後方で救出した者たちの手当を担当して貰うことになっている。


 アクアと俺のシンクロのかけ声と共に漏れ出す蒼天(そうてん)のオーラ。

 そしてアクアの魔法によって創り出される双眼鏡が6人の手に渡ったのを確認してから、

 改めて王都の方向へと向き直り、手にする氷の双眼鏡をのぞき込む。


「距離感は俺が基準になるから、

 見てもらう方向や位置の指示に従ってくれ」

「了解」

「あいよ」

「あ、わかりました!」

〔はい!〕


 今回の救出作戦の要とも言うべきオベリスク掃討班になる、

 軽装のゼノウ=エリウスと、

 大柄なセーバー=テンペスト=カルドウェルが返事を返す。

 オベリスクが建つ位置関係によっては彼らの仕事次第で作戦の失敗もあり得る為、

 彼らも真剣な面持ちで双眼鏡を目にあてがう。


「・・・」

「オベリスク結構ありますね、お兄さん」

〔王都から黒っぽい霧が発生しているように見えるけど、あれは何ですか?〕

「慌てないでくれ。ひとつひとつ整理するぞ。

 まずオベリスクの位置を見える範囲で地図に書き込む。

 クー、イメージは見えているか?」

『(はい、問題ありません。

 メリーさんと一緒にお父さまの見ている情報を参考に距離も計算します)』


 下で待機させている闇精のクーデルカともシンクロをしている。

 シンクロ状態の精霊と精霊使いはパスが強化された状態になるため、

 心の声や見ているイメージ、使いたい魔法などが流れ込むようになる。

 それを利用して、

 サブマスターとしてクーと契約している侍女のメリー=ソルヴァと共に、

 地表にてより正確なオベリスクの位置を特定していく。


「これを全部壊すのか?」

「いえ、全ては不要かと思います。

 いくらセーバー達が壊せるとしても王都の外周は広すぎますし、

 その間馬も持つかわかりませんから・・・」

「それもそうだな」


 オベリスクは魔力を徐々に消失させる効果を持つ為、

 その範囲内にある王都とその周辺にはすでに魔力は漂っておらず、

 おそらく街の人々も魔力切れによる意識喪失や最悪、

 衰弱死している恐れは十分にある。


 戦闘や救助に入る前に、

 ある程度のオベリスクを破壊しておかなければ、

 魔法も満足に使えない状況での行動を強いられる。

 移動に関しても魔法は使えないので、

 今回は馬を代用することにしたが、

 馬も魔力は持っている為、

 彼らの魔力が全損した場合速い移動手段は無くなってしまう。


 だからこそ、

 必要最低限の掃除しか出来ないし、

 救助もどこまで出来るかは王都内の状況に依るとしか言えなかった。


「あの黒い霧は瘴気ではないでしょうか?」

「瘴気?」


 オベリスクの位置を地図上に書き加え終えた頃合いを見計らって、

 聖女クレアが黒い霧について新情報を上げてきた。


「はい。人間の治める地域では珍しい事ですが、

 魔族の治める魔界に至っては各所で噴出していると聞いたことがあります。

 瘴気の発生条件は正確には判明しておりませんが、

 基本的にその地で良くないことが起こっていることが多いそうです」

「なるほどな。

 地脈とか魔力消失とか正常な状態にない地域に発生するって点じゃ、

 あれが瘴気ってのも頷けるな。

 クレア、他に瘴気の情報はないか?」

「他ですと・・・、

 あ!王都の周囲の地面と草木を見て貰えますかっ!

 黒く変色しているように見えるのは瘴気の影響を受けている箇所です。

 あの状態はモンスター化の前兆です!」


「クレシーダ様、どんな魔物が出現するかわかりますか?」

「おそらくは木はトレント種、地面の方はアルラウネ種へと変化するかと思われますが、

 申し訳ありませんアルカンシェ様。私も瘴気に関して明るくなくて」

「いえ、無いよりは幾分も助かりますから。

 でも、なぜモンスター化していないんでしょうか?」

「そもそも瘴気に感染した箇所の浄化は光魔法で出来ないのか?」

〔払うことは可能ですが、範囲が広すぎる。

 根本的な解決をしないと噴出は止まらないとエクスが言っています〕


 クレアの話とメリオの話を総合して最悪のシナリオは頭の中で組み上がっていく。

 あの瘴気とやらが人体に悪影響を及ぼさないとはどうしても思えないし、

 それを加味するとどれだけの王都臣民が生きているか・・・。

 フォレストトーレ王都に住む民の数は推定60万人。

 煙も上がっていないところからすでに争いなどは鎮静化しているように見えるが、

 襲う相手が居なくなって静かなだけなのか・・・。


「・・・モンスターも魔力をもつ生物だ。

 だから瘴気で感染していてもオベリスクによって絶命しては意味がないから、

 オベリスクの影響が消えるのを待っているのかもしれない」

「意思があるわけでなく、状況がそうしている、と?」

「って事は、俺たちがオベリスクを壊すたびに、

 王都側からモンスターが襲いかかってくるってことか?」

「予想が当たればそうなりますね。

 一応もとの予定として後方支援に俺たちが控えていますから、

 全部が全部セーバーやゼノウに襲いかかるわけではないと思いますよ」

「街の中に入ったら瘴気の濃度は高いだろうな」

「メリオ達は浄化をすれば問題ないでしょうけど、

 外の様子から中もオベリスクが壊れるたびに魔物が発生する可能性は大いにある」

〔こっちはなんとかします!逆に他は手伝えないので支援をお願いします〕


 ここまでの状況確認をして、

 ひとまず作戦の流れを改めて見返して修正を施す為に、

 一旦下へと戻り合流することにした。


 外周のオベリスク班は、

 セーバーPT前衛3名、ゼノウPT前衛2名、

 クレアPTからシスターズの姉トーニャが参加することに決まっている。

 彼らの仕事はオベリスクを壊すことだが、

 全部では無く破壊が必要な箇所だけ壊して魔法の使用制限を解除するのが目的だ。

 そのオベリスク破壊に同調してモンスターが発生する可能性が出てきた。

 その場合、俺とアクアが上空から狙撃を行って支援はするし、

 発生した魔物の一部は後方組へと向かうだろう。

 それでも何割かはオベリスク班を襲うことが予想された。


 次に救出班。

 敵の目を引く+街中を回って救出するのが勇者メリオPT、

 そして主な救出手段はメリーとクーによる魔法で影の中に落とす方法だ。

 ギルドマスターのパーシバルさんとは連絡が付かない状況にあるが、

 王都にあるだけあってギルドは広い為、

 おそらく避難所として機能していると思われる。

 そこで一気に影に落として攫ってしまうのが一番手っ取り早いし、

 パーシバルさんとコンタクトが取れれば人の集まる箇所を素早く回ることも、

 外周班に指示して指定位置のオベリスクを破壊して貰うことも可能だ。


 そして後方支援班。

 俺とアクアが上空に水精霊纏(エレメンタライズ)状態で待機し、

 敵戦力を狙撃して突入班と外周班を支援する。

 同時にクーともシンクロ状態を維持して救出の際に掛かる負担を分担する。

 影の出口として設定した地点。

 つまりは現在居る影響範囲外のここに配置されるのは、

 聖女クレア、シスターズ妹のサーニャが看護として。

 護衛としてうちからはアルシェと妖精族の危険性から後方に回されたマリエル、

 他にもトワイン、フランザ、セーバーの所の後衛2名も看護の手伝いと共に護衛も兼任して行う。

 さらにニルとアニマもこちらの手伝いをする。


 俺とアクアの狙撃距離は250~300mほど。

 その支援は主に前衛班へと注がれるため、

 足下を通り過ぎて射程距離から逃れてしまった敵勢力は、

 彼女達が接敵前に殲滅する事が第一目標。

 もしも接敵した場合はマリエルとアルシェが対応する。


 これが本案件の概要として固まった。


「すみません、水無月さん。

 救出班の影に落とされた方々を私たちはどうやって受け取ればいいのでしょうか?」

「影の先は俺たちがいつも使っている影倉庫(シャドーインベントリ)なんだけど、

 その倉庫に穴を開けて一時的に直接外と行き来が出来るようにする。

 どうせ必要だし直接見せようか・・・、クー、メリー」

『はい、お父さま!』

「こちらをどうぞ、ご主人様」


 今回の救出の要となる俺たちの秘技。

 そして遠く離れたハルカナムに居たはずのセーバー達がすぐに合流できた理由。

 それをクーとシンクロし、

 メリーから渡される[アサシンダガー]を使用して実行する。


『《エンハンスダーク》シフト:オプシディアン!』


 元より黒いダガーの剣身にさらにクーのエンチャントを掛けると、

 黒い煙がアサシンダガーへと纏わりつき、

 そのまま渦を巻き始めて剣身に張り付いて無骨な形を形成していく。

 原始時代に戻ったような石器の得物と化したアサシンダガーへ、

 さらに魔法を重ねがけする。


『《セーフティーフィールド》セット:アサシンダガー』


 魔法剣として込める魔法は闇属性の裏に属する時空魔法。

 闇属性の武器が無いため、

 時空魔法を受け入れられるように段階を踏まなければならないし、

 現時点ではアサシンダガーが一番闇魔法の乗りがいいのでこの時だけメリーから借りているのだ。


「これが次元刀。

 空間に切り傷をつけることが出来る武器であり、

 空間を繋げる鍵でもある・・・」

「お兄さん、格好つけて紹介しているところ悪いのですが、

 あまり時間もありませんしさっさとお願いします」

「あ、はい。

 じゃあ、先に前準備として空間の出入り口となるゲートを作る。

 これは通常使用する魔法とは違って、

 精霊が使える制御力という魔法に位置する」


 そう、魔法の説明をしながら半開きのドアを閉める時の様に、

 指先を伸ばした状態で何も無い空間へと手を進める。

 しかし、闇光(あんこう)が漏れる中3本の指先は、

 何も無いはずの空間に壁があるかのように触れ、

 そのまま先日使った文字魔法(ワードマジック)とは異なる太さである形を描いていく。

 中空に描かれるそれは100cmX100cm程度で、

 横に2本の線と縦に若干斜めの線を2本描いて終了する。


「これは鳥居と呼ばれるもので、

 これを出入り口・・つまりゲートとして利用するんだけど、

 通常はドアが用意されているだけで普通に開いたとしても、

 変わりない風景が広がる張りぼてだ」


 闇光(あんこう)の光で象られた鳥居のマークは、

 俺の説明の途中にも関わらず段々と薄くなっていき消えていった。


「基本的にマーカーとしての役割しか持っていなくて、

 この状態だとどこにも繋がっていない。

 管理者は俺とクーになっているから勝手に他者が利用する事は出来ない」


 皆を見渡しながらも説明を続けつつ、

 他2つのゲートを作る為に移動をして、

 同じように鳥居のマークを設置しては再びその姿は空気に溶け込んでいった。


「でもって・・・、

 武器に必要分の魔力を注いでっと・・・」


 魔力を込めた武器を伴って、

 先に作ったゲートが消えた付近に近づいていく。

 設置位置は当然自分の魔力痕が残っているからわかる。

 そこへ武器を近づけると、

 姿を消していたゲートが何も無かった空間に浮き出てくるのを確認し、

 鳥居の中程に向けて魔法を使う。


「《黒鍵(こっけん)》アサイン:影倉庫(シャドーインベントリ)

『《アンロック!》』


 最初に作った空間の出入り口へと闇光(あんこう)を漏らすアサシンダガーを近づけていくと、

 空間の境目に刺さった先端から徐々にその剣身が目で捉えられない空間へと飲み込まれ、

 剣を押し込んでいるはずなのに、端から見ると剣身が消えていっているだけに見える。


 最後まで飲み込んだのを確認してからアサシンダガーを捻ると、

 ガチャッと鍵が開いたような幻聴が聞こえ、

 鳥居はその形を保ったまま高さ2mほどに変化する。

 ダガーを差し込んでいた鳥居のくぐる部分には、

 ギルドにあるインスタントルームや、

 ダンジョン最奥にあるBOSS部屋の入り口と似て非なる黒い霧が立ちこめている。

 その先は事前にマークを作っておいたクーの影倉庫(シャドーインベントリ)へと繋がっているのだ。


「事前の設置と空間を繋げる時に魔力が膨大に必要になるけど、

 開いた後は俺が意図的に閉めない限りは開き続けることになる。

 その間の魔力は必要が無い」

〔制御力は精霊が使える魔法と言ってましたけど、

 それを何故水無月さんが使えるんですか?〕

「そりゃ、精霊使いだからな。

 精霊とのパスが通っているから精霊たちは俺に近づき、

 俺は精霊に近づいている。

 だから俺は制御力が扱えるようになったんだ」

「へぇ~、こんな魔法は初めて見ました。

 でも、これで影に入ってきた人をこちらへ移動させるんですね」

「そうなる。

 ただ、開きっぱなしは陽の光が入ってきてクーのお腹がキリキリするし、

 あまりに多くの人を一気に落とすと負担が大きすぎるから、

 20~30人ずつくらいの移動になると思う。

 こっちは野戦病院並になるだろうな」

「わかりました、それはこちらで対処します。

 それで、もう2つの入り口はどちらと繋げるのですか?」

「王都は奪還した後もしばらくは人が暮らすのに適さない土地になるだろうから、

 歩ける人には家族や親戚が住んでいるかもしれない街へ移ってもらうことにする」


 災害が起きたときにやはり頼りになるのは親戚や知人だろう。

 今回の王都の事件は災害のようなものだし、

 一応避難先のギルドマスターには話を通している。

 もちろん町長にも話は通してはいるが、

 具体的な話は控えさせてもらい、

 あくまでギルド員が保護した難民を受け入れてほしいとしか伝えては居ない。


 念のためというか新たな移動手段として調整を進めてきたこの魔法が実用化出来たのが、

 ようやっとハルカナムでの出来事だ。

 なので、俺が繋ぐことが出来る街とは・・・。


「ハルカナムとフーリエタマナをここと繋いで、

 あっちの人間と連携をして救出をするぞ。

 タイミングを合わせて向こうの入り口にギルド員を派遣するように手回しは完了しているしな」

「流石ですお兄さん。

 ここで人を溢れさせるわけにもいきませんからね。

 最適な手段だと思います」


 説明がてら残りの2つも解錠して繋げると、

 皆こぞって扉の向こうへと乗り込んでは、

 俺が言っていた街だと判り本作戦の成功をイメージ出来たらしい。


「手段は理解したな。

 最後に敵戦力を伝えるぞー、みんな集まれー」


 この敵戦力は別に調べがついて確定の情報では無く、

 最悪のシナリオとしての敵戦力を推測した内容だ。

 よって、説明よりも敵戦力は少ないかもしれないし、

 多いかもしれない。

 ただし、こういう奴が出る可能性はあるぞという警戒を呼びかけるのが目的だ。


「まず、オベリスクが外周に見える範囲で50本以上。

 これを壊したエリアからモンスターが沸き始める。

 種類は木がトレント類に変化し、地面の植物がアルラウネ種、

 さらに他の魔物が沸く可能性はある。

 通常のモンスターとは違う存在だから、

 無限沸きの可能性は意識しておいてくれ」


 これは俺たち後方と外周班に呼びかけた。

 次に突入班と実働のメリー達だ。


「街に入る班も、街中でモンスターが発生すると思われる。

 すでに死んでしまった人間が瘴気で変化していたり、

 石像が変化していたり、地面からも別のモンスターが発生する可能性がある。

 それと死体の方だが、

 おそらくほとんどが死霊使い(ネクロマンサー)の影響で動くアンデットになることを想定してくれ。

 メリオ、倒し方はわかっているか?」

〔首を飛ばすか、頭を粉砕する?〕

「それが一番無難だと思う。

 流石に感染してって事はないと願いたいが、

 念のために粘膜接触だけは避けてくれ」

〔オッケー!気をつけるようにするよ!〕b


 ただ、これだけではなく最悪の状況も伝えておかなければならない。


「人口は60万程度らしいから、最悪の場合その数が敵戦力と仮定しておいてほしい」

「んな、無茶な・・・」

「覚悟だけで結構ですよ・・・。

 もし本当に起こっていたとしても揺らぐことのないようにお願いします」


 当然、俺だってそこまでではないと信じたいが、

 時間が掛かればその分可能性事態は増大していき、

 最終的には本当にそんな状況になっている事もあるだろう。

 小声ではあるが耳に届いた言葉へ返答を返す前に、

 アルシェに先を越されてしまった。

 しかも、俺が言おうとしたことを口にしている・・・。


「ここまでが敵の一番低い戦力ですね。

 その上に魔神族が計6名いるかもしれません。

 最低でも死霊使い(ネクロマンサー)は関わっているはずなのですが、

 彼ら魔神族は今殺しても意味が無いかもしれないので、

 出会ってしまった場合は救出の邪魔にならないように足止めをお願いします」

「何故倒してはいけないのですか?」


 この質問はミリエステという名の魔法使いだ。

 確か勇者のPTの1人だったはずだ。


「魔神族の正体が把握できていないからです。

 敵に死霊使い(ネクロマンサー)も居ますし、

 下手に殺すと人知れず復活して余計戦況が不明になってしまうので」

「なるほど・・・何か手はないのですか?」

「魂を捕まえる手段を目下模索している最中です。

 残念ながらまだ確立出来ていませんから、今回は足止めが精一杯です。

 あ、でも殺さなければ何をしても良いですよ」


 足を折るでも実験としては有効だと思う。

 その場で回復出来る手段があるのかとかね。

 足止めの戦闘中でもどんな攻撃をしてきたのかをしっかりと見て情報を持ち帰ってくるようにと追加でお願いもした。


「あとはあっちも俺達と同じく空間を利用出来る者がいる。

 そいつの能力次第だけど、前線から魔族も送り込まれている可能性もある。

 人数が1人なら勇者達で対処も出来るかもしれないけど、

 複数人出張ってきたらこの作戦は継続不可能になるから全員撤退すること。

 これは絶対に守ってほしい」

〔なら、誰が王都を救うんですか?〕

「今回の本来の予定は王都の状況確認で、救出作戦はおまけに近い。

 撤退する事態に陥っても1~2ヶ月程度待てば各国が出兵させて国を取り戻してくれる。

 そのときにメリオが参戦するのは自由だよ」

〔わかりました〕


 それまでに生き残っている人はいないだろうけど・・・、

 という言葉は俺の口から出ることはなかった。

 ここまででも敵戦力はお腹いっぱいなのだが、

 まだあるってのが恐ろしいな・・・。


「最後にハルカナムの風の守護精霊が敵に捕らわれている。

 そいつが禍津核で魔物になっていた場合、推定ランクは10以上になる。

 もしも出てきた場合は様子を見てほしい」


 これで敵戦力の説明は終わった。

 オベリスクと瘴気の2段トラップに、

 町民、兵士と死んだ人間を無駄にしない死霊使い(ネクロマンサー)に、

 各1人1人が強力な魔神族と最後にランク10以上の魔物と来ている。

 いやぁー、敵の選手層は厚いですなぁ・・・。

 こっちは即席の姫と精霊使いと勇者と聖女の混成チームだと言うのにな!


 あ!


「忘れてた。

 禍津核のモンスターもどっかに配備されている可能性があるから、

 常に周囲には気を配るように。

 オベリスク影響下でも活動できるように調整されていたらって予想が的中しないことを願おう!」

「隊長ぉー!そういうの最後にスッと入れるの止めてくださいよォ!!」


 皆の心の声を代表したように、

 マリエルの突っ込みが炸裂した。

 いや、本当にうっかり忘れてたんだ・・・。すまんね。


「それにしても良くここまでの情報を集められましたね。

 我々も同じ道を通ってきたし呪いがあったとはいえ、

 同じ情報量を集められるとは思えませんよ。

 それに手回しも素晴らしいです」


 作戦の説明が全て終わると、

 感心するように鼻息をゆっくり吐き出してから勇者一行のひとり、

 剣士のマクライン氏が声を掛けてきた。


「地道な努力の結果ですよ。

 もともとがそういう事を目的とした旅なので、

 その経験と協力者の存在が大きいですね」

「水無月さんの予想でかまわないのですが、

 王都民60万人のうち何割が助けられるとお考えですか?」

「マナポーションの分配状況にも依るけど、

 3割が意識を残していれば良い方じゃ無いかと思う。

 その1割が気絶状態で死んでなければ重畳だろうな」

「合計でも18万人・・・厳しいですね、クレシーダ様」

「トーニャの言うとおりではありますが、

 意識を失っている方々の手当や各街への誘導を考えると、

 私たちは少人数なので、薄情なようですが幸いとも言えます。

 そもそも日に数百人しか看ることの出来ない我々が、

 3人しか居ない状況でその何倍もの人を看ることなど出来ません」

「各町に移動して貰えれば大半はあっちで看護も出来るだろう。

 クレア達はあくまで動かせるように応急処置をするだけでいいよ」


 俺たちの元の計画と言えば、

 王都手前もしくは王都にて勇者と合流し、

 状況調査だけに集中するつもりではあった。

 まぁ、ギルドマスターのパーシバルさんと、

 王族の救出くらいは状況に応じて対応したいとは思っていたさ。


 でも、実際はフーリエタマナにわざわざご足労いただけたうえに、

 治療のエキスパートの神聖教国の聖女とシスター2人までくっついてきた。

 その上で俺の技量を鑑みた結果が今回の救出作戦の立案に繋がった。


「でも、ラフィート王子をハルカナムに置いてきてよかったのでしょうか?」

「それは仕方ありませんよ。

 満足に動けない身体なのですからご自愛いただかないといけませんし、

 メリオ様のPTだってすでに5人いらっしゃるのですから・・・」

「それはそうですが・・・」


 クレアの質問に答えるアルシェ。

 返答をもらったクレアの続く言葉は口から吐き出される事はなかったが、

 言外に俺がボコった結果と、

 その治療で使った魔法の後遺症により身体の機能が一時的に低下しているからだ。

 実験と称した計3回の文字魔法(ワードマジック)のおかげもあって、

 和を乱し足並みを揃えることの出来ない人材を戦線に参加できないようにしたのだが、

 回復と治療の2文字は自然治癒力の上昇が発生し、

 3回目の文字の修復によって、

 彼の身体は治る事と引き替えに栄養から細胞からと様々な必要なモノを強引に徴収され、

 今は栄養失調状態に陥って身体の機能が正常ではないので、

 ベッドとお友達になっていただいている。


「余計なトラブルを出されて皆に迷惑を掛けるくらいなら、

 王族に対しての礼節なんかクソ食らえだっての。

 メリオから聞いた話だと勝手に着いてきたらしいじゃん?」

「勝手にという部分は私もそうは聞いていますが、

 やはり王族として今回の作戦に参加したかったのではないですか?」

「王族なら国は違うけどアルシェがいるからいいよ。

 とにかく5人PTに無理矢理着いていった落ちぶれ王子は脱落したってことでこの話は終わりな。

 いまからそんな事考えられないくらい忙しくなるんだから、

 集中して置いた方がいいぞ、クレア」

「む~、わかりました・・・。

 ひとまずここは引いておきましょう」


 頭のひと撫でで9歳児を黙らせることの出来る俺は、

 傍目からみてロリキラーと映るのだろうか・・・。

 やはー\\\と機嫌の回復するクレアを見つめつつも、

 隣に立つアルシェの動向を気配で探ってみるが、

 今回は何故か何の反応も示さなかった・・・。


 つい昨日まではクレアに嫉妬の視線を送っていたというのに、

 ちょこちょこ2人が話をしている姿は目撃していたけど、

 その会話でいったい何を話していたんだろうか。


 まぁ、クレアにも注意した手前、

 俺もそんなことは気にせずにお役目に集中しますかね。


「じゃあ全員、

 10分後に作戦を開始しますから、

 各自今のうちに作戦概要の再確認と装備の点検などを進めて置いてください!

 今回はよろしくお願いします!」

「「「「「「「「「「応っ!」」」」」」」」」」

いつもお読みいただきありがとうございます

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