†第7章† -09話-[ヴァカめ!!とは言わない方のエクスカリバー]
「私たちの目下の目的はフォレストトーレ王都の現状確認と、
王都に住む民草の救出です。
それに伴って他にも同時進行で進める必要がある行動もあるため、
今回は無理を言って協力者であるセーバーさんにもお越しいただきました」
私の周囲には先の紹介に挙がり会釈をするセーバーさん、
その契約精霊のリュースィちゃん、
聖女クレシーダ様と護衛シスターのトーニャさん、
そして勇者様のお仲間である剣士職のマクラインさんと魔法職のミリエステさんの計6名。
お兄さんはラフィート王子殿下と決闘中で、
その付き合いにアクアちゃん達4人は一緒に行動し、
決闘の審判役としてメリーと護衛シスターのサーニャさん、
勇者様のお仲間のお2人も派遣中。
ゼノウさんチームは現在移動に使用する馬の手配の為別行動中で、
マリエルはセーバーさんのお仲間へライドの指導中です。
「どうしてアルカンシェ様は、
他国の王都に異変が起こっていると気づかれたのですか?」
「元々私たちは破滅について調べを進めつつ異変に繋がる何かを探していました。
その情報収集や事件に関わる中で、
私たちは魔神族とオベリスクという2つのワードが破滅に関わると判断致しました」
「破滅の具体的な内容は神託にもありませんでした。
しかし、オベリスクは確か魔力を分解して無に還す黒柱と伺いましたね」
この場にいる各員はそれぞれが私と聖女様の会話に耳を傾けているのがわかります。
聖女様とセーバーさん以外の3人は無精との契約に成功していますから、
今話している私の言葉が頭から抜け落ちる事はないはずです。
「私の国アスペラルダを旅をしている間に魔神族と名乗る集団がいる事と、
オベリスクが自然魔力を消すことが目的で設置されていると分かり、
私たちはその対策を検討しつつ各国にも調査の手を伸ばしました。
その際に知ったのがアスペラルダだけでなく、
フォレストトーレにもオベリスクが設置されている事実と、
魔神族のひとりが王都で暗躍している可能性が浮上致しました」
「その情報源はどちらですか?」
「ひとつはアスペラルダ王都のギルドマスターであるアインスさんから、
王都のギルドマスターから王都に近づくなと警告があったこと。
ふたつ目がマリーブパリアで集まった情報の人形のような人間の話から接触をしたゼノウさんのパーティの存在です」
「ギルドにも協力者がいるのは驚きですね。
それにゼノウさん・・・先ほどまでいらした男性ですよね?
あの方がどうされたんですか?」
「彼らは現在4人パーティですが、
本来は別にリーダーがいまして、その方はペルクと言いました」
「ペルクというと・・・フランザの精霊の名前ではないですか?」
「その通りですセーバーさん。
ペルクさんは彼らのリーダーであり、大切な人であり、
そして噂の人形でもありました」
「・・・・」
「人形・・・?」
当人達がいない話をするのは非常に心苦しくはありますが、
逆に当人達の前でこの話をするのは私にとっても辛いので、
申し訳ないと思いつつも説明の為に話させていただきます。
ゼノウさん達とは良好な関係を築きつつあるセーバーさんは、
やはり気がつくらしく、ペルクの名にも反応を示しました。
ただ、この時点でセーバーさんは察した様子です。
「あくまでお兄さん・・・護衛隊長の予想ですが、
人形とは死んだ人間を制限付きに生き返らせて私生活を送らせつつ、
各町へ移動させて情報を集める人海戦術のひとつだそうです。
その特徴として声音と表情が比例しない、
魔力が空になっている・・その程度です」
「その情報はペルクという冒険者から得たのでしょうか?」
「正解です、トーニャさん。
ペルクさんの意思はありましたが、
ゼノウさん達のお話を統合した限りでは、
王都で王に呼び出された後から様子がおかしくなり、
いきなりアスペラルダを目指すようになったとの事でした。
当然魔力は0でしたし、
人間は魔力が無くなれば気絶して最後は衰弱死をしますが、
ペルクさんは数ヶ月は意識を失うどころかその状態で生き続けていました」
聖女としての生活を始めてから魔法についても勉強する機会があったのでしょう。
クレシーダ様は生唾を飲み込んで聞き入っていました。
そして問うてきたのです。
「ど、どうして生き続けることが?」
「魔力は精神力、
その精神力に置換できる何かがペルクさんに起こっていると護衛隊長は考えました。
結果、先に予想していた魔神族のひとりである死体を操る死霊使いが、
自身の魂を分け与えて情報を集めるための斥候として冒険者や商人を操っていました。
正体を知られた魂はペルクさんから離れ、
その場でペルクさんはそのまま・・・・」
クレシーダ様は私の話に驚きつつも、
何か心当たりがあるのか思案顔を挟んで再び口を開きました。
「そんな事が起こっていたなんて・・・。
確かその件に関してもアスペラルダ王から報告があったのですが、
教皇様は信憑性がないとして対応をしていなかったはずです」
「それは残念ではありますが仕方が無い理由もあります。
クレシーダ様が神託で言われていた破滅ですが、
その進行に対して私たち生き物は呪いを受けて対抗しづらくなっています」
「呪いですか?そのお話も詳しくお願いします」
この呪いに関しては、
クレシーダ様だけでなく護衛のトーニャさん、
勇者様のお仲間も一歩前に足が出てきました。
ここまで興味を持つと言うことは、
何かしら琴線に触れる思い当たりがあったのでしょうか?
「私たちは[破滅の呪い]と呼んでいますが、
例えばオベリスクであれば野生動物や魔物は本能から逃げ出しますが、
私たち人間は何か黒い柱が建っていると理解はしても、
それに対して無関心なんです。
他にも事態の深刻さに気づいても、
その解決に至るための行動で重要な見落としをしてしまう。
なので、教皇様の対応は責められません」
「黒い柱・・・どこかで、見たような気がするのですが・・・。
トーニャ覚えていますか?」
「・・・確かに何か引っかかりはありますが、
神聖教国でもそれらしき柱は覚えがありません」
「貴方方も覚えはありませんか?」
「実は姫殿下の話を聞いているうちにクレシーダ様と同じように、
見たような気がするんです。
でも・・・駄目です、やっぱり思い出せません・・・」
「私も似たようなもので・・・」
聖女様、トーニャさん、マクラインさんとミリエステさん。
全員が見た気がする、けれどもイメージとして映像を思い出すことが出来ないと言う。
それは私たちが掻き集めた情報との整合性が高い状態でした。
「フーリエタマナに移動していた時に魔法が勝手に解けたと聞いています。
おそらく皆さんはその際にオベリスクを見られたのではないでしょうか?
もしくは、別の場所で見られたのか・・・」
戦慄。
言葉で表すのであればそれが適当ではないかと思える表情で、
4人は頭の中に封印された記憶の一部に焦点を当てて思い出そうと試みている様子。
そのまましばらく待ってみましたが、
結局思い出すことが出来なかったのか落胆した表情へと変化していきました。
「残念ながら霧がかった様に情景は浮かびませんでしたが、
破滅の呪いがどういうものなのかは理解できたと思います」
「それだけでも重畳です。
精霊と契約が出来ればその状態から抜け出すことが出来ますから、
今回私たちはその術を提供させていただきました」
「そういう事だったんですね・・・。
ギルドでも軽くお話を伺いましたが、
あの段階では本当に触りだけの説明だったのですね」
「ひとつひとつ詳しく内容を聞くだけで、
我々とは持っている手札が違うことが改めて理解できましたね。
流石は姫殿下です」
「それは失言ですマクラインさん。
この場にはラフィート王子もいらっしゃるんですよ?
丁度あちらも終わったみたいですしね」
時間にして15分もなかったかと思いますが、
お兄さん達が消えた先の空間が歪んでいき、
そこからお兄さんと勇者様のお仲間に支えられぐったりしているラフィート王子、
そしてメリーとサーニャさんも同じく姿を現して私たちの元へと戻ってきました。
「お疲れ様でした、メリー。いかがでしたか?」
「ご主人様は掠り傷すら負っていませんのでご安心ください」
「やっぱりそうですか・・・。
お三方には説明をしたのですか?」
「はい、その上で傍観をしていただきました」
「そうですか」
支えられるというよりも両脇と両足を抱えられて戻ってきた王子殿下に目をやると、
左腕が血まみれになっており、
骨が折れている人の治療型式の様に氷と影で縛り上げられている様子。
そして右手は手の甲から外向きに折れ曲がっていて、
他の指も親指以外同じように曲がらないはずの方向へと曲がっていて見るに堪えない状態でした。
「お兄さん、何をしたんですか?
王子の腕や手もそうですが、何故頭から足の先までびしょ濡れになっているのですか?」
「ストレス発散がメインの目的だけど、
腕や手は魔法の実験のためで、ずぶ濡れなのは拷問をしたからだ」
決闘前に嗜虐的な瞳をしながら了解を出していたから予想はしていましたけど、
他国の王族を実験体扱いするのは世界中探してもお兄さんくらいなものですよ?
後ほど聞かせていただいた決闘内容ですが、
ラフィート王子から仕掛けた初撃の攻撃を躱して右手の甲に裏拳で攻撃。
その攻撃で骨が砕かれ剣を取り落とし、
受けたことのない痛みで声を上げている間にその場で回転して、
左腕で胸を押し、左足で足を払って転ばせたとのこと。
そのまま精霊達のバインドで動きを抑えられた王子に対して、
ヒールウォーターの水塊で顔を覆い飲み干さなければ息が出来ないようにと拷問を施しながら命乞いを要求。
しかし高慢ちきな態度を崩さない王子に感心しつつ、
指を折っては確認、折っては確認、
と折って減った体力をヒールウォーターの水攻めで回復させるけれど、
折れた骨は快復出来ない為苦しみは続き、
ついに根を上げた瞬間に気絶をしたらしい。
「どうして骨を折れたのですか?
レベル差は40近くあったはずなのですが?」
「いくらなんでもそこまで護衛隊長の攻撃力が高いとは思えないのですが?」
平らになった地面に王子を寝かせつつ、
審判をしていた勇者様のお仲間2人がお兄さんに確認の言葉を掛けています。
当然答えは決まっています。
これはお兄さんにしか為し得る事の出来ない対人戦法ですからね。
「浮遊精霊を退かして鎧を剥いだだけですけど?」
* * * * *
「これは・・・私の魔法でも治療が完了するのに半年は掛かってしまいます。
私の力を知っての事とは思いますが、やり過ぎですよ!水無月さん!」
「??、何を言っているんだクレア」
「え?私の光魔法[再生]の事を知っていて、
ここまでの所行をされたのではないのですか?」
「違うけど・・・。
クレアはヒールでは治すことの出来ない骨折なんかの内面の治療が出来るのか?」
地面に横たえられた兄王子の側に寄り、
傷の深さを確認していたクレアから、
非難と共に驚きの情報がもたらされた。
無属性魔法[ヒール]は外傷の傷を塞ぎ、減った体力の回復を行う魔法だが、
浮遊精霊の防御力を超えた超攻撃による骨折などに関しては、
治療が行われないため、
世界にはそんな理由で引退した冒険者が幾人もいると聞いている。
「ご主人様、聖女様の使う魔法は身体内部の治療も出来ることから、
信者は増える一方だと伺っております。
ただ、神聖教国まで行くことにも距離が問題となり、
辿り着いたとしても一日に対応できる人数が少ないので順番がなかなか回らず浮浪者が増えてしまうのです」
「じゃあなんでクレアはここにいるんだよ」
「それを言いますか、水無月さん?」
あ、俺に会いに来たんだっけ?
でも、なんでかを聞く前にオベリスクの話に移って詳しくは聞いてないはずなんだが?
「まぁ、そっちはそっちの思惑があるんだろうけど、
今回のこれに関しては聖女の力を当てにしてのもんじゃないぞ」
「では、どうするのですか?」
「まぁ、見ててくれ・・・」
全員が俺とクレアの問答に入り込むこと無く進み、
元々の予定であった人体実験をこの場を借りて行うことにした。
もちろん、仲間の為この先の戦闘の為というところに偽りは無い。
偽りはないからこそ、
失敗しても邪魔にしかならない可能性のある人物をわざわざ選んで決闘に乗ったのだ。
指先に魔力を込める。
やがて黒い光が宿り始め、その闇光を確認してから俺は指を中空に踊らせる。
書き上げる文字[回復]は中空に淡い闇光を散らしながらゆらゆらと浮かんでおり、
その文字を手のひらで押し出すと、
その動きに合わせて動き始めたので兄王子の口の中へと誘導する。
気絶はしていたが息はある為、
口に異物が入ったのが理解できたのか眉を寄せて嫌がり顔をしかめるけど、
俺が口をそのまま押さえて吐き出さないようにすると、
やがて飲み込んだのが見て取れた。
「・・・傷が塞がっていく?」
『回復だとヒールと同じ効果しか出ませんね』
『これじゃあくあでじゅうぶんだよ~』
『骨は依然として折れたままですわー!』
『だけど効果はヒールよりも上、です!』
「では、別の字を宛がわないといけませんね」
「隊長、他の字はないんですか?」
「大丈夫だ。
俺の世界の字は色々と意味が違うものがいくつもあるから、
このまま続けて試していこう」
驚く一同は声も出さなかったが、
その声を代表してか一番先頭で俺の文字魔法を目の当たりにしたクレアが驚きの言葉を漏らす。
精霊達とうちの女性陣の感想を聞いて、
他の字も色々と試すことにした。
簡単に骨を接骨する言葉は[骨新生][骨代謝]の2ワードと記憶しているが、
文字数の数だけ持って行かれる魔力も大きくなるから、
出来ればほどほどの効果で2文字で対応したい。
その後も[快復]を飲ませると視覚的には何が起きたのかわからず、
クレアとシスターズに確認させると、
弱っていた臓物の動きが元に戻っていると言っていた事から、
病気などの治療が出来るらしい。
魔法で言えば状態異常回復の[キュア][リカヴァー]と似た文字みたいだな。
「[治療]は骨を元の位置に戻すだけで接骨まではいかないから、
効果から見ればクレアの[再生]と同じ。
おそらく[再生]も治療と同じ効果になってしまうんだろうな・・・。
なら、これかな」
再び指先で輝く闇光が文字を書き出していき、
浮かび上がる文字が完成する。
その文字をいままでと同じように口に含ませれば、
何度も飲み込んだせいか無意識に抵抗なく飲み込む兄王子。
ものの数回の実験で完全なモルモットに成り下がったようだ。
パキパキパキ・・・バキバキ・・・ポキ・ポキポキ・・・
飲み込んでからすぐに明後日の方向へと向いていた右手の指達が、
折れたときと似た音を発しながらもビクビクピクピクと動き始めた。
「・・・キモイな」
「お兄さんひどいです」
「でもアルシェだって王子との決闘がこうなるってわかってたのに止めなかっただろ?
同じ王族としてひどいんじゃないか?」
「以前から顔見知りではありますから、
ラフィート王子の性格の悪さというか傲慢さは理解していました。
こんなときに何を言っているのかと私も頭に来ていましたので・・・」
アルシェの雑談中も兄王子の壊れた身体の[修復]は進んでいき、
他にも知らぬ間に捻っていたのか足首もゴキゴキと左右に勝手に振られ、
首も何故か右にピクピクと微かに動いていて、
直視するとやはり誰もが俺と同じ感想を抱くらしい。
今まで試していた魔法の効果から俺の行為が治療の為の行いだと理解して、
文句も言わずに兄王子の奇怪な動きから目や顔を反らす者が続出するなか、
徐々に兄王子の修復ダンスも落ち着きを取り戻していった。
「う、うぅ・・・ここは・・・」
「王子殿下、大丈夫ですか?」
「水無月殿との決闘はすでに終わっています。
現在は治療も終わったようですよ、手は動かせますか?」
「・・・あぁ、大丈夫だ。ちゃんと動かせる。
治療は聖女クレシーダだろう?噂以上の魔法だ、感謝する」
「あ、いえ。治療は私ではないんです・・・」
「は?だが、あれほど損傷を回復できる者が他にいるとは思えn・・・」
意識を取り戻した兄王子へと駆け寄る面々。
声を掛けられてから右手と左手を交互に動かし握りを数度繰り返して返事を返す。
どうやら、神経に後遺症が残ったりはしないらしいな。
意識がはっきりとしてきて頭の回転も戻ったのか、
クレアの姿を探して周囲を見回し見つけた聖女へと尊大な態度で感謝を述べる。
自分ではないと申告するクレアの視線は自身の横に立つ人物へと向けられ、
全員がその視線を追っていくと自然と兄王子の視線も俺へと収束した。
「ヒィッ!お、おあ、おまえっ!
貴様っ!よくも卑怯な手でやってくれたなっ!」
青ざめた表情と腰を抜かした状態で俺に指を向けて罵倒する兄王子。
「はぁ?お前・・・?貴様・・・?
誰に向けて言ってるか理解してんのか落ちぶれ王子。お”ぉ”?」
「ヒッ!ヒィッ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「お前は誰だ?」
「糞虫です腐ったリンゴです生きる価値の無い落ちぶれ王子です!」
「今後はどう生きていくんだ?」
「余計なことは言わず行わず皆様のご迷惑にならないよう隅に寄って生きていきます!」
「よし、良い返事だ」
「素晴らしい調教です、ご主人様」
『流石です、お父さま』
「やり過ぎです、お兄さん!
王子の腐った精神だけで無く、人間の尊厳も折れてしまっているではありませんかっ!」
流石の妹にも詰め寄られるぐらいに追い詰めすぎたらしい。
この世界は浮遊精霊の鎧のおかげで痛みというものに慣れていない。
だからこそ、ただでさえ戦闘技術はないのにレベルばかり接待で上がってしまい、
無駄に伸びた鼻を持つ兄王子を折るのは容易かった。
決闘で負けた様子を見ていた面々だけでなく、
いや、その様子を見ていなかったからこそ、
兄王子が情けなく何やら懇願するかのような姿を目にし、
青ざめた表情で固まる面々。
しかし俺はこの後、妹にめちゃくちゃ説教された。
* * * * *
俺とアルシェの不思議な関係を全員が悟った頃には、
勇者ビッチもエクスカリバーを目覚めさせる事に成功し、
俺が怒られている裏では光精霊エクスカリバーとの対話を続けていた。
「なんていうか、勇者はマイペースだな」
「隊長がそれを言いますかぁ?あいたっ!」
前方から歩いて寄ってくる勇者と、
人の姿を取ったエクスカリバーに聞こえないうちに身内の無駄口を黙らせる。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
『初めまして幼き人間共、我がエクスカリバーだ』
「エクスカリバー様、
言葉遣いが少しおかしい気がしますが大丈夫でしょうか?」
『問題は無い。
長き眠りにより現代との差を埋める努力中なのです』
聖剣エクスカリバーの精霊体は、
法衣のような衣服を纏う妙齢の女性だった。
30歳に届いているかどうかといった見た目ではあるが、
セリア先生が20代半ばの見た目をしていることと、
長い間聖剣として眠りに付いていた事を考えれば、
300歳ですキャピッ♪とか言われても対して驚かない。
「・・・」
『なんでこちらを見るのですか、宗八?』
「いや、アニマは初めから現代寄りだったなぁと思って」
『眷属に親しまれる王でしたからね!そんなに褒めないでください』
『いえ、褒めているのでは無く、
古い王ならもっと威厳がほしかったなぁとお父さまは言いたいのですよ』
『なんですって!言外に隠しきれない王特有の空気感でわかるの、です!』
『どうだろうね~』
『親しみやすくていいのではないですのー?』
エクスカリバーは初めまして幼き人間共と言ったんだ。
ならさ、アニマには『ゴキゲン麗しゅう、くだらねぇ人間どもよ!』くらいは言ってほしかった。
という感想を心に仕舞い、改めて挨拶をしよう。
「改めて、水無月宗八と申します。
この娘らの主人をしています」
「初めまして、エクスカリバー様。
私はアルカンシェ=シヴァ=アスペラルダと申します。
水無月宗八の妹をしております、よろしくおねがいします」
『長女アクアーリィ~!』
『次女クーデルカです』
『三女ニルチッイですわー!』
『四女ではないですが、私は無精の王アニマ、です!』
「あ、姫様の護衛をしてますマリエルと言います」
「侍女をしております、メリー=ソルヴァと申します。
お見知りおきを」
聖剣と勇者の契約場面という事で、
ひとまず精霊に一番詳しいと位置づけされた俺とアルシェ達以外は、
少し遠目にこちらの状況を見守る姿勢で事の終わりを待っている。
『うむ、よろしく頼む。
して、そちらの小さい無精は王であると仰られましたが、
本物だろうか?』
『確かに身体は縮みましたが中身はアニマそのもの、です!』
「まぁ、信じられないのも仕方ありませんが、
一応無精の能力を解放した実績もありますし本物と仮定して良いかと思いますよ?」
『仮定とはなんですか!本物、です!』
『さようですか・・・』
そういうと高身長のエクスカリバーは身体を曲げ、跪き、
アニマに対して頭を垂らして敬服の意を示す。
『恐れながらご挨拶が遅れた事、
並びに先ほどまでの無遠慮な態度お許しくださいませ。
無精の王アニマ様におかれましては、
ようやくのご復活お喜び申し上げます』
『うむ、頭を上げよエクスカリバー。
確かに復活はしましたが、まだまだ守護の力は以前に比べ遠く及びません。
今は勇者の契約精霊として率先して仲間を助けてください』
『アニマ様のご命令、しかと勤めさせていただきます』
目を伏したまま立ち上げるエクスカリバーを物珍しげに繁々と眺めていると、
何やら熱い視線を感じたので何の気なしに見てみる。
そこにはどや顔をして無い胸を反らすアニマ様が、
自分の地位の高さを誇って俺にアピールしている様子を捉えてしまった。
目が合って数秒どうしようかと思ったけれど、
これ以上調子に乗られるのも面倒なので見なかった事にしてエクスカリバーへと話しかける。
「エクスカリバー様も上位精霊で属性も違うのに、
そこまで敬うのは何故ですか?」
『アニマ様はいまある世界の地盤を固めた方だ。
属性の垣根を越えても尚尊敬に値する精霊ですから』
どやぁ!
「でも、今はうちの娘の一員ですから、
教育方針としてはあまりひとりの地位を高くするのは反対なので、
今後は年相応の扱いをお願いします」
『ちょっ!?』
『アニマ様の主人がそう言うならば、
部外者の私が乱すわけにもいきませんね』
『あのっ!?』
『影ながら成長を見守らせていただきます。
しっかりと立派な精霊へと導いて差し上げるがよい』
「お任せください」
『ちょちょちょ、ちょっと!宗八!?
せっかく良い感じに偉い立場を確立出来そうだったのに、
なんで邪魔をするのですかぁー!』
「いや、姉妹でそういうのは教育上良くないし、
育てる側としては元気に育ってくれれば高い地位なんていらないかなぁーって」
『NO-------!!!!』
自分の足場が出来たと思ったらいきなり壊されどん底へと落ちたアニマは、
姉妹の輪に囲まれて慰められている。
その間にエクスカリバーにも改めて、
勇者と契約をしてほしい旨を伝えた。
『勇者と契約することはかまわん。
しかし、私は聖剣と呼ばれはしているが、
勇者専用の武器というわけではないぞ?』
「「「「え?」」」」
『もともと私は変わった精霊であったから、
早い段階から武器の姿を取っていたのだ。
その間は契約などはせず陽の光に含まれる微量の光属性の魔力を糧にして、
短剣から徐々に成長しただけの武器だ。
加階して姿を変える武器、魔力を吸い取って強力な攻撃が出来る武器。
そんな話が勝手にひとり歩きして聖剣として崇められるようになっただけなのです』
つまり、今の俺が使う魔法剣のような攻撃を使用者を選ばずに使えたってわけで、
同じく武器加階もエクスカリバーの進化という形で実行され、
高ランク高威力武器としてのエクスカリバーが完成したって事か。
そりゃ、そこまで不思議で強力な武器があれば、
一点物だし神聖視されても仕方が無いかとは思う。
「って事は、勇者の武器というレッテルも、
長い年月の中で特別を強調するために作られた伝承なんだろうな」
「これを知ったらクレシーダ様はショックでしょうね」
「聖女様だけでなく、
神聖教国事態を揺るがしかねない重大な内容です。
この場で封をするのが賢明かと思われます」
「メリーの言う通りにしましょうか・・・。
マリエルも他言は無用ですからね」
「了解です、姫様!私はすぐに忘れるのでだいじょうぶです!」
「勇者様もこの件は胸に仕舞っておいてくださいね」
「くぁwせdrftgyふじこlp!」b
衝撃の事実は流出させること無くここで封殺することで解決の目をみた。
詳しく聞けば、
進化のベクトルが話をするために人型を取ったアクア達と違い、
エクスカリバーのベクトルは武器として進化するという、
精霊のなかでも異質以外の何者でもない道を歩んできたらしい。
いままでは契約が無くても武器として使用される際は、
敵を倒すという意思が同調すれば誰でもシンクロ可能で、
使用者の意思を汲んで自身を強化する[エンハンスウェポン]を無詠唱で使い、
連射は出来ないが一線と同質の魔力砲を撃つことも出来るという。
そう聞くと、
話に出てくるような勇者たちが土壇場で強くなる理由にも、
そういう武器関係でのブーストが存在するのかもしれないな。
『今後の糧は契約と同時に祝福も掛ける故餓死はせぬだろう。
しかし、ひとつ解せぬ事がありまして、
我はさきほど目覚めたばかりなのだが、
妙に陰の気が身体にこびり付いています。
これは何が起こったのでしょうか?』
「それは俺の指示の下、
うちの次女が貴女の意識を浮上させるために、
闇魔法を公使したからでしょう」
『そうですか。
小さいのになかなか芯に届く攻撃であったぞ小さき闇精よ』
『・・恐縮です、エクスカリバー様』
嫌いとまではいかずとも苦手意識が種族柄出てしまうクーは、
エクスカリバーに褒められて複雑な気持ちを抱いたようだが、
精霊としては目上に当たる為、丁寧な返答を選択した。
『では、メリオよ。
契約の祝詞を捧げますので受け入れてください』
「くぁwせdrftgyふじこlp」
メリオとは勇者[プルメリオ=ブラトコビッチ]氏の愛称らしい。
まぁ、勇者という役柄に抜擢はされたけど、
彼も俺と同じで剣を振るったりするのはこの世界に来てからと聞いているし、
勇者と呼び続けるのはあまり精神衛生上良くはないよな。
最悪それが戦犯の代名詞みたいな扱いをされる状況にはしたくないものだ。
勇者よりも身長のあるエクスカリバーが何かを払うように腕を振るうと、
2人の足下に魔法陣が展開し、風の流れではなく光属性の魔力の流れが上昇していき、
2人の衣服や髪を揺らす。
特にエクスカリバーはプラチナブロンドで、
モデル体型で色白。
ビッチ氏は褐色肌でサッカーが得意そうな顔つきをしているが、
格好は勇者をイメージしたような装備をしているため、
本当にそれっぽい感じになっている。
今改めて俺は実感している。
あ~、本当にここは異世界なんだなぁって・・・。
『《我、光精エクスは彼の者プルメリオへの祝福と合力を誓う》』
詠唱はたったそれだけだった・・・。
魔法陣の縁をなぞるように光の柱は発生した、
しかしそれだけで、俺たちの時のような花が開く演出は発生しないまま柱は消えていく。
「え?終わりですか?」
『あぁ。これでメリオは私の加護を受け取り、
私も彼に力を貸すことが出来るようになります』
「やっぱり普通の精霊契約とお兄さんの精霊契約は違うんですね」
『私も普通の精霊とは違うので、本来の方法というのはわからぬ。
私は武器として振るう者の意思を受け取りそれを成す為に力を貸すだけだ』
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「そうですね、これで破滅の呪いは防げるはずなので、
今後の旅ではもっとお忙しくなるかと思います。
でも、先に王都へ行かなければなりませんけど・・・」
このまま準備の最終段階に入りそうだったので、
俺の中に生まれていた新たな疑問をエクスカリバーに確認をする。
「すみません。
先ほどの契約時に貴女は自らをエクスと名乗りましたが、
エクスカリバーは別名なのですか?」
『我がエクスカリバーと呼ばれて長い故すっかり忘れておったわ。
私の名はエクス、その片割れとして存在していた精霊がおりまして、
名をカリバーと言います』
「これも新事実ですね。
私も気にはなりましたがエクスカリバーが正式な名前で、
エクスが愛称かと思っていました」
「では、エクス様。
片割れのカリバーの姿もまた武具なのではないですか?
例えば、鞘とか・・・」
「くぁwせdrftgyふじこlpっ!」
言葉はわからずとも勇者ビッチ、
改め、勇者メリオも俺の言わんとしている事を理解したらしい。
聖剣の伝説はいくつもあるが、
エクスカリバーの本体というか、
もっとも重要な部分として鞘という話は有名なものだ。
「・・・」
「隊長、思案に入っちゃいましたね」
「そうね、少し待ちましょうか。
勇者様、勇者様も心当たりがある様子でしたがどういうものなのでしょうか?」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「再生能力と大剣化ですか・・・、
そう聞くと武器としては2面性も持ち、尚且つ戦闘継続能力もあがりますから、
どうにかして手に入れたい所ですね。
エクス様、カリバー様の正体について教えていただけますか?」
『カリバーは闇精です。
偶々骨董品として質に入った時に丁度良い鞘として私が彼に納まったのが出会いでした。
それ以降はしばらく購入者を転々としながらも常に一緒に居ったが、
とある所有者の際、カリバーはどこかへと消えてしまった』
「たぶん、所有者がどこかに売ってしまったんだろうな」
「お兄さん、戻ってきたんですね」
出会いの話が若干エロかったなんて口には出来ないが、
その辺から話は耳に届いていた。
再生能力は聞いたことがあるし、
鞘自体の耐久度が高いことから納めた状態で大剣として使うことも可能だろうが、
今回の内容として特に気になったのは鞘が闇精というところだ。
「おそらくだが、鞘に納まった状態で魔力を凝縮、
抜いて最初の1撃が超威力の攻撃になるってのが真骨頂じゃないですか?」
『然り。その一撃は山をも崩すと言われていました。
それもカリバーが居なければもう放つことも出来ませんが・・』
イメージとしては[グランドリオン]がしっくり来るかな。
あれも2身1体の強力な武器だったし、
魔王討伐とは別口とはいえ今後の旅の目標として、
行方不明となっているカリバーの情報をなんとか発掘する事にも俺たちは協力せざるを得ないだろう。
「とりあえず、カリバー様についてはこちらも捜索をさせていただきます。
この後は勇者とエクス様の調整をしてから・・・ステータス!」
時間を確認すればすでに日没間近で、
1時間もすれば街の門扉も閉まってしまうほど1日を消費していた。
出来れば今日中に作戦を始めたかったが、
これから始めたとしても途中で夜になってしまって、
考えているフォローも動きもうまくいかないのは明白だ。
「仕方ないか。
勇者、明日の朝からフォレストトーレ王都の救出作戦を始めようと思う。
今日は時間の許す限りエクスカリバーの使い方を試して、
夜のうちに作戦も伝える。
そして、鋭気を養って起きたら勇者の魔法で移動する。
問題はあるか?」
言葉は伝わらない為アルシェの翻訳が仲介に入るが、
俺の真剣な声音と眼差し、そしてアルシェの言葉を聞いて、
勇者は確かに頷いてくれた。
さぁ、ようやっと準備が整ったぞ!
今まで集めた情報や王都の様子から作戦の変更は多少発生するだろうが、
ここまで来たらやってやるしかないだろう。
下準備もしてサポートも万全に整えている。
今回は戦力として期待が出来る勇者一行と合流出来ているし、
治癒が使える聖女が来たことも都合が良い。
もしかしたら俺の異世界生活のなかで一番の山場かもしれないし、
気合いを入れて望もうじゃないかっ!
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