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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第07章 -平和な工芸都市フーリエタマナ編-

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†第7章† -07話-[契約・加階・限界]

「これがエェェ~クスキャァ~リヴァァ~か・・・、かっちょいい・・」

「うざい・・・」

『確かに精霊の気配はする、です!

 でも魔力をほとんど感じないところから、

 存在の劣化を抑えるために長い眠りについているという感じ、です!』


 勇者君から受け取ったエクスカリバーをテーブルの上に置いて観察する。

 装飾は綺麗なもんで、

 イメージ通りの金色で細身の直剣ではあるが、

 やはり神々しさというか、触りがたいオーラを感じる。

 あれ?いま誰かうざいって言わなかった?誰だ?止めろ。


 俺の頭の上に乗ったままのアニマが注視をして、

 現在のエクスカリバーの状態を診断してくれた。


「では、本当に精霊が剣へと姿を変えているのですかっ!?」

「クレアたちは知らなかったのか?」

「そんな話は聞いたこともありませんでしたけど、

 長い歴史の中で消失してしまった文献もあると聞いていますから、

 その中にあったのかもしれません」

「同じく」

「知りません」


 驚くアルシェたちを横目に捉えながらも、

 一番知っていそうな神聖教国組に確認をしてみたが、

 これも都合悪く失伝してしまっているらしかった。


「お前ら何の精霊か分かるか?」

『すいせいじゃない!』

『クーは嫌いです!』

『なんか眩しくて近づきたくないですわー!』

『クーデルカが嫌っているなら光精霊で確定、です!』

「って事は、魔力を込めることが出来るのは聖女のクレアだけか・・・」

「えぇ・・・私に出来ますか?」

「はじめは皆そう言うんだ。

 ここに先輩が2人もいるから教わると良い」


 うちの精霊たちから総スカンを食らった聖剣エクスカリバー。

 彼女たちの意見から勇者の武器らしく光属性の武器みたいだけど、

 魔力を込める作業を勇者自らが行えないとは情けない。


 しかし、順番があるのかと冷静に考えれば、

 この場には聖剣を長らく保管していた神聖教国の聖女様がいるのだ。

 しかも都合よく光精霊の加護も持って。

 おそらく失伝した聖女の役目のひとつに、

 聖剣に魔力を注ぎ続けるという仕事があったんじゃないかと思う。


 量産型精霊使いの実験体、もとい、

 精霊使いの先輩であるセーバーとゼノウにクレアの指導に当たらせようかと思ったんだが、

 首を横に降って嫌々してるし、

 口もぱくぱくと嫌々言ってるし、

 腕も胸元でクロスさせて嫌々とアピールしている。

 なんでだよ?


「確かにその台詞を俺たちは言ったかもしれんがな」

「流石ににわか精霊使いの俺たちが聖女様の指導役というのは無理がある」


 歳は違えども仲の良いリーダー2人は交互に意見を伝えてきた。


「魔力を込めるのなんて今じゃキュッ!パッ!だろ?」

「「いやいやいやいや」」


 再びトリプル嫌々を発揮して否定をする2人に嘆息を吐いて、

 メリーとアルシェが仕方なしといった表情で助け船を出す。


「懐いても居るようですし、ご主人様が担当するのが早そうですね」

「そうね。

 ではお兄さんは聖女様たちのお相手を。

 私たちは勇者様たちに精霊契約を伝えますので、

 一旦また分かれましょう」

「しゃあないか・・・、

 あ、勇者に聞いてほしいんだけど、さっきの場所まですぐに移動することは可能か?」

「くぁwせdrftgyふじこlp」b

「可能なようです。光魔法での移動は一瞬だと」

「おし!」


 町の外での気配が一瞬しか察知できなかったのは、

 移動に使う時間も一瞬だからだったのだろう。

 それであれば、さっさと準備をこさえて勇者に真・聖剣を持たせて、

 王都に突っ込ませている間に、

 俺たちがオベリスクの掃除と町民&王族の救出に動く為の算段に兆しが見える。


「そうだ!ニル、お前ここで進化しろ」

『えぇええええええー!いきなりですわー!』

「眠くは無いかもしれないけどな、

 期間的にはもう進化できるはずなんだよ。

 お前が進化できれば精霊纏(エレメンタライズ)も出来るだろうし、

 お前にもアクアやクーのようなオプションが手に入るぞ!(たぶんな)」

『あれ!あれニルも貰えるですか-!

 やるー!やるですよー!さぁそうはち、加階の準備ですわー!』


 ニルと契約したのは風の国初めての町である[マリーブパリア]。

 あれが土の月の末頃だったはずだから、ハルカナムから水の月。

 そして最近アルシェの誕生日が過ぎた時点で水の月の初旬は過ぎた事になるので、

 その計算通りならニルと契約をしてから1ヶ月が経っている事になる。


 ニルの姉2人もおおよそ1ヶ月で加階を果たしたし、

 クーと同じくニルにも英才教育を施してきたため、

 進化に必要な条件は満たされていると思われる。


「先にクレアたちに指導するから、

 ちょっと待ってる間にどんな姿に加階したいか考えておけよ」

『かしこまりですわー!』

「よしっ!待たせたなおまいら!

 さっそく精霊使いによる精霊使いになるための指導を始める!」

「・・いきなりテンション高い」

「・・・そのテンションうざい」

「うっ・・・!」


 止めろ、その言葉はオタクに効く!

 ってか、さっき聞こえたうざいって言ったのお前か・・!

 胸に走る悲しい幻痛を与えるシスターズの辛辣な言葉を耐えるように、

 俺は胸を押さえる。

 その隣でおろおろと、

 心配だけどどうすればいいのか分からない!

 という顔と動きをしたクレアが視界に入り、

 俺は現実に戻ってきた。


「はぁ・・・とりあえず2人にはこれを。

 クレアは予定通りにエクスカリバーを握ってくれ」

「はい!」


 素直で良い子なクレアと違い、

 シスターズはどうにも俺との距離感を計りかねているのか、

 警戒を全く下げようとしてくれない。

 手のひらに転がるスライムの核を眺めながら、揃ってアイテムの正体を確認してくる。


「これは?」

「なんですか?」

「それはスライムの核です。

 精霊使いになる為のチートアイテムですよ」

「チート?」

「インチキ臭ぇって意味です。

 それぞれ手にするアイテムにこれから魔力を込めてもらいますが、

 クレアは光属性の魔力を込めてもらう必要があるから、

 光魔法の使用時のイメージを持ったまま魔力を流してもらう」


 コテンと首を曲げて頭にクエスチョンが浮かぶのが見えるような困惑顔をするクレア。

 そして、真似をして可愛い子振ろうとするシスターズ。

 クルルクス姉妹の方は無属性のヒールでいいが、

 クレアは一風変わった魔力を込めてもらわなければならない。


「例えばさっき部屋に使っていた魔法は?」

「ライトミラージュの事ですか?」

「ライトミラージュって言うのか。

 その魔法を使うときに魔力が放出されてから発動しているのはわかるか?」

「すみません、意識したことが無いので・・・」

「なら、ヒールを使ってみろ」

「わかりました。《ヒール》」


 クレアの詠唱と共にうっすらと光り始める手のひら。

 その手を患部に当てる事によって、

 表面的な傷口は塞がっていく。

 さらに怪我を負っていない場合も、

 体力が減っている状態で体を触りながら唱えれば体力が一瞬である程度回復する。


「いま手のひらから魔力が漏れていると思うが、

 暖かな感覚が手全体から感じることは出来るか?」

「・・・・はい、自分の手を包むように暖かな何かを感じます」

「それが魔力だ。

 いまは魔法を使っているけど、今度はヒールなしでその暖かなものをイメージしてみろ」

「・・・・・・、・・・・暖かくなってきました」

「その状態で指先を集中して見てみると、

 自分の皮膚の上を何か白い膜が覆っているのが見えると思うが、どうだ?」

「・・・・確かに、少し見えづらいですけどあります。

 ただ、膜では無くて煙みたいに安定しません」


 つまり魔力を放出することは出来ても、

 制御自体はまだまだ素人ということだな。

 この制御がしっかりと出来るようになれば、

 キュッ!パッ!で核に魔力を込めることも出来るようになる。


「あの、私たちも同じで」

「煙みたいにゆらゆらしてます」


 わざわざ挙手して勝手に盗み聞きして試していた魔力放出の報告をするシスターズ。

 少し声の張りに変化を感じたのは、

 自分の知らない知識を教えてもらっているという向上心の表れだろうか?

 もう、ウザイとか言われないと良いなぁ・・・。


「お2人はその状態でかまわないので、

 スライムの核を握り込んだまま集中してその状態を維持してください」

「「わかりました」」

「クレアはさっきのヒールを光魔法に変えて、

 魔力の放出がどんなものなのか感じ取ってみてくれ。

 属性によって感覚に違いが出るから、

 こればっかりは俺も教えられん」

「はい。ちなみに他の属性だとどんな感じですか?」


 素直に俺の指示に従って同じ動作をしながら魔力を込める作業に集中し出す姉妹。

 その後にクレアへと次の指示を伝えると、

 返事と質問をしながら自然と上目遣いになる幼女。


「人間は裏属性に適性がある。

 だから水属性ではなく氷属性をイメージすれば冷気を感じるし、

 風属性も裏の雷属性をイメージすればチリチリとした痺れを感じる。

 ただ、闇属性は裏も表も扱いが難しいから・・・どういえばいいのかな?

 内側に吸い込まれていくような・・・そんな感じだな」

「属性によっていろいろと違うんですね。

 ありがとうございました、参考にさせていただきます」

「光属性の魔力が放出できるようになったらエクスカリバーに注いでくれ。

 聖剣が覚醒して精霊の姿を取るか、

 剣の状態で喋らせる事が出来れば勇者と契約をさせる事が出来る」

「はい、勇者様のためにも頑張ります!」

「おう、頑張れ!」


 やる気を漲らせるクレアの頭を再度撫でてから、

 こちらもニルの進化の準備に取りかかろうと宗八箱を影から取り出す。

 うちの精霊のアクア、クー、アニマとセーバーの所のリュースィが集まって、

 雑談?をしているのは気配で感じているが、

 アルシェたち勇者グループの方がやけに静かなのが気になり、

 箱をその場に置いて近寄っていく。


「アルシェ、勇者たちには伝えたか?」

「伝えた、問題ない」b

「宗八も文句ない伝え方をしたからな」b


 アルシェに確認をしたのに勝手に答える男が2人。

 こいつらの自信の正体が意味不明すぎて頭が追いつかない。

 そういえば、リュースィが精霊たちの元へ遅れて駆け寄って行っていた気がするな。


「セーバー、ゼノウ。あんたら、リュースィとウーノに魔法を使わせましたね?」

「・・・ほら、お兄さんの目はごまかせないと言ったでは無いですか」

「アルカンシェ様のご慧眼、流石でございます」


 俺の推理に口を割るアルシェ。

 そのアルシェは事前にバレる事を示唆していたらしく、

 アルシェの言葉にゼノウが謎の敬服をしている。


「ご主人様、良くお分かりになりましたね」

「だってここ静かなんだもん。

 せめてアルシェの声がしていてもおかしくないはずなのに、

 全く聞こえてこないし、

 さっきリュースィが遅れてあっちに合流したのも気になってな。

 で?俺の説明を風魔法を使って盗み聞きしたんだろ?」


 ピキピキ。

 今後もこんな感じで教える機会は増えるだろうから、

 試験体としてゼノウとセーバーには説明が出来るようにと機会を与えたというのに、

 まさかの魔法を使って不正を働くとは・・・。


 しかし今は時間が1分1秒惜しいため、

 この場での説教は飲み込んで、睨み付ける視線を無理矢理2人から剥がして、

 精霊グループに合流をしたリュースィに向けた。


「リュースィ、核は体に馴染んだか?」

『私ですかぁ~?そうですねぇ~・・・問題ないです~』

「セーバー、シンクロは出来るようになりましたか?」

「い、いや・・・まだだけど・・・、何?」

「シンクロが出来るなら専用の核を作ってしまおうかと思っただけです。

 核を交換すれば好きに魔法を使えるようになりますし」

『シンクロですかぁ~?どうすればいいんですかぁ~?』


 トテテと俺の足下に駆けてくるリュースィ。

 よくよく見れば足も人間のものではなく、

 途中からは鳥類のつま先になっている。

 その足でよく走ったり出来るもんだな。


 身長は人間の子供で言うところの3~4歳程度なので、

 俺がしゃがみ込めば目線をほぼほぼ同じ高さに出来るため、

 俺は腰を屈めることにした。


「感覚を覚えれば簡単なんだ。

 丁度同じ風精のニルも居るし、俺たちと一緒にシンクロしてみようか」

『わかりましたわぁ~!セーバーもがんばりましょ~!』

「なんか俺抜きで勝手に話が進んでるんだが・・・」

「精霊使って仕事を手抜きする人には別の仕事を割り振るのが定石ですからね。

 倉庫整理を指示されないだけマシだと思ってください」

「倉庫ってどこのだよ・・・」

「ニル、おいで。お前の進化の前にちょっと手伝ってくれ!」


 トテテ~とセーバーの元へと走って行くリュースィの決定に、

 セーバーは異を唱えたりはしないものの理不尽さを感じているらしく軽く愚痴る。

 俺の世界の社会に出たらな、

 使えない奴は雑用を押しつけられるんだぞ?気をつけろよセーバー。


『もぅ!せっかく加階した後の姿を想像して楽しんでいましたのにー!』

「これが終わったらお前の進化もするからさ、ちょっと手伝ってくれや」

『・・・仕方ないですわねー。本当にちょっとだけですわよー?

 で、何をすればいいんですのー?』


 集中する勇者グループの指導はアルシェたちに任せて、

 俺とセーバー、リュースィとニルの4人はその場を少し離れて部屋の隅へと移動する。


「俺、セーバー、ニル、リュースィの順で手を繋いで円を作ります。

 俺とニルがシンクロしたら俺たちの手からシンクロのオーラが2人に流れますので、

 そのオーラをしっかりと感じ取ってください」

「了解した」

『わかりましたわぁ~』


 4人で互いの相棒が交互の状態で手を繋ぎ、

 目で確認をすると3人ともコクリと頷いたのを確認する。


「(いくぞ、ニル)」

『(いつでもどうぞー)』

「『《シンクロ!》』」


 俺とニルの体から翠雷(すいらい)のオーラが吹き上がり始め、

 繋ぐ手からセーバーとリュースィの両名を徐々に浸食していく。

 しかし、その進行は肘辺りで止まってしまい、

 以降は2人の感性次第になった。



 * * * * *

 それから1時間が経過し、

 およそ40分前にはセーバーとリュースィもシンクロを成功させた。

 核の創り換えも滞りなく完了したが、

 セーバーの精霊使いとしての質はまだ低い事と、

 魔力の操作も拙いことから、核の精製にはリュースィがほぼ1人で行った。


 専用核の精製には、

 精霊使いと精霊の絆が必要不可欠だ。

 お互いの意識を共有する深層意識の空間にて行う作業には、

 互いの魔力を混ぜ合わせ、その魔力を器として用意した杯に注いでいかなければならない。


 今回、リュースィはセーバーの魔力色のイメージと魔力抽出、

 さらにセーバーがイメージする魔力色をした自分の魔力注入、

 そして杯のイメージと魔力を混ぜ合わせる作業と注ぎ込む作業。

 およそ9割を精霊に助けられる形で事を成したが、

 流石に進化が進んだリュースィも1人でこなすのは一苦労だった様だ。


 自分の核を創るために一度核を抜いたので、

 鳥の姿に戻り力も落ちた状態でリュースィはよく頑張った。

 本来はもう少し時間をおいてセーバーの資質が上がるのを待つべきだったんだろうが、

 事が事なので無理をさせてしまった・・・。


 そして・・・。


『加階を経て、新生ニルの登場ですわー!』

「こら、嬉しいのはわかるから大人しくしろって!

 こっちゃ来い」


 手乗りサイズの妖精をイメージした姿だったニルチッイは、

 無事に現在のアクアやクーと同じ大きさに進化を果たし、

 衣装も少しだけ変わりはしたが、

 大きな変化としてはエルフのような耳が付いていた場所に、

 胸元近くまで垂れている獣耳へと変化していた。

 そして雷を想起させるお尻まで伸びていたブロンズヘアーは、

 大好きなクーを真似たのか、背中で大きく2つに分かれて先端が結ばれて細くなっていた。

 その髪の間には小さな白い毛玉に見える尻尾がついている。


「お前らは先達が好きだねぇ。今度はウサギだし・・・」

『いやぁ~、照れますなぁ~』

『クーはお姉さまが好きですから』

『ニルもクー姉さまが好きですわー!見てくださいまし、この立派な耳と尻尾ー!』


 そして続きを期待して俺も含めて全員で一点を見つめる。


『ワタクシァ皆が好きは好きですけど貴女たちとは違う、です!

 もっと微笑ましい感じですからね!』

『またまたぁ~』

『素直じゃ無いですね』

『照れ屋さんですわー!』

『ちがーうーー!!!』


 進化が進んでも姉妹仲が良いことは良いことです。

 1人姿は子供になってしまい、

 今では一番小さい体の持ち主の無属性精霊の王様は、

 3姉妹にからかわれて顔を真っ赤にして追いかけっこも始まってしまった。


「おら、ニル。精霊纏(エレメンタライズ)を今のうちにちゃっちゃとするぞ」

『あ!そうでしたわー!がったーい、でーすわー!』

「おっと、危ねぇ。

 お前もう受肉もしてデカくなってるんだから、

 今後は無遠慮に突っ込んでくるんじゃ無いぞぉ」

『わかりましたー!ごめんなさいですのー!』


 体は大きくなった分出せる力は上がっているので、

 そのまま今までと同じように突っ込んでこられるとお互いが痛い思いをする。

 なので、その前に飛んできたニルの頭を掴み取って防いだのだが、

 ビジュアルが完全にマミっている。

 体の力を抜いてダラーンとなって謝る姿に戦慄を覚える勇者と聖女の一行。


 ゴクリンコッ・・。

 誰かの喉が唾を飲み込む音が聞こえた。

 現在は勇者以外のお仲間もシスターズも無属性精霊の召喚まで済ませており、

 現在は精霊との対話を繰り返して、

 契約するためのコミュニケーションを取り続けていた。


 勇者からは今まで何をしていたのかや、

 勇者が通り過ぎた町々がどんな状況に陥っていたのかなどを、

 アルシェとメリーが情報交換の為対応をしていた。

 これには俺もニルの進化が始まって暇になった際に参加したのだが、

 ビッチ氏は何ひとつとして問題を認識出来ていなかったらしい。


 勇者としての活躍は魔王を倒すだけじゃなくて、

 訪れる先々で何か事を成すのが定石だというのに、

 お前は勇者行為という犯罪を犯すだけ犯して、

 この1年近く何をしていたんだっ!

 と、本当は怒鳴りつけたかったが、

 好きでこの世界に来たわけではないし、

 勇者という立場は確かに特別なのだが、

 本来の目的のために行動をし続けていたのは事実だ。


 勇者のレッテルを理由に何もかも完璧にこなせとは流石に言えない為、

 情状酌量の余地あり・・・と、

 アルシェたちに説得されたので仕方なしに怒りを収めることにした。

 今後はエクスカリバーの精霊と契約をして、

 問題の解決や治安回復を積極的に介入する事を約束してくれた。

 これで勇者たちの行動が目立つようになってくれれば、

 俺たちの諜報活動も動きやすくなるというものだ。


 それとエクスカリバーに魔力を注ぎ続けていたクレアだが、

 まだまだ魔力は満タンにはほど遠いらしく、

 休憩を挟みつつも慣れ始めて効率も向上し始めていた。


「じゃあ、やろうかニル」

『はいですわー!《雷纏(マテリアライズ)!》』


 ひとまず興奮状態だったニルを落ち着かせて、

 前準備の為に属性纏(マテリアライズ)を使わせる。

 この魔法は適正のない裏属性を身に纏うことで己を強化するものなので、

 アクアで言えば氷のティアラと外装を装着したドレスアーマー姿に変化する。

 今回は風精のニルなので、纏う外装は雷属性。


 雷を想起させるブロンズヘアーは、

 翠雷(すいらい)色に発光をし雷が髪の周りを常に駆け抜けており、

 防御面での鎧の追加はなかったが、

 自慢の4枚羽はミョウガのような見た目から、

 雷マークのようなギザギザになり、色も黄玉のような綺麗な色合いに変化していた。


「『《シンクロ!》』」


 2人の体から進化前とはまた色合いが深くなった翠雷(すいらい)のオーラが吹き上がる。


「『《風精霊纏(エレメンタライズ)!》』」



 * * * * *

『こ、これが・・・、ニルのオプションですのねー!』

『ニル、よかったね~!見せ合いっこしよ~?《おいで》』

『お姉さまと同じどこでも使えるタイプですね、羨ましいです。《閻手(えんじゅ)》』


 ニルが風精霊纏(エレメンタライズ)を経て出現したオプションを手に握り、

 感激しながら繁々と眺める脇に、

 アクアとクーが寄ってきてお互いのオプションを呼び出して見比べ始めた。


 ニルの手元で翠雷(すいらい)の輝きを宿すオプションの名は[タクト]。

 想像の通り、指揮者が手に持ち演奏者たちを指揮する為の指揮棒の事だ。

 このタクトは振れば空気の振動をニルのイメージするものへと変化させ、

 楽器のような音を鳴らしたり、

 超音波を操って熱線として撃ち抜く事も可能な万能器。

 ニルは振動特化型オプションのタクトによって演奏も歌も1人で対応が可能になったのだ。


 試しに使わせてみたが、

 目標にしていた広範囲バフに対応できることは確認出来た。

 問題点としては、まだ使用感覚が把握できていないため、

 効果が薄いことと範囲が安定しないことが挙げられたが、

 そのくらいしか欠点らしいものはなかった。

 何より嬉しげにいろんな音を鳴らしまくっているニルが、

 おもちゃを買って貰えた子供のようでなんとなく嬉しみが深い。


「ご主人様、もうお昼も近いので一旦休憩を挟んでは如何でしょうか?」

「あ~、そうだな。

 あと必要なのは勇者サイドの精霊契約だけだしな、

 アルシェも昼休憩を挟んで良いか?」

「えぇ、かまいません。

 皆様もよろしければこちらで準備をさせていただきますが?」


 メリーが言うとおりに朝から始まったこの会談は、

 すでに数時間経過をしており、

 お腹の具合もほどほどに減っているのを感じたため、

 アルシェにも確認を取る。


「くぁwせdrftgyふじこlp?」

「時間もどのくらいかかるかわからないし、休憩を挟むのは賛成だ」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「はい。私もお腹が空いたので、

 出来ればお食事をいただければ助かります」

「では、一旦休憩を挟みましょう」

「かしこまりました、すぐに用意して参ります」

『お手伝いします』

「私もご一緒させていただきます」

「わかりました。お2方よろしくお願いします」


 アルシェサイドからはメリーとクーが。

 聖女サイドからはシスターズの妹が護衛に残り、姉が昼食を作るため、

 ギルドが時々徹夜作業や夜間作業をする際に食事を作る様のキッチンへと移動を開始。

 勇者サイドは誰も立候補しなかった事を考えると、

 あまり自炊が得意な人はいないらしい。


「アルシェたちは勇者の方を引き続き見てあげてくれ」

「わかりました」

「隊長はまた聖女様ですか?

 なんか、ずいぶんと込めるのに時間が掛かってますね」

「核とは容量が違うのと、

 魔力を込める技術が拙いのが原因だな。

 ちょっと亜神の加護が貰えないか確認を取ってくるよ。

 貰えるなら手伝うことも出来るしな」

『あ、容量で思い出した、です!宗八に伝えないといけないことをわすれていました!』

「何だ?」


 言葉の壁が有りコミュニケーションを取るのに不都合がある俺よりも、

 立場もあり会話が成り立つアルシェに応対を任せるのは必然だ。

 勇者の仲間の話し相手もセーバーとゼノウ、

 そして各精霊同士でも話をしているので、

 契約までは時間の問題であると判断した。


 そんな中、突然アニマが俺に伝え忘れがあるという。


『実は・・・宗八の容量がいっぱいなん、です』

「・・・どういう意味で?」

『精霊使いの格・・資質ですね。

 それの向上によって契約できる精霊の数や制御力の解放が増えるんですけど、

 私と契約したことで宗八の契約容量がいっぱいになってしまっているん、です!』


 つまり、HDで言えば10GBの容量があったとして、

 アクアーリィというゲームのインストールが2G。

 クーデルカというゲームが2G。

 ニルチッイというゲームも2G。

 そして、アニマというゲームが4Gで合計10Gとなって、

 これ以上の精霊契約は例え加護があっても、

 契約という名のインストールをする容量に余裕が無いらしい。


「アニマと契約して得られる恩恵は、

 量産型精霊使いの強化には必要不可欠だし、

 俺の浮遊精霊の鎧の操作にも必要、か。

 まぁ、契約しなくても容量が増えた時点で契約すればいいっしょ・・」

『伝えるのが遅れて申し訳ない、です。

 確かノイティミルという精霊と契約する予定があるんですよね?』

「あ・・・いや、ノイと合流するにしてもまだ距離があって会えないから、

 その間に資質が上がればいいだけだし、問題ないさ。

 教えてくれてありがとう、アニマ」

『いえ~、ワタクシも忘れていましたから~』


 とりあえず、この件をノイに伝えると、

 怒られるか拗ねられるので黙っておくことにしようと決めた。

 王都を調査して各国の遠征軍に派遣を要求して、

 勇者が大将を落とすことが出来れば問題は解決するんだから、

 その手はずが整ったらこのままノイを迎えに行くこととしよう。


 聖女にも呼ばれていたけど、

 自分から今現在何故か会いに来ちゃってるし、

 神聖教国行きは後回しでも問題ないだろうしね。

いつもお読みいただきありがとうございます

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