†第7章† -03話-[勇者の行方、2人の進展]
アルシェ達からもたらされた話は一考するに値する情報だった。
「魔物の種類は聞いたか?」
「はい、ご主人様。
基本の魔物はランク3のトレントドッグとイライジャフォビア、それにフラフニルです」
『4足のトレント種と人型で鱗粉を撒き散らす羽根を持つ魔物、
そして鋭く長い爪を持つトカゲです。
他にも少数のランク4も居るようですが、
まだ情報が集まっていません』
「数は?」
「500程度かと思われます」
「はぁ?その程度の魔物だけで町を襲って勝てるわけないだろ・・・」
まだ確定情報ではないが、
町の方向から考えてアイアスタに現在勇者一行が訪れているのではないか、
というのがアルシェの予想であった。
メリーとクーから敵の情報を聞き取るが、
俺には別に大した驚異とも思えなかった。
もしも俺たちにその数が襲ってきたとしても、
町中での戦闘でなければどうにか出来ない数ではないのだ。
勇者に当てる意味があるとは到底思える頭数ではない。
もしかしたらだけど、
俺たちとは別件で勇者達は魔神族とすでに一戦か二戦交えていたのかも知れない。
その勇者の動向を注意する為、
魔神族はフーリエタマナのような平和な町を用意したのかも・・。
こっちも確定事項ではないから、
ここでの選択は非常に選びづらいうえに選択によってはすぐにでも動き出すべき案件だな。
「っていうかだな・・、
勇者の動きをこちらが把握できないくらいに痕跡がなさ過ぎて動きづらい・・・」
「大型の戦闘をした記録もないですし、
最低限の訪問した事のある町くらいしかわかりませんしね」
「もしも、魔神族と勇者が実は正面衝突しているなら、
勇者を囮にして今のうちにフォレストトーレに潜入すべきだし。
全く関係なく魔神族が警戒をしている勇者に嗾けただけなら、
先に勇者と合流するのも手だ」
それに勇者の動きが速すぎるのも気になる。
おそらくは何かしら勇者特有のチート魔法でも使っての移動なんだろうが、
それが今はかえって動きが読めない一因にもなっている。
最悪、敵の目が俺たちに向いて逆に囮にされかねないという懸念が脳裏に浮かんでいる。
戦闘途中でいきなりどっかに行かれるとヤバい・・・。
「交流がないから信用も出来ないわ、予想も立たないわ・・・。
本当に勇者なのか?」
「召喚に応じて来られたので勇者であることは間違いないかと・・。
ただ、勇者に選ばれる基準は不明でしたので、
少し性格に難があったのかもしれません」
訝しげな俺の問いかけには、
アルシェの代わりにメリーが答えた。
まぁ、召喚する際にその場にいたアルシェがそれを言葉にするわけにはいかないか・・。
「お兄さん、どうしますか?」
正直悩みどころだ。
動く動かないを選択する為の情報の中に不確定的な要素が多すぎて、
さっきから考えすぎで若干頭痛もしてきている。
これもやっぱり袋小路だ・・・。
これ以上考えても答えは出ないだろうと理解はしているし、
その考える時間が長ければ長いだけ無駄になってしまう。
もう単純にメリットとデメリットで考えれば、
何が起こるか分からない王都行きのこの状況で焦って向かうのと、
ここでちゃんと準備をしてから予定通り明後日出発するのはどちらがいいか・・・。
当然予定通りに動くべき。安全第一だ。
「予定通り明後日に出発する。
明日までは休暇に当てるから訓練するにしろ、
寝て英気を養うでも好きにしていい。
ただし王都に着いたら最悪、
勇者の援護にまわる可能性も考えられるから、
しばらくは休みはないし警戒も強めなきゃならん」
「わかりました、お兄さんの指示通りにします」
それと忘れていそうなのでこれも伝えておこう。
アルシェの頭に手を置きながら、綺麗な瞳と目線を合わせ伝える。
「アルシェの誕生日と俺の誕生日を落ち着いたら一緒に祝おうな!」
「っ!そうでした!もう冬の月の・・・30日に近い・・。
お兄さん覚えててくれたんですね・・っ!」
「計算が違うから俺の誕生日を過ぎてから思い出したんだけどな(笑
時期的にもマリーブパリア辺りだったから祝う余裕もなかったし」
あの頃はペルクパーティと出会って、
早めに王都に行かなければと色々慌ただしかった時期でもあったし、
忘れていても仕方が無い。
アルシェ達からは旅の途中という事もあって、
おめでとうという言葉と頬にキスを頂いた。
あ、もちろん精霊とアルシェだけだぞ?
メリーとマリエルはこれからも精進すると約束していた。
「落ち着かないとプレゼントも選べないからな。
フォレストトーレの問題が解決できたら長い休みを一旦挟もう」
「その際は私たちも全力にてお食事の用意もいたします」
『お父さまとアルシェ様の為にクーも全力を尽くします』
「私も姫様の為に手作りのプレゼント用意します!
隊長にもそれっぽいものをあげても良いですよ?」
「はいはい、期待してるよ。
ともかく今回のアイアスタの情報収集は継続するけど、
参考程度に受け止めるように。
動きは予定通り、明後日出発!以上!」
「はい!」
『あい!』
「『かしこまりました』」
「りょうか~い!」
『かしこまりですわー!』
「「「「了解!」」」」
『え?何をするんで、すか?』
離れて作業中だったゼノウ達も含めアニマ様以外は了承の返答をしてくれた。
彼らの差し出す手の平の上に居た無精達ですら手をあげて了解の意思を伝えてくる。
ひとり話に着いていけず、
周りの熱気に当てられて戸惑いの声を漏らすアニマ様には、
あとで現在の状況を伝えておこう。
ついでにアルシェ達にも紹介をしておかないといけないしな。
* * * * *
「では、改めて魔法の説明をします」
「「「「よろしくお願いします」」」」
ゼノウ達4人はその後、
各々が召喚した精霊との契約を果たし、
晴れて精霊使いとして生まれ変わった。
アニマ様が言うには、
無精は王の許可を受けて魔法が使えるようになっているという。
『使える魔法はワタクシの宿主を経由して決まるので、
この場合は宗八が使える魔法となり、ます!
そして、珍しいことに色んな属性の精霊と契約している為、
その娘たちの魔法も使え、ます!』
ただし、そんなうまい話に裏がないわけもなく、
属性が一致していないというのもあるらしいが、
魔法の練度も0からのスタートになってしまう事が理由として挙げられ、
無精たちの使える魔法はオリジナルから5枚も6枚も落ちた効果になるらしい。
「そんな訳で魔法の成り立ちや俺たちが使える魔法の特性も教えます。
まずはアルシェから」
「では、私からは魔法の創造方法とオリジナル魔法の解説をさせていただきます」
アルシェは座っていたベッドから立ち上がって、
ゼノウ達4人と座る俺の股の間にふんぞり返って座るアニマ様へ向けて一礼をする。
ある程度はアルシェを先生として道中の影の中で勉強したと思うが、
それとは別の内容を今から教える事となる。
「魔法を使う為には魔法陣が必要になります。クーちゃんお願いします」
『はい、アルシェ様。《ガイストアプション》』
アルシェが魔法陣の説明を始めると同時に、
説明をわかりやすくする為にクーが魔力吸収魔法[ガイストアプション]を手の平に展開する。
うちのパーティの中で他に魔法陣が直接目に触れる形で展開されるのは、
アクアの[アクアテイル]ぐらいなもんだ。
「この魔法陣に刻まれている模様と文字列を総じて起動式と呼びます。
起動式の書き上げは私のように理論を建てて組み上げるタイプと、
アクアちゃん達精霊が感覚的に組み上げるタイプの2種類があります」
「はい!」
「フランザさん、どうぞ」
質問の為手を挙げるフランザの言葉をアルシェが待ち構える。
「その2つの違いは何が要因でしょうか?」
「魔法の本質の理解度の違いですね。
精霊は魔法の申し子ですから、
自身の適正がある魔法に対しては知識ではなく感覚的に組み上げてしまうんです。
でも、それは精霊使いと契約した精霊に限りますから、
普通に生きているだけの精霊は新しい魔法を組み上げることはありません」
詳しく言えば、
精霊使いとシンクロを発動すれば以心伝心が可能となる。
その状態でマスターがイメージする魔法を精霊が感覚的に組み上げて発動させているのだ。
「欠点としては魔導書に変換しづらいところですね。
私が組み上げた起動式は説明なども含めて理解されやすいですが、
精霊が感覚で組み上げた魔法はその場その場で組み上げるので、
都度効果に誤差が生じます」
「アルカンシェ様は長い時間が掛かるけど魔導書にしやすくて、
精霊は一瞬で組み上がるけど魔導書にはし辛いんですね」
「感覚としては使い捨てと言ったところですか?」
『たぶんそう~!』
アルシェの説明にトワインがまとめを言葉にしながら手元のメモ用紙に記入を進め、
ゼノウの使用感覚の確認にアクアが答える。
「その説明を踏まえた上で私たちの魔法を説明します。
私が組み上げた魔法は、
アクアちゃんと共同創造した遠距離氷魔法[勇者の剣]、
移動や回避に使用する[アイシクルライド]、
敵の動きを拘束する[アイシクルバインド]、
防御や足場に利用出来る[アイスキューブ]、
敵の足下や側面から突き刺す[アイスランス]、
氷の武器精製[アイシクルウェポン]、
浮遊精霊に武器のサポートをお願いする[Eコントロール]、
先に述べた勇者の剣を改良した[氷結覇弾]、
アイシクルライドを戦闘用に組み替えた[輪舞]があります」
「その魔法は俺たちじゃ使えないの・・・んですか?」
「魔導書への変換を魔法ギルドに依頼をすれば可能ですけど、
おそらくシヴァ神の加護がない方が使用すれば魔力消費が多すぎるかと思います」
「実質、姫様専用の魔法という事ですね」
ライナーの質問はその有用性を理解している事と、
いろんな魔法が使える希望をもってのものだったが、
アルシェの指摘通り加護による水氷魔法の消費MP減少効果は無視できない。
真剣な表情で話を聞いていたフランザが小さな声で納得の声を溢したのを、
宗八とニルは聞き逃さなかった。
「次にアクアちゃんの魔法に移ります。
こちらはお兄さんとアニマ様を経由してみなさんの無精が利用出来る魔法になります」
アルシェの言葉に表だっては喜ばないが、
心の高揚を抑えられないのか4人の瞳が輝くのをアルシェは正面からしっかりと見ることになった。
「防御魔法の[アイシクルウォール][ウォーターシールド]、
武器に水氷属性を付与する[エンハンスアクア]、
敵の窒息や生活面で活躍する[ウォーターボール]、
対象に向かって走る氷刃[氷鮫の刃]、
遠見の魔法[ウォーターレンズ]、
それと私とは適性が違うので移動も[アクアライド]になります」
「想像したよりはそれほど多くないって印象ですね」
「でも、利用の意図がしっかりと分かれていますし構成は文句なしです」
「お兄さんは精霊に頼りきりではなく魔法剣を昇華させて、
個人でも戦える程度に魔法剣による魔法を模索しています。
そちらは残念ながら皆さんが使うことは出来ないでしょう。
先の魔法以外にも魔法はありますが、
アクアちゃん専用と言いますか、
文字通り精霊魔法と言って差し支えない内容なので省かせて頂きました」
便宜上は精霊魔法と呼ぶ魔法は、
主に2種類あってひとつは先にも述べた使い捨ての魔法のことと、
アクアの[竜玉]や[アクアテイル]、
クーの[閻手]、
ニルの[エレクトリックハイスピード]などの高い制御力が必要になる魔法を指している。
制御力とは本来人間に宿るものではない。
しかし精霊使いの質をあげれば人間も徐々に制御力が上がるものだが、
それも無精の制御力があがったとして、
上記の属性魔法が使えるわけではない。
属性の不一致で各種の精霊魔法は実質的に固有魔法の色が強すぎるのだ。
その後もクーやニルの各魔法の説明を挟みつつ、
その場でどの程度の出力で使用が可能なのか実験も並行して行われた。
結果的に全力のオリジナルの6分の1程度の利用は可能と判明したが、
彼らの精霊が属性に合っていない事と、
まだ浮遊精霊から1度進化しただけの精霊の2点においてあまり魔法の多用は出来ない。
さらに4人中3人はMPが低い為、
その事も多用が出来ない要因のひとつとなっていた。
「魔法は使えば使うほど熟練度が上がります。
その分魔力の消費があがるので常時マナポーションを飲んで精霊の成長を促す必要も同時に発生します」
「だから宗八はいつもマナポーションを服用していたのか」
「えぇ、うちの育成方針として常に何かしらの魔法は発動させるようにしています。
俺の契約精霊は3人いますから、その分のMP消費も高いので」
ゼノウの疑問点は当然だった。
マナポーションは薬草などが原料となる為苦くて常用したくない味に仕上がっている。
その良薬を常に服用している俺を見て舌の異常を疑うなと言う方が無理がある。
と言っても、うちの娘の使う魔法はクーの影倉庫以外は湿度の制御と風の制御をしている程度なので、
消費分の回復はマナポーションで事足りている。
「その精霊たちが次の位階に進化すれば、
MP上限も魔法の効果も約3体分に増えますから、
主従揃って頑張ってください」
俺とアクア、クー、ニルが使える魔法のうち、
全員に強制的に熟練度をあげさせる必要があるのは、
移動用に[アクアライド]を。
そして、別行動用に影倉庫を常時使って鍛えるように。
さらに戦闘面で役立つ[ソニック]をクランリーダーとして指示を出した。
『パーティ全員で1つの空間を構築して利用出来るよう、です!』
「うちはクー1人に負担を掛けちゃってるし、
出来るならその方が良いだろうな。
効果範囲はその分上がるんですか?」
『そのようですね。色々と出来るようになって眷属達も楽しそう、です!』
喋ったり魔法を使えるようになったというのに、
何故か無精の連中はあまり活動的ではなかった。
気が付けばいつの間にか守護の役目に戻って纏っているわ、
進化した4人で集まってコソコソしているわ。
コミュニケーション能力の欠如は精霊使いの契約者としてどうなんだと不安が募る。
しかし俺の目にはそう見えているのだが、
アニマ様から見るとはしゃいでいるように見えるという。
親心なのか、王としての感性なのかは知らないが、
無精の精霊とのコミュニケーションをあまり取ってこなかった俺よりは彼らを知っているんだろうしその判断を信用することにしよう。
「あぁ、そうだ。
あくまで予想でしかないですが、
王都に行くまでの道中にオベリスクがいくつか設置されている可能性があります。
勇者の行動次第では王都が戦場になるかもしれないので、
町の人を逃がす為にも魔法が使える状態にしておく必要があります」
「でも、私たちではオベリスクの破壊は難しいのでは?」
「今回は冒険者のゼノウたちが居る。
当然精霊と後衛組は影の中にお留守番になるけど、
少なくとも俺とライナーは打撃武器に切り替えてオベリスクの破壊に挑む」
「精霊?それはアクア様やクーデルカ様の事でしょうか?」
魔力消失型オブジェクト[オベリスク]。
魔神族が絡む王都には、
少なくともいくつかのオベリスクが設置されていることは容易に想像出来る範疇だが、
実際どの程度の効果を期待していくつのオベリスクを設置しているかまではわからない。
近場に設置されたオベリスクの中心点に不用意に足を踏み入れてしまえば、
たちまちアクア達だけでなく、
浮遊精霊たちも大打撃を受けるのは火を見るよりも明らかだ。
故に。
「いや、全員だ。
俺たち前衛に纏う浮遊精霊全員を影に避難させる。
最悪の想定をすれば、
王都にいた浮遊精霊は全滅している可能性も考えられる。
万が一王都に辿り着く前に俺たちの浮遊精霊も全滅していた場合、
普通の攻撃で急所を突かれれば死んでしまう。
だから、浮遊精霊の温存をするんだ」
安易に現在纏っている浮遊精霊を死なせても、
王都で補充できるなどと甘い考えで行動するわけにはいかない。
敵の規模も分からない状態では手の出しようもないし、
最悪町民の救出を優先して時間稼ぎをするにしても、
守る為の俺たちがすぐに死ぬような事態は避けなければならなかった。
「じゃあ、道中の対応は隊長と私とライナーさんの3人ですか?」
「魔法での強化が出来ない以上、
ステータス的にSTRの高い奴じゃ無きゃ打撃武器は持てない」
「確かに俺は難しいか・・・」
「それなら私は参戦可能ですよね?」
ゼノウは俺とマリエルの会話を聞いて納得の諦めを示したが、
その会話に異を唱える女の子が1人居た。
「アルシェ・・・。いや、駄目だ」
「何故ですか?」
「お前の出生関連で不安があるからだ。
あまり無茶なことはさせられない」
「ネシンフラ島では妖精よりも耐性はあったはずです」
「・・・駄目」
「・・・お兄さん」
アルシェの親は人間の王様と水精王シヴァ様の分御霊
の王妃様だ。
そのハーフであるアルシェは妖精よりも精霊に近い存在であると考えられる。
人間は魔力が無くなれば気絶するし、妖精は体調不良後に子孫繁栄に支障。
精霊は魔力が無くなれば死ぬことを考慮すれば、
アルシェの場合はどうなるかわかったもんじゃない。
「お兄さんが私を大事に想ってくれているのは常日頃から感じています。
でも・・・」
「アルシェ、お前の気持ちはわかる。
でもな、ここはお前が無茶をしなくちゃならない場面かよく考えろ。
人を守る為でもなく、魔神族と相対しているわけでもない。
ただ、先行して危ないオベリスクの処理をするだけの作業で、
アルシェにとって危険かもしれない橋を無理に渡る必要は無い」
「・・・」
アルシェに語りかけながら前のめりの彼女の頬へと手を添える。
責任感が人一倍あるアルシェは王都潜入前の環境整備にも参加したいと言ってきた。
だが、それは先にも述べたように、
アルシェに対してどんな影響を与えてしまうか全く予想が出来ない。
確かにネシンフラ島ではアルシェも不調を訴えなかった。
それでも王都周辺にどの程度あるかもわからないオベリスクを掃討する作業は、
長時間影響下に晒される状況で実験をするなんて勇気は俺にはなかった。
「まだ想定の域の話なんだ、そう息巻くことでもない。
それともアルシェは俺たちを信用できないか?」
「いいえ、まさか。そんなことは有り得ません。
私はお兄さんを・・・お兄さん達を信じています」
添える手をアルシェが両手で覆い、
愛おしそうに顔を擦り寄せる姿と言葉になんとか説得できたと安堵した。
「なら、アルシェは王族としての役割を果たしてくれれば良い。
役割分担だよ。俺たちの危険は少ないし、
マリエルも具合が悪くなったらすぐに引かせる。
あいつを連れて行くのは単に打撃に優れているからだ」
「はい、わかりました。私の負け・・ですね」
アルシェが落ち着きを取り戻したのを確認して、
意識をアルシェから引きはがして周囲へと目を向けると、
何故か全員こちらを向いておらず、
むしろ俺たちを見ないように目を背けているように思えた。
男のゼノウとライナーは顔だけでなく身体ごと後ろを向いている始末だ。
「??お前ら、どうした?」
「い、いえ・・・どうしたといいますか・・・」
「その・・・えっとぉ・・・」
「私もちょっと見続けるのは・・恥ずかしいですね」
俺の問いかけにフランザ、トワイン、そしてマリエルが返答を示す。
しかし、こちらを頑なに見ようとしない。
さらにそれぞれが何故かアクア、クー、ニルを手元に捕まえて目隠しをしている。
本当に何をしているんだ?
その背後に立ちっぱなしのメリーが視界に写り、
視線をメリーの顔へとあげていくと、
こいつは顔を背けてはいなかったけれど、両目を閉じている。
さらに言及すれば何故か薄らと頬が赤くなっていないか?
「メリー、状況を報告しろ」
「メリー?」
「・・・ご主人様とアルシェ様のご関係がご発展されていること、
従者としてお喜び申し上げます」
「は?」
そう口にして器用に目を瞑ったままカーテシーを披露するメリー。
視界の端で別の動きも感じ取り視線を向けると、
クーも同じようにカーテシーを行っていた。
「ご発展だなんて・・・メリーったら・・\\\(照)」
そして・・・俺の頭は自分の状況へとシフトするのだった。
手の平から伝わる肌理が細かく女性特有の柔肌の感触と、
手の甲から伝わる細くそしてまだ幼い女の子らしい繊細さを強調するアルシェの両の手。
その上嬉しそうな感情が込められた綺麗な顔立ちが、
俺の目の前にあるという状況をいま冷静に理解したのだ。
「・・・\\\(照)」
自分の顔が赤く上気するのを感じる。
年下とはいえ、妹として接しているとはいえ、
やはりアルシェは綺麗で魅力的な女の子だ。
そんな娘が俺の添える手に顔を寄せる光景をこんな間近で見てしまっては、
女の子慣れしていない俺が照れてしまうのも仕方ない。
どうりで周りも目を背けるわけだ。
俺だって現在の俺とアルシェの光景を傍目から見ては、
気恥ずかしさで直視に耐えられないことは理解できた。
だがだがしかし、だがしかし!
「なんだお前ら。
美しい兄妹愛を前に照れるなんて、意外と純情なんだな」
そう、これは男と女のソレではなく、
単に互いを大事に想い合う兄妹愛。
何を恥ずかしがることがあるのか!という体で俺はこの状況を乗り越えることにした!
「宗八はそうかも知れないんだがな・・・アルカンシェ様が、な」
「フランザと同じ顔してんだよなあ・・・」
「えっ!?私、いまの姫様と同じ顔してたのっ!?」
「・・・否定はしないわ」
ゼノウとライナーの言葉に飛び火するフランザ。
アルシェの顔と仲間を交互に見ながら戸惑いの声を上げる。
当然回答を望んでの言葉ではなかったがトワインは仲間を代表して否定はしなかった。
よし、なんとかごまかせたな!
「それでも今の隊長と姫様を直視は出来ませんけどね」
マリエルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーー!!
こうなりゃ視界を別方向にシフトさせてごまかすしかないな!
「カモン!愛娘達!」
『『『わーい!』』ですわー!』
俺のかけ声に従い、
すぐさま我先にと飛びつくアクアとクー。
ついでにノリで飛び込んでくるニルが俺に張り付いたこの状況であれば、
皆もラブコメに繋げるような事はなくなるだろう!
「あ、確かになんというか・・・残念な感じになりましたわね」
「これで直視出来ますね」
「宗八は罪人だったか」
「お前も大変だな」
「本当にいつもこんな感じで大変なんですよぉ」
「私は喜ばしいと思っております」
勝手な事を言い始める連中に呼応してマリエルとメリーの2人も会話を弾ませている。
いまの内にさっさとこの状況に終止符を打たねば!
「さ、さぁ!今日はもう遅いし、早めに休んで明日に備えよう!
基本的には自由行動だけど、
用事がある人は都度呼びかけるからよろしくっ!」
頬に添える手をやんわりと引き抜きながら、
無理矢理な事を理解しつつも全員に休むようにと指示出しをする。
実際、すでに外は暗くなっていて、
夕飯でもお風呂でも時間的には最適な塩梅になっていたのも幸いした。
「あっ・・」
あっ・・じゃない!
そんな顔するんじゃない!
この場を離脱すると決めた以上は長居するだけ状況は悪くなる。
「お前ら、部屋に帰るぞ」
『あい!』『わかりました』『りょーかいですわー!』『了解、です』
「あ、アニマ様もご一緒なんですか」
『当然、です!王の任に就けるまでの間とはいえワタクシの宿主なのですから一緒、です!
それと煩わしいでしょうし、敬語も必要ありません!』
「わかり・・あー、わかった。これからもよろしく」
『んっ!よろしく、です!』
* * * * *
翌日にはアイアスタの襲撃も鎮圧されたという情報が、
ギルドを通して周知された。
その鎮圧で一番の功績を上げたのは、
アルシェの予想通り勇者一行だったらしい。
「俺たちの行動は基本的に隠密を意識する必要があります。
いざとなれば資本は身体と嫌でも理解するので、
常日頃から身体の使い方を工夫しておかないといけません!」
そんな予定調和な展開など頭からさっさと忘れて、
俺たちは休日とはいえ日課にしている朝練を行っていた。
ちなみにメリーは昨夜から申告をしていた通りに、
朝寝坊を満喫してこの場にはいない。
「ライナー!足音鳴ってますよ!」
「痛ってぇ!敬語使えば蹴って良い理由にゃなんねぇぞ、宗八!」
「喧しいです。普通に歩いているだけで足音を鳴らさないで下さい」
「いや、精霊の魔法で足音は消せるんだろ?
なら、ここまでしなくてもいいんじゃねぇのかぁ?」
「オベリスク影響下でも同じ台詞が言えるんですか?
こんなのまだ序の口ですよ?アレもいずれ出来るようになってもらいますからね?」
現在俺とライナーは、
いつものメニューをこなした後に居残りで隠密の訓練をしていた。
端的に言って粗野なライナーは、
足音が立つという意味を大雑把に理解しており、
何度も説明をしても深い部分で納得が出来ていないようだ。
先の様に魔法で消せば良いと安易に己以外の力に頼る発言をするのもその所為かな?
「いやいや、アレは流石に無理だろ・・・」
「ちなみにマリエルは浮遊精霊の鎧を外してもアレ、出来ますからね?」
「お前、そんな事までさせてんのか・・・?」
「いつも守られてばかりじゃ感覚が掴めないでしょ?
痛い思いをした方が覚えが良いこともあるんです」
俺が頭を振って視線誘導をした先ではアレと言っていた訓練が行われていた。
氷で出来た土台に影が集まり出来た薄い布が被さりピンと張っているその物体へ、
アルシェとマリエル、メリーとゼノウは飛び込んでいく。
次々と飛び乗っては自身を高く跳ね上げるその反動を利用して、
自分の身長の3~5倍の高さへと意図して飛び上がる。
着地地点は芝生になっている所を選んでいるが、
例え着地に失敗したとしても、
浮遊精霊の加護のおかげで骨が折れるような事態にはならない。
今ちょうど自作のトランポリンにアルシェが踏み込んで空高く飛び上がった。
動きやすい服装をしているとはいえ、
落下が始まると服がめくれて可愛らしいお腹が見えてしまうのが些か目の毒だが、
アルシェは訓練に真剣に取り組み自身の着地地点をしっかりと見据え、
今両足が地面に着いた・・・。
その瞬間に身体の向きを斜めに調整して、
足、太もも、腰、背中、肩の順に地面を転がり、
2回転したところでぱっと立ち上がった。
「あれがお前らの旅に必要なのか?」
「出来ないよりは出来た方がいいでしょう?
着地に失敗して追撃を受けるよりは、
ああやって落下ダメージを少なくして、
すぐ行動に移れないと仲間の邪魔にしかなりません」
「・・・・ちっ」
アルシェの着地を確認してからメリー、
その後にゼノウ、マリエルと何度も繰り返し着地の練習を行う光景を前にした状態で、
俺の言葉を聞いたライナーは舌打ちをひとつ吐きだしてから、
再び隠密行動の練習に戻った。
『宗八。貴方の娘達が呼んでいます、わよ』
「はいよ、すぐ行く。
アニマはライナーを見ててもらっていいか?」
『見ているだけでいいんで、すか?』
「サボりそうになったらお小言でも言ってくれ」
『お安いご用です。さぁ行ってらっ、しゃい』
しばらくは真面目にやるだろうけど、
念の為に俺を呼びに来たアニマにその場を任せる事にした。
次も次で別種の問題がある人物に対して発破を掛ける為に人肌脱ぐのだが、
人格に問題があるわけではなく、
単純に今のままだと近いうちに力不足になると予想されたので、
余計な事は言いたくないけど仲間として伝えなければならない。
足取りは重いがクランのリーダーとしてがんばりまっしょい!
いつもお読みいただきありがとうございます




