閑話休題 -25話-[ハルカナム街道Ⅳ]
〔アスペラルダ王国軍は、現状の情報だけでは動く事が出来ません。
きちんとした確証の元であればすぐに動かす事は可能。
その場合は各国に同時進行を依頼する事になりますが、
到着までにはそれぞれ1~2ヶ月掛かるそうです〕
「それは仕方ありませんね。
こちらも早めに情報提供出来るように心がけているんですけどね・・。
こっちの国もそれなりの問題を抱えていますので、
なかなか予定通りに進めていません」
朝練を終えて身体の汗も流した頃合いに、
アインスさんに定期報告のための連絡を取っている。
〔水無月さんも姫様も十二分に国の為、世界の為に働かれております。
それは私だけでなく、皆さまが関わった方々は理解していると同時に、
何かしらの力になりたいと皆さまの動向を伺っています。
出来る事を精一杯やっていただき、
気づいた情報を残して下されば我々はしっかりと任務を全うして見せます〕
「任務って・・、まぁお気持ちはわかりました。
あ、そうだ。先に伝えておいた[人形]の捕縛は進んでいますか?
あれが済んでいないと町に入る事も難しいでしょう?」
人形とは、
冒険者のリーダーや各町の中心に立つ町長、
そして冒険者とは違う情報の仕入れ√のある商人。
その人物達はまずフォレストトーレ王都の王へ謁見し、
その後から感情はあるようだが、
声に覇気がなかったり表情が感情に付いていかなかったりと違和感のある存在と化していた。
〔はい、そちらに関しては情報を頂いてすぐに対応指示いたしましたので、
現在確認出来た[人形]は全員捕縛いたしました〕
「仲間とか家族の方にはなんと?」
その人形は登城した際に魔神族の死霊使いに殺されて、
そのまま仲間や家族の元に帰ってきたのだ。
魂に欠陥を抱えたまま。
死霊使いの術で操られて人形と化した彼らは、
他国へと渡り何かしらの情報集めの為に移動を続けていた。
〔感染病の疑いや風土病を理由になんとか納得して頂いております。
殺してしまうのは良くないと伺っていましたので・・〕
「魂同士の会話は出来ないようなので、
言ってしまえば四神の分御霊の下位互換って感じの術ですから、
殺した場合は本体に死ぬまでの状況を伝えてしまいます。
拘束ならば、他の魂が情報を集めると考える・・・と予想しています」
〔こちらでも敵の戦力や能力を集めて頂いた情報を元に考えてみましたが、
四神は長く生きた特別な精霊様です。
その存在と同等のレベルでは行えないと判断を下されていますから、
水無月さんは気になされないで下さい〕
暗に間違った解釈だったとしても、
俺の所為ではないと伝えられ、ほんの少し気が楽になる。
それでも、俺たちが集めた情報がほとんどのはずなので、
責任は俺が一番デカいだろう。
「ありがとうございます。
じゃあ、こっちがフォレストトーレ王都の状況を確認すれば、
アスペラルダはすぐに進軍出来るんですね?」
〔はい、急ぎ皆さまの支援に向かわせて頂きます〕
「了解です。それと、ポルトーに確認は取れましたか?」
〔あぁ、冒険者の強化案ですか?
お話を聞く事は出来ましたが、
基本的には剣士は剣一辺倒ではなくなったり、魔法を使えるようにしたりでしたよ?
水無月さん達を模倣しているのは確かなので、
他の案としてはアクセサリーの力を使いこなす、だそうですよ〕
「アクセサリー?例えばどんなですか?」
そういえば、有用そうなアクセサリーを手に入れてはいるんだが、
結局あまり重要視していなかったし、
実際上昇値も高くない。
俺が現在装備しているのは黒の指輪というアクセサリーを2つ付けてている。
この装備の良いところはステータスがAll+2される部分だ。
例えばバトルブーツというアクセサリーを装備するとAGIが+2される。
それなら全ステータスが上がる指輪を装備するだろ?2つも!
〔水無月さんも戦われた、
バイカル=アセンスィア卿の戦闘スタイルを覚えておられますか?〕
「寄らば斬ります、寄らなくても斬ります、寄って斬ります?」
〔ま、まぁその通りですが・・。
一瞬で移動して攻撃をするあの動き・・・、
あれは俊足の足袋というアクセサリーの効果です〕
「そのアクセサリーの効果ってHPが徐々に削れる代わりに移動速度が上がる、
でしたよね?縮地、瞬動とは別じゃないですか?」
〔あれはアクセサリーの効果を溜め込んで、
一気に解き放つ事で瞬間移動をしていらしたそうです〕
効果を溜めて一気に・・・。
俺たちが行う魔法制御みたいなものなのか?
「その方法は?」
〔えっと・・・それが・・・、我慢する・・・だそうです〕
頭を抱えた。
アセンスィア卿らしい回答にだ。
元来無口な彼が言うんだ・・・解放しないように我慢すれば出来るんだろうさ!
それにしてもアクセサリーの効果も解釈次第では幅が広がるという話は、
属性武器に魔法剣や武装加階に精通する気がする。
ってことは、属性がなくとも効果を考えれば他にも色々と出来る可能性はあると言う事だな。
「ありがとうございました、参考になりました」
〔え?あの、最後のはあれで良かったんですか?〕
「まぁ、意味は伝わりましたのでアセンスィア卿とポルトーには礼を伝えておいて下さい」
〔わかりました、また何かあれば連絡をください。それでは〕
アインスさんとの通話が終了すると、
さっそく手にした事のある装備をメリーとクーがまとめた書類を影から引っ張り出す。
『お父さま、お話は終わりましたか?』
「ん?あぁ、今さっきな。もうご飯が出来たか?」
『いえ、女性陣が汗を流し終えたので、乾かす為に手伝って欲しいと・・』
「あぁそういうことね。了解、すぐに行くよ」
『ニルは先に対応中です』
「あいよー」
さきほど出した書類を脇に挟んでクーを抱きかかえる。
今は猫の姿をしているので、
毛の艶を見て健康状態を見るにストレスを感じてもいないようだ。
最近は連れが増えてクーの負担はさらに増加したので、
何度か声を掛けてみたが、
疲れは感じるがやりがいがあると言っている。
なんと健気で良い娘なんだ・・・っ!
『~~♪~~♪』
俺の撫でる手に合わせるかのように鼻歌を嬉しそうに奏でるクー。
さらには尻尾についた鈴も揺らしてチリィンチリィンと音が鳴っている。
この鈴はアスペラルダでクーを、
アルカトラズ様から受け取ったその日のうちにプレゼントした物だ。
メリーから聞くに、よく時間がある時に手入れをしている様子を見かけるとの事。
贈った物を大事にしてくれていると知るのはすげぇ嬉しいな。
* * * * *
「ニル、準備はいいか?」
『大丈夫ですわー!』
朝食を食べてしばらくまったりとした後、
出発前に最近は特に力を入れている訓練を始める為、
ニルを連れて準備に入る。
「お、今日もやるのか・・・」
「毎度観戦しているけれど、あれに介入出来るイメージが湧かないわね」
「同じく。姫様っていつから訓練してるのかしら」
「俺が聞いたのは半年ほど前らしい。
水無月殿の旅に同行するまでは魔法しか習っていなかったと本人から聞いた」
「毎日あんな訓練してんだ・・・半年でも納得がいくぜ・・」
離れたところで出発の準備を整える一方、
この模擬戦を観戦するのはもう恒例になっていた。
何故なら、自分たち相手では彼らが手を抜いていると分かってしまうほどに、
苛烈な戦闘を姫様と弟子相手でも容赦なく斬りつけて、
最後はHPが半損するくらいまで追い込むのだ。
魔法か近接のどちらかしか出来ない彼らからしてみると、
どちらも使える冒険者の戦闘は、
目から鱗が落ちるほどの衝撃的な内容だった。
『お父さまもアルシェ様も[武装加階]をして準備が出来ているようですね』
『どっちもがんばれ~』
「アクアちゃん、貴女のご主人はなんでアクアちゃんと一緒じゃないのかしら?」
『えっとね~、たいぷがちがうの~!』
『お姉さまは魔法と併用型ですが、ニルは近接特化型だからだと仰っています』
「近接特化型ぁ?」
「攻撃が当たると思ったのにご主人様が弾いているなんて場面を見ていませんか?」
「確かにこの模擬戦中に何度もある」
「詳しくは話して下さりませんが、そういうことでしょう」
俺の前にはマリエルとその後方にアルシェが武器を準備して構えている。
つまり、今から始める模擬戦はマリエルを前衛、アルシェを後衛とした1対2の模擬戦なのだ。
判定は観戦席にいるメリー達にまかせて、
俺はとにかくマリエルの邪魔をかいくぐってアルシェを潰せば勝ちになるのだが、
アルシェの手にある槍が、共同制作魔法ながらヤバいオーラを纏っている。
俺の蒼剣こと[グラキエルブランド]の対となる槍、
蒼槍[グラキエルスィール]。
元の武器は魔法で出来た氷のトライデントだが、
さらに加階が加わりまるでラピスラズリでこさえた青龍偃月刀のような姿に変化している。
「元はアルシェの研究していた人間用の氷纏が下地だけど、
結局人間は上手くいかなくて武器に出来ないかってアドバイスしたら出来たんだよな・・・」
色合いも似通っていて、
蒼天のオーラがキラキラと輝く見た目も綺麗な武器となっていた。
「ニル」
『ですわー!』
「『シンクロ!』」
瓶詰めから意外と柔順になったニルは、
こういってはおかしいのだが公私をはっきりと分けるようになっていた。
その為か、言葉こそ普段通りではあるがこういう訓練の時などは、
俺と同じ意思を持って臨んでくれるから、
思いの外早い段階でシンクロも出来るようになった。
それとは別口で唄の練習も一緒にしているからその関係も無視できないだろう。
翠光のオーラが2人の身体から漏れだし、
所々に裏属性も現すかのように黄色に近い色に変化する部分も見受けられた。
『武器はどうしますのー?』
「パートナーがニルだから属性も合わせて雷光剣だな」
『やったぁーですわー!』
一緒に戦う時に割とこいつらの属性は俺の戦闘にも影響を及ぼす。
例えば武器の属性だが、アクアはイグニスソードを使う事を嫌い、
ニルはアイスピックでもいいけど雷光剣の方が嬉しいらしい。
俺は武器が変わると使える魔法も変わるんだけど、
それは精霊達に合わせた方が互いに良い効果をもたらすと思っているから、
今回もニルに合わせて雷光剣を選択した。
「《武装加階!》タイプ:アウルカリバーン」
核に注ぎ込むのとは違い、
この魔法では俺の魔力を剣自体が吸い上げていき加階する。
1秒も掛からないうちに柄から翠光の光に満たされていき、
最後には切っ先までいっぱいになると、
その姿を変化させていく。
片手剣にしては少し太めの剣幅だった剣身は、
細身の直剣へと姿を造り替え、
見た目がトパーズともエメラルドとも見える宝石みたいな造りに、
グラキエルシリーズと違った翠光の輝きを持っている。
「行くぞ!」
「《勇者の剣!》」
俺の声が届いたわけではないだろうが、
剣の構えと口の動きで察したアルシェの魔法を皮切りに俺たちの模擬戦が始まった。
まずは迫ってくるマリエルと、
その接触直前にHITする計算で撃たれた勇者の剣の処理をする必要がある。
「《アイシクルエッジ!》」
「くっ!」
足下を凍らせながら迫る氷の塊を剣で捌く。
直後にその場を動くと、
俺がさきほどまでいた位置目掛けて、
近くの地面から氷の槍が突き出ている。
さきほど唱えたアイシクルエッジで俺は一時的に周囲の地面を俺の支配下に置いた。
制御力で勝てるアルシェは俺の支配領域を上書き出来るのだが、
魔法が発動する時間は上書きによって若干遅れる事となり、
アイシクルランスは俺がいなくなった後に発動したのだ。
「はあああああああっ!」
「ふっ!はっ!」
間を置かずに俺へと殴り掛かってくるマリエルの攻撃を、
手の平で叩き落とし、手の甲で方向をずらし、
足でローキックを防御しとひとまずのラッシュを捌いていく。
その間に横からアルシェの放ったハーケンスラッシュが迫り来る為、
一旦後ろに下がり、俺とマリエルの間を刃が通り過ぎるのを待つ。
「あの水無月さんの身体を覆う黒いのは猫ちゃんの魔法ですか?」
『そうですよ。普段は片手だけなどの一部分のみで使っているコーティングを、
全身に施しているんです。
あれなら素手でも多少の無理が出来ますし』
「多少の無理ねぇ・・・」
『お父さまの方針ですよ。
成長をしたいなら今の自分よりも少しだけ上を目指せ、と』
「・・・なるほどな。少しだけ上、か・・」
観覧席ではクーの魔法について説明がなされていた。
使った魔法は[コーティング]。
しかし、今回は全身に使用する事でパワードスーツのような無茶な体勢でもカバーが効くような使い方をしていた。
「旋風!」
地面に転がるような体勢から蹴りを連発するマリエルの攻撃を捌き、
右手のアウルカリバーンでの突きを放つが、
寝転んだ体勢のくせに足1本で地面を蹴り上げて空中に逃げて俺の剣を躱す。
そのうえ、中空で身体を回転させてから体勢を整え、
続けざまに踵落としを当てに来る。
「っ!」
「あぁっ!おしいっ!」
当たる、と誰もが思ったその攻撃を、
俺は左腕で1発目の踵落とし[斧顎]を受け止め、
2発目の踵落とし[顎震]をアウルカリバーンの柄頭で横殴りにし、
ギリギリ回避に成功した。
「相変わらず小技をっ!」
「《アイシクルバインド!》」
「行きますよぉ!」
辛うじて攻撃を捌ききった俺だったが、
体勢が崩れてしまったチャンスをアルシェは見逃さずにバインドを掛けてくる。
これには対応が間に合わず、あえなく俺は攻守共に不安定な格好でその場に拘束された。
マリエルも地面に着地すると同時に蹴り上げて俺に向かって拳を上げる。
「《風竜一閃!》」
距離は近かったがニルのソニックで剣速は上がり、
剣身が細くなった事でギリギリ間に合う形で俺とマリエルの間で剣は振るわれた。
目の前で放たれた一閃に対し、
マリエルは膝を折って上半身を後ろに思いっきり倒して回避する。
しかし、その視線の先にはアルシェへと向かうであろう進路を取る一閃が。
「《氷竜一槌!》あああああぁぁぁぁ!」
前衛として、姫の護衛としてマリエルが選択したのは、
魔力で出来た一閃に物理は無駄。
この場で一閃を潰す為の策として選んだのは、
同じく魔法で出来た一槌をぶつける事。
一閃と一槌の衝突により、
マリエルは本来はノックバックとして発動する風竜一閃の爆風で地面に張り付けられ、
一槌の冷気と一閃のカマイタチによってHPの大半が弾け飛んだ。
かく言う俺も目の前が冷気と爆風で遮られて何も見えない。
ニルの制御によって風の動きを読もうにも複雑に吹き荒び過ぎて、
アルシェの動きが一切掴めていなかった。
「ニル!前の塊を吹き飛ばすぞ!」
『あいさーですわー!』
「『《嵐の・・っ!》』」
目の前の視界を回復させる為の動きを見せた直後に、
俺たちへ向かって勇者の剣が多方面から雨の様に降り注ぐ。
以前ネシンフラ島でアクアが使った時のように一つ一つは小さくなってはいるが、
狙いが正確に俺と俺の逃げ場を塞ぐように襲いかかる。
「《風竜一閃っ!》」
『《ゲイルストライク!》』
その攻撃に対して俺とニルの選択は動かずに、
当たる勇者の剣だけを吹き飛ばす事だった。
俺の一閃は触れた対象に強烈なノックバックを起こすし、
ニルが手を銃のようにして射出した魔法は一閃を元に創ったノックバック魔法だ。
攻撃力自体は今のところ大してないが、
ニルが成長すればこれから色々と派生させる事が出来るだろう。
俺たちの真上と左右の空から振ってくる勇者の剣を選別し、
一閃とゲイルストライクにて迎撃した以外の勇者の剣は、
地面に次々と刺さっていき、
今度は周囲を土煙が覆う事となる。
(「アルシェの居場所はわかるか?」)
(『う~ん、この状況ではわかりませんわねー』)
遠距離からの魔法によって俺たちは完全に不利な状況下に立たされている。
風を吹き飛ばす動きを取れば位置を教えることになるし、
移動しなければまた範囲魔法を使ってあぶり出される様が簡単に頭に浮かんだ。
「仕方ない、全部吹き飛ばして仕切り直そうか」
『わっかりましたわー!』
そういうとニルは両の手を思いっきり叩き合わせる。
ぶぅわあああああーーーーーーーっ!
と、ニルを中心に風が、いや大気が爆発し、
視界が一気に晴れた。
そして、視界に入るアルシェはやはり俺たちの近くまで移動してきており、
今し方発生した風を気に留めずに槍を突き出すモーション中であった。
「《撃鉄!》」
胸元まで伸びてきていた槍の穂先をインパクトの剣速を持ってギリギリはじき飛ばす。
しかし、アルシェの足には[アイシクルライド輪舞]を履いていて、
上手く体勢や遠心力を利用し肘を引いて、
一回転する間に再度突きを繰り出してきた。
アルシェの戦闘用魔法[輪舞]の強みは、
その場で加速、減速、ブレーキが扱える点だ。
つまり、こういう近接戦では突きと呼ばれる加速が有効な攻撃が、
最大攻撃力を持って毎度発動する事が出来・・。
「くっそ!」
『はわわー!アルシェ強いですわ-!』
パリィをしても正面から弾いても、
ゲイルストライクを槍に当てても、
全て衝撃をうまく逃がしてすぐさま攻撃に移ってくる。
尚且つアルシェが近くで戦っていると、
制御力によって徐々に足場が凍っていき俺の方が不利になる為、
位置を後退しつつ攻防を繰り返さねばならない。
「ニル!」
『《エリアルフィールド!》』
「《アイシクルエッジ!》」
俺の指示に従い発動した新魔法。
領域魔法[エリアルフィールド]。
普段町から町へと移動する際に、
野宿用としてクーが使用している[セーフティーフィールド]と同系統の魔法で、
簡単に言えば、「ここからここまで俺の縄張りだから!」「バリア!バリアって言っただろっ!」って感じ。
ちなみにクーが使っているのは時空属性のフィールドなのだが、
ニルが使ったのは風属性のフィールド。
この魔法の発動により、
戦闘中の集中し切れていないままで地面を凍らせていたアルシェの制御力を妨害し、
尚且つ侵攻を止めた事で、
その場に踏みとどまって戦闘をする事が出来るようになる。
しかしアルシェもそれを見越して、
すぐさま足場を凍り付かせる魔法を詠唱しこれに対抗した。
『《エレクトリックハイスピード!》』
俺とアルシェが激しい攻防戦を繰り広げる間にさらにニルが魔法を発動させ、
一瞬俺の体内に電流が駆け抜ける感覚が発生して、
剣を握る指先からは微かに青い電流の火花が見えた。
加速魔法[エレクトリックハイスピード]。
以前から自身の制御力による生体電流操作を練習していたが、
ニルとのシンクロが出来るようになった為、
実用化を優先した結果生まれた魔法。
まだまだ制御力に難があるニルは電気を生み出しても大したことはなく、
さらに風の裏属性ということもあり適性がない。
その条件が揃う事で出力を最低まで落とし、
限定的な生体電流の操作をすることが出来るようになった。
キィィイィィィンッ!斬っ!
「くっ!返しの刃が・・・間に合わない・・」
「やっと前衛の役目が果たせるレベルになったか・・っ!」
基本の攻撃や防御は俺の意思で動かすが、
その間にやはり硬直という物がどうしても発生する。
その硬直の瞬間が俺にとっては絶好の攻撃チャンスなのだが身体が動かない。
そこをこの魔法がサポートして、
すぐさま刃を斬り返して俺の代わりに身体を動かし攻撃する。
限定的とは技術的にその硬直無視攻撃にしか利用が出来ないことを意味していた。
これにより、うまく足下を使って衝撃の緩和や硬直を回避していたアルシェと同じ舞台に上がることが出来た。
足場は拮抗して対等。
攻撃の回転率もニルの魔法で俺の方が上っ!
徐々にアルシェのHPを削っていき、
最終的に半分になった時点でメリーから声が掛かり、
その日の模擬戦は終了となった。
「はぁはぁはぁ・・・やっぱり負けましたか・・・はぁはぁ」
「いや、輪舞の扱いにも慣れてきたアルシェは十分に前衛が務まるレベルだよ。
でも、こっちも意地があるからな・・・はぁはぁ。
魔法では負けるのにこれでも負けたら立場がないだろ?」
動きをその場で止めた俺とアルシェは、
軽い雑談を挟みつつ上がった息を整える。
アルシェに至っては、
調息のため息を止めた時に可愛らしい声を漏れている。
「んぐっ・・ふぅ・・。
私は氷属性に特化されていますから、
他の属性であれば同じ程度か負けてしまいますよ?」
「個人であれば大抵扱いに慣れてなくて負けちゃうからな。
精霊がいてやっとかなぁ・・・」
「今回が進化していないニルちゃんだから拮抗しましたけど、
進化されたら私の魔法を飲み込んじゃいますよ・・・」
前衛としての純粋な技術は俺の方に軍配は上がる。
しかし、輪舞を使われると防御一辺倒となり攻撃に回れない。
そして、俺の方もサポート系の魔法を使用すれば再び俺に軍配が上がるというのが、
俺たちの戦闘力事情だ。
魔法に関しても、
アルシェの魔法は物理的な意味合いを持つ勇者の剣やアイシクルランスに対し、
俺が使う魔法剣は魔力を飛ばすので物理防御力の高い敵には有効と使い分けも出来てる。
『お疲れ様でした、お父さま、アルシェ様、ニル』
『ますたー、たおるだよ~!』
「おう、ありがとう。アクア」
「ありがとう、クーちゃん」
『クーお姉さま!ニル頑張りましたわー!』
アクアとクーに渡されるタオルを受け取り、
ひとまず汗を拭く。
とはいえ、息を荒げようとも模擬戦という事を意識していたので、
汗も軽くしかかいていない。
アルシェも匂いを気にするそぶりを見せなかった為、
今日はそのまま出発することにしよう。
あと少しで王都手前にある最後の町、フーリエタマナだ。
え?マリエル?
傷ついたあとはクーが影を使って回収して、
アクアがしっかりと治療していたから問題ないぞ。
模擬戦の後にアルシェに脱落してしまったことを謝っていたが、
死ななければああいう選択も有りだと思う。
今回みたくクーが回収してアクアの治療を受ければまた戦場に戻ることができるんだからな。
いつもお読みいただきありがとうございます




