閑話休題 -24話-[ハルカナム街道Ⅲ]
「という事で、
セーバー氏が風の加護持ちという事が判明したから、
事情をあまり説明しないうちに契約させることになった」
「???え?」
実際の所、精霊使いになる恩恵というか、
呪い解放についての説明は一切しておらず、
実質手遅れにしてから仲間を増やすようなやり方を俺はしている。
「お兄さんはどこまで話しているんですか?」
「契約すれば貴方の知らない情報を提供いたしますって」
「隊長・・・それなんか怪しいよぉ~」
「といっても、加護持ちを契約者にしない手はないだろ?
精霊が成長する為に必要な条件なんだ。
それに彼が精霊使いになれば全面的に信用も出来るようになる」
「それはまぁ理解できますけど・・・、
やっぱりある程度の説明はしてから契約に臨んで欲しいですね・・・」
精霊使いになれば必然的に日常生活の中に潜む違和感を感じるようになるだろう。
それをパーティメンバーに相談したところで察することが出来ず、
その違いに遅かれ早かれ気づくことになる。
見えている世界、感じている感覚が仲間と違うとわかれば、
自然と世界の現状について知っていく流れになって、
最後は俺たちに辿り着くかも知れない。
なら、呪いが解けた段階で仲間に引き入れてしまえば、
敵さんが使う人海戦術みたいな意味で、
俺たちにも別のところで活動するセーバー氏の見つけた情報を獲得する術が出来る。
なにより、
高レベルで物理特化。
オベリスクを見逃すことなく感知できて、
尚且つ破壊までこなせるセーバー氏の有用性が欲しい!
「では、どちらまで開示するかを決めてしまいましょう」
「といっても、基準がないからなぁ・・・。
どこまでであれば危険に巻き込まれないか・・・」
「ご主人様、
オベリスクを折りに行く段階ですでに危険ではないでしょうか?」
メリーの言うことはごもっともだ。
仲間に引き込むには誠意が必要になる。
それを相手の迷惑にならない程度に伝えるには・・・。
『お父さま、よろしいでしょうか』
「どうした、クー?」
『基準がないのであれば、
ある程度の被害は覚悟をして決めてしまわないといけません。
であれば、例外的な前例ですがゼノウさん方が知っている情報を元に決めてしまった方がよろしいかと』
なるほどな。
確かに彼らも魔神族関連に巻き込まれて着いてきてるんだったな。
えっと、彼らが知っている情報は・・・。
1.魔神族の存在
2.俺たちが斥候として調べている事
3.勇者に戦ってもらいたい
くらいで、オベリスクに関しては伝えていない。
このうち俺たちが彼らに伝えたのは、
魔神族を魔族に変換して王都で異変が起こっているらしい事と、
俺たちはそういう異変を調べて旅をしているから王都を目指しているくらいかな?
あ、破滅についても調べていて、
彼らでは見つけられないと伝えた気がする。
『どこまでおしえる~?』
「世界の破滅について調べているが、
精霊使いでないとそのズレを認識できない。
ってところが引き際として良い塩梅かと思うけど、どうかな?」
「敵についても確信には触れていませんし、
破滅に向かっているのも呪いについても、
詳しく言葉にしていませんし、
言葉を伏せているので悪くはないかと思います」
「そうですねぇ・・・。
ちょっと曖昧な部分が気にはなりますけど、
仕方がないのはわかりますし、いいんじゃないかとぉ」
「多すぎない情報量として良いと思います」
『クーも賛成します』
『ますたーがいいなら、あくあもそれでいいよ~』
というわけでニルの選定も終わり、
彼の魔力込めが完了したのを見計らって、
今し方決まった精霊使いになった場合の特性を伝えるべく、
盛り上がっているセーバーパーティへと近づいていく。
「どうですか?」
「君の風精霊からも精霊側に説明もしてもらったようだし、
魔力も込められるだけ込めたと思う。どうだ?」
手渡されるスライムの核を確認すると、
確かにしっかりと魔力は満タンに込められているようだ。
「問題なさそうですね。
それで、精霊使いになる事について最終判断の材料をお伝えします。
それを踏まえた上でお決め頂きたい」
「それは仲間と相談しても良いのか?」
「かまいません。
現状お伝えできる情報は意味を成さない程度の物です。
なので、その先についてもよく考えてください」
「わかった、伺おう。
みんな、ちょっと聞いて欲しい話があるらしいから来てくれ」
スライムの核をセーバーに返却し、
お仲間も集まってきたところ先に決まった内容を伝える。
「ゆっくりと考えて下さってかまいません。
本当は後出しで契約をして頂いた方が俺としては好都合と思ったんですけど、
うちのがそれはフェアじゃないと言い出しまして・・。
精霊使いとなれば少なくともセーバー氏にはもっと深い情報をお伝えできます。
それによってどう動かれるかは自己責任になりますが」
「わかった。では少し時間をもらう。
それと、お嬢ちゃん達にありがとうと伝えておいてくれ」
「わかりました、失礼します」
退席の挨拶を挟んでからその場を離れてアルシェ達が集まる場所へと戻ると、
ゼノウパーティもその場に集まっていた。
「お兄さん、どうでしたか?」
「少し時間をもらうってさ、
それとアルシェ達にありがとうって・・」
「それは良かったです。
やはり、仲間を増やすのであれば誠意は大事ですね」
「そうだな」
「なぁ、水無月よぉ。
なんであのおっさんはすぐに仲間にしようとして俺等は駄目なんだ?」
おっさんって、
ライナー氏よりも5歳程度上なだけでしょうに・・。
「今回セーバー氏が加護を持っている事が判ったからです」
「加護とは、四神から受けるあの加護か?」
「そうです。うちのアルシェがシヴァ神の加護を持っている事は割と有名ですし、
俺も直属ではありませんが亜神の加護を持っています。
今回に至ってはその前提条件で精霊使いになれる素質があったから話を振らせて頂きました」
ゼノウが言うように四神から直接受ける加護がアルシェのシヴァ神の加護や、
セーバーのテンペスト神の加護になる。
その真・加護持ちから祝福を受けた俺みたいなのはシヴァ亜神やテンペスト亜神の加護という称号をもらう事となる。
もしも、ゼノウ達の中で加護を持っている者がいれば、
是が非でも仲間にしたいと勧誘していたと思うが、
残念ながら彼らは普通の冒険者と調査も済んでいる。
「じゃあ、メリーさんとマリエルちゃんも精霊使いなのかしら?」
「いえ、私は妖精ではありますけど精霊との契約はありませんよぉ」
「私はクーデルカ様のサブマスターとして契約しております。
残念ながら加護は頂いておりません」
「なら、私たちも契約を出来るんじゃないんですか?」
「浮遊精霊はその人物が持つ魔力の属性によって近寄ってきます。
アルシェやマリエルなら水精が、
メリーには無属性の浮遊精霊が纏ってきます」
「じゃあ、水無月はどうなんだぁ?」
「俺は無・水・風・闇精を纏っています。
そして寄ってくる理由は浮遊精霊の加護の代わりに、
その属性魔力を栄養として成長することです。
つまり、パーティにその魔力を持つ人間がいないと精霊は成長できないんですよ」
俺の話を聞いて黙り込むゼノウパーティ。
暗にセーバーは特別で、
風精霊との契約が出来る条件が整っていると言っているんだ。
その上でゼノウ達は精霊と契約出来ない条件が整っている。
とはいえ、無属性の浮遊精霊と契約をするという手がないわけではないが、
既出の魔法を考えるとヒールとキュア程度しか無属性の魔法は存在しない。
ヒール系統でもアクアが使える様になっていることから、
何か見落としがあるようでまだ口に出して良いと判断が付かないのだ。
その時、空から1羽の鳥が舞い降りてきて俺の前で羽ばたき留まった。
『あ、せーばーの契約候補精霊ですわー!』
「契約候補って・・・お前、浮遊精霊じゃないじゃん・・・」
指にとめるには少々大きい矮鶏サイズの鳥と対話する為、
戸惑いながらも腕を差し出すとバサバサと羽ばたきながらとまってくれた。
色合いは翠を主色に黄色い毛先など、
美しさにステ振りしたような姿をしている。
「お前、名前は?」
『ふるぅ・・』
「ないのか。いつからセーバー氏と一緒なんだ?」
『ふるぅ・・』
「ってことは、加護をもらってからか。
例の守護者の使者じゃないのかぁ?あ?」
『ふ、ふるぅ・・』
「お前嘘がヘッタクソだなぁ(笑)」
なんでも子供の頃から浮遊精霊としてセーバー氏に纏っていて、
加階してからは人懐っこい動物を演じながら一緒に旅を続けており、
今回の契約の話を聞いて立候補したらしい。
ちなみに初めは守護者の命令で憑いていたが、
彼を気に入ってからは自分の意思でいたっぽいな。
「いやいや、なんで話が通じてんだよっ!」
「風の加護持ちってだけじゃなくて精霊との親和性が高くなれば、
言葉を話せない精霊相手でも言ってることがわかるんですよ」
『ふるぅ・・』
「いや、俺が話せなくてもニルがいたし今回の件は結局起こったことだ。
っていうか2回もチャンスがあったなら、
人の姿に加階すれば話も出来たろうに・・・」
『ふるぅ・・』
「それもそうだけど・・・うちのクーなんか猫の姿でも話せてたぞ」
『ふるぅ!?』
セーバーパーティの選択を待つ間に、
契約予定の精霊と話を進める内にひとつ不安要素が出てくる。
「浮遊精霊を予定してスライムの核を渡したけど、
お前の位階だと不釣り合いで核が負けちゃうよなぁ・・・」
『それもそうですね、
お姉さまもクーも2回目の加階で今の核に変わりました。
お爺さま曰く、耐えられないからと仰っていましたし』
『せんようのかくつくる~?』
「そもそもアレは共同作業になるからシンクロが出来ないと造れない・・。
なら初めての試みだけど、
αの核を使って初期加階をしてみるか。
早い内に専用核に移らないとすぐに壊れちゃいそうだけど・・・」
『ふるぅ・・?』
影から再び宗八箱を取り出して、
数の少なくなったスライムαの核を摘まみ上げる。
ニルとノイ用に少なくとも2つはあればひとまずいいし、
今のところお金稼ぎの為に、
片栗粉法は俺たちだけで独占状態だ。
だから完全な状態のスライムの核は、
俺たちにしか安定した確保が出来ない。
当然スライムαの核は宝石としての価値はあるので、
購入しようとすれば傷有りでも5000Gはする。
傷無しだと8000Gはする為、
仲間を増やす為とはいえポンとくれてやるにはおしいと感じてしまうほどの値段だ・・・。
『でも、ふつうのかくだとたえられないんでしょ~?』
「他の生物由来の核があればいいけど、
今の所はスライムしかいないからなぁ・・・。
それで専用核まで造れてるわけだし、
他に居ても大差ないのかも・・・。
とりあえず、クー。[イレイズ]で綺麗な状態にしてくれ」
スライムの核と違い、
αの核には異物ともいうべきウイルスのような存在が中心に居座っており、
それを闇精霊の専用魔法で消さなければ利用することは出来ない。
『かしこまりました。《イレイズ》』
渡したαの核を両手で握り込んでクーが魔法を唱えると、
指と手の隙間から黒い輝きが発生し、すぐに収束する。
『お父さま、出来ました』
「ありがとう、クー」
しゃがみ込んでも俺の方が視線が高い為、
小さなクーは意図せぬ上目遣いに両手を精一杯伸ばして俺に差し出してくる。
その可愛い様子についつい頭を撫でると、
頭を動かして俺の手にすりつけてくる姿が猫っぽい。
その時、背後から人の近づいてくる気配を感じた。
「・・・待たせたな。
仲間と話し合った結果、君の話に乗ることにした。
それで君たちに協力すれば、
何かしらの情報を伝えてもらえるんだろう?」
「えぇ、セーバー氏が望めばお話します。
でも・・・」
「自己責任・・・だろ?
それも理解しているから大丈夫だ」
言葉の覇気。
そして、彼と彼の仲間の瞳を見てもその覚悟は覗えた。
「わかりました。
では、先に発生した問題を解消するので魔力を満たした核を出して下さい」
「これだ」
「クー。[ガイストアプション]と[ビータイリンク]で核の魔力を移せるか?」
『1度クー達を通るのでクーだけだと魔力制御が足りないかと・・・』
以前、ブルーウィスプの調査をする為に使用した2つの魔法。
禍津核の魔力を抜く為に開発した[ガイストアプション]と、
その吸収した魔力を仲間に分配する為の[ビータイリンク]。
クーが言っているのはクーの中を1度通ってから供給する魔法コンボの為、
クーの魔力が多少混ざってしまうのだ。
その混ざりを無くす為には、
魔力制御でうまくクーの魔力が干渉しないように細かな制御をしなければならない。
「失敗するわけにはいかないし、
これはニルとマリエル以外の全員でやろうか」
「わかりました」
「かしこまりました」
『仲間はずれですわー!』
シンクロで制御力を統合してから確実な成功を目指した結果に、
ニルが異論の声を上げる。
「いや、流石に2属性までしか俺が耐えられんから我慢してくれ。
マリエルだって静かにしてるだろ?少しは見習え」
「いえ、マリエルはいつもシンクロの時はしょんぼりしてるだけです」
アルシェの密告にて初めて知るマリエルの心情。
何も言わずに明後日の方向を見ているから、
早く終わんねぇかなぁと考えているだけだと思っていた。
そうか、あいつなりに落ち込んでたのか・・・。すまん。
俺の説得に渋々納得したニルは、
明後日のマリエルの元へと飛んでいく。
きっと傷のなめ合いをするのだろう。泣けるわ。
「今から精霊使いの技をお見せします。
ここまではどの精霊使いも辿り着けるようですから今後の参考にして下さい」
「わかった、しっかりと拝見させてもらう」
『ふるぅ・・』
視線で4人に確認をしてから、口を開く。
「「「『『シンクロ!』』」」」
アクアとアルシェが蒼天の、
クーとメリーが闇光の、
そして俺は2色が混ざるオーラを身に纏った。
『《ガイストアプション!》』
「《ビータイリンク!》」
クーの詠唱により、
セーバーの手に乗る核の上に黒い魔法陣が組み上がっていき、
俺の詠唱に同じく白い魔法陣がαの真上に組み上がる。
「いまから魔力の移動をします。
今回は精霊の位階が高い為、上位の核を使用する必要が出ました。
その前準備です」
「・・・・」(コクリ)
セーバーが頷くのを確認してから魔力制御を開始する。
吸い出し分配するのはクーだけでも可能だが、
その吸い上げた魔力に他の魔力が干渉しないように魔力制御をするのが俺たちの役目だ。
クーも慎重に吸い上げて魔力を通していくので、
込もる魔力量に対しては長い時間をかけた。
徐々にセーバーの持つ核の翠玉の輝きが失われていき、
比例して俺の持つαの核に翠玉の輝きが満ちていく。
2分ほどで作業は完了し、
シンクロを解いてからセーバーに話しかける。
「さぁ、こちらが今回使用する事になった核です」
色を失った核を引き取り、
代わりに同じ輝きをするαの核を彼の手の平に転がす。
これで準備は整った。
あとはセーバーが契約の為の詠唱と精霊の名前を決めるだけだ!
* * * * *
「《其は大気を満たす風の巫女なり。
我と相見える不幸を嵐と共に葬り去り、天空への門を開かん!
我が下に来よ!リュースライア!》」
アクアと同じ名字のない名前を授かる精霊は、
核に触れると風の卵となって身体の再構築を始める。
初めてこの状態になると30分近くは動けないので、
ティータイムをしながら待つことにした。
「精霊使いとしての説明は以上です。
普通の冒険者と違う点は、
破滅の呪いの影響を受けない事と精霊と一緒に戦うことが出来る事。
パーティ人数に数えなくていいので実質6人パーティになれます」
「宗八は7人パーティってことか?」
あの鳥精霊が加階を済ませて出てくれば言葉が喋られるようになっているはずなので、
そのまま契約をすればこの取引は完了となる。
いまは事前に精霊使いについての説明中で、
セーバー氏の中での俺は精霊使いの先輩という認識に変化しており、
年上だけど後輩という事でお互い呼び捨てで敬語もいらないと言われた。
そんな簡単にひと回り上の人にタメ口聞けるかっ!
せめて1ヶ月くらい一緒に仕事しないと、
職場でも仲の良い年上にタメ口は無理だ!
「まぁ、一緒に動けばって意味ではそうです。
俺たちは発生している問題に対して別行動をすることもありますので」
「男は貴男だけなんでしょう?
一緒に居てあげないと危ないんじゃないかしら?」
「いいえ、この方は個人の戦力も魔法も素晴らしいです!
レベルだけを見ているようでは理解できない部分があるんです!」
俺の回答に不満を覚えたセーバー陣営の女魔法使いが注意をしてくるが、
その反論を何故かゼノウ陣営のフランザがしている。
というか、突如現れた俺たちの行動に不満を覚えるセーバーの仲間とゼノウの仲間が言い争いを始めている。
何故こうなったんだ・・・。
「どうしようか・・」
「話題は私たちなのに話に入れませんね・・・。
こういう時は黙っておきましょう、気にしても無意味です」
流石は王族。
色んな意見を聞く機会や父親の対応を知っているからか、
アルシェは物怖じすることなく、
耳に入ってくる話題をそよ風のように受け流して、
メリーが入れるお茶を楽しんでいる。
メリーもメリーで慣れているのか、
黙って各員のお茶を注いで回っている。
「マリエルは俺が別行動をするのに不満か?」
「必要だからしているのをわかってて文句は言えませんよ。
隊長は私たちだけで姫様を守れると信じてくれているんですよね?
一応ハルカナムではアクアちゃん達も付けてくれましたし、
不満らしい不満はありません」
「そか」
マリエルもなんだかんだで一緒に行動をし始めて2ヶ月程度か。
まぁ、初めは反発していた娘にここまで信頼されるのは悪くない。
しかし、セーバー陣営の批判に反応しそうになり、
耳をピクピク動かしたり、
頬を膨らましたりする娘もいる。
「気にするな。
俺の評価に大した意味はない。
結果を出せればそれでいいんだからな」
『ますたー・・・』
『お父さま・・・』
2人の頭を撫でてやると、
トテテと近づき俺に抱きついてくる。
う~ん、子供にはあまり見せるべき光景じゃなかったか・・。
「止めろお前ら。
彼らには彼らの理由があって別行動を取っているんだ、
俺たちがとやかく言って介入して良い話じゃない」
「でもな、セーバー。
これから協力して行くならな、
ちゃんと伝えてやるのも俺たちの役目だろ?」
子供たちの姿を見ていたセーバーが自身の仲間に声を掛ける。
それでも彼らの言い分は、
先輩として後輩が間違っているなら注意を促すべきと言う内容であった。
世界は違えども同じ様なお節介さんはいるものだ。
先の女性だってアルシェ達を心配しての指摘だったわけだしな。
「では、模擬戦で決めましょう!」
「あぁ、俺たちはここ最近いつもやらされているからな!
こいつらに勝つのは容易じゃねぇぞっ!」
「んだと、てめぇー!年上も敬えねぇのか、おい!」
「いいでしょう!レベル差を考えて私たちも手加減はするけれど、
怪我をしても知りませんからねっ!」
なんで外野が盛り上がってるんだ・・・。
トワインとライナーがガタッ!と立ち上がって宣戦布告し、
それに対してセーバー陣営の女魔法使いと片手剣士が呼応する。
「1抜けで」
「お兄さんがやる気がないなら2抜けです」
「主がやらないのであれば3抜けです」
「私だけやる意味がないので4抜け~」
『おなじく~』『お父さまがやらないなら』『やりませんわー!』
盛り上がりに引っ張られるわけもない俺たちの宣言に、
セーバーとゼノウの落ち着いたリーダー2人も同じく抜けを宣言した。
それでも収まらないのか、
2対2の模擬戦を勝手に始める4人に、
それぞれの仲間が収束後の回収の為に着いて行った。
「すまんな、俺も行ってくる」
「怪我をした時用にアクアも連れて行って下さい」
「わかった、感謝する」
『いってきま~す』
その場をゼノウが離れたのは、
もちろん仲間が気になったのもあるだろうが、
自分には聞く権利のない話をする可能性も考えた結果であろう。
アクアも飛んでいった頃、ちょうど時間も良い具合に進んでいたのか、セーバーの近くに浮かんでいた卵が上部から解け始めた。
「・・・言葉が出ないな・・、
イメージをしろと言われていたが、
曖昧な部分もあったはずなのに・・・」
彼の言葉を聞く限り、
イメージしていたのは例の守護者の姿だったのだろう。
花を意識したような服装と先端が手羽先のようなマフラーに、
人間と同じ手足、
そして風の卵の大きさから予想していたが、
やはり3~4歳くらいの女の子が姿を現した。
アクアの進化も次が同じく3回目という事もあり、
ある意味俺も参考になった。
ゆっくりと目を開けたその瞳は鳥の時と同じ黄色く、
髪や服装が翠基調だった為、
良く映える見た目となっていた。
「こんにちわ、セーバー。
あぁ~、やっとお話が出来ますわ~」
「お前がいつも一緒に旅をしていた鳥なのか?」
「えぇ、貴方にいつもとまっていた鳥のリュースィよ~」
風精霊のリュースライア、愛称はリュースィ。
元が鳥なので名残がある鳥の羽根を編み込んだマフラーが特に目を引く彼女は、
人間の姿では飛ぶことは出来ず、
クーと話をした末に、
同じように鳥モードに変化できるよう進化したらしい。
契約に関しては詠唱に独自性も少なく、
俺の身分や名前をセーバーのものに変えるだけでいいので、
手順だけ伝えてさっさと契約をしてもらった。
喧嘩をしていたセーバーの仲間とゼノウ達もいつの間にか戻ってきており、
彼らが起こした契約の花を恍惚の表情で見つめていた。
こうしておっとり風鳥精霊のリュースィとセーバーは契約を完了して、
正式に精霊使いとなった。
* * * * *
セーバー達と出会った時刻が時刻だったのと、
思ったよりも交流に時間を割いてしまったらしくて、
もう夕暮れに差し掛かっていた。
「御者、今日は早いがここで野宿にしよう」
「わかりました、遅れた分の料金は請求いたしますよ?」
「それはこっちの事情だから支払う」
先に話していた精霊使いの話とは別に、
俺たちが動いている経緯とこれまでの異変についても伝え終えていて、
今日は俺たちの方も野宿の準備を始めていた。
リュースィは俺たちと別れる明日までの間に、
精霊使いに関する精霊視点の情報をアクア達に聞いているので、
3パーティ+精霊の4組のグループが出来上がっていた。
「宗八の精霊を見ていると人間では出来ない色んな事が出来るんだとわかるな」
「そりゃそうですよ。
俺たちの魔法は基本的に魔導書に頼っていますけど、
精霊の魔法は自分たちで魔法陣を組み上げることが出来るんです。
どんな魔法が作りたいというのを精霊に伝えることが出来れば、
頑張って創り上げてくれますよ」
「あちらの女性が言っていたけれど、
宗八側の女の子は魔法がすごいらしいな。
それも精霊関係か?」
「ん~、確かに協力して創り上げたりもしていましたけど、
センスがあるのとやはり加護の存在が大きいと思います」
「なるほど、彼女も加護を持っているのか・・・。
それで魔法にも精通しているから自身でも組み上げられると・・」
あ、話の流れでアルシェが加護持ちって事を教えちゃったぞ。
まぁ加護持ち同士何か教えたりも出来る可能性はあるし、
伝えちゃいけない話ではないよな。
アルシェが姫って話も伝えているし、
俺たちについて調べればいつでも知る機会のある情報でもあるし。
「リュースィは風精なので、
風や雷で利用出来そうなアイデアがあれば魔法で再現してくれますから、
シンクロが出来るようになれば伝えてみて下さい。
それと、さきほども伝えましたが・・・」
「リュースィに魔法を使わせるな、だろ?わかっている。
契約する為に話が出来る姿にする必要があって、
今回は協力してくれたってのは理解している。
魔法を使って核が砕けても契約は切れないけれど、
喋ることが出来なくなる、だろ?」
「そうです。
シンクロまで出来ればその核を再利用して、
専用核の精製も出来ますし、出来るだけ劣化しないように運用して下さい」
「わかった、気をつけるよ」
頷くセーバーの動きに合わせて耳についたアクセサリーが揺れる。
今回の話の着地地点としては、
1.セーバーを精霊使いにする
2.協力者として別視点を持って異変を調べる
3.オベリスクの破壊を担当する
4.俺のクランに入る(ハルカナムに到着次第登録予定)
5.連絡用に揺蕩う唄を渡している
こんな感じかな。
事前にカティナからいくつかの揺蕩う唄を受け取っており、
人間用のイヤリングだけでなく、
精霊用のチョーカーも汎用色ではあるが用意されていた。
もちろん彼の精霊であるリュースィにも渡してあり、
離れていてもうちの精霊達やセリア先生とも話が出来る状態にした。
それと、今回は彼の仲間には渡していない。
別行動を前提にしているのと、
セーバー以外は精霊使いではない為破滅に気づけない。
あと、急にコールが来ても何喋れば良いんだよってなるだろ?
仕事の話や精霊の話があるからセーバーとも話せているけど、
いきなり雑談のコールが来ても対応出来んって。
こちとらオタクぞ?
連絡用には1人が持っていればいいので、
加護を持たない冒険者を量産型無属性精霊使いにする手筈が整えば、
彼らにもコールを渡すのもやぶさかではない。
「先にお風呂入っちゃいますから、パーティの調整をしますね」
「はいよー。
じゃあ男は男でパーティを組み直しましょうか」
「わかった」
クーの[セーフティフィールド]内では、
現在お風呂の準備が進んでおり、
先に女性陣が入る予定で、
アルシェ達が他の冒険者も利用する為の事前準備を整えていた。
パーティの組み替えを終えて女性陣が位相のズレた世界に消えていくのを見送ると、
セーバーの仲間である男2人が女性陣が消えた付近の空間へと走って行く。
「マジかよ!外で風呂とか意味分かんなかったけど、
これじゃ男のお楽しみが出来ないじゃねぇか!」
「何が起きて風呂場に俺たちは入れないんだぁっ!」
「あの人達アホですね」
「流石に擁護出来ませんわ」
「マリエル、それにトワインさんも・・・。
男なんだから仕方ないんですよ・・・」
1パーティ5人までの為、
人数あわせの為にひとまず離れて俺たちと共に居たマリエルとトワインさんが、
蔑むような視線を送りながら呟く。
「でも、隊長はいつも覗きませんよね?」
「そりゃアルシェ達を覗いても旅に支障が出るだけだろ。
覗くメリットよりデメリットの方がデカすぎる」
「水無月さんって真面目ねぇ・・・」
「いや、宗八の言い分が正しいと俺も思うが?」
むしろアルシェは以前自分からお風呂に入りたいとか言ってたけどな。
俺が丁重にお断りして以降は、
大人しくメリーやマリエル達と風呂に入るようになっている。
意見の合ったセーバーと一緒に嘆く2人を説得に行き、
女性陣が全員上がってからは、
火の番を交代して男性陣も順々にお風呂に入る。
「そうだ、宗八。
シンクロの先って何かあるのか?」
「あると言えばあるし、無いと言えば無いです。
シンクロまではどの精霊使いも使えるようになるそうですが、
その先に関しては何も言われていません。
俺たちは俺たちなりの成長をして、
セーバー氏とリュースィは貴方方流の成長をすれば良いんです」
「努力無くして成長ならず、か・・・。
他の精霊使いには会ったことがあるのか?」
「いえ、それが会ったことがないんですよ。
だから協力体制を取れたのもセーバー氏が初めてです」
足取りが全然追えない精霊使いたち。
数が少ないにしろここまで音沙汰がないというのは、
すでに先手を打たれたのかと不安になるから早く出頭してほしい。
就寝もフィールドの中を女性に使って頂き、
男性は全員影倉庫の中で雑魚寝することでその日は終わりを告げた。
* * * * *
そして、別れの朝が来た。
恒例の朝練は流石に他のパーティも一緒と言うことで、
迷惑を掛けるわけにも行かない為キャンセルとなり、
ホッとするゼノウパーティを尻目に前に出ると、
セーバー氏も代表して前に出てきた。
「じゃあ、お元気で。何かあれば連絡を下さい」
「あぁ、そっちも王都の事は頼む。
以前のクエストを出る時も帰ってきた時も全く異変には気づいていなかった。
今戻れば違いに気が付くのかも知れないが、
ひとまずは任されたクエストの達成を目指すよ」
『じゃ~ね』
『アクアーリィさんも、皆様もお元気で』
人間代表と精霊代表で握手を交わす。
その横ではいつの間にか仲良くなったセーバーの仲間とゼノウパーティが声を掛け合っている。
特に喧嘩をしていたライナーと男冒険者の中の良さがイラッとする。
「じゃあ、全員影の中に入ってくれ~」
「では、お元気で」
「失礼します」
「今後ともよろしくで~す」
ゼノウパーティを影に納めてから、
改めて一言ずつ伝えて姿を消していく仲間をセーバー達と見送る。
「そういえば、歩いて旅をしているんだっけか?」
「あぁ、それは嘘です。
話をするのに警戒心を煽りたくなかったんで、
そっちを見つけてから歩きに変えたんですよ」
「こんな視界の悪い道でどうやって俺たちを見つけたんだよ?」
初対面から砕けた言葉を投げかけてきていたセーバーの仲間の男が、
横から質問を投げかけてきた。
他の仲間もセーバー自身も歩きに変えたなどの発言から疑問が尽きないらしい。
「セーバー、俺たちの成長をお見せします。
これに囚われずにリュースィに合った成長を期待します」
『氷纏』
投げかけをしっかりと受け止めたあとに、
視線をセーバーへと移し、
俺にしては珍しい意識的な真面目な顔と声で声を掛ける。
出発の空気を察してアクアも準備に入った。
その様子を見る各々の瞳からは物珍しく眺める者や、
その光景に感動する者、そして真剣な視線を送る者がいた。
「では、失礼します。また会いましょう、セーバー」
「あぁ、また会おう。宗八」
「『《水精霊纏!》』」
水の膜に包まれて、
いつもは尻尾で斬り裂く演出をするのだが、
今回は別れの瞬間という事もある為、
中から直接飛び立つことにする。
頭で膜を内側から破り飛び立つと、
マントの中からニルとクーが顔を出してリュースィに向けて手を振る。
流石にこちらはそれに浮かんでしまっているので確認は出来なかったが、
満足そうな顔を2人がしている様子から、
あちらでも手を振り返してくれたのだろう。
俺としても精霊使いの頼もしい仲間が増えたことももちろん嬉しいが、
どちらかと言えば、
娘達に友達が出来たことが結構嬉しかった。
今まで出会った精霊達は姉妹以外で言えば全体的に年上であったから、
友達というよりは仲の良い先輩って感じだった。
それが初めて身内以外の精霊と仲良くなれたのだ。
これを友達と言わずしてなんというか?
とりあえず予定通りの情報の共有と、
予定外ではあったけれど仲間も増えるという良イベントを起こして、
俺たちは遅れを取り戻す為、
急ぎフーリエタマナへ向けて飛ばすのであった。
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