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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第01章 -王都アスペラルダ城下町編-

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†第1章† -05話-[訓練方針会議]

お盆休みいただきました

 短い時間の模擬戦ではあったんだけど、

 お互いがそれなりの汗を掻いていたので一旦汗を流しに俺はお風呂場へ、

 アルシェはメリーを引き連れて王族専用入浴場へと移動した。


「ふぃ~、モンスターとの戦闘は脳筋みたいに切った張ったばかりで接近戦が多いから、

 アルシェとはなかなか緊張感のある模擬戦ができたなぁ~」


 身体をさっさと洗ってしまい、

 のんびりと程よく疲労の溜まった体を湯に浸からせてひとりごちていると、

 ガラガラッと音を立ててお風呂場の扉が開かれる。

 姿を現したのは俺と同い年くらいに見えるのに、

 筋肉が結構がっしりついている青年だった。


「あ、先客がいましたか。

 すみません、一緒しても大丈夫ですか?」

「気にせずにどうぞ。

 城の人間というわけではないので気を使わなくてもいいですよぉ~」


 リラックスした声で返事をするとカラカラと爽やかな顔で笑っている。

 何がおかしいんじゃい。

 人生?青春?そんな感じの眩しいものが充実している陽の者と同じく、

 パリピ特有のキラキラをこいつは持ち合わせている。

 羨ましくなんかないんだからねっ!


「わかりました。では、お言葉に甘えて失礼します」


 こちらの筋肉(キンニ)君も体をさっさと洗ってからがざぶっとお風呂に入ってくる。

 細マッチョ羨ましいなぁと彼を見過ぎたのか俺の視線に反応して声を掛けて来た。


「俺がどうかしましたか?」

「いやいや、俺とそう年は変わらなさそうなのに体を鍛えてるなぁ、

 羨ましいなぁと思って見ていただけですよ」

「ハハハ、恐縮です。

 まぁ、兵士になる前から体は鍛えていましたし、

 いきなり今から体作りを始めてもすぐに筋肉はつきませんからね。

 ゆっくりでいいので毎日トレーニングを続けてください」

「あ、この城の兵士さんなんですね。

 俺は今日から数日この城に居候する身なので、

 立場的に微妙なんですけど、機会があればトレーニングをつけてくださいよ」

「そうなんですか。

 わかりました、機会があれば面倒を見させていただきます」


 そんな肉体改造談義を終えて二人して湯船を出る。

 いやぁ風呂に入って体も清清しいし、気持ちの好い青年と話せて心も清清しいわ!ワハハハハ!


水無月(みなづき)様、お待ちしておりました」

「あれ、メリーさん?何してるんですか?

 御付のメイドならアルシェと一緒にお風呂に入るんじゃないんですか?」

「入浴はすでに終えてアルシェ様は自室へ戻られております。

 いまは身支度を別のメイドと整えています」

「はぁ・・・。で、メリーさんはなんで俺を待ってたの?」

「アルシェ様との会談をする部屋へご案内する為です」

「なるほど。このままいけるけど、もう行っても大丈夫ですか?」

「可能です」

「じゃあ行きましょう。あ、ちょっと待ってください」


 俺の返事からすぐに動き出したメリーさんに静止の声をかけて、

 一緒に浴室を出たはずなのに未だに脱衣所で鎧を着ている青年に声をかけておく。


「知り合いが迎えに来たので先に失礼しますね!」

「あ、はーい。またお会いしましょう!」


 小気味良い返事を受けて、メリーさんの隣へ追いつき歩き出す。


「どなたかと一緒だったのですか?」

「名前は知らないけど、同い年くらいの男性ですよ」

「流石に女性とは思っておりません。・・・アルシェ様に報告しても?」

「なんでだよ!?そんな関係じゃないし興味もないからね!?」

「そうですか・・・」


 こちらを向いて残念そうな表情をしたメリーさんは大変残念そうな声音を発した後に、

 ぱっと正面を向いて足を速めてしまった。

 もしかしなくても、彼女は腐っているのかもしれない。

 でも、触れない。怖いから。

 この世界にやらないか文明があるかどうかもわからないんだから、

 やぶ蛇になる可能性があるこの繊細な問題はスルーした方がいいと、

 俺の中のノーマルが警告を発する中、目的の部屋へたどり着いた。



 * * * * *

「失礼いたします」

「失礼します」


 案内された部屋へメリーさんが先に入室しる様子をみて、

 続いて俺も会談をする部屋へ入ると、

 俺たちよりもお早い到着をして一人ソファで座る人物がいらっしゃった。

 落ち着いた雰囲気のある魔法使い・・・、

 というよりは魔導師と呼ばれる格好に見える。

 緑髪のその女性はこちらの存在に気付き目線を向けて声を発する。


「あらあら、いらっしゃいませ。

 お先に失礼させていただいておりますわ」


 その女性は丁寧?なですわ口調で返答をしながら立ち上がり、

 わざわざお辞儀までして挨拶をしてくださる。


「アルシェ様に魔法を教えております、

 アスペラルダ宮廷魔導士のセリア=シルフェイドと申します」


 丁寧なお辞儀をする女性に改めて挨拶を返す。


「ご丁寧に痛み入ります。

 私は冒険者をしております水無月宗八(みなづきそうはち)と申します。以後お見知りおきを」


 それっぽい返礼を返してソファへと座り直すようにと手で伝え、

 セリアと名乗る20~30程度に見える女性が座るのを確認してから俺も腰を落ち着ける。


 先生の正面に座るとすぐにメリーさんが冷たいお茶を目の前に置き、続けて先生の前にも同じ飲み物を差し出す。


「セリア先生もお茶でよろしかったですか?」

「えぇ、かまいませんわ。ありがとうございます」


 おっとりと喋る先生はのんびりとお茶に手をつけてコクコクと飲んでいく。

 アルシェはまだ戻って来ていないけど、

 いまのうちにいくつか質問を投げてみようと思い、

 お茶をテーブルへ置いたタイミングで声を掛ける。


「セリア先生・・・と呼ばせていただきますが、

 アルシェの先生ということでいくつか質問してもよろしいでしょうか?」

「いいですわよ。

 私も貴方に聞きたいことがありますし、

 アルシェ様が来る前に少しお話をしましょうか。

 私は水無月(みなづき)君と呼ばせていただきますわ」

「ありがとうございます。呼び名の方はお好きにどうぞ。

 じゃあさっそく不躾ながら・・・、

 セリア先生は妖精種の方でしょうか?」

「ん~、残念ながら妖精種ではないですわねぇ、精霊種ではありますけれど・・。

 私は風属性の精霊でテンペスト様直属の配下の一人ですわ」


 うわぁ~。

 昨日おっ立てたばかりの異世界の目標を1つ達成してしまった。

 こんな近くに本物の精霊がいたとは・・・、

 世間ではないが異世界も狭いもんだな。


「次は私ですね。水無月(みなづき)君は異世界人で合っていますか?」

「そうです。3ヶ月と少し前にこの世界へと来ました異世界人です」

「私はこの世界の住民ですから異世界の知識に興味があるのですわ。

 時々でいいからお話を聞かせていただけるかしら?

 あ、でも記憶が混濁しているとお聞きしておりますけれど、その後はいかが?」

「記憶もエピソード記憶が抜けていただけなので話をする分には問題ありませんよ。

 この数ヶ月は異世界に慣れる為に必死でしたので、

 忘れていた事を忘れていたようです(笑)

 いま改めて確認してみましたが、もう支障は無くなっていますね。

 記憶は戻っています」

「それは良かったですわね。

 では、時間があるときにお話をしましょう。次は貴方の番ですわよ」

「アルシェと模擬戦を先ほど行ったのですが、

 魔法の扱いが習得した魔法と異なる効果を発揮しまして、

 あれを教えたのはセリア先生ですよね?

 原理とかお教えいただけないでしょうか?」

「私も先の模擬戦は拝見させていただきましたわ。

 素晴らしい判断能力に決断力、

 まだ若いのに良い目と思考力を持っておられますわね。

 確かにアルシェ様があの時に使った魔法は全て私が使い方をお教えいたしました。

 魔法が異なった効果を発揮した、

 というのはアイシクルエッジでしょう。

 あれは指向性ベクトルを持たせただけのものですわよ」

「しかし、魔法は誰かに教えられるのではなく、

 魔導書を利用して習得するものと認識しています。

 確かにオリジナリティに欠けるとは思いましたが、

 どこを探しても現存魔法の改変方法なんて目に付く限りにありませんでした」

「それはそうです。

 この改変は自分で気付くか人に教わるしか方法はありませんわ。

 私は家族から教わりましたが、

 冒険者であれば高レベルの魔法が扱えるようになってから、

 初めてギルドを介して教わる事なのですわ。

 つまり、上位魔法までは基礎魔法というのか魔法ギルドの見解ですの。

 もちろん選定に選定を重ねて、

 悪事に手を染めないであろう者のみにお教えしております」


「低レベルの魔法しか扱えないものは、

 この扱いの難しい技術を暴走させて大災害を起こしたり、

 街中で自爆するという事件もありましたわ。

 ですから、これは簡単にお教えすることは出来ないですわよ。

 アルシェ様は水属性の上位魔法[アクエリアス]を覚えておられたのでお教えいたしましたが」

「なるほど、納得しました。

 確かに人に害を及ぼす可能性があるのでは仕方ありませんね。

 でも、自分で気付けば問題ないんですよね?」

「えぇ、そうですわ。頑張ってくださいね」


 魔法のベクトルを操作して改変を行うか。

 詠唱があるのであれば、

 文脈を変えたり区切りを変えれば効果が変わったりするんだろうが、

 この世界の魔法が単純な魔法名を唱える単一魔法。

 で、あれば・・・消費魔力がカギだな。

 俺のアイシクルエッジは本来の消費MPより抑えられている感覚がある。

 この感覚はもっと大事にしておいた方がいいかもな。

 加護のおかげで水魔法の扱いが向上して、

 無意識に無駄を省いた結果が消費MP減少なのかもしれない。

 詠唱にしても呪文名を言葉にするというのは、

 この世界の詠唱に属する可能性は捨てられないし・・・。

 すぐに動き出していろいろと試してみたいな。


 その後はアルシェが到着するまで雑談と戦闘技術についての意見を交換した。

 魔法使いの立ち回りかたはやはり基本的には固定砲台であるらしい。

 アルシェのような動ける砲台は加護持ちでない限りなかなかいないってさ。良かったぜ!



 * * * * *

「大変お待たせいたしました」

「待っている間に良い話も聞けたし問題ないよ」

「私も異世界の話を聞けて満足していますので気にしないでくださいませ」

「・・・先生と少しの間にずいぶんと打ち解けられましたね、お兄さん」


 軽い挨拶を終えて、どこか不機嫌そうなアルシェは上座へ座る。


「ポルトーはまだ来てないのですか?」

「この席には来る様に声は掛けていますが、少々遅いですね。

 確認してまいります」


 若干の不機嫌さを含むアルシェから確認の声が上がり、

 メリーさんが答えて早々に部屋を出て行く。

 ポルトーとは確か俺の戦闘訓練に付き合ってもらう予定の兵士さんだったはず。


「ポルトーとはどなたでしょうか?」

「お兄さんの・・・ゴホン。宗八さんの稽古相手です。

 近接武器なら全てそれなりに使えるとメリーが推してくれたので、

 短い期間ですが召集することにしました」

「私の前では気にしなくとも良いのですよアルシェ様。

 本当は上座ではなく水無月(みなづき)君の隣に座りたいのではありませんか?」

「そ、そんな事はありません!

 この後はポルトーも来るのですから先生こそ気にしないでください!」


 不機嫌そうな顔から一転して真っ赤な顔をするアルシェは、

 先ほどまでの悪い感情を忘れたかのように、

 その後は3人で笑いながら雑談を再開しポルトー氏が到着するのを待つ。


「そういえば、思い出した!

 模擬戦でアルシェが滑っていたけど、

 あれはどうやって・・・いや、何をやっていたの?」

「あれは・・・」


 やはり、ベクトルを与えた魔法なのだろうか。

 アルシェがセリア先生へアイコンタクトを飛ばしている。


「伝えたところで足掛かりを掴むまでの道のりは険しく、

 才能や加護がなければ認識すら出来ないですから大丈夫ですわ。

 ただ、アルシェ様が滑っていたのはまだ研究中の分野の概念ですから辿り着くことも難しいですわよ」


 魔法とは違う?

 でも、研究中・・・以前どこだったかでそんな話を聞いた気がするぞ。

 冒険者が発見したとかで・・・なんだったかなぁ。

 アルシェへ目を向けると俺を手で仰ぎ出した。ハァー涼しいなぁ。


 ハッ!


「干渉魔力ですか?」

「・・・驚きましたわね。そんな言葉をどこで聞いたんですの?」

「以前にこの城で居候をしていた際にアルシェといると涼しいね、

 という話からアルシェが説明してくれました」


 バッとアルシェを見るセリア先生。

 バッと余所見をするアルシェ。本当は禁則事項だったのか。

 あのときはアルシェもリラックスしきっていたし、

 気の緩みもあってか口を滑らせてしまったのだろう。


「仕方ありませんわね。

 その頃はそういったものが存在するという事しか教えていないはずですから、

 伝えたのは表面的な話だけですわね。

 知っても特に何も発動出来なかったのでしょう?」

「全くその通りです。

 話を聞いてから色々試してみましたがどれも空振りに終わったので、

 レベルを上げてから再度挑戦するつもりでした」


 本当に仕方なさそうに説明を始めるセリア先生。


「これもベクトルを管理出来ないと、

 本人だけでなく周りも危ない目に会いますから本当はお教えしたくないのですよ?

 ただ、これは先の上位魔法の先の話ではなく本当に才能がないと不可能ですので、

 どういう物か知ったところで貴方が使えるかは保障できませんわよ」

「よろしくお願いします」


 再三のセリア先生からの忠告に、俺は頷きで返す。

 少しの間ではあるが異世界で生きていくんだ、

 知らない方がいい知識などではないはずだ。


「以前アルシェ様がされた説明はエンチャントの様なもの、

 魔力の鎧という所までですわね。

 私がアルシェ様へお伝えしてから干渉魔力は別名が多くなり、

 最近では浮遊精霊と呼ばれるのが主流ですわ」

「精霊?セリア先生と同じ存在なのですか?」

「違いますわね、精霊にも位階があり私は大精霊の一つ下の精霊。

 浮遊精霊との間にはいくつもの位階があるわ。

 それこそ、100年は生きないと私の位階には辿り着けない。

 この部分はいまは関係ないから省かせていただきますわ」

「浮遊精霊とは産まれたばかりの精霊の事で、

 正式名称もないので仮称を与えたそうです」


 なんと!

 目の前にいらっしゃるセリア先生は予想を遙かに超えた大物だったようだが、

 精霊社会においては大精霊以下の精霊は位階の差はあれど皆平社員らしい。

 セリア先生の解説の後に、

 追加講習で覚えた新しい知識でアルシェが浮遊精霊の新情報も混ぜてくる。


「その浮遊精霊は魔力を餌にして成長を続けますわ。

 当然個体毎に好みがあり、

 水辺で産まれた精霊、街中で産まれた精霊で近づく人間が違いますわね。

 この国は水が豊富なだけはあり水属性の浮遊精霊が多い方だけれど、

 街がある時点で無属性が1番多いのはどこの街も同じですわね」


 ここまでの説明をまとめよう。

 1.干渉魔力の正体は浮遊精霊。

 2.浮遊精霊にも属性が存在する。

 3.浮遊精霊は好みの人間に接触して魔力を餌に成長する


 成長とはどのぐらいだ?

 魔力をどこまで食べさせればどこまでの事が出来る?

 自分が纏う精霊の属性は?

 あれやこれやと考えが浮かんでは答えが出せずに放置され、

 続けて次の疑問が出てくる。

 そもそも目に見えないと・・・。


「セリア先生には浮遊精霊が見えるのですか?

 属性の判断が付くのですか?」

「見えますわよ、

 なぜ人間は幼い精霊を魔力と呼んでいるのか当時は疑問でしたわ。

 ちなみにアルシェ様は水属性の浮遊精霊を多く纏っていますわね、

 水無月(みなづき)君は半々と言った所ですわ。

 けど、一般的な冒険者が属性付きを纏うなんて珍しいですわね」

「あ、直々ではありませんがシヴァ亜神の加護を持っているからですかね」

「まぁ、やるわねアルシェ様!」


 どういう事なのかはわからないがアルシェが赤くなっている事から、

 主神の加護持ちは何か条件が揃えば他者に加護を与えられるのだろうシヴァ様直々の加護持ちだからな。

 じゃあ亜神ってアルシェの事か?


「では、あの滑っていた技術は、

 浮遊精霊にベクトルを与える事で発動していた魔法ということですか?」

「半分正解ですわ、あれは魔法なんていえる代物ではありませんから。

 でも、アルシェ様だって足に付与するのが精一杯で、

 殴るか改変なしの詠唱しか出来なかったでしょう?

 本当に才能があっても扱いは難しいのですわ。アドバイス出来ることは3つ」


「精霊と仲良くおなりなさい、

 発動させる形をしっかりイメージなさい、

 そして、才能を開花させなさい」


 簡単にいくとは思わないが想像性豊かな国に生まれ、

 気付いたときにはゲームやアニメに囲まれて、

 姉がいたおかげで女の子向けアニメも、

 腐女子友達の付き合いでBLゲーも経験済みの俺なら目指すべきイメージも固めやすいだろう。


 精霊と仲良くとかどうしろっていうんですか・・・、水遊びとか?

 才能・・・・・これは無理かもわからんね。



 * * * * *

「遅れて申し訳ございません。ポルトーを連れてまいりました」


 雑談を続けていると、

 メリーさんがポルトーを連れてきたとドアの向こうからノックと共に声がかかる。

 さぁ、俺の訓練相手となるポルトー氏はどんな人物かな。


「失礼いたします」

「失礼いたします。遅れて申し訳ございませんでした、

 お呼びに預かりポルトー参上いたしました」

「アルシェ様から呼ばれて、

 私に呼ばれて2重の意味でお呼ばれしてますね」


 さらっと毒を放つメリーさん。

 いや、腕が立つとはいえ新兵の枠に入るんだから、

 なんか色々入用があったんだろ?

 今朝だって時間が空けばとかそんなふんわりとした感じで指示されてたじゃない?


(姫様は悠長なことを言われましたが、

 仕える臣民ならすぐ出向くのが筋です)


 アイコンタクトでメッセージが返ってきた。

 まぁ上流階級の知り合いなんて元の世界にはいないからね、

 経験不足で疑問に思うことはあるが俺の知らない不文律とかあるんだろうな、きっと。

 階級による理不尽に憐憫を馳せながらポルトー氏の顔を確認する。


「あ、先程はお風呂場でお世話になりました」


 風呂場の爽やか筋肉(キンニ)君がいた。

 そりゃ、あんな真昼間に風呂に入ることが出来るやつはなかなかいないよな。

 自国の姫様の御前に立つ用事なら風呂の許可も降りるだろうな。

 たぶん。


「あの時ご一緒にいたのはポルトーだったのですか?」

「まぁまぁ、それは大変な事をしましたわね」フフフ


 何が大変なのか分かっていない男2人とアルシェを置いて、

 何やら楽しげな声と顔をしたメリーさんとセリア先生。

 場の展開に混乱しつつ様子を窺っていると、

 ひょいっと爆弾が放り込まれた。


「ポルトー、貴方が入浴をご一緒した方はアルシェ様の兄君ですよ」

「アルシェ様のお兄さんとお風呂に浸かるなんて豪胆ですわねぇ」


 見るみる青ざめていくポルトー氏はいつしか気絶していた。

 あの目指べき目標として定めた素晴らしい細マッチョ筋肉の持ち主が力なく崩れ去るのを眺める事しか俺には出来なかった。


「精神攻撃にまだ弱い若輩では御座いますが、

 武器の扱いは保証致しますのでお好きにお使い下さい」


 精神攻撃どころではなく、

 自国の王族と気付かずに裸の付き合いをしたとあっては、

 この惨劇も想像できる範疇だ。

 そもそも、落ち着いて考えれば俺が王子ではないことは直ぐにわかるだろうに、

 なぜ思考を放棄したし。

 もちつけよ。


 それとアルシェ。

 そんな目で見つめてきても応えることは出来ないから諦めなさい。

 お風呂は王様にお願いしなさい。


「さぁ、起きなさいポルトー!

 貴方はアルシェ様と兄君を待たせた挙句御迷惑を掛けるために呼ばれたのですか!?

 せめて役目を果たしなさい!」


 ポルトー氏に水をぶっかけながら発破を掛けるメリーさん。

 追い詰めて追い詰めてポルトー氏に何を求めているのだろうか、

 何かチラチラこっちを見てくるから、

 おそらく俺が助けに入るのを期待しているのだろう。

 そして、オカズにしたいのだ。

 邪な思惑の為に責め立てられるポルトー氏に合掌しつつ起きるのを待つ。すまんの。


 そして・・・


「御迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。

 初めまして、私はポルトー=サンクスと申します」


 せっかく風呂に入って身嗜みを整えたのに何故か気絶させられて、

 挙句水濡れになったポルトー氏は初めましてと挨拶をした。

 いったいどこから記憶を失ったのだろうか。

 早いうちに記憶が戻る事願わずに居られない。不憫でヤバイ。


「初めまして、水無月宗八(みなづきそうはち)と申します。

 以後お見知りおきを」

「私はセリア=シルフェイドと申しますわ。

 アルシェ様に魔法戦技をお教えしておりますわ」

「さっそくですが、

 日もございませんので話し合いを始めましょう。

 この会談は私がおn・・・ごほん、

 宗八(そうはち)さんと共にダンジョンボス討伐を目標に、

 訓練方針を決める場になります。意見があれば遠慮なくどうぞ」


 ついに今回のメンバーが揃い話し合いが始まった。


「まず、アルシェに確認したいんだけど、

 使える武器は杖以外に何かあるのか?」

「いえ、今の所は杖のみです。

 基本的に固定砲台が仕事ですので左右に移動はしますが、

 前衛は宗八(そうはち)さんにお任せするつもりです」

「何か考えがお有りですの?私も純魔法使いですから、

 杖の他には遠距離攻撃が出来る弓しか扱いませんわよ」

「いざと言う時に備えて、長物を使えるようにしておきたいと思っている」

「長物・・・槍や薙刀を使えるようにという事でしょうか?」


 この世界の人間のステータスは初めから素養に合わせて偏っている為、

 魔法使いは杖!戦士は武器!

 という様に、別種の武器を使う発想をあまり持ち合わせないようだ。

 俺の意図を察したポルトーが長物の意味を確認してくる。


「その認識で間違いないです。

 いくら前衛が敵のヘイトを稼いだとしても、

 管理が確実に出来る保証はないし、

 中には後衛しか狙わない敵に遭遇する可能性がある。

 杖と同じ長さの武器であれば、

 そこまで違和感なく使えるのではないかと考えているんだけど・・・。

 ポルトーさん、扱いとしては実際どんなもんですか?」

「確かに長さを合わせた武器を使うのはありですが、

 武器には硬さや重さがあります。

 杖は硬くとも軽い事が多く、薙刀や槍は長めに造られており、

 杖との差が顕著な物もあります。

 それらの精査、入手が出来ないと難しい問題だと思います。

 最低ラインは長さが同じ、もしくは差が少ない物。理想は重さも同じ物ですね」


 現実は甘くないな。

 ゲームならキャラが装備出来る上位武器に次々と更新していくが、

 こうやって手に武器を持つとひとつひとつに違いがあることがわかる。

 この少しの違いが致命的な事にも繋がるから無理にゴリ押しで話を進める訳にはいかない。


「しかし、後衛に近接武器を待たせて時間を稼ぐ程度の技術を持たせる事には賛成です。

 ただでさえ魔法は使えば使うだけ精神力が削られて、

 状況によっては助けに入るのが遅れる場合も考えられるでしょう。

 それならば最低限自衛できるように、

 武器を持っての攻防を想定することは大いに賛成です」

「私も、少しでもアルシェ様が傷付く可能性が減るのであれば、

 武器探し等お手伝いさせていただきます」

「アルシェ様はどうされたいんですの?」


 そう、結局これは後衛を務めるアルシェの話である。

 アルシェ自身がやると判断しない限りはこの試みは始まらない。

 所詮は強化案のひとつに過ぎないのだ、

 無理強いするようなものではない。


「純魔法使いとしては、

 パーティメンバーを増やすという提案をしたいですわね。

 魔法に一極化すればそれだけ魔法使いとしての成長は早くなりますから」


 皆が意見を言い合って、最終的に視線はアルシェへ集まる。


「足手まといになるつもりはありません。

 お兄さんと一緒に戦う為に必要ならば精一杯精進するだけです!」

「わかった、俺と一緒に武器の扱いを勉強していこう。

 安全マージンは当然取りながらダンジョンを進むけど、

 不測の事態はどこにでもある。

 魔力が少ない状態で俺がそばにいない場合を想定して取り組もう」

「(あの・・メリーさん。お兄さんってなんですか?)」

「(黙りなさい)」


 ひとつの訓練方針が決まり、

 その後も2時間ほど掛けて俺とアルシェの方針が決まった。

いつもお読みいただきありがとうございます

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