夏の訪れ@弟
この家はなんだか居心地が良くない。
そんな風に僕が感じている理由。
どうしてだろう?
それは言葉にできない歯痒い類のモノなのかもしれない。
ただ、そんなどこか自分の家を他所様の場所のように感じさせる瞬間にはいつも彼女の姿があった。
姉であるナツキだ。
彼女は弟である僕をいつも可愛がる。
反抗期をとうに終えて思春期を迎えた僕にとってはその愛情がなんだか心をむずむずとさせる何かが隠れているように感じる。
この気持ちはなんだろう。
まったく居心地が悪い。
♢♢♢
ひとまず、姉について語ろうと思う――。
反抗期の頃は姉が嫌いだった。
第一に(なんだか論文のような滑り出しだ)、距離が近い。
スキンシップが激しいのだ。一例を出そう。ナツキの朝は早い。決まって僕より早く起きる。そして親にねだって用意してもらった元客間である僕の部屋に来る。ちなみにそんなこと一度も頼んだ覚えがない。そしてこれも決まったように僕の頬を限界まで引っ張って起こすのだ。
――ハルキ、起きて! あ、やっぱり起きなくてもいいよ! そのまま寝てたらずっと面白い顔のままだから!
……てな感じで。頼むから普通に起こしてーな。
あるいは僕が携帯電話で何気なく動画でも見ていると身体をぴったりとくっつけて一緒に見ようとしてくる。僕はそんな姉の物理な距離感を今でも苦手としている。
ちなみに僕が高校生になる頃には洗練された早起きができるようになった。寝坊助の僕にとっては大した進歩だがそれもたぐいまれなる努力と経験によるものだ。良い子は真似するように。
第二に良く言えばマイペース、悪く言えばだらしのない人間性。読んだまま放りっぱなしの漫画、自室でコーヒーを飲んだら一週間は放置されるカップ、服をやたら脱ぎ散らかす(たまに裏向きのまま着ている)、などなど小さなことから一つ一つ洗い出すとキリがない。
そして一番大きな要因はそんな姉が明確に僕よりも社会的に優れていることだった。彼女は秀才かつ容姿も端麗。社交的で友達も多い。非の打ち所がない――という人間を公の場では演出しているからだ。
洗濯機の回し方すらわからない姉を見て育った僕としてはそんな外面を維持する努力をしている素振りすら見せない彼女が少し憎らしかったね。嫉妬。基本僕は不器用なのだ。社会的に。
僕は怖かった。他の家の姉弟はどんな風なのだろうとかリサーチする余裕もないくらいに。もちろん先ほどまで挙げたような姉に関することはただの片鱗に過ぎない。だからここからはリアルタイムで、お届けしようと思う。現在の状況を伝えると、家には僕と姉の二人。一つ屋根の下。
高校一年生の夏休み。母親がある日こんな書置きを残していった。
『お父さんが仕事の出張で海外に行かなきゃなんだって。なので、お母さんもついていっちゃいます。お留守番ヨロシクネ(はーと)』
この親ありにしてなんとやら。恐怖の姉弟生活の始まりだ。




