ボクと中性的な幼馴染み
「オミくんはお人形さんみたいだね」
日誌を書く幼馴染みに顔を寄せてそう言えば、はぁ?と怪訝そうな声を出され、目が合う。
キューティクルのしっかりした青みがかった黒髪は、男の子にしては長めで、ボクから見て顔の右半分を覆い隠すように前髪が伸ばされている。
髪と同じ色をした左目がボクを映し、眉毛がぐっと眉間の方へと引き寄せられた。
怒っているわけではなくて、何言ってんだコイツ、というような顔。
「男の子なのに凄く綺麗」
「それ、男からしたら別に褒め言葉じゃねぇからな」
はぁ、と面倒そうに吐かれた溜息に首を竦める。
個人的には褒め言葉なんだけど、という呟きは完全に無視されてしまい、視線は日誌に向けられていた。
実際に幼馴染みの中で唯一の男の子でもあるオミくんは、とても綺麗な容姿をしている。
青みがかった黒髪も黒目も綺麗で、年頃の男の子に比べれば肌ツヤも良く色も白っぽい。
中性的とも呼べる顔立ちの割には高身長で、それに見合っただけのしなやかな筋肉を持つ。
幼馴染みだから分かることだが、実は腹筋なんて指先で撫でるとその硬さがしっかりと伝わるのだ。
綺麗な男の子、それはとてつもないステータスであり、お人形さんみたい、と呼ぶに相応しいと、ボク個人としては思う。
伏せられた睫毛だって、下手したら女の子よりも長くて、綺麗だ。
ぼんやりと見つめる姿だが、本人はその視線を鬱陶しく思うらしく、時折顔を上げてはボクを睨む。
眉間にシワが刻まれ、薄い唇が突き出される。
そんな顔のオミくんと目が合う度に、ボクは首を竦めたり、肩を竦めたり。
「お前、自分が人形みたいって言われてんの忘れたのかよ」
溜息混じりの言葉に、目を見開いて、瞬く。
それから直ぐに「そう言えばそうだね」と、思ったよりもすんなりと言葉がこぼれ落ちた。
実際のところ、オミくんの言ったことは間違いではなく、特にMIOちゃんなんて、ボクをお人形さんみたいに可愛い綺麗、と連呼する。
心の奥底から言ってくれているのは分かっているが、ハッキリ言って同性の目からの話だが、MIOちゃんの方が可愛くて、文ちゃんの方が綺麗だ。
異性的な目だと、オミくんだって綺麗だが。
「でも、ボクのこれはお人形さんみたいに表情がないってことで、自分の中の解決が出来たから」
そう言って、オミくんの瞳の中に映り込む自分の姿を見れば、表情筋がピクリとも動かない無表情だ。
オミくんもボクの顔を見て、まぁ、そうだな、と濁した答えを吐き出した。
「だから、生傷もなくなると良いね」
つい、と指先でシャーペンを握る指をつつく。
すると途端に顔を歪めたオミくんが、持っていたシャーペンを机の上に転がす。
赤の滲んだ大きな絆創膏を見て、ボクはね、と言うしかない。
綺麗綺麗と言った顔には傷も絆創膏もないものの、その手にも学ランで隠れた足にもきっと傷は多いのだろう。
先日は足首に包帯を巻いていた。
男の子らしく外ではそれなりにヤンチャをしている証拠だ。
「放っとけ。……日誌も終わったから帰るぞ」
転がしたシャーペンを筆入れに入れて、開いたままだった日誌を閉じる。
チラリと見えた罫線の上に並ぶ文字は、これまた綺麗で整っていた。
性格出るなぁ、と思いながらボクも鞄を持つ。
「職員室だよね、ボクも行く」
「分かったから、服を掴むな」
鞄を肩に引っ掛けつつも、日誌を持ったオミくんの学ランの裾を掴めば、呆れたように目を細められた。
お人形さんはこんなに表情豊かじゃないよね、なんて心中で笑い、オミくんの隣で歩き出す。