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8話 テンプレ何てなかった

 男の叫びに辺りは騒然となった。



「魔物の大群だって!?」


「大変だ!?早く行くぞ!!」


「早く行かなきゃ良い席が取れねぇぞ!!」


「魔物の討伐ショーの始まりだ!!」



 ーーーーーーーー違う意味で。



 魔物の大群が来たと聞いた瞬間魔族達は一斉に門の所へ走り出した。

 それはさながらお祭りみたいだ。

 え、何これ。そこは普通悲鳴を上げながら逃げる流れじゃないの!?



「カゲ様!聞きましたか!?魔物らしいですよ!魔物!」

  


 ティナも魔物の大群と聞いて何故かテンションが上がっていた。

 いや、何で!?


 

「いや何でそんなに嬉しそうなんだ!?魔物の大群が来たんだろ!?」  



 俺がそう言うとティナは不思議そうな顔をしていた。

 不思議なのは寧ろ俺の方なんだが。

 


「そらなら問題ありませんよ。魔物の大群なら騎士団の人達が倒しますから。ですから私達も行ってみましょう!」



 俺はティナに引っ張られながら門へと向かった。本当に大丈夫だろうか。






ーーーーーーーーーーーーーーーー





 門に着くとそこには既に沢山の人がいた。近くの通りでは何故か屋台が建っていて本当のお祭りみたいになっていた。

 ていうか何でこんなにお祭り気分なんだ皆。

 とても魔物の大群が来る感じじゃないな。



 俺はティナに聞いてみると、どうやらこの国には娯楽が少ないようで昔は魔物の大群が来たときは皆避難していたが、誰かが騎士団が魔物の大群を討伐する姿を見てそれを周りの人に言いふらして以来、魔物の大群が押し寄せてくる時はこうして集まるようになったらしい。



 いや何故そこで放置したんだよ騎士団!そこは止めさせろよ!

 俺はそう思いながら近くにいた兵士を見ると



「いいか!ここで女子達に格好いい所見せて、見事可愛い子とお近づきになるぞ!そしてあわよくば家にお持ち帰りするぞ!」


「実例があるんだ!俺達も出来る!」


「今度こそ彼女を!!」



 そう言って兵士達は円陣を組み始めた。



「いいか!先ず第一印象が大事だ!がっつかず、尚且つ良い距離感を保ちながら俺頑張ってますよアピールで印象をよくするぞ!」


「俺達なら出来るぞ!今度こそ彼女を!」  


「「「「おぉ!!」」」」



 兵士達は隅で意気込んでいた。

 合コン!?何その合コンのようなノリは!!そんなのより市民の安全を守れよ!!ていうか実例あんのかよ!

 何魔物討伐を出会いの場として活用してんだよ!

 俺は予想外の事に突っ込みが絶えなかった。

 何だよこれ、魔族って結構馬鹿なのか?


 

「カゲ様、こちらから行きましょう」



 俺はティナに連れられるとそこには民衆から少し外れた所に兵士の人がいた。



「これは姫様!何か御用でしょうか!」


「見物の為私達を城壁の上に案内してください」


「畏まりました!こちらへどうぞ!」   



 兵士の人はティナに敬礼しながら言うと俺達を城壁の上へと案内してくれた。

 城壁の上に着くとそこはやや風が強く吹いていて若干目を抑えたが城壁の外を見るとそんなの気にならない程の自然が溢れていた。

 辺り一面草原や畑で埋め尽くされたそれはとても綺麗なものだった。



 俺はその景色に見惚れているとこちらに気付いたのかウィリアムさんが声を掛けてきた。



「これはティナ様にカゲト。二人とも見物ですか?」


「はい、頑張って下さいね」


「ティナ様のご期待に沿えるよう頑張ります」



 ティナとウィリアムさんがそんな会話をしている中俺は城壁の外の景色を見ておもむろに呟いた。



「すげー......」


「ここの景色は【サテラス】の中でも特に綺麗だからな」


 

 俺の言葉にウィリアムさんがそういってきた。



「でも魔物の大群なんて何処にいるんですか?」



 俺は辺りを見渡しているが魔物の姿が一匹たりともいない。

 


「あそこだ。もうすぐ見える」



 ウィリアムさんが指差した先を目を凝らしてよーく見ると、何やら猪のような魔物の大群がこちらに向かってきているのが見えた。



「あれはモーターボアーだ。強さはそれほどでもないが兎に角あいつらは止まることを知らない魔物でな。所構わず突っ走る習性があるんだ」



 ウィリアムさんがそう説明してくれているなか、一人の兵士が慌てた様子でこちらに向かってきた。



「団長!大変です!先程諜報部隊から連絡がありましたが、モーターボアーの数が例年よりかなりいる模様です!!」


「全部で何体だ?」


「おおよそ100体です!!」


「なっ!100体だと!?」



 予想以上の数にウィリアムさんは驚きを隠せずにいた。    

 見ればティナも驚愕な表情をしていた。



「そんなに多いんですか?」

 

「あぁ、例年通りならモーターボアーは40匹か50匹位しか来ないんだ。しかし不味いな。強さ自体はどうにかなるが100体となると私達だけでは抑えきれない。街に被害がでるぞ」



 確かに今民衆の殆どは城壁の門の前にいる。

 一匹でも通せば何人もの負傷者が出るに違いない。

 ウィリアムさんはどうしたものかと頭を悩ませていると俺は手を挙げながら提案した。



「だったら俺が何とかしましょうか?」


「何?」


「カゲ様?」

 

 

 ウィリアムさんとティナが同時に俺を見てきた。近くにいた兵士達も一斉に俺を見てきた。

 俺はそれに若干吃驚しながらも冷静に応えた。

 


「俺の影魔法なら何とかできますよ」


「それは本当か?」


「本当なんですか?」



 丁度影魔法を実践で使ってみたかったから丁度良い。それに魔族には今まで良くして貰ってたからこれぐらいの恩は返したいしな。

 ていうか、ティナは俺の影魔法の練習見てたんだからそこは察して欲しい。



「はい、だから俺にやらせて欲しいんです。この国には恩があるので」



 俺がそう言うとウィリアムさんは目を瞑って暫し考え込みやがて決めたのか目を開いた。



「分かった。それでは頼む」


「はい」



 俺は短く返事すると、城壁の手すりの上に立った。 

 風が強く一瞬落ちそうになったが何とか堪えた。下を見ると下にある木が豆粒のように見えて、もしここから落ちると思うと肝が冷えるな。



 そんな事を考えているとモーターボアーの大群が段々と近付いてきた。

 近づいて来るにつれてその姿は大きく見え始めその巨大さが分かる。



「太陽も丁度良い位置にいる事だし、いっちょやるか!」



 太陽も丁度俺の立つ位置の反対側にあり影がモーターボアー達の方に伸びている。やるには絶好のタイミングだ。

 俺は意気込むと影を操りだした。



「影よ広がれ!影縛り!」



 影はモーターボアーを包み込むようにして広がると、モーターボアーは俺の影に接触するや否やその動きを止めた。



「動きを止めただけで終わると思うなよ!影針地獄(かげばりじごく)!」



 すると動きを止めたモーターボアーの体から影の針が出てきた。

 針はモーターボアーの体、目、頭を貫き血飛沫を上げる。影の針がモーターボアーを一斉に串刺しにしモーターボアーの大群はその場に倒れた。

 初めての実践にしては中々上手くいったな。

 俺はこの結果に満足すると途端に歓声が巻き起こった。



「うおぉ!!何だよあれ!!」


「すげぇぇ!!」


「どうやったんだ今の!!」



 これを見ていた民衆は口々に俺の影魔法を称賛していた。

 それは民衆だけでなく近くにいた兵士達も同じ様に称賛していた。

 何かそこまで言われると照れるな。



「ありがとうカゲト。君のお陰で助かった」


「いえ、気にしないで下さい」


「お疲れ様ですカゲ様」



 ティナも俺に労いの言葉を掛けると、俺はウィリアムさんに呼ばれそこに駆け寄ると肩を掴まれ民衆の前に顔を出した。



「皆の者聞け!!今しがたモーターボアーの大群を倒したのはここにいるつい先日異世界より召喚されたカゲトによるものだ!!皆の者ここにいるカゲトに今一度大きな拍手を送ってくれ!!」



 ウィリアムさんの言葉に応えるように民衆から大きな拍手が送られた。

 中には「カゲト様!!」「こっち向いて!!」等の声が聞こえ、何かスターになった気分だ。



「カゲト、ここで手を振ってくれ」


  

 ウィリアムさんに言われ俺は手を振ると、更に民衆からの歓声が強くなった。

 何だろう、最初は悪くないと思っていたが何だか恥ずかしくなってきたな。

 早く終わってくれないだろうか。



 だがこれ以来、ここから先街を歩く度に「カゲト様!」と呼ばれるようになり少しの後悔が生まれるのはまた後の話。

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