1話 魔族側に召喚されました
「おぉ!!成功だ!!」
「これで我々も救われる!!」
ここは何処だ?
俺は重たい瞼を開け周りを見た。
すると変な格好をしたおっさん達が何やら俺を見て喜んでいた。
「おい!遂に召喚が成功したぞ!」
おっさんの言葉を聞いて俺は全て思い出した。
そうだ、俺は卓也達を見送った後に異世界に召喚されたんだ。
てことはあれか、ここは異世界か。
辺りを見渡すのここは何処かの地下室なのだろうか?少し薄暗い。
周りを見ると卓也達の姿はない。
どうやら別の所に召喚されたみたいだな。
「おぉ!!本当だ!!」
「これがあの噂の........」
謎のおっさん達は俺の周りを群がりながら俺を興味深そうに見ていた。
おい、見せもんじゃないぞ。
ていうか、このおっさん達よく見たら何人かーーーーーーーーー角が生えてる。
角だけじゃない。牙や翼も生えている奴もいるぞ。
これってあれだよな。魔族って事だよな。
「お前達、取り合えず落ち着け。その少年が困っているだろう」
すると謎のおっさん達を掻き分けて明らかに位が高そうな男が謎のおっさん達を注意しながら俺の前に出た。
俺より5cm程高く鍛え上げられた肉体に赤黒い髪の色をした人だ。
この人もしっかりと角がついてるな。
やっぱり魔族だよな。
まじかよ。これってもしかしてやばい方の召喚か?
「初めまして。域なりの事で混乱している事だろうが、先ずは状況を説明するために付いてきてくれないか?」
「は、はあ」
俺は気の抜けた返事をしながら立ち上がり男の後に付いていった。
取り合えず言う通りにしておこう。
俺は少し警戒しながら地下室を出た。
地下室を出るとそこには豪華に飾られた廊下に出た。
廊下には絨毯や絵が飾られていてとても魔王城とは思えないほど綺麗にされていた。
これは偏見かもしれないが魔族の城はもっとおどろおどろしい物だと思っていたので少し驚いた。
途中すれ違う人達から結構視線を浴びることになったが、俺の容姿が珍しいからだろうか。
すると男は大きな扉の前で立ち止まりこちらを振り向いた。
「着いたぞ。一先ずここの先に居られる方に会って貰う。話はそれからにしよう」
そう言って男は扉を開けた。
中は異常な程広くこれまた魔王城らしくない豪華に飾られた部屋だった。
部屋の真ん中には豪華な椅子がありそこに一人の男が座っていた。
四十代半ば位で髪は紫色のこちらも漏れなく角が生えていて何処か威厳を感じるその姿は正しく魔王様のような人だ。
「魔王様、連れて参りました」
「うむ、ご苦労。お主は下がっておれ」
「はっ!!」
魔王様の前で跪いた男は魔王様にそう言うと魔王様は男に下がるように言い、男は俺の後ろの方に歩いた。
今この状況では俺と魔王様の一対一の状況だ。
「さて、お主名前は何と言う?」
「宮野影斗です」
「ではカゲト。先ずはそなたに謝罪をしよう申し訳ない」
そう言って魔王様は俺に頭を下げた。
あれ?そこは「お前を我が国で使ってやる。有り難く思え」とかじゃないのか?
しかも魔王様が頭下げたって言うのに誰も咎めたりしないなんてどうなってるんだ?
「取り合えず色々説明していこうと思うがよいだろうか」
「お願いします」
俺は魔王様の言葉に即座に返事をした。
取り合えず今置かれている状況を知るのが先決だな。
「うむ。では大臣、頼むぞ」
「畏まりました」
大臣と呼ばれた男は俺に色々と説明してくれた。
要約するとこの世界の名前は【アルマン】。そして今俺がいるのは【サテラス】と言う魔族の首都らしい。
地形的にはこの世界には大陸は一つで真ん中に大きな窪みがある形だ。
その周りにチラホラと島がある程度で人は住んでいないとされている。
この世界には人族と魔族の二つに分かれていて、獣人等は魔族と同じ括りになっているようだ。エルフはいないようで少し残念だな。
そして俺が召喚された目的は、少し前に人族で勇者が召喚されたらしく、俺にはその勇者と戦って貰いたいらしい。
多分恐らくその勇者が卓也と美咲なんだろう。
「ここまではよろしいですか?」
確認のため大臣は俺に聞いてきたので俺は一つ質問した。
「俺を召喚した目的が勇者と戦うためと言いましたが、別に俺じゃなくてもいいんじゃないですか?」
別に戦うためだけなら俺を召喚する必要はない。あってもその勇者と戦ってから考えれば言い話だ。
「それはそうなのだがな。先程は戦って貰うと言ったが少し語弊がある」
俺の質問に魔王様が答えた。
「本当の目的は勇者達と和解して貰うためだ」
和解?何のために?
「我々魔族は昔から人族と争いをしてきた。その度に我々は大事な部下や家族を失ってきた。もうそんなことはあってはならない。もう争いは止めるべきなのだ。だがこちらはそう思っていても人族の方はそう思っていないようでな。何度も交渉を持ち掛けてきたがその度に大事な部下を殺され騙されてきた。そのせいで他の種族の魔族は人族との和解に反対しだして争いが絶えなくなってしまったんだ」
何か話を聞く限りこれそうとう人族側酷いな。
てか魔族側の人達いい人すぎない。
あんだけの事されてまだ和解を望んでるのかよ。
「そして今回の勇者召喚で人族が本気で我々を滅ぼしにきている事が分かった。このまま勇者と魔族が衝突したら和解何てもう不可能になってしまう。だから同じ人族を召喚して勇者と和解して貰おうと思ったのだ」
そう言って魔王様は再び罪悪感に苛まれたのかまた頭を下げた。
「此度の事は本当にすまなかった。本来ならこれは我々が解決するべく問題だ。だがもうこれ以上犠牲者は出したくないのだ。だから頼む力を貸してくれ」
そう言って魔王様は頭を下げ続けた。
いや、どうしよう。
この魔王様の言っている事が嘘には聞こえないんだよな。
しかし、こうして話を聞いてると人族の方がよっぽど魔族らしい事してるな。
卓也と美咲は大丈夫だろうか。
俺は暫しう~んと考えると重要な事を忘れていた。
「俺は元の世界に帰れるんですか?」
俺の質問に魔王様は非常に申さし訳なさそうに言った。
「すまないが、今はない。我々が見つけたのは召喚方法だけで返す方法は見つかっていない」
すると魔王様は今度は椅子から立ち床に膝を着けた。
「そなたを勝手に召喚して本当にすまないと思っている。どうか許してほしい」
そして頭を地面に擦り付ける様に言った。そう、土下座である。
異世界にも土下座があるんだな。
にしても魔王様が土下座って.........。
すまないと思っているにしてもここまでするか普通。仮にも魔王なんだぞ。
もう少し威厳を持とうよ。
「頭を上げてください。話が進まないので」
このままじゃ流石にあれなので、俺は魔王様に頭を上げる様に言った。
別に怒っている訳じゃないしな。
魔王様はゆっくりと顔を上げると俺は魔王様を椅子に座らせた。
まだ聞きたい事があるしな。
「協力するかはさておき俺は勇者を和解出来る程の力はないですよ」
「それなら問題ない。召喚された人族は代々特別な力が宿ると言われている。お主にもきっと何か特別な力があるだろう。仮になくても我々が手厚く保護するので安心してくれ」
何ともまあ親切なことで。
まあ、それなら大丈夫か。
「分かりました。この話受けます」
「そうか、本当に有り難う」
俺は魔王様にそう言うと魔王様は俺が了承してくれて嬉しかったのか深々と頭を下げた。
いくら嬉しいからといっても魔王様がホイホイと頭を下げるのはどうなんだろうか。
「それとその前に質問があるのですが」
「何だ?何でも申してみよ」
「召喚された勇者は背の高い男と髪が長い女の二人ですか?」
「その通りだが何故それを?」
やっぱりか。あの二人は人族に召喚かれたのか。
「実は召喚された二人は俺の知り合いかもしれないんです」
「何!?それは本当か!?」
「はい、だから先ずあの二人の様子を知りたいんですが近々様子を見に人族の方に行っても良いですか?」
「そうか、それは心配だろう。だが安心してくれ。態々行かなくてもここで様子が見られるぞ。おい!あれを持ってきてくれ!!」
そう言って魔王様は近くにいた兵士に指示を出すと、指示を出された兵士は手に水晶玉のような物を持ってきた。
「これは【投影の水晶】と言ってな。これを使えば人族の勇者の様子を見ることが出来る。勇者召喚の技術もこれを使って行ったんだ」
そんなんあるってありか。
人族側の情報ガバガバだな。
すると【投影の水晶】が起動し水晶が光、空中に映像を出した。
そこには項垂れている卓也と不安な顔をしている美咲の姿があった。
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