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  作者: 西村蓮
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 散々迷ったが、結局塚原の家に来てしまった。安物なら放置していたが、本当にあのサングラスは高かったのだ。勿論、長居する気はさらさら無く、サングラスだけ受け取って帰るつもりだ。


 玄関を目にしただけで嫌な汗が吹き出るし、鼓動が速くなるのを感じたのだが、ここで立ち止まっていても仕方が無い。覚悟を決めてインターフォンを鳴らした。


 すると、まるで俺を玄関で待ち構えていたかのようにすぐに扉が開いた。


 出てきたのは塚原だった。



「待ってたよ、早く上がれよ」


「いや、用事があるからサングラスだけ貰えないか?」


「母ちゃん、お前の分もご飯作ってるんだよ。軽く食べていけよ」


 そう言い残し、塚原は奥に入ってしまう。反論する間も無かった。玄関からはリビングや例の部屋の様子は窺えない。どうやらここに入るしかないようだ。だが、足を踏み出す事を心が拒んで中々動けなかった。




「‥‥何してるんだよ、早く来いよ」



 闇の中で塚原が苛立つように声を荒げる。その態度に少し腹が立ち、恐怖感よりも怒りが勝ってしまった。サングラスを見つけたらぶん取って走って帰ればいいんだ。家族なんて無視すれば良い。そう自分に言い聞かせ、玄関を潜る。


 塚原の後に続き家の中に入ったのだが、驚くべき事にどの部屋も電気がついていなかった。まだ完全に日が落ちきらない時間帯なのに周囲は嘘みたいに真っ暗で、前を行く塚原の背中でさえ輪郭がぼんやりとしている。窓に暗幕でも掛けているのだろうか。


 予想していなかった事態に先程の怒りは消え、やはり来るべきではなかったと心の底から後悔した。



 しばらく廊下を進んでいると、リビングへ続く扉の前で塚原が急に立ち止まったので、思わず背中にぶつかりそうになる。


「おい、何してるんだよ」


「和樹、お前が先に入れよ」


 いつもと変わらない塚原の笑顔が、俺の恐怖心を加速させた。この先に何があるのか全く予想できないが、この扉を開けばもう外には戻れないような気さえした。


 

 深呼吸をして、ゆっくりと扉を開く。



 蝶番が軋む不愉快な音が鳴り響く。



 周りを見渡しながら部屋に入ると、三つの人影が俺を囲むように立っていた。






 「おめでとう!!」





 その声と共に、電気がパッと点く。


 俺の前には、塚原のお母さんとお父さん、そして弟の隆人が立っている。それぞれがバラバラのリズムで拍手を繰り返し、皆が貼り付けたような笑みを浮かべている。部屋の中は手作りのリースやリボンが飾り付けられており、食卓には結婚式場で見かけるような巨大なケーキが置いてある。お祝いされているのだとようやく理解したのは数十秒経ってからだった。


 だが、誕生日でもなければ何かの分野で大きな賞に輝いた訳でも無い。お祝いされる心当たりが全く無かった。


「すみません。お祝いされる理由がわからないのですが‥‥」


 俺がそう言うと、塚原のお母さんは目を丸くして驚く。その後に何かを察したかのように笑顔を取り戻し、俺の肩を軽く平手で叩いた。



「冗談言っちゃって。娘をよろしくね」




 冷水を浴びたかのように自分の身体が冷たくなる。何を言っているのか、まるで理解が追いつかなかった。




 

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