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  作者: 西村蓮
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5

 どういう意図で描かれた絵なのかは予想できなかったが、考えれば考えるほどに寒気を感じる。これならば、ベタに青白い顔の女の絵のほうが恐怖心はマシだ。


 この絵がただの悪質な冗談なら文句の一つでも言ってやるのだが、塚原はこういう手の込んだイタズラをするようなタイプではない。それが余計に怖くなってしまい、塚原から届くメッセージを放置するようになり、塚原自身も避けるようになってしまった。






「和樹、お母さんがさくらんぼを送ってくれたから一緒に食べよ!」


 土曜日になり、約束通り沙也加が泊まりに来た。実家が山形の農家らしく、実家のさくらんぼはとても美味しいと前々から聞かされていたので楽しみだ。



 事実、さくらんぼは美味しかった。レストランのパフェに乗っているさくらんぼとは比較にならない。ここまで甘いのかと感動さえ覚えるほどだった。沙也加は山形の暮らしについて語り、実家に思いを馳せている様子だった。


 その後も色々な話をしていたが、流れで塚原の話になってしまった。塚原も元々は山形の出身で、現在はこちらに住んでいるが祖父の家は山形にあるらしい。


 そんな塚原の話題を苦い表情で聞く俺に違和感を抱いたのだろう。沙也加がどうかしたのかと尋ねてきた。何でもないと答えたかったが、話をして楽になりたい気持ちのほうが強かった。


「‥‥沙也加、塚原のことで相談があるんだ」 


「え、何? どうしたの?」


 俺の深刻な雰囲気にただ事ではないと察したのか、沙也加は崩していた脚を伸ばしてから正座をする。


 やはり話すべきではなかったか。沙也加と塚原は親友だ。俺のせいで関係に軋轢が生じるのはどことなく忍びない。だが、沙也加は変に鋭いところがあるので下手に話を誤魔化しても無駄だろう。


 覚悟を決め、素直にあの絵を見せることにした。




「塚原がこんな絵を俺にくれたんだけど、どう思う?」




 俺が白い布を取った瞬間、沙也加は短い悲鳴を上げた。



「どうしたんだ?」


 確かに少し不気味な絵ではあるが、少し見て絶叫するほど恐ろしい絵ではない。にも関わらず、沙也加は相変わらず震えていた。明らかに異常だ。一体何だっていうんだ。


「和樹、和樹‥‥これはだめ、これは」


「沙也加、落ち着け!」


「塚原くんは‥‥何を考えて‥‥」


「この絵について何か知ってるのか?」


「ムカサリ絵馬‥‥」



 ムカサリ絵馬、聞き覚えの無い単語だった。

 


 少し間を空けて、落ち着きを取り戻した沙也加は重々しく口を開いた。


「ムカサリ絵馬はね、山形の一部の地方で伝わる風習なの。事故や病気で亡くなった我が子をね、絵の中で結婚させて故人の幸せを祈るの。本来なら親が子を想う暖かい冥婚の一種だよ。親戚の家にも飾られていた。でもね‥‥」


 俺は口を挟む事ができず、沙也加の次の言葉を待った。 



「結婚相手は架空の人物の顔を描かないとだめ。実在の人物を描くのはタブーなの」


 実在の人物とは、俺のことだ。

 つまり、塚原似の女性は故人ということになる。



 そういえば、俺は塚原のお姉さんをまだ見ていない。


 

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