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  作者: 西村蓮
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4

 その日以来、塚原からのメッセージは、毎日のように送られてきた。アルバイトがある日は当然断るのだが、アルバイトの無い日は大いに迷った。塚原のお母さんの料理は絶品だし、俺を気に入ってくれているのも凄く居心地が良い。


 だが、塚原のお姉さんが居る奥の部屋の存在が気掛かりだった。あそこから感じる視線は、気にすれば気にするほど身体に纏わりつくように不快だし、底知れぬ不気味さを感じる。それに、はっきりとは言えないが何かがおかしいのだ。出来る限り塚原の家には近寄りたくないとさえ感じ始めた。



 それから数日経った頃、大学内で塚原が俺を訪ねてきた。塚原に対しても苦手意識を抱いた訳ではないが、少しだけ気まずさがある。だが、俺の意に反して塚原は何も気にしていない様子だった。


「父ちゃんが絵を描いたんだよ。お前をモデルにした絵だから貰ってくれよ」


「俺をモデルにして? なんでそんなことをするんだ……?」


「かなり気に入ったらしいんだよ、お前を」


 塚原から渡された絵は思っていたより小さく、キャンパスノートほどの大きさだった。白い布で丁寧に包装されているのでどんな絵なのかは見えなかったが、正直なところ見たくなかった。


 とりあえず絵を受け取ると、塚原は意味深な笑みを浮かべてから足早に立ち去ってしまった。




 その後は絵の事が気になって授業に集中できなかった。帰宅してからもやはり塚原から貰った絵が気にかかり、何もする気が起きなかった。見たくはないのだが、確認しないと余計にもやもやとしてしまう。しぶしぶリュックサックから絵を取り出し、白い布を剥がしていく。



 一体、どんな絵が飛び出してくるのだろうか。


 

 ただただ不気味だった。そもそも、塚原の父親に気に入られるほど会話を交わしていない。物凄く不吉な予感がする。一度嫌な想像をしてしまうと、段々と悪い方向へ転がっていく。中々恐怖心を振り払うことができず、白い布を全て剥がすまでに勇気と時間を要した。



 意を決し、白い布をはらりと取り外す。



 薄目がちに絵を見ると、それは自分のイメージを遥かに下回る、拍子抜けするほど普通の絵だった。だが、その印象は最初だけで眺めているうちに段々と違和感を覚えてしまう。そしてその違和感は徐々に恐怖に変わっていった。


 絵の中には、男性と女性が並んでいる。共に和服に身を包んでいるが、夏祭りで着るような浴衣ではなく、もっと豪華で儀式めいた印象を受ける。


 ああ、そうだ。結婚式か。


 恐らく、明治から昭和初期あたりの結婚式の絵なのだろう。ただ、全体的に色彩が薄暗いせいで華やかな場面を抜き取っているはずなのにどこか辛気臭い。まるでお葬式のような雰囲気に包まれている。


 そして、塚原が言っていた通り、男性の顔はとても俺に似ていた。俺を何時間も観察しながらそのままデッサンしたかのようなリアルな出来栄えだが、他の部分とタッチが大きく異なるので顔だけが浮いており、不安感を駆り立てられる。女性の顔も同様に、かなり精巧に描かれていた。どこを見ても気味が悪かったが、一番気味が悪いと感じた部分は女性の顔だろう。



 その女性の顔は、どことなく塚原に似ていた。



 

 




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