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  作者: 西村蓮
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 目の前のテーブルには、家庭的ながらも手の込んだ料理の数々が並べられている。湯気を纏う肉じゃがや、鮮やかな緑をしたほうれん草のお浸し、ひじきの佃煮や魚の煮付けなど、どれを見ても食欲が刺激される出来栄えだった。


「和樹君、いっぱい食べなさいよ」


 塚原のお母さんはそう言って微笑む。遠慮せずにご好意に甘え、たらふく食べる事にする。まずは肉じゃがに箸を伸ばす。ホクホクのじゃが芋にはしっかりと味が染み込んでおり、甘さと辛さの加減が絶妙だった。牛肉も柔らかく、文句の付け所がない。小料理屋でも営めるのではないかと思うくらいに絶品だ。


「和樹、母ちゃんの料理は美味いだろ?」


 向かいの席に座る塚原がコロッケを齧りながらニッと微笑む。塚原はこの春から通っている大学で知り合った同級生で、音楽の趣味が合う事からすぐに意気投合した。親元を離れて一人暮らしをしている俺の食生活を見兼ねて、こうして実家に誘ってくれた訳だ。


「本当に美味しい。こんなに絶妙な味付けの和食を食べたのは初めてかも」


「そこまで褒められると照れるわ!」


 塚原のお母さんが声を上げて豪快に笑った。それにつられるようにして塚原も笑う。こんなに暖かい食卓も久々な気がする。やはり誰かと一緒に食べる料理は良いものだ。


「隆文。ごめん、お姉ちゃんの料理も運んであげて」


「まだ運んでなかったのか、わかったよ」


 億劫そうに塚原は立ち上がり、おかずを大きな皿に適当に盛りつける。お椀に白米を盛り、大皿とお椀を器用に持って奥の部屋に入った。扉が開いた瞬間に部屋の中が少し見えたが、電気は点いておらず、闇が支配していた。


 お姉さんは寝ているのだろうか。それとも病気なのかもしれない。塚原に姉がいるのが初耳だったので少し驚いたが、考えてみれば今まで家族構成の話をした覚えはない。姉がいても弟がいても特に不思議ではないか。


 それより、不躾ながらどのような容姿をしているのかが気になった。塚原は男の目から見ても顔立ちが整っており、スタイルも抜群に良いので、きちんと服を着れば一流のモデルに見える。塚原のお母さんは人当たりの良い丸顔で、あまり塚原に似ていないので、塚原は父親似なのだろう。


 もし塚原のお姉さんが父親似なら、かなりの美女だといえる。友達の姉をどうにかしようという考えは一切無いが、美女というのはいくら見ても飽きないものである。  


 しばらく無言で箸を進めていると、奥の部屋から微かに塚原の声が聞こえた。何を話しているのかはわからないが、姉に対して呆れるような声で話している気がする。


 聞き耳を立てるのは良くないと思いながらも、ついつい奥の部屋に意識を集中させてしまう。あの暗闇の中、どんな会話をしているのだろう。



「おかわりあるから、足りなかったら言ってね」




 突如、塚原のお母さんに声をかけられたので少し驚いた。ゆっくりと見上げると、満面の笑みでしゃもじを持っている。


「それじゃあ少しだけいただきます。あ、さっきの半分くらいで」


 そうこうしていると、塚原がテーブルに戻ってきた。その後は特に奥の部屋から物音がする事も無く、段々とどうでも良くなってきた。食事が終わった後もだらだらと話し込んでしまったので、俺が自宅に帰ったのは22時過ぎだった。


 部屋着に着替えてから、スマートフォンを取り出す。そろそろ沙也加に連絡をしておかないと浮気を疑われてしまう。


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