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「イタリアンとかどうですか?」
「いっいいですねイタリアン! ボルシチとか美味しいですしっ!」
「それウクライナ料理……」
「あぅぅ」
と、先程からどこかショート気味の綾奈さんなのだが、これもあの時手を繋いでしまったからだ。
とりあえずイタリアンレストランに入ったのだが、借りてきた猫以上にシューンと縮んでしまっており、まぁこれはこれで可愛らしいのだが……。
「綾奈さんは何にします? 俺はボンゴレビアンコにします」
「私はう~ん……ラザーニャで」
メニューを見せて空腹が刺激したおかげで何とか意識が戻ってきた。
「警察ってどうですか? 楽しいですか?」
色々な職業に興味があったので、警察官である綾奈さんに単刀直入に聞いてみた。
「そ、そうですねぇ……やっぱり辛いことも多いですよ。男性関係の犯罪は後を絶ちませんし、冤罪のときなんて最悪です……」
思いっきりため息をつく綾奈さんを見ていると、やはり苦労が絶えないらしい。
今言ったことなんて、綾奈さんが抱えるストレスの氷山の一角でしかないことはよくわかる。
「男性警察官も増えてきてますがやっぱり問題も多いですよ。でも、そういう一也さんはどうなんですか? テレビに映ってましたけど」
まさかのここで思わぬカウンターが飛んできた。
「う~ん……まだそこまで考えてないんですよ。選択肢としてはあるんですが、中々芸能界にはちょっと……」
とりあえず濁しておいたが、どうも女性たちは芸能界に行くことを勧めてくる。
それほどまでに芸能界が魅力的な場所だとは思わないのだが、そんなにいいものなのだろうか。
「それにしても、綾奈さんの口……すごいですよ?」
気づけば綾奈さんの口の周りにチーズが付いている。
本人はそれに気づいていないようで、慌てて口を拭いたのだが全くとれていなかった。
「ちょっと動かないでくださいね……よしっとれましたよ」
チーズを拭き取ったペーパーを丸めて置くと、綾奈さんがビッシリと固まっている。
口を少し開けて目を見開いている姿はとてもとても見せられたものではないのだが、顔の前で手を振り振りしても全く再起動する気配がなかった。
名前を呼んでみても固まったままなので、試しにラザーニャをスプーンですくってあーんをしてあげると、ゆっくりとそれに応じてくれた。
亀にキャベツをあげてるときと同じ感覚を覚えるは気のせいだろう。
そうしてラザーニャを食べ終えさせて、ボンゴレビアンコも食べ終えたのだが、まだまだ再起動には程遠かった。
その時の綾奈さんの脳内では、口を拭いてもらってからのあーんという言葉が渦巻いており、これは夢か現実かの区別がつきかねていた。
流石にどうしようもないと感じたので綾奈さんに軽くデコピンをすると、ようやく綾奈さんが再起動を果たしてくれた。
「そろそろ出ましょうか……」
「そ、そうですねっ」
そういって席を立ったのだが、会計をするときに二つほどちっちゃいことがあった。
会計はどちらがするかというもので、綾奈さんが出そうとするのを耳に息を吹きかけ硬直させ、そのすきに払った。
そして、レジの店員さんがやたらめったら手を触ってくるので強引に手を引いて店を後にした。
ほんとに小さいことだろ…。
レストランからでた二人はアクセサリーを見るために階を移動した。
「そういえば時計がほしいんですよねぇ」
「えーっと……ここにはロレックスがありますね。トミーとかポールスミスとかもありますけど」
「それなら一通り見ていきましょう。」
様々な小物を見ていく中で時計も見ていったのだが、中々これといったものは見つからなかったのだが、トミーとポールスミスでいいものが見つかった。
トミーでは腕時計を買い、ポールスミスではネックレスを買った。
どれも一目惚れで買ってしまったのだが、綾奈さん曰くとても似合っているとのことなので、失敗ではなかったようだ。
「ふぅ〜今日は助かりましたっ! これからどうします?」
綾奈さんにそう訊ねると綾奈さんは少しだけ迷ったあと軽く頷き、こちらにくるりと振り向いた。
「まだ時間があったら、そのぉ私も服が欲しいなって……」
「よし! それじゃあ次は綾奈さんの買い物にレッツラゴーですねっ!」
綾奈さんは安心したようで、ふぅと息を軽く吐くと"少し遠いですけど"と言ってきたが、こちらとしては買い物に付き合ってもらってるのだから少しくらい遠かろうと付き合うつもりだ。
綾奈さんの運転のもと辿り着いたのは自由ヶ丘のオシャレな服屋さんだった。
自由ヶ丘なんて女の人とのデートで数回来たか来ないかくらいのレベルなので、はっきり言って少しだけ恥ずかしい……。
それこそこんなオシャレな場所なんて場違い感を感じてしまい、女性専用車両に入っている気分だ。
それほどまでに自由ヶ丘はオシャレな女性のイメージだったのだが、こうして綾奈さんと来てみると案外いい場所だなと気づいた。
「ここにはよく来るんですよー」
確かに綾奈さんの今日のファッションは自由ヶ丘にマッチしているような気がする。
服をあわせてはどうですか?と聞いてくるのだが、素材が最高級過ぎて似合わない服がないので、どうしても全て肯定的になってしまうのだが、一也くんはこういう時の打開策をしっかりと会得しているのだ。
「この白もよかったですけど、俺的にはさっきの淡い青のほうがいいと思いましたねぇ」
肯定的否定?
とりあえず80褒めて100にすり替える戦法!
まぁどれもこれも100:0で似合ってるから何とも言えないのだが……。
因みにこの戦法は自分の中の100を選ぶのがコツだったりする。
そして服選びできゃいきゃいしているときの店員さんの目線が凄かったことにようやく気が付いた。
嫉妬と殺意がブレンドされた濃い視線で、可愛い系の店員さんなのにあんな目つきができるものなのかという少しの恐怖が胸に突き刺さった。
「う〜ん……これとこれならどっちですかね?」
綾奈さんが持っていたのは100と評した淡い青のキャミワンピで、もう一つは薄いミルク色のニットワンピなのだが……。
「試着してみてはどうですか?」
欲望が漏れてしまった……。
しかし後悔はしていない。
綾奈さんは試着室へと入ってくれたからだ。
ごそごそと薄い布を隔てて聞こえてくる音に全神経を集中させる。
時折聞こえる"んっ……"とかいう声に鼻息を荒くしているとカーテンが開いた。
「ど、どうですか……?」
手を丹田辺りで組んでモジモジする綾奈さんは100点満点だった。
「最高っす……」
最高のサムズアップとともに返答すると、それならこれにしますと言ってカーテンを閉めようとしたのだが、ここで良い男っぷりを見せなくてどうするよっ!?とばかりキャミワンピを直しておくと受け取る。
カーテンが閉まったのを確認するやいなやすぐ様レジに向かいキャミワンピをこっそり購入。
そして元の場所に戻って待機。
完璧なできる男の完成だ!
出てきた綾奈さんはそのままレジでニットワンピを買い、それではいきましょうと店を出た。
「ありがとうございました。おかげさまで良いものが買えましたっ!」
ニッコリ笑う綾奈さんをさらに驚かせるべく後ろに隠していたものをスッと取り出す。
一瞬へ?みたいな顔をした後に袋と顔を何度か往復させる。
「今日付き合ってもらったお礼です」
「い、いいんですかっ!?」
あまりのリアクションにこちらも嬉しくなってしまうが、こちらの世界では男が服を選んでくれるなんて稀だ。
しかも付き合ってもいない男から服を貰うなど、嫉妬で襲われかねないほどのことである。
「もちろん。これも似合ってましたし、次に会うときに着てくれたら嬉しいかなぁなんて……」
「はいっ! 必ず着てきますっ!」
袋を受け取るとそれを宝物のように抱き締めている。
「それじゃ帰りますか」
「はい!」
それから幸せを噛み締めながら運転した綾奈さんは、一也を降ろしたあと少しして車の中で叫び悶え苦しんだ。
すぐ様今日のことを同僚に報告したのだが、すぐ様"死ねっ!"や"妄想乙!"や"証拠をだせっ!"などの返信があった。
予想をしていた綾奈はすぐにボンゴレビアンコを嬉しそうに食べ、カメラ目線で微笑む一也の写真を送った。
当然そこからの反応は予想通りの反応が帰ってきた。
"紹介してくださいお願いします。"や"どうか私にも連絡先を……"などなど、手の平がまるでドリルのように回転している。
それを見ながら綾菜は幸せな夢をみたとさ。
少し短めー。
次回はいよいよ家族回でございます!
さて、筋肉ぅ………。
そろそろ僧帽筋鍛えておこうか…。
僧帽筋は首の横のやつでリュックがかるえなくなるやつです。
ここを鍛えることによって逆三角形からダイアモンド型の上半身を作っていくことができます。
鍛え方は懸垂でもできますが、椅子をカラダの横において手をついて体を浮かして上下運動やダンベル両手で持ち、だらりとした状態で肩を上げ下げするなど様々あります。
自分に合ったものを選択しましょう。
僧帽筋は鍛えすぎるとなで肩になり服が似合わなくなったり、リュックが似合わなくなるので気をつけましょう。
あんまり重要視されない筋肉ですが、バランスを気にするならここもしっかりと鍛えましょう。