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退院したぞー!
完治!!
後日、東條家と日下部家に挨拶に行ったことを伊織さんに伝えると盛大に拗ねられた。
そして、結婚式を一番初めにやってくれたら許してやるということになりかけたのだが、そこは綾奈と明日香がごねにごねた。
結局話し合いをすることでこの問題は一応落ち着いたのだが、伊織さんの顔は渋いままだ。
色々後回しというか、告白も挨拶も最後にされたことを結構根に持っているようで、この話し合いは長くなるだろう。
そして、鮎川さんや桜子さんにも結婚のことを伝えた。
「それはめでたいことだが……カズとしてはまだ結婚していないことにしておいたほうがいいだろう」
鮎川さんの言うことは尤もだ。
正体がバレるリスクをわざわざあげる必要もないだろう。
桜子さんも鮎川さんと同じ意見なようで、綾奈と明日香に徹底するように言っていた。
そして、桜子さんが二人と話してる間にレッスンを始める。
最近はいつものレッスンにプラスして楽器の練習に打ち込んで見始めた。
ギターもそこそこ弾けるようにはなってきたので、ハーモニカも並行して練習している。
これはサンライズに活かすものではなく完全にただの趣味なのだが、チャンスがあればギターとハーモニカの二つを使うのもやぶさかではない。
こうしてレッスンを何度かこなしいよいよラジオ打ち合わせの日がやってきた。
担当のプロデューサーさんは安心院紗良という人で、御年58の超ベテランプロデューサーらしい。
ラジオ界ではかなり有名な人らしく、携わったラジオはどれも高聴衆率を叩きだしている。
わざわざそんな人が担当してくれるとはかなり期待されているようだ。
さすがにプレッシャーも感じるが、最近はこういうプレッシャーも心地よくなってきた気がする。
そして、打ち合わせ場所はシックな個室喫茶で、到着した時には安心院さんはもうすでに座っていた。
「こんにちは。早く着いたようだったのでお先にコーヒーを頼ませてもらいました」
さすがに落ち着いた印象を受けるのだが、よく見ると目が少しギラついている気がする。
素顔での対面なので、
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
立ち上がりお辞儀をしてきた安心院さんよりも深くお辞儀を返す。
この行動に少しだけ驚いていたが、こういう男だと聞いていた安心院さんは小さく笑った。
話で聞いてた以上だと言われ、少しこっ恥ずかしかったのは内緒だ。
軽い挨拶を済ませて飲み物を注文し、いよいよ打ち合わせが始まった。
「オープニングとエンディングの曲はあれで問題ないです。
で、ラジオのスタイルはどういう形でやっていきたいですか? 二人のフリートークメインやリスナーのお便りなどを多め、こっちできっちりと台本を作り込んでくるか」
「できるだけ自由にやりたいかな」
まさかの純が答えた。
答えようと口を開きかけた瞬間だったので、純の即答には驚きを隠しきれなかった。
「そうですか。それならフリートークメインで作っていくようにしましょう。
台本は流れなど書くだけでいいですか?」
「それでお願いします」
「コーナーのほうはどうしますか? 希望がなければこちらで考えたものを相談の上で用意しますが」
「メールを読んで話の種にしたりとか相談事を解決したりとか、その程度でいいのであまり凝ってないものでお願いします」
リスナーのガチガチの大喜利になるのは聞いてる分にはいいのだが、それを捌く実力があるわけがないので、そういったものがこないほのぼのとしたコーナーだけにしていきたい。
中にはほのぼのコーナーを大喜利へと変えていく、ある意味凄いリスナーもいるので安心はできないが、そうなったときはそうなった時だし、最悪安心院さんに対応してもらえばいいだろう。
しかし、男がこういうコーナーをしたいと言ってやり始めたものを変えていくようなリスナーはいないはずだ。
とりあえずこちらの希望は一通り聞いてもらっい、安心院さんはそれを纏めていくつかの候補をあげてくれた。
しかし、安心院さんが出してくれた候補の数がかなりあったので、すぐには決められず後日候補の中から選んで報告することになった。
「それでは次はラジオのスポンサーに関してなんてすが、ありがたいことに大量の申し込みが来ています。
しかし、大量すぎるが故にこちらで選別するのが難しくなりまして、スポンサード+サンライズのお二人をCM起用したいという依頼も多数あるんですよね。
なので、こちらで選別したCM契約ありのものを用意しましたので、これらもコーナーと一緒に吟味してください」
そう言って渡された紙束を見るに、相当な量が安心院さんたちの所に来たことはすぐにわかった。
さすがにCM契約のことまではこちらが担当しなければならないので、スポンサーをしてもらうかどうかは別としてこちらで捌かなければならないだろう。
「それでは今日はこのくらいで……次はコーナーなどが決まってからお会いしましょう」
安心院さんと別れすぐにこれらを持ち帰って桜子さんや純と吟味に吟味を重ねた。
しかし、結局その日までに決めることが出来なかったが鮎川さんを頼りにすることにした。
その時の鮎川さんの苦笑いは忘れられないだろう。
ちょっと病気っぽいからの検査入院からの入院。
あざまーっす!!
おかげで体はほっそり健康そのもの!
病院食うめぇ!!
筋トレがんばります……。




