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少し早くなった気がする。
今回は少し短め!
東條家を後にするとき、たくさんのお土産をもらって帰った。
主に綾奈の幼き頃の写真なのだが、道中での綾奈との写真を巡っての攻防は白熱した。
車の中でまさかの綾奈が明日香に注意されるという珍しいことが起きたが、そんなことよりも写真のほうが綾奈にとっては重要だったらしい。
家に帰ってからは新曲製作のために部屋に籠ることにより、写真奪取を防ぐ一石二鳥作戦を成功させた。
しかし、肝心の曲作りのほうは全く進展がなかった。
ラジオに向いた曲のレパートリーがなかなか見つからないのが原因で、結局なにも浮かばないまま部屋から出ることになった。
綾奈がジロリとこちらを見つめてくるが写真回収することは諦めたようで、明日香の料理の手伝いを継続していた。
「次は私の家だよね!」
料理ができ、食べ始めてすぐに明日香がそんなことを言ってきた。
確かに東條家の次は日下部家訪問の予定ではあったのだがさすがに早すぎる。
「まぁ次は明日香のとこだけどまだ先の話だよ?」
「だけど、次の確認だよ! 伊織さんのとこにちゃっかり先に行ったりしそうだもん!」
ぷりぷりとほっぺを膨らまして痛いところを突いてくる。
確かに明日香の実家にお邪魔する前にいろいろなことが起きそうではあるが、俺への信頼度が少し下がっていると思うと少し悲しい。
しかし、これまでのことを考えるならば明日香の心配もわかってしまうのがさらに悲しくさせる。
「大丈夫大丈夫。今回ばっかりはちゃんと先に明日香の所に行くから」
「信じてるからね!」
明日香はジト目でこちらを見ながら唐揚げを頬張る。
なんというか、逞しくなってしまったものだ……。
初めは遠慮というものがあったが、ここまで自然体になってきてくれると嬉しい。
しかし、元気っ娘が少し縮こまってる小動物感がなくなってきて悲しくもある。
そんな、もやりとした思いをかき消してくれるようにほっぺを膨らませて唐揚げを頬張る明日香を見ていると、やっぱり明日香はこっちのほうがいいと改めて思った。
綾奈にほっぺをぱんぱんにして食べるのははしたないと注意されているが、ちびちび食べるよりもよっぽど好感が持てるので、そのままでいいと綾奈を制す。
ご飯も食べ終わり綾奈と明日香、伊織さんにラジオに向いた曲……サンライズのイメージ的なものを聞いてみた。
綾奈は静かに熱く燃えるよう、明日香はポカポカとした太陽のイメージらしい。
遅れてきた伊織さんからの返信には、激しく光ってる様に見えるけど中心は穏やかで暖かいイメージだそうだ。
そこから曲のイメージを膨らませてみる……が、結局その日は何も浮かぶことはなかった。
次の日、事務所で鮎川さんから進捗状況を聞かれ全く進んでいないことを報告すると、鮎川さんはニヤリと笑った。
「久しぶりに私たちの出番かな?」
曲作りに関してはほとんど鮎川さんたちを頼っていなかったので、どことなく嬉しそうにしている。
「今回ばかりはちょっと厳しいかもしれません。エンディングの曲のほうはお願いしてもいいですか?」
「ふふふ……任された。しかし、私たちをもう少し頼ってくれてもいいんだぞ?」
「曲以外はしっかり頼らせてもらってますよ」
実際に曲作り以外のことは頼りっきりなのだが、鮎川さん的には全力で甘やかしたいというか、もっともっと力になりたいらしい。
桜子さんも鮎川さんと同じ気持ちらしく、こちらを真剣に見つめている。
そんな二人の視線から逃れるようにレッスンへと向かった。
レッスンも終わり、家に戻れば明日香のキラキラとした視線を貰う。
もしもこの期待を裏切るようなことがあれば、明日香は悲しむどころではすまない……。
そんなことを起こす気もないが、あんなに純粋な眼差しを見てしまうと最悪のケースというものを想像してしまう。
「いつにしますか!?」
逸る気持ちを抑えられないのか、机の向こうから身を乗り出して聞いてきた。
そんな明日香を見て苦笑いを浮かべてしまうが、予定としては今度の日曜が空いている。
そして、それを伝えるやいなやすぐに親へと電話し日曜日の予定を埋めた。
向こうの予定は大丈夫なのかと聞くと、明日香母はこの面会以外は全て雑事とまで言い切ったそうだ。
挨拶の日時が決まり小躍りするほど喜ぶ明日香に対し、綾奈がほんのりと注意する。
しかし、この前の失態のせいもあり強くは言えないようで、落ち着け程度の言葉だけだった。
明日香のためにもさっさとラジオ用の曲を仕上げなければならないと、部屋に閉じこもり曲作りに励む。
悩みに悩み抜き、ようやく一つ考えついたので早速コピーを始める。
Guns&Rosesという曲で、歌詞はないがノリがよくて楽しくなる曲だ。
たまたま見ていたアニメでいいなと思って入れていたのだが……僥倖僥倖。
これを日下部家訪問までに作り上げなければならない。
ハードなスケジュールになったけれど、寝る間も惜しんで着手したおかげでどうにか間に合った。
そして、曲のみという仕上がりに鮎川さんたちは驚いていたが、サンライズのイメージにあっているということで採用された。
鮎川さんたちが用意した曲も歌なしのもので、どこか切なげなメロディが悲しくさせる。
あぁ、終わったんだな……という印象を抱く。
「まさか歌を用意してくるものだと思ってたけど、これはこれでいい感じに纏まったな。初めは楽しげに始まって別れは少し悲しく……いいな!」
鮎川さんは早速仕上がった曲をプロデューサーに送りつけると息巻いており、桜子さんが慌てて準備をし始めた。
これで心置きなく明日香の実家へと行くことができる。
それを明日香に伝えると、あの時の小躍りテンションを更に超えるテンションへと昇華した。
「早速お母さんに連絡するね!」
明日香はすぐに電話をして母親の予定を確認し始めた。
ガッチリ予定を空けておくとのことで、寧ろ予定が合わないパターンに出逢ってみたいとすら思う。
娘が男を紹介にくるともなれば仕方ないとは思うが、だれもかれもが万難を廃してくるのはさすがに仕事的に不味いのでは……。
それが許される世界だとはいえ、中々馴染むことのできないところではある。
そうして訪れることになった日下部家にて、想像以上の衝撃を受けることとなった。
寝る前の一時間で書き続けること数日。
ようやく完成にこじつける。
趣味の時間をもう少しと、誘惑に負けそうになるのを必死に堪えてようやくだ。
ひゃあぉう!!
このくらいのペースは保ちたい……。




