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やっと書き上げた......。
完全に詰め込んだ。
いよいよ綾奈の実家へと到着した。
綾奈からは色々と忠告というか、家族について多少の説明を受けたのだが、どうも家族が粗相をしないか不安で不安で仕方がないらしい。
母親も妹も綾奈よりも騒がしい方で、どちらかというと明日香に似たようなタイプだそうで男に会った経験すら乏しい。
そこへイケメンを連れてくるとなれば......想像に容易いだろう。
しかも、今回は挨拶に来ることは秘密にしてあるのだ。
「はぁ......母さんたちが粗相をしなければいいんですけど......」
「そんなに心配しなくても大丈夫だって」
この家に着くまで何回ついたかわからない綾奈の溜息を流しつつインターホンに手をかける。
何度か音が鳴った後に元気な声が聞こえてきた。
「はーい! おかえり姉さん」
「ただいま。鍵は開いてる?」
「開いてるよー!」
俺は陰で扉を開ける綾奈の合図を待つ。
「おかえり姉さん! ひさしぶりだね! 今日はどうしたの?」
「ちょっとみんなに紹介しようと思ってる人がいて......」
「だれだれ? 職場の人?」
「まぁ職場の人って言えば職場の人なんだけど......もういいですよぉ!」
綾奈の合図とともに妹さんの前に現れると、妹さんは綾奈と話していた状態でびっしりと固まってしまった。
この状態では挨拶も何もないのでとりあえず家に入れてもらい、ソファに座らせた妹さんが再起動するのを待つ。
しかし、なかなか再起動を果たさない妹さんに痺れを切らした綾奈が強硬手段にでた。
キンキンに冷えた缶ジュースを首筋にピタリと当てた。
「ひゃぁっ!?」
素っ頓狂な声を張り上げてソファから立ち上がりなにが起きたのかを見回し、一也の姿を一番最初にとらえすぐにソファに座りなおした。
恥ずかしい姿を見られたのを恥じるように少しだけ小さくなっている妹さんに声をかける。
「初めまして。綾奈さんとお付き合いさせてもらってる国東一也です」
「あっ、こ、こちらこそ初めまして......東條つかさです」
緊張が極限に達しているせいか、心なしかつかさの様子がかなり固い気がする。
話で聞いていた印象よりも大きく違って見える。
「って......付き合ってるってほんと!? 姉さん!!」
「ほ、本当だけど」
「えぇぇぇぇぇ!!??」
家の中につかさの絶叫が響き渡る。
男と付き合うというのはそういうことで、それがトップクラスの男ともなれば驚きは相当なものだろう。
「ね、姉さん......どうやってつかまえたの?」
「捕まえたって人聞きの悪い! 私はただ普通に出会って普通に......」
弁明する綾奈をつかさをじっとりとした目で見つめている。
冷静に考えれば非合法な手段で関係を持つことは不可能に近いのだが、それすらも頭に出てこないほどつかさは驚いていた。
「綾奈にはいろいろと助けてもらって、そこから紆余曲折を経て付き合うことになったんだよ」
「そ、そうなんですね......でも、姉さんのどこがよかったんですか? 顔も特別いいわけでもないしスタイルも......」
「いいところは外見だけじゃないよ? 内面の素晴らしさっていうのがあるから」
「確かに姉さんは最高の姉さんですけど......」
むぅと顔をむくれさせているが、どうやら納得できていないようだ。
ほとんど殿上人に近い男が一般人の目の前にいる上に、その殿上人が兄になるかもしれないのだ。
この心の中のもやもやはなかなか晴れることはないだろう。
つかさと、主に綾奈のさらに若かりし頃のお話をしていたのだが、その間綾奈の顔はすっと真っ赤に染まっており、つかさの口を何度か塞ごうとするのを止められていた。
結果として綾奈の恥ずかしい過去を知ることができたのだが、若気の至りのようなものだ。
「ただいまぁ~......」
少しお疲れのような声がリビングまで響いてきた。
開かれた扉向こうに立っていたのは綾奈をもう少し大人っぽくした妙齢の女性だ。
持っていた買い物袋をがさりと落とし、これでもかというくらいに目がかっぴらいている。
それを見たつかさはニシシと笑っており、綾奈は頭を抱えた。
長い沈黙が過ぎた後、綾奈母がゆらりと綾奈の方へと近寄り肩をガッシリと掴み詰め寄る。
「誘拐したの!?」
「そんなわけないでしょ! 一也さんは! ......そのぉ彼氏だよ!」
その言葉を聞くや否や綾奈母は再び固まったが、綾奈が肩をゆすることによりすぐに再起動した。
「あ、綾奈の母の梓です。娘が世話になってます!」
ガッシリと手を握られて自己紹介されこちらも自己紹介をし返したのだが、そんな梓さんを綾奈は俺から引きはがそうとしている。
手を握られ顔の距離も近いのがお気に召さないようで、セクハラだからっ!と、綾奈と梓さんの攻防が目の前で繰り広げられ始めた。
「いつもこんな感じなの?」
「う~ん......今日はまた特別な気がします! なんてたって男の人を姉さんが連れてきたんですから。でも、大体いつもこんなかんじですよ?」
ニヘラと笑う顔はどことなく綾奈に似ていて、綾奈よりもかわいい寄りな小動物っぽいつかさの頭を思わず撫でてしまった。
するとつかさは顔を真っ赤に蕩けさせ、先ほどまでわちゃわちゃしていた二人はこちらを穴が開くほど凝視していた。
「ど、どうかした......?」
言いたいことはわかるのだが聞かずにはいられなかった。
二人の視線は俺の右手とつかさの頭を行ったり来たりしている。
そして、すーっと自分を指さし少し頭を下げてきた。
さすがに人形のような瞳で見られ続けるのは精神的に辛いので、二人の頭も軽くなでる。
すると、先ほどの人形のような瞳は消え去りつかさのように蕩けきった。
「あっ......そういえば、あの買い物袋はいいんですか?」
完全に忘れ去られていた買い物袋の存在に気付いた。
言われて思い出した梓さんは、あぁ!という叫び声と共に買い物袋を回収してキッチンへと入っていった。
「はぁ......慌ただしくてすいません......」
「いやいや、面白いし楽しそうな家族じゃん。それに、思ってたよりも親しみやすくてよかったよ」
話で聞く限りではもっとがつがつ来られるかと思っていたのだがそんなこともなく、許容範囲内のスキンシップ程度しかされていなかった。
実際は粗相をして綾奈と別れられるリスクを冷静に判断した結果なのだが、そんなことは綾奈も知ることはない。
「でもさ、一也さんは姉さんと結婚してくれるんですよね?」
「まぁ、今日はその挨拶にきたからね」
「それなら一也さんは私の義理の兄になるわけですね。兄さんって呼んでもいいですか?」
僥倖!
まさかそう来るとは思わなんだ。
「もちろん構わないよ。こっちとしても家族が増えるのは大歓迎だよ」
「やったぁ! ありがと兄さん!」
両手を上げて抱き着いてくるつかさを受け止めると、またもや綾奈が引きはがそうとしてくる。
そうしてまたわちゃわちゃしていると、キッチンから梓さんが戻ってきた。
「一也くんは綾奈をもらいに来たんだよね? ってことは......家族になるわけだから、私のことはお母さん......ママって呼んでくれてもいいのよ!」
ずいっと近づいてくる梓さんにやはり家族なんだなと感じた。
完全につかさと梓さんがリンクする。
「いや、ママはさすがに......お義母さんで」
なんだが東條家のペースに呑まれたままでしっかりと挨拶をできていない気がする。
考えてきたパターンは完全に崩れたが、これはこれでいい気がする。
お義母さんと呼ばれた梓さんはきゃっきゃと喜んでおり、綾奈は眉をハの字にしながらも笑っている。
改めて綾奈をもらうことを伝えると笑って是非にと言われ晩御飯をごちそうになった。
綾奈と同じ味付けの晩御飯にほっこりしつつ、お義母さんから綾奈の過去の話を聞いた。
つかさに抑えられてる間に綾奈のことを聞き、綾奈にとってもすこ~し苦い実家訪問となった。
最近ジムに通うようになりさらに時間が消えていく。
趣味の時間を減らして書き上げているのですが、なかなか進みませぬな。
もう少しだけ早くできれば幸せ......。




