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ちょい長めかな?
ぎちぎちに詰め込んだった!
さて、Mステの収録も終わり、視聴率がどの程度だったのかを桜子さんから教えてもらった。
ニマニマしながらピラリと見せてくれた紙には、62.3%というわけの分からない数字が記載されていた。
家族や友人と見ている者や会社などで見ている人たちのことを考えると、ほぼほぼ全国民が見ていたと言っても過言ではない。
そんな驚いている俺を見て、桜子さんはついに声を出して笑いだした。
「ん〜……70は行くと思ったのになぁ」
これには桜子さんの笑いも乾いたものへとかわっていく。
純的にはこの結果にはまだまだ不満が残るようだった。
「いけ好かないけど人気はあるKARTに僕らの新曲FULLを初披露だよ?」
明らかに面白くなさそうに眉をひそめている。
そんな純の表情を見て桜子さんが慌ててフォローをした。
「こ、ここを観てください! 二人の出番の時の視聴率は73.6%ですから!」
しかし、そのフォローがさらに純の眉間のシワを深くしてしまった。
「瞬間最高視聴率はKARTの時か……」
紙に書かれていた瞬間最高視聴率は74.2%のKARTで、ちょうど歌い始めの頃から歌い終わるまでがその値だった。
これには桜子さんも言葉を失い空気が重くなる。
「まぁまだデビューして間もないし、これからでしょ」
そう言うと、口を尖らせながらもぶーぶー言うことはなくなった。
そして、ようやく純の不機嫌モードが終わった頃に鮎川さんがやってきて、Mステ成功の祝福と今後の予定についてのミーティングが始まった。
次のメディア出演はラジオが決まっており、一週間と少しで本番らしい。
数多くある中から選ぶのは中々骨の折れる作業だったらしいが、こちらからも少なからず要望はしていたので仕事量はかなり減っていたらしい。
因みに出演するのはMステでも共演した三佐桜花さんのANNだ。
Mステのときはあまり会話はしてないが、挨拶に行ったときの印象が良かったという話を聞いた桜子さんが決めたらしい。
顔見知りということで、あまりやりづらさを感じないのが救いだ。
そして、ANNゲスト出演の一週間後にはラジオのメインパーソナリティをやることになった。
単発のラジオ放送で、4月から始まるラジオに向けた予行演習だ。
新曲も作らなければならないし、今まで以上に慌ただしい毎日を送ることになる……。
しかし、これほど充実した日々は中々おくれないだろう。
これからのことを考えればレッスンに力も入るし曲作りも捗る。
あまりにも調子がいいものだから、純だけでなく宍戸さんたちにも指摘された。
純にはニマニマしてて気持ち悪いとまで言われたので、そこそこにショックだ。
そして、そんなおかしな状態のまま一週間が過ぎ、いよいよANN出演日が近づいてきた。
さすがにラジオといえばなANNの出演とあって、緊張でそこそこ高まってくる。
ANNでは三佐さんがフォローしてくれるとはいえ、これからは自分のラジオ持つのだ。
三佐さんに頼りっきりになるわけにはいかない。
「そんなに気張って……本番で空回りしないでよ?」
あまりにも意気込んでいたので純に注意されてしまった。
「そんなに気張ってるように見える?」
綾奈と明日香に訊ねると、首を縦に動かした。
言い終わる前から明日香は動いていたので、確実に気張っていたのだろう。
「ここ最近は目が少しギラついていまし、いつも以上に仕事に身が入っていましたよ」
綾奈にそう言われて振り返ってみると、確かにいつも以上に仕事ができていたと思う。
調子の良し悪しではなく、完全に空回りだったことに気づけてよかった。
あのままの状態で仕事をしていたら体を壊していたかもしれない。
純と二人に感謝しつつレッスンに打ち込んでいく。
Mステズハイも乗り越えいよいよラジオ放送の日となった。
スタジオに到着し、スタッフの人たちと挨拶を交わして三佐さんの所へと赴く。
「あっカズさんとジュンさんじゃないですか! 今日はよろしくお願いしますね!」
先日のMステでの一件のおかげで耐性があがったのか、挨拶に行っても驚き固まることはなかった。
「待っててくれればこちらから挨拶に行きましたのに」
そうは言われても、まだまだこちらはぺーぺーなので挨拶に行くのはこちらから筋というものだろう。
芸能界に入って一年も経っていないのに、先輩から挨拶に来てもらうのは流石に……。
長年培ってきた常識は中々変えられないので、ここは一思いに開き直ることにした。
「いくら男だからって、後輩が先輩に挨拶に行かないわけにはいきませんから」
三佐さんははにかみながらも嬉しそうにしている。
やはり何だかんだ言いつつも、こうやって面と向かって挨拶されるのは悪い気はしないはずだろう。
和やかな挨拶を終えてスタジオへ向かい、机の上に台本を置く。
台本にはびっしりと書き込んでおり、今日は大成功させる気で来ている。
それには訳があり、元々ラジオが好きだったというのもあるが、サンライズ的にはほぼ話術だけで勝負できるラジオはものにしておきたいのだ。
そんな書き込みがされている台本を見て三佐さんは仰天している。
そして、台本を見られないようにゆっくりと自分の元へとすり寄せた。
「そ、それでは頑張っていきましょう!」
何が書かれていたのか気になるが、収録が始まるのでツッコんでいくわけにはいかない。
ガラスの向こうではプロデューサーが合図をしており、ON AIRの電光が光りはじめた。
「三佐桜花のオールナイトニッポン!」
三佐さんが言い終わるとあの名曲が流れ始めた。
この場に居れることが幸せだ……。
「いつもならオープニングトークをだらだら続けるんだけど、今日はスペシャルゲストを呼んでいるのでいつものオープニングトークはなしで!
私も話したくて話したくて仕方がないんです!
それではお呼びしましょう! サンライズのお二人です!」
「どうも、サンライズのカズでーす」
「サンライズのジュンです」
テレビとは違いレスポンスがないので分かりづらいが、聴衆率はどんどんと伸びていっているらしい。
プロデューサーがこちらに現在のパーセントを見せてきた。
その時のプロデューサーの笑顔は忘れられないだろう。
「さて、サンライズのお二人に会うのは二回目なんですけど、二人とも優しいんですよね!
だって、楽屋挨拶に男の人がくるなんて初めてで感動したんですよ!」
「そんな挨拶くらいで大げさですよ」
「いえいえ、そんなことありませんよ! 仕事前の緊張感とかでぐちゃぐちゃになっているとき、話すことすら奇跡な男の人が自ら来てくれるなんて……これは感動ものですよ!」
「それがカズの良いところでもあり悪いところでもあるよ……」
「確かに……こんなに優しいと勘違いしちゃう女性も多そうですよね!」
「そうなんだよ……。そのせいで今までどれだけの女性を勘違いさせてきたことか……」
褒められていると思ったら、なぜか説教されるという謎な現象が起きている。
どうやら女性に優しい態度をとることで、かなり勘違いさせているらしいのだ。
全くそんなつもりもなかったし、そんな勘違いを起こさせている意識すらなかったので、これには少し驚いた。
「カズの良いところなんだけど……誰にでも優しくて真っ直ぐだけどちょっとおかしなところとか。
でも、その優しさに蕩けさせられてる人はどれだけいるのかっていうことだよ……」
「私もころころさせられちゃうところでした!? カズさんも中々やり手ですね……」
「え!? いやいやいや、そんな惚れさせるためにやってるわけじゃ……ジュン! お前が変なこと言うから!」
その後もわーきゃーやりながら素の自分というか、素のサンライズを少しは出せたと思う。
三佐さんも思うがまま楽しめたようだったし、今回のラジオは趣向を変えてうまくいった。
自分たちのラジオをどういう風に持っていくかの方向性は、少しずつ決まってきた気がする。
三佐さんには感謝しなければならない。
人のラジオで自由にやらせてもらえるなんてラッキーにも程がある。
今回のラジオの聴衆率はANN史上トップ5に入る記録らしく、三佐さんからもお礼のメールが届いた。
あーだこうだ褒めらる内容とお礼メールの最後の最後に、ちゃっかりお食事の誘いが書いてあってクスリときた。
時間が合えば是非にと返信すると、光の速さで携帯が震える。
そこには嬉しさを爆発させた内容と、ちょっぴりだけこれが勘違いさせるやつかな?的なことが書いてあり、今度は爆笑してしまった。
ハハッ!ひさしブリーフ!
君たちの筋肉だよ!
仕事から帰っては寝る生活を終え、ようやく仕事にもなれてきたのであります。
書くのも少しずつ進行し、ようやくでござーます。
一日一時間の書く時間が取れそうなので、その限られた時間の中でどれだけ書けるか……執筆RTA始まるよぉ!!




