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「えぇと…サンライズのお二人がデビューしたきっかけとはなんですか?」
やはりその質問が最初にきたか。
桜子さんからも最初はこの質問がくると言われていたし、もちろんこっちもそれが来ると思って準備にぬかりは無い。
「男が働く場所を探したときの職種の狭さと自分のできることを考えたときに、歌手ならば練習次第でできると思ったからですね。」
「僕はカズに誘われたからです。」
少しだけ驚いた。
何かそれらしいことを用意しているだろうと思っていたら、まさかのありのまま…純らしいといえばらしいのだが、少しは飾りをつけてもいいのではないかと思う。
「確かに…男性が社会にでるとなると問題が多いですからね。男性にしかできないこととかを探すとなるとやはりというべきなのでしょうか…。」
掛川さんは眉を寄せながらどんどんとメモを取っていくのだが、やはり男の社会進出について思うところはあるのだろうか…?
「それでは次の質問を…えぇ〜顔を隠しているのは何故ですか?世の女性はその奥が見たくて見たくて堪らないと思うのですが…。」
「もちろん顔を出すことも考えましたが、顔を隠してるほうが皆さんの想像を膨らませることもできますし、イメージを変に固めないようにするためです。」
適当にそれっぽいことを作ったがはっきり言って苦しい気がする。
それでも深くまで突っ込んで来ないことは、伊織さんと桜子さん情報によりわかっているので安心している。
「そうですか…。それでは次の質問は…答えにくければ答えなくてもいいのですが、好みの女性のタイプというのは……。」
「私は外見だけでいうなら美人な人です。」
「僕は僕がいいと思った人。」
まさかこの質問に純が答えるとは思っていなかったので驚いて純の方を見たが、別に何か?的な雰囲気を出していた。
「そうなんですねっ!美人な女性が好きというのは珍しいですねっ!……それでは次の質問ですが、女性に求めるものは何ですか?できれば三つほどお願いします。」
「私は芯があるかどうか、優しさ、自制心ですかね。」
「僕は家事、護れる力、頭の良さかな。」
純の答えが完全に男護官すぎて笑えるのだが、これは世の男護官が黙ってはいないだろう。
しかし、これでは純の男護官へと道は険しくなっただろうが、純の男護官になればイコール結婚の可能性もかなり高まったということなので、男護官の方々はハンターのような気持ちになっていることだろう。
掛川さんも男性への取材を行えるほどの信頼と実力があるので、かなりのチャンスはあるとは思うのだが、やはり男護官ブランドには勝てないようだ。
その証拠にこちらの意見メモしながら小さな小さなため息をついていた。
「それでは次の質問です。歌手としての理想というか、こういう歌手になりたいなどはありますか?」
「あまり考えたことはありませんね。トップに立とうという想いは少なからずありますが、理想としてはいい曲をたくさん作ることですかね。」
「僕もカズと同じです。」
定型文のような回答に掛川さんは満足しないかなとは思ったが、あんまり思ってもないようなことを言っても、逆に自信満々でも自分の丈にはあってない気がする。
それからはどんな練習をしているかなどの歌手活動関係の質問や、プライベートに踏み込んだ質問も多くされた。
プライベートの質問では答えられないが多くなってしまったが、ここまでプライベートのことを教えてくれる男性は初めてだと言っていた。
純はプライベートのことをほとんど答えていなかったので、やはりそれを話すというのは意外なことらしい。
別に恋人は何人いるのかなどのプライベートは言うことはできないが、好きな食べ物やどこから洗うか程度ならなんのことはない。
初めてのインタビューが終わり、掛川さんはニコニコ笑顔で帰っていった。
「お疲れ様でした。初めてのインタビューはどうでしたか?」
掛川さんの見送りが終わり、桜子さんから今日の仕事についての感想をニマニマしながら求められた。
もちろん緊張とわくわくのおかげでいい感じに楽しめたが、こんなものでいいのだろうかという思いも少しだけ残った。
どうやら純のほうは緊張しすぎて普段答えない質問にも答えてしまったらしい。
「初めてなので当然です。これからも何度か雑誌やテレビ出演もあるでしょうし、次はラジオの仕事も待っていますよ。頑張りましょう!」
可愛らしく拳を握って応援してくれているようには見えるのだが、ただただ追いうちをかけてきているようで素直な反応ができない…。
それから桜子さんに車の手配をしてもらい今日の仕事はこれで終ったのだが、正直言って消化不良感が否めない。
なので…2人を誘ってボウリングに行くことにした。
とりあえず身体を動かして、体の中に残ったもやもやを発散したいがために思い立ったのだが、近場にあったのがボウリングで目についたというのが理由だ。
2人ともボウリングには乗り気で、どうやら明日香はボウリングが大得意らしくスコアは200行くか行かないからしい。
さて…ボウリング場に来たはいいが視線が突き刺さる…。
椅子に座ったまま固まる、ストライクをとって喜んだ状態で固まる、ボールを構えたまま固まる…様々な女性が様々な状態で固まっているのは笑えるのだが、こればっかりはボウリングに集中しててと思ってしまう。
靴を借りてゲームの設定をし、ドリンクを買ってボール選んでスタートした。
第一投はもちろん担当させてもらい、13ポンドを強く掴みパワーオブパワーで投げる。
ボールはすぐにピンへとぶつかりすべてのピンは弾け飛んだ。
ストライクが取れたので2人とハイタッチをしたのだが2人は恥ずかし嬉しな反応を見せ、抱き寄せたくなる衝動をグッ…と抑えて次の綾奈を見守った。
綾奈は普通のスタイルでスペアをとり、幸先のいいスタートをきることができた。
そして…大本命の明日香はドヤ顔をしながらボールを取り、見ててください…という言葉とともに振りかぶり投げた。
左に寄って投げたのだが、ボールは右にから真ん中に向けて曲がっていき、立っているピンは一つもなかった。
くるりとドヤ顔をこちらに向けてくる明日香なのだが、確かにボウリングが上手いので突っ込むことはできなかった。
そうして7回目に差し掛かってきたとき、身体が熱くなってきたので上着を一枚脱ごうとした時綾奈からガシリと止められた。
「ちょちょっ…何してるんですか!こんなところで!!」
小声ながらも焦る綾奈にどうしたのかと思ったのだが、ナチュラルにやろうとしていたことが不味いことに気づいた。
いい汗を流すメンズが薄着になるなんて襲ってくださいと言っているようなものだ。
現に周りの女性たちの何人かはこちらをやばい視線で見ており、何人かがこちらに向かって来ようとしていた。
「や…やばいっ…!ど…どうしようか!?」
「一先ずあそこの非常階段から逃げましょう!靴を履き替えてください!」
すぐに靴を履き替え持つものを持ち、ダッシュで非常階段へと走るが、もちろん発情した女性たちが走って向かってくる。
「ああああああ!!男ぉぉぉ!!」
明らかに女性が出すべきではない声をあげながらこちらに向かって走ってくる様は、夢にでてきてトラウマになるレベルだった。
その発情した女性に引っ張られるようにして何人かの女性が興奮し、数十人の女性たちがこちらへと向かってきていた。
「は…早くっ!急いでっ!」
明日香が扉を開けて手招きしている。
先程まで履いていたボウリングシューズを女性陣に向かって放り投げると動きが止まり、その隙をついて扉へダッシュする。
それに気がついた猛獣たちは一目散にこちらへと向かってくるが、一瞬止まったおかげで血路が開け、猛獣が到達する前に非常階段から脱出することができた。
非常階段を駆け下りタクシーに乗り込んで帰宅したのだが、綾奈がコンコンと説教をし始めてしまった…。
「いいですか!一也さんは男なんですよ!運動してフェロモンが分泌されてるというのに、なんで!さらに!そこで!薄着になろうとするんですか!」
今回ばかりは綾奈の言うことを素直に受け止め反省するばかりだった。
「もうっ…!一也さんが襲われでもしたら…あの時みたいに襲われでもしたら……うぅ……うああぁぁん!」
説教をしていたと思ったら急に泣き出してしまい、どうすればいいのか分からずとりあえず抱き寄せた。
おそらくあのときのストーカー事件のことを思い出したのだろうが、綾奈には多大な心労をかけてしまった…。
明日香にも謝り綾奈を安心させてなんとか一騒動を乗り切ることができた。
しかし…こちらへ来てああいう場所で荒れる人たちを見てなかったので、かなり油断していたことは気をつけなければならない…。
やはりこの辺りに住んでる人というのは自制心がそこそこ培われているのだが、男性たちが住む場所とはかけ離れた場所にいる女性というのは猛獣になってしまう…。
現にこの辺りに住む女性というのは厳正な審査のもとで決定しており、倍率の高さも跳ね上がっているのだ。
そうして得た至福の場所から追い出されるわけにはいかないので、この辺の女性たちは落ち着いているのだ。
そう考えるとやはり普通の場所は危険ということに落ち着いた。
多少なりとも男性に配慮したところに行かないと、またこういう事態に陥りかねないので、次からは衝動ではなくしっかりと調べて行くことにした。
ストレス解消のつもりがストレスを溜め込むことになり、とんだ運動になってしまったと後悔する日となった。
熱が辛いですがなんとか仕上げました…。
次回か次々回はレディオ回になりす。
よろしこ。、
それではおやすみ…。、




