16
さて、空き部屋に綾奈さんの荷物を運び込み終わった。
因みに明日香さんは自分の部屋へと強制送還されてしまっている。
「荷解き終わりましたよー」
テレビを見ながらエクレアとカフェオレを飲みながら待っていると、綾奈さんが部屋から出てきたのでエクレアを一つ渡した。
「あっ、ありがとうございます。これからは私がしっかりと一也さんをお守りするので、大船に乗っているような気持ちでいてください!」
綾奈さんはグッと握りこぶしをつくり意気込んでいる。
そんな綾奈さんにお願いしますと声をかけると、綾奈さんは今以上に闘志を燃やし始めてしまった。
「まずはストーカーをどうやって捕まえるかなのですが、明日から一也さんはアウトドアな生活をしてもらいたいと思うんですが、いいですか?」
外に出るなと言われるかと思い戦々恐々としていたのだが、逆に外に出ていいと言われて内心とても嬉しかった。
「私と一緒に……ということにはなりますけど、少し離れた場所で仲間が張り込んでいるので安心してください!」
男護官がどれだけ強いのかは分からないが、プロフェッショナルに護られているというのは心強い。
「もちろん! 綾奈さんこそ無茶をして怪我とかしないでくださいよ?」
そう笑いかけると、綾奈さんは照れてしまい俯いてしまった。
それからはもうすでに夜は遅いので、綾奈さんにお風呂に入ってもらいぐっすりと就寝することになった。
「おはようございます!」
寝ぼけ眼を擦りながらリビングに出ると、すでに綾奈さんがキッチンに立って朝ごはんを作っていた。
寝ぼけていてなんで綾奈さんがいるのかと思ったのだが、すぐに昨日のことを理解して挨拶と朝ごはんのお礼を言う。
「あぁ、おはようございます……。そしてありがとうございます。」
「いえ、別にご飯を作るのは当たり前なので気にしなくても大丈夫ですよ。それよりも、その爆発してる頭を直してきたほうがいいですよ?」
クススと笑いながら頭を指摘されたので、頭をゆらゆらと振ってみると確かに博士みたいことになっていた。
洗面所で顔を洗い歯磨きをして、髪を整えリビングに戻ると、丁度綾奈さんが朝ごはんをテーブルの上に並べているところだった。
「あっ、ご飯できたので食べてください!」
"お皿勝手に使ってしまって……"などとも言っていたが、そんなことに文句を言うわけないのに。
ただただ女の人がご飯……特に朝ごはんを作ってくれているという状況だけでご飯三杯は行けるというのに。
いただきますと手を合わせ、まずは湯気の立つ味噌汁から啜っていく。
沁みる……。
赤味噌多めの合わせ味噌を使った味噌汁は、俺の好みの味調節がされて、玉ねぎに大根、豆腐にワカメとえのきが入った素晴らしい味噌汁だ。
味噌汁を体に沁み渡らせていると、綾奈さんがそわそわしながらこちらを見ていたので最高に美味しいことを伝えると、ヒマワリのような笑顔をくれた。
納豆をかっ込んで、焼き鮭を食べて米をかっ込む。
下品だと言われるかもしれないが、少し余らせた米と味噌汁でねこまんまにしてしめる。
これが俺のジャスティスだ。
「ごちそうさまでした!」
食べ終わり、綾奈さんが食器を片付けていくそれを見て、なんか新婚生活みたいだと思って照れてしまう。
そんな幸せを感じていると、携帯が伊織さんからの着信を知らせてきた。
伊織さんからの着信は全て伊織さんの曲で一番好きなものに設定しているので、すぐに分かるという寸法なのだ。
内容は今日遊べないかという内容だった。
もちろん行きたい気持ちはあるのだが、如何せん今はストーキングされている身。
伊織さんに被害が及ぶのは忍びない……。
すぐに伊織さんに現状を伝えると、すぐに返信が返ってきた。
心配7割、ストーカーに対する怒り3割くらいの割合の内容で、なんとか力になろうとしてくれて嬉しかった。
ストーカーが捕まったらご一緒しましょうと返信し、今日はおとり捜査を敢行するのか綾奈さんに聞いてみた。
「今日はこの近所を少し散歩してみようと思います。これで喰いつかなければどんどん範囲を拡げていきましょう!」
今回の散歩で足が掴めればいいが、恐らくそんな簡単にはいかないと思って過度な期待はしないようにした。
意気込む綾奈さんとは違い時間がかかるものと思っているので、気分はそこまで高ぶってはいない。
「それでは行きましょう。仲間は10人近くいるので安心してください!」
綾奈さんを先頭にマンションから出ていく。
出る時に意気消沈した明日香さんに一声かけ、昨日のことは気にしてないことを伝えたのだがあまり元気は回復していなかった。
元気ハツラツな明日香さんが好きなので、なんとか元気になってもらいたいものだ。
このストーカーを捕まえたら明日香さんの励ましを最優先にすることを決めた……。
綾奈さんとぷらぷらすること1時間……全く収穫はなかった。
「ま、まぁ1日目から収穫があるとは思ってはいませんでしたから!」
気持ちを引き締めている綾奈さんだったが、こんな日が1日だけでなく2日、3日、1週間ともなると、流石に空元気も目立つようになってきた。
恋人を装ってみたり、ラブホテルに入ってみたりしたのだが、ストーカーからのアクションは全くとは言わないが、決定的なものは一つもなかった。
唯一ストーカーからきたアクションは綾奈さんとの行動を綴ったメールが届いたくらいで、行動に移してくることはなかった。
「もうあれをやるしかないですね……」
2週間が過ぎた頃、いよいよ綾奈さんが神妙な面持ちで切り出してきた。
「一也さんに1人で外出してもらい、私たちは一定の距離を持って一也さんの後を着いていきたいと思います」
まさかここまでアクションがないとは思っていなかった綾奈さん含め警察官の人たちは、いよいよ最後にして最終手段を講じることにしたようだ。
「わかりました。どのくらい離れるんですか?」
「30m以上は離れることになります。もしもそれでも来ない場合はさらに距離は広がると思います」
辛い現実が突きつけられるが、このストーカーが捕まらない限りなにもできないので、なんとかしてでも捕まえなければならないのだ。
「それじゃあ行きましょう! 犯人のことは任せますよ?」
無理に元気を振り絞り綾奈さんを先にマンションから離れさせ、その後30分後に俺もマンションをあとにした。
とことこと歩くこと数十分……嫌な視線を感じる。
いつもの熱っぽいものではなく、なにか纏わりついて離れないような嫌なものだった。
足早になるのを抑え、いたって冷静であるかのように余裕ウォーキングをする。
後ろから感じる視線を気にしていたせいで、前からくる人のことは完全に意識の外だった。
「一也くん……」
前からきたザ・美少女に声をかけられて戸惑ってしまったが、その美少女の目は暗く濁っており、にへらぁとだらしなく笑みを浮かべている。
全身の毛が一気に立ち上がるのを感じ、後ろからの視線はストーカーではなかったのかと焦る。
目の前にいる女はゆらりゆらりと体を揺らしている。
「んふふ……あの男護官は私の仲間が止めてくれています。ここは私と一也くんの二人だけ……そうっ! 誰にも邪魔はされないんですよぉ……!」
カバンからロープを取り出して笑うその姿は、シリアルキラーのそれと何ら変わらないように感じた…。
俺もカバンから催涙スプレーとスタンガンを取り出して応戦する気があることを示すが、ストーカーはそんなこと気にもとめていなかった。
「んふふふふ……そんなものじゃ私は止められませんよぉ? これでも元男護官だったんですよねぇ……私」
ケタケタと笑うストーカーを見て嫌な汗が流れる。
綾奈さんがあれだけ自信を持っていた男護官としての実力……それがこのストーカーも同じとなると勝てるかどうかわからなくなってきた…。
「傷つけたくはないのでこれは使いませんが、こっちは使いますねぇ」
カバンから取り出した包丁を見せつけたあと、スタンガンを取り出してバチバチと火花を散らせる。
明らかに違法改造されてそうな音を立てている。
「すこぉ〜し威力が上がってるのでぇ、当たれば動けなくなりますよぉ!」
いよいよストーカーがこちらに向かって走ってきた。
すぐに催涙スプレーを振りかけて壁を作る。
「やっぱりそれは厄介ですねぇ……でもでも、私が何も講じてないと思ってましたかぁ!?」
ストーカーがそう叫ぶと、後ろから急に羽交い締めされて身動きが取れなくなってしまった。
「なぁっ!? まだ仲間がいたのかっ!?」
「もちろんですよぉ。一也くん、貴方がどれだけ愛されているか、それをわかったほうがいいですよぉ!?」
腹部に一発強烈な電撃をくらう。
焼けるような痛みが腹部に走り、あまりの激痛に声すら上がらなかった…。
「んふふ……こんな男なんて今までいませんでしたからね」
後ろ手に縄で縛られ、包丁で上着を破かれ肌が露出する。
「この腹筋、この大胸筋。んふふふふ……んふふふふふふふ!」
舌で這うように体を舐められて鳥肌が止まらない。
美少女に舐められているという最高の状況なのだが、全体的な状況は最悪だ!
「ちょっと! 私も一也くんの体を味わいたいんだけどぉ!!」
先程俺のことを羽交い締めにしてきた女が叫ぶ。
「んふふ……一也くんの体美味しいよぉ……貴方もひとつ」
そうして二人に体をペロペロと舐められ、抵抗しようとすればスタンガンをくらって抵抗を止められる。
「さてと、そろそろいただきますかぁ!」
ずりずりと隣に立つ家の中に抵抗なく運び込まれてしまった。
布団の上に転がされスタンガンをさらに貰う。
痛みで声があがるが、ストーカーは全く気にせず飛びかかってきた。
「いただきまぁす!!」
急に叫んだと思ったら、すぐに唇を貪り尽くされた。
「はむぅ……むふぅ……はぁはぁ……」
二人にガッツリと堪能されるが、なんとか侵入してこようとする舌だけは防いだ。
「んふぅ……まだまだ抵抗しますねぇ。でもぉ……そっちのほうが落としがいがありますよねぇ!!」
そう言って自分の服を脱ぎ去った。
形のいいお胸に引き締まった身体。
これがストーカーじゃなければっ!!くっ……!
「さぁて、お楽しみの時間ですよぉ……」
ズボンひっぺがされてパンツ一枚にさせられた。
「うへへ……もうやっちまおうぜ! 我慢できねぇよ……」
羽交い締め女がポタポタと湿らせながらの近寄ってくる。
その恐怖たるや凄まじいのだが、ほんの少しだけこんな状況ですらこんな美少女にヤラれるのは悪くないと思う自分に腹が立つ……!
芋虫のように後ろに下がっていたのだが、いよいよパンツに手をかけられてしまう…。
「そこまでだっ! ストォォカァァァァァ!!」
扉を破って綾奈さんやその他の警察官が突っ込んできた。
「なぁ!? あの数をどうやって切り抜けてきたというのぉ!?」
「そんなもの……一也さんに対する気持ちの前では無力なのよっ!!」
後で知ったのだが、警察官に内通者がいたせいで配置や人数は筒抜けになっており、一人に対して二人以上の足止めが付いたせいで救出が遅れたらしい。
それでもここまで来てくれたことに感謝しかなかった。
「綾奈さぁん!!」
嬉しさのあまりに叫んでしまったが、綾奈さんはこちらを見ることはなかった。
「んふふ……貴方たちも一也くんのこの状態をチャンスだとは思わないの? あの身体、あの顔……そしてあれを!」
ストーカーが警察官たちに揺らぎをかける。
「見てはダメ! まずはストーカーを取り押さえるのが先!」
綾奈さんがそう叫ぶが、警察官の人たちはこちらを見てしまい葛藤と闘っている。
「助けてください!」
そう叫ぶことにより警察官たちは意識を取り戻し、ストーカーににじり寄っていく。
「なっ、こんなチャンスもうないかもしれないのよっ!?」
「あとで個人的に一也さんからご褒美を貰えばいいだけなのよぉっ!!」
警察官の一人が叫んでストーカーに突っ込んでいく。
「ぐぅ……くそぉ! あと少しだったのに、もうすぐそこだったのにぃ!!!」
部屋の中をつんざくような叫びが響き、ストーカーはこれにて御用となった。
最後は呆気ないものだったが、あそこで警察官たちの気持ちが切り替わっていたらと思うと身の毛がよだつ。
綾奈さんに服を着せられ俺は家へと戻り、他の警察官たちはストーカーをどこかへと連れ出していった。
「ず、ずびばぜん……」
家へと到着し、号泣して謝ってくる綾奈さんに声をかける。
「まぁ今回は間に合ったんですから、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
明日香さんも心配して綾奈さんに声をかけていた。
そして、そのまま明日香さんと綾奈さんを部屋へと連れて行き慰めて貰った。
俺は身体を洗ってから綾奈さんの励ましに参加した。
男護官なのにたった三人に足止めされるとは思っていなかったらしく、自分が不甲斐ないのと申し訳ないということだった。
が、冷静に考えて三人に抑えられてあそこに来れたことが凄いと思うのだが…。
それから綾奈さんは疲れたのかすぅすぅと寝息をたてはじめたので、そのままベッドに運んでゆっくりと眠ってもらった。
明日香さんに今回の顛末を伝えると、かなり心配されると同時にストーカーと同じことをしかけたという前科のせいで、自己嫌悪モードに突入しはじめる明日香さんを止めるという事態になった。
明日香さんを慰めているときに、"あれ?今回慰められるのって俺じゃないのか?"という疑問が湧いてきたが、それでも気にせずに他の人を気にかけたり、今回のことで対してダメージを負ってないのを自覚すると、大分自分の図太さに感心してしまった。
「あんなに可愛いのなら正面から告白してくればいいのに……」
手に負えない……。
1話でストーカー編完結に持っていくの大変ですねぇ…。
ぎゅう…っと凝縮しちゃいました…テヘペロ!
そのまま1回は完全に襲わせようかと思いましたがやめました!
っぱ!逆プレイもいいですが、愛ある逆プレイか同意の上というか望む逆プレイじゃなきゃっすよね!
というか…こういう話を書いてみたはいいけど、飛び立つのは簡単ですけど着地の難しさたるやぱないの!?
そのまま飛び立ちたいですなっ!
そんなこと許されるわけないのですがね…。
今回の批評は粛々と受け止める姿勢ですぞ?
ストーカーの気持ちになりきれなかったのと、襲わせすぎた感を感じるのは私の敗因でございます…。
追伸
ストーカーさんはもう少しお話が進んでからでもよかったかなぁ〜と、少しだけ後悔しております。




