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鏡色のデスティニー  作者: 真壁真菜
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怪畏

「何なのかな怪畏って?」


 アパートに戻り、寝転んだ太一が呟く。


「怪畏は人に住みし闇、憎悪や恐怖、妬みに嫉み、邪の心が現実世界に具現化した存在です」


 穏やかに式部の声に、太一が言葉を被せる。


「それって、誰の心にもあるよね」


 自分の中にも怪畏が存在してる、事実だと太一はなんとなく理解出来た。


「あい、人の数だけ怪畏は存在します。普通、体の外に出ることはありません、死とともに消え去ります。怪畏の存在が強く、体の外に出た者は犯罪を犯し、邪の道に染まります。その者が死ねば怪畏も滅しますが、その邪念や怨念が強いほど、太一殿が見た怪畏となりこの世に残ります」


「妖怪や物の怪とは違うの?」


「妖怪達の多くは精霊なのです、怪畏とは異なります……怪畏は人から生まれるのです」


「そっか……ばあちゃん達の時代と比べ、人の数は物凄く増えてる、それだけ怪畏も増えてるって訳か」


 街角に溢れる人たちの数を思い出し、太一は少し震えた。


「何? 太一、怖いの?」


「まぁ、仕方ないさ」


 摩姫羅と蒐羅が笑い掛け臥召羅も優しく笑う、怪畏の姿を思い出し呟く太一に摩姫羅の呟くような言葉が刺さる。


「怪畏は何がしたいのかな?」


「さあな、分からないな……でも、その先にあるのは暗闇だけさ」


「暗闇……」


 凶悪な悪意が太一の頭を過り、蒐羅が追い打ちを掛ける。


「怪畏は自らの力を増大させる為に他の怪畏を食らう。人を食らうのは、その中の怪畏が目的だ、中には妖怪さえ食らう奴もいるよ」


「確かに、想像を絶する怪畏も存在する」


 落ち着いた臥召羅の声が、太一を更に不安に駆りたてる。


「何て顔してんの? だから、太一にはアタシ達が付いてる」


 摩姫羅の笑い声に一瞬、頭の中についさっきの戦いの雄姿が浮かぶ。


「ばあちゃん達、世界を救う為にやって来たの?」


「それは……」


 期待した言葉は式部から出ず、濁した言葉の先が太一の耳先に引っ掛かった。


______________________



 次の朝、やはり摩姫羅は人の姿のまま太一に寄り添って寝ていた。


「鳥になれよ、俺のベッドは狭いんだから」


「やだ、この方が温ったかいもん」


 溜息混じりの太一に、毛布に潜った摩姫羅が寝ぼけ声を出す。先に起きた太一が買い物に行こうとすると、無理やり摩姫羅が付いて行くと言い張った。


「その格好で行くの?」


 起きた時と同じ、寝乱れた姿の摩姫羅に太一は溜息を付く。


「これならいい?」


 一瞬の光に包まれると、摩姫羅は白のTシャツと細身のジーンズ変わった。形の良い胸や細い手足が強調され、ラフなスタイルなのに摩姫羅の美しさが際立った。よく考えると摩姫羅は自分と同じくらいの歳に見え、目のやり場に困った太一は赤面した。


「いいの? ばあちゃん」


「あい、摩姫羅は太一殿を守りたいのです」


「単に外に行きたいだけと思うけど……」


 にこやかに笑う式部に太一は大きな溜息を付く、嬉しそうに目を輝かせる摩姫羅が腕にまとわり付いていたから。その横では蒐羅が寂しそうに耳を下げる。


「蒐羅も行きたいの?」


「オイラは別に」


 式部をチラッと見た蒐羅は、小さく呟いた。


「ばあちゃん、蒐羅も連れてっていい?」


「あい、どうぞ


「姫様! ありがとう!」


 明るく太一が聞くと、式部も笑顔で返事した。千切れそうに尻尾を振って、蒐羅は飛び跳ねた。


「臥召羅はも行く?」


「我はよい、ここで姫様をお守りする」


 太一はまた笑顔で臥召羅を見ると、穏やかに返事が返ってきた。

 

 街に出ると、摩姫羅の目はハート型になる。


「何だ、今日は祭りでもやってるのか?」


「きっとそうだよ、こんなに人が大勢いるんだから」


 嬉しそうに尻尾を振って、蒐羅がキョキョロと周囲を見回す。


「これで、普通だよ。週末にはもっと人が多いよ」


 二人の様子に、太一は微笑んだ。


「シュウマツってのが、祭りか?」


 目をハートにしたままの摩姫羅は、行きかう人を珍しそうに見る。しかし、チンピラ風の男達を見付けると、少し眉を潜めた。


「何だあの男、女みたいに髪を伸ばしてさ、しかも眉が無いぞ。あっちは、まさか坊さんか、それにしちゃ頭の悪そうな顔だな」


「聞こえる!」


 大声の摩姫羅を慌てて太一が抑えるが、完全に聞こえていた。震える太一の頭の中ではサスペンスドラマのアイキャチ音楽が流れる。


「何ってった!」


「何だこらぁ、いい女連れてるじゃねぇか」


 長髪の男が威嚇の声を上げ、スキンヘッドの男が摩姫羅の容姿に舌舐めづりをした。


「やばいよ、逃げよう」


「何、あれ?」


  泣きそうな太一が摩姫羅の手を引くが、嬉しそうな摩姫羅には男達なんて最早視界に無い。


「ハンバーガー屋っ!」


 顔面蒼白の太一が叫ぶ。


「なんと行儀の悪い。あの女の人、食べながら歩いてるよ」


嬉しそうに尻尾を振り、蒐羅が周囲をキョロキョロ見回す。


「お前ら!」


全く事態が分かってない二人に、太一は泣きそうになる。


「こぉらっ、姉ぇちゃん、無視か?」


 凄い形相でスキンヘッドの男が摩姫羅に顔を近付けた。


「何だお前?」


 言うと同時に摩姫羅の出した前蹴りで、男は後方に吹っ飛んだ。


「何か話しがあったんじゃない?」


「嫌だね、昔から坊主は嫌いなんだ」


 呆れる蒐羅に、摩姫羅はフンって顔をした。


「てっめぇ!」


 長髪の男がナイフをだすが、ニヤリと笑った摩姫羅が瞬間に変化して隼鷹を一閃! 瞬間に元の姿に戻る。勿論、周囲には見えなかったが、太一にははっきりと見えた。ナイフは根元から折れ、男が瞬きした瞬間に摩姫羅の正拳が顔面を捉えた。


 昏倒する男を足蹴にしながら、何事も無かった様に二人連れの女の子のアイスを見た摩姫羅の目は更に輝いた。


「あれは何? 甘い匂いがする」


「アイスだよ……食べる?」


 呆れを通り越し、大きな溜息と共に太一は呟いた。


「うん!」


「オイラも!」 


 満面の笑顔でアイスを食べる摩姫羅と蒐羅に、昨日の夜は漫然とした不安で眠れなかった事が嘘の様で、太一も自然と笑顔になった。



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