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鏡色のデスティニー  作者: 真壁真菜
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決断と迷い

 時計が午前零時に差し掛かると、寝転んでいた蒐羅の耳がピーンと立った。


「またぁ?」


 大欠伸で摩姫羅が呟いた。


「おかしい、異常な数だ」


 一瞬の青い炎に包まれると、蒐羅は狼の姿となる。銀色の牙が光を放ち、背中の触手で窓を開けると、大きく遠吠えをして蒐羅が外に飛び出した。


「そんじゃ、アタシも」


 立ち上がった摩姫羅は太一に振り向き微笑む、その姿は一瞬の赤い稲妻に包まれる。眩しさに目を閉じた太一がゆっくり目を開けると、そこにはエナメルの様に濡れた艶のある赤い戦闘スーツの様な姿があった。


 美しい髪からは光の滴が零れ、額には蒐羅と同じ様な梵字の印があった。背中には十字に背負った二振りの刀が鈍く光を反射している。


「何よ、これがアタシの本当の姿だよ」


 目がテンになる太一見た摩姫羅はニコリと笑うと、窓から大空に真紅の煌めきを撒き散らしながら飛んだ。


「空……飛んだよ」


「あい、摩姫羅は鷹の化身ですから」


 言葉を震えさせ、太一がガクガクと震えながら振り向くと式部は優しく微笑んだ。見たい衝動が太一を占領する、頭の中で怖いもの見たさの文字が乱舞する。


「見てくる!」


「お待ちください」


 少し目を伏せた式部は、静かに言った。


「えっ?」


「怪畏は普通の人には見えません」


「でも……」


 太一の中では怖いと言うより、見たい衝動が勝っていた。


「見たら……もう、後戻りが出来なくなるかもしれません」


 初めて見る式部の表情は、とても悲しそうに見えた。”後戻り出来ない”その言葉は太一に一種の決断を迫るが、見たいだけではない心の揺らぎが迷うココロを更に惑わせた。


 それは”心配”だった。摩姫羅達は、ただ行ったのではない、戦いに行ったのだ。太一の中では、摩姫羅達は家族になっていた。


「摩姫羅達は、戦ってるんだよね?」


「そうですが……」


 太一の真っ直ぐな目から、式部は視線を逸らせる。


「俺さ……待つだけしか出来ないのは、嫌なのかもしれない……」


 呟く太一の手が微かに震えるの見た式部は暫く考えると、袂から小さな勾玉を取り出した。それは眩しいほどの銀色で、表現が難しいが例えるなら鏡色で、金色の粒子が混ざっていた。


 そのまま、太一の方に翳すと勾玉が小さな光を発した。その光は暖かで、とても優しい雰囲気に包まれていた。式部はそっと溜息を付くと、手際良くヒモを通すと太一に手渡す。


「これは?」


「魔除けです。身に着けると霊的なモノも見えます」


「ありがと」


 受け取った太一が首から下げると勾玉は一瞬光を放つ、式部はその光景に笑顔を向けた。


「お気をつけて」 


 上着を羽織ると、太一は表に飛び出した。式部の落ち着いた見送りの言葉に、少しの違和感を感じながら。


_______________________



 戦いの場は、アパートとの向かいの大きな公園だった。秋の季節が終盤に差し掛かったとは言え、この時間ならまだ散歩やジョギングで公園は人がいるはずだった。


 驚いたのは、公園の真ん中にある大きな池の中央で摩姫羅が戦っている姿だった。明らかに水面に浮いて、黒いモノと格闘している。


「あれが怪畏……」


 近付くにつれ黒いモノの輪郭がはっきりする、それは全身が漆黒の影の様だった。血の様な赤い目と不揃いな鋭い歯、少し背を曲げ微かな唸り声を上げている。摩姫羅が踊る様に蹴りやパンチを見舞うと、怪畏は泡のように破裂して消えた。


 全身を氷が覆い、太一の心臓は喉元まで上がって来る。その時! 突然目の前を黒い影が跳び、続け様に白い影が追う。


「周囲を全て警戒しろ、ぼさっとしてたら取り込まれるぞ」


 一瞬のブランクの後、蒐羅の声が耳元に響いた。太一の傍では蒐羅が、黒い影を鋭い牙と爪で引き裂いていた。圧倒的だった、二人はまるで鼻歌でも歌う様に影を殲滅していった。


「見えるの?」


 気付くと摩姫羅が太一の傍にいた。そして、いつの間にか怪畏は全滅していた。


「ああ、これのおかげかも。それより刀……使わないんだ」


 胸元の勾玉を見せると微かに震えながらも、なんとか声を絞り出した。


「ふーん、招杜羅しゃとらの玉か……まあ、あんな下級の相手に使わないよ。アタシに抜刀させる奴なんてさ、もう何百年も会ってないしね」


 玉を見た後に少しの沈黙のがあり、なんだかつまらなそうに摩姫羅は言った。


「そうだね、背中の鳳鷹ほうよう隼鷹じゅんようも泣いてるな」


 蒐羅がいつの間にか犬に戻り、ブルブルしながら笑う。


「それ、刀の名前?」


「ええ、長い方が隼鷹、烈風の太刀。真っすぐなのが鳳鷹、破壊の太刀」


 腕組した摩姫羅が、溜息を付く。


「両方抜いたら狂鷹神と呼ばれる訳が分かるよ」


 笑いながらの蒐羅だったが、太一は秋の深まりのせいじゃないと背筋を走る悪寒に思った。そして、蒐羅が勾玉を見て少し表情を曇らせた事に、太一は気付かなかった。


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