手段
鬼座頭は元より、小さな鱗魚や灸鼻までも戦っていた。太一は何も出来ない自分に、段々と苛立ち始める。撫羅腑となった納言が腕を振る度、小さな妖怪がその体に取り込まれて行った。
「太一さん……」
身を乗り出す太一の腕を、綾子が強く掴んだ。
「皆が戦ってるのに」
「私達も戦ってるんです」
確かに綾子は戦っているが、自分は違うと太一は拳を握り締めた。摩姫羅や蒐羅は、動きを止める事無く戦い、珠霊狐や雷花達も息を付く暇もなく戦い続けていた。
「太一殿、あなたも戦ってるのですよ」
穏やかな式部の言葉が太一を更に追い込む。
「俺は何もしてないし、何も出来ない……」
「それは、俺も同じだよ」
俯く太一に藪が声を重ねた。
「藪さん……」
「君だけじゃない、普通の人間は何も出来ないよ。だが、君には”核”が見える……なら、出来る事をするだけだ……多くを望んでる場合じゃない」
「摩姫羅達は今、持っている力以上の力を出しています。それは、あなたのおかげなのです……神将が主以外の為に戦うなんて、有り得ないのです」
藪の言葉に続き、式部が太一を見た。
「そうですね、聞いた事がありませんね」
綾子も同じ様な事を言うが、太一には理解出来なかった。
「皆、あなたの事が大好きなのですよ」
太一の胸に、式部の言葉が突き刺さった。
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太一の目前で摩姫羅が撫羅腑に捕まる。摩姫羅の身体が、少しづつ闇に包まれて行く。
「摩姫羅!! 約束したよなっ!!」
力の限り叫ぶと、摩姫羅の身体が光に包まれた。だが、矢継ぎ早に蒐羅も捕まる。
「蒐羅!! しっかりしろ!!」
思わず叫んだ太一の声に蒐羅の身体も光に包まれる。
「反目!! 二人を!!」
直ぐに反目が反応すると、二人を闇から助け出した。
「太一の声で、力が湧く……」
口元を綻ばせた摩姫羅が呟き、蒐羅も続けた。
「そうだな、太一の声で力が出る」
「私も不思議な力が溢れています。姉上達の力以外の……」
反目も漲る力を受けて、拳を握った。
「全く……おかしな奴だ」
遠く太一の方を見た摩姫羅は、思わず笑みを零した。
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「式部さん……撫羅腑は意志や思考は存在するのですか?」
暴れ回るだけの様な撫羅腑の姿を見ながら、藪は質問した。
「意志は次第に消えるでしょう……後に残るのは破壊と殺戮の衝動だけです」
「それが、人間の”悪業”ですか?」
小さな声で答える式部を見詰めた藪が、静かに言った。
「はい……だからこそ、滅さなくてはなりません」
顔を上げた式部の声には張りがあった。
「滅せますか?」
「それは……太一殿次第なのです」
「太一君が鍵なのは、本当なんですね?」
「招杜羅の勾玉の選ばれ、神将や妖怪、式神に選ばれ……諾子様に選ばれた……太一殿が鍵になります」
式部の言葉の中で、諾子にも選ばれたと言う事が気になった藪だったが、直ぐ傍で立ち尽くす普通の青年が不思議と神々しく見えた。
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「でも、限がないな……幾ら核を破壊しても一向に減らない」
撫羅腑を見詰めながら呟く太一に向かい、式部が静かに聞いた。
「太一殿、核は何色に見えますか?」
「赤ですけど」
急に聞かれた太一は、呆気に取られた。
「本当の核は、同じ赤でも少し違うのです。よく見て下さい」
「違うんですか?……」
太一は目を凝らすが、撫羅腑の身体に無数にある核は皆同じに見えた。だが、一瞬赤い塊の中で一際血の様に赤い核が見えた。そして、その核は高速で撫羅腑の中を動いていた。
「移動してます。それも凄く速く」
「それなら、場所を教えても無駄だな」
目を見開く太一の傍で、藪が気の無い言葉を吐いた。
「ばあちゃん! どうしたらいいんだ?!」
明らかに動きの鈍って来た摩姫羅達を見て、思わず太一が大声を上げた。




