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鏡色のデスティニー  作者: 真壁真菜
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戻れない道

「太一っ!」


 摩姫羅の声が太一の耳で炸裂する。


「摩姫羅……」


「助けに来た!」


 抱き締める摩姫羅の腕が太一を包み、暖かさが全身を覆った。


「直ぐにココを出る!」


 蒐羅も傍に来て叫ぶが、その後ろに立つ水干の美女に太一は首を傾げた。


「ああ、これは反目だ」


「反目?」


「太一様、ご無事で……」


 蒐羅の言葉も信じられないと思う太一だったが、反目の声には暖かさがあった。


「行くぞ!」


 摩姫羅は太一の手を取り駆け出し、反目も後に続く。


「オイラは雷花達に知らせて来る!」


 蒐羅は反転すると、雷花達の元に走った。


______________________



 バスに戻ると、綾子が太一の胸に飛び込む。そっと抱き返した太一は、小さな声で言った。


「心配掛けたね」


「よかった……」


 綾子は一言だけ言って、震え続けた。


「どうでもいいけど、助けたのはアタシなんだけどな」


 明らかに不満顔の摩姫羅に太一は振り返ると、満面の笑顔を向けた。


「ありがと、摩姫羅」


「えっ、別にいいけど」


 まだ、全身に痛みが残るが、摩姫羅にはそんなのどうでもよく感じた。


「太一様、ご無事で」


 珠霊狐も傍に来るが、その声は沈んでいた。


「妖怪達は、大分やられたな」


 蒐羅が生き残った妖怪達の方を見る。


「まさか、俺の為に……」


 震える太一を見て、珠霊狐は静かに言った。


「自らを守る為です……」


「太一殿、諾子様は何か言っておられましたか?」


 式部が穏やかに聞くが、太一は急に思い出した。


「そうだ、撫羅腑が復活するって、始祖だって言ってた」


「やはりそうですか……」


 声を沈ませる式部の表情は、太一を不安にさせた。


「どう言う事なの?」


「私から話そう……」


 藪が説明を買って出、太一に初めから説明した。聞き終わった太一は、ココロに引っ掛かる納言の言葉を言った。


「俺と、勾玉が撫羅腑を退治する鍵になるって……」


「撫羅腑は多くの倶赦を取り込んでいます。それだけ多くの”核”があるのです」


 俯いたまま式部が呟いた。


「それなら、俺が教えるから一つずつ壊せば……」


「多すぎるのです……前部壊す前に……」


 更に式部が俯く。


「つまり、全部壊すまで……太一君を守りきれない……かも、しれないって事だ」


 藪の言葉はその場の皆の言葉を奪った。


「何ですか? 太一君が何か関係してるんですか?」


 真島は訳が分からず藪に聞くが、藪は真島には答えずに式部に聞いた。


「もし、撫羅腑を野放しにしたら、どうなりますか?」


「それは……」


 答えられない式部を察し、代わりに珠霊狐が低い声で答えた。


「撫羅腑は際限なく大きくなります……怪畏や妖怪……そして、人を糧として」


「それなら、迷う事はないね」


 大きく溜息を付いた太一が、他人事みたいに呟いた。


「聞いたろ……守れないかもしれないんだ」


 摩姫羅は太一を強く見据えた。


「でもさ、何もしないで、多くの人や妖怪が犠牲になるのを黙って見過ごせないよ。それに、妖怪達は俺を助ける為に命を懸けてくれた」


 そう言って太一は珠霊狐を見た。


「太一様、私達は自分が助かる為に……」


「でも、助けてくれた……」


 笑顔の太一に珠霊狐は、それ以上言えなかった。


「私も戦います……私が近くにいる程、反目は力が出せます」


「アタシは全力で太一を守る……あっ、命に代えてなんて言わないよ」


 綾子が前に出て言うと、摩姫羅は更に前に出て少し太一の方を見て肩をすくめた。


「私達妖怪も、存続の為に戦います」


 珠霊狐も式部に向き直った。


「その、撫羅腑って奴を倒さないと、人も妖怪も……」


 柱にもたれた藪も、遠くを見ながら呟いた。


「太一殿……ワラワは……」


 俯いたまま式部が何か言おうとしたが、蒐羅によって掻き消された。


「どうやら、選択の余地はないみたいだよ」


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