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鏡色のデスティニー  作者: 真壁真菜
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解けるパズル

 屋敷に残ったのは式部と太一だけで、時間だけが足早に過ぎて行った。焦りが時計の秒針と同じ速度で進む……喉がやたらに乾いて、何故が息苦しかった。


 藪も腕組みしたまま、ずっと考えてる様で何も喋らなかった。


「この地方で絞ったほうが良いかもしれません」


 ふいに式部が悲しそうな目で呟いて、地図を指差した。


「どうして? そこは徳島だよ」


「……諾子殿はこの地に居ます、それにも意味はあると思います……」


「波乱万丈の生涯を送った諾子様は徳島で海賊に襲われ、没したという説があります……」


 蓉子も式部の考えを支持した。


「そうなんだ……」


 太一の胸が少し痛んだ。


「儀式は決まった物事より、数百年に一度の偶然などが重なると、一層その効力を発揮すると聞きました」


 蓉子の言葉が脳裏に響いた”偶然 ”式部や摩姫羅達、綾子や反目、阿閦衆の人々、それに藪と出会った事、しかも怪畏達が未曾有の厄難を引き起こそうとしている時に出会うのは偶然と呼ぶのだろうか、それはもう一つの言葉に置き換えられた――必然と。


「コンサートや祭りって事前に決められてるよね、急に大勢の人が集まるってあるのかな? この季節に……」


 太一は独り言みたいに呟く。


「もしかしたら……公安の知り合いに聞いてみる」


 急に携帯を取り出し、藪は乱暴に電話を掛ける。


「そうだ、徳島だ! そうか、分かった。そうか……」


 携帯を切ると藪は向き直り、はっきり告げた。


「徳島で10万人規模の野外コンサートがある。新鳴門海浜公園のこけら落としと同時に……11月1日だ」


 偶然という言葉が完結した、それはあまりにも多くの偶然が重なった結果だった。


「場所は……徳島……それなら、儀式は? 同時に行うほうが都合がいいよね」


 そこに生天目が絶妙なタイミングで報告にやって来る。


「驚くべき事実が判明しました。近く小惑星が最接近します。それが1975MYなのです」


「それは……」


「アポロ群に属する小惑星です。直径は約1キロメートル」


「それって、数年前から話題になってる惑星大接近ですよね」


 太一にも覚えがあった、テレビの特番を食い入るように見た記憶が蘇る。


「はい、最接近距離は一万三千キロと推測されています。影響は少なからず出ると予測され、確かではありませんが儀式を行う上で、何らかの役割があるのではないかと言うのが専門家の見解でした」


 深刻な顔で報告する生天目は、少し汗をかいていた。


「確か、十一月一日です」


 綾子が記憶を辿る。


「と、言う事は後一週間無いってことですよね」


 太一の背筋は氷に押し付けられ、視線を向けた式部はただ悲しい目をしていた。


「確実とは言えませんが、可能性は否定出来ません」


 沈む蓉子の声は周囲を巻き込む、迫り来る恐怖と絶望に。太一は震える手を押さえ、藪の方を見た。


「これで、パズルのピースが埋まったな……」


 藪は声を押し殺し、大きく息を吐いた。


_______________________



「侵入者です!」


 その時、座敷に阿閦衆の高僧が駆け込んで来た。


「そんな、結界は破られてません!」


 直ぐに結界の具合を確認した綾子が叫ぶが、蓉子は最悪の事態を予感した。


「怪畏は無理ですが、人間なら……」


 遠くで銃声が響き、藪が本署に連絡を取ろうと形態を出すが電波は圏外になっていた。


「家の電話も不通です!」


 直ぐに綾子も確認するが、家の電話も不通になっていた。


「生天目! 太一さんを、お願いします」


 直ぐに蓉子が生天目に指示する。


「はっ、太一さんこちらへ」


 生天目は直ぐに太一の傍に行き、腕を掴んだ。


「僕だけが逃げる訳には」


「狙いは、あなたです」


 嫌がる太一を生天目は強い視線で見た。


「太一さん。あなたは、怪畏の”核”が見える唯一の人です。敵にとっても重要ですが、我々にとっても最重要な人なのです」


 蓉子も穏やかな表情で、太一を見た。


「太一、心配しないで。綾子様は、必ず守る」


 反目も太一を見詰め、綾子も微笑みを向けた。


「太一さん、行って下さい」


「でも……」


「太一殿……」


 式部もまた、穏やかな表情を向ける。


「君は切り札なんだ。ここは任せろ」


 藪は懐から拳銃を出すと、銃声がした方に走って行った。俯いた太一は、一度皆の顔を見ると、生天目の後に続いた。


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