赤い糸
彼は、いつも、バス停から花屋を見ていた。
始めは、気にも止めなかった。
彼は、ある日、白い杖を突きながら店に入って行く彼女を見た。
その日からだ。
そこで、働く彼女。
高校からの帰りのバスを待つ間。
バス停の向かいの花屋。
彼女は目が見えない。
白い杖を見るまでは、わからなかった。
バスを待つ間は、いつも、彼女を見ていた。
花屋で客に笑いかける彼女。
彼女の笑顔は、店先のどんな花より可憐に見えた。
毎日、見つめた。
毎日。
彼は恋に落ちていた。
花を買おう。
そう、思った日から毎日、花を買った。
バス停近くの横断歩道を渡り、毎日、花一輪。
「これ、下さい。」
そう言って、彼女に手渡す。
「スミレですね。」
彼女は、手渡しただけですぐにわかり、微笑む。
「これ、下さい。」
「カスミソウですね。」
そう言って、微笑む。
それだけの、関係。
たった、それだけの。
それだけで良かった。
雨の日も。
晴れた日も。
そして、とても、晴れた日。
彼は、いつも通り、横断歩道を渡ろうとした。
・・・・車が来た。
・・・・彼は、渡り切れなかった。
花屋の店先はもう、目の前。
彼は、その薄れゆく意識の中、彼女の背中を見つめていた。
薄れゆく意識の中。
流れだす血。
流れる血。
花屋の店先まで流れ出す。
彼女の足元まで流れ出す。
彼女は、ふと、振り返る。
ゆっくり、しゃがみこむ。
しばらく、地面を見つめる。
彼女の頬を涙が伝う。
こぼれ落ちた涙が、血と混ざり合う。
それは、見た事もない美しい色だった。
きっと、彼女しか見えないような・・・
完




