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└良い奴



――結局その喧嘩は、緒印が一火を閻魔大王のいる冥界まで連れて行くと申し出た事で幕を閉じた。

閻魔大王には会えないだろうが、閻魔大王を補佐する天使長に話を聞く事はもしかしたら出来るかもしれない、と言った訳だが。


「あんまり期待しない方がいいデスヨ。『二柱の天使長』のひとり、閻魔様の補佐を勤めるロウ様はホンットにものぐさな人デスカラ」


一火の攻撃から逃れる為に言ってみたはいいものの、正直相手がちゃんと話を聞いてくれるかも怪しいと緒印は思っている。


『二柱』の文字が示す通り、天使長は二人いる。

今から会いに行く浪は冥界に住む閻魔大王の補佐、もう一人は天界の神の御前に控えているらしい。

二人は一火に与えられた部屋から出て、白で染められた天界宮殿を歩く。緒印が言うに、冥界に行く行くにはそれ専用の部屋にある魔法陣からしか方法は無いらしい。


「あら、新入りさん? こんにちは」

「もしかしてさっき凄い叫び声上げてた子かい? いやぁびっくりしたよ」


歩いていると、擦れ違う人ひとり一人に挨拶される。

天使や妖精が殆どだが、中には手のひらサイズの人もいる。どうやら精霊というらしい。

緒印曰く、人間界に隠れ住んでいる種族もいるとか。一火は初めて見る異様とも言える光景に目を瞬かせた。



五分程歩いた先は、人気の無い地下室。重厚な色をした扉を押し開くと、中は一火の予想に反して狭かった。

部屋の中央に台座のような段があり、そこには紫の光を発した魔法陣が描かれていた。

紋様はシンプルだが、よく見てみると陣の中央に何か見た事の無い文字のようなものが刻まれている。


「さぁ、行きマショウ」


緒印に促され、二人は揃って魔法陣の中央に立つ。

すると、魔法陣が放っていた紫の光がたちまち強さを増していく。


(まぶしっ…)


一火がそう思って、目を瞑った瞬間。

二人の姿は跡形もなく消えていた。



「…一火さん、着きマシタヨ」


「……え?」


今、眩しいと思って目を瞑ったばかりだったのに。

一火は半信半疑で目を開ける。


広がった光景は、確かにさっきまでいた狭苦しい部屋とは違うものであった。

そこは峡谷だった。目の前には古ぼけた洋館が建っており、それを認識した途端一火はうだるような暑さに襲われた。


「近くに罪人の方用の溶岩があるんデスヨ」


聞けば、緒印はそう答えてくれた。

一火は黒々とした雲が渦巻く空と、それに届かんばかりにそびえ立つ洋館を見上げる。

洋館の屋根は半分剥がれ落ちており、建物の骨組みを荒々しく浮かび上がらせている。空模様とあいまって、いかにも何か出そうな雰囲気だ。

…実際、ここには死んだ人間の魂が集まる場所であるのだが。


「入口の方を見て下サイ」


緒印に言われ、洋館を見上げていた一火は視線を下に落とす。

洋館には扉は無かった。元々無かったのか、建物の老朽化とともに朽ちていったのかは定かではないが。


「あれは…まさか…!」


一火が注目したのはそこではない。洋館の中へ次々と入っていく、炎…だろうか。ぼんやりとした光を放っている、炎のような何か。

それらが列をなして、洋館の中へ消えて行くのだ。


「そうデス。あれが死んでしまった人間さん達の魂。炎の色は魂の色なのだそうデスガ、あれは人間界でいうオーラのようなものらしいデス」


つまり、色が黒いからと言ってその魂の持ち主が悪人かと言えばそういうわけではないらしい。

魂の行列は遥か遠くまで続いていた。目を細めても最後尾が見えないのだから相当の人数だろう。


「…今日はちょっと多い方デス。毎日こんなにいっぱいの人がいるわけじゃないデスヨ」


と、緒印は声色を落とした。


「ワタクシの仕事は天界の住人に新しく加わった人達の案内役デス。沢山の人達と会えるのはとても楽しくて嬉しいデスガ…。


…皆さん、人間界で死んでしまったから此処に来たわけデスカラ……時々、複雑な気持ちにナリマスデス」


「……」


「だからデスネ…天界に来た人達には、人間界でできなかった分まで生きて、幸せな日々を過ごして欲しいのデスヨ。


…一火さんのように、自分が人間であった事を覚えている方には、なかなか難しい話だと思いマスガ…」


一火には緒印の気持ちなど解らないから、察する事も出来ない。

けれど今彼女の話を聞いていて、ひとつ解った事がある。


「…お前。良い奴だったんだな」

「ふぇ!? ほっ、誉めてもなにもデマセンヨッ?」

「別に出さなくていいって」


途端に顔を真っ赤にする緒印が面白くて、一火は声を上げて笑った。




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