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└気にしている事


「ちなみに、このレベルは10が最高デ、このレベルの人は前世の記憶を全て覚えている事になりマス。…実際全くいませんけどネ。

一火さんは9なのデ、結構覚えている事は多い筈デス。家族構成や、今までに出来た友達の名前などデスカネ。


逆に覚えていないのは…自分が産まれた時の事や、すごくすごく小さい頃。

あとは自分の死に際じゃないデショウカ」


「…!」


一火は目を見開く。

死に際、と言われて胸がざわつくのを感じた。

頭の中にノイズがかかっているような感覚もする。確かに自分は何か…何かを忘れているのかもしれない。

けれど、それを認めるという事は…この妖精が言っている事が紛れもない真実だと認める事にも繋がる。

それは、つまり。


「あぁでも、自分の死に際を覚えている人なんて本当に稀なんデスヨ。まあ覚えていてもあまり良いことはないと緒印的には思いマスガ」


「……」


一火の驚きの表情をどう受け取ったのか、緒印の言葉はフォローになっちゃいなかった。


「――オレは、本当に…自分が忘れているだけで、…死んだっていうのか?」


恐る恐る、一火は問いかける。

しかし彼の緊張とは裏腹に、緒印は残酷なまで簡素に即答。


「ハイ。今のアナタは人間じゃなく天使デス。その背中の翼がそれを証明しているじゃないデスカ」


「…つ、翼…」


言われて、一火の思考は緒印と話す前に立ち戻った。

目だけで鏡を見て、しばし黙考。


「………」

「あれ、どうかされマシタカ?」


緒印の問いにも答えず、一火は鏡を見続けて。


「……」

「モシモ〜シ、一火さん?」

「…」

「……?」



「ってなんで天使なんだよォォオオオッ!!」

「ひゃああああっ!?」


突然の大声に驚く緒印に構う事なく、一火はその場に膝を着いた。


「あぁああう…」

「……あ、あの〜…一火さん……大丈夫、デスカ?」


頭を何度も床に打ちつける一火に、緒印は躊躇いがちに声をかける。

それは心配の念からというより、突如奇行を始めた者に対する呆れの感情の方が大きかった。


(なんか面倒くさい人デスネェ…)


などと正直思いつつ、緒印は身を屈めて取り繕うように言葉を連ねた。


「…えー、と。…まぁ、アナタが天使に生まれ変わったのは、生前の善行によるものだと思いマスヨ?」


緒印曰く、閻魔大王は人間の魂を見ただけで、その人物がどんな人生を歩んで来たかを見通せるらしい。

一火が天使になったのも、閻魔大王が一火の善行を見て判断したと言う。

その話を聞いた一火は、目にも止まらぬスピードで顔を上げる。

微妙に泣きべそをかいている彼の顔は緒印から見れば正直言って滑稽に見えるが、何とか零れ出そうになるのを抑えた。


「善行!? そんなもん覚えが無いぞ!」

「なんか無意識に良い事してたんデショウ」

「〜〜〜っ! くそっ、納得行くか! こうなったらその閻魔大王の所へ連れて行けけ!!」


直接話を聞いてやると息巻く一火に、緒印はそれは無理だと声を上げた。


「この時間は閻魔様にはお会いできマセンヨ! 今は絶賛仕事中デス!」


「じゃあいつなら会えるんだよっ!」


「夜の十二時に仕事を終えられマスガ…それからは閻魔様の就寝時間でゴザイマシテ、熟睡した閻魔様を起こすなんてそれこそ神様や魔王様で無ければ…」


「って事は、つまり…」


みるみる内に元気を無くしていく一火。緒印はトドメを刺すように頷いた。


「ハイ。無理デス」

「……そん、な」


がっくりと力を無くし、一火は譫言のように「どうしてこうなった…どうして…どうして…」と繰り返す。

緒印はそんな一火が流石に哀れに見えてきたのか、しゃがみこんで彼の頭を優しく撫でる。


「大丈夫デスヨ一火さん。天界は魔界と違って平和で良いところデス。また人間に転生するには今から二百年経たないといけマセンガ、その頃には『もう人間になんてなりたくなぁ〜い』ってなってマスッテ」


「うう…」


「いくら一火さんに天使の翼が破滅的に似合わなくて目つきが不良で瞳の色が悪魔っぽくても、多分好きになってくれる慈悲深い女性は現れマスッテ!」


「うぅ、ありがとう……って言うわけあるかっ! このタイミングで残酷過ぎる事言うな!」

「っとスミマセン。ついつい本音ガ」

「てめぇ…このクソ生意気妖精が…!」


気にしている事を突っ込まれた一火は、怒りのままに緒印の頭を拳で挟み込んでぐりぐりと動かす。


「アッダダダダ!! 本気でやってるデショ、イダダ、ぎぶ、ギブデスッテバァアアアッ!!」


「うるせぇ黙れ! 人の事だと思ってズケズケと…!止めて欲しかったらこの容姿を何とかしてみやがれってんだ!!」


「そんなムチャクチャナァアアア!!」


ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人の声は、恐らく先の一火の叫び声で腰を抜かした人達にも響いたであろう大声だった。



――そんな二人のやり取りが収束したのは、十分程後の事だという――…。




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