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└懐かしい感覚



「――ぷはっ!」


一火は、カレンを抱えた状態で水面から顔を出した。

カレンはずっと息が出来ないと錯覚していた為か、げほげほとせき込む。その身はぐったりとしていて、一火に抱えられていなければまた沈んでしまうだろう。


「おい、大丈夫か!?」


「…………はい……」


声に力はないが、ちゃんと返答が得られた事に一火は少しだけほっとする。そうして辺りを見回して、ここから脱出できる方法を探った。


「……くそ。おいカレン、今からまた潜るぞ。見た感じ、出口は水中にあるみたいだからな。


……お前は、ずっと目を瞑ってろ。何も考えなくていいから、とにかくオレに掴まってろよ。いいな!」


「あ……は、はい……分かり、ました……」


言い、カレンは一火にゆるゆると手を回す。一火はカレンの返事を確認してから、彼女を抱え込んでいる左手に力を込めた。



「……行くぞ!」


一火の声に従い、カレンはぎゅっと目を瞑った。



――……回された腕の感覚に、懐かしさを感じながら。





「ジェシカ様! あれは……!?」


「なっ……!」


もうすぐスタートから一時間が経とうとしていたその時。ゴール地点である血の池前で待機していたジェシカ達は、目を疑った。


取り巻きが指差す、その先には――カレンを背負った状態で、ふらつきながらも確実にこちらへと向かってくる、一火の姿があった。


「わ、わたくしが……敗れる……ですってぇ……!?」


「じぇ、ジェシカ様! お気を確かにっ!」


がっくりと膝から崩れ落ちるジェシカを、取り巻き達が支える。その間も、一火はしっかりと歩を進めていた。


――勝ち誇った笑みを浮かべながら。




「イチビおにーちゃん、カレンちゃん、おめでとぉー」


「二人とも、大丈夫? 特にイチビ君はその、……かなりボロボロだけど……」


「あれから色々あったんだよ……」


疲労困憊といった様子で、一火はその場に倒れ込む。


――溺れたカレンを助けた後も、あちらこちらでトラップやら何やらに襲われたのだ。

時に木々の間から矢が飛んで来たり、時に沼から巨大魚が現れたり。


一火はそれを乗り越えて、ここまで来たのだ。タイムリミットまでにゴールしたのだ。――宣言通り、カレンを一度も見捨てることなく。



「……一火さん……ありがとう、ございます」


「……おう」


一火の隣に座り込むカレンが、小さな声で、しかし最大限の感謝を込めて言った。その表情は何の取り繕いもない、今日見た中で一番『素直な顔』だと一火は思った。



「ぐぐぐ……天使風情が……!」


「ジェシカちゃあん、そろそろ現実に帰ってきなよぉ。ほらほらぁ、ふたりに侵入許可証をあげたらぁ?」


いつまでも恨み言を言っているジェシカの肩を叩き、ルビエは楽しげに言う。ジェシカはそれでも暫く唸っていたが、やがて立ち上がり。


「……まさか、わたくしの侵入試験をクリアする天使が現れるとは思いませんでしたわ。しかも、ふたり揃って……」


「言っただろ、見捨てたりなんかしねーって」


「……有言実行、したのですね。……分かりましたわ、仕方がありません。わたくしも、有言実行いたしましょう……不本意ですがッ!」


負けてしおらしくなったかと思いきや、非常に不満げな声を上げるジェシカに一火は辟易する。


……だが、侵入許可証――人間時代によく見たような、ただのカードだ――を受け取った瞬間。自分はこのムカつく悪魔に一泡吹かせてやったのだ、という喜びがじわじわと湧き上がってきた。



「――よっしゃあー!」


思わず声を上げ、軋むような身体の痛みも忘れて、一火は飛び上がる。

――色々なことがあったが、ここまで頑張って良かった。心からそう思っていた。



「……」


その姿を、カレンは神妙な表情で見つめていた――……。




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