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└多分、たぶん、不可抗力!



界泉は最初に見た時の印象通り、水中も不思議な空間だった。

何となく水面まで引き戻されそうな浮遊感と、まるで世界に独りきりにされてしまったような、一抹の寂しさを覚える。


それはきっと、このどこを見ても真っ青な空間の中に『生命』の息吹を感じないからであろう。

音も無く、生き物もいない。ただ自分だけしかいない、真っ青な空間。

一火には、この寂しい空間もひとつの独立した世界に思えた。


底のない泉の中で、底を目指して進み続ける。

暗闇などは無い。底を目指そうが目の前には青しか見えない。

それでも一火は、その先にあるものを信じて潜り続けた。



(?!)


変化が訪れたのは唐突だった。

先程まで感じていた浮遊感が消え、代わりに身体中に重しが付けられたような感覚に襲われる。

まさに底なし沼に引きずりこまれるように、一火の身体は勝手に深淵へと導かれていった。



――気が付けば、浮遊していた。と言うのが正しいのだろうか。

おかしな事に、今の今まで水中にいた筈の一火の身体は宙に投げ出されていた。


「へっ? あ…れ」


…いや、一火は確かに底なし沼の底から出て来たのであろう。彼の頭上には、天井から突き抜けるように界泉が広がっていたのだから。

だが、混乱している彼はそれに気付かない。まぁ仕方がないだろう。



「…え?」


その時、真下から誰かの声が聴こえた。一火は反射的にそちらに目をやる。


そこにいたのは少女だった。目を見張るような鮮やかな赤色の髪を踊らせ、空と海の中間を思わせる青の瞳を持っている。

白い肌がそれらを際立たせ、またそれらも露出した白の身体を美しく飾っていた。


少女は目を見開いて、こちらを見上げていた。何かに驚愕したように。

そして、一火も少女を見ていた。


――二人の目が合ったのは、瞬く間の事。



「うわぁあああっ!?」


「きゃああ!!」


翼で浮遊するなど考えも及ばず(むしろやり方が解らない)。

重力に従って、一火は少女ごと床に倒れた。


「…っ、てて……だいじょ、…ぶか…?」

「……ぅ」

目を開けてみれば、間近にあったのは痛々しげに歪んだ少女の顔で。


「…っ!」

慌てて顔を逸らす。と、そこでようやく自分がどんな状態かに気付いた。


「…あ、…!!」

少女の足を挟み込むように自分の両足があり、端から見たら一火が少女を押し倒したような状態だった。

左腕は床に投げ出されていたが、右腕は少女の……皆まで言わずとも解るだろう。女性の特に柔らかい部分、と言えば解って貰えるだろうか?

一火の右腕はそれを潰すように置かれている。何とも悩ましい…ではなく、痛ましい光景だ。


「うわっ、あ、ごっ…ごめん!!」


顔を真っ赤にして、慌てて腕を離した。

そうしてそのまま身体も離そうとしたところで…――。



「カレン! どうし…うわっ!?」


「ひゃあああ! かっ、カレンちゃんが押し倒されてるぅ…!!」


「ちちち違う!! 誤解だっ、これは事故なんだぁあああ!」


扉を開け放ち、突然乱入してきた二人組にあたふたと弁解を始める。少女の上で。

二人組のひとり、少年の方は一火を非難の目で見つめ、女児の方は顔を真っ赤にして両手で隠している。…しっかり指の間からこちらを見ているが。


「だからそのっ、これは回避しようが無かった事故で、そう! 不可抗力って奴だよウン!」



「……あの……」


――その時、一火の耳に入ったのは。

灼熱の業火ですら一瞬の内に凍りついてしまうような、氷の刃を思わせる声だった。


「いやだから! ……ぇ、あ」


一火は即座に声の方…少女を見た事を後悔した。

カレンと呼ばれた少女は、慈愛を湛えたような笑みを浮かべている。


が、オーラが訴えていた。初対面の一火でも解る程の、冷たい負のオーラを少女は発してした。

そんな彼女の姿はさしずめメデューサか、良くて氷の女王を思わせる。


一火は石化したように固まって動けなくなり、喉も途端にカラカラになって声も掠れてきた。


「ぁ…あ……その」


「…何か言い遺したいこと、ありますか?」


「え、あ…、……やわらかかったで」


瞬間。一火は頬に重い一撃を食らい、そのまま身体が吹っ飛ばされた。石造りの壁を破壊しつつ、何とか制止したが。

一火が気が遠くなる程の衝撃を覚えた。周囲で壊れた壁のカケラがポロポロと音を立てて落ちていくのが解る。


次第に意識が朦朧としていく中、最後に耳にしたのは一火の頬にグーパンチをかました少女の声だった。



「いやぁああああ!! 触られたっ、変態天使に触られたぁああッ! まだプリンスさまにも触られたことないのにぃいい!

もう私お嫁に行けないいいいー!!」




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